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Saturday, March 18, 2023

田代の水は山をも越すが水に流せぬ大井川

箱根馬子唄ならぬリニア迷子唄^_^;。リニア60年のウヨ曲折の続編です。

リニア工事中の水量減解消、JR東海が静岡自治体に説明へ:日本経済新聞
上記エントリーでも取り上げた大井川の水問題での東電田代ダムの取水量調整でJR東海が東電と協議することを前提とした説明をするということですが、すんなり進むとは思えません。田代ダムは大井川最上流の田代にダムを作って導水管で山梨県の冨士川系の早川へ落として水力発電を行うという目論見で建設され1928年に完成した大井川水系では初の本格的ダムです。つまり元々田代ダムの水は古くから山梨県に送水されていた訳ですが、これが後年大井川で水利権争いの種になります。

早川電力は後に東京電灯に吸収され、更に電力国家管理で日本発送電に摂取され、戦後GHQ の日本発送電の解散命令で後に東京電力となる関東配電に引き継がれ今に至ります。こうした歴史過程もあって大井川水系では田代ダムのみが東電で他は中部電力という形になり、水力の一河川一社の原則から外れております。大井川水系は多数のダムが作られました。余談ですが大井川鉄道は元々電源開発のための鉄道として電力資本で作られたから、ローカル私鉄としては重厚な設備で整備されており、SL列車の運行が可能なのもそのお陰です。

そんな事情からダムの取水で大井川の渇水が問題視され、特に1955年に田代ダムの取水量が当初の毎秒2.92トンから4.99トンに増やすよう東電が静岡県に申請し、静岡県は流域自治体の同意を得ずに認可したために流域住民が反発し、東電や中部電力に河川維持放流を求める運動に発展し、住民の座り込みなど実力行使にまで発展する騒ぎになりました。特に山梨県で発電事業を営む東電の態度は頑なだったようです。1997年の河川法改正で河川環境の維持が義務化されたのを受けて2006年委解決しましたが、水利権問題の解決は半世紀を越えました。

といった係争の歴史を踏まえると、JR東海は将に地雷を踏んだ訳ですが、同時に東電も過去の係争の経緯から流域関係者の了承を前提に協議するとしており、静岡県は東電の協力の確約を求めているということで、JR東海が話をまとめるハードルは高いと言えます。そもそも東電が今償却前収支の赤字、つまりキャッシュフローの欠損という深刻な事態に直面しており、取水制限にすんなり応じられる状況にはありません。という訳ですから、まだまだもめます。

という訳で視界不良な中央リニア事業ですが、河川法改正が大井川の水利権問題の解決を後押ししたように、法律的に打開する可能性は考える余地があります。但しその前にそもそも中央リニア事業の法的位置づけがどうなっているのかについて、あまり取り上げられることはありませんが、問題を多数含みます。

事業の根拠法機は全国新幹線鉄道整備法(全幹法)ですが、元々国鉄が事業主体となる前提で作られた法律で、基本計画線の公示や整備計画策定のための調査指示、分割民営化後に見直され、所謂整備新幹線スキームと呼ばれ、鉄道建設・運輸施設整備支援機構が建設主体となって建設費を国と地方が負担し、事業者は受益の範囲リース料を30年間支払うこと公的負担を軽減する形ですが、中央新幹線に限ってはJR東海が建設主体となっており、公費の投入はない形ですが、そのことがJR東海に地元軽視姿勢をもたらした可能性はあります。

元々1970年に成立した全幹法は高速道路整備と並ぶ国土総合開発計画と連動した国土軸形成のための法律であり、地域開発に資することを目標としている訳で、その観点から見ればリニアのメリットを受けず大井川の水問題に留まらず環境破壊や事故災害時の乗客救援の責任まで負わされる静岡県が反対するもの無理もない話なんですが、死去した葛西名誉会長を筆頭に幹部の国鉄OBが国鉄時代のノリで事業を進めようとして静岡県で躓いたという見方は可能です。とはいえ現実的に静岡県内にリニアの中間駅を設置するのは無理ですし、国鉄流バーター主義では対応できない訳ですね。

加えて言えばそもそも中央新幹線は2011年にJR東海の発議で整備計画線に昇格したように、元々基本計画線の中でも優先順位の低い路線だった訳です。JR東海としては稼ぎ頭の東海道新幹線と競合する路線をJR東日本や西日本といった他社に参入されたくなかったという動機付けが強かったと思いますし、それ以上に一定のシェアを維持する東阪間の航空のシェアを奪って独占したかったということがあります。つまり全幹法を利用した輸送シェア独占を目論んだってことですね。

よく言われる国土強靭化策としての二重化の機能は北陸新幹線に託されており、また東海地震対策という意味ではリニアのルートはほぼ想定震災域に被っており、敢えて中央新幹線を急いで作る必要性は乏しい中で、リニアという技術革新を売りに国に認めされたという意味で、全幹法の趣旨をかなり逸脱した存在であるということになります。

東海道新幹線の輸送逼迫もJR東海ののぞみ増強や品川新駅開業などJR東海自身の追加投資によるもので、実際90年代には輸送量の伸びが止まって一度シェアを落としています。余談ですが日本の上場企業のPBR1倍以下、つまり解散価値以下企業の中にJR東海がリストアップされています。意外ですがPERの水準は高いので東海道新幹線へのてこ入れで資産価値が高まった結果、時価総額を上回ったってことでしょうけど皮肉な結果です。

二重化の観点から言えば来年敦賀まで開通する北陸新幹線の関西アクセスルートで揉めてますが、二重化の観点からは米原ルート一択です。特に難工事が予想される小浜京都ルートは事業費もかかるし整備期間も長くなるし、公費負担分の費用便益比(B/C比)が1を割ると予想される一方、距離が短く建設費も低廉でB/C比も2近く、また並行在来線の湖西線問題でも地元滋賀県との協議の可能性が高まります。三日月知事が唱える交通税も、近江鉄道支援に留まらず湖西線問題に備える意味があるとすれば、納税者に負担を求める滋賀県にメリットのない小浜京都ルートでは論外ですね。JR西日本はJR東海のリニアの躓きを学んでいませんね。

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Saturday, February 25, 2023

宇宙戦争は終わらない

ロシアのウクライナ侵攻直前の宇宙禍族露貧損で緊迫した状況を思い出しますが、結局戦争は始まり未だに続きている状況で、アメリカのインテリジェンス情報の正確さと共に、兵器供与の一方でNATOの参戦には至らない宙ぶらりんな状況は続きます。基本的にロシアが諦めるまで続くと考えられますが、可能性は低いと言えます。

プーチン氏、核戦力増強表明 ICBMや極超音速ミサイル:日本経済新聞
これつまりロシアが米本土に届く核ミサイルなどで戦略核戦力を増強するということで「大きな北朝鮮になる」宣言です。つまり核エスカレーションも辞さずということです。核共有されているNATOエリアも標的になる訳で、こうなると日米核共有を唱えた政治家の不見識が改めて問われます。

これが重大なのはロシアがソビエト時代に核の増強のためにウラン濃縮に励んで大量の未使用濃縮ウランを現時点で保有している事実があるからです。つまり気球騒動の中国が時間をかけて核増強しているより速いスピードで実現可能ということです。共に実現可能性は低いと思いますが、台湾有事より手前の時間軸の問題ということは押さえておきましょう。こうなると日本のサハリン2などロシアのLNG権益も見直しを迫られるかもしれません。

主権国家であるウクライナへ侵攻したロシアが問題なのは言うまでもありませんが、この戦争は穀倉地帯で天然資源にも恵まれ工業化も進みハイテク産業も優位なウクライナを巡る市場争奪戦という意味では帝国主義戦争と何ら変わらない訳で、ロシアを非難するだけでは問題は解決しません。一方ロシア軍の弱さも露呈しており、通常戦力だけで見ればNATOがもし参戦すれば数日で決着するレベルでしょう。

それが出来ないのはロシアの核の脅しが効いているということで、米バイデン政権は「第三次世界大戦にするつもりはない」と言い、ウクライナを支援しながらやり過ぎないように慎重に進めている訳で、核抑止力のリアルを示しています。それに引き換え日本の安全保障の事象専門家たちの「抑止力」の言葉の軽さは眩暈がします。

帝国主義戦争であるということは、所謂グローバルサウスと呼ばれる途上国の賛同は得にくい訳で、実際国連決議でも棄権などで中立を保つ国が多いのは致し方ないことですし、民主国家の普遍価値を唱えても、彼らから見ればグローバル市場で劣位に置かれ不利な交易条件を押し付けられるという意味では西側諸国も中国やロシアも変わらない訳で、どちらか一方を選べという踏み絵のような態度は寧ろ嫌われます。これは冷戦期の第三世界とも違う現実で、世界はバラバラになっているということです。

加えてリーマンショック後の世界的な金融緩和の結果インフレが止まらなくなり、先進国は日本を除いて利上げに動いている状況ですが、資源高やサービス価格上昇に伴う国内労働市場の逼迫でインフレが止まらす、とりあえず好調なアメリカでさえ賃上げが物価上昇に追いつかず実質賃金がマイナスになっている状況です。金融緩和のやり過ぎが原因ですから、当面景気悪化も避けられず、下手すればマイナス成長ということですね。

独裁強化で露呈した中国の成長の限界は失われた中国の始まりでも取り上げましたが、中国の成長が減速する以上に先進諸国のマイナス成長が米中逆転をもたらす可能性も視野に入れる必要があります。とすると軍事力は経済力で規定される以上、アメリカのプレゼンスも相対的に弱くなるということですが、防衛費増でアメリカに恭順の意を表せば安泰という構図も変わってきます。そして当のアメリカはといえば。

米中貿易、4年ぶり過去最高 日用品・食品など依存高く:日本経済新聞
気球の地政学でも取り上げましたがアメリカが問題視するのは中国による通信のバックドア設置であり、各種ハイテク兵器の性能向上でありという訳で、そのチョークポイントとなる先端半導体を渡さないことは重要ですが、一方で廉価な日用品の調達には製造拠点としての中国が欠かせないし、一方経済成長で国民の肉食嗜好が強まった結果、飼料用穀物は安価なアメリカ産抜きには成り立たないという双方の事情があって貿易拡大に至った訳です。

という訳で日米韓台のチップ4と呼ばれる半導体連合で日の丸半導体復活をぶち上げる日本ですが、アメリカが求めているのは中国への半導体関連の輸出を内外を問わず米当局に申請して許可を得ることであって、認められれば輸出は可能です。そして半導体製造に欠かせない露光装置の世界大手ASMLに立地するオランダも巻き込んでおります。しかもEUに諮らずオランダ政府と協定を結ぶ形になっております。これは先端半導体に欠かせない深紫外線(DUV)露光装置はASMLが独占しているからです。

というぐらいにエグイ対応をしていますが、大乗り気の台湾TSMLは最先端分野は台湾に残し中程度の製品を米独日に建設中の拠点へ移して最先端技術は手元に残しつつ各国の補助金はしっかり受け取るといういいとこ取りをしている一方、台湾有事には疎開先として活用することも見越して米アリゾナやドイツの工場は大規模なものになっておりますが、熊本県菊陽町のTSML熊本工場は小規模で主に近くのソニーセミコンダクタの画像センサー用のチップ製造への便宜で選ばれた立地で、半導体関連企業が我先に進出を競った結果地価3割アップで建設工事受注でゼネコンがお祭り状態で大阪万博パビリオン建設が進まないのは怪運国債市場の蓋でも取り上げました。というぐらい確かに半導体で盛り上がっておりますが、不便な熊本空港を巡って高規格の都市高速道整備とともに鉄道整備も動き出しております。

熊本空港アクセス鉄道、肥後大津ルートに 県検討委判断:日本経済新聞
いやホントお祭り状態ですが、日の丸半導体復活は微妙でもゼネコンのお祭りは当分続きそうです。なにわ無くともくまモン半導体。将にオバケ、空騒ぎのおバカにならないことを祈りましょう。

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Saturday, December 31, 2022

リニア60年のウヨ曲折

2022年も間もなく終わります。国鉄が浮上式リニアの開発に公式に着手したのが1962年ですから、今年は60年の節目だったのですが、現実のリニアは暗礁に乗り上げております。サイドバーで紹介している国商 最後のフィクサー葛西敬之:森功著 講談社刊で要領よくまとめられておりますが、静岡県の反対で静岡工区未着工だけではないリニアへの逆風は複雑怪奇な様相を呈しております。詳しくは後述しますが、葛西敬之JR東海名誉会長の死と、安倍元首相の死で流動化している政治状況が先行きを不透明にしています。

葛西氏の政治との関わりは深く、第二次安倍政権以降、官邸官僚の人事を巡って管政権、岸田政権にも引き継がれています。更にNHK人事への介入を通じたメディア支配もあります。加えて大広告主として広告出稿を通じた新聞、雑誌の言論封殺で、リニアを巡る不都合な報道は殆ど見られませんが、コロナ禍によるリモートワーク定着もあってリニアが見込むビジネス需要に陰りが見られる一方、JR東海の強引な姿勢が実現可能性を下げている現実もあります。

例えば大井川の水問題ですが、南アルプストンネルの湧水を全量戻すことで静岡県とJR東海は合意している筈ですが、JR東海の言い分はあくまでも工事衆力後の話で、トンネル掘削中の10か月ほどの期間は除外ということで「話が違う」となり静岡県が怒っている訳ですが、それをJR東海は「静岡県が無理難題を言う」として取り合いません。これは南アルプストンネルの構造からくる問題なんですが、山梨坑口から上り勾配で掘削すると、トンネル内の湧水は山梨県側へ流出する訳で、大井川へ戻すことは物理的に不可能ということです。

これは南アルプスルートでの建設を決めたことに由来する問題ですが、東西坑口を水平に結ぶと土被り3,000mにもなり、土圧でトンネル掘削自体が困難なため、東西両坑口から最大40/1,000の勾配をつけて最大土被り1,400mに抑える為です。山岳トンネルとしては大清水トンネルで1,300mの実績もあり、東海北陸道飛騨トンネルが1,000m以上の土被りの難工事の末2007年に貫通したことで、最短距離の南アルプスルートが選ばれたと言われています。しかし中央構造線をはじめ多数の活断層を横切る難工事が予想されていましたし、実際大井川の水問題もその1つではありますが、問題はそれだけに留まりません。

水問題については東電田代ダムで取水して山梨県側へ流す量が多く、その取水量を調整することで対応可能ではあり、実際JR東海からも提案されてますが、経産省の同意が必要で手続き上の難易度は高いです。加えて急岐な南アルプスの地形で大量のトンネル残土が出る訳で、それを運ぶダンプカーが通れる工事用道路の建設も、環境アセスメントをクリアするハードルは高く困難ということもあります。加えてJR老獪の高飛車な態度が県民を怒らせてきたということもあります。

加えて都市部の大深度地下工事を巡る不透明さもあります。仲良きことは美しき哉かな?で取り上げた調布市の陥没事故の影響で都市部の鉱区も着工が遅れています。こちらも事業主体の東日本高速道路の不誠実な態度が住民を怒らせており、簡単に幕引き出来る状況ではありません。また岐阜県工区の斜坑の落盤事故で死者も出してますし、神奈川工区など他の工区でも工事は遅れています。実は静岡県の反対がフィルター効果となって報道されていないだけで、巷間謂われるように静岡県知事が代われば解決とはなりません。

国鉄時代から開発が続けられた磁気浮上リニアですが、延長7kmの宮崎実験線で繰り返し試験を続けてきて、次のステップとしてより長い実験線が必要として宮崎実験線の延伸も検討されながら、将来中央リニア新幹線に繋がるという理屈で山梨に実験線が作られた訳ですが、金丸信自民党幹事長の意向が働いたと言われています。

一方で自民党林喜朗議員の後押しで運輸省と日本航空がHSSTという常電導リニア計画を持ち上げました。ドイツのトランスラピートのライセンス契約で目標最高速300km/hで、羽田空港と成田空港を結んで国内線と国際線の乗り継ぎを狙ったものらしいですが、シーメンスへのライセンス料支払い問題は会計検査院に指摘され国会でも問題になりました。日航が政府全額出資の特殊会社だったことからこうなった訳です。

結局日航は事業化を諦め、ライセンスは三菱重工へ引き継がれ、愛知高速交通東部丘陵線(通称リニモ)で実用化されましたが、最高速100km/hに留まります。しかし愛知万博の会場となった海上の森の丘陵地帯を抜けるルートはアップダウンが激しく、通常鉄道では整備が難しかったかもしれません。ちなみに最大勾配は60/1,000であり、磁気浮上でレールと車輪の粘着限界に影響されないからですが、逆に言えば中央リニアも60/1,000の急こう配を取り入れれば難工事は幾らか緩和された可能性はあります。

これ金丸信氏の鶴の一声で決まった山梨実験線をJR東海が引き受けるにあたって、中央新幹線が全幹法の基本計画線であることから、技術開発途上のリニアの実現可能性から通常の徹軌道式での整備も視野に入れた結果、粘着駆動の通常Y鉄軌道方式でギリギリ許容できるのが40/1,000ということのようです。つまり当初必ずしもリニアには拘ってはいなかった訳で、寧ろ東海道新幹線のバイパス線としてJR東海が一体運営すべきということで中央新幹線の権利を確保する目的だったようです。整備新幹線としてならばJR東日本に持っていかれる可能性があったことをブロックした訳です。

高速試験車300X系は中央新幹線を350km/hで走行する前提で設計されたもので、リニアの実現性への保険だった訳です。その成果は700系以降の新系列車に引き継がれてはいますが、隠れた意図があった訳です。それがリニアに傾いたのは技術開発の進捗が想定以上だったということに留まらず、日本の技術力を世界に知らしめるという葛西氏の右派的な思想によって目的自体がシフトしたことも指摘できます。

東海道新幹線の過密ダイヤは度々話題になりますが、実際には関西国際空港の開港や夜行高速バスの充実で輸送量が停滞した時期がありました。それを突破したのは品川新駅開業とのぞみ大増発によるJR東海自身の需要掘り起こしの結果であり、その原資は新幹線買い取りによる減価償却費の拡大と、その買い取り価格への政府へのイチャモンで認められたのぞみ付加料金の設備更新費用としての無税積み立て金です。

後者は買い取り価格の査定が減価償却されない地価部分が多くなることで設備更新が滞るという理屈で、長期運休を想定した設備更新の費用に充てるとしていましたが、認められると一転、長期運休無しでも設備更新は可能としてテヘペロしたりしております。JR東海の強引さや不誠実さを示す事実は事欠きません。

最後に森功氏の前掲書で示された仮説が、葛西氏が6年前に間質性肺炎で余命5年を宣告された直後に3兆円の財投資金受け入れを決めたのではないかということです。財投資金投入自体は当時の安倍首相の提案で、アベノミクスで中身がないと言われてきた成長戦略の目玉としてリニア大阪延伸の前倒しが検討され、税制優遇、補助金、財投資金提供の3案が財務省内で検討され前2者は法改正を伴い特に黒字企業のJR東海が対象となると日は安を浴びるとして財投案に落ち着いたということで、裏付け取材もされており、信ぴょう性は高いと言えます。お陰でJR東海がリニア事業を見直すことは困難になっております。

しかしこれが鈍器法定で取り上げたリニア談合事件のきっかけとなります。財投資金の投入で公共性ありと判断されて民間工事の談合事件として立件された訳です。当初立件は困難と言われましたが、リーニエンシー制度で大林組と清水建設が制裁を回避する一方、この2社と大成建設、鹿島建設とを分離公判で前2社を先に有罪化kていさせるという検察の公判テクニックで一審をクリアしております。とはいえそもそも難工事だらけのリニア事業でゼネコンも利益確保が難しく、こうした事件が発覚するのはある意味JR東海が見限られつつある結果とも言えます。日航HSSTの失敗とも通じます。

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Saturday, October 22, 2022

ドルは我々の通貨だが

1971年の米ドルの金交換停止、つまり米ドルが金の裏付けを失うニクソンショックの混乱で世界から批判を浴びたニクソン政権のコナリー財務長官がタイトルのような返答をしたと言われています。米ドルはアメリカの通貨だからどうしようが勝手、それで影響を受けるというのはその国の経済政策に問題がるからだ、ということですね。

昨今のドル高に対する批判を受けて、バイデン大統領や政府高官の発言が、ドル高容認、問題はその国の経済政策と異口同音に発せられており、ドル安の起点となったニクソンショックとは逆の局面で同じニュアンスなのが何とも。という訳で円安の不都合な真実を逆の視点で見てみようということです。

「多くの通貨、大きく変動」 G20財務相会議が議長総括:日本経済新聞
12~13日にワシントンで開かれたG20財務相会議で議長国のインドネシアが名指しは避けつつも、ドル高の影響が世界に拡散していることに言及したものです。というのも97年のアジア通貨危機の記憶があるからですね。

当時工業化で投資が活発だったアジア各国はドル建て債務を膨らましていた中で、クリントン政権のルービン財務長官の進言で強いドルは国益とするドル高政策が採られた結果、債務膨張して返済に窮した経緯があります。このときの経験から日本主導で外貨準備を融通し合うチェンマイイニシアティブという通貨スワップ協定が作られますが、アメリカに振り回された記憶は生々しく残っている訳です。ジャカルタ―バンドン間の高速鉄道プロジェクトが中国勢が落札し日本勢が敗れたなんてこともありましたが、日本勢がドル建ての資金計画を提案していたとすればそれが嫌われた可能性はあります。大国に振り回された歴史故に大国間のバランスを重視する姿勢なのかもしれません。

中国に関しては一帯一路の債務のわなが言われ、スリランカがz財政破綻に追い込まれたことがr取り上げられてますが、実際は債務に占める中国のシェアは10%程で、元々放漫な財政運営だったってこともありますし、元々一帯一路は国内消費が低調な中国で現高による余剰資金の活用策としての海外投資という側面が強かったので、新興国にとっては元高が債務を重くした側面もあります。そう考えると今のドル高とどう違うのかは微妙です。

加えて今回のドル高は資源高と連動しているので、資源輸入国には特に過酷ということもできます。原油価格こそ下がりましたが、石炭や天然ガスは高止まりしており、コバルト、ニッケルなどのレアメタルや肥料原料のリンなども値上がりしています。70年代の2度の石油ショックでは米ドルの下落がバッファとなっていたこととは様変わりです。特にウクライナ紛争のあおりで欧州のガス価格が急騰しており、逆にアジアは中国がロシア産LNGの輸入でアジア市場の需給は緩和してますから、欧州により過酷ということも言えます。ドル高放置はアジア危機以上の経済ショックを引き起こす可能性がある訳です。そんなアメリカに不満も言えない日本はといえばステルス介入のようです。

政府・日銀が円買い介入 7円急騰、151円台から144円に:日本経済新聞
前回と異なり今回は予告なしですが、政府としては投機の動きをけん制したいということでしょう。限られた外貨準備の中ではできることも限られますが、前回同様元に戻るのか確実ですから、逆に投機筋は介入の逆張りで円売りドル買いを仕掛ければ確実に儲かります。介入は寧ろ投機筋を呼び込むことになります。加えて介入資金として米財務省債を売れば米長期金利の上昇で日米の金利差が開きますから円安を助長します。
貿易赤字、4~9月過去最大の11兆円 資源高・円安響く:日本経済新聞
資源高をきっかけに貿易赤字転落ですが、その結果の円安が貿易収支をさらに悪化させ、9月の貿易赤字2兆円は所得収支黒字を相殺する水準で経常収支赤字まであと一歩の水準です。つまり実需に基づくファンダメンタルズを反映した円安ですから、介入は無意味です。打つ手があるとすれば日本企業の海外法人が抱える海外内部留保を国内送金して円買いを促すぐらいでしょうか。その為には国内で成長の種を見つける必要がありますが、栗鼠殺し?で指摘した行政DXのデタラメぶりを見ると無理かなと^_^;。

マイナンバーカードの問題点で言えば、マイナンバーを公的部門が管理する個人データへアクセスする為のキーとして紐付けすれば、各省庁や自治体などの個々のシステム自体はスタンドアローンで良い訳で、その方が特定個人のデータを不正に集める手間が増えてそれがセキュリティを高めます。それを本人が手元で管理することで、いちいち同意を得る手間が省けますし、仮に紛失してもマイナンバーの紐付けを停止して新たに発行したカード番号に紐付ければよい訳です。子供や高齢者も携帯するとすれば、これぐらいシンプルなシステムの方が使い易いしランニングコストも低い訳です。こういうシンプルな発想が出来ずに下手に高機能を狙って淘汰された国産携帯電話などなどこの手の話は枚挙に暇がありません。

どうすれば日本人の賃金は上がるのか (日経プレミアシリーズ)で著者の野口教授は日本ではイノベーションが起きず生産性が上がらないから経済成長できず、結果的に賃金が上がらないと容赦がありません。その原因の多くは制度に由来する市場機能の祖語にあるということです。ひょとしたら日本企業自身がそれを知っていて海外収益を国内投資に回せないという判断をしているとすれば、円安をもたらすファンダメンタルズの改善は絶望的に困難ってことですね。

思い当たるのは例えば東芝ですが、国内事業で利益が出ないから原発輸出で巻き返そうとしてウエスティングハウスを買収したら財務ボロボロだったとか、三菱電機や日野自動車の検査不正のようにコストセンターの検査部門に圧をかけて利益確保に動いたとか、まだいろいろありますが、国内事業で行き詰っていたことは間違いないでしょう。海外展開する製造業大手でこれですから、内需関連企業はさらに苦しいのかと思えば、実は電力、ガス、通信などの参入障壁のある規制業種の特に男性正社員の平均賃金が高いという分析があります。

これ交通事業もかつては地域独占を保証されておりましたが、鉄道は自動車や航空との競争環境で独占が崩れております。それでも動力車運転士のような免許業種では高賃金ですが、整備や保線などは必ずしも当てはまらず、それが例えばJR北海道や富山地方鉄道のような事故を繰り返す事業者を生み出すことに繋がるのでしょう。ちなみに富山地方鉄道は鉄道営業キロ100km余でほぼ東急と同等です。

段階的に参入規制が緩められたバス事業では90年代半ばからバスドライバーの賃金が顕著に低下しております。その結果ドライバー不足を助長し、大都市部を含めて減便や廃止が相次いでいます。また新免事業者の中には運行管理に問題を抱える事業者も見られます。そんな現状を示すニュース2つです。

長時間労働認める、処分へ 愛知の炎上バス運行会社:日本経済新聞
静岡バス横転、ブレーキ多用で過熱か 急勾配の「難所」:日本経済新聞
三位一体で原罪侵攻系で取り上げた名古屋のあおい交通の炎上事故で、長時間勤務を認め、運行管理に問題があったとして処分必至の状況となりました。クラブツーリズムの下請けの美杉観光の事故ではフットブレーキ多用によるフェード現象が原因ではないかと言われています。ドライバーが26歳と若く、このコースの乗務は初めてということで、経験不足が言われています。

下り勾配でのフットブレーキ多用の危険性はドライバーとして常識に属しますし。大型ディーゼルバスですからエンジンブレーキも強力ですし、補助ブレーキ装置として排気リターダも装備されている筈ですが、不慣れで活用できなかった可能性があります。需給調整規制の緩和で競争環境が生まれたことは悪いことではありませんが、そのしわ寄せがこういう形で起きるとすれば、交通事業の規制緩和は慎重であるべきでしょう。同時にMaaSなどで自動運転に期待がかかりますが、安全を担保するハードルは高いと言えます。世界的には交通事業への公的支援は半ば常識でもあり、独立採算の見直しも視野に入れる必要があります。

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Saturday, August 06, 2022

インフレなんだよ愚か者

米下院ペロシ議長の台湾電撃訪問が波紋を呼んでいます。米政府はペロシ議長に米国の台湾政策を丁寧にレクチャーしていたそうで、おそらく自発的に撤回して欲しかったと思いますが、対中強硬派のペロシ議長を翻意することには至らず、寧ろ秋の中間選挙で劣勢が予想され、下手打てばトランプ復権になりかねない危機感から、わかりやすい国民向けアピールを意識したのでしょう。実際政府は訪台自体を止めてはいないようです。

結果は中国による台湾周辺での大規模演習ですが、ペロシ氏が台湾を離れた4日からということで、事前通告されてましたし、規模の大きさは異常ですが、一応国際法上の手順を踏んで直接衝突を望まない姿勢を見せております。中国の本音はトランプ政権時代の中国ハイテク企業制裁や制裁関税など一連の中国敵対政策の緩和っを探ることですし、それ故にロシアのウクライナ侵攻の支援にも慎重です。またアメリカ自身も中国との全面禁輸を望んでいないし、実際2021年の貿易額は増えています。ウクライナ問題で手一杯のアメリカにとって、いま中国を刺激することは不利益でしかないのが現実です。

バイデン政権にとっても中間選挙で民主党が議会多数派の地位を失えば身動きが取れなくなり、ひいてはトランプ復権に至ることは避けたい訳ですが、コロナ問題で成果を上げても評価されず、寧ろ9%を超えるインフレで国民の不満が高まっている状況があります。インフレ退治はFRBの役割ですが、政府としてはガソリン税免除や対中制裁関税の解除ぐらいしか打つ手はない訳で、特に後者は国民世論を逆なでしかねないので手を付けられず手詰まりという状況です。

中国もアメリカ製半導体の供給制限で国内製造業が足踏みしている状況を抜け出したい訳で、更にセロコロナ政策で経済が停滞し、不動産バブル崩壊で内需を牽引してきた不動産業に暗雲という中で、アメリカとの対立は避けたいけど、流石に三権の長の台湾訪問は面子丸つぶれで国内世論が沸騰してますし、装備の増強が進む一方で協力案トップに頭抑えられている軍関係者のストレスもあり、ガス抜きせざるを得ない事情があります。故に今回のことが軍事衝突につながる可能性は低いですが、米中どちらも国内しか見ていない危うさはあります。

てことでEEZにミサイル落ちたと騒ぐ日本は自重した方が良いし、どちらも外せない経済的パートナーなんだし本来米中の中に入って取り持つことが必要なのにアメリカべったりの姿勢を見せている点を危惧します。中国からは挑発にしか見えないですからね。一方でロシアに見下りは突き付けられたサハリン2には未練たらたらですが、ロシア産原油が中国やインドに流れてその分国際石油市場の需給が緩んだことから原油価格が下がっているように、仮にサハリン2の天然ガスが中国に流れたとしても、その分中国が最大の輸入国となったアジアのLNG市場の需給が緩和する訳ですから、寧ろ別の調達先を探した方が現実的です。それより国内に問題だらけなのを何とかしてほしいところです。

KDDIが開けたネットワーク社会の「パンドラの箱」:日本経済新聞
ちょっと前のニュースですが、重大な問題を含んでいます。通信トラブル自体はソフトバンクもドコモもやらかしてますが、KDDIの場合自動車メーカーとの関係が深いこともあり、カーナビなど携帯以外の端末も多数接続しているということでIoT関連での問題が意識されましたが、ルーター交換という半ば日常業務的なメンテナンスでのトラブルであり、当初音声通話の15分の遮断で復帰させる為に旧ルーターに戻したところ、遮断中の接続リクエストが集中して回線の輻輳が起きて音声以外のデータ通信にまで波及したと説明されてます。

こうした異常事態は起こり得る訳で、その為に欧州では他社回線に迂回するローミングが実現している訳ですが、日本では出来ていなかった訳です。一応検討は行われたようですが、119番などの緊急通報で回線が切れた場合にコールバックが困難ということで見送られたそうです。つまり他社回線を使うと緊急通報した端末を特定できないということです。これつまり通信事業者間で契約者情報が共有されていないということです。政府が事業者間の競争を促すあまり事業者の契約者囲い込みが影響していると見られます。携帯料金下げてドヤ顔の管さんあたりに責任あるんじゃないの。

それ以上に無線通信の脆弱性を明らかにした点が問題です。つまり日本にサイバー攻撃仕掛けるなら携帯基地局狙えば良いということを明らかにしてしまった訳ですから。企業ユーザーの中にはJALやJR貨物のように複数キャリアの回線を確保して対応したところもありますが,例えば自動運転など全てのユーザーが同様の対策を採れる訳でもありませんし、今後5Gの普及で工場の機械や建機など多数の端末が接続するようになればなるほどリスクは増します。

洋上風車欧州大手が日本工場建設保留 納入先の公募落選で【イブニングスクープ】:日本経済新聞
有望とされる洋上風力発電の1回目入札で三菱商事グループが安値受注で案件を独占したことから、急遽入札ルールが見直され、三菱商事排除の気配が漂いますが、その結果入札条件が厳しすぎるとしてデンマークの風力大手べスタスが日本国内の製造拠点建設を保留し、当面独シーメンスの代理店としての活動に留まることになりました。巨大風車や発電機は輸送コストが高くつくので現地生産が基本であり、欧州大手の進出はその意味で遅れている日本の洋上風力発電の推進役と期待されていたところを実績の乏しい国内勢のさや当てで潰す愚という意味で通信ローミング問題と通底します。
EVバス世界で快走、中国製席巻 日本は水素重視で出遅れ:日本経済新聞
中国のEVバスが世界で走っています、日本でも導入例が増えておりますが、水素重視で出遅れは嘘です。日本独自のホイールモーター方式の電気バス開発は早くから行われておりましたが、政府もメーカーもガン無視でいつしか立ち消えとなりましたし、トヨタのSORAより10年以上前から欧州産の水素fバスは走っておりました。欧州では水素=再エネ電力由来のグリーン水素ということで、化石燃料由来の日本の水素戦略とは別物で、細々とながらジワジワ普及しています。ある意味中国は欧州とすみ分けて市場を取りに行っている訳で、日本に足りないものが良くわかる話です。
火力・原子力「夏バテ」懸念 猛暑や水不足で出力減:日本経済新聞
気候変動で風が弱くなって風力発電の出力不足が言われて再エネは頼りにならないとか言われましたが、欧州の熱波で渇水による停止や水温上昇による出力低下で火力も原子力も役に立たないのが現実です。水の豊富な日本では考えにくいですが、化石燃料依存による経済社会の破壊は底知れません。日本でも線状降水帯による水害で大変なことになってます。安定の再エネ電源の筈の水力発電もいつまで頼れるか。

そういう意味で欧州の脱炭素は本気度が違います。再エネ中心のエネルギー自給にいま取り組まなければ未来はないぐらいの認識がある訳です。その意味でエネルギー価格の上昇は苦しいけれどパラダイムシフトのチャンスととらえてもいる訳です。勿論各国で温度差はありますが、一方でユニークな政策も打ち出されております。

車社会ドイツ、電車乗り放題券 インフレ対策で脱炭素も:日本経済新聞
ガソリンなど燃油高によるインフレ対策と脱炭素を組み合わせた政策としてドイツ国内の鉄度やバスなどの公共交通乗り放題定期券を9ユーロで売り出したもの。日本円換算で1,200円程度ですから青春18きっぷよりも安い上、連邦政府の財政支援で実現したところがミソ。つまり典型的なワイズスペンディング出あり、JR各社の割引サービスでは実現できないレベルの割引ですね。

NationalRail幻想で指摘した公金によるサービスの購入をやっている訳です。同時にイギリス以外の欧州も8%台の高インフレに悩まされており、インフレをカバーする賃上げ要求でストが頻発して経済に支障が出ている状況です。とはいえ賃上げはインフレを昂進させるスパイラルに陥る可能性もありますし、給付金なども需要を押し上げてインフレ圧力を高める訳ですから、政府によるインフレ抑止は難しい訳ですが、コロナ禍で利用が減った公共交通支援を兼ねてガソリン価格に負荷をかけず国民の福利を高めつつ脱炭素も実現するというんのは、流石緑の党が与党に入っているが故のアイデアでしょうけど、日本ではこういう議論はほぼ皆無です。英ジョンソン首相もインフレで職を失った訳ですし、インフレ対策は各国政府にとっては鬼門でしょうけど、アメリカでもコロナ禍で利用が激減したニューヨーク地下鉄で運賃値下げを行ったりしている訳で、打つ手がない訳ではありません。

てことで1992年の米大統領選に勝利したクリントン陣営のフレーズに倣って言えば It's the inflation, stupid. 「インフレなんだよ愚か者」

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Sunday, May 01, 2022

止まらないインフレと鉄道運賃

異次元円安が止まらない結果として必然的にこうなりますが、唯我独尊の黒田日銀です。

円安阻止より金利抑制 日銀、長期緩和抜けられず:日本経済新
国債金利上昇を抑えざるを得ないからこうなる訳ですが、財政ファイナンスを続けた結果、金融政策の選択肢を失っている訳です。当然円安は進みます。化石燃料以外にもニッケルやパラジウムなどのレアメタル類、化学肥料原料のカリウム等、小麦などの農産品と、紛争当事国由来の資源は枚挙に暇がなく、資源価格高騰と円安の相乗効果で輸入インフレは避けられません。にも拘らずインフレ退治より放漫財政の尻拭いに勤しむ日銀です。結果的に円安がますます進む訳です。
太陽光の電気落札価格、火力の半分以下 再エネに追い風 主力電源化には課題も:日本経済新聞
コントロール不能な構造要因によるインフレですから、回避策も構造変化をもたらすものが望ましい訳ですが、火力発電のコスト増の結果としてこういうことが起きる訳です。勿論再エネの有効活用には蓄電や系統電力の広域連携などの対策が必要なんですが、原発再稼働を前提とした送電線容量配分の固定化などで再エネ活用が進まないのは電気が足りない言い訳じゃないで指摘した通りです。

石油元売りに補助金配るよりも、こうした投資を進めることが結果的にインフレ対策に繋がります。ガソリン価格よりも電気代、ガス代の値上げの方が家計には負担になる訳ですし、国内投資をを後押しすることで経済対策としても効果があります。ガソリン価格に関しては家計支出の0.5-3.5%程度で、公共交通の利用度などから都市部と地方とで比率にばらつきがありますが、だからこそ目先のガソリン価格を抑えるよりも、地方こそ家庭用蓄電池を兼ねたEV普及を補助金で後押しするといった対策の方が望ましい訳です。

一方で公共交通はコロナの影響をもろに受けて苦しんでいる訳で、鉄道の場合原油高の影響は軽微ながら、元々大量輸送を前提とした装置産業の性格があるため、乗客減少は不採算ローカル線を維持する内部補助を困難にしますし、設備の維持費の捻出も困難になります。加えてテロ対策やバリアフリー対策など社会的に要請される投資も求められますから、現行の運賃制度の範囲では対応が困難になっています。故に鉄道運賃の制度改革が検討されています。

鉄道運賃変えやすく 国交省検討、時間帯で柔軟に ピーク緩和で投資負担抑制:日本経済新聞
国交省から審議会に諮問され、6月下旬に方向性をまとめることになっております。主な論点は現行の総括原価方式を維持しながら時間帯などによる柔軟な運賃設定を可能にすることや、コスト増による運賃改定の手続きの簡素化といったことになります。

現行の総括原価方式は、必要なコストを積み上げた原価に標準報酬率2&を上乗せした総括原価と運賃収入がバランスする水準の運賃の認可を受けるもので、鉄道事業者は収支見通しを示して申請し国に認可を受ける形となります。かつては収支見通し期間1年で、高度成長期のインフレに対応して改定申請が出されましたが、政府のインフレ抑制政策で値上げ幅を抑え込まれたりして、結果的に通勤ラッシュの混雑緩和のための輸送力増強投資が抑制されて満員電車が東京名物になる訳ですが、政府による価格統制の弊害でした。

それでは混雑緩和が進まないということで、私鉄による新線建設に対しては輸送原価増に対応した新線区間に対する上乗せ運賃が認められっるようになり、また線増などの輸送力増強策に対しては特定都市鉄道整備促進特別措置法、通称特特法で、認可運賃に10円程度の少額の上乗せ運賃を認めることで、輸送力増強投資を促進する狙いです。これ既に制度化され来年3月施行のバリアフリー新法も同様のもので、既にJR東日本の電車特定区間と東京メトロで導入が決まっております。

運賃制度はその後幾つかの変更が為されており、総括原価見直しのための収支見通し期間が3年に伸びて頻繁な改定を抑止する一方、認可運賃を上限運賃として軽微な値引きを届出で対応できるようにするといった柔軟化もありますが、同時にヤードスティック規制で事業者の経営努力を引き出す仕組みが組み込まれました。これはJR旅客会社、大手私鉄、大都市地下鉄、地方中小私鉄などの類型別に適正運賃水準を設定してそれを下回る事業者に対しては合理化努力などで生じる超過利潤の半分までの益金算入を認めるもので、コスト削減のインセンティブとする狙いですが、恣意性は否定できず、路線の立地条件によってバラツキますから、公平性は必ずしも担保されません。

運賃設定の柔軟性に関しては既に特急列車の座席指定料金の繁忙期と閑散期の価格差をつける形で実現しており、JR東日本などで最大300円の価格差をつけていますが、航空運賃並みに季節や列車毎に需要に応じた価格設定ができるようにというダイナミックプライシングの考え方の導入の可否が1つあります。一方JR東日本と西日本が要望しているのはオフピーク定期券のような仕組みで、時間帯をずらすことで割引運賃が適用される一方、制限のない現行の定期運賃は値上げするというものです。但し現行制度では定期運賃も上限運賃として認可されていて、それを越える値上げはできにくい仕組みです。

あと運賃改定の頻度を下げる目的の収支見通し期間3年というのも、コロナ禍のような予測不能な事態に対しては予測の困難さがある訳で、ある程度の乗客の戻りは予想できるとしても、完全に元に戻ることまでは見通しにくい訳です。その中で東急が上限運賃改定申請をし、近鉄がそれに続きました。見通しが不透明な中ですから、認可する側の国交省の判断も難しくなりますが、どういう判断になるか注目されます。

加えて地方ローカル線の存廃問題もあり、現行JR地方交通線運賃の水準では存続不可能な路線は今後も増えると思われます。JR西日本が乗車水戸づ2,000人以下のローカル線の営業益数を公表して物議を醸してますが、同水準の地方中小私鉄が維持されていることを根拠にJRの企業努力が足りないという議論は、運賃水準の違いを無視したものです。例えばかつて大野まであった京福越前本線が勝山以遠廃止された事例のように運賃差でJR越美北線に乗客が流れたとか、前橋―霧生間で競合するJR両毛線と上毛電気鉄道でもJRが輸送量だ圧倒しているとかということがあります。逆に言えば廃止を打診されたローカル線の存続のために運賃上乗せが認められるならば、ローカル線存続のメニューの1つにはなります。

という訳で、鉄道運賃も過去には政治に翻弄されてきましたが、今や寧ろ柔軟化などで自由度が増す方向に議論が進んでいます。オフピーク定期券の議論ではピーク対応の輸送力増強投資を抑制する狙いもある訳で、人口減少を睨んだ現実を踏まえれば、方向性としては鉄道運賃も上がる方向ということは避けられないでしょう。その意味でインフレは寧ろ事業者には好都合かもしれません。

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Sunday, March 27, 2022

電気が足りない言い訳じゃない

イントネーション次第でニュアンスの変わるタイトルですが、好きにお読みください。言うまでもなく今回の東電管内の電力非常事態の話題です。実は去年も電力需給逼迫はありました。電気が足りない訳じゃない去年の1月の極寒で予備率が低下した訳ですが、このときは東電が企業の自家発電電力をかき集めて対応した結果、電力卸市場(JPEX)の価格高騰で電力小売りの新電力各社に逆ザヤが起きて収支が悪化し、結果的に多くの新電力事業者が撤退に追い込まれました。大手電力のなりふり構わぬ振舞いがあった訳です。

今年は先日の福島県沖地震で東電と中部電力の合弁のJERAが保有する火力発電所の被災に季節外れの寒の戻りが重なったものですが、16日の地震当日には200万戸の停電が起きていまし足し、節電要請は避けられない状況ではありました。しかしコロナ同様国民に自粛を求める政府の危機管理のお寒い状況は指摘しておきます。そして22日は揚水発電フル稼働で凌いだものの、翌23日はそれ故に養親発電上部調整池の水量が戻らず危惧されましたが、結果的には天気が回復して晴れたお陰で太陽光発電量の増加に救われたということで、薄氷を踏む綱渡りだった訳です。

このドサクサで柏崎刈羽を動かせと発言する人が複数いましたが、この人たちはそもそも柏崎刈羽が何故動かせないのかを知らないのでしょうか。昨年3月24日に原子力規制委が東電に対して核物質防護に関して是正措置命令を出し4月7日に確定し、事実上の運転停止命令となっています。元々は20年9月20日の東電社員による他人のIDカードによる中央制御室へ不正侵入したことが21年1月23日に発覚し、規制委による甘い処分も問題視され、更に今日ry9億企業作業員が誤って侵入検知装置を壊したり安全対策工事が終わっていないことが発覚したりしたことが重なって、21年6月とされた再稼働手続きの保留を規制委が決めてという風に迷走したあげく再稼働が出来なくなった一連を無視しています。ニュース見てないのか、見て知っていて敢えてならば不誠実な発言です。

更に言えばロシアデカップリング進行中 で指摘した大規模電源のリスクこそが問題の本質だということを改めて申し上げたいところです。当たり前ですが大規模電源がダウンしたら出力カバーが困難なのは当然で、ウクライナでもザポロジエ原発のロシア軍制圧で給電が制限されて無差別攻撃されているマリウポリでは電気も水道も止まっていると言われます。大規模電源は安全保障上も弱点になりますし、今回の地震のように災害で被災した場合も弱点になります。そもそも柏崎刈羽も2007年の中越沖地震で全停止してそれ以来再稼働出来ていない訳ですが、当時も東電は節電要請で乗り切りました。

その意味で再エネによる小規模分散電源ならば一部が止まっても全体への影響は軽微で済みますからリスク分散になる訳です。実際上記のように23日の節電要請は天気回復により午前11時には解除されました。確かにお天気次第という不安定さはありますが、広域に分布する太陽光発電が全て雨天や曇天で発電できないという状況は考えにくい訳で、この点も分散電源に優位性があります。これらは単体での主tryく調整が困難という弱点を補って余りある利点です。

にも拘らず汗っかきと油売りで取り上げた九電ショックのように再エネの接続拒否が普通鵜に行われ、結果的に日本は再エネ発電のコストダウンも進まず再エネ後進国となっている訳です。余談ですがこの当時もロシアのクリミア併合に繋がるウクライナ危機がありました。加えてEUの国際送電網による送電である程度カバーされており、こういうことも危機管理上重要です。周波数の違いなどを言い訳に電力会社間の連系線の整備すら進まない日本の電力網には大きな弱点があります。

当時九電は太陽光発電の定格出力の合計値が送電線空き容量をオーバーすることを根拠に接続拒否した訳ですが、元々再エネの稼働率は7-8割程度で、需要ピークを満たすには3割増しの定格出力が必要、つまり予備率を30%程度取ることで需給をマッチングさせる訳ですが、その為には送電網に需給調整が可能な柔軟性が備わっている必要がある訳で、その為に蓄電池や水素による蓄電とセットで対応することで、出力の不安定さを調整することが必要ですが、そちらはあまり進まず、あまつさえ水素を輸入する話にすり替えられている現状は危機意識の欠如としか言えません。

で、よく考えてみれば火力にしろ原子力にしろ発電所で出力調整をしている訳で、例えば原子力発電の場合、発電電力の3割は制御電源として自家諸費している訳で、故にアh津田効率自体は再エネと変わらない訳で、ただ送電網の安定のために冗長性をどこに持たせるかの違いしかない訳です。逆に停止時の原子炉や使用済み核燃料の冷却のためには外部電源が必要な訳で、それが失われた結果が福島第一原発の事故だった訳です。そもそも不確定性原理が働く原子力の出力は先験的に安定している訳ではありません。それでも調整しきれずに揚水発電所で出力調整せざるを得ない訳ですが、それが今回の電力危機では助けとなったけど、本来の目的とは異なった使い方だったのですが。

という具合に大手電力の既得権に食い込めないことが問題を引き起こしているとまとめることができます。この辺はコロナ禍での保健所の機能不全、政治家や高級官僚の科学的根拠のない思いつき、保健所の機能不全、厚労省の事なかれ主義、医師会の非協力など既得権でがんじがらめで機能しない日本のコロナ対策と通底する本質的問題があります。一言で言えば公共の喪失ということでしょう。

例えば全国に先駆けて水道事業の民営化を行った宮城県ですが、今回の地震で断水が続き批判を浴びています。所謂コンセッション方式でヴェオリア日本法人が受託し、水道料金の値上げなどは行われたものの老朽水道管の耐震管への交換は進まず今回の事態となった訳です。運営権を得て料金改定の自由度は増したけど、自己保有資産ではないので減価償却されず設備の補修や更新の費用は手当てできない訳です。制度の問題としては元々地方公営企業の水道事業は独立採算で水道料金で維持運営されている訳ですから、水道管の更新が必要なら利用者の同意を得て料金値上げすればよいところを民間へ丸投げすれば、請け負った企業は権利行使としての値上げはするけど設備の保全は自治体の仕事としか見ない訳です。

という訳で、民営化なら何でもよい訳ではなくJRのような完全民営化ならば減価償却資金で自社資産の保全が可能な訳で、東北新幹線の脱線事故でも自前で復旧を図る訳です。そして新幹線は万能ではないで全幹法で国の事業とされた新幹線事業を国を法改正せずにJR各社と読み替えた結果、様々な矛盾が出てきています。そして北海道新幹線の並行在来線問題で続報です。並行在来線の小樽―余市、北海道小樽市がバス転換容認へ:日本経済新聞鉄道での存続を希望していた余市町の意向に拘わらず小樽市がバス転換を容認したことで、事実上余市―小樽間のバス転換が決まりました。現実的には沿線人口減少で鉄道での存続が困難なのはその通りですが、函館本線山線区間の長万部―小樽間の廃止が決まった訳で、結果的に新幹線駅ができる倶知安町以外の自治体にはメリットのない結果となりました。

その倶知安町は国際リゾートとして誉れ高いニセコの玄関口ですが、鉄路的ニュースの蛇足で取り上げたように地価上昇と物価上昇で住みにくい街に変貌しており、新幹線のメリットが活かせるとも思えません。寧ろ新千歳空港への鉄路が失われることはマイナスですが、そもそも富裕層は鉄道使わないかも。その面でも新幹線駅が機能するとは思えませんが。

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Sunday, March 06, 2022

ロシアデカップリング進行中

ロシアのウクライナ侵攻が長引いています。米情報当局が公開した48時間キエフ陥落は正直言えばロシアもそこまではしないだろうと思っていましたが、ロシア国営放送の予定稿と思しきテキストが漏洩したことで、少なくともロシア当局は主観的に想定していたと見られ、ある意味正しさが証明されました。同じ情報は中国当局にももたらされましたが、やはり真に受けず寧ろ経済制裁に反対する姿勢を見せておりました。しかしその中国がロシアの暴走に困惑していると見られます。

「ロシア即時撤退を」国連決議141カ国賛成、5カ国反対:日本経済新聞
法的拘束力のない総会決議ですが、反対は5カ国だけで、中国を含む50カ国ほどは棄権して様子見姿勢です。中国は安保理決議でも棄権しており、拒否権発動したロシアとは異なった対応を取りました。アメリカとしてはインテリジェンス情報を公開してまで、中国にロシア説得を期待したようですが、中国はロシアが今回のように全面侵攻するとまでは思っていなかったようです。

そして総会決議で国際社会の反応が可視化されており、安易にロシア支援を打ち出すのもはばかられる状況です。そして経済制裁も金融制裁の最終兵器とも言われるSWIFT遮断に踏み込みました。SWIFTから遮断されても他の手段で貿易決済は可能ですが、手間がかかり量をこなせない状況ですから決済の停滞は確実にロシアを追い詰めますし、加えて今回ロシア中銀を制裁対象に加えたことが大きいと言えます。経済制裁でルーブル安になっても外貨準備を用いた為替介入による通貨防衛が困難になりますから、国内のインフレで経済を痛めつけることになります。国民のロシア政府に対する不満が高まれば政権が倒れる可能性もある訳です。

とはいえこれは諸刃の剣でもあり、逆に追い詰められた国民の不満を諸外国の制裁のせいとして結束を高める副作用もあります。そしてロシア国内ではすでに報道管制が敷かれていてSNSの遮断なども行われており、国民には当局発の情報しか届かない状況になっているようです。という訳で長期化は避けられない可能性はあります。しかしそれはロシアを更に経済的に追い詰めることにもなります。

火災の欧州最大級原発、ロシア軍が制圧 すでに鎮火:日本経済新聞
9.11を受けてテロを想定した空からのアタックに耐えられる堅牢な構造を求められた原子力発電所ですが、炉型の古いザポロジエ原発が対応しているかどうかはわかりません。そこへの砲撃という蛮行に及び、IAEAに「想定していない事態で最悪チェルノブイリ以上のシビアアクシデントもあり得る」と言わしめたものです。ちなみにテロ対策は既存の原発も改修を求められており、それを柏崎刈羽で誤魔化したとして規制委の処分を受けた東電は原発再稼働を事実上封じられております。

その柏崎刈羽原発ですが、中越沖地震で全停止して東電管内で電力不足が心配されたように、効率的とされた大規模集中電源が災害リスクに弱いことを露呈しました。ロシアが原発を押さえようとしたのはおそらく大規模電源を制圧して電力供給を絞ってウクライナの産業や生活に圧力をかける意図なのでしょう。シビアアクシデントによる放射能漏れに留まらず、原発のリスクはこの大規模集中電源というところにもある訳で、その意味で小規模分散電源となる再生可能エネルギーの方が安全保障面でも優位性があります。話題を戻します。

物流まひ、ロシア痛撃 コンテナ海路の大半が欧州で遮断:日本経済新聞
金融に留まらず実体経済に直接かかわる物流でロシア向け船舶の寄港を欧州の港湾が拒否していて事実上封鎖状態になっています。加えてチャイナランドブリッジと並ぶユーラシア横断陸路のシベリア鉄道もヤードのコンテナ貨車が激減している様子が衛星写真で確認されており、ほぼ完全に封じ込められている現状です。ロシアが音をあげるのは時間の問題ですが、戦時中の日本のように悪あがきすれば、それだけ戦争被害が拡大します。あとEUのロシア機の空域規制でロシアも報復規制しANAやJALも追随しています。航空便も影響を受けています。

これが可能なのはロシアの経済規模を知れば納得なんですが、1.4憶認の人口でGDP1.6兆ドルですから5兆ドルの日本より若干多い人口で1/3の経済規模です。ですから逆に言えば人口が日本の10倍GDPが3倍になる中国の封じ込めは困難だけど、ロシアなら可能ということですね。何しろ永世中立国のスイスまで制裁に踏み込んでますし、軍事的中立を重んじてNATO非加盟だったスウェーデンやフィンランドもNATO加盟検討が伝えられます。ロシアは自らの行動で世界から見放されている訳です。プーチンが失脚するしか出口がなさそうです。

米アフガン撤退でタリバンの政権返り咲きにはロシアの後押しがあり、ソビエト時代の因縁を乗り越えて親米傀儡政権を追い出したことで留飲を下げた可能性はありますが、そのアメリカが撤退時にも整然としたロジスティクスを見せたことは撤退は敗北に非ずで指摘しましたが、アメリカも撤退方針はオバマ政権時代に打ち出されたものの、アフガン政府の統治能力が低く、都市部を離れるとタリバンが実効支配していたし、補助金ピンハネで北軍兵士の賃金未払いも常態化しており、タリバンに対して戦わずして投降し米軍支給の兵器も渡す体たらくで、別にタリバンはロシアの力で復権した訳じゃありません。

そしてウクライナではやはり士気の低いロシア軍兵士がウクライナ軍に次々投降しロシア当局の思惑が外れるという逆転現象が起きている訳で、皮肉な話です。寧ろアメリカが関与したベトナム戦争も泥沼化の上敗戦してますし、軍事力の優位で現状を変更することの困難さは歴史が繰り返しています。ロシアはその辺を学んでいないんですね。

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Sunday, February 06, 2022

コロぶナ日本の鉄路

ウクライナを巡る動きが騒がしいですが、前エントリーで取り上げた日本の間の悪さがここでも見られます。

崩れたカタールとの蜜月 天然ガス危機招く日本の変心 編集委員 松尾博文:日本経済新聞
東電と中部電力の合弁の火力発電大手JERAが昨年12月にカタールと結んだ長期契約を破棄しました。長年の長期契約ですが、昨年の電力危機でのゴタゴタがあったこともあり、厳寒が予想された今年の電力事情のひっ迫が予想されながら、長期契約を破棄したというのですから訳ワカメです。

JERAの言い分としては余剰分の転売に制約が課されていたりして、使い勝手が悪いってことのようですが、その一方で現在複数のLNG火力発電所を停止して点検中ということで、手持ちの在庫でやりくり可能という見通しだったのでしょう。加えて米シェールガスやサハリンなどロシア産LNGなど調達先の多様化の意図もあったようですが、ウクライナ危機で裏目に出ています。米バイデン大統領はカタールをNATO準メンバーに加える形で欧州へのLNG供給の約束を取り付ける一方、米シェールも欧州に振り向けられるし、日本にも在庫の拠出や対ロシア経済制裁への参加を要求しており、詰んでしまいました。一方ロシアは中国へのガス供給で経済制裁回避を狙います。

中ロ首脳、相互支持 台湾・ウクライナ 民主勢と対決 ガス供給でも協力:日本経済新聞
これを中ロ接近と見ると間違えます。鉄路的地政学で指摘したカザフスタンを巡るせめぎあいのように、中ロはそれぞれの利害に則って動いているだけで、欧米の経済制裁で販路を失うロシア産天然ガスの別の販路として中国を確保することが念頭にあります。てことでドツボジャパン-_-;。

一方国内ではコロナ感染爆発が止まりません。オミクロン株が上気道への感染が確認されており、おそらくその影響で潜伏期間が短く、気道の繊毛運動が活発な若年者でも感染するし、逆に感染速度が高いから軽症でも濃厚接触者への感染が進むし、家庭内で子どもが親に感染させて炎症が上気道に留まらず肺に達して重症化といったことも起きているようで、重症者が少ないから弱毒という見立ては違うようです。

そして感染速度が高まった結果、見かけ上の再生産数は低くなり、一向に収束が見えません。そして夏と違って元々心筋梗塞や脳梗塞といった季節性疾患の多い時期でもあり、コロナのために病床を空けておくことも難しいということで、東京や大阪では医療逼迫状態になっております。加えて保健所業務の逼迫で検査結果の集計が枚合わず大阪では積み残しが発生しておりますし、東京でも陽性率3割超と明らかに検査件数が過小であるサインも出ています。宣言解除後に医療体制と検査体制の強化が打ち出された筈なのに、またしても足りないという現状です。

ホントこの国で生きていくのはイノチガケです。政府も企業も国民の命二の次で好き勝手やってますね。そんな中で鉄道やバスなど公共交通は除菌や換気に配慮しながらサービスを続けていますが、一方で減便を伴うコスト削減を進めており、その結果が四半期決算にも表れました。

JR3社の10~12月、営業黒字に 宣言解除で鉄道利用回復 コロナ感染再拡大に懸念:日本経済新聞
20年10-12月期は Go To キャンペーンの寄与により乗客が戻ったもののJR東海のみ黒字でしたが、今年は東日本、西日本も黒字ということで、減便によるコスト削減が寄与しています。宣言解除が寄与したもので Go To 無しでも利用は戻るし寧ろ密を避ける意味でGp Tp はやるべきではないでしょう。加えて雇用調整助成金を活かした一時帰休に踏み込んだ一方、希望退職募集は避けており、雇用維持は果たせています。空運のANAが拡大路線の反動で希望退職募集が確実視されている一方で、鉄道はそこまでは起き尾まれていない訳です。

加えて不動産など関連事業への注力や保有不動産の転売リースバックによる流動化などの寄与もありますが、あくまでも宣言空白期の四半期決算ということで、年度ベースでの黒字化はコロナ感染状況の現状から言えば暫くお預けでしょう。また大企業による雇用調整助成金の利用は雇用保険の財源枯渇による保険料値上げに繋がりますから、より苦しい中小企業が新線書類の不備で助成金を受けられない中で、全企業と全雇用者に費用を転嫁した結果ということで微妙な気分です。こういった制度の不備による格差拡大は日本では多く見有られます。しかし一方でこんなニュースもあります。

JR西日本、大糸線のあり方協議へ 糸魚川―南小谷間:日本経済新聞
元々財務基盤が弱く投資家の損失となる株式希薄化を覚悟の上で公募増資に踏み切ったJR西日本ですが、それに留まらずローカル線の整理にも踏み込む姿勢を見せています。大糸線に関しては末端の非電化区間ではありますが、糸魚川で北陸新幹線と接続しておりますが、LRT転換した富山港線のような活性化策も見当たらず、地元協議と言っても三セク引き受けの可能性も低いしバス化しても何処まで維持できるかというぐらいに立地条件が厳しい路線です。

末端の非電化区間だけの引き受けとなったJR西日本としてはこうするしかないでしょうけど、もしも分割民営化でこの区間がJR東日本に振り分けられていれば違った結果になった可能性はありますが、ピーク時から90%減という厳しい現実からすると時間の問題という気がします。またこの区間が非電化で残された事情に北陸本線糸魚川電化で北陸電力のAC60Hz電化となったことから交直接続問題が起きて、高価な交直両用車の投入がためらわれたという事情もあったかもしれません。また地形が険しくトンネル拡張などの電化工事自体が困難だった可能性もあります。ちなみに北陸新幹線はかがやきの電源で指摘したように東北電力のAC50Hz電化なので、新在で電力が異なります。

第三セクター引き受けの困難という意味では北海道の並行在来線問題でも動きがありました。

JR北海道の余市ー長万部廃線へ 並行在来線は全国2例目:日本経済新聞
並行在来線ではありませんが、根室本線の富良野―新得間も廃止方針が打ち出されており、北海道の鉄路はミッシングリンクが増えることになります。元々過疎化で自治体の財政力が弱まっている事情はありますが、広域自治体としての北海道の冷淡な姿勢が背景にあります。鈴木直道知事は元夕張市長として石勝線夕張支線の廃止協議をまとめた本人ですが、夕張支線は夕張市域内の行き止まり線で対応が容易だったし夕張鉄道という地場の有力バス事業者の存在もあって特異な立地です。この成功体験で道全体の交通政策を一般化するのは乱暴です。

一方で熊本豪雨で鉄橋流出して休止中の肥薩線の復旧に熊本県は河川予算や道路予算の活用を検討しているということで、実現すれば画期的ですが、北海道と熊本では人口の密集度も違いますし、一般化は慎重にすべきなのは言うまでもありませんが、コロナ禍で逆風の公共交通をどうするかは行政がもっとコミットすべきでしょう。人口減少下にある日本で過疎化を嘆いていても誰も助けてはくれませんし。

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Saturday, November 27, 2021

汗っかきと油売りのニューノーマル

2014年の汗っかきと油売りと2015年の汗っかきと油売りと戦争では主にシェール革命による原油価格の低位安定のj時代の話だったんですが、ここへ来て原油価格の上昇で変調が起きています。その結果石油備蓄の放出が決まりました。

首相、石油備蓄放出を表明 「価格安定は経済回復に重要」:日本経済新聞
要因はいろいろありまして、米シェールによるオイル生産が価格抑制に働くことに対抗するためにOPECにロシアを加えたOPECプラスの枠組みで協調減産しても足並みが揃わなかったりして、現状でも協調減産の解除過程で緩やかな増産体制が取られている中での価格上昇で、産油国側としてはこれ以上の増産はしたくないし、寧ろ消費国の石油備蓄放出に対抗して増産を止める対応を示唆しており、原油価格は寧ろ上昇しております。

石油備蓄放出の言い出しっぺはアメリカですが、これだけ原油価格が上昇してもシェールの産出量が増えていない訳で、1つはバイデン政権の環境重視の姿勢から環境規制が厳しくなったことと、金融界のESG投資のトレンドで資金が集まらなくなったことで、増産体制が組めないということです。後者は産油国も事情は同じで、現在の緩やかな増産以上の対応は取れないというのが言い分です。勿論できるだけ高く売りたい意思はあるでしょうけど。

尚、ESG投資は緩和マネーによるカネ余りを背景としたブームの様相を呈しており、個別には環境投資に繋がらないものも混ざっていますが、ESG投資を謳えば低利で資金が集まるという事情もありますが、一方石油増産投資などには資金が集まらなくなっていることは間違いありません。てことで、今回の原油価格上昇はアメリカの独り相撲の気配もありますが、それに日本に留まらず中国までお付き合いというシュールな現実があります。

但しメディアで報じられる原油価格は先物価格であって、ガソリンなど石油製品への波及という意味ではタイムラグがある訳で、実際石油備蓄放出の報に対して思惑で逆に値上がりするようなことも起きる訳です。実際にはアナウンス効果しかない訳で、足許を見られれば相場は逆に動くことも不思議ではありません。てことでガソリン価格を抑えるには別の方法を取る必要があります。

政府の目論見としては、本来紛争や災害で輸入が途絶えた場合の取り崩ししか想定していなかった備蓄ですが、法定の政府90日分民間70日分を越える150日分程度の備蓄があり、法定分を超える部分の取り崩しならば法に抵触しないという判断で凡そ数日分の放出を決め、年内に入札して年度内に取り崩すというスケジュールですから、市場の値動きに対して呑気な話ですが、本当の狙いは放出分の代金を世紀湯元売りへの補助金の財源にするということのようです。つまりガソリン価格対策は年度内にやっとという話です。

元売りへの補助金ですが、自動車の燃費改善で販売量が減少している中で、合従連衡で寡占化が進み、製油所の統廃合で減損処理が進んでいる現状から言えば、元売りへの補助金が小売りへの卸値に反映される可能性はそもそも低いですし、小売りのスタンドも減少していて地域によっては競争が抑制されている中で、やはり小売価格の低下にはつながらないと考えられます。また元売りにとっては原油価格の上昇は値上げの口実でもあり、利益を得ている訳で、その元売りに補助金を出す意味はほぼありません。

一番確実なのはガソリン税に関しては暫定税率と呼ばれるリッター25.1円の上乗せ分の減免でしょう。元々道路特定財源として上乗せされたものですが、道路整備が進みいつまでも暫定税率徴収はおかしいということで民主党政権時代の2010年4月に廃止されましたが、同額の特定税率が定められ現在も徴収されています。但し一般財源化され、また3か月連続リッター160円以上の際に停止するトリガー条項が盛り込まれましたが、東日本大震災の復興財源確保の名目で凍結されています。つまり国会開いてトリガー条項の凍結解除を議決すれば、ガソリン税の減免による価格低下は確実に起こります。リッター168円が140円台になる計算です。これなら家計負担にとっては許容範囲でしょう。

過去の原油価格高騰は2008年のサブプライムショックをきっかけとする投機筋のコモディティ投資による沸騰でWTI1バレル96ドルと2014年の中国の財政出動による原油高観測から買われたWTI1バレル96ドルっですが、2014年は北海ブレントで1バレル110ドルをつけるなどして世界的に需給がひっ迫しました。2008年のそれは投資先を失った資金が向かった結果ですから翌年のリーマンショックで経済が失速して下落してます。課税の仕組みが異なる軽油や灯油に関しては別途考える必要がありますが、補助金出すなら供給側ではなく打撃を受ける需要側にこそ必要です。

今回の高騰はコロナショックからの立ち直り過程での需給逼迫なので2014年に似た地合いですが、アメリカでシェールオイル生産が本格化した結果程なくピークアウトし、2016年にはアメリカの石油輸出解禁で価格崩壊し、各国が備蓄を積み増した結果保管するタンクが満杯になってしまい、一時WTIがマイナスをつける珍事も起きました。つまり上述のようにアメリカのシェールオイルが当てにできなくなって汗っかき(消費国)と油売り(産油国)の関係が変わった訳です。これがニューノーマルという訳で、高止まりは続くと見るべきでしょう。とはいえ気になるニュースも。

WHO、新変異型「オミクロン」と命名 警戒最大に:日本経済新聞
デルタ型と同様「懸念される変異型(VOC)」とWHOが分類し、世界に警戒を呼び掛けております。オミクロン型が現いかどうかはわかりませんが欧州や韓国で感染再拡大が起きており、北半球は冬の低温機に向かっており、またラニーニャ現象で厳冬の予想があるだけにコロナ再拡大で経済失速のシナリオもあり得ます。

カギを握るのは米中でしょう。アメリカは共和党知事州でマスクやワクチンの義務化に反対して政治対立が続いており、今後感染状況が悪化する可能性がありますし、中国はなまじハードロックダウンで封じ込めに成功したためにデルタ株を含む変異型への免疫獲得が出来ていないので、何らかのきっかけで感染爆発の可能性があります。検疫緩和は日本にも飛び火の可能性を高めます。ダイヤモンドプリンセス号以来ガバガバな日本の検疫体制では不安です。

という訳でGo To 再開とか言われてますが、危険です。JRや航空にとってはまだまだ長いトンネルが続く可能性があります。

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