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Saturday, November 04, 2023

笑う鬼退治

鬼が笑う2024年で取り上げたインボイス問題のニュースです。

インボイス導入1カ月「想定以上に負担」 混乱続く企業:日本経済新聞
サラリーマンの経費精算でインボイスの有無の確認作業で現場負担があることは国税庁も認識していて1万円以下の取引でインボイスが省略できる経過措置を決めたりしましたが、ネット取引での登録ナンバー確認など次々に面倒な問題が湧いて出てますし、ドライバー不足なのに運送大手が委託先の多重下請けが仇となって委託先の登録の有無を把握しきれないなどの問題も起きています。独禁法違反が疑われる委託切りも見られるなど混乱しています。

これらはインボイス自体の問題というよりも説明不足や日本的な商慣習故の問題だったりしますが、ただでさえ働き方改革の2024年問題でドライバー不足が言われる中で、タイミングが悪かったとは言えますが、欧州付加価値税制度では機能している制度が日本ではこうなってしまうというのは、日本社会が抱える問題と見るべきでしょう。欧州でも当てない民主政治で損くらってますで取り上げたギリシャショックのようにヤミ営業でインボイス発行しない脱税が横行していたなんて例もありますから、明示された法令も社会の受容次第で機能を失うことは同じではありますが。

ギリシャショックは同時に財政破綻のリアルを示しており世界最悪の日本財政の反省材料にもなります。長期金利が7%になると財政が持続可能でなくなることを明らかにしました。今の日本の減税議論に違和感しかありません。それも所得減税に拘ったために実現は来年6月という役に立たないものですし、1年限りなら後に増税が待っている訳で、リカードの中立定理が働く故に減税くそメガネになります。減税うそメガネとも言われているようですが^_^;。だからといって恒久減税は論外ですが。

別の視点ですが今回の減税は税収の上振れ分の還元を謳っている訳ですが、その根拠となるのが22年度の10兆円超の税収上振れでして、円安による企業業績の上昇による法人税収とインフレによる消費税収が主なもので、7:3の割合です。昨年円相場が激しく動いた結果ですが、今年は150円前後で膠着しており、去年のような上振れが起きるとは言えませんし、インフレは税収増をもたらすと同時に政府支出も増やします。今年度の予算は当然インフレを踏まえて連動する社会保障費は拡大しますし、人件費や資材費の上昇は公共事業費も上振れさせますから、年度をまたいだ歳出増で消化されます。故に減税財源にはならない訳です。

日銀、長期金利1%超容認 植田総裁「大幅に上回らず」:日本経済新聞
日銀がYCC見直しに動きましたが、1%変動枠に長期金利が近づいて維持困難と判断して限度からめどへと表現を変え1%超の金利を容認する姿勢を見せました。但し急激な変動は抑えるということで緩和継続を謳っておりますが、実態は市場の圧力に押されての判断ということですね。それでも不十分ということで為替は円安に振れて150円のバリアを突破しており円安傾向は続きます。

とはいえ変動幅は小さいですから、上述のように法人税収の上振れ効果は限られます。但しインフレ要因ですから消費税収の上振れはある程度発生しますが、政府支出増を上回る水準になるかどうかは微妙です。ということは税収上振れを見込んだ減税は財源的には微妙ってことです。増税メガネと悪口言われたから減税を打ち出すとか、思いつきで政治をやるなということですね。

岸田政権の打ち出す政策は。例えば少子化対策と称して児童手当の拡充を打ち出し高校生も対象に加えてますが、一方で自民税調で高校生の扶養控除圧縮が議論されているという具合に目先を誤魔化す姿勢が見られます。基本的に国民をなめているとしか思えません。手当拡充よりより高校無償化の方が効果的ですし予算も少なくて済みます。という具合に目につくところをやったフリで乗り切って選挙の票稼ぎというあざとい姿勢は国民に見透かされてます。桃太郎よろしく鬼退治しても宝は得られません。桃太郎は岡山だけど。

2024年の働き方改革で人手不足が言われている中で少子化対策でバラまくというのは本当の問題解決にはならないばかりか、仮に出生率が上がって子供が増えたところで家庭内のケア労働を増やして特に女性の就労を圧迫しますから、人手不足は悪化します。持続可能な賃上げを打ち出して法人減税をしても法人税を払っていない赤字企業は蚊帳の外ですし、仮に賃上げが定着しても企業の人件費上昇は価格転嫁に繋がりますから賃金インフレで結局実質賃金は伸びないですし、新NISAで家計貯蓄を資産運用へという画を描いても、今の市場環境では国内株式に資金が回る保証はありません。日銀のETF購入で下駄を履かせた官製市場の現在の株価では個人投資家が得られる利益は限られます。一方でそれでも株価が上がらない日本企業はアクティビストの草刈り場です。

京成電鉄、ディズニーでゆがむPBR 実態は「1倍割れ」 - 日本経済新聞
お業績好調なオリエンタルランド株の保有分の時価が1.6兆円と自信の時価総額を上回る水準にあり、OLC株を除いた本体のPBRは0.5倍程度と見積もられ、英アクティビストファンドから一部売却を迫られております。京成電鉄の場合コロナ禍で空港輸送が大打撃を受けた不運はありますが、逆に空港輸送の1本足打法の脆弱性が露呈した訳で、オリエンタルランドのような優良企業を連結対象にしていることがリスク要因となっている訳です。

京成電鉄には新京成電鉄という優良企業をグループ内に抱えており地域輸送に特化した事業環境もあってコロナ禍の影響も軽微だった訳ですが、その結果コロナに勝てない国で取り上げたように完全子会社化して元々の保有分の含み益由来の負ののれんで益出しするなどしてきましたが、そんな一過性のことでは事態は改善せず次のステップを踏みます。

京成電鉄が傘下・新京成を吸収合併へ 25年4月 - 日本経済新聞
継続的に利益を計上して株価を上げるには、経営統合して運営面で規模の経済を狙うしかない訳ですが、悩ましいのは運賃の共通化問題です。共通化して運賃通算すると初乗り運賃の二重取りが無くなり乗客にはメリットがありますが、運賃収入の減少は避けられず寧ろネガティブな評価になりかねません。故に当面現行運賃を維持するということになりました。

別運賃自体は現行制度で禁止されておりませんし、京成自身もちはら線と成田空港線(スカイアクセス)は別運賃です。それぞれ歴史的事情があって、ちはら線は元々小湊鉄道が東京直通を狙って京成千葉(現千葉中央)―海土有木間の地方鉄道免許を申請して交付されたことに始まります。京成線を通じて東京進出を図った訳ですが、4ft8in1/2(1,435㎜)電化の京成と3ft6in(1,067㎜)非電化の小湊では直通はできない訳で、長らく免許更新を続けながら棚ざらしになっておりました。京成との合弁で千葉急行電鉄を設立して事業化を模索したものの進まず、沿線予定地の宅地開発が具体化して途中の千原台(仮)までの事業化が動き出し実現しました。しかしバブル期の仇花で宅地分譲は遅々として進まず、業績が上がらずに京成が救済合併して京成ちはら線となりましたが別運賃は維持されました。故に対都心でJRに乗り換える場合には千葉中央と京成千葉の間の京成線運賃の合算が重荷になりますが、赤字路線を引き受けた京成としては簡単に運賃を弄れないわけです。

成田空港線は元々三セクの北総開発鉄道(現北総鉄道)の路線を利用していて、小室以東は千葉県営鉄道由来の宅地開発公団線として別運賃だったこともあり、高運賃で利用が低迷しました。宅開公団は小泉改革の特殊法人改革で統廃合や名称変更の結果、鉄道事業を切り離すことになって京成が引き受け第三種事業者の千葉ニュータウン鉄道となり北総が第二種事業者となって一体化されたものの高運賃は改善されず、住民訴訟にまで発展しました。結果的には成田新幹線ルートを利用した北総ルート(成田スカイアクセス)が整備され北総線の運賃の見直しをすることで和解しましたが、それ故に北総線と共通化された成田空港線運賃も安易に動かせない政治性を帯びた訳で、やはり解消は困難です。

という訳で、新鎌ヶ谷で接続する新京成線と成田空港線の運賃統合はやはり無理となると、京成津田沼での京成本線・千葉線との運賃通算に限られる訳ですが、これも新京成線が新津田沼でJRと乗換可能で船橋乗換からシフトすることになると京成にとっては減収要因になります。船橋乗換の場合も東京メトロ東西線に向かう場合はJR線を挟んで初乗り運賃の重複負担となりますが、東京メトロの低運賃に助けられています。京成西船に優等列車を停めないのはJRに気を遣っているのかも^_^;。

ということで、当面車両の共通化や乗務員も含めた運営の柔軟化などで地道に益出ししたり、それぞれが抱えるバス事業の再編などで合理化を進めるぐらいしか打つ手はない訳で、アクティビストの納得を得るハードルは高いといえます。こうした問題を抱えて身動きが取れない日本企業は数多くあり、海外投資家を通じた国富の流出を助けるだけです。鬼たちも大爆笑-_-;。

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Saturday, October 28, 2023

ドイツの後塵

まず減税くそメガネlで取り上げた無人タクシーの残念なニュースです。

米加州、GM傘下の無人タクシー運行停止 人身事故巡り:日本経済新聞
隣を走っていた別のクルマが撥ねて倒れた歩行者の女性を巻き込んで6m走って停止したという事故で、クルーズの無人タクシーの有責事故ではないんですが、問題は自動運転車が事故を認識して路肩へ寄せた結果、被害者のダメージを高めてしまったことです。しかもそのことを当局に対して隠ぺいしたということで運行停止となったものです。

グーグル関連会社ウェイモに始まる無人タクシーの実験運行ですが、結果的に複数企業が米国内各地で実験運行を始めた結果、事故の報告が増えています。搭載AIが学習途上ってことでしょうけど、主に画像解析に依存していて、変化の激しい道路の交通状況に対応しきれていないということのようですが、それならば尚更情報隠蔽は問題解決から遠ざかる訳で問題です。恐らくショッキングな映像で世論の反発を恐れた結果かもしれませんが、企業姿勢としては問題です。加えて画像以外の事故回避システムの必要性も示唆します。

こうした社会実験を認める米州当局の在り方ですが、合意形成が難しい連邦政府ではなく州政府への企業のロビー活動が盛んな結果がこうした事態を招いている面もあります。インフレは続くよどこまでもで取り上げた全米自動車労連(UAW)のストでも南部の共和党ステートの労働者保護の不備を問題視しており、それにバイデン大統領が連帯を示したことでややこしくなっております。その中でフォードが大幅賃上げを含むUAWの要求を呑んで和解した一方、GMやストランティスではストが続いており、労働者の権利拡大という面で言えば日本の国鉄で起きたスト権ストに近い性格で、GMは無人タクシー事故も重なって苦境にあります。という訳でウクライナやガザの紛争を抱え内憂外患に苦しむアメリカです。

とはいえ現状経済的には先進国で独り勝ち状態にあるのですが、こうしたことが重なり、且つコロナ給付金で生じた過剰貯蓄が枯渇しつつある米経済の先行きは明るくはありません。それでも相対評価でドル独歩高が続く為替市場ですが、円が主要通貨に対してほぼ値下がりしている結果、こんなことが起こる訳です。

日本のGDP、ドイツに抜かれ世界4位に IMF予測:日本経済新聞
日本が中国に抜かれて3位転落したのが2010年で、いずれインドにも抜かれるとは言われておりました。どちらも新興国で経済成長が目覚ましく、中国は既に日本の3倍近くと経済成長を続けております。それに引き替え先進国で低成長のドイツは、エネルギーのロシア依存が仇となって高インフレに苦しみ、中国依存が対中デリスキングで見直しを余儀なくされていて苦しんでいる訳ですが、あくまでもドル建て名目値での逆転であり、日独のインフレ率の差と為替変動の結果であり問題なしと解説する人もいますが、大間違いです。

ドイツが日本以上にインフレ率が高く苦しんでいるのはその通りですが、ECBの利上げでユーロの対ドルでの下落率が日本円と差がある訳ですが、日銀が利上げに動けないのは金利高による日本国債の暴落リスクがある為で、財政の健全性が仇となっていて動くに動けない結果です。異次元緩和を10年も続けた結果こうなった訳で、過去の政策が仇となっていて予想外の逆転をもたらしたという意味で深刻です。加えて人口8,300万人と日本の2/3ですから1人当たりGDPは1.5倍で、それだけ日本国民の購買力が低下した訳です。つまり新興国の成長の結果の逆転ではなく日本の衰退の結果の逆転ということで、深刻に受け止めるべきニュースです。

それなのに日本の国会では無意味な減税の議論ばかりしていて、更に財政を悪化させようとしているのですから救われません。加えて政府の打ち出す政策が悉く的外れという救いようのない状況です。所得税減税では納税者の6割が最低税率の5#課税で定額減税の恩恵が得られません。この中には年金受給者の嘱託雇用や主婦パートなどを含みますが貧困ひとり親世帯が多数含まれており、少子化対策と矛盾します。また賃上げを狙った法人税減税も問題があります。

賃上げ減税、中小6割が対象外 赤字体質の脱却重要に チャートは語る:日本経済新聞
法人税は欠損の最大10年の損失繰越という税法の仕組みで、資金繰りを図りながら敢えて欠損を出して繰越繰越で課税を逃れることは可能です。そうした企業は賃上げしても減税の恩恵は受けられませんから意味のない減税です。寧ろ基準を見直して課税強化した方が賃上げを促します。あと年金に関する2つのニュースです。企業の年金負担22年度6兆円減 金利上昇で業績押し上げ【イブニングスクープ】:日本経済新聞JAL再建会社更生法適用が決まるで解説した確定給付型企業年金(DB)が高度経済成長期には企業にとっても従業員にとってもメリットがあり、公的年金の貧弱さをカバーしてきた訳ですが、バブル崩壊後の低成長期にも見直されずに企業による拠出金でDOBに給付してきた訳で、所謂レガシーコストと呼ばれ、これが90年代の事業縮小や新卒採用手控えで所謂ロスジェネ世代を生み出しました。その後日本版401kと呼ばれる企業型確定拠出年金(DC)の制度かで乗り換える企業が出た一方、OBの顔色を窺って企業業績に躓いたJALのような企業も出た訳です。利回りを見直すなどして制度を維持した企業も昨今の金利上昇で利回りが改善してメデタシなんですが、その結果生じる剰余金を賃上げの原資にするならともかく、内部留保される可能性もあります。こうした資金を賃上げに回せるように背中を押すことが出来れば持続可能な賃上げも不可能ではないでしょうけど、同時に保有資産の減価による損失との見合いとなりますが、例えば内部留保課税のような形で賃上げに回るような制度的工夫はあり得ます。
国民年金、給付水準の低下抑制 保険料納付5年延長案も:日本経済新聞
年金制度の持続可能性を高める検討は必要ですし、労働市場の実態や長寿命化の実態から見ても納付期間延長や給付年齢繰上げはいずれ避けられないでしょうけど、第3号被保険者制度を廃止して専業主婦から保険料を納付することが抜けてます。保険料負担が無いから主婦パートの年収の壁問題が生じる訳で、厚生年金に加入すれば保険料負担が無くなる上に老齢年金の増額や妊婦給付など保証範囲も広がる訳で、受け入れやすくなります。但し雇用主の負担は変わらず雇用側の都合でシフト減らしの可能性は排除できませんが、そうした雇用主は従業員を確保できずに淘汰されるとすれば、被雇用者側にとってはメリットです。

年金と国鉄の意外な関係で解説したように元々国家総動員体制の一環として会社員が転職で不利になる上、保険料を徴収して戦費に充てる狙いもあってスタートした厚生年金保険制度ですが、時代が変わればアップデートが必要な訳で、そうした議論が進まない中で年金財源が枯渇することで、結局被害を受けるのは今の現役世代と姿なき将来世代なんです。世代間の対立を煽って議論をやりにくくする昨今の風潮は問題があります。

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Sunday, May 14, 2023

帰省緩和のゴールデンウィーク

ゴールデンウィークの国内旅行は盛況でした。

GWの国内旅行、コロナ前並みに回復 近場より遠方に:日本経済新聞
JR各社で18年比9割超まで回復しており、それを踏まえてかJR各社の株価も上昇局面にあります。新幹線の混雑が報じられた一方、箱根や江の島などの近場は減っているという対照的な動きが見られ、長距離シフトが鮮明です。

コロナで自粛されていた帰省がトレンドだったようで、長距離利用が増えれば流動が輻輳しますから混雑に繋がりますし、JRにとっては客単価の高い利用客が多かったという意味でホクホクでしょう。一方で近場の観光地は振るわず、在来線特急の利用は伸び悩みました。例外は成田エクスプレスですが、航空需要のJ回復の結果ですから、長距離シフトのトレンドの範疇です。

その一方で高速道路はまれにみる大渋滞で、例えば関越道で練馬から藤岡まで渋滞が繋がったという前代未聞のことまで起きました。原油価格が下がって政府補助金の効果もあってガソリン価格がやや下がった結果、需要がマイカーに流れたと考えられます。ただ平日のビジネス需要の戻りは鈍く、GWの混雑を東海道新幹線の輸送力逼迫に結びつけるリニア待望論は根拠がありません。GXに逆行したGW^_^;。

米地銀パックウエスト株2割安 預金1割流出で警戒:日本経済新聞
米地銀を巡る金融不安は続きます。カリフォルニア州地銀パックウエストに市場の関心が集まります。IT集積地故に個人も企業もキャッシュリッチで預金が集まりやすいが故に、資産規模が膨張しがちで運用先に苦労するのはSVBやFRCと同じです。故に市場の不安は消えず、預金保険でカバーされる限度額を超えた口座が多く、snsで噂が拡散されやすく、加えてネットバンキングもITリテラシーの高い預金者が多いから、預金流出が早く進むということもあります。政府の預金全額保護もどこまで可能かが試されます。
バイデン大統領、G7サミット「オンライン出席の可能性」:日本経済新聞
地銀破綻以上に混乱の種となる米財政の崖問題ですが、米政府は公式に否定したものの、こういう報道が出てくること自体が、デフォルト回避の協議が膠着していることを示します。そりゃサミットどころじゃないわな。
岸田文雄首相、タイム誌表紙に 「日本の選択」テーマ:日本経済新聞
怪運国債市場の蓋で指摘したように、日本の防衛三文書でアメリカの拡大抑止方針に満額回答してバイデン大統領の外交成果を示した訳ですから、サミットには参加したい筈ですが、一方で日本の方針転換に違和感を持つ報道がアメリカでもされているということですね。外務省がクレームを入れてタイトルは変わったみたいですが、日本が後戻りできないことにコミットしたことに変わりはありません。
富士通系サービスに障害 コンビニで他人の住民票発行:日本経済新聞
マイナ保険証、別人情報とひも付け事例 「入力時ミス」:日本経済新聞
国内ではマイナンバーカードを巡るニュースが立て続けです。栗鼠殺し?で取り上げたマイナンバーカードの問題点がそのまんま出てきました。コンビニでの証明書発行のトラブルはシステム自体の問題ですし、マイナ保険証の紐付けで入力ミスってことは手入力してたってことですが、システムの最大のセキュリティホールは人という常識に反します。

マイナンバー自体を個人情報の物理的アクセスキーにするだけなら、シンプルで安全なものになるのに、わざわざ金かけて複雑で使いにくくセキュリティも問題という出来損ないを作っちゃったってことです。加えて他人になりすましてマイナンバーカードを取得した事例も報じられております。マイナンバーを示すバーコードだけのカードを本人が携帯して管理するシステムなら、番号のハッキングに注意するだけでなりすましも防げます。いいとこなしのマイナンバーカードです。

ま、そもそも政府が本気でDX進めたいなら、まずは各省庁の公開データの見直しからやるべきでしょう。「神エクセル」とかpdf公開とか、見栄えを整えることに腐心するよりも、汎用性の高いcsvファイルで公開してくれれば、ダウンロードも短時間で済むしエクセルに限らずアクセスその他のデータベースソフトにユーザーが直接読み込ませることで、様々な分析に使えるようにすることで、行政データを所謂ビッグデータとして活用できるようになる訳です。

コロナのHERSYSYでも言えますが、入力項目が多過ぎて保健所作業の手間が拡大して実数の把握には役立たなかったなどの問題もあります。COCOAの不始末もありました。つまり日本政府はDXに関してやることなすこと的外ればかりということです。

平成金融危機出口へ SBI、「新生銀行」を非上場化 瑕疵担保のツケ解消へ一歩:日本経済新聞
日本長期信用銀行と日本債券信用銀行の救済に行き詰った小渕政権で、当時の民主党が提案した金融再生法っを丸呑みして長銀と日債銀の破綻処理が行われました。長銀は米ファンドのリップルウッドHDが引き受けて新生銀行となり、日債銀はソフトバンクが引き受けてあおぞら銀行になりましたが、リップルウッドとの契約で二次損失対応として瑕疵担保特約を入れたことで国会が紛糾しました。

金融再生法で7兆円の公的資金が用意され長銀と日債銀の破綻処理に使われましたが、破綻処理過程で二次損失が発生した場合の損失補償を民法の瑕疵担保条項を準用した結果、リップルウッドはリスク負担なしに長銀を手に入れて利益確定の末に再上場で売り抜けて大儲け。一方優先株として投入された公的資金の返済は進まず今に至った訳ですが、紆余曲折の末筆頭株主となったSBIが新生銀行をTOBで完全子会社化することで、利益剰余金を配当に回さずに優先株消却しようということですね。

そもそも長銀の資産査定が厳格ならば二次損失は無視できた筈ですし、リップルウッドの要求を却下できた筈です。手詰まりを野党提案で突破した小渕政権の柔軟さは評価できますが、執行段階で骨抜きにして後始末に30年以上かかってしまったことに、所謂失われた30年の病巣が見えます。DXの不始末も同じ世界線の出来事に見えます。リニアも同じかな。

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Saturday, May 06, 2023

失敗に学ばない国のGW

今年のゴールデンウィークも終盤ですが、今年は人が出てますね。新幹線の混雑が報じられてますが、それでも18年比8割程度で、やはり完全に元に戻ることはなさそうです。逆にこれだけ人が動き密状態が多発しており、事後のコロナ感染拡大が心配されます。GW前に規制を緩めてGWで感染拡大という昨年一昨年のトレンドを踏襲する可能性はあります。

だから規制を緩めるべきでないということではなく、コロナの危険性はあるとしても、その性質は知られており、注意点も共有されてきてますから、普通の病気としてウィルスと共生する段階にはあると思います。その意味で感染症法上の5類相当への移行は良いのですが、取扱経験のない医療機関での院内感染のリスクは寧ろ増えるということも注意点です。病院に行くときはマスクはマストと考えるべきでしょう。一方で災害です。

石川地震の被害確認急ぐ 相次ぐ揺れ計51回に:日本経済新聞
石川県珠洲市で震度6強、マグニチュード6.5という地震ですが、余震が続いており、熊本地震のように余震の方が強いケースもあり得ますし、地盤が緩んでいる上に、雨の予報が出ていて地滑りなどの恐れもあります。警戒を怠れません。

能登半島の群発地震は昨今目立ちますが、そんな場所に珠洲原発の計画があって、地元の反対でとん挫しましたが、結果的に良かったと言えます。能登半島には志賀原発1,2号機もありますが、こちらも3・11前に1号機はトラブルによる運転停止、2号機は定期点検中だったことで、以後再稼働の為に規制委の審査を受けていますが、敷地内に活断層の疑いがある亀裂が見つかり、審査が通らず運転停止が継続されていたことは幸いです。てことで失敗に学ばない国の続編です。尚、GWはグリーンウォッシュの略で、政府が打ち出すGX戦略はXの手前のWに留まるということです。

活断層ならば1号機はアウト、2号機も耐震強化が必要ですが、地盤の亀裂が活断層ではない証明は所謂悪魔の証明ですから、規制委も門前払いすれば良いものを継続審査している訳です。これ成長しないこどもの日本で取り上げた高浜4号機や敦賀第二、やはり審査が滞っている柏崎刈羽と同じ構図で、再稼働を認めたいのが本音と見ることができます。ならば電力会社としては誤魔化してでも審査をクリアすれば良いとなる訳ですね。

という訳で閣議決定されたGX基本方針で打ち出された原発稼働期間40年の規制緩和で、特に運転停止中の期間をカウントしないことになりますが、これ何らかの理由で審査が滞っている原発ほど長期間稼働となる訳で、危険極まりないものです。加えて言えばそもそも原発が動いているのは関電、中国電、四国電、九電の4社にのみで、他の5社は原発が動いていないけれど、需要を満たしている訳で、例えば東電エリアでは太陽光などの再エネ電力を揚水発電で出力調整して対応している訳で、原発が動いていないから可能な方法です。同じく原発が動いていない中部電ですが、ちょっとした異変がありました。

中部電力が出力制御を実施 三大都市圏で初:日本経済新聞
製造業の空洞化が進む東電エリアと違って一大製造業集積のある中部電エリアでも電力が余って再エネ電力の受け入れを制限しました。ま、考えてみれば北陸電エリアも電力消費の多いアルミ関連産業の集積地ですし、元々水力資源の豊富な地域でもありますし、電力不足を理由に原発動かすという理屈は成り立ちません。燃料費の高騰による採算悪化が本音です。

加えて言えば欧州のGXの本命は省電力であり、広域送電網と蓄電池や水素を利用した出力調整であり、ウクライナ問題に絡むロシア産原油やガスが利用できない現状をそれで乗り切ろうとしています。フランスが原発見直しを打ち出してますが、これも50基ほどある既存原発の老朽化でトラブルが多発し、電力の安定供給が厳しくなっていることによるもので、日本で言われるリプレースを進めるという話です。故に再エネに頼るドイツに回せる余力も乏しくなっており「ドイツはフランスから原発の電力を買っている」というのはウソです。

本気でGXに取り組むなら燃料高対策で石油元売りに補助金を出すことを止めてガソリン価格の上昇を容認することで、鉄道など公共交通へシフトさせる方が効果がありますし、実際石油ショックの時にはそうしたシフトが起きています。またそもそも製造業の海外シフトで需要そのものが減っている状況ですから、無理して原発を動かす必要性は乏しいのが実際です。中部電で言えば再エネ制限して浜岡原発を動かすのはおかしい訳です。

省エネという意味では鉄軌道式の3倍と言われるリニアの電力消費は問題です。ただでさえ人口減少で需要の先行きが不透明なんですから、無理に作る意味は乏しいということになります。それから敦賀以西の北陸新幹線も、建設距離の短い米原ルートが省エネの観点からもベストです。東海道新幹線との保安装置の違いは、ソフトで読み替えることで解決可能ですし、東海道新幹線のダイヤの余力も、名古屋以西は余裕がありますし、場合によってはこだまを名古屋止まりにして開けるとか、ボトルネックとなる大阪運転所(鳥飼)―新大阪間の線増などで対応可能です。またJR西日本の営業キロが短く不利というのは、整備新幹線の場合受益の範囲でのリース料負担というルールで実質変わりません。整備区間の距離が短いことで公金の投入を減らせる効果はありますが。

フランスでは鉄道と重複する国内線航空に規制をかけるなどして鉄道シフトを進めています。こうした実質的な対策を積み重ねて対応することこそ重要なんで、その意味でGXは本来鉄道には追い風になる筈ですがね。

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Saturday, March 18, 2023

田代の水は山をも越すが水に流せぬ大井川

箱根馬子唄ならぬリニア迷子唄^_^;。リニア60年のウヨ曲折の続編です。

リニア工事中の水量減解消、JR東海が静岡自治体に説明へ:日本経済新聞
上記エントリーでも取り上げた大井川の水問題での東電田代ダムの取水量調整でJR東海が東電と協議することを前提とした説明をするということですが、すんなり進むとは思えません。田代ダムは大井川最上流の田代にダムを作って導水管で山梨県の冨士川系の早川へ落として水力発電を行うという目論見で建設され1928年に完成した大井川水系では初の本格的ダムです。つまり元々田代ダムの水は古くから山梨県に送水されていた訳ですが、これが後年大井川で水利権争いの種になります。

早川電力は後に東京電灯に吸収され、更に電力国家管理で日本発送電に摂取され、戦後GHQ の日本発送電の解散命令で後に東京電力となる関東配電に引き継がれ今に至ります。こうした歴史過程もあって大井川水系では田代ダムのみが東電で他は中部電力という形になり、水力の一河川一社の原則から外れております。大井川水系は多数のダムが作られました。余談ですが大井川鉄道は元々電源開発のための鉄道として電力資本で作られたから、ローカル私鉄としては重厚な設備で整備されており、SL列車の運行が可能なのもそのお陰です。

そんな事情からダムの取水で大井川の渇水が問題視され、特に1955年に田代ダムの取水量が当初の毎秒2.92トンから4.99トンに増やすよう東電が静岡県に申請し、静岡県は流域自治体の同意を得ずに認可したために流域住民が反発し、東電や中部電力に河川維持放流を求める運動に発展し、住民の座り込みなど実力行使にまで発展する騒ぎになりました。特に山梨県で発電事業を営む東電の態度は頑なだったようです。1997年の河川法改正で河川環境の維持が義務化されたのを受けて2006年委解決しましたが、水利権問題の解決は半世紀を越えました。

といった係争の歴史を踏まえると、JR東海は将に地雷を踏んだ訳ですが、同時に東電も過去の係争の経緯から流域関係者の了承を前提に協議するとしており、静岡県は東電の協力の確約を求めているということで、JR東海が話をまとめるハードルは高いと言えます。そもそも東電が今償却前収支の赤字、つまりキャッシュフローの欠損という深刻な事態に直面しており、取水制限にすんなり応じられる状況にはありません。という訳ですから、まだまだもめます。

という訳で視界不良な中央リニア事業ですが、河川法改正が大井川の水利権問題の解決を後押ししたように、法律的に打開する可能性は考える余地があります。但しその前にそもそも中央リニア事業の法的位置づけがどうなっているのかについて、あまり取り上げられることはありませんが、問題を多数含みます。

事業の根拠法機は全国新幹線鉄道整備法(全幹法)ですが、元々国鉄が事業主体となる前提で作られた法律で、基本計画線の公示や整備計画策定のための調査指示、分割民営化後に見直され、所謂整備新幹線スキームと呼ばれ、鉄道建設・運輸施設整備支援機構が建設主体となって建設費を国と地方が負担し、事業者は受益の範囲リース料を30年間支払うこと公的負担を軽減する形ですが、中央新幹線に限ってはJR東海が建設主体となっており、公費の投入はない形ですが、そのことがJR東海に地元軽視姿勢をもたらした可能性はあります。

元々1970年に成立した全幹法は高速道路整備と並ぶ国土総合開発計画と連動した国土軸形成のための法律であり、地域開発に資することを目標としている訳で、その観点から見ればリニアのメリットを受けず大井川の水問題に留まらず環境破壊や事故災害時の乗客救援の責任まで負わされる静岡県が反対するもの無理もない話なんですが、死去した葛西名誉会長を筆頭に幹部の国鉄OBが国鉄時代のノリで事業を進めようとして静岡県で躓いたという見方は可能です。とはいえ現実的に静岡県内にリニアの中間駅を設置するのは無理ですし、国鉄流バーター主義では対応できない訳ですね。

加えて言えばそもそも中央新幹線は2011年にJR東海の発議で整備計画線に昇格したように、元々基本計画線の中でも優先順位の低い路線だった訳です。JR東海としては稼ぎ頭の東海道新幹線と競合する路線をJR東日本や西日本といった他社に参入されたくなかったという動機付けが強かったと思いますし、それ以上に一定のシェアを維持する東阪間の航空のシェアを奪って独占したかったということがあります。つまり全幹法を利用した輸送シェア独占を目論んだってことですね。

よく言われる国土強靭化策としての二重化の機能は北陸新幹線に託されており、また東海地震対策という意味ではリニアのルートはほぼ想定震災域に被っており、敢えて中央新幹線を急いで作る必要性は乏しい中で、リニアという技術革新を売りに国に認めされたという意味で、全幹法の趣旨をかなり逸脱した存在であるということになります。

東海道新幹線の輸送逼迫もJR東海ののぞみ増強や品川新駅開業などJR東海自身の追加投資によるもので、実際90年代には輸送量の伸びが止まって一度シェアを落としています。余談ですが日本の上場企業のPBR1倍以下、つまり解散価値以下企業の中にJR東海がリストアップされています。意外ですがPERの水準は高いので東海道新幹線へのてこ入れで資産価値が高まった結果、時価総額を上回ったってことでしょうけど皮肉な結果です。

二重化の観点から言えば来年敦賀まで開通する北陸新幹線の関西アクセスルートで揉めてますが、二重化の観点からは米原ルート一択です。特に難工事が予想される小浜京都ルートは事業費もかかるし整備期間も長くなるし、公費負担分の費用便益比(B/C比)が1を割ると予想される一方、距離が短く建設費も低廉でB/C比も2近く、また並行在来線の湖西線問題でも地元滋賀県との協議の可能性が高まります。三日月知事が唱える交通税も、近江鉄道支援に留まらず湖西線問題に備える意味があるとすれば、納税者に負担を求める滋賀県にメリットのない小浜京都ルートでは論外ですね。JR西日本はJR東海のリニアの躓きを学んでいませんね。

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Saturday, February 25, 2023

宇宙戦争は終わらない

ロシアのウクライナ侵攻直前の宇宙禍族露貧損で緊迫した状況を思い出しますが、結局戦争は始まり未だに続きている状況で、アメリカのインテリジェンス情報の正確さと共に、兵器供与の一方でNATOの参戦には至らない宙ぶらりんな状況は続きます。基本的にロシアが諦めるまで続くと考えられますが、可能性は低いと言えます。

プーチン氏、核戦力増強表明 ICBMや極超音速ミサイル:日本経済新聞
これつまりロシアが米本土に届く核ミサイルなどで戦略核戦力を増強するということで「大きな北朝鮮になる」宣言です。つまり核エスカレーションも辞さずということです。核共有されているNATOエリアも標的になる訳で、こうなると日米核共有を唱えた政治家の不見識が改めて問われます。

これが重大なのはロシアがソビエト時代に核の増強のためにウラン濃縮に励んで大量の未使用濃縮ウランを現時点で保有している事実があるからです。つまり気球騒動の中国が時間をかけて核増強しているより速いスピードで実現可能ということです。共に実現可能性は低いと思いますが、台湾有事より手前の時間軸の問題ということは押さえておきましょう。こうなると日本のサハリン2などロシアのLNG権益も見直しを迫られるかもしれません。

主権国家であるウクライナへ侵攻したロシアが問題なのは言うまでもありませんが、この戦争は穀倉地帯で天然資源にも恵まれ工業化も進みハイテク産業も優位なウクライナを巡る市場争奪戦という意味では帝国主義戦争と何ら変わらない訳で、ロシアを非難するだけでは問題は解決しません。一方ロシア軍の弱さも露呈しており、通常戦力だけで見ればNATOがもし参戦すれば数日で決着するレベルでしょう。

それが出来ないのはロシアの核の脅しが効いているということで、米バイデン政権は「第三次世界大戦にするつもりはない」と言い、ウクライナを支援しながらやり過ぎないように慎重に進めている訳で、核抑止力のリアルを示しています。それに引き換え日本の安全保障の事象専門家たちの「抑止力」の言葉の軽さは眩暈がします。

帝国主義戦争であるということは、所謂グローバルサウスと呼ばれる途上国の賛同は得にくい訳で、実際国連決議でも棄権などで中立を保つ国が多いのは致し方ないことですし、民主国家の普遍価値を唱えても、彼らから見ればグローバル市場で劣位に置かれ不利な交易条件を押し付けられるという意味では西側諸国も中国やロシアも変わらない訳で、どちらか一方を選べという踏み絵のような態度は寧ろ嫌われます。これは冷戦期の第三世界とも違う現実で、世界はバラバラになっているということです。

加えてリーマンショック後の世界的な金融緩和の結果インフレが止まらなくなり、先進国は日本を除いて利上げに動いている状況ですが、資源高やサービス価格上昇に伴う国内労働市場の逼迫でインフレが止まらす、とりあえず好調なアメリカでさえ賃上げが物価上昇に追いつかず実質賃金がマイナスになっている状況です。金融緩和のやり過ぎが原因ですから、当面景気悪化も避けられず、下手すればマイナス成長ということですね。

独裁強化で露呈した中国の成長の限界は失われた中国の始まりでも取り上げましたが、中国の成長が減速する以上に先進諸国のマイナス成長が米中逆転をもたらす可能性も視野に入れる必要があります。とすると軍事力は経済力で規定される以上、アメリカのプレゼンスも相対的に弱くなるということですが、防衛費増でアメリカに恭順の意を表せば安泰という構図も変わってきます。そして当のアメリカはといえば。

米中貿易、4年ぶり過去最高 日用品・食品など依存高く:日本経済新聞
気球の地政学でも取り上げましたがアメリカが問題視するのは中国による通信のバックドア設置であり、各種ハイテク兵器の性能向上でありという訳で、そのチョークポイントとなる先端半導体を渡さないことは重要ですが、一方で廉価な日用品の調達には製造拠点としての中国が欠かせないし、一方経済成長で国民の肉食嗜好が強まった結果、飼料用穀物は安価なアメリカ産抜きには成り立たないという双方の事情があって貿易拡大に至った訳です。

という訳で日米韓台のチップ4と呼ばれる半導体連合で日の丸半導体復活をぶち上げる日本ですが、アメリカが求めているのは中国への半導体関連の輸出を内外を問わず米当局に申請して許可を得ることであって、認められれば輸出は可能です。そして半導体製造に欠かせない露光装置の世界大手ASMLに立地するオランダも巻き込んでおります。しかもEUに諮らずオランダ政府と協定を結ぶ形になっております。これは先端半導体に欠かせない深紫外線(DUV)露光装置はASMLが独占しているからです。

というぐらいにエグイ対応をしていますが、大乗り気の台湾TSMLは最先端分野は台湾に残し中程度の製品を米独日に建設中の拠点へ移して最先端技術は手元に残しつつ各国の補助金はしっかり受け取るといういいとこ取りをしている一方、台湾有事には疎開先として活用することも見越して米アリゾナやドイツの工場は大規模なものになっておりますが、熊本県菊陽町のTSML熊本工場は小規模で主に近くのソニーセミコンダクタの画像センサー用のチップ製造への便宜で選ばれた立地で、半導体関連企業が我先に進出を競った結果地価3割アップで建設工事受注でゼネコンがお祭り状態で大阪万博パビリオン建設が進まないのは怪運国債市場の蓋でも取り上げました。というぐらい確かに半導体で盛り上がっておりますが、不便な熊本空港を巡って高規格の都市高速道整備とともに鉄道整備も動き出しております。

熊本空港アクセス鉄道、肥後大津ルートに 県検討委判断:日本経済新聞
いやホントお祭り状態ですが、日の丸半導体復活は微妙でもゼネコンのお祭りは当分続きそうです。なにわ無くともくまモン半導体。将にオバケ、空騒ぎのおバカにならないことを祈りましょう。

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Saturday, December 31, 2022

リニア60年のウヨ曲折

2022年も間もなく終わります。国鉄が浮上式リニアの開発に公式に着手したのが1962年ですから、今年は60年の節目だったのですが、現実のリニアは暗礁に乗り上げております。サイドバーで紹介している国商 最後のフィクサー葛西敬之:森功著 講談社刊で要領よくまとめられておりますが、静岡県の反対で静岡工区未着工だけではないリニアへの逆風は複雑怪奇な様相を呈しております。詳しくは後述しますが、葛西敬之JR東海名誉会長の死と、安倍元首相の死で流動化している政治状況が先行きを不透明にしています。

葛西氏の政治との関わりは深く、第二次安倍政権以降、官邸官僚の人事を巡って管政権、岸田政権にも引き継がれています。更にNHK人事への介入を通じたメディア支配もあります。加えて大広告主として広告出稿を通じた新聞、雑誌の言論封殺で、リニアを巡る不都合な報道は殆ど見られませんが、コロナ禍によるリモートワーク定着もあってリニアが見込むビジネス需要に陰りが見られる一方、JR東海の強引な姿勢が実現可能性を下げている現実もあります。

例えば大井川の水問題ですが、南アルプストンネルの湧水を全量戻すことで静岡県とJR東海は合意している筈ですが、JR東海の言い分はあくまでも工事衆力後の話で、トンネル掘削中の10か月ほどの期間は除外ということで「話が違う」となり静岡県が怒っている訳ですが、それをJR東海は「静岡県が無理難題を言う」として取り合いません。これは南アルプストンネルの構造からくる問題なんですが、山梨坑口から上り勾配で掘削すると、トンネル内の湧水は山梨県側へ流出する訳で、大井川へ戻すことは物理的に不可能ということです。

これは南アルプスルートでの建設を決めたことに由来する問題ですが、東西坑口を水平に結ぶと土被り3,000mにもなり、土圧でトンネル掘削自体が困難なため、東西両坑口から最大40/1,000の勾配をつけて最大土被り1,400mに抑える為です。山岳トンネルとしては大清水トンネルで1,300mの実績もあり、東海北陸道飛騨トンネルが1,000m以上の土被りの難工事の末2007年に貫通したことで、最短距離の南アルプスルートが選ばれたと言われています。しかし中央構造線をはじめ多数の活断層を横切る難工事が予想されていましたし、実際大井川の水問題もその1つではありますが、問題はそれだけに留まりません。

水問題については東電田代ダムで取水して山梨県側へ流す量が多く、その取水量を調整することで対応可能ではあり、実際JR東海からも提案されてますが、経産省の同意が必要で手続き上の難易度は高いです。加えて急岐な南アルプスの地形で大量のトンネル残土が出る訳で、それを運ぶダンプカーが通れる工事用道路の建設も、環境アセスメントをクリアするハードルは高く困難ということもあります。加えてJR老獪の高飛車な態度が県民を怒らせてきたということもあります。

加えて都市部の大深度地下工事を巡る不透明さもあります。仲良きことは美しき哉かな?で取り上げた調布市の陥没事故の影響で都市部の鉱区も着工が遅れています。こちらも事業主体の東日本高速道路の不誠実な態度が住民を怒らせており、簡単に幕引き出来る状況ではありません。また岐阜県工区の斜坑の落盤事故で死者も出してますし、神奈川工区など他の工区でも工事は遅れています。実は静岡県の反対がフィルター効果となって報道されていないだけで、巷間謂われるように静岡県知事が代われば解決とはなりません。

国鉄時代から開発が続けられた磁気浮上リニアですが、延長7kmの宮崎実験線で繰り返し試験を続けてきて、次のステップとしてより長い実験線が必要として宮崎実験線の延伸も検討されながら、将来中央リニア新幹線に繋がるという理屈で山梨に実験線が作られた訳ですが、金丸信自民党幹事長の意向が働いたと言われています。

一方で自民党林喜朗議員の後押しで運輸省と日本航空がHSSTという常電導リニア計画を持ち上げました。ドイツのトランスラピートのライセンス契約で目標最高速300km/hで、羽田空港と成田空港を結んで国内線と国際線の乗り継ぎを狙ったものらしいですが、シーメンスへのライセンス料支払い問題は会計検査院に指摘され国会でも問題になりました。日航が政府全額出資の特殊会社だったことからこうなった訳です。

結局日航は事業化を諦め、ライセンスは三菱重工へ引き継がれ、愛知高速交通東部丘陵線(通称リニモ)で実用化されましたが、最高速100km/hに留まります。しかし愛知万博の会場となった海上の森の丘陵地帯を抜けるルートはアップダウンが激しく、通常鉄道では整備が難しかったかもしれません。ちなみに最大勾配は60/1,000であり、磁気浮上でレールと車輪の粘着限界に影響されないからですが、逆に言えば中央リニアも60/1,000の急こう配を取り入れれば難工事は幾らか緩和された可能性はあります。

これ金丸信氏の鶴の一声で決まった山梨実験線をJR東海が引き受けるにあたって、中央新幹線が全幹法の基本計画線であることから、技術開発途上のリニアの実現可能性から通常の徹軌道式での整備も視野に入れた結果、粘着駆動の通常Y鉄軌道方式でギリギリ許容できるのが40/1,000ということのようです。つまり当初必ずしもリニアには拘ってはいなかった訳で、寧ろ東海道新幹線のバイパス線としてJR東海が一体運営すべきということで中央新幹線の権利を確保する目的だったようです。整備新幹線としてならばJR東日本に持っていかれる可能性があったことをブロックした訳です。

高速試験車300X系は中央新幹線を350km/hで走行する前提で設計されたもので、リニアの実現性への保険だった訳です。その成果は700系以降の新系列車に引き継がれてはいますが、隠れた意図があった訳です。それがリニアに傾いたのは技術開発の進捗が想定以上だったということに留まらず、日本の技術力を世界に知らしめるという葛西氏の右派的な思想によって目的自体がシフトしたことも指摘できます。

東海道新幹線の過密ダイヤは度々話題になりますが、実際には関西国際空港の開港や夜行高速バスの充実で輸送量が停滞した時期がありました。それを突破したのは品川新駅開業とのぞみ大増発によるJR東海自身の需要掘り起こしの結果であり、その原資は新幹線買い取りによる減価償却費の拡大と、その買い取り価格への政府へのイチャモンで認められたのぞみ付加料金の設備更新費用としての無税積み立て金です。

後者は買い取り価格の査定が減価償却されない地価部分が多くなることで設備更新が滞るという理屈で、長期運休を想定した設備更新の費用に充てるとしていましたが、認められると一転、長期運休無しでも設備更新は可能としてテヘペロしたりしております。JR東海の強引さや不誠実さを示す事実は事欠きません。

最後に森功氏の前掲書で示された仮説が、葛西氏が6年前に間質性肺炎で余命5年を宣告された直後に3兆円の財投資金受け入れを決めたのではないかということです。財投資金投入自体は当時の安倍首相の提案で、アベノミクスで中身がないと言われてきた成長戦略の目玉としてリニア大阪延伸の前倒しが検討され、税制優遇、補助金、財投資金提供の3案が財務省内で検討され前2者は法改正を伴い特に黒字企業のJR東海が対象となると日は安を浴びるとして財投案に落ち着いたということで、裏付け取材もされており、信ぴょう性は高いと言えます。お陰でJR東海がリニア事業を見直すことは困難になっております。

しかしこれが鈍器法定で取り上げたリニア談合事件のきっかけとなります。財投資金の投入で公共性ありと判断されて民間工事の談合事件として立件された訳です。当初立件は困難と言われましたが、リーニエンシー制度で大林組と清水建設が制裁を回避する一方、この2社と大成建設、鹿島建設とを分離公判で前2社を先に有罪化kていさせるという検察の公判テクニックで一審をクリアしております。とはいえそもそも難工事だらけのリニア事業でゼネコンも利益確保が難しく、こうした事件が発覚するのはある意味JR東海が見限られつつある結果とも言えます。日航HSSTの失敗とも通じます。

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Saturday, October 22, 2022

ドルは我々の通貨だが

1971年の米ドルの金交換停止、つまり米ドルが金の裏付けを失うニクソンショックの混乱で世界から批判を浴びたニクソン政権のコナリー財務長官がタイトルのような返答をしたと言われています。米ドルはアメリカの通貨だからどうしようが勝手、それで影響を受けるというのはその国の経済政策に問題がるからだ、ということですね。

昨今のドル高に対する批判を受けて、バイデン大統領や政府高官の発言が、ドル高容認、問題はその国の経済政策と異口同音に発せられており、ドル安の起点となったニクソンショックとは逆の局面で同じニュアンスなのが何とも。という訳で円安の不都合な真実を逆の視点で見てみようということです。

「多くの通貨、大きく変動」 G20財務相会議が議長総括:日本経済新聞
12~13日にワシントンで開かれたG20財務相会議で議長国のインドネシアが名指しは避けつつも、ドル高の影響が世界に拡散していることに言及したものです。というのも97年のアジア通貨危機の記憶があるからですね。

当時工業化で投資が活発だったアジア各国はドル建て債務を膨らましていた中で、クリントン政権のルービン財務長官の進言で強いドルは国益とするドル高政策が採られた結果、債務膨張して返済に窮した経緯があります。このときの経験から日本主導で外貨準備を融通し合うチェンマイイニシアティブという通貨スワップ協定が作られますが、アメリカに振り回された記憶は生々しく残っている訳です。ジャカルタ―バンドン間の高速鉄道プロジェクトが中国勢が落札し日本勢が敗れたなんてこともありましたが、日本勢がドル建ての資金計画を提案していたとすればそれが嫌われた可能性はあります。大国に振り回された歴史故に大国間のバランスを重視する姿勢なのかもしれません。

中国に関しては一帯一路の債務のわなが言われ、スリランカがz財政破綻に追い込まれたことがr取り上げられてますが、実際は債務に占める中国のシェアは10%程で、元々放漫な財政運営だったってこともありますし、元々一帯一路は国内消費が低調な中国で現高による余剰資金の活用策としての海外投資という側面が強かったので、新興国にとっては元高が債務を重くした側面もあります。そう考えると今のドル高とどう違うのかは微妙です。

加えて今回のドル高は資源高と連動しているので、資源輸入国には特に過酷ということもできます。原油価格こそ下がりましたが、石炭や天然ガスは高止まりしており、コバルト、ニッケルなどのレアメタルや肥料原料のリンなども値上がりしています。70年代の2度の石油ショックでは米ドルの下落がバッファとなっていたこととは様変わりです。特にウクライナ紛争のあおりで欧州のガス価格が急騰しており、逆にアジアは中国がロシア産LNGの輸入でアジア市場の需給は緩和してますから、欧州により過酷ということも言えます。ドル高放置はアジア危機以上の経済ショックを引き起こす可能性がある訳です。そんなアメリカに不満も言えない日本はといえばステルス介入のようです。

政府・日銀が円買い介入 7円急騰、151円台から144円に:日本経済新聞
前回と異なり今回は予告なしですが、政府としては投機の動きをけん制したいということでしょう。限られた外貨準備の中ではできることも限られますが、前回同様元に戻るのか確実ですから、逆に投機筋は介入の逆張りで円売りドル買いを仕掛ければ確実に儲かります。介入は寧ろ投機筋を呼び込むことになります。加えて介入資金として米財務省債を売れば米長期金利の上昇で日米の金利差が開きますから円安を助長します。
貿易赤字、4~9月過去最大の11兆円 資源高・円安響く:日本経済新聞
資源高をきっかけに貿易赤字転落ですが、その結果の円安が貿易収支をさらに悪化させ、9月の貿易赤字2兆円は所得収支黒字を相殺する水準で経常収支赤字まであと一歩の水準です。つまり実需に基づくファンダメンタルズを反映した円安ですから、介入は無意味です。打つ手があるとすれば日本企業の海外法人が抱える海外内部留保を国内送金して円買いを促すぐらいでしょうか。その為には国内で成長の種を見つける必要がありますが、栗鼠殺し?で指摘した行政DXのデタラメぶりを見ると無理かなと^_^;。

マイナンバーカードの問題点で言えば、マイナンバーを公的部門が管理する個人データへアクセスする為のキーとして紐付けすれば、各省庁や自治体などの個々のシステム自体はスタンドアローンで良い訳で、その方が特定個人のデータを不正に集める手間が増えてそれがセキュリティを高めます。それを本人が手元で管理することで、いちいち同意を得る手間が省けますし、仮に紛失してもマイナンバーの紐付けを停止して新たに発行したカード番号に紐付ければよい訳です。子供や高齢者も携帯するとすれば、これぐらいシンプルなシステムの方が使い易いしランニングコストも低い訳です。こういうシンプルな発想が出来ずに下手に高機能を狙って淘汰された国産携帯電話などなどこの手の話は枚挙に暇がありません。

どうすれば日本人の賃金は上がるのか (日経プレミアシリーズ)で著者の野口教授は日本ではイノベーションが起きず生産性が上がらないから経済成長できず、結果的に賃金が上がらないと容赦がありません。その原因の多くは制度に由来する市場機能の祖語にあるということです。ひょとしたら日本企業自身がそれを知っていて海外収益を国内投資に回せないという判断をしているとすれば、円安をもたらすファンダメンタルズの改善は絶望的に困難ってことですね。

思い当たるのは例えば東芝ですが、国内事業で利益が出ないから原発輸出で巻き返そうとしてウエスティングハウスを買収したら財務ボロボロだったとか、三菱電機や日野自動車の検査不正のようにコストセンターの検査部門に圧をかけて利益確保に動いたとか、まだいろいろありますが、国内事業で行き詰っていたことは間違いないでしょう。海外展開する製造業大手でこれですから、内需関連企業はさらに苦しいのかと思えば、実は電力、ガス、通信などの参入障壁のある規制業種の特に男性正社員の平均賃金が高いという分析があります。

これ交通事業もかつては地域独占を保証されておりましたが、鉄道は自動車や航空との競争環境で独占が崩れております。それでも動力車運転士のような免許業種では高賃金ですが、整備や保線などは必ずしも当てはまらず、それが例えばJR北海道や富山地方鉄道のような事故を繰り返す事業者を生み出すことに繋がるのでしょう。ちなみに富山地方鉄道は鉄道営業キロ100km余でほぼ東急と同等です。

段階的に参入規制が緩められたバス事業では90年代半ばからバスドライバーの賃金が顕著に低下しております。その結果ドライバー不足を助長し、大都市部を含めて減便や廃止が相次いでいます。また新免事業者の中には運行管理に問題を抱える事業者も見られます。そんな現状を示すニュース2つです。

長時間労働認める、処分へ 愛知の炎上バス運行会社:日本経済新聞
静岡バス横転、ブレーキ多用で過熱か 急勾配の「難所」:日本経済新聞
三位一体で原罪侵攻系で取り上げた名古屋のあおい交通の炎上事故で、長時間勤務を認め、運行管理に問題があったとして処分必至の状況となりました。クラブツーリズムの下請けの美杉観光の事故ではフットブレーキ多用によるフェード現象が原因ではないかと言われています。ドライバーが26歳と若く、このコースの乗務は初めてということで、経験不足が言われています。

下り勾配でのフットブレーキ多用の危険性はドライバーとして常識に属しますし。大型ディーゼルバスですからエンジンブレーキも強力ですし、補助ブレーキ装置として排気リターダも装備されている筈ですが、不慣れで活用できなかった可能性があります。需給調整規制の緩和で競争環境が生まれたことは悪いことではありませんが、そのしわ寄せがこういう形で起きるとすれば、交通事業の規制緩和は慎重であるべきでしょう。同時にMaaSなどで自動運転に期待がかかりますが、安全を担保するハードルは高いと言えます。世界的には交通事業への公的支援は半ば常識でもあり、独立採算の見直しも視野に入れる必要があります。

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Saturday, August 06, 2022

インフレなんだよ愚か者

米下院ペロシ議長の台湾電撃訪問が波紋を呼んでいます。米政府はペロシ議長に米国の台湾政策を丁寧にレクチャーしていたそうで、おそらく自発的に撤回して欲しかったと思いますが、対中強硬派のペロシ議長を翻意することには至らず、寧ろ秋の中間選挙で劣勢が予想され、下手打てばトランプ復権になりかねない危機感から、わかりやすい国民向けアピールを意識したのでしょう。実際政府は訪台自体を止めてはいないようです。

結果は中国による台湾周辺での大規模演習ですが、ペロシ氏が台湾を離れた4日からということで、事前通告されてましたし、規模の大きさは異常ですが、一応国際法上の手順を踏んで直接衝突を望まない姿勢を見せております。中国の本音はトランプ政権時代の中国ハイテク企業制裁や制裁関税など一連の中国敵対政策の緩和っを探ることですし、それ故にロシアのウクライナ侵攻の支援にも慎重です。またアメリカ自身も中国との全面禁輸を望んでいないし、実際2021年の貿易額は増えています。ウクライナ問題で手一杯のアメリカにとって、いま中国を刺激することは不利益でしかないのが現実です。

バイデン政権にとっても中間選挙で民主党が議会多数派の地位を失えば身動きが取れなくなり、ひいてはトランプ復権に至ることは避けたい訳ですが、コロナ問題で成果を上げても評価されず、寧ろ9%を超えるインフレで国民の不満が高まっている状況があります。インフレ退治はFRBの役割ですが、政府としてはガソリン税免除や対中制裁関税の解除ぐらいしか打つ手はない訳で、特に後者は国民世論を逆なでしかねないので手を付けられず手詰まりという状況です。

中国もアメリカ製半導体の供給制限で国内製造業が足踏みしている状況を抜け出したい訳で、更にセロコロナ政策で経済が停滞し、不動産バブル崩壊で内需を牽引してきた不動産業に暗雲という中で、アメリカとの対立は避けたいけど、流石に三権の長の台湾訪問は面子丸つぶれで国内世論が沸騰してますし、装備の増強が進む一方で協力案トップに頭抑えられている軍関係者のストレスもあり、ガス抜きせざるを得ない事情があります。故に今回のことが軍事衝突につながる可能性は低いですが、米中どちらも国内しか見ていない危うさはあります。

てことでEEZにミサイル落ちたと騒ぐ日本は自重した方が良いし、どちらも外せない経済的パートナーなんだし本来米中の中に入って取り持つことが必要なのにアメリカべったりの姿勢を見せている点を危惧します。中国からは挑発にしか見えないですからね。一方でロシアに見下り半突き付けられたサハリン2には未練たらたらですが、ロシア産原油が中国やインドに流れてその分国際石油市場の需給が緩んだことから原油価格が下がっているように、仮にサハリン2の天然ガスが中国に流れたとしても、その分中国が最大の輸入国となったアジアのLNG市場の需給が緩和する訳ですから、寧ろ別の調達先を探した方が現実的です。それより国内に問題だらけなのを何とかしてほしいところです。

KDDIが開けたネットワーク社会の「パンドラの箱」:日本経済新聞
ちょっと前のニュースですが、重大な問題を含んでいます。通信トラブル自体はソフトバンクもドコモもやらかしてますが、KDDIの場合自動車メーカーとの関係が深いこともあり、カーナビなど携帯以外の端末も多数接続しているということでIoT関連での問題が意識されましたが、ルーター交換という半ば日常業務的なメンテナンスでのトラブルであり、当初音声通話の15分の遮断で復帰させる為に旧ルーターに戻したところ、遮断中の接続リクエストが集中して回線の輻輳が起きて音声以外のデータ通信にまで波及したと説明されてます。

こうした異常事態は起こり得る訳で、その為に欧州では他社回線に迂回するローミングが実現している訳ですが、日本では出来ていなかった訳です。一応検討は行われたようですが、119番などの緊急通報で回線が切れた場合にコールバックが困難ということで見送られたそうです。つまり他社回線を使うと緊急通報した端末を特定できないということです。これつまり通信事業者間で契約者情報が共有されていないということです。政府が事業者間の競争を促すあまり事業者の契約者囲い込みが影響していると見られます。携帯料金下げてドヤ顔の管さんあたりに責任あるんじゃないの。

それ以上に無線通信の脆弱性を明らかにした点が問題です。つまり日本にサイバー攻撃仕掛けるなら携帯基地局狙えば良いということを明らかにしてしまった訳ですから。企業ユーザーの中にはJALやJR貨物のように複数キャリアの回線を確保して対応したところもありますが,例えば自動運転など全てのユーザーが同様の対策を採れる訳でもありませんし、今後5Gの普及で工場の機械や建機など多数の端末が接続するようになればなるほどリスクは増します。

洋上風車欧州大手が日本工場建設保留 納入先の公募落選で【イブニングスクープ】:日本経済新聞
有望とされる洋上風力発電の1回目入札で三菱商事グループが安値受注で案件を独占したことから、急遽入札ルールが見直され、三菱商事排除の気配が漂いますが、その結果入札条件が厳しすぎるとしてデンマークの風力大手べスタスが日本国内の製造拠点建設を保留し、当面独シーメンスの代理店としての活動に留まることになりました。巨大風車や発電機は輸送コストが高くつくので現地生産が基本であり、欧州大手の進出はその意味で遅れている日本の洋上風力発電の推進役と期待されていたところを実績の乏しい国内勢のさや当てで潰す愚という意味で通信ローミング問題と通底します。
EVバス世界で快走、中国製席巻 日本は水素重視で出遅れ:日本経済新聞
中国のEVバスが世界で走っています、日本でも導入例が増えておりますが、水素重視で出遅れは嘘です。日本独自のホイールモーター方式の電気バス開発は早くから行われておりましたが、政府もメーカーもガン無視でいつしか立ち消えとなりましたし、トヨタのSORAより10年以上前から欧州産の水素fバスは走っておりました。欧州では水素=再エネ電力由来のグリーン水素ということで、化石燃料由来の日本の水素戦略とは別物で、細々とながらジワジワ普及しています。ある意味中国は欧州とすみ分けて市場を取りに行っている訳で、日本に足りないものが良くわかる話です。
火力・原子力「夏バテ」懸念 猛暑や水不足で出力減:日本経済新聞
気候変動で風が弱くなって風力発電の出力不足が言われて再エネは頼りにならないとか言われましたが、欧州の熱波で渇水による停止や水温上昇による出力低下で火力も原子力も役に立たないのが現実です。水の豊富な日本では考えにくいですが、化石燃料依存による経済社会の破壊は底知れません。日本でも線状降水帯による水害で大変なことになってます。安定の再エネ電源の筈の水力発電もいつまで頼れるか。

そういう意味で欧州の脱炭素は本気度が違います。再エネ中心のエネルギー自給にいま取り組まなければ未来はないぐらいの認識がある訳です。その意味でエネルギー価格の上昇は苦しいけれどパラダイムシフトのチャンスととらえてもいる訳です。勿論各国で温度差はありますが、一方でユニークな政策も打ち出されております。

車社会ドイツ、電車乗り放題券 インフレ対策で脱炭素も:日本経済新聞
ガソリンなど燃油高によるインフレ対策と脱炭素を組み合わせた政策としてドイツ国内の鉄度やバスなどの公共交通乗り放題定期券を9ユーロで売り出したもの。日本円換算で1,200円程度ですから青春18きっぷよりも安い上、連邦政府の財政支援で実現したところがミソ。つまり典型的なワイズスペンディング出あり、JR各社の割引サービスでは実現できないレベルの割引ですね。

NationalRail幻想で指摘した公金によるサービスの購入をやっている訳です。同時にイギリス以外の欧州も8%台の高インフレに悩まされており、インフレをカバーする賃上げ要求でストが頻発して経済に支障が出ている状況です。とはいえ賃上げはインフレを昂進させるスパイラルに陥る可能性もありますし、給付金なども需要を押し上げてインフレ圧力を高める訳ですから、政府によるインフレ抑止は難しい訳ですが、コロナ禍で利用が減った公共交通支援を兼ねてガソリン価格に負荷をかけず国民の福利を高めつつ脱炭素も実現するというんのは、流石緑の党が与党に入っているが故のアイデアでしょうけど、日本ではこういう議論はほぼ皆無です。英ジョンソン首相もインフレで職を失った訳ですし、インフレ対策は各国政府にとっては鬼門でしょうけど、アメリカでもコロナ禍で利用が激減したニューヨーク地下鉄で運賃値下げを行ったりしている訳で、打つ手がない訳ではありません。

てことで1992年の米大統領選に勝利したクリントン陣営のフレーズに倣って言えば It's the inflation, stupid. 「インフレなんだよ愚か者」

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Sunday, May 01, 2022

止まらないインフレと鉄道運賃

異次元円安が止まらない結果として必然的にこうなりますが、唯我独尊の黒田日銀です。

円安阻止より金利抑制 日銀、長期緩和抜けられず:日本経済新
国債金利上昇を抑えざるを得ないからこうなる訳ですが、財政ファイナンスを続けた結果、金融政策の選択肢を失っている訳です。当然円安は進みます。化石燃料以外にもニッケルやパラジウムなどのレアメタル類、化学肥料原料のカリウム等、小麦などの農産品と、紛争当事国由来の資源は枚挙に暇がなく、資源価格高騰と円安の相乗効果で輸入インフレは避けられません。にも拘らずインフレ退治より放漫財政の尻拭いに勤しむ日銀です。結果的に円安がますます進む訳です。
太陽光の電気落札価格、火力の半分以下 再エネに追い風 主力電源化には課題も:日本経済新聞
コントロール不能な構造要因によるインフレですから、回避策も構造変化をもたらすものが望ましい訳ですが、火力発電のコスト増の結果としてこういうことが起きる訳です。勿論再エネの有効活用には蓄電や系統電力の広域連携などの対策が必要なんですが、原発再稼働を前提とした送電線容量配分の固定化などで再エネ活用が進まないのは電気が足りない言い訳じゃないで指摘した通りです。

石油元売りに補助金配るよりも、こうした投資を進めることが結果的にインフレ対策に繋がります。ガソリン価格よりも電気代、ガス代の値上げの方が家計には負担になる訳ですし、国内投資をを後押しすることで経済対策としても効果があります。ガソリン価格に関しては家計支出の0.5-3.5%程度で、公共交通の利用度などから都市部と地方とで比率にばらつきがありますが、だからこそ目先のガソリン価格を抑えるよりも、地方こそ家庭用蓄電池を兼ねたEV普及を補助金で後押しするといった対策の方が望ましい訳です。

一方で公共交通はコロナの影響をもろに受けて苦しんでいる訳で、鉄道の場合原油高の影響は軽微ながら、元々大量輸送を前提とした装置産業の性格があるため、乗客減少は不採算ローカル線を維持する内部補助を困難にしますし、設備の維持費の捻出も困難になります。加えてテロ対策やバリアフリー対策など社会的に要請される投資も求められますから、現行の運賃制度の範囲では対応が困難になっています。故に鉄道運賃の制度改革が検討されています。

鉄道運賃変えやすく 国交省検討、時間帯で柔軟に ピーク緩和で投資負担抑制:日本経済新聞
国交省から審議会に諮問され、6月下旬に方向性をまとめることになっております。主な論点は現行の総括原価方式を維持しながら時間帯などによる柔軟な運賃設定を可能にすることや、コスト増による運賃改定の手続きの簡素化といったことになります。

現行の総括原価方式は、必要なコストを積み上げた原価に標準報酬率2&を上乗せした総括原価と運賃収入がバランスする水準の運賃の認可を受けるもので、鉄道事業者は収支見通しを示して申請し国に認可を受ける形となります。かつては収支見通し期間1年で、高度成長期のインフレに対応して改定申請が出されましたが、政府のインフレ抑制政策で値上げ幅を抑え込まれたりして、結果的に通勤ラッシュの混雑緩和のための輸送力増強投資が抑制されて満員電車が東京名物になる訳ですが、政府による価格統制の弊害でした。

それでは混雑緩和が進まないということで、私鉄による新線建設に対しては輸送原価増に対応した新線区間に対する上乗せ運賃が認められっるようになり、また線増などの輸送力増強策に対しては特定都市鉄道整備促進特別措置法、通称特特法で、認可運賃に10円程度の少額の上乗せ運賃を認めることで、輸送力増強投資を促進する狙いです。これ既に制度化され来年3月施行のバリアフリー新法も同様のもので、既にJR東日本の電車特定区間と東京メトロで導入が決まっております。

運賃制度はその後幾つかの変更が為されており、総括原価見直しのための収支見通し期間が3年に伸びて頻繁な改定を抑止する一方、認可運賃を上限運賃として軽微な値引きを届出で対応できるようにするといった柔軟化もありますが、同時にヤードスティック規制で事業者の経営努力を引き出す仕組みが組み込まれました。これはJR旅客会社、大手私鉄、大都市地下鉄、地方中小私鉄などの類型別に適正運賃水準を設定してそれを下回る事業者に対しては合理化努力などで生じる超過利潤の半分までの益金算入を認めるもので、コスト削減のインセンティブとする狙いですが、恣意性は否定できず、路線の立地条件によってバラツキますから、公平性は必ずしも担保されません。

運賃設定の柔軟性に関しては既に特急列車の座席指定料金の繁忙期と閑散期の価格差をつける形で実現しており、JR東日本などで最大300円の価格差をつけていますが、航空運賃並みに季節や列車毎に需要に応じた価格設定ができるようにというダイナミックプライシングの考え方の導入の可否が1つあります。一方JR東日本と西日本が要望しているのはオフピーク定期券のような仕組みで、時間帯をずらすことで割引運賃が適用される一方、制限のない現行の定期運賃は値上げするというものです。但し現行制度では定期運賃も上限運賃として認可されていて、それを越える値上げはできにくい仕組みです。

あと運賃改定の頻度を下げる目的の収支見通し期間3年というのも、コロナ禍のような予測不能な事態に対しては予測の困難さがある訳で、ある程度の乗客の戻りは予想できるとしても、完全に元に戻ることまでは見通しにくい訳です。その中で東急が上限運賃改定申請をし、近鉄がそれに続きました。見通しが不透明な中ですから、認可する側の国交省の判断も難しくなりますが、どういう判断になるか注目されます。

加えて地方ローカル線の存廃問題もあり、現行JR地方交通線運賃の水準では存続不可能な路線は今後も増えると思われます。JR西日本が乗車水戸づ2,000人以下のローカル線の営業益数を公表して物議を醸してますが、同水準の地方中小私鉄が維持されていることを根拠にJRの企業努力が足りないという議論は、運賃水準の違いを無視したものです。例えばかつて大野まであった京福越前本線が勝山以遠廃止された事例のように運賃差でJR越美北線に乗客が流れたとか、前橋―霧生間で競合するJR両毛線と上毛電気鉄道でもJRが輸送量だ圧倒しているとかということがあります。逆に言えば廃止を打診されたローカル線の存続のために運賃上乗せが認められるならば、ローカル線存続のメニューの1つにはなります。

という訳で、鉄道運賃も過去には政治に翻弄されてきましたが、今や寧ろ柔軟化などで自由度が増す方向に議論が進んでいます。オフピーク定期券の議論ではピーク対応の輸送力増強投資を抑制する狙いもある訳で、人口減少を睨んだ現実を踏まえれば、方向性としては鉄道運賃も上がる方向ということは避けられないでしょう。その意味でインフレは寧ろ事業者には好都合かもしれません。

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