ネオ油売りに媚びる汗っかき
ゾンビ*1の次は汗っかきと油売り*2のニューバージョンです。まずは答え合わせ*3。ガソリンの店頭価格を下げるために元売りへ19日から30円の補助金を復活させました。結果は店頭価格で20円程度下げてますが、またしてもさや抜きされてます。つまりゾンビを生かすだけ。しかしゾンビの弊害はそれに留まりません。日米首脳会談で日本政府が打診したアラスカ原油増産による輸入拡大を巡る問題です*4。アラスカ産石油の増産はアメリカの歴代政権で検討が続けられてきましたが、積出港へ至るパイプライン整備がコスト面でネックとなっており、特にパイプライン建設には根強い反対論があって簡単ではありません。また大型タンカーが接岸できる港湾もなくタンカー輸送の非効率を克服するには港湾整備も必要で、コスト面の課題が山積しています。加えて国内製油所の統廃合で中東産重質油に特化している中で、アラスカ産中質油に対応させるチューニングにもコストがかかります。それ以前にアメリカ政府が戦略物資としている原油の輸出拡大に応じるかどうかもわかりません。
一つ可能性がある突破口としては、ウクライナ問題でロシア上空を飛べない日欧間の航空便で、今回のイラン紛争で中継ハブとして機能していたドバイ国際空港が使えない状況で、かつての北回りルートのハブだったアラスカのアンカレッジのハブ復活が可能ならば、航空燃料の給油需要を賄うには使える可能性はあります。つまり航空燃料の給油拠点をドバイからアンカレッジに移すということですが、これも大掛かりな設備投資を伴います。その費用を日本が負担するかどうかという話にでもならないと前に進まないんじゃないかと。中国系エアラインは現状でもロシア上空を飛んでますから、ANAやJALへの支援という形になりますが、経産省と国交省という日本の縦割り官僚機構の下ではよほど政治家がリードしないと実現はできないでしょう。その意味で無能な働き者と言える高市首相*4には荷が重いか。台湾有事発言*5でアメリカからも懸念された*6もののとりあえず無難に首脳会談をこなしました*7。実は首脳会談の2時間前に日欧でホルムズ海峡を巡る合意が成立していたので、日本への圧が下がった可能性はあります*8。官僚の事前根回しに助けられたとは言えます。シェール革命で産油国となったアメリカには逆らわず媚を売る悪い汗っかき路線です。
台湾有事関連ではアメリカのシンクタンクが面白いレポートを出しています*9。アメリカが求める台湾の防衛費増が足踏みしているのは親中的な国民党の反対のせいという俗説を否定するもので、財源の壁が原因としています。そもそも財政規模が対GDP比14%程度の台湾政府にとって防衛費5%は財政資金の4割を突っ込む話ですから無理があります。財政拡大には増税か行政サービスの縮小かということになり実現可能性はほぼゼロですし、未承認国家故にIMF非加盟で財政赤字拡大は重大なリスクとなります。仮に財政破綻となれば北京政府が支援に乗り出して以下略、ということになる訳です。ホルムズ海峡封鎖でも中国はこんなこと言ってます*10。中国船は海峡封鎖の影響を受けていないことと共に、台湾の窮地は中国に非軍事的な介入の口実を与えることになり、その場合は有事ではないからアメリカは手を出せないことになります。かつて大戦後の国共内戦でもソビエトの支援を受けていた共産党に対して、日中戦争の戦費調達で財政を悪化させていた国民党政府は為す術なく敗北した歴史もレポートでは触れており、健全財政はマストであるということです。これ財政悪化が止まらない日本にとっても耳が痛い話ですが。
そして日本は首脳会談のお土産として対米直接投資第2段を打ち出しました*11。第1弾と合わせて17兆円超と他国に対して突出したもので、新型原発の小型モジュール炉(SMR)やデータセンター併設のガス火力発電などで、エネルギー関連です。SMRに関してはロシア北極圏で商業発電が始まっていますが、日米共に未知の技術で、ネックは燃料ウランは軽水炉の低濃縮ウランではなく高濃縮ウランが必要で、現状商業生産できているのはロシアだけで、安全面も加味した技術開発に難問が残ります。データセンター併設のガス火力発電はAIで上振れする電力需要を緩和する目的で系統電力に依存しない電源とすることで、老朽化したアメリカの系統電力網の負荷を下げて電力料金の値上げを抑える目的です。何れも受益者はアメリカ国民で、投資資金を出す日本のメリットは限られますし、採算性にも疑問があります。これは第1弾でも同様ですが。そして投資資金が国内に落ちないことで「強い経済」が実現できると考えているのでしょうか?
そもそも成長17分野が総花的で絞り込みが足りないとは言われてますが、安保や国土強靭化に偏っていて、AIその他新産業創出に繋がり中長期で供給力を高めるものが弱い点も指摘されてます*12。悪い汗っかき路線です。そして対米投資を断れない理由としてはホンダの赤字決算に象徴される日本の製造業の最後の砦と言える自動車産業の窮状です*13。ホンダと日産の経営統合*14は結果不調に終わりましたが、日本の自動車メーカーの再編に進めなかったのは残念なところ。ホンダのEV戦略撤回はトランプ政権による補助金停止のトバッチリとは言えますが、単独で闘えると過信していた経営判断のミスでもあります。今や生き残れるのはトヨタ1社とさえ言われる状況です。4社あった商用車メーカーは2陣営に整理されて既に全て外資の傘下にあり、乗用車メーカーも中国を含むアジアと欧州で中国メーカーの攻勢に晒されて市場を失い、国内は軽しか売れないしで、今や北米市場が生命線という状況でアメリカの無茶振りを断れないということです。これ電機メーカーが陥ったガラパゴス化の構図と同じです。
中国のBYDは既に世界を席巻する勢いですし、乗用車のみならず大型トラックやバスまでラインナップしていて、特にEVバスは日本でも多数採用されています。国内メーカーではいすゞがエルガEVとして市販を開始しましたが、大量生産には至らないし定員が少なく使いにくく、とてもライバルと言える水準にはありません。三菱ふそうが鴻海と合弁でバス製造に乗り出すとしてますが、市場投入はまだ先です。そしてなんちゃって国産バスとして大阪万博で売り込んだEVモーターズジャパン(EVMJ)のトンデモ顛末もあります*15。公費を食い物にした問題ですがここでは踏み込みません。
とまあネガティブな話が続きましたが、最後に鉄ネタ。JR貨物が石油輸送に臨時列車を走らせました*16。東日本大震災でも輸送路を寸断された被災地への石油輸送で貨物列車の設定のない磐越西線に臨時貨物列車を走らせたことがありますが*17、その時より難易度は低いもののこうした利用法があることこそ国土強靭化の実践でもあります。新しいインフラを作るのではなく、既存インフラを柔軟に運用することで機能を高めていく。人口減少が続く日本だからこそ、こうしたところにこそ成長戦略の重点が見出せるのではないかということは言えます。
*1ゾンビの性(SAGA) 鉄路的部落
*2汗っかきと油売り 鉄路的部落 汗っかきと油売りと戦争 鉄路的部落
*3ガソリン店頭最高値190.8円、19日から30円補助へ 財政への影響懸念 - 日本経済新聞
*4鹿を指して馬と為す 鉄路的部落
*5鹿の敵討ち 鉄路的部落
*6高市首相の台湾発言「重大な転換」 米情報機関、年次報告で指摘 - 日本経済新聞
*7日米首脳会談、トランプ氏「日本はNATOと違う」 対イランで貢献促す - 日本経済新聞
*8日欧6カ国が共同声明 ホルムズ海峡の安全確保へ「適切な取り組み」 - 日本経済新聞
*9台湾、防衛費増に財源の壁 マイケル・カニンガム氏 - 日本経済新聞
*10中国、台湾統一ならエネルギー供給 「民族団結破壊は処罰」 - 日本経済新聞
*11日本の対米投融資「17兆円」を約束 欧州・アジアより突出 - 日本経済新聞
*12政府の「失敗」か「不作為」か 高市首相の戦略投資はやり方次第 - 日本経済新聞
*13決算:ホンダが最大6900億円の最終赤字、26年3月期 EV損失で上場来初 - 日本経済新聞
*14壁は成長する? 鉄路的部落
*15大阪万博バス含む3割に不具合 EVモーターズ、113台で確認 - 日本経済新聞
*16JR貨物が石油運ぶ臨時列車 元売りが要望、高騰見込み在庫積み増し - 日本経済新聞
*17震災でわかったJR貨物の実力 鉄路的部落
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