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Sunday, September 07, 2025

米雇用統計悪化で終わる世界

不毛な国内政局が進行中ですが、自民党総裁選前倒しして誰が総裁になったところで、臨時国会の首班指名選挙が関門になります。逆に言えば新総裁に石破さんが選ばれない限り、冒頭解散という奥の手が残されています。そんなコップの中の嵐にお構いなく世界は動いています。そして日米関税交渉で自動車関税等の懸案が解決した一方、5500億ドル(80兆円)対米投資に関わる覚書が交わされ、驚きの中身が明らかになりました*1。アメリカ側から発議されて日米で協議して合意した後にアメリカ側が承認するという流れはまるで日米合同委員会の経済版。日本が拒否権を発動しにくい建付けです。

ラトちゃんアカちゃんの交渉がこんな形で着地するとすると、少なくともトランプ政権期間中はほぼ言いなりのATM状態になりかねません。仮に石破首相続投でも、臨時国会は間違いなく荒れます。相互関税特例や自動車J関税の大統領令署名のためとはいえTACOでも烏ー賊の軟体ポチ*2に成り下がり、おそらく日本の財投資金を米国内の投資に充てる形になりますが、ある意味口約束で密約化するよりはマシとはいえとんでもない地雷を抱え込むことになります。自動車メーカー保護のために国民を犠牲にしてアメリカの国内投資に資金を提供するということですね。

経済好調なアメリカも、ここへ来て変調を来しており、それだけ日本の対米投資を本気であてにしているということです。まず7月発表の雇用統計で予想に届かない結果となりました*3。しかも5~6月の速報値の下方修正もあってFRBの9月利上げが確実視されました。その結果株価上昇と長期金利低下と先取りされ、さらに8月の雇用統計でも予想に届かず、6月の数値もさらに下方修正されてマイナスになり、失業率もマイナス1%となりました*4。これでFRBの9月利下げは確実視されただけでなく、あと2回のFOMCでも利下げが続くかもという展望が出てきました。景気悪化で株高という奇妙な現象ですが。

しかし雇用統計の数字には複雑な要素があり、DOGIによる連邦職員のリストラやAI活用によるITエンジニアの解雇によって減っている一方、不法移民取り締まりによる労働力不足もあり、失業率はさほど下がっていない現実があります。高給取りが減った一方、非熟練工やサービス部門は相変わらず人手不足でミスマッチが起きていることになります。加えてバイデン政権時代に投資を決めた韓国現代自動車のバッテリー工場では建設工やエンジニアの就労ビザを発給せず、仕方なく観光ビザで入国して作業に当たった韓国人が不法就労で摘発されて、韓国では対米不信から投資を引き揚げろという世論に火がついています*5。対米投資でも意に添わなければ平気で潰す訳です。つまり投資先としてはリスクが高い訳です。

というわけで米経済の先行きは不透明なままですが、FRBが利下げに動く一方、日銀は利上げを模索しています。つまり日米の金融政策は逆向きで、通常ならば円高ドル安に振れそうなものですが、ドル円はあまり動いていません。理由は日本の政治情勢から財政拡大が連想され、インフレが予想されるからです。その一方トランプ関税で心配されたアメリカのインフレは今のところ落ち着いており、結局両国のインフレ率が為替を動かしていることになります。コップの中の嵐をしている場合ではありません。日銀の利上げをやり易くするには財政規律の確保が重要です。しかしインフレは当然政府支出も増やしますから、26年度予算の概算要求は122兆円と過去最高で、せめて不要なバラマキを抑制して今年度予算を使い残して決算繰越金を増やすJことが必要な財政運営となります。それを怠ればインフレで調整される一方、国債金利の上昇で日銀の手足を縛ることになります。

財政運営の泥縄はアメリカも同じで、トランプ減税の恒久化で関税を財源のあてにしてますが、交渉で決まる関税は貿易の阻害要因でもあり二重に歳入の不安定化をもたらします。そうなると米国債の引き受けが難しくなりますし、対ロ制裁や中国の人民元決済拡大などでドル離れが進むし、銀行は既発債の評価損 で新発債の引き受けを躊躇するとなると、新たな引受先を見つける必要があります。そんな中でアメリカでステープルコイン法が下院で成立しました*6。余談ですがトランプのファミリービジネスで仮想通貨に深くコミットしており、利益相反の可能性はあります*7。「ドル基軸の維持」も空々しい。

発行事業者には預金または短期国債の裏付け資産の保有を義務付ける内容で、財政ひっ迫で長期債発行が難しくなる中で、短期債シフトを睨んだものと言えます。従来主に銀行が担っていた役割を拡大する狙いですが、当然ながら銀行と競合する事業ですから、銀行預金がステープルコインにシフトして銀行の信用創造システムを棄損する可能性があります。そうすると主に民間融資に回っていた資金が国債買い支えに回り、AI投資として自前のデータセンター投資にまい進するテック大手の投資を抑制することになります。しかし低金利通貨としての日本円が維持されるならばキャリートレードの種銭になりますからドルの信認を安い円が支える構図が固定化される可能性があり、そうなると日本のインフレは民間投資資金の海外移転で供給力拡大が進まず止まらなくなります。

てことでやっと鉄道ネタですが、JR各社のローカル線廃止議論と無縁のJR東海がリニア工事の遅れで資金とかしまくっているにも拘らず、財務は盤石の謎です。大井川の水問題は鈴木新知事に変わってから協議が進み和解が成立しましたが、残る生態系への影響や作業ヤードと取付道路の着工、重金属を含む要管理残土の処理問題など静岡工区だけでも未解決問題はありますし、加えて人件費や資材費の高騰や人手不足で着工83工区中31工区で2027年の開業に間に合わない状況ですし、同様の問題は静岡工区以外でも抱えています。故に更に遅れる可能性もありますが、JR東海はあまり困っておらず、財務的にも盤石です。

理由は東海道新幹線の好調で大量のキャッシュフローを生み出しており、そのまま利益計上すれば株主還元や法人税課税で削られるところですが、工事の遅れを口実にリニアで溶かすことで免れます。遅れる工区は逆に敢えて遅れを容認し、その間に地域との対話を進めて工事の障害を減らしたり、問題の解決策を探る時間を得ることが可能ということで、寧ろ前向きに捉えられています。住民対話が進むことは悪くはありませんが、最初からやれよ。但し名古屋開業がいつになるかわからない状況は続く訳です*8。故にJR旅客各社が抱える赤字ローカル線問題も災害復旧問題も無縁で、在来線も含めた車両更新が進みJR化初期車両も淘汰されています。

但し名古屋開業が見通せない限り大阪延伸は具体化しませんから実現可能性は遠のきます。財投融資3兆円は無駄になりそうです。リニアで溶かした資金がJR旅客各社のの赤字ローカル線延命や災害復旧に回ることは当然ない訳で、ただただ国民生活と無縁の資金循環でしかありません。国民を助ける国内投資が不振な中で国民を豊かにすることもなく、先が見通せないという意味では米テック大手のAI投資と双璧です。

*180兆円対米投資で「覚書」署名、案件選定は米主導 利益配分まず半々 - 日本経済新聞
*2TACOでも烏ー賊の軟体ポチ 鉄路的部落
*3【米雇用統計】就業者7月7.3万人増、市場予想下回る 5〜6月大幅に下方修正 - 日本経済新聞
*4米雇用減速、8月2.2万人増で市場予想下回る 失業率は4.3%に上昇 - 日本経済新聞
*5米政府が現代自動車工場で475人拘束、不法就労の疑い 大半が韓国籍 - 日本経済新聞
*6米ステーブルコイン法が成立、トランプ氏「ドル基軸を維持」 - 日本経済新聞
*7トランプ氏の息子が語る仮想通貨 「世界の金融ルールを変える」 - 日本経済新聞
*8JR東海リニア「静岡以外」で工事遅れる本当の理由 2027年以降の完成は84工区中31工区に及ぶ #東洋経済オンライン @Toyokeizai

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