EVの壁
製造業の壁*1冒頭の日経平均4万円の壁から1年4か月弱、最高値をつけたものの6万円の壁が立ちはだかります*2。しかも半導体関連が上昇した一方その他株は低調です。ホルムズ海峡封鎖が続く中で先行するNYダウは下げてます*3。週明けの東京市場も下げると見られます。イラン戦争の影響が長引くことを市場が織り込んでいるということです。株価の上昇自体は円安とインフレの結果ですから手放しで喜べませんが。
しかし危機感の薄いわ―くにの政府。日本船籍の船がペルシャ湾に40隻以上足止めされていて、その分輸送力が減っている上に、米国産原油その他の輸送を喜望峰ルートやパナマ運河ルートで迂回輸送することで長い船旅となり輸送効率を下げますから、運航頻度が下がって結果的に輸送力不足になります。実際タンカーや輸送船の争奪戦で運賃が高騰し、パナマ運河通航料も高騰してます。故にアメリカ・カナダ・メキシコ産の原油を代替調達しても輸送コストが上昇してますから、石油関連品の値上がりは避けられません。これインバウンドで混雑が常態化した江ノ電で、12分ヘッドのネットダイヤを維持できずに14分ヘッドに伸びた結果、所要時間が片道4分増えて運行頻度を下げて結果的に輸送力14%減で混雑を助長し、繁忙期には乗車待ちの長い列ができる状況に似ています。輸送路の目詰まりはサプライチェーンの機能を低下させます。
早速こんなニュースも*4。幸いというかバス事業者はドライバー不足で減便が相次いでいてバス自体は余っている状況で、塗装面積の広いバスの生産調整はやり易いとはいえ、現状が続けば自動車生産にも重大な影響が出るということになります。バス・トラックのディーぜルエンジンの排ガス浄化装置尿素SCRに使うアドブルーも不足してますが、これもドライバー不足が救いでも、肥料原料との取り合いは起こります。こうなると追浜と湘南の2工場閉鎖を決めた日産がEVの開発生産を中国に移しますが*5、これが正解になる可能性は指摘しておきます。
製造業の壁でも指摘したようにテスラと中国のEVメーカー以外の自動車メーカーはガラケーメーカー化していますが、それを最も実感しているのがリーフで量産EVの先陣を切った日産ということですね。特に中国のモーターやインバーターやバッテリーの進化は、中国政府の産業政策もあって爆発的なイノベーションを引き起こし、テスラも中国製造拠点でその恩恵に預かった結果、伝統的自動車社メーカーを後塵に追いやった訳です。そのキモは早すぎる技術革新に尽きます。最先端の技術を取り込むには新車開発を短期間に行う必要がある一方、市場投入後により新しい技術を纏って後追いするライバルが出る訳ですから、必然的に陳腐化が早まり中古車のリセールバリューを低下させます。それを防ぐ為にはソフトウエアでアップグレードできるようにする必要があり、CASEと言われた自動車産業の変化がSDV(Software Defind Vehicle)へと必然的に進化せざるを得なくなったということです。わかりやすく言えばパソコンやスマホのように進化が早い一方でソフトウエアの更新で性能アップすることで、ハードとしてのEV販売後の収益機会をメーカーにもたらすことになります。クルマ作りのアーキテクチャーの根本的な変化です。対応するには新車開発を短期間で行うと同時に統合車載ソフトの拡張性を持たせることが必要ということです。
その為にはモジュール単位の電子制御ユニット(ECU)を統合して最終的には高性能ECUで全体を制御するという形まで視野に入れる必要があり、単独でそこまで出来るのは日本ではトヨタがギリギリというところでしょう。その意味では結構重要かもしれないニュースはこれです*6。デンソーは既にECUやインバーター向けパワー半導体を生産してますが、EV化を睨んでのM&A提案をロームに断られました。尚、ロームとのパワー半導体統合を目指す東芝は阪急電鉄、三菱電機は大阪市交という鉄道のローンチカスタマーに育てられたパワー半導体大手です。これがトヨタの電動化に影響する可能性はあります。一方一時は日産救済の期待を背負ったホンダは大変なことになってます*7、ソニーとの合弁解消で自動運転も遅れを取ることになります。こうなったのは実は2輪車の不振が影響しています。元々4輪車は赤字体質だったけど2輪車の世界王者故の超過利潤で穴埋めされていたから競争力を維持できていたのが、アジアの新興勢が電動化で躍進して市場を奪われて狂いが生じました。50㏄原付規制に護られて対応が遅れたことも影響していると言えます。
中国の産業政策を補助金漬けと見るのは間違いで、実は計画経済の流れで政府が産業の方向性にコミットして民間企業を動員するというソビエト型から進化した市場型功利主義的計画経済と言えるもので、実はお手本は高度経済成長時代の日本です。当時ブレトンウッズ体制で1ドル360円の固定相場に護られ、安価な原材料資源を輸入して国内で加工して付加価値をつけて輸出するという加工貿易立国の前提で、主要輸出先はアメリカだから太平洋ベルト地帯に生産拠点を集め港湾を整備するという方向性は明らかでした。故に国鉄が東海道新幹線の建設を決断できました。そして実は産業政策の担い手は日銀でした。当時の金融政策は固定相場維持の必要から国内景気が過熱したら直ちに公定歩合を上げて民間融資による信用創造を抑制し、景気が冷えれば下げて融資を促進するというシンプルなものでした。その日銀が窓口規制という銀行の融資指導も行っていて、当時の通産省の助言に沿って優先融資先を産業単位で示すということをやっていました。それに沿って民間銀行が個別企業に競って融資する形で、鉄鋼、機械、自動車、石油精製、化学などの製造業を後押ししていて、丁度中国の功利主義的計画経済とそっくりでした。
政府が後押すする産業分野に優先的に融資された結果、銀行預金主体の家計貯蓄をリスクマネーに変換するという金融の基本が機能していた訳です。だから「貯蓄から投資へ」なんて誰も言わないし銀行融資による現物投資のリターンは利息の形で預金者にも還元されていました。故に中国は米ドルの通貨覇権に対抗すべく人民元の国際化を模索してますが、IMF-SDR的な通貨バスケット連動には踏み込んだけど変動相場制への移行は足踏みしている訳です。その突破口として中央銀行仮想通貨(CBDC)のデジタル人民元による貿易拡大を狙い、ウクライナ戦争で窮地のロシアやイラン戦争関連もイラン産石油取引やホルムズ海峡通行料もデジタル人民元を推していると言われています。
こういう状況ですから地獄への道のEVMJ*8が生産委託した新興企業には怪しげなものがあっても不思議ではありません。EVMJに見る目がなかっただけです。幸い地元の江ノ電バスは実績のあるBYDの大型と小型を導入しており、その完成度の高さは実車で実感しております。たかがEVされどEV。目利き力って大事です。
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