火照るカリフォルニアの迷宮
氷河期世代が社会保障弱者*1という現実と共に、在日外国人も同様の問題がありますが、政府が見直しに動きます。
外国人の国民健康保険滞納防止 在留審査に納付状況反映、27年度にも - 日本経済新聞在留審査強化に繋がるだけに制度設計に注意が必要ですが、自治体のシステム改修を国が助けて漏れを防ぐことと共に、記事の末尾に重要情報が記されてます。
国保の総医療費や高額医療費支給額に占める外国人比率はいずれも1%台で被保険者に占める割合より低い。オンライン記事は有料会員向けで全文を読むにはハードルがありますが、近くの図書館で紙面の記事で確認できます。「外国人が日本の健康医療保険にただ乗りしている」という外国人排斥の言説が間違っていることを示す事実です。冷静に考えれば高齢化が進む日本人よりも国内で働く外国人の方が平均年齢は低く、医療アクセスの必要性は低いから当然なんですが、外国人に保険料負担をしてもらうことで、現役世代の負担を軽減できる余地があるなら、外国人を排斥するのではなく共に社会を支える仲間として包摂することは結局国民を利することになります。
この点は移民問題で揺れる欧米が移民排斥に揺れている現状を見れば尚更、社会的摩擦の軽減を真剣に考えることは重要です。そしてそんな移民問題で揺れる米カリフォルニア州は、全米50州でも移民に寛容な州として知られています。元々農業が盛んな土地柄で広い耕作地を耕すのに必要な労働力需要が強かったってこともありますが、スペインの植民地から独立した第一メキシコ帝国が共和国となり、一方アメリカ入植者によるカリフォルニア共和国独立宣言がきっかけで米墨戦争となり、メキシコがアメリカに割譲する形で31番目の州となるという歴史過程もあり、元々ヒスパニック系住民が多かった土地柄です。そしてその結果全米50州のうち人口1位(約4000万人)で且つ国のGDPに相当する域内総生産規模も最大で、国に喩えればドイツ*2に次ぐ世界第4位*3に位置します。人口2/3のドイツに続き人口1/3のカリフォルニアにも抜かれる日本。
カリフォルニアはシリコンバレーに代表されるハイテク企業の集積地でもあり、米国産スマホや米国内クラウドサービスその他で生じるデジタル赤字の相手側でもあり、日本のお陰です^_^;。同時に世界から優秀な人材が集まる移民に寛容で、大学を中心に東海岸とは異なるカウンターカルチャ—がインターネット時代にフィットしたこともあります。意外な一面としては鉄道王国だった過去でしょう。特に Pacific Electric Railways という大手事業者が州内に路線網を巡らいせていました。同社はトラムから発展したインターアーバンで電気鉄道だったこともアメリカでは特異な存在でした。
インターアーバン自体は一種のブームで他州にも波及しましたし、日本も影響を受けてます。京成、京王、京急、名鉄、近鉄、京阪、阪急、阪神の大手各社は軌道で開業したインターアーバンの歴史を踏んでますし、地方でも九州電軌(西鉄北九州線)、豊州電気鉄道(大分交通別大線)、兵庫電気軌道(山陽電気鉄道)、越中鉄道(富山地鉄井水線、万葉線)、複武電気鉄道(福井鉄道)など多数の追随者が現れました。
その存在故にクルマが売れないと一計を案じたGMが同社を買収し、減便また減便のダイヤ改悪で客離れが起きて廃止に追い込まれ、その代替輸送を担うバスを売り、農家向けのピックアップトラックを売り、日常の足としての乗用車を売り、全米屈指に自動車社会となりました。その結果ロスアンジェルス都市圏の交通渋滞は深刻で、それが通勤時の相乗りで自動車税を割り引く制度が早くから導入され、また排ガスによる大気汚染対策で厳しい排ガス規制を全米に先駆けて導入し、後の連邦マスキー法へと繋がります。同法を最初にクリアしたのがCVCCという排ガス浄化システムを実装したホンダ1300で四輪車シフトを成功させ、米ビッグ3の没落に繋がったのですから皮肉です。
また所謂ゼロエミっションビークル(ZEV)規制もカリフォルニアで始まり、今でも専任のボードメンバーが時代とともに規制内容を見直し、新車販売時のZEV比率を徐々に上げ、上回った分の権利の売買でEV専業のテスラが大金を手にして他社を突き放す原資を得ました。一方ビッグ3は権利を買えばとりあえず目先はクリアできるからEV開発に本腰が入らず取り残された訳です。
加えてロスアンジェルスの相乗り減税制度は結果的に通勤ラッシュの緩和策として機能し、多くのオーナードライバーが家族でもない他人を乗せて走ることが定着したことで、ウーバーなどのライドシェアが受け入れられる土壌があったと言えます。それがない日本にライドシェアを移植することは簡単ではない訳です。一方でタクシーの配車サービスは定着しており、利用増と迎車料金上乗せで流しのタクシーが捕まえにくくなり、所謂タクシー不足から補完ずる形での導入となっています。
そんなカリフォルニアで大変なことが起きています。6月5日にロスで移民・捜査局(ICE)が不法移民摘発を始め、市民の抗議デモと対立しICEと衝突し7日にトランプ大統領が州兵派遣を表明*4します。ICEの捜査や摘発が強引で、街中で移民と思しき市民を捕まえるという強引さに市民が反発したもので,、その強引さ故にデモ参加者の一部が暴徒化したもので、当局の挑発が疑われます。そして事態はエスカレートしトランプ大統領は海兵隊覇権まで踏み込みます*5。
当局の強引な移民摘発に対する市民の抗議デモにロス市警の対応が甘いと見たのでしょうけど、州兵派遣は日本で言えばいきなり自衛隊の治安出動に相当するものですし、第一州兵は州所属で連邦政府に指揮権がある訳じゃありません。連邦軍の下請けを担う場合でも連邦議会の承認などの手続きが必要で健保以上の疑義があります。更に海外で敵を攻撃する海兵隊の派遣は反乱の事実がなければできないことで、当然カリフォルニアのニューサム知事は連邦地裁に差し止めの提訴をしてロス連邦地裁は12日それを認めます。連邦政府は即日控訴して控訴審は差し止めの効力を停止した上で審理を続けることになり、対立は続きます*6。
既視感のある展開ですが、これ韓国の尹大統領のクーデター未遂事件に似ています*7。韓国では市民と議員が迅速に動いて未遂で阻止した上に紆余曲折ああったものの大統領弾劾手続きが完了し、大統領選で李在明新大統領が選出されましたが、元々議会は野党が多数派だったけど、米連邦議会で大統領弾劾が実現する可能性はほぼ無いし、関税外交がTACO常態の中で移民摘発で有権者にアピールして支持を繋ぎ止めるから、結局この状態は続くしかない訳です。まるでイーグルスの楽曲のように*8。そして14日に予定されるワシントンの軍事パレードの反対運動とも連動し、全米各地で抗議デモが続きます。アメリカはここまで壊れました。元には戻らないでしょう。
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