ゾンビの性(SAGA)
アメリカとイスラエルのイラン攻撃から2週間。どんどん悪い方へ動いています。ベネズエラもそうですが*1、中間選挙を控えて止まらないインフレや雇用統計の悪化*2もあり、トランプ大統領には明らかに焦りがあります。イラン攻撃もハメネイ師を殺害したもののイランの体制崩壊どころか寧ろ革命防衛隊の発言力が強まり、また急遽選ばれたハメネイ師の次男モジタバ氏は寧ろ革命防衛隊に近い強硬派で徹底抗戦を宣言するなど泥沼化しています。加えて頭の痛い戦闘のコスト*3。推定5500万円のイラン製ドローンを6億円のミサイルで迎撃する非対称戦でアメリカはミサイルを消費して在韓米軍のTHAADの一部を中東に移転させた模様です*4。国内の矛盾を外部へ向けて力を誇示する帝国主義戦争*5でです。
そして原油価格上昇で市場は混乱してますが、それでもアメリカは強気を維持していてイランに海兵隊覇権を決めた模様です*6。イギリスが国内米軍基地からのイラン出撃停止をアメリカに通告しましたが、日本政府にはできない相談のようです。アメリカの狙いはイランのドローン基地の打撃と石油施設の掌握ということで、イランのホルムズ海峡封鎖を無力化する狙いのようですが、うまくいくかどうか?イランの海峡封鎖も間歇的なドローン攻撃によるもので、タンカーやコンテナ船にに被害は出ていますが、中国船は対象外。完全封鎖しなくても攻撃される可能性があれば航行を躊躇しますし保険料爆上がりあるいは引受拒否となればリスクとコストの見合いで船を動かせないってことで、イランはリーズナブルな戦い方をしています。中国船も誤爆の可能性はありますが、チャイナランドブリッジと呼ばれる中央アジア経由の鉄路で繋がっており*7、迂回路も確保されています。
てことで海峡封鎖の影響を最も受けるのは中国を除くアジア各国であり、特に中東原油依存度9割超の日本にとっては大惨事です。また有事のドル買いで円安が進んでいて原油高とダブルパンチになっております。暫定税率廃止で20円ほど安くなったガソリン価格は一気に30円ほど値上げりしていて減税効果を相殺どころか突破しています。これ変でしょ?減税効果は僅かな一方、先物価格の原油値上がりにはあっという間に織り込まれてます。現物は安く仕入れた物なのに。実はこれ減税以前に元売りに支給された補助金が廃止されたことによります*8。
70年代の石油ショックの時にはドル円の調整でショックが緩和されていましたが、それでも狂乱物価で10%超のインフレに見舞われ、スーパーの棚からトイレットペーパーが消えるパニックは今でも言及されていますが、当時の原油価格は1バレル数ドルから30ドル程度に上昇したものですが、今回もWTI60ドル台から90ドル台に爆上がりで石油ショック再来と言って良いインパクトです。第一次石油ショック時点での日本の中東依存度は8割弱で調達先分散の結果6割程度まで一旦下がったのですが、冷戦終結後のグローバル化の時代に寧ろ安価な中東原油依存は拡大します。さらにトヨタプリウスに始まるHEVの登場やエンジン車も燃焼効率の改善で自動車の燃費が改善した結果、ガソリンの需要は減る一方で国内石油元売りの経営を圧迫し価格競争でガソリン価格も抑えられていました。それがリーマンショックによる原油価格上昇で元売りの経営を直撃し、その結果元売りの合従連衡で3社に絞られて製油所の統廃合も進みやっと需給が締まったところでロシアのウクライナ侵攻があり、供給不安から原油価格は上昇しガソリン価格も上昇しました。しかしこの時点で日本の産業構造は激変していて、国内製造業の空洞化で貿易赤字が常態化して実需の円安が定着します*9。故に原油高のダメージをより強く受けるようになっていた訳です。
この間の石油元売りは市場に翻弄されながら、それでも為替の円高に助けられて薄利を得ていたものの、アベノミクスの円安誘導で厳しい事業環境は続いていた訳で、しかも自動車の燃費改善もあってガソリン需要は減る一方で合従連衡と製油所統廃合で凌いでいたところのウクライナ侵攻で青息吐息だった訳です。こんな調子だし脱炭素のトレンドから製油所の設備更新もリスクが大きく、古い設備を使い回して凌いでいたのが現実です。故にウクライナ侵攻を契機とする原油価格の上昇にも対応できず、原材料を輸入に頼るが故に円安も逆風となっていた訳で、政府補助金で食いつないできたのが現実でした。だから暫定税率廃止でも価格をあまり下げられないし、また古い製油所設備は中東原油対応なので、アメリカやロシア産の軽質油に対応できず、ズルズルと中東依存が続いた訳です。だから暫定税率廃止による値下げは補助金廃止とセットなので店頭価格は下げないとクレームになる一方、降って湧いた原油高を好機とばかりに値上げに走った訳です。老朽化したポンコツ設備を維持する費用に補助金が充てられていた訳です。
他方意外な影響が顕在化してます。エチレンの生産調整です*10。出光興産がエチレン生産停止の可能性を納入先に通知したことから始まって石油化学各社が一斉に生産停止や減産を通知するということが起きています。エチレンはナフサが原料でプラスチックや合成繊維の原材料となりますが、国内製油所が中東産から離れられなかったのは、不純物の多い中東産の重質油だから精製過程で多くの副産物を生み、国内石油化学産業を支えていた訳ですが、ガソリンの需要減でナフサの国内調達が困難になる一方、中国や東南アジア産のエチレンプラントが立ち上がったこともあり、競争力を失ってやはり系列を超えた合従連衡が進んだ業界で、既に国内調達は4割まで下がり、残りは輸入に頼る状況でした。つまり石油元売りと同様に縮小均衡を迫られたゾンビ業界だった訳です。そして国内のナフサ備蓄量はせいぜい2か月分程度であり、ガソリンより早く枯渇すると言われています。政府は原油高対策で元売り補助金の復活を打ち出してますが*11、これゾンビ化した石油元売りを助けることにはなりますが、ガソリン価格が下がるかどうかは微妙です。
G7を中心に原油の戦略備蓄放出が話し合われてますが、ちょっと頭痛いのは国際協調を待たずに日本が単独に動いている点です*12。G7で協調放出を話し合われている中、時間がかかるから日本単独で放出しようってことですが、為替のレートチェック*13を思い出していただきたいんですが、ベッセント国務長官がレートチェックを仕掛けてすわ協調介入か?と市場が反応したように、単独では市場インパクトは弱く、協調することで市場にメッセージを送ることで反応させるという経路がある訳です。ホントなんも考えてないわ。
結局近視眼的な補助金でポンコツサプライチェーンを維持して今に至る訳で、ポンコツゾンビには雇用がぶら下がり成長分野への労働力移転を阻害することになります。裏・壺・族は国を亡ぼす*15。同様のことは例えば原発でも起きていて、柏崎刈羽6号機でまたも警報が鳴って発電を止めました*14。14年間停止していた間にも老朽化は進んでいた訳で、今回は漏電の警報ということで、20%稼働で炉は止めずに発電を停止して原因究明ということです。ポンコツ無理に動かそうとするからトラブルが絶えない現実があります。とはいえ廃炉して新型炉にリプレースする資金も無いから無理して動かそうとしている訳です。原発も補助金漬けでどうにかしようとしてますが、安全対策のコストを賄えない中で元を取ろうとしている訳です。東電は福島の廃炉費用の負担もありますし、電力自由化で小売部門の東電離れで経営は苦しい中、送電網の維持に総括原価方式が保持された結果、新電力に高額の託送料を負担させて維持している現実があります。尚電力の総括原価で認められた報酬率は3%で鉄道の2%より優遇されてます。加えてエネルギー価格の変動に対応したサーチャージ制度も組み込まれています。
てことで昨日(3/14)JR東日本、西武鉄道、首都圏新都市鉄道(つくばエクスプレス)の運賃値上げが実施されました*16。鉄道運賃には電力や航空で認められているサーチャージ制度はなく、JRや大手私鉄、大都市地下鉄など大規模事業者には3年間の収支レートベースが値上げの根拠として求められられますから、今回の値上げで3年間は検証期間として値上げできないし、3年後に次の値上げを準備しても認可までの時間を考えるとおおむね5年間は運賃を弄れないことになります。その間にもエネルギー価格の上昇は見込まれますから、収支改善への寄与がどの程度になるかは見通せません。
一方JR普通運賃は私鉄や高速バスなどの運賃水準を決めるベンチマークの役割もあり、例えば京王電鉄では運賃差による安さの訴求をしてますし、今回の値上げで品川~横浜間でJRと京急の運賃逆転が起きたりしてます。また他社も値上げに追随しやすくなるという意味で、今後の値上げドミノが起きる可能性は指摘しておきます。
*1新年早々ウヨ曲折 鉄路的部落
*2米国株、ダウ続落し453ドル安 米雇用悪化や中東情勢の不透明感で ナスダック続落 - 日本経済新聞
*3米国、安価なドローン迎撃に高額ミサイル利用か 在庫に懸念 - 日本経済新聞
*4在韓米軍、THAADの一部を中東に移転か 東アジア安保に波及 - 日本経済新聞
*5政治の失敗を帝国主義と呼ぶ 鉄路的部落
*6トランプ氏、イランに「来週にかけ激しい打撃」 在沖縄海兵隊も派遣 - 日本経済新聞
*7国敗れて鉄路なし? 鉄路的部落
*8コロナリセッションを覚悟せよ 鉄路的部落
*9ドイツの後塵 鉄路的部落
*10エチレン減産、暮らしにどう影響? ホルムズ封鎖で原料ナフサ調達難 - 日本経済新聞
*11高市首相、燃料価格対策「当面基金で対応」 予備費活用も否定せず - 日本経済新聞
*12政府が石油備蓄を16日にも放出へ 高市首相表明、過去最多の45日分 - 日本経済新聞
*13日米TACOのプロデューサー 鉄路的部落
*14柏崎刈羽原発が発送電停止 東電は警報作動の原因調査 - 日本経済新聞
*15裏・壺・族と暗号資産 鉄路的部落
*16インフレが招く鉄道値上げの春 JR東や西武、一段の改定に制度の壁 - 日本経済新聞
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