経済・政治・国際

Saturday, March 18, 2023

田代の水は山をも越すが水に流せぬ大井川

箱根馬子唄ならぬリニア迷子唄^_^;。リニア60年のウヨ曲折の続編です。

リニア工事中の水量減解消、JR東海が静岡自治体に説明へ:日本経済新聞
上記エントリーでも取り上げた大井川の水問題での東電田代ダムの取水量調整でJR東海が東電と協議することを前提とした説明をするということですが、すんなり進むとは思えません。田代ダムは大井川最上流の田代にダムを作って導水管で山梨県の冨士川系の早川へ落として水力発電を行うという目論見で建設され1928年に完成した大井川水系では初の本格的ダムです。つまり元々田代ダムの水は古くから山梨県に送水されていた訳ですが、これが後年大井川で水利権争いの種になります。

早川電力は後に東京電灯に吸収され、更に電力国家管理で日本発送電に摂取され、戦後GHQ の日本発送電の解散命令で後に東京電力となる関東配電に引き継がれ今に至ります。こうした歴史過程もあって大井川水系では田代ダムのみが東電で他は中部電力という形になり、水力の一河川一社の原則から外れております。大井川水系は多数のダムが作られました。余談ですが大井川鉄道は元々電源開発のための鉄道として電力資本で作られたから、ローカル私鉄としては重厚な設備で整備されており、SL列車の運行が可能なのもそのお陰です。

そんな事情からダムの取水で大井川の渇水が問題視され、特に1955年に田代ダムの取水量が当初の毎秒2.92トンから4.99トンに増やすよう東電が静岡県に申請し、静岡県は流域自治体の同意を得ずに認可したために流域住民が反発し、東電や中部電力に河川維持放流を求める運動に発展し、住民の座り込みなど実力行使にまで発展する騒ぎになりました。特に山梨県で発電事業を営む東電の態度は頑なだったようです。1997年の河川法改正で河川環境の維持が義務化されたのを受けて2006年委解決しましたが、水利権問題の解決は半世紀を越えました。

といった係争の歴史を踏まえると、JR東海は将に地雷を踏んだ訳ですが、同時に東電も過去の係争の経緯から流域関係者の了承を前提に協議するとしており、静岡県は東電の協力の確約を求めているということで、JR東海が話をまとめるハードルは高いと言えます。そもそも東電が今償却前収支の赤字、つまりキャッシュフローの欠損という深刻な事態に直面しており、取水制限にすんなり応じられる状況にはありません。という訳ですから、まだまだもめます。

という訳で視界不良な中央リニア事業ですが、河川法改正が大井川の水利権問題の解決を後押ししたように、法律的に打開する可能性は考える余地があります。但しその前にそもそも中央リニア事業の法的位置づけがどうなっているのかについて、あまり取り上げられることはありませんが、問題を多数含みます。

事業の根拠法機は全国新幹線鉄道整備法(全幹法)ですが、元々国鉄が事業主体となる前提で作られた法律で、基本計画線の公示や整備計画策定のための調査指示、分割民営化後に見直され、所謂整備新幹線スキームと呼ばれ、鉄道建設・運輸施設整備支援機構が建設主体となって建設費を国と地方が負担し、事業者は受益の範囲リース料を30年間支払うこと公的負担を軽減する形ですが、中央新幹線に限ってはJR東海が建設主体となっており、公費の投入はない形ですが、そのことがJR東海に地元軽視姿勢をもたらした可能性はあります。

元々1970年に成立した全幹法は高速道路整備と並ぶ国土総合開発計画と連動した国土軸形成のための法律であり、地域開発に資することを目標としている訳で、その観点から見ればリニアのメリットを受けず大井川の水問題に留まらず環境破壊や事故災害時の乗客救援の責任まで負わされる静岡県が反対するもの無理もない話なんですが、死去した葛西名誉会長を筆頭に幹部の国鉄OBが国鉄時代のノリで事業を進めようとして静岡県で躓いたという見方は可能です。とはいえ現実的に静岡県内にリニアの中間駅を設置するのは無理ですし、国鉄流バーター主義では対応できない訳ですね。

加えて言えばそもそも中央新幹線は2011年にJR東海の発議で整備計画線に昇格したように、元々基本計画線の中でも優先順位の低い路線だった訳です。JR東海としては稼ぎ頭の東海道新幹線と競合する路線をJR東日本や西日本といった他社に参入されたくなかったという動機付けが強かったと思いますし、それ以上に一定のシェアを維持する東阪間の航空のシェアを奪って独占したかったということがあります。つまり全幹法を利用した輸送シェア独占を目論んだってことですね。

よく言われる国土強靭化策としての二重化の機能は北陸新幹線に託されており、また東海地震対策という意味ではリニアのルートはほぼ想定震災域に被っており、敢えて中央新幹線を急いで作る必要性は乏しい中で、リニアという技術革新を売りに国に認めされたという意味で、全幹法の趣旨をかなり逸脱した存在であるということになります。

東海道新幹線の輸送逼迫もJR東海ののぞみ増強や品川新駅開業などJR東海自身の追加投資によるもので、実際90年代には輸送量の伸びが止まって一度シェアを落としています。余談ですが日本の上場企業のPBR1倍以下、つまり解散価値以下企業の中にJR東海がリストアップされています。意外ですがPERの水準は高いので東海道新幹線へのてこ入れで資産価値が高まった結果、時価総額を上回ったってことでしょうけど皮肉な結果です。

二重化の観点から言えば来年敦賀まで開通する北陸新幹線の関西アクセスルートで揉めてますが、二重化の観点からは米原ルート一択です。特に難工事が予想される小浜京都ルートは事業費もかかるし整備期間も長くなるし、公費負担分の費用便益比(B/C比)が1を割ると予想される一方、距離が短く建設費も低廉でB/C比も2近く、また並行在来線の湖西線問題でも地元滋賀県との協議の可能性が高まります。三日月知事が唱える交通税も、近江鉄道支援に留まらず湖西線問題に備える意味があるとすれば、納税者に負担を求める滋賀県にメリットのない小浜京都ルートでは論外ですね。JR西日本はJR東海のリニアの躓きを学んでいませんね。

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Sunday, March 12, 2023

失敗に学ばない国

1日遅れですが、3.11から12年が経ちました。被災地の現状は未だに復興途上ですが、特に福島では放射能汚染の問題もあって、ハード面の整備は進んだものの未だに3万人以上が避難中で人は戻っておりません。避難先で仕事を得て生活基盤が確立すれば、現実的には戻るに戻れない訳です。12年という時間軸の重みです。

一方40年か課kると言われた福島第一原発の廃炉事業は停滞しており、予定通りならばあと28年で終わる筈ですが、実際は未だに「40年」と言い続けていて具体的には進んでおらず逃げ水の「40年」のお題目となっております。「処理水放出」が進んでいるという報道ですが、これも単に地上に置くタンクのスペースが無くなったからという理由で、トリチウム以外の核種を含む汚染水を再度フィルターに通して海水で希釈して海底トンネル経由で100m沖へ放出するというものです。「科学的に安全」だそうです。希釈しても放出される汚染物質の総量は減らない訳で、こんな基本を無視した「科学」って何ですか?

そもそも汚染水は福一建屋に地下水が流入することで発生している訳で、その元を絶たなきゃ増えるのは当然のこと。故に凍土壁で遮断するとして国費345億円を投じて1,500本の冷却管を建屋周囲に設置して稼働させたものの、効果は限定的で汚染水の発生はその後も続き、年間数十億円の維持費もかかります。最初からコンクリート止水壁を作る方が結果的に安上がりだったのではないかというのは計画段階から指摘されていてその通りになった訳ですし、汚染水の保管も小型タンクを地上に置くのではなく石油タンクのような大型タンクに貯めて100年後に放出ならば半減期から無害化されますが、コスト減を優先した結果の失敗です。

そして殆ど報道されませんが、フィルターに残るスラッジと言われる固形物の保管問題が実は大変なんです。当然放射性核種を含むスラッジは放置できないので専用容器に入れて保管されておりますが、その保管スペースも逼迫しておりますが、今のところ処分方法も不明です。汚染水保管場所が逼迫するから放出しますと言っても、汚染物質は濃縮された形で残ります。つまり既に次の失敗の種がある訳です。行き当たりばったりで事態は複雑化して解決困難になります。

そんな状況で事故後に決まった原発の原則40年最大60年の期限撤廃が決められました。原発は動かしたいけど新設やリプレースには時間がかかるから今ある原発をとにかく動かそうってことですね。やはりコスト減が狙いですが、つまり老朽化が進む老朽原発を動かす訳で、福島の失敗から何を学んだんだ?しかも脱炭素やエネルギー安全保障や電力逼迫といったトピックをまぶして正当化しようとしていますが、何れも嘘八百です。

老朽原発を安全に動かすには補修が必要ですが、鉄とセメントの塊の原子炉の補修は鉄とセメントの投入が避けられずその製造段階で発生するCO2はカウントされていません。つまり原発で脱炭素は嘘ってことです。エネルギー安全保障を言うならば再エネこそ純国産エネルギーなのにそこはスルーしてます。加えて電力逼迫も嘘が含まれます。

電気が足りない訳じゃないで取り上げた大手電力の既得権が問題を起こしているだけで、実際接続拒否で利用されず捨てられている再エネ電力と、大手電力の先発権で実はガラ空きの送電線がある訳で、需給調整の仕組みを整えれば問題は解決可能なんですが、例えば地域間の連携線整備は進まず、原発再稼働が滞る東電管内では原発需給調整用の揚水発電を利用して再エネを受け入れているものの、その一方で原発のバックアップ用に敢えて残した老朽大型火力発電所は高稼働でダウンしたり、出力調整が容易なガス火力も高稼働で保守点検のスケジュールが重なったりという行き当たりばったりの結果としての予備率低下ということで、原発再稼働以外の対応策がない訳ではありません。

実はエネルギー価格上昇に伴う新電力の廃業ドミノの結果、行き場を失った契約者の補償で大手電力の採算が悪化したことで、なりふり構わず原発再稼働に向かっているという構図です。その結果赤字決算オンパレードとなった訳ですが、これもそもそもLNG価格上昇で予備率が低下して大手電力が自家発電を持つ工場などの余剰電力を卸電力取引所(JEPX)へ出す前に買い取った結果、JPEXの相場高騰で採算悪化して新電力の廃業ドミノが起きた訳である意味自業自得です。加えてこんなニュース。

看板倒れの発送電分離 電力大手の情報漏洩、罰則強化も:日本経済新聞
送電線を大手電力の傘下に残したのは、上述の先発権の担保に留まらず再エネ電力の託送料を高額にして自社系列の発電部門を利する利益相反もありますし、新電力と競合関係となる小売り部門でも新電力の契約者情報にアクセス可能だった結果やはり利益相反を生んでいる訳で、そもそも制度設計の失敗です。どうすればよかったか、実は中国に答えがありました。
「結果オーライ」の再エネ振興 中国の産業政策のいま 丸川知雄・東京大学教授 経済教室:日本経済新聞
欧州のFITに対応して太陽光パネルを増産したものの、輸出攻勢でダンピング関税を課され、更にFIT期間終了もあって過剰生産能力を持て余して企業救済のために国内普及を促し、また内陸部に偏在する電源と需要地の沿岸部を結ぶ送電線の増強を行った結果、世界一の再エネ大国になったという結果オーライだったということです。

ある意味行き当たりばったりだったとはいえ、元々原材料のポリシリコンは国内調達だし人件費は安いしで、ダンピング関税は明らかに欧州の自国産業保護でもある訳で、その結果窮地に陥り国立銀行の融資の焦げ付きを防ぐ為に国内へ普及させた訳ですが、ウイグルや内モンゴルなど元々土地が広く日照条件の良かった内陸部で普及したものの、やはり送電線接続拒否問題が起きたのは日本と同じですが、国が主導して送電線増強で対応したところが中国らしいところです。歴史的経緯で大手電力の既得権に切り込めない日本が停滞する訳です。

という具合に昨今民業圧迫が目につく中国ですが、民間企業が力を持つ弊害を抱える日本が優れていると言えない皮肉な現実です。新自由主義的に民営化すればうまくいくというロジックも不具合が目につく昨今ですが、そんな観点から注目したいニュースがあります。

地下鉄運賃下げたら乗客数3割増 神戸の「北神線」おカネ知って納得:日本経済新聞
グローバルコロナショックで取り上げた北神急行電鉄の神戸市買収による市営地下鉄編入の後日談ですが、コロナ禍にありながら乗客3割増しという驚くべき結果です。勿論上記エントリーで指摘した市営バス再編絡みで乗客を集約できたという側面はあると思いますが、運賃が下がったことのインパクトの大きさを示します。粟生線の乗客減に苦しむ神戸電鉄にとっては乗客減の影響はあるかもしれませんが、寧ろ有馬三田地区からの三宮へのアクセス向上は地域活性化に繋がる訳で、粟生線とは事情が異なります。新開地起点でターミナル立地が必ずしも良くない神戸電鉄にとっては寧ろビジネスチャンスかもしれません。「民から公へ」が成功する可能性は注目されます。

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Saturday, March 04, 2023

半導体連合で企業ジョーカー待ち?

気球宇宙だと物騒なニュースが多いですが、朝鮮戦争を契機に日本の戦後復興と再軍備やA級戦犯の恩赦と公職復帰が進んだ1950年代に似ています。その1人が岸信介で、後に首相となって60年安保改定を実現したばかりか、統一教会を日本に呼び込んで未だに多くの人を不幸にしている訳ですが。所謂戦後史の逆コースと呼ばれる時代状況に似てきました。但し朝鮮特需で戦後復興が本格化したこともあり、一般的には景気が上向いた良い時代と見られております。

という訳で55年体制に象徴される自民党による保守長期政権がスタートし、続く高度経済成長時代に接続する訳ですが、人口減少の現在はそんな希望もない中で、半導体を巡る地方の誘致合戦を見ると、同じ期待を抱いているのかと眩暈がします。トランプのジョーカーはゲームでワイルドカードに使われることが多いですが、半導体がどんな未来をもたらすか、冷静に見ましょう。まずはこのニュース。

ラピダス、5兆円投資 北海道・千歳に先端半導体工場:日本経済新聞
米IBMが半導体生産を日本に打診したけど受ける企業が見当たらず、ならばと立ち上げた半導体ファウンドリーのラピダスで、世界最先端の2nmの微細加工に挑戦するということですが、北海道千歳市に誘致が決まりました。

但し課題山積で、立地の決め手は水資源と電力で、半導体生産には欠かせない条件ですが、電力に関しては再エネ電力比率が高いことが評価されたそうですが、おそらく福島第一原発事故以降営業運転されていない泊原発の再稼働を見込んだというのは穿った見方かもしれませんが、あり得ます。脱炭素で欧州が炭素税国境調整を言い出す中、化石燃料依存の日本の製造業が不利になるし、ウクライナ問題でエネルギー価格の高止まりもあるしということも背景にあると思います。というのは、複雑な半導体サプライチェーン構築で有利と言えない北海道を選んだことの説明がつかないからです。

台湾TSMCが熊本県菊陽町の立地を選んだのは明らかで、元々80年代に世界の半導体市場を席巻した日本の半導体産業が多数立地してシリコンアイランドとさえ言われた九州には元々関連産業が多く、特に大口ユーザーのソニーの画像センサー工場に近いことが決め手と考えられますが、北海道にはそうした半導体関連の集積は見られません。2027年の供給開始を想定しているので、それまでに関連産業を呼び込もうということかと思いますが、そもそも国内企業が及び腰だった先端半導体生産がうまくいく保証は現時点ではありません。

半導体は微細化すると歩留まりが悪くなる一方、それ故に歩留まりをうまく抑えれば希少性から高値で売れるということで、チャレンジングな事業です。一方旧世代の汎用半導体は市況商品で値崩れしやすいこともあり、それ故に半導体不足が言われながら増産されにくいというメンドクサイものでもあります。特に汎用品を大量に使う自動車などは大きな影響を受ける訳です。加えてEV化電動化が言われる昨今、サプライヤーも簡単に増産に踏み切れない事情もあります。という訳で自動車の供給制約は当分続くと考えられます。

そして実はウクライナ関連で欧米の軍需産業も半導体不足で兵器支援がだんだん難しくなっています。所謂支援疲れとは違って具体的に兵器生産のサプライチェーンに目詰まりが見え始めています。そんな事情もあってアメリカ政府は半導体の国内生産に拘り、また日米韓台のチップ4連合のグリップを強めようとしているという側面もあります。それに乗っかれば日の丸半導体も復活できるかもという甘い見通しもあるでしょう。

という訳で、軍需品需要が半導体不足を助長している訳ですから、民生品への圧迫は世界規模で起きると考えられますし、また世界的なインフレで主要国中銀の利上げが、半導体産業の追加投資を阻害すると考えられますから、結局政府支援で投資を行う流れということで、この点は日米ともに変わりません。半導体が戦略物資として国家の統制を受ける訳です。そして防衛費倍増を決めた日本にとっては、欲しい兵器がウクライナ優先で後回しにされることを意味します。米中デカップリングのリアルで取り上げた時代遅れの無人偵察機グローバルホークも未だ納品されておりません。

とまああれこれ見ていくと、消耗戦が続く限り世界規模で経済が好転する要素は凡そ見当たりません。戦争が終結して復興が始まるまでは状況は変わらないということですね。地方が企業誘致で夢を見ても、微細加工のナノレベル先端半導体の供給開始までの道のりは遠く、また中国への輸出は無理で売り先も制限される訳ですから、果たして採算に乗るのかどうかも定かではありません。そして半導体不足の意外な影響は自動車や兵器に留まらず鉄道にも及びます。

2020年の五輪開催に間に合う筈だった中央快速線グリーン車が半導体不足で生産が滞っています。グリーン車自体は無動力ですが、ICグリーン券をかざして着席を示す発光ダイオード―のインジケーターなど半導体が多数使われます。JR東日本としては通勤通学需要の低迷で着席サービスによる増収を見込んでいる訳ですが、それが遅れる分収支は厳しくなり地方ローカル線の維持も困難になる訳です。地方の受難は続きます。

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Saturday, February 25, 2023

宇宙戦争は終わらない

ロシアのウクライナ侵攻直前の宇宙禍族露貧損で緊迫した状況を思い出しますが、結局戦争は始まり未だに続きている状況で、アメリカのインテリジェンス情報の正確さと共に、兵器供与の一方でNATOの参戦には至らない宙ぶらりんな状況は続きます。基本的にロシアが諦めるまで続くと考えられますが、可能性は低いと言えます。

プーチン氏、核戦力増強表明 ICBMや極超音速ミサイル:日本経済新聞
これつまりロシアが米本土に届く核ミサイルなどで戦略核戦力を増強するということで「大きな北朝鮮になる」宣言です。つまり核エスカレーションも辞さずということです。核共有されているNATOエリアも標的になる訳で、こうなると日米核共有を唱えた政治家の不見識が改めて問われます。

これが重大なのはロシアがソビエト時代に核の増強のためにウラン濃縮に励んで大量の未使用濃縮ウランを現時点で保有している事実があるからです。つまり気球騒動の中国が時間をかけて核増強しているより速いスピードで実現可能ということです。共に実現可能性は低いと思いますが、台湾有事より手前の時間軸の問題ということは押さえておきましょう。こうなると日本のサハリン2などロシアのLNG権益も見直しを迫られるかもしれません。

主権国家であるウクライナへ侵攻したロシアが問題なのは言うまでもありませんが、この戦争は穀倉地帯で天然資源にも恵まれ工業化も進みハイテク産業も優位なウクライナを巡る市場争奪戦という意味では帝国主義戦争と何ら変わらない訳で、ロシアを非難するだけでは問題は解決しません。一方ロシア軍の弱さも露呈しており、通常戦力だけで見ればNATOがもし参戦すれば数日で決着するレベルでしょう。

それが出来ないのはロシアの核の脅しが効いているということで、米バイデン政権は「第三次世界大戦にするつもりはない」と言い、ウクライナを支援しながらやり過ぎないように慎重に進めている訳で、核抑止力のリアルを示しています。それに引き換え日本の安全保障の事象専門家たちの「抑止力」の言葉の軽さは眩暈がします。

帝国主義戦争であるということは、所謂グローバルサウスと呼ばれる途上国の賛同は得にくい訳で、実際国連決議でも棄権などで中立を保つ国が多いのは致し方ないことですし、民主国家の普遍価値を唱えても、彼らから見ればグローバル市場で劣位に置かれ不利な交易条件を押し付けられるという意味では西側諸国も中国やロシアも変わらない訳で、どちらか一方を選べという踏み絵のような態度は寧ろ嫌われます。これは冷戦期の第三世界とも違う現実で、世界はバラバラになっているということです。

加えてリーマンショック後の世界的な金融緩和の結果インフレが止まらなくなり、先進国は日本を除いて利上げに動いている状況ですが、資源高やサービス価格上昇に伴う国内労働市場の逼迫でインフレが止まらす、とりあえず好調なアメリカでさえ賃上げが物価上昇に追いつかず実質賃金がマイナスになっている状況です。金融緩和のやり過ぎが原因ですから、当面景気悪化も避けられず、下手すればマイナス成長ということですね。

独裁強化で露呈した中国の成長の限界は失われた中国の始まりでも取り上げましたが、中国の成長が減速する以上に先進諸国のマイナス成長が米中逆転をもたらす可能性も視野に入れる必要があります。とすると軍事力は経済力で規定される以上、アメリカのプレゼンスも相対的に弱くなるということですが、防衛費増でアメリカに恭順の意を表せば安泰という構図も変わってきます。そして当のアメリカはといえば。

米中貿易、4年ぶり過去最高 日用品・食品など依存高く:日本経済新聞
気球の地政学でも取り上げましたがアメリカが問題視するのは中国による通信のバックドア設置であり、各種ハイテク兵器の性能向上でありという訳で、そのチョークポイントとなる先端半導体を渡さないことは重要ですが、一方で廉価な日用品の調達には製造拠点としての中国が欠かせないし、一方経済成長で国民の肉食嗜好が強まった結果、飼料用穀物は安価なアメリカ産抜きには成り立たないという双方の事情があって貿易拡大に至った訳です。

という訳で日米韓台のチップ4と呼ばれる半導体連合で日の丸半導体復活をぶち上げる日本ですが、アメリカが求めているのは中国への半導体関連の輸出を内外を問わず米当局に申請して許可を得ることであって、認められれば輸出は可能です。そして半導体製造に欠かせない露光装置の世界大手ASMLに立地するオランダも巻き込んでおります。しかもEUに諮らずオランダ政府と協定を結ぶ形になっております。これは先端半導体に欠かせない深紫外線(DUV)露光装置はASMLが独占しているからです。

というぐらいにエグイ対応をしていますが、大乗り気の台湾TSMLは最先端分野は台湾に残し中程度の製品を米独日に建設中の拠点へ移して最先端技術は手元に残しつつ各国の補助金はしっかり受け取るといういいとこ取りをしている一方、台湾有事には疎開先として活用することも見越して米アリゾナやドイツの工場は大規模なものになっておりますが、熊本県菊陽町のTSML熊本工場は小規模で主に近くのソニーセミコンダクタの画像センサー用のチップ製造への便宜で選ばれた立地で、半導体関連企業が我先に進出を競った結果地価3割アップで建設工事受注でゼネコンがお祭り状態で大阪万博パビリオン建設が進まないのは怪運国債市場の蓋でも取り上げました。というぐらい確かに半導体で盛り上がっておりますが、不便な熊本空港を巡って高規格の都市高速道整備とともに鉄道整備も動き出しております。

熊本空港アクセス鉄道、肥後大津ルートに 県検討委判断:日本経済新聞
いやホントお祭り状態ですが、日の丸半導体復活は微妙でもゼネコンのお祭りは当分続きそうです。なにわ無くともくまモン半導体。将にオバケ、空騒ぎのおバカにならないことを祈りましょう。

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Sunday, February 19, 2023

気球の地政学

トルコ・シリア国境地帯の地震はその規模の大きさも破格ですが、建物の倒壊が酷い状況です。災害は忘れた頃にやってきます。建物被害の原因がトルコでは賄賂が横行して耐震帰省が守られていなかったことが指摘されています。日本でも耐震強度偽造事件がありました。所謂姉歯事件ですが、大臣認証強度計算ソフトのコピペによるデータ改ざんで、デジタルオンチな日本の官僚のバグですが、五輪不正などでは日本もヤバいかも。

一方のシリアですが、被災地が反政府勢力の支配地域で政府軍による空爆で建物が破壊され、壁や天井の穴を天幕で補修して人が住んでいる状況故、耐震強度云々以前の弱さが災いしております。戦闘の激烈さにおいてはウクライナ以上かもしれませんが、内戦であり欧州から離れていることもあって報道が少なくその悲惨さはあまり認識されておりません。

反政府軍の中の自由シリア軍はアメリカをはじめ西側諸国の支援を得ていますが、必ずしもシリア国民の支持を得ている訳ではありませんし、また内戦故に怪運国債市場の蓋で示したように大っぴらに支援しにくいということもあります。故にアメリカは日本の防衛増強で防波堤になってほしいのが本音なんです。国民にとっては迷惑な話です。

そんな中で中国発の気球が物議を醸しておりますが、思い出されるのが通信傍受でワシントン混線さすで取り上げたスノーデン事件です。米NSCの下請け企業のITエンジニアだったスノーデン氏が米諜報活動の手口や実態を暴露して世界中が大騒ぎした事件です。米国内に留まらず各国から非難の嵐で当時のオバマ大統領は苦境に立たされました。

9.11後に成立した愛国者法で令状なしで通信傍受が可能になり、民間人に紛れるテロリストをあぶり出すためと言われたものの、実態は同盟国を含む各国首脳の通話まで傍受されていたということで、当時の独メルケル首相が不快感を露にするなどのことがありました。そして各国はそうれに反応して様々なことをする訳ですが、ロシアはサイバー攻撃やSNSを通じた米大統領選への介入などで「反撃」しており、トランプ政権誕生を後押ししてある意味わかりやすい反応です。

欧州は人権侵害を重視してEUがGDPR規制をかけています。個人情報の収集と利用を原則本人の承認を経なければならないとする原則に従って加盟各国で国内法制定が相次いでいます。EUは国際ルールとすることを主張し、民間企業の帰省を嫌うアメリカと対立してますが、アメリカも国内法で同等の規制をかける検討は進んでいます。

中国はスノーデン事件にショックを受けると共に,アメリカがそこまでやるならとばかりにデジタル技術を駆使した監視システムを構築し、チベットやウイグルを含む国内ではほぼ完成させたことはコロナ禍による暴力的規制の画像が世界に拡散して周知の事実となっております。一方でゼロコロナに対する抗議運動が全国で同時多発的に発生すると情報量によるバグで修正を余儀なくされました。アメリカの情報機関のようなプロファイリングの技術は持ち合わせていなかった訳ですが、事後的なデータ解析で獲得する可能性はあります。中国の民主化は遠い。

その一方でトランプ政権による経済制裁で特に5G技術を擁するHuqweiの通信機器の使用が多くの国で禁止されたことで、おそらく中国政府が想定していたHuaweiの通信機器へのバックドア設置がブロックされ、更にバイデン政権による先端半導体の輸出規制でより困難な状況から、気球を飛ばして情報収集することにしたってことでしょう。バイデン大統領がオバマ政権で副大統領だったことから、中国への容赦のない締め付けに躊躇はないのでしょう。

中国も複数の静止衛星を打ち上げていて当然偵察に使われていると思いますが、情報解析のためには別ルートの情報も欲しい訳で、バックドアによる通信傍受がダメなら別の方法でということでしょう。そして戦時中の日本の風船爆弾を彷彿させる偵察気球に行き着いたという仮説は成り立ちます。実際中国はアメリカの爆撃の対応に反応してますし、結構正直です^_^;。とはいえ失敗ではありますが。

米中、高まる偶発リスク 米軍が中国偵察気球を撃墜:日本経済新聞
ワシントンポストの記事が紹介されてますが、それによると気球は海南島で打ち上げられ、偏西風に乗ってグアムなど太平洋島嶼部の米軍基地の情報収集を狙ったものの、偏西風の蛇行で針路が北へずれてアリューシャン列島から米航空鵜識別圏入りしたもので、狙いを外した訳です。

偏西風の蛇行は気候変動で説明されており、CO2排出量の多い北米、欧州、東アジアの3カ所で気温差から大きく南へずれており、逆にCO2排出が少なく吸収源でもある海洋部分で押されて北へずれるということで、図らずも偏西風の蛇行を実証して見せた訳です。折しもシベリアの寒気で東アジアを寒波が襲うタイミングとも符合します。温暖化で寒波?という懐疑派の疑問への回答にもなります。ってことで、気候変動という人類全体の危機にあって戦争やってる場合かいという感想を持ちます。

中国「エネルギー消費」再起動 世界のインフレ左右 チャートは語る:日本経済新聞
エネルギー地政学から言えばミサイル買うより再エネによる地産地消体制構築こそ喫緊の課題の筈です。原発再稼働は手続き上直ぐには無理ですし、60年超の稼働を認めても安全対策投資が嵩んで寧ろ不経済ですが、サンクコストを損切出来ない電力会社の都合が優先されてます。サンク苦労すのプレゼント要らね。事故も災害も忘れた頃にやってくることを肝に銘ずるべきです。
舎人ライナー事故、地震で側面車輪浮き脱線 運輸安全委:日本経済新聞
コロぶナ日本で取り上げた日暮里舎人ライナーの脱線事故の運輸安全委の報告です。地震の揺れで案内輪がガイドレールから外れて脱線ということで、防ぎようのない事故だったようです。新幹線のように売れを検知したら自動停止するぐらいの対策が必要でしょうけど、無人運転によるコスト削減を狙ったAGTとしては追加コスト負担はつらいところです。まして戻らない混雑で示したように混雑対策でによる出費で赤字脱却できないとなれば尚更です。地方も含めて日本の官僚にはバグが多い。

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Saturday, February 11, 2023

怪運国債市場の蓋

怪運国債依存症の続編のウンコクサイ話です。

日銀ピボットで株高の死角 共担オペに「追い証」リスク NQN編集委員 永井洋一:日本経済新聞
「毒まんじゅう」とは穏やかではありませんが、取り上げられている共通担保資金供給オペ、略して共担オペを取り上げております。これは12月の日銀のYYCの上限見直し後も10年ものだけ金利が低い屈曲イールドカーブを批判されて10年もの以外の金利も下げるため、民間銀行が保有する国債の担保差し入れで日銀が低利融資するというもので、日銀だけではすべての残存年数国債の買い付けすることには限界があるので、民間銀行に代わりをさせるものです。つまり金利の高い国債を保有したまま低利融資することで利ザヤが稼げる訳で、銀行保有国債の売りを阻止しようということです。

こうすれば金利上昇を睨んだ投機筋カラ売りに必要な国債の現物が市場に出なくなってカラ売りが困難になることを狙ったもので、残存年限によっては市場が干上がっているケースもあり、また日銀自身も2年もの5年もの20年もののなど買い散りオペでイールドカーブ全体を下げる狙いです。その結果多くの銀行が共担オペに入札し恩恵を受ける一方、投機筋の打ち手を封じることになりますが、同時に投機筋は空売りに必要な国債現物を日銀を含む銀行から借り入れていた訳で、当の日銀が投機筋を助けていたという笑えない構図があります。国債の高値買い取りと当座預金の一部にかかる0.1%の利息を稼ぐ必要がある訳です。

結果的に日銀の国債買い取りは過去最高になっており、民間銀行の共担オペ入札で国債市場はほぼ流動性を失った訳ですが、これも痛し痒しで、逆に規模の小さい市場ほど少ない手持ち資金で市場を動かしやすくなりますから、日銀による国債爆買い以上の効果は見込めませんし、銀行も金利上昇による追証追加を迫られるリスクを負う訳で、やり過ぎが銀行を追い込むことになり、それが民間融資を圧迫する可能性もあります。ただでさえゼロゼロ融資の期限で通常融資への借り換えのタイミングでの民間融資圧迫は愚策ですし、既に多くの銀行で貸倒引当金を積み増している状況です。企業倒産が増えることは間違いありません。

日銀の異次元緩和はこうした瑕をもたらす結果を見ればわかる通り大失敗なんですが、さりとて利上げに動けば国債金利の上昇で銀行の信用不安や国債利払いの増加で財政を圧迫したりすることから、急激にシフトという訳にもいかず、とりあえずYYC見直しから徐々に手掛けて市場にショックを与えない配慮が欠かせません。そんな難題を残して黒田日銀総裁は4月8日に任期満了で退任する予定ですが、後継総裁選びは難航してこうなりました。

日銀新総裁に植田和男氏を起用へ 初の学者、元審議委員:日本経済新聞
日銀プロパーで歴代総裁に仕えて陰で支えた本命とされた雨宮正佳副総裁の辞退で人選は難航し、結果的に民間人の学者として初の総裁ということで植田和男氏が浮かんできました。1998年から2005年まで日銀審議委員を務めており、金融政策に明るいとはいえ速水総裁時代のゼロ金利解除で反対票を投じるなどしており、異次元緩和の見直しがどれだけ進むかはわかりませんが、日銀も財務省も後始末の困難さはわかっているので引き受け手がいないというのが実際のところです。学者先生に弾除けになってもらいたいというのが本音でしょう。でも財政拡張は続きます。
経済力こそ国防の基盤 財政政策と国債増発の行方 鎮目雅人・早稲田大学教授:日本経済新聞
防衛費の財源問題が与党内で論争となっておりますが、税であれ国債であれ国内の経済資源を費消することに変わりはない訳で、国民に我慢を強いることにまります。それなのに防衛費増の必要性に関して腑に落ちる説明はなされておりません。はっきり言いますが、アメリカの歴代政権が日本に求めてきて日本の歴代政権がぬらりくらりかわしてきた宿題に対する満額回答をした訳です。

アメリカの国内世論の分断で支持が盤石とは言えないバイデン大統領にとっては外交成果となる一方、日本には財政負担のみならず、例えば島嶼部防衛の名目で南西諸島の陸自配備を決めたら米海兵隊がついてきたということで話が違うと現地は大騒ぎになっていますが、財政以外でも国民に我慢を強いる訳で、どっち向いて政治やってるんだって話です。そもそも台湾は日本もアメリカも国家承認していないので、中台で紛争が勃発しても内戦ですから集団的自衛権の対象にはなりません。この辺のウクライナとの事情の違いを無視しての軍備増強は少なくとも日本にとっては何のメリットもありません。敢えて言えば日米同盟増強による核抑止力の恩恵ぐらいです。

またウクライナでNATO軍が参戦しないように、敵が核保有国の場合アメリカとしては参戦が躊躇される訳で、核保有国の中国と直接交戦は避ける筈です。そうなると反撃能力として日本に配備したトマホークはインテリジェンスをアメリカに依存する限りアメリカの都合で発射ボタンを押される可能性はある訳で、アメリカの参戦は議会が決めることで大統領は助言するにとどまりますから、議会のせいにして中国に対しては日本がやったことにして参戦をためらうことになれば自国兵士を傷つけることなく中国を叩くことができる訳です。そうならないと確約できるのか。日本の自衛隊の指揮命令権が事実として機能しない可能性を否定できない現実があります。

という訳で経済力が落ち目に日本は防衛力強化の前にやるべきことがる筈ですが、デタラメばかりです。例えばこれ。

大阪万博、背を向けるゼネコン 採算低下で入札不成立:日本経済新聞
公共事業の不調は今に始まった話ではありませんが、再来年開催予定の大阪万博に暗雲が漂います。というのも資材費の高騰に加え台湾半導体メーカーTSMC熊本工場建設で熊本県菊陽町が大騒ぎになっており、関連企業を含め企業の投資意欲が旺盛でゼネコンにとってはおいしい状況にある一方、慢性的な人手不足、更に働き方改革の猶予期間が終わる2024年問題、五輪の費用膨張に対する国民の怒りで予算増額ままならず、夢洲の軟弱地盤も,、翻翻、ハネた~_~;。

なにわ無くとも江戸村先五輪ですよから巡り巡って大阪万博のパビリオン建設が進まず工期が迫れば尚のこと入札は難しくなります。うめきた新駅は来月開業しますが、乗り入れ予定のなにわ筋線は未だに事業着手もされず「なにわ無くとも大阪万博」どころか大阪府、大阪市の見通しの甘さからゼネコンにそっぽを向かれている状況です。府や市は国が何とかしてくれることを期待しているようですが、五輪の躓きが行く手を阻みます。

五輪談合、組織委元次長ら4人を逮捕 独禁法違反容疑で:日本経済新聞
コロナ禍の五輪で無茶やったから国も動きにくいし、防衛増税の議論で万博どころじゃないというところでしょう。いや忘れた頃にこっそりやらかす可能性はありますので、国民として開始は怠れません。ホントいい加減にせい!

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Saturday, February 04, 2023

無視されるシャドーワーク

オーストリアの社会評論家イヴァン・イリイチ氏の造語ですが、子育てを含む家事労働など賃金を伴わない影の労働を名付けたもので、欧州発のベーシックインカムの議論の基盤となっている考え方です。ここから敷衍されるのが、子育てに対する公的支援の在り方です。

絶望の少子化対策怪運国債依存症でも取り上げましたが、生産年齢人口の減少に伴う労働力減少を補う意味では子育て支援は寧ろ逆効果です。15~64歳の生産年齢人口の減少が急速に進行中ですが、現役四大卒で言えば頭の7年は学生で、せいぜいアルバイトで労働参加する程度ですから、労働力として実働する22歳以降から実際のキャリアがスタートする訳ですが、女性の場合は出産年齢が30代半ばまでとして、子育てを含めると20代30代は出産と子育てで手を取られます。これつまりシャドーワークが労働参加後のキャリア初期にバッティングする訳です。

更に大学等の学費高騰で教育費負担が来る40代も厳しいとなります。結果的に女性の多くがキャリアを中断して子育て後の復帰で地位保全されるケースは少なく、パートなどの補助的業務で低賃金を余儀なくされるという流れがあります。つまり女性は端からハンディキャップレースを強いられている訳です。加えて40代半ばからは高齢の両親の介護がのしかかる訳ですから、キャリア後期もシャドーワークを強いられる訳です。

1世代25年として50代で親が後期高齢者になるということですね。これらに対する経済補償としてのベーシックインカムというのが本来の議論です。新自由主義者が言う社会保障の一元化とは全く異なる考え方ですが、その意味で今国会で議論されている児童手当に所得制限を設けないのは当然となる訳です。

但し経済的に補償されれば済む話かと言えばそうではない訳で、シャドーワークの賃労働とのバッティングという問題は付きまとう訳です。加えて少子化対策としては殆ど無意味ということは重ねて指摘しておきます。育児に希少化する労働力が割かれる訳ですから、当面の労働力居不足は寧ろ深刻化します。これは保育園などの育児支援サービスも人手不足は避けられませんから、結局子育ての負担は増すことに変わりはありません。故に少子化対策としての効果は見込めません。故に「異次元の少子化対策」はあり得ません。

「育休中のリスキリング」発言 野党が岸田首相を批判:日本経済新聞
という訳で岸田首相の発言が炎上した訳ですが、シャドーワークとしての育児という実態を知らないということは、子育て支援の本気度もその程度ってことですし、寧ろ少子化対策にならないなら予算を削ろうという話にもなりかねません。子育て支援はシャドーワークに対する補償であるべきです。加えてリスキリングは学びなおしによるキャリアの乗り換えですが、当然コストもかかりますし、労働参加の空白にもなります。それを与党議員のおそらくやらせ質問で答えてしまうということは、原稿は官僚が作ったとして政府も与党議員もその程度の認識しかないということです。
少子化対策「N分N乗」案 茂木氏が紹介、維国導入訴え 子ども多いほど税軽減:日本経済新聞
フランスなどで採用されているという触れ込みですが、これも愚策。フランスの場合受け入れた移民が主たる受益者で、公式には移民政策を採っていない日本には当てはまりませんし、効果は知れており、出生率も人口増加ラインの2.07に遠く及びません。移民を引き付けて労働力不足を補う効果はありますが。

という訳で労働力不足は結局資本装備による労働代替が必要なのは繰り返し述べてますが、注意が必要なのは資本の質が問われるということです。例えばデジタル投資ですが、アメリカでもGAFAMの人員削減が止まらない状況ですが、巨大ハイテク企業の収益性は例えばアマゾンで言えばユーザーが勝手にポチってくれるから店舗無しでコストをかけずに高収益を得ている訳ですが、その結果ユーザーにシャドーワークを強いているとも言える訳です。グーグルやフェイスブックなども広告をスキップする手間をユーザーに強いているという意味では企業がユーザーにシャドーワークを移転してコスト負担を免れているという側面んもあります。

企業のみならず例えばコロナ対策で立ち上げたHERSYSという通知システムは入力項目が多すぎて医療現場に負担を強いており、それが医療逼迫をもたらすという本末転倒が起きていますし、マイナンバー付与で済むはずのマイナンバー制度が下手に高機能なマイナンバーカードを作ってセキュリティ問題を抱えたりということも同様ですが、申請手続きが煩雑な上、セキュリティのために二重パスワードが要求されたり紛失時の再発行に時間がかかったりで、国民視点でメリットは皆無です。

バスの細道で取り上げた京急ポニー号のデマンド運行見直しによるコストの引き算での値下げという視点も必要です。というのは資本装備は維持費がかかるということで、減耗する固定資本に沈む夕陽で示したように、資本装備を増やせば済む問題じゃない訳です。例えば新国立競技場のように低稼働で赤字となる施設を作っちゃったことは反省点です。その意味で取り上げたいのがリニア問題ですが、週刊ダイヤモンドでJR東海の迷走ぶりが特集されてます。その中の記事です。

JR東海「上から目線」でリニア沿線住民から総スカン、葛西イズムと国益至上主義の無神経:ダイヤモンドオンライン
オンライン記事は会員限定なので、全文は図書館で読んでほしいですが、川勝知事の前任の石川知事時代からの確執を川勝知事が引き継いだもので、故人となった葛西名誉会長の「上から目線」の無神経発言が発火元ということで、残されたJR東海幹部も対応のしようがないのが現実です。そしてこれ。
JR、鉄道回復8割の壁 本州3社の収入コロナ前戻らず:日本経済新聞
これつまり東海道新幹線の需要逼迫というリニア建設の必要性が消えたということです。加えて言えば元々厳しいリニア開業後の収支見通しも赤字必至ということでもあります。加えて地上コイルや車上の超電導コイルのメンテナンスなど未知のコスト負担もありますから、今からでも遅くはないんで、見直しすべきでしょう。とはいえ「皇帝」と言われ異論を述べると干されてイエスマンばかりとなったJR東海の今後は茨の道です。

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Saturday, January 28, 2023

災害は忘れた頃に

バスの細道で取り上げた人口減少時代の資本装備問題のケーススタディにしたい事例です。

最強寒波 ポイント凍結で列車立ち往生、JR西見通し甘く:日本経済新聞
台風直撃予報で計画運休を業界に先駆けて実施したJR西日本にとっては痛恨の判断ミスですが、積雪10㎝を判断基準としていて気象会社の予報が積雪8㎝だったからということのようですが、当然予報は予報で上下にブレるのは普通のことです。せめて予防的にポイント融雪器に火を入れて間引き運転していたら、ここまでは混乱しなかっただけに判断の甘さは問われます。

但し融雪器といっても要は下に仕込んだカンテラに灯油を注して点火するという作業が必要になり、それを始発前の時間帯に行う必要がありますが、保線作業員の募集は年々困難になっており、雪だからと動員かけても集まらなという事情もあります。故に早めの決断が必要だったにも拘らずできなかったということですね。

特に構内配線が複雑な京都駅や湖西線分岐駅の山科駅、車両基地のある向日町駅などでの作業量は膨大ですし、当然コストもかかります。同じJR西日本でも豪雪地帯の北陸や山陰では電気融雪器でスイッチonだけで済みますが、降雪自体の少ない近畿圏ではコスト面からカンテラ融雪器で対応している訳ですが、少なくとも京都駅など運行上の急所となるところの電気融雪器設置は考える余地はあります。

加えて間引き運転もしていなかったので、15本もの駅間立ち往生が発生し、しかも1時間後には乗客を線路に降りして徒歩誘導するという内規がありながら積雪した線路の乗客誘導の困難さを嫌ったのか、運転再開に拘って乗客を長時間閉じ込めたことも重大な判断ミスです。結果的に少なくとも16名が気分が悪くなって救急搬送されることになりました。初動のミスは尾を引きます。

雪といえば東海道新幹線の関ヶ原も難所として有名で、開業後の運転障害の多くが関ヶ原の雪が原因ということで、当時の国鉄は現地の地下水の水利権を買ってそれを水源としたスプリンクラーを設置して融雪するという方法で対応しており、今回も1時間半ほどの遅れで運転は継続されています。2時間以内の遅れなので特急券払い戻しはなく、JR東海としては想定内の出来事だった訳ですが、国鉄時代の遺産に助けられているだけながら、備えの大切さは教えてくれます。

東海道新幹線では2000年豪雨で大失態をやらかしてまして、台風直撃で天白川などの都市河川の氾濫で線路の冠水などで運行が困難になる中、当時の葛西敬之社長の判断で列車運行継続の指令が出された結果、多数の列車が立ち往生して列車内で夜明かしという事態になりました。鉄道会社としては列車を停める判断はしにくいでしょうけど、ある意味民営化のマイナス面という見方もできます。

東海道新幹線の関ヶ原ルートの裏話として岐阜羽島駅と大物政治家大野伴穆の関係などが言われますが、実際は関ヶ原ルートは国鉄が決めたもので、比較ルートは旧東海道に沿った名古屋―京都直結ルートでしたが、鈴鹿山地越えの土被り1,000mの長大トンネル工事を回避するためと、北陸連絡で米原を通すことなどの判断で、現行ルートが選ばれ、関ヶ原の雪対策として手前に駅を設置して運転抑止時の列車収容を狙ったのが岐阜羽島駅ということで、下り副本線が2線になっているのはそのためです。同様に米原駅では上り副本線が2線になっていて、ある程度雪対策は考えられていたものの、開業してみれば運転障害の原因として問題視されてスプリンクラーが後付けされた訳です。JR西日本が今回の失敗をどう総括するかは目を離せません。

工期を意識したのは1964年の東京オリンピックに間に合わせて開業させるという世界銀行の融資条件から工期が5年しかなかったことが決定的だった結果の判断ということで、当時の国鉄は事業の実現可能性を高める現実的な判断をしたことになります。その意味で難工事が予想されていたJR東海の中央リニア南アルプスルートの選択は敢えてリスクを取ったとは言えますが、資金繰りの都合で2017年名古屋開業を目指すなら難易度の低い伊那谷ルートを選ばなかった判断の妥当性には疑問符がつきます。加えて東海地震等に備えて二重化による強靭化対策という面でも疑問符がつくニュースがこちらです。

寒波覆う、新名神の立ち往生解消 北日本で局地的大雪か
積雪予想で中日本高速道路は迷信の通行止めを決めたものの、その結果新名神にクルマが殺到してこちらも積雪で動けなくなった訳で、二重化による強靭化が如何に無意味かってことですね。つまりJR東海にとっての中央リニアは他社の参入を防ぐ以上の意味があるのかという疑問がが湧きます。

リニア60年のウヨ曲折で取り上げた金丸信の鶴の一声の乗った山梨リニア引受の結果、後戻りできなくなっただけとも言えます。加えて難工事の南アルプスルートを選んでしまった失敗は重大です。岐阜羽島のような駅も設置できないから静岡県を黙らせるネタもないし、一部で言われる静岡空港新駅は掛川駅と近すぎて事実上不可能ですしね。寧ろ国鉄の都合で決めた岐阜羽島駅設置を大野伴穆代議士の手柄として花をもたせた国鉄の方が柔軟な対応をしたとも言えます

同様の問題は北陸新幹線延伸問題でも起きていますが、実現可能性の低い小浜京都ルートで恩恵のない滋賀県の湖西線が並行在来線として切り離し対象となっているというのは、どう見ても滋賀県の同意は得られませんし、やはり長大トンネルや京都市街の大深度地下工事など難工事だらけで費用便益比(B/C比)にも疑問が残るしで、JR西日本も自社の権益を最大化したいだけという意図が見えます。国鉄分割民営化の弊害が色々見えてくる現状です。

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Saturday, January 14, 2023

怪運国債依存症

色々ヤバいニュースが多いですが、年末に勝てないのはコロナだけじゃないで取り上げたコロナ感染は案の定拡大しています。特に死者数の多さには怒りを覚えます。

コロナ死者最多520人 国内20万3361人感染:日本経済新聞
第8波と言われる今の感染拡大ですが、遺伝子検査では第7波と同様 BA.5 が主流で、第7波の残りの性格が強いのですが、昨年コロナは万病の素らしいで指摘した問題は何も解決されない中で、大きく変わったのは、第7波が主に家庭内クラスター感染だったことで、家族単位での隔離で感染が止められた一方、今回は医療従事者や老人看護施設などでのクラスター感染が多いのが特徴です。

家庭内クラスターならば当該世帯の自粛で感染拡大は止められますし、リスクの多い子供のワクチン接種も親が接種を済ませることで子どもは接種無しでも感染リスクを減らせるということもあり、加えて公的な感染者数の全数把握も、出来ていたかはともかく、国民の行動自粛を促す指標になっていた面はあります。

それを止めてしまった今回は行動自粛の指標を失い警戒が緩んだ面はあります。その結果コロナ感染者の発見が遅れて手遅れになってから救急搬送されて医療関係者にクラスター感染をもたらし、医療と関連の強い介護施設でも同様の状況が起きている訳です。つまり収束しきれなかった第7波の残り火なんですが、そのタイミングで主にアメリカで発生した XBB,1,5 のが国内で確認されており、感染力は在来種の20倍とも言われ既

絶望の少子化対策で人口減少が国力を低下させる現実を指摘しましたが、繰り返しますが、生産年齢人口の減少で労働力も購買力も減って成長どころか収縮へ向かう局面での少子化対策は寧ろ現役世代の負担になるということを述べました。誤解のないように少子化対策としてではなく子育て支援は国民の権利の実現という意味で必要なことで、少子化対策と切り離して議論すべきですが、同時に生産性向上も省力化投資が中心ということも述べました。規模の経済を狙う大規模投資よりも、既存のリソースを活かした新たな付加価値の創出が大事ってことです。リニアよりぬれ煎餅です。

加えて言えばこうしたタイミングでの軍備増強は最悪です。実際失敗した国があります。ロシアって言うんですが。ソビエト解体後の核装備を継承して軍事大国のイメージが強いロシアですが、ことロシア人に限って言えば少子化による人口減少が急で、チェチェンなどの元々の少数民族とソビエト時代の強制移住でロシア領内に住む他民族を含む多民族国家故にロシア人以外で人口が増えてバランスしている状況で、ウクライナ侵攻でもチェチェンのカディロフ首長が率いる部隊や民間軍事会社ワグネルの関与抜きにはできなかったですし、ロシア正規軍の劣勢に見るように、元々人口が減っていて兵力が低下していることが明らかになりました。それでいて軍事作戦もデタラメです。

[FT]ロシア軍幹部への批判強まる 砲撃で死者多数:日本経済新聞
弾薬庫は敵の攻撃能力を削ぐ意味で攻撃の評手ににされやすい訳で、隣に兵舎というのは常識外なんですが、それが出来ていない程ロシア軍が劣化しているのか、単に人命を軽く見ているのか、ロシアの場合あり得ますが、兵を失うのも損失です。こういう状況で戦争なんかやっちゃいけませんね。

で、日本ですが、防衛費増額の財源問題で与党内がゴタゴタしてますが、そんな中で国債の60年償還ルールの見直しという議論が出ているようです。

国債60年償還見直しに慎重 鈴木財務相「信用に影響」:日本経済新聞
元々法律で認められているのは建設国債においてで、単年度主義の公会計では建設工事が複数年度にまたがる公共インフラの場合一括計上は困難になるため、建設国債を財源に充てることが認められており、その償還ルールが60年償還ルールですが、90年代半ば以降の金融危機その他の財政需要を賄うために特例国債と言われる赤字国債にも援用されるようになったもので、毎年度既存の赤字国債を借り換える措置を予算化して予算関連法で合法化するという手続きを踏んでいます。

その結果歴代政権で踏襲された国債借換え費として膨張し、23年度予算では16.7兆円にも及びます。建設国債の対象となる公共事業費は6兆円程度ですから完全に逆転しています。喩えて言えばいろいろ物入りだからローン組んで凌いでいる状況ですが、その結果膨張した借換え費を防衛予算に回せないかという語論が飛び出した訳です。新車買いたいから住宅ローンの支払い止めて自動車ローンに回せという議論で空いた口がふさがりません。住宅ローンなら一括返済を求められます。

てことで国債依存にどっぷり漬かった日本ですが、そんな日本の国債市場に異変が起きております。

長期金利上限超え、一時0.545% 13日の国債購入5兆円に:日本経済新聞
異次元緩和で国債飼いまくって残高の55%を日銀が保有していて流動性が低下した結果、値動きが粗くなっております。つまり投機筋の空売りも仕掛けやすい訳です。YYCの持続性に疑問が持たれている状況で、いずれYYCの見直しは避けられませんが、そうなると異次元緩和で抑えられてきた国債金利の上昇は国債利払い費の膨張という形で財政を圧迫します。23年度予算では8.5兆円の利払い費が計上されておりますが、金利動向如何では倍増またはそれ以上もあり得ます。つまり今後財政がより窮屈になる訳です。

財政拡大を唱える人たちに言わせると国債は固定金利だから影響はないとか、9割が国内で消化されているから問題ないとか言われますが、固定金利は既発債限定で、今後発行される新発債の金利上昇は避けられませんし、国内といっても過半を日銀が保有してその他も銀行や保険会社などの機関投資家が保有していて、彼らにとっては国債は担保価値があるから簡単に手放せませんから、結果的に流動性が低下することになります。その結果投機筋に狙い撃ちされて評価額が下がれば担保価値も下がる訳で、そうなると評価損の引き当てが必要になり、ただでさえ低金利で利ザヤが圧迫されている中で利益を削ることになります。この点は日銀も同じですが。

あとありがちなのが所得の恒等式「所得=消費+投資+純輸出+政府支出」の右項の「政府支出」を財政赤字と勘違いしている議論です。この恒等式では財源を問題にしておらず、税収が財源の場合は所得の再配分を意味する訳です。所得は三面合一の原則でGDPと等価ですから、財政支出を増やせばGDPが増えると勘違いしている訳です。また減税も財政による再配分が無くなるだけですから、GDPを増やしも減らしもしません。これ経済学の常識です。

但し国債発行による財政支出の増加はGDPを増やす効果があります。というのは、国債は将来の税収を担保に発行されますから、国債の発行残高分だけ将来の税収を減らす訳で、これつまり給料の前借りのようなものです。その意味で日本は既に年収に2倍以上の前借りをしている状況ということで、将来の税収を取り崩している訳です。将来世代へのツケというのは将来GDPの先食いという意味でもあります。

そして人口減少の帰結としてGDPの縮減は避けられないとすると、将来世代の負担は重くなる訳ですね。今生きている年寄りはどうせそれまで生きてはいないから無責任なことを言うのかもしれませんが、若い人が同調するのは不思議です。という訳で、国債依存もそろそろ限界というのが実際です。忘れてならないのは高橋是清が体張って守った財政規律を226の反乱分子による殺害をいいことに戦時国債乱発した結果、ハイパーインフレが起きたのは戦後復興の過程で経済が上向いてからです。財政出動で経済を支えろという議論も、結局国民にツケ回しすることにしかならないのは歴史の教えるところです。今の日本もいよいよか。怪しいウンコクサイ時代が始まります。

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Saturday, January 07, 2023

絶望の少子化対策

前エントリーの戻らない混雑 にも関連する問題ですが、政府や都が少子化対策を打ち出した新年ですが、釘を刺しておきたいと思います。岸田首相が新年記者会見で「異次元の少子化対策」に旧統一教会が名付け親の子ども家庭庁が中心にとか、家父長的パターナリズムが前提で欧米標準の婚外子の法的保護な眼中にないでしょうし、悪い冗談としか思えません。中身も児童手当の恒久化とか不妊治療の無料化とか、目新しいものはなく、どこが異次元なんだか。

加えて小池東京都知事が18歳以下への月5,000円の支給ですが、年間6万円ってことですね。東京都は合計特殊出生率が47都道府県中最下位であり、コロナ禍前は転入人口の増加による社会像で人口増加が続いていた訳ですが、コロナ禍で転出が増えて危機感を覚えた訳ではないでしょうが、子育て支援を強化して子育て世代に選ばれることを狙ったものということです。

しかし東京の出生率の低さは住居費の高さが一番のネックです。賃貸の賃料が高い上に分譲マンションの値上がりも続いており、子育て世代の年収では高根の花です。共稼ぎのパワーカップルならば何とかなるとしても、子供が出来たら手狭になるから郊外に引っ越すということも起こります。そう考えると年間6万円程度の支援では焼け石に水です。

加えて教育費の負担もあります。少子千万!でも取り上げましたが、教育費の負担、特に大学の学費の値上がりは、貧困世帯の子供の将来を閉ざします。子供を産み育てる環境は障害だらけです。それをどうにかするのではなく小手先で何とかしようということですから効果は期待できません。

そもそも少子化対策がなぜ必要なのか?ですが、人口減少を止めたいからなんですが、人口減少の影響は結局経済成長の制約要因になるから何とかしたいということになる訳です。成長のために子供を増やせって、人間は機械じゃないです。より重要なのは労働力として見込める生産年齢人口の減少が問題なんですが、こんなこと70年代から言われてきたことが実現しているだけの話で、これまで何の手も打たれてこなかった結果でもあります。

15-64歳の生産年齢人口の減少は90年代後半から起きている訳で、凡そ四半世紀で3,000万人減っており、年平均60万人という規模です。その結果労働力の投入量が減って供給制約となる一方、家計所得も国全体では減少する訳ですから、消費が縮小して需要制約も起こる訳で、需給両面の制約要因となって経済を下押しする訳ですから、ありきたりな成長戦略ではどうにもなりません。前エントリーの末尾でリニアを作る作業員の不足と完成後の利用客の不足を指摘しましたが、将にこれです。

そして少子化対策は、高齢人口を支える現役世代に更に扶養人口を増やして負担を増やすことにしかならない訳で、現役世代の困窮化はそれ自体少子化をもたらしますし、支えられる高齢者世代の社会保障圧迫で不満となるばかりか、それを見せられる現役世代の将来不安をもたらす訳です。それもこれも経済成長を前提とした対策故のミスマッチなんです。

労働力の投入量の減少を補うための移民受け入れも、年平均60万人もの穴を埋めるのは現実的に無理な訳で、唯一可能なのは資本装備を増やして労働力不足を補い、労働生産性を高めて現役世代の賃金を上げることで、1人当たりGDPの水準を維持することのみが可能なことです。仮に移民を受け入れるにしても稼げない国に行きたい外国人はいない訳で、海外からの転入人口を増やすことにも繋がります。

つまりリニアのような大規模インフラの整備よりも、省力化に資するデジタル投資など、労働生産性を高めて賃金上昇につながる投資を行うことが重要です。限られた労働力を例えば軍事部門に張り付けたり、国立競技場のように維持費が高く低稼働なハコモノを作ったりすることは何の役にも立ちません。

その意味でDX推進は総論としては良いのですが、国民にマイナンバーカードを持たせることなどは無意味です。これは栗鼠殺し?の論点ですが、そもそも国民の個人データを国が管理する必要はない訳で、本人に鍵を持たせて必要な時だけ本人の意思で使う形にすれば十分なんで、それならシステムの維持費も低廉で済みますし、情報漏洩のリスクも減りますから、セキュリティにコストをかけずに済みます。これ良い見本がが目の前にありますよね。中国っていうんですがコロナに敗けた国で示したように大量の国民データの処理には高いコストがかかります。

当然大量輸送に優位性がある鉄道にとっては存続が難しい時代ですが、新しい動きも徐々に出てきています。

無人駅、5割に迫る グランピングやエビ養殖に活用:日本経済
コスト削減のための無人駅化は進みますが、その結果不要となった駅舎や隣接する土地の活用の事例が少数ながら出てきていることです。コストダウンだけだといずれ支え切れずに廃線ということもあり得ますが、駅を別の用途で活用して人を駅へ呼ぶとか、地域の必要なインフラにするとかですね。

これだけでどうにかなる訳ではありませんが、発想としてはローカル線のプラットフォーム化とでも言いますか、ローカル線の存在を前提とした地域ならではの付加価値創造が可能ならば、そこで得た富でローカル線の赤字補填も現実的な話になります。グーグルやフェイスブックがサービスは無料提供して広告費で稼ぐみたいなものをイメージすればわかりやすいと思います。

加えてえちぜん鉄道や岳南電車で取り組む電力託送事業とか銚子電気鉄道のぬれ煎餅とかもこのジャンルに入ると思いますが、更に駅に充電しテーションを併設してEVレンタルとか地域5Gシステムを構築してリモートワーカーを集めるとか、アイデアはいろいろあると思いますが、重要なのは地域の特性を生かした他にないものを生み出せるかどうかだと思います。その結果地方の人口減少が止まれば、中長期では人口減少の底打ちにもつながります。まあそこへ至るには時間がかかりますが、どのみち子供が増えたところで労働力となるのは20年後とかですから、回り道のようで有効性は高いと言えます。こうした構想が出せるならば「異次元」と言えるかもしれませんが。

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