非対称な日米協調介入
前エントリー*1冒頭で取り上げた為替の日米協調介入について報道が出そろいました。時系列に沿って振り返ります。日本時間の7月31日早朝に第一報です*2。ドル円164円を窺うタイミングでの日銀の円買い介入ですが、ほぼ同時にNY連銀によるレートチェックが行われたこともあり、相場は大きく動いて157円台を付けました。相場はすぐに158円台から159円を窺う水準に戻りましたが、米財務省の異例の円買い介入の予告もあり*3、その後も日銀は波状介入する一方、米NY連銀はユーロ売り円買いで呼応しました*4。日銀の介入資金もFIMAレポ・ファシリティーズという外国政府等への国債担保のドル融資という枠組みを用い、NY連銀もドルを売らずユーロを売って円を買うという異例の動きです*5。
国際決済通貨ドルの信認を守るために、ドル資金の調達に行き詰まった外国政府等を救済する枠組みのFIMAレポですが、金融危機等の非常時に備えた枠組みで、1998年のアジア津優香機器時に東南アジア諸国の救済などで発動されましたが、今回はそれに匹敵する危機感がアメリは側にはあったってことです。円安なのに高市政権の積極財政姿勢は変わらず、日本が大量保有する米国債の売却を止めたかったってことですね。その結果日本はドル建て借金で為替市場にポジションをとるというリスキーなことをしでかしました。しかも波状介入で総額11.7兆円相当の介入です。介入資金はいずれ返済する訳ですが,その時にはドルを買い戻すことになる訳で、タイミングによっては為替差損が発生します。
一方のアメリカはドルではなくユーロを売って円買いした訳で、保有外国通貨の振り替えにすぎませんし、規模も1兆円程度と少なく、協調介入と言いながら非対称です。加えてECB理事の一部からは「聞いてないよー」のクレームも。それでもそれに乗らざるを得なかった日本がアメリカにせがんで実現したものではあります。そしてタイミングを合わせたように食品消費税減税の閣議決定です*6。年間5兆円の財源が必要な一方、効果は国民1人当たり年間3.6万円の減税と限定的ですし、インフレで実質便乗値上げは確実ですから、国民負担の軽減にはほとんどなりません。しかも財源に外為特会活用とか、本当に何もわかってないです。
今回の円買い介入で得た11.7兆円の円資金は外為特会の元入金調達で発行された政府短期証券の返済資金になります。利子や為替差益による剰余金は一定の会計処理後に一般財源に繰り入れられますが、とても年間5兆円レベルに達しないどころかFIMAレポのドル債務の利払いや為替リスクで減額の可能性すらあります。つまり財源にはならない訳です*7。てことでアメリカからも日本の財政悪化にクレームつけられてます*8。アメリカの財政を滅茶苦茶にしているトランプに言われるのは大概ですが、今回の協調介入が決して日本を助けた訳じゃないってことです。それなのに日本の危機感の無さは本当に心配です。
それでも円安是正が必要ということは理解しているようですが、繰り返しますが30年にわたる日本の交易条件の悪化が円安の構造的原因であって、それに対する対策は何もない以上、これからも過度な円安をアメリカに泣きついて助けてもらうしかないってことですね。そして円安はいろいろな弊害をもたらしてますが、一番の問題は外需依存の大手企業にとっては円安は最終利益のかさ上げになることから危機感が乏しいことでしょうか。そのために例えばEVで後れを取っている現実があります*9。
似たような話は鉄道でもありまして、例えば台湾高速哲翁の増備車で2回にわたる入札不調です*10。新幹線輸出のほぼ唯一の成功例と言える台湾高速鉄道で旺盛な需要で増備車投入が決まり、JR東海700S系ベースの700ST系で入札したものの予定価格を上回るということで2回の入札不調が続き、結果的には円安に救われたという事例です。台湾高速鉄道は開業までにいろいろありまして*11、欧州連合が受注して線路や信号システムは欧州方式で作られた一方、地震の多い台湾側の意向で日本の新幹線方式に変更された結果、車両はJR東海700系ベースの台湾向け車両ながら、信号その他のシステムのすり合わせに手間取って、JR東海が技術者を引き上げるといった顛末もありましたが、在来線直通を考えなくてよいことから何とか開業にこぎつけました。しかしこの経験はその後に生かされませんでした。
仏TGVや独ICEなど最初から高速新線と在来線を直通させるシステムとしたのは、元々在来線も4ft8in・1/2(1,435㎜)の国際標準軌だったということもありますが、日本の新幹線が在来線と異なる規格故にネットワーク形成がうまくいっていないことを反面教師とした結果です。日本が誇る有責事故ゼロも、独自規格の箱庭鉄道(GardenRail)故と容赦ない評価で、特に外国への売り込みではコスト面で有利ということをセールスポイントにしています。逆に日本の新幹線方式は高コスト故に各国の商談で連敗続き。特に中国の高速鉄道技術のキャッチアップもあってさらに不利になっている現実があります。石破政権で売り込みに成功したといわれるインド高速鉄道も、欧州勢の巻き返しで信号システムも欧州式とすることで、E10系の売込みに暗雲が漂っています。日本のメディアはあまり報じませんが。
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