大手私鉄

Sunday, June 15, 2025

火照るカリフォルニアの迷宮

氷河期世代が社会保障弱者*1という現実と共に、在日外国人も同様の問題がありますが、政府が見直しに動きます。

外国人の国民健康保険滞納防止 在留審査に納付状況反映、27年度にも - 日本経済新聞
在留審査強化に繋がるだけに制度設計に注意が必要ですが、自治体のシステム改修を国が助けて漏れを防ぐことと共に、記事の末尾に重要情報が記されてます。
国保の総医療費や高額医療費支給額に占める外国人比率はいずれも1%台で被保険者に占める割合より低い。
オンライン記事は有料会員向けで全文を読むにはハードルがありますが、近くの図書館で紙面の記事で確認できます。「外国人が日本の健康医療保険にただ乗りしている」という外国人排斥の言説が間違っていることを示す事実です。冷静に考えれば高齢化が進む日本人よりも国内で働く外国人の方が平均年齢は低く、医療アクセスの必要性は低いから当然なんですが、外国人に保険料負担をしてもらうことで、現役世代の負担を軽減できる余地があるなら、外国人を排斥するのではなく共に社会を支える仲間として包摂することは結局国民を利することになります。

この点は移民問題で揺れる欧米が移民排斥に揺れている現状を見れば尚更、社会的摩擦の軽減を真剣に考えることは重要です。そしてそんな移民問題で揺れる米カリフォルニア州は、全米50州でも移民に寛容な州として知られています。元々農業が盛んな土地柄で広い耕作地を耕すのに必要な労働力需要が強かったってこともありますが、スペインの植民地から独立した第一メキシコ帝国が共和国となり、一方アメリカ入植者によるカリフォルニア共和国独立宣言がきっかけで米墨戦争となり、メキシコがアメリカに割譲する形で31番目の州となるという歴史過程もあり、元々ヒスパニック系住民が多かった土地柄です。そしてその結果全米50州のうち人口1位(約4000万人)で且つ国のGDPに相当する域内総生産規模も最大で、国に喩えればドイツ*2に次ぐ世界第4位*3に位置します。人口2/3のドイツに続き人口1/3のカリフォルニアにも抜かれる日本。

カリフォルニアはシリコンバレーに代表されるハイテク企業の集積地でもあり、米国産スマホや米国内クラウドサービスその他で生じるデジタル赤字の相手側でもあり、日本のお陰です^_^;。同時に世界から優秀な人材が集まる移民に寛容で、大学を中心に東海岸とは異なるカウンターカルチャ—がインターネット時代にフィットしたこともあります。意外な一面としては鉄道王国だった過去でしょう。特に Pacific Electric Railways という大手事業者が州内に路線網を巡らいせていました。同社はトラムから発展したインターアーバンで電気鉄道だったこともアメリカでは特異な存在でした。

インターアーバン自体は一種のブームで他州にも波及しましたし、日本も影響を受けてます。京成、京王、京急、名鉄、近鉄、京阪、阪急、阪神の大手各社は軌道で開業したインターアーバンの歴史を踏んでますし、地方でも九州電軌(西鉄北九州線)、豊州電気鉄道(大分交通別大線)、兵庫電気軌道(山陽電気鉄道)、越中鉄道(富山地鉄井水線、万葉線)、複武電気鉄道(福井鉄道)など多数の追随者が現れました。

その存在故にクルマが売れないと一計を案じたGMが同社を買収し、減便また減便のダイヤ改悪で客離れが起きて廃止に追い込まれ、その代替輸送を担うバスを売り、農家向けのピックアップトラックを売り、日常の足としての乗用車を売り、全米屈指に自動車社会となりました。その結果ロスアンジェルス都市圏の交通渋滞は深刻で、それが通勤時の相乗りで自動車税を割り引く制度が早くから導入され、また排ガスによる大気汚染対策で厳しい排ガス規制を全米に先駆けて導入し、後の連邦マスキー法へと繋がります。同法を最初にクリアしたのがCVCCという排ガス浄化システムを実装したホンダ1300で四輪車シフトを成功させ、米ビッグ3の没落に繋がったのですから皮肉です。

また所謂ゼロエミっションビークル(ZEV)規制もカリフォルニアで始まり、今でも専任のボードメンバーが時代とともに規制内容を見直し、新車販売時のZEV比率を徐々に上げ、上回った分の権利の売買でEV専業のテスラが大金を手にして他社を突き放す原資を得ました。一方ビッグ3は権利を買えばとりあえず目先はクリアできるからEV開発に本腰が入らず取り残された訳です。

加えてロスアンジェルスの相乗り減税制度は結果的に通勤ラッシュの緩和策として機能し、多くのオーナードライバーが家族でもない他人を乗せて走ることが定着したことで、ウーバーなどのライドシェアが受け入れられる土壌があったと言えます。それがない日本にライドシェアを移植することは簡単ではない訳です。一方でタクシーの配車サービスは定着しており、利用増と迎車料金上乗せで流しのタクシーが捕まえにくくなり、所謂タクシー不足から補完ずる形での導入となっています。

そんなカリフォルニアで大変なことが起きています。6月5日にロスで移民・捜査局(ICE)が不法移民摘発を始め、市民の抗議デモと対立しICEと衝突し7日にトランプ大統領が州兵派遣を表明*4します。ICEの捜査や摘発が強引で、街中で移民と思しき市民を捕まえるという強引さに市民が反発したもので,、その強引さ故にデモ参加者の一部が暴徒化したもので、当局の挑発が疑われます。そして事態はエスカレートしトランプ大統領は海兵隊覇権まで踏み込みます*5。

当局の強引な移民摘発に対する市民の抗議デモにロス市警の対応が甘いと見たのでしょうけど、州兵派遣は日本で言えばいきなり自衛隊の治安出動に相当するものですし、第一州兵は州所属で連邦政府に指揮権がある訳じゃありません。連邦軍の下請けを担う場合でも連邦議会の承認などの手続きが必要で健保以上の疑義があります。更に海外で敵を攻撃する海兵隊の派遣は反乱の事実がなければできないことで、当然カリフォルニアのニューサム知事は連邦地裁に差し止めの提訴をしてロス連邦地裁は12日それを認めます。連邦政府は即日控訴して控訴審は差し止めの効力を停止した上で審理を続けることになり、対立は続きます*6。

既視感のある展開ですが、これ韓国の尹大統領のクーデター未遂事件に似ています*7。韓国では市民と議員が迅速に動いて未遂で阻止した上に紆余曲折ああったものの大統領弾劾手続きが完了し、大統領選で李在明新大統領が選出されましたが、元々議会は野党が多数派だったけど、米連邦議会で大統領弾劾が実現する可能性はほぼ無いし、関税外交がTACO常態の中で移民摘発で有権者にアピールして支持を繋ぎ止めるから、結局この状態は続くしかない訳です。まるでイーグルスの楽曲のように*8。そして14日に予定されるワシントンの軍事パレードの反対運動とも連動し、全米各地で抗議デモが続きます。アメリカはここまで壊れました。元には戻らないでしょう。

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Tuesday, May 06, 2025

雷都の晴れ間のライトライン

GW真っ只中ながら人出の多い観光地(地元がそうですが)へ行く気にもなれず、それならばライトラインの現状を見てみるかと久々に宇都宮へ出かけました。いろいろ発見がありましたが、その前に前エントリー*1関連ニュース。

説明しない厚労省 SNS炎上、年金底上げ策の削除招く - 日本経済新聞
消費税減税を巡る立憲民主党の迷走*2に似た状況ですが、このままでは氷河期世代の基礎年金実質30%減額となることから見直しが検討されたものの、制度を理解しない非難によるSNS炎上で自民党内からの批判もあり撤回ということで、同世代を1700万票の票数でしか見ていない政治が不作為を生じさせています。

で、本題。昨年3月にスピードアップされたライトラインで併用軌道区間50km/h専用軌道*3区間70km/hと謳われておりましたが、乗車時の体感では70km/hは出ていない感じで、また列車間隔を制御する閉そく信号機も見当たらないところから、流石に目視運転では70㎞/hは無理ということでしょう。HU300形の走行安定性の問題もあるかもしれません。そして開業直後の訪問時には気づきませんでしたが、副本線のある平石とグリーンスタジアム前で軌道に地上子が設置されていて、おそらく後付けなのでしょう。推測ですがおそらく快速運転に備えた列車選別装置で、先行の各停の通過を検知して副本線側に進路設定し、副本線の地上子で入線を検知して本線側に進路設定して快速を通すのでしょう。快速出発後、後続の各停はフランジ割出しで進路を作形成し、一定時間後に自動復帰するように設定されているとして、最小限の設備追加で快速運転が可能です。目視運転を基本としつつ朝の2本だけの快速運転ですから、鉄道並みの保安装置設置よりもリーズナブルな対応と言えます。

バスとの結節の実態も知りたいところで、休日は参考にならないかもしれませんが、芳賀工業団地管理センター前で降りたところ、もう1人降りてバス乗り場へ向かう人がいて、横断歩道を2度渡るためタイムラグはあるものの、その人はバス乗り場に併設された待合室へ入りました。バスポールの時刻表を確認しつつ電停へ戻るときにも電停からバス乗り場へ向かう人がいて、それなりに結節点として機能していることはわかります。時刻表で確認した限りでは、本数は少ないものの茂木方面へ向かうバスもあり、真岡鉄道とセットで行程を組むのも一興です。同様の結節点は清原地区市民センター前と宇都宮大学陽東キャンパス(ベルモール前)が案内されてますが、それぞれバスの本数の少なさはあるものの実態はどうなのか、興味は尽きません。ちなみに駅へ戻るときに数少ない並行路線のバスが並走してパッと見席が埋まる程度の乗車が確認できました。関東自動車の旧年式車でしたが、駅直通便の需要も根強いのでしょう。

休日ということもあり、IC乗車券を持たない乗客も多数いて、降車の多い停留所では最前部ドアで現金支払いに時間がかかっていました。この辺は定時運行を妨げるほどではないようですが、交通信号に引っかかる機会が増えてしまうことは避けられないようで、実際そういう場面も見られました。とはいえ乗客が定着したことは間違いないようで、GW中ということもあり、家族連れの利用が目立ちましたが、家族そろって現金払いとかも見られました。ともかく盛業であることは間違いありません。

また渋滞解消という政策目標の実現も実証データが示されました*4。宇都宮大学などの調査結果では車利用が70%から62%へ8%減で、率の話ですがザックリ実数でも1割程度は減ったと見られます。交通量の1割減は大抵の渋滞が解消できる水準ですから効果はあったということです。但しだからLRT整備は大成功と結論付けるのはどうでしょうか。着手後の見直しや工事の遅れで事業費が膨らんで費用便益比(B/C比)が悪化したこともありますし、同等の渋滞解消策としての道路拡幅やバイパス整備の場合との比較でどうだったかこそ問われるべき問題です。また渋滞を嫌ったり、時刻を確認しないと利用しづらいバス利用と比べてほぼ定時で頻繁運行される都市型公共交通による需要誘発効果もありますので、それが母数を増やして車利用率を下げた要素もあります。これは宇大等の調査でも言及されているようですが、単純な数値比較では見えない部分があるということは言えます。但し外出の誘発は消費に繋がりますし、ウェルビーイングの観点からも望ましいことでもあります。単純な数値比較に陥りやすいB/C比の議論の戒めとしたいところです*5。そして懸案の西側延伸も動き出しました。

宇都宮LRT、大通り1車線は自動車乗り入れ禁止への布石 - 日本経済新聞
地域限定記事且つ会員限定記事ですが、全文を読むことをお勧めします。キモは現状3車線の大通りの1車線化で、その為に南北の並行道路の拡幅による迂回路整備で一般車を迂回させることにあります。3車線の1車線化は批判を呼ぶことになりますが、工事のために前倒しで実施して、中央車線を軌道にして左側車線はバス停や貨物車荷捌きレーンに充てて1車線化して工事スペースを生みつつ一般ドライバーを慣れさせる狙いもあります。大通り区間は混雑対策で軌道中央の島式ホームでホーム幅を確保して車いすやベビーカー利用にも配慮します。これは東側で問題になった混雑時のホームの手狭さの反省と共に、圧倒的に集積度が高い西側では、停留所間隔も短くして分散を図ると共に乗客の安全確保にもなるということですね。そしてその先には国内では前例のないトランジットモールの実装の先駆けという狙いもあります。そしてほぼ全区間道路併設の併用軌道で東側の鬼怒川橋梁前後の専用軌道区間のような用地買収も不要で土木工事上のネックもほぼ無い*6ことから、今年度に決めて26年着工で30年開業はほぼ可能という展望です。しかし課題はあります。

詳細は省きますがまず西口停留所の混雑対策が不十分*7で見直しが避けられないことがあります。計画見直しの結果事業費が上振れしたり手続きが遅れたりすれば東側の鬼怒川前後区間の轍を踏む可能性があります。また資材費や人件費の高騰による建設費の上振れもあり、400億円とされた見積りが600億円超と1.5倍以上になる可能性もあります*8。西口混雑対策とも絡んで手続き上西側分断整備の可能性も示唆されています。但しその場合新潟トランシス製HU300形の弱点とされる高価な車両価格や混雑対策の困難さや走行安定性の不安*9などから国産車両の導入が検討されているとか*10。そして大通りトランジットモールによる中心市街地活性化の一方で抱える中心市街地のレガシー東武百貨店の扱いと東武宇都宮線*11。

というわけで、帰路は西口バスターミナルから東武駅前までバス移動して東武宇都宮線ワンマン列車で南栗橋からスカイツリーラインのルートを辿りました。駅西側は東武鉄道のバス事業撤退があり東野交通の関東自動車への経営統合とライトライン開業に絡むJRバス関東の実質的撤退で事実上駅西側は関東自動車の独占エリアですが、関東自動車の新旧カラーにEV専用カラーに旧東野交通カラーとカラフル。また前後扉のツーステップ車から最新ノンステップ車やEVまでとバリエーション豊富でバスファンにもお勧めです。西側延伸で大通りのバス3割減が求められる一方、東側同様バス結節点の整備も構想されており、今後の変化も大きいという意味でも注目されます。

東武駅前から東武宇都宮駅までは100mほど離れており、ターミナルデパートの東武百貨店もお世辞にも活気あると言えず、売り場も典型的地方百貨店のような冴えないもので、仮に大通りトランジットモールが実現してもタイムスリップしたような一画として温存される公算大です。西側には小規模ながらバスターミナルがありますが、発着便は少なく人気のない空間になっています。ライトラインと東武宇都宮線の相互直通も示唆されますが、その場合大通りと東武宇都宮駅を繋ぐ軌道の整備と共に東武百貨店の建て替えは必至ですし、盛土上の東武宇都宮線との接続も課題ですし、架線電圧がDC1.5kvで750vのライトラインとの直通には複電圧車が必要になりますが、HU300形での対応は難しいところですし、まして走行安定性に不安を抱えるから尚更です。日比谷線直通車転用の20000系ワンマン列車に揺られながらつらつら思うGWでした。

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Saturday, April 19, 2025

大転け・完敗万博

大阪・関西万博が始まりましたが、予想通りというか、泥縄が露呈しています。

大阪万博、地下鉄は何度も入場規制 バスは予約優先 - 日本経済新聞
万博会場の夢洲はごみ埋め立て地の人工島で、アクセス手段が限られており、不安視されていました。地下鉄中央線夢洲駅と東ゲートが直結されており、メインルートとなるほか、JR桜島線桜島駅から路線バスタイプのシャトルバスで向かうサブルートの他、主要駅からの観光バスタイプのシャトルバスや指定駐車場からのシャトルバスで向かうパークアンドライドなど多様なアクセス手段を用意していましたが、実際は地下鉄中央線に見学客が集中し、JR大阪環状線乗換駅の弁天町の地下鉄駅で混雑から改札が入場規制されるなどで見学客の遅延が生じ、また東ゲートの入場ゲートのセキュリテイィチェックが手間取り、携帯基地局のキャパオーバーでチケットのQRコードがスマホに表示されないトラブルもあり、完全予約制で混雑のない万博を標榜したことが、2時間遅れで予約時間に間に合わないとか、帰宅時間の夢洲駅の混雑で行列で1時間待ちで「入るには入れず帰るに帰れない」と不満。加えて悪天候で雨宿りする場所がない、巨大リンクの大屋根も風雨の吹き込みでびしょ濡れ。バスアクセス中心の西ゲートではシャトルバスを予約制にしたのに、万博チケットと別の交通系サイトの目立たないメニュー表示でそもそも辿り着く人も少なく予約はガラ空きなのに、帰宅希望の予約外客が殺到して予約客優先のオペレーションで大混乱助長といった具合です。そして道路アクセスも橋と海底トンネルの2ルートだけで、しかもシャトルバスの優先運行故に事実上タクシーが使えない。地場のタクシー業界から改善を求められているのに対応せずという具合です。

アクセス交通の混乱は、実は4月6日のテストランでも見られたことで、交通アクセスの弱点は明らかでした*1。テストランでは予約より早く来た人が多く、ゲートの混雑による一時滞留で夢洲駅の混雑が課題とされましたが、テストラン参加が5万人の一方初日13日の入場者数13万人で倍以上とはいえ、半年の期間中2800万人の入場者数を達成しなければ赤字確定で、1日平均15万人の入場が必要ですが、当然日のよって変動がありますから、少なくとも倍の30万人の入場も視野に入れなければならない訳です。初日の入場ゲートの混乱の解消から言えばかなりハードルは高いと言えます。初日の弁天町駅の入場制限のように思わぬ場所に混乱が生じる可能性もありますし、地下鉄中央線が事故等で運休した場合の混乱もあり得ます。そして初日の大雨のような悪天候もありますし、これから暑くなるシーズンで会場に日よけが乏しく熱中症対策が難しいこと*2もまた問題です。そしてトイレのトラブルやメタンガス問題などまかり間違えば大惨事になりかねない問題*3を抱え、始まったばかりなのにすでに終わっている-_-;。そもそも夢洲開発はカジノ構想ありき*3でタイムスケジュールから2025年の大阪万博開催というタイトなスケジュール*4になった訳です。大量の公費投入でカジノ企業を誘致する大阪維新の姿勢はレントシーキングのカモフラージュでもあります。

比較される1970年の大阪万博と何が違うのかですが、時代背景と会場の立地と交通アクセスの違いがかなりあります。70年万博の会場となった千里丘陵は大阪の市街地にほど近い山林地帯で未利用の土地が多かったし、広さもあったから、白紙に近い状態で開発が計画されました。御堂筋を北へ延ばした新御堂筋と大阪郊外の環状道路の中央環状線の整備に伴い、新御堂筋に付帯する地下鉄1号線(御堂筋線)の延伸が同時施工で整備が計画されましたが、市営故に大阪市境をちょっと超えた吹田市江坂までが都市計画に盛り込まれたものの、その先は大阪府による千里ニュータウン計画ということで、府市の管轄の壁があったことは確かですが、同時に京阪神急行電鉄(現阪急電鉄)の営業エリアで阪急バスが京都線や千里線などの鉄道駅へのフィーダー輸送を担っていました。そこへ新御堂筋が通り、地下鉄が伸びてくるとなると穏やかではいられません。そこで阪急は大阪府や関連自治他の出資を仰いで北大阪急行電鉄(北急)を立ち上げ、御堂筋線と直通する鉄道の権益を得た訳です。所謂第三セクターの走りですが、自治体の出資は従であり阪急グループ色の強い企業です。

一方で大阪市内の交通を巡る熾烈な争いがあって、京阪電気鉄道がターミナルの天満橋から淀屋橋へ延伸して都心乗入れの先鞭をつけましたが、大阪市内の鉄道事業は大阪市が地下鉄網を整備して私鉄の進出を抑えようとする一方、在阪各社は都心進出の機会を窺っていました。近鉄は上本町から難波への延伸、阪神は戦前の急行線複々線化構想の落とし子の伝法線を難波へ延伸して近鉄との直通を模索し、千鳥橋、西九条と小刻みに開業させて西大阪線に改称という動きをしました。阪急は新京阪線のターミナルだった天神橋から堺筋を南下する構想を持っていましたが、大阪市の地下鉄6号線(堺筋線)、南海電気鉄道も堺筋を北上する構想を持っていて競願状態で当時の運輸省鉄道局は3社局で協議して結論を得るまで免許交付しないという立場を取り、協議の結果天神橋ー動物園前間を大阪市が整備し、阪急と南海が相互直通するということでまとまり、とりあえず万博関連事業として万博会場近傍を通る阪急千里線との相互直通を優先して軌間4ft8in・1/2(1,435㎜)の阪急に合わせて整備されることになりました。そして北急を中央環状線に併設される中国自動車道を対面通行2車線の暫定開通として4車線化の用地を利用して線路を敷いて万国博中央口までの期間限定の会場線に利用し、会場西ゲート近くを通る阪急千里線に臨時駅の万国博西口駅を設置することになり、鉄道2路線でアクセスが確保されていたことで、混雑を分散できた訳です。結果的に万博輸送を阪急は独占したことになります。そして大阪のミナミに対するキタの比較優位が確立します。

また新御堂筋と中央環状線の整備でシャトルバスによる広域アクセスが可能になり、特に国鉄茨木駅・阪急茨木市駅からの中央環状線のシャトルバスはバス事業で阪急より優勢な京阪バスや当時直営の近鉄バスが参入し、独占エリアとはいえ阪急単独でのシャトルバス運行は無理だったけれど、万博関連で協業ができた訳です。今回の大阪・関西万博では市営バス改め大阪バスと京阪バスが特に力を入れているようですが、ドライバー不足のご時世で交野市の京阪バス撤退という事態もあり、関西でも批判を浴びています。公費を投入したイベントで不便になることは許容されることではありません。

70年万博関連では近鉄難波線と鳥羽線の開業、三重電気鉄道由来の志摩線の改軌と万博輸送に直接関わらなかった近鉄が集中投資で経営基盤を強化しました。並行する地下鉄5号線(千日前線)とは同時施工で並行して整備されましたが、万博に伴う外国人観光客来阪対策で通りました。一方そうした流れに乗れなかった阪神西大阪線の延伸は地下鉄5号線との競合故に進まずなんば線として結実するのに長時間を要しましたし、南海は中央環状線アクセスの阪神高速松原線と同時整備された地下鉄2号線(谷町線)の南進に伴って大阪軌道線の平野線が廃止され、堺筋線の天下茶屋延伸で天王寺支援が廃止、更に地下鉄御堂筋線のなかもず越境延伸とエリアを侵食されています。70年万博の経済効果は均等ではなかったのです。その意味で今回の大阪・関西万博の経済効果3兆円は鵜呑みにできません。また関西のGDPシェアは70年万博の100.78%をピークに低下しており、イベント依存の限界でもあります*5。

南海に関しては関西空港連絡輸送で外国人見学客の渡航需要を受けられるとはいえ、直接的なメリットはあまりなく、やはり万博には縁が無いのか?なにわ筋線が開業していれば南海も恩恵があったかもしれませんが、やっと事業着手の段階ですから間に合う筈もありません。なにわ筋線の建設には実は南海も関わってまして、大阪市の市営地下鉄民営化構想に連動して大阪府出資の第三セクターの大阪府都市開発(OTK)の持ち分売却を行いOTKの事業部門だった泉北高速鉄道の売却で揉めて最後は南海電気鉄道に売却されました*6。そしてその売却益はなにわ筋線の整備主体となる関西高速鉄道の資本増強に回すことになっていたので、間に合っていれば南海の泉北線買い取りの資金回収が早まったことになります。これ70年万博で北急が万博輸送対応で大量発注した大阪市営地下鉄規格の電車を、万博終了後に大阪市に売却して元を取って資本費負担を軽減した結果低運賃を維持して最大限メリットを享受したことと対照的です。またなにわ筋線絡みでは京阪中之島線がなにわ筋線開業を睨んだ事業ですし、阪急のなにわ筋連絡線(大阪~十三)と新大阪連絡線(十三~新大阪)構想もありますが*7、後者は南海との直通運転を構想しながら具体的な協議が行われておらず、仮に梯子を外されれば堺筋線の二の舞になります。という訳で欲得絡みの関西鉄道業界事情は比較的摩擦の少ない首都圏の業界事情と大きく異なります。中之島線にしろなにわ筋線にしろ鉄道整備にも公費が投入される中で、公正さが担保されているか?維新絡みではいろいろあり過ぎて疑問を禁じ得ません。

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Saturday, April 05, 2025

MAGAのリアル

MAGA不思議なアメリカが本格始動しました。

アメリカ公表の「相互関税」全リスト 日本24%、中国34% - 日本経済新聞
とりあえず各国一律10%関税が始まり。国別の上乗せは9日からとしてますが、その間の各国の反応を見る為です。早速中国とカナダは報復関税を課すし、EUも米国内投資の停止指令を出して対抗する姿勢を示す一方、メキシコは様子見と国毎に対応が分かれます。日本はと言えば除外を懇願するという対応ですが、これ一番まずい対応です。理由を以下に述べます。

そもそも相互関税というのは二国間で協調して相互に関税を下げる場合の用語法ですが、今回はアメリカが一方的に関税を課す訳ですから相互関税と呼ぶのは誤りです。しかも各国の関税率は10%の最低ラインを前提に各国の対米貿易状況を「貿易赤字高÷輸入高×100÷2」という雑な数式で導き出しているものです。つまり輸入に占める貿易赤字の百分率の半分ということで、輸入超過分はアメリカが搾取されたものと見做しつつ、半分にまけてやるという意味です。つまり二国間交渉の土俵をアメリカが用意している訳で、それに乗れば確実に負けます。

また米中対立でチャイナプラスワンとして投資が集中し漁夫の利を得た東南アジアのベトナムやカンボジアの関税率が高い訳です。関税回避の為のサプライチェーン見直しを迂回貿易と捉えている訳で、大ぐくりで言えばターゲットは中国ということになります。しかし日本企業の多くが中国の拠点を東南アジアに移しつつある中で出口を塞がれたということでもあります。仮に日本だけ除外してもらっても日本企業は救えません。報道によると日産が関税回避で国内生産の米国内移管を検討というニュースもあり、存亡の危機の日産には言い訳が立ち神風かも^_^;。とはいえ株は大変なことに。

NYダウ急落、2231ドル安 関税応酬で史上3番目下げ幅 - 日本経済新聞
新聞の株式欄がストップ安で真っ黒という見慣れない椿事ですが、冗談抜きに経済のブロック化で国際貿易縮小し大恐慌へ発展し、各国の対立激化で果ては世界大戦ということも心配した方が良さそうです。防衛費3%と言われなくて良かったとか、逆にディールのカードとして米製兵器買いますとか言っちゃまずいってことです。特にハイテク株の下げが目立ちますがDeepSeekショックで指摘したようにAI開発に資金突っ込み過ぎた結果のバブルが今回の関税騒動で剥落したとすれば、相場が戻る可能性は低いと言えます。

てことでMAGA勢の動きを止めるとすれば皮肉にも市場の圧力ということになりそうですが、トランプ政権の高官が「デドックス」と表現するようにMAGA勢はバイデン政権の政策の否定をテーマにしていて、政権移行初期の今なら不都合なことは全て前政権のせいにすることも可能と見ている訳です。安倍政権が「悪夢の民主党政権」と言ってデタラメやったことを見倣っている訳です。つまりアメリカは今後衰退する道に入る可能性が高い訳で、関税まけて欲しさに安易な譲歩はすべきではない訳です。同時に今回の関税問題は反対派を混乱させる情報戦の意味もあります。

そして株式以外の市場もいろいろ動いておりまして、株式市場との裁定で債券市場は上昇し金利低下しており、日米金利差も縮まって円高に振れました。所謂リスクオフ相場で高リスクの株式から低リスクの債券に式がシフトしてリスクオフの円高となっておりますが、この動きは早晩止まると見られます。米FRBにとっては関税はインフレを呼ぶことになりますから利下げが止まり、寧ろ利上げシフトすらあり得る一方、日銀は先行きの不透明感から利上げに動きにくくなります。加えて日銀ETFの含み損で財務が傷つき、踏み込んだ利上げがやりにくくなります。故に日米金利差は寧ろ拡大に向かうと考えられます。オマケですが年金運用のGPIFも含み損が発生してますから、去年の年金財政検証はやり直すべきです。

一方で原油価格は値下がりしており、これは関税発動前の駆け込みでOPEK+が増産した結果の値下がりで、輸入に頼る日本にとっては助かります。逆に値崩れでシェール増産が難しくなるアメリカにとっては誤算ですが、原油の値崩れは戦費調達をエネルギー輸出に頼るロシアを苦しめます。これでウクライナ停戦が実現するなら瓢箪から駒ですが、資源権益とバーターとなるウクライナの苦しみは続きます。それを間近に見るグリーンランド住民の反発は当然ながら、最大の在外米軍基地がグリーンランドにある以上、アメリカはNATOから抜けられないし、資源権益も欲しいから諦めないでしょう.故に米欧の対立は長期化する可能性があります。こう考えると日米同盟を前面に立てる日本政府の対応は危ういと言えます。

以下鉄ちゃん的蛇足。ストップ安で真っ黒な中で内需株、特に関税の影響を受けない鉄道株は寧ろ買われています。こういう点からも外需依存を減らして内需関連に投資をシフトすることで難局を回避することはもっと考えられた良いと言えます。但し生産年齢人口の減少下ですから、投資案件の選択は重要です。例えばこれはどうでしょう。

新空港線「蒲蒲線」、国が東急の構想認定 今夏にも具体案 - 日本経済新聞
蒲蒲線と呼ばれる新空港線事業を国が認可したもので、とりあえず第一期区間の矢口渡―京急蒲田間の1.7㎞の事業区間で。蒲田と京急蒲田の800mのミッシングリンク解消となりますが、事業費1000億円で京急蒲田駅地下の乗入れる形で当面乗換対応となります。故に北陸新幹線敦賀問題のような高低差乗換が発生することになります。

しかも空港利用客がガラガラ引いて乗換ですから相当なストレスとなります。とはいえ大鳥居までの第二期の事業化は、軌間や車両サイズや保安装置の違いがある上、そもそも京急は乗り気ではなくめどは立っておらず、この点も北陸新幹線に似ます。米原ルートの東海道新幹線乗り入れより厄介かも。加えて現状で羽田空港連絡輸送は需給面で余裕がある一方、JR東日本の羽田空港アクセス線も事業化されており、供給過剰が心配されます。そもそも羽田空港発着枠にも限りがありますし、成田空港も第三滑走路整備と共用時間帯の拡大で発着便数を増やすとされており、関連して京成電鉄が相互車庫拡張で空港連絡輸送強化を打ち出すなど、高度成長期さながらの需要追随型投資を競っていますが、果たして必要な投資なのか?

あと敦賀の乗換は未体験ですが、東京で追体験できそうなところとしては東京駅京葉線ホームや下北沢駅の小田急線急行ホームと京王井の頭線ホームとの乗換、東京メトロ日比谷線と都営大江戸線六本木駅といったところでしょうか。京急蒲田駅はどうなる?

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Sunday, February 23, 2025

MAGA不思議

石橋を叩いて渡る日米同盟とは裏腹に暴走トランプは止まりません。ウクライナ戦争停戦交渉を米ロで進めてウクライナの頭越しというのは、WW1戦後を規定するベルサイユ体制を崩壊させたチェコスロバキアのズデーデン地方のドイツ領有を認めたミュンヘン合意と同じ構図です。英仏伊独4か国で英チェンバレン首相がナチスドイツのこれ以上の軍事行動を起こさないという約束を信じて一方の当事国のチェコスロバキアの意見も聞かずに決めた結果、ナチスドイツに軍事侵攻の成功体験を与えてWW2へと突き進んだ歴史の転換点ですが、トランプ大統領はウクライナにレアアースの権益をよこせと言っており、世界平和のために融和を図った英チェンバレン首相のお人好しぶりと違って悪辣です。

寧ろWW2の戦後処理を話し合ったクリミアのヤルタ会談の方が構図が近いかもしれません。英チャーチル、米ルーズベルト、ソ連スターリンの3首脳が秘密会談でドイツ降伏後3か月以内にソ連が対日参戦することを決め、その為に海軍力の弱かった当時のソ連に対して軍事訓練やロジスティクス支援まで約束していました。当時の日本は泥沼化する戦況で本土決戦まで視野に入れながら、ソ連に和平仲介を求めていたのですから浮かばれません。結果的にソ連参戦で南樺太や北方4島を失った日本ですが、アメリカから無理難題を押し付けられるウクライナの立場は深刻です。そしてロシアの軍事的膨張を止める手立てをアメリカ抜きで見出さなければならない欧州も大変です。

てことでトランプ流MAGA政策の狂気は留まることを知りません。関税連発でインフレ助長が心配されている一方、インフレでFRBが利上げすれば金利差からドル高になってインフレを抑制するから心配ないという政権スタッフも居たりしますし、財政膨張はマスク氏のDOGEのリストラで回避できるとか、奇妙な経済理論?で大統領令連発で連邦政府をリストラし足を引っ張る官僚をクビにして、逆に政府機能を弱体化させて呼び戻したりしてます。そんなアメリカとの向き合い方を各国は迫られます。てことでこのニュース。

米国、日本の「非関税障壁」問題視 車の安全基準など - 日本経済新聞
日米首脳会談の安全運転ぶりでもこれですから、覚悟しといたほうがいいでしょう。勿論交渉材料という面もありますから、脊髄反応で余計な約束をしないことが大事です。そして仮に関税かけられても、対象は完成車に留まらず部品等のサプライ品もありますから、寧ろ米ビッグ3が割を食うということも言われております。関税回避を焦らず、寧ろ米国内の混乱を黙って見てりゃいい。その意味でこのニュース。
鴻海、ホンダに協業を提案 日産・三菱自含む4社で陣営 - 日本経済新聞
製造業の壁で解説しましたが、もはやガラケー化した既存の自動車メーカーの生存戦略は狭き道になっております。日産の再建を待てずに子会社化を言い出してぶち壊れた統合話ですが、ホンダも単独では対応できないことはわかっていて、日産との統合話も寧ろプラグインハイブリッド車を持つ三菱自動車が狙いだったとも言われます。しかし三菱は早々に統合に参加しないことを決め、日産が煮え切らない中で子会社化して三菱を間接支配というシナリオだったんでしょう。元々経産省がお膳立てした話ってこともホンダには乗り気になれなかったかも。

鴻海の狙いはアイフォンの受託生産で実現した成長モデルをEV事業で再現することですが、既存の自動車メーカーは自前主義でなかなか話に乗ってこないから事業を進められないということで、鴻海のEVトップが日産出身の関潤氏ということもあり、内情を知る日産に接近するためにルノーの日産株譲渡を打診したのですが、関氏は日産内田社長とトップを争ったライバルでもあり、ゴーン事件でガタガタになった日産の立て直しでトップ候補としては寧ろ前評判が高かったけど経産省OBの豊田社外取お気に入りの内田氏に決まった経緯もあり、内輪揉めの延長戦として経産省に助けを求めてホンダとの経営統合を指導されたという一連が見えてきます。逆にホンダが欲しがる三菱のプラグインハイブリッド技術を活かそうとしなかった経営判断は、日産に欠けているものを浮き彫りにします。イノベーションに背を向けている訳です。

鴻海としては早くEV生産に参入して実績を作りたい訳で、工場閉鎖が避けられない日産の現状からすれば、工場を鴻海に託してEV向けに作り直してもらえばリストラも進めやすくなるし、新車開発と販売というマーケティングの川上と川下を押さえておけば高付加価値の事業環境が整うという風に再建の道筋も見えてきます。経営陣の内輪揉めで袋小路に入るより遥かにマシですし、加えて言えばアジア連合でアメリカの25%関税に打ち勝つクルマ作りぐらいの構想は持ってほしいところです。ウクライナで示したようにイザとなればトランプ政権は台湾を見捨てることすらあり得る訳ですから。

JR東と岩手県北自動車、山田線とバスの共同経営に認可 - 日本経済新聞
突然ドメスティックな話題ですが、グローバル企業もドメスティック企業も事業環境の激変に晒されているのは同じで、その中でイノベーションを怠れば存続が危ういということにもなります。鉄ちゃん的には岩手県北自動車の106急行は山田線を追い込み、行き違い駅の棒線化などで列車間隔も伸びて劣勢になるなど恨みを感じるところでしょうけど、盛業に見えるバス事業も人口減少とドライバー不足で事業環境は悪化しており、このままではじり貧になりかねない訳で、少ない客を取り合っている場合ではない訳です。

鉄道とバスの共通乗車はJR四国牟岐線と本四間の高速バスの末端区間でJR乗車券で高速バスに乗れるようになっていて実績はありますが、本数の多い106急行/特急バスとの提携はJR山田線の廃止を睨んでいるのかとさえ勘繰られますし、記者会見でも質問されてJR東日本は否定しています。事業として認可を受けていますから、単純な共通乗車に留まらずダイヤ調整や共同での観光客誘致や企画商品開発なども視野に入っていると思いますが、JRからすれば宮古への足の利便性が増せば例えば東北新幹線との通し乗車券の売上が伸びて広域にメリットが出るでしょうし、岩手県北自動車から見ればJRの広域集客力を利用できる訳でwin-winの関係を構築できる訳です。

キモは独占禁止法の例外扱いとしての認可というところで。単純な規制緩和ではなく既存の法令規制を踏まえた例外としての認可ということで、米DOGEのような力づくの制度破壊ではない制度イノベーションと言えます。実は欧州の都市交通で広範に見られる運輸連合方式の運賃共通化も同じロジックで行われており、例えば東京のメトロと都営の運賃共通化のようなことも視野に入るものでもあります。そして欧州で進むMaaSも運輸連合がプラットフォームとして機能していることも指摘できます。道交法にねじ込んだLuupのようなジャパニーズMaaSとは似て非なるものです。

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Sunday, December 29, 2024

青春18アップデートの不可避

今年冬からの青春18きっぷの改変に一部鉄ちゃんがイチャモンつけてます。JRを弁護する気は更々ありませんが、これも時代かなとは思います。訃報がありましたがJR東海初代社長の須田寛氏が国鉄営業局長時代に1982年のフルムーングリーパスという企画商品をヒットさせた成功体験に基づき、年代別の企画商品として1983年に中年女性向けのナイスミディパス、そして1982年に若者向けの青春18のびのびきっぷとして発売されたものが形を変えて民営化後も存続してきたものです。

国鉄時代には乗車券だけで乗れる長距離普通列車が多数走っていて、その多くは旧型客車を連ねた機関車牽引の客車列車でした。客車は動力を持たないし、当時は寝台車やグリーン車を除いて冷房もなく、客用扉は手動の開戸でドアエンジン不要、照明は車軸発電機電源ですから引き通し線も要らないし自動ブレーキ管と暖房スチーム管を繋ぐだけで組成できるというシンプルな作り故にメンテナンスが容易なこともありますし、機関車は貨物と併用で済ませますから、料金を取れない普通列車には多く使用されていました。また長距離を走りますからラッシュ時間帯にかかる区間もあり、その需要に応える意味で長編成で運用されますから、メンテナンス負担が少ないことは寧ろメリットでもありました。また夜行普通列車も多数存在し、山陰線経由京都―下関間や鹿児島長崎佐世保大村線経由門司港―長崎間の夜行風通は寝台車が組み込まれていて、マルス収容のために「山陰」「ながさき」の愛称名までついていました。

これらの列車の多くは民営化後のJR各社の合理化策で縮小、廃止されましたが、青春18きっぷは春夏冬の休校期間の通学列車の余剰輸送力対策として存続することになります。加えて国鉄時代に関越高速バス運行開始に対抗して安価な夜行列車として新宿―新潟間に座席指定快速ムーンライトえちごが設定され、EF64牽引の14系客車で運行開始され、JR化後も車両の変化はあるものの定期列車として存続し、東海道線の通称大垣夜行もJR化後にムーンライトながらとなる流れとなります。当時はまだJR東海も唯我独尊ではなかったようです。また北海道の函館―札幌間快速ミッドナイトも定期運行されてJR化後も残りましたし、JR化後特にJR西日本を中心に臨時快速ムーンライトを青春18シーズンに運行するなどしてJR各社の連携でユーザーを掘り起こしたという意味はありました。しかし定期夜行快速は青春18シーズン以外の乗車率の悪化で季節臨に格下げされ、臨時ムーライトも含めて廃止に至ります。

しかし時は流れ若者向けとはいえ特に年齢制限のない青春18きっぷのユーザーも歳を取り、若者は割安な夜行バスに流れて当初の若者向け企画商品としての性格は失われていきます。11年前のエントリーですが、青春18還暦鉄の時点で、既に青春18きっぷの役割は変わり、青春を懐かしむ老いらくの旅の傾向が強まっていました。また同エントリーでも述べましたが、ムーンライト車内での検札でかなりの手間をかけていることや、自動改札化が進んでも磁気券ではないので有人改札に人が列をなすなどJRの現場への負担も大きくなってますし、整備新幹線開業に伴う並行在来線三セク化によるJR路線の分断もあり、ユーザーの使い勝手も悪くなっています。そういう意味で見直しは避けられなかったということはできます。加えてそもそも地方の人口減少で通学生も減って通学列車の余剰輸送力活用という前提も崩れてきています。そしてコロナ禍がJR各社の余力を奪ったことも。

ということで、今回の改変は事実上別の企画商品への変更となりますが、現場負担軽減のための磁気券化というのが一番の狙いでしょう。その結果期間中の任意の日の利用や2人以上の同時利用は制限せざるを得なくなりますし、出発日指定はおそらく磁気定期券のシステムを流用したってことでしょう。それ故に連続使用しかできなくなりますが、割引企画商品のために大規模なシステム改修を行うのは本末転倒ですし、寧ろ3日券という新たな選択肢を用意して購入しやすくする工夫も見られます。そうまでして残したこと自体は評価しておきます。

とはいえやっと磁気券になった段階ですが、栗鼠殺し?木から落ちたサルで取り上げたように、既にJR東日本では磁気券を無くしてQRコード乗車券を導入する検討を始めてますし、またVISAカードで始まったオープンループというNFCタッチ決済システムが関西私鉄や関東でも東急や東京メトロ、一部のバスやタクシーで導入が進み、Felicaシステム前提の全国共通ICカード乗車券から熊本の5事業者が離脱したことは壁は成長する?でも取り上げました。これらの変化を加味して未来の青春18きっぷをイメージできるかというところを考えてみたいのですが、結論から言えばあまり期待できないと考えられます。

JR東日本では半導体不足の影響で相変わらず無記名式Suicaの新規発行を停止中ですが、その代わりにモバイルSuicaを推奨しています。手持ちのスマホでネットで会員登録すれば即利用可能で500円のデポジットも不要で乗車ポイントをカードの場合の200円毎から50円毎と優遇して誘導しています。しかし事実上無記名でのSuica購入はできなくなるということですから、個人情報をJR東日本に預けることになります。それを受け入れたくない人も一定数いる訳ですから、一部利用者の排除となる可能性があります。TOIKAの壁ならぬSuicaの壁という訳ですね。加えてこのニュース。

JR東、スイカ大幅刷新 上限2万円から上げ コード決済 - 日本経済新聞
半導体不足でFelicaチップが入手困難になったこともあり、Suicaをスマホアプリ化して発行コストを下げると共にユーザー情報も取得し、更にJREバンクとも連携して予約、決済、乗車のみならず日常の買い物から旅先の宿泊や食事などまで含め、更に個人信用情報に基づくポストペイシステムまで実装してスーパーアプリ化というところまで見据えていると考えられます。これユーザーから見れば便利かもしれないけど、JR東海のスマートEXが東海道新幹線への利用誘導に使われるような形で、結局技術革新が壁を成長させるジレンマを予感させます。そうなると青春18きっぷなんぞ過去の遺物として排除される未来もあり得ます。草ならぬ壁生えるわwall-AI。

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Sunday, December 15, 2024

壁―Nイノセ氏の誤算、Yコイケ氏の悪事、Yタマキ氏の欺瞞

韓流ふてほどの尹大統領の弾劾訴追決議案が可決し失職。憲法裁判所で罷免の是非が審理されます。但し最大180日と時間がかかりますが、罷免後30日以内の大統領選で新大統領が選出され就任するまでは韓首相が職務を代行します。というわけで特に外交面での政治空白を心配する日本政府ですが、オウンゴールの国自BANG!の徴用工問題にしても、文在寅政権でも官民で設立した財団で日本企業の賠償金を肩代わりする提案がされたものの当時の安倍政権がガン無視していたものですから、これがチャラにされるということはないでしょう。元々政治問題化したのは日本の方なんですから。

一方尹大統領は告発を受けて内乱罪の被疑者にもなっている訳で、こちらは国とソウル市の警察庁長官が逮捕されるなど外堀が埋められつつあります。内乱罪は大統領の不逮捕特権の例外で、最高刑は死刑という過酷なものです。一部で軍や警察の服務規程があるから大統領の命令を断れないので法治主義上問題とする議論がありますが、それを言えば憲法まで変えて権限拡大したロシアのプーチン大統領も肯定される訳で、最高権力者といえども法に服する法の支配の原則が韓国では生きているということです。法治主義と法の支配の違いです。

てことで「ふてほど」の後で今年の漢字「金」が発表され、オリンピックイヤーの恒例で5回目ということが言われてますが、清水寺で発表された字が草書体で将棋の金将の駒の裏の表記ということで、裏金を表すという漢字検定協会のエスプリです。そんなこんなでこのニュースです。

都議会自民も収入不記載か パーティー券、経緯調査 - 日本経済新聞
政治資金規正法は地方の首長や地方議員も対象ですから、当然不記載は違法ですし、それによって裏金を手にすれば、それを国会議員、首長、地方議員で遣り取りしてもわからない訳で、裏でどんな利益誘導がされていたのかわかったもんじゃない訳です。当然これは都だけの話ではなく全国で行われていると見られますが、都の予算規模から言えば他の地方より大きな金額が動いていることは間違いないでしょう。五輪霧中の神宮外苑再開発事業や晴海フラッグの転売差益や築地市場跡の再開発その他多数の再開発事業で三井不動産などの大手デベロッパーが名を連ね、小池知事や自民都連や都内選出国会議員のパーティ券購入に勤しんでいるという構図が見えてきます。そんな中で千代田線北綾瀬支線の北綾瀬駅前の再開発でも三井不動産の名前が出てますし、おそらくタワマンたわわで8号豊住線建設マジ卍?にも絡んでいるでしょう。豊洲市場もそうですし、埋立地開発は三井不動産が得意とするところですが、公有水面埋立の認可権限は都道府県が握っている訳で、知事や地方議会へのアプローチは欠かせない訳です。しかし政府や国会と比べればメディア露出も少なく、こっそりと進められるというおいしさもある訳です。晴海フラッグ絡みでなこんなニュースも。
晴海フラッグ「謎のキーボックス」 内覧競い業者取り付け - 日本経済新聞
上記エントリー時点では豊住線は第三セクターが建設して東京メトロが運営受託というスキームが考えられていたようですが、結局東京メトロが南北線品川延伸と共に自ら建設することで決着しました。高圧経済のワナで指摘したように、東京メトロ株の売り出しを50%に制限し、国と都の持ち分比率を維持したまま支配株主の立場を維持したことで、都が国に要請して地下鉄補助金を出すことを条件にしたことで、建設を渋っていた東京メトロとしては逆らえない状況になったってことです。東京メトロ株の上値が重い訳です。

さてそうすると、美濃部都政時代から都が要請していてバカの壁、壁が取れても残るバカの猪瀬知事の地下鉄統合問題は脇に置かれたことになります。元々猪瀬案の地下鉄統合は東京メトロと都営地下鉄の財務状況から無理筋だったのですが、株式売却益を都営地下鉄の財務改善に使うならともかく、小池知事はどうやらその気はなさそうです。故に豊住線や南北線延伸に留まらず懸案湾岸地下鉄と再開発の原資として株式売却益を使うつもりでしょう。バカの壁に拘った猪瀬ン都さんはまだ都民を見ていましたが、みどりのたぬきの悪だくみは都民不在です。そして壁いろいろ。

年収103万円の壁、25年から引き上げ 自公国が合意 - 日本経済新聞
補正予算正るつの為に自公が折れた形ではありますが、その後能登半島復興予算を予備費から1千億円付け替える立憲民主党の修正案に自公が乗る形で成立した訳で、国民民主党との約束アh事実上空手形となりました。103万円の壁見直し来年からは実現するにしても、来年の通常国会の税法改正が前提ですから、そうなると少数野党の国民民主の出番は減ります。
厚生年金、年収「106万円の壁」要件は撤廃へ 厚労省調整 - 日本経済新聞
実際の年収の壁として過酷な厚生年金の加入要件から年収要件を撤廃することで壁撤廃ですが、加えて労使協議の同意を条件に雇用主負担を増やすことで年収減を回避する厚労省案が出されています。但しこれは雇用主との力関係で殆ど実効性は無いでしょう。寧ろ社会保険料冨tなんで生じる手取り減を国庫で補填する立憲民主党案で概算7千億英程度の予算措置で可能ということで実現可能性はあります。というか、玉木氏の年収の壁問題は聞けば聞くほど雇用主の立場を代弁しているとしか見えません。

最後に年末4万円超が期待された東証日経平均株価ですが、年内の4万円の壁突破は困難と見られています。コーポレートガバナンス改革期待もむなしく海外投資家が消極的な一方、新NISAで増えた日本の個人投資家はオルカンやS&P500などの海外株式投信に流れていて日本株への流入は限られています。資産運用立国の掛け声で貯蓄をリスクマネーに振り向けても日本株に向かわない現実に日本が直面する壁があるということですね。壁でまとめてみました^_^;。

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Saturday, November 30, 2024

さては民民たま浮かれ

年収の壁のウソ高圧経済のワナの東京メトロ株のおさらいですが、今週株価が1,700円台をつけたものの、金曜日反落で1,600円台に戻りました。メトロに限らず食品など個人株主を集めるディフェンシブ株が売られたもので、先行き不透明感を投資家が感じ取ったものです。そのほか自動車など輸出関連株も不調で、トランプ関税への警戒と日銀の利上げ観測で為替が円高に動いたことなどがマイナス材料となりました。米国株のトランプトレードもブレーキがかかり始め、いよいよ市場が身構えつつあるというところでしょう。

一方で年収の壁問題は連日メディアを賑わせてますが、玉木氏の発言から大学生のアルバイトの問題を重視しているようです。親に扶養される大学生がアルバイトで103万円を超えると扶養する親の扶養控除が無くなるということを重視しているようです。それ故に稼ぎ時の年末商戦で勤務シフトを減らす学生が多く、雇用主が悲鳴を上げているということですね。とはいえこれも学生をそんなに働かせないと維持できない事業ってどうなんだってこともあります。昔と違って学費は親が出しても家賃など生活費の高い都会暮らしでバイトしないと生活できない実態があります。

加えて就活もあるし就職しても奨学金返済もあるしで、給料だけでは足りず副業までして綱渡りとなると、人手不足を若者を追い込んで働かせることで凌ごうってことになります。つまり雇用主側の言い分に沿ったことであって、若者を使い減らしすることになるんだけど、それを若年有権者が支持したってことになります。これ合法的ブラックバイトになりかねません。学業が疎かになればイノベーションで成長を目指すのも難しく、働き過ぎて効率が落ちれば結局生産性を下げて経済の停滞を招きます。やっぱり騙されてる。

とはいえ躍進といっても28議席の小政党で存在感をアピールしたいことは理解できますが、自公政権は仮に国民民主党を取り込んで予算案を通すにしても、予算委員長を確保した立憲民主党と対立するのは具合が悪い訳で、自公政権としては話は聞くけど国会で決着をつけるしかないから本当は立憲と話がしたい訳で、それがわかっているから国民民主党としては焦りがあるんだと思います。加えて玉木代表の不倫報道があったりしますが、ザイム真理教論者に言わせれば財務省に逆らったからスキャンダル流されたという見立てらしい。

さらに地方の首長がこぞって地方税収源に言及していますが、これも財務省のやらせとばかりに言ってますが、国より財政基盤が弱い上にただでさえ人口減少で税収が減っているときに国の減税に付き合わされる訳で、地方創生交付金増やしても嬉しくないってことになります。ふるさと納税もそうですけど、国の制度を変えて地方が振り回される構図は毎度毎度繰り返されている訳です。それどころか地方は創生できないで取り上げた福島県国見町のように民間企業に食い物にされる事例まで出てきている始末。オールドメディアの不作為の兵庫県知事選で選挙違反を指摘された斎藤知事を支援した広告会社も兵庫県の事業を請負っていたということで、何のことはない利権漁りだったと言えます。

こうした公共のマネタイズというべき恥ずべき事態が地方を食い物にしていることこそ問題にすべきなんだと思います。これ自治体に限らず例えばLuupなど電動キックボードのレンタル事業ですが、歩車道の分離や自転車レーンの整備など昨今の都市部の道路整備で生み出された安全のための公共のスキマ空間をマネタイズする事業と考えるととんでもない事業を簡単に認可した自民党MaaS議連はやはり問題です。尚、ライドシェアにも共通しますが、この手の交通系すき間ビジネスは結局マスマーケットを取りにいかないと元が取れないという意味では、地方の救世主にはならないってことも指摘しておきます。その意味でサイドバーで紹介した持続可能な交通まちづくり ――欧州の実践に学ぶ (ちくま新書 1824)は一読をお勧めします。EUで進むSUMPの考え方はMaaSとは別物で、公共よりもビジネス優先の日本とは全く異なります。

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Saturday, November 16, 2024

高圧経済のワナ

インフレ下の政治混乱は続きます。

ドイツのショルツ連立政権が瓦解、景気不安が導火線 早期総選挙へ - 日本経済新聞
ドイツのシュルツ首相が自由民主党(FDP)党首のリントナー財務相を解任したことでFDPが連立を離脱して一転少数与党となったことで、来年2月の総選挙と総選挙前のショルツ首相の信任投票が行われる運びとなりました。ウクライナ戦争で安価なロシア産天然ガスが利用できなくなったこと、アメリカが消極的なウクライナへの兵器支援、中国の内需失速による自動車メーカーの販売不振、加えて中国EVメーカーの欧州攻勢でEU域内販売も不振と悪条件が重なる中で、財政による経済の下支えをしたいシュルツ首相と健全財政の原則を譲らないリントナー財務省の対立の結果ですが、一時10%を超えたインフレによる国民の不満が背景にあります。
アメリカ、下院も共和党が多数派 トランプ新政権「トリプルレッド」に - 日本経済新聞
元々伯仲していた上院の逆転は予想されていましたが、下院も共和党が多数派となりトリプルレッドとなりました。とはいえ議会共和党はトランプ派一辺倒ではないので、移行後の政権運営の追い風となるかどうかはわかりませんが、インフレで国民の怒りを買った民主党は完全な敗戦です。イエレン財務長官がFRB議長時代からの持論だった高圧経済論がインフレを助長したことは間違いありませんから、共和党のネガキャンのせいとは一概に言えないところがあります。具体的にはインフラ投資法やインフレ抑制法(IRA法)の撤廃までは難しいとしても予算の圧迫は避けられないところ。三つ子の赤字でテキサス新幹線の連邦政府の調査費がついたものの真っ先にキャンセルされそうです。JR東海の北米事業は今のところ成果なしとなりそうです。高圧経済のワナに嵌った訳です。

但しトランプ氏の関税強化や富裕層減税はインフレをもたらしますから、結局米国民は引き続きインフレに苦しめられますから、2年後の中間選挙で逆転の可能性はあります。となると米FRBはインフレ抑止のために再利上げに追い込まれますし、財政負担が増すことで長期金利も上昇しますから、金利差で円安が進むことになります。今週の円安はその辺を先取りした動きですし、北米市場依存の強い日本の自動車メーカーも高関税の逆風を受けます。そうなると円安だから儲かるという図式が変わってきます。ドイツなど欧州勢もこの点は同じですが。

という訳で、大統領選前からトランプトレードということで株が上がったりしてますが、日本株はこれまでのような連れ高とはいかのいようです。逆に円安で割安感の出た日本企業はM&Aやアクティビストの標的になりやすいということもあります。例えば西武そごうの売却を巡って労組と対立してストまで打たれたセブン’アンドアイHDですが、経営の迷走が続いてアクティビストに狙われるの留まらず、同業のカナダ社アリマンタシオン・クシュタール(ACT)から買収提案を受けるに至りました。国内最大手の小売りグループが海外企業から買収提案を受けるのは円安の影響といえます。セブンは対応策として祖業のイトーヨーカドーなどスーパー事業を中間持ち株会社化して外部資本を入れて上場させるとしていましたが、親子上場復活は悪手ですし、ACTはスーパー込みでの買収提案ですから対抗策としては弱いということで、創業家等の資金によるMBOで非上場化というところまで追い込まれました。とはいえ資金が集まる可能性は低いと思いますが。

中間持ち株会社といえば小田急電鉄が箱根地区の事業を統括する小田急箱根HDを立ち上げて箱根塗材鉄道、箱根登山バス、箱根ロープウエー、箱根観光船他の事業会社を子会社とする形で実現してますし、やはりアクティビストにオリエンタルランド株売却を迫られて新京成電鉄の子会社化と傘下バス事業者を京成電鉄バスHDという中間持ち株会社傘下で再編したり、関東鉄道を子会社化して京成電鉄茨木HDとして事業会社としての関東鉄道と関鉄バスその他のバス事業再編に進んでいます。規模を膨らませて外資のアタックを避けようってことですね。

で、インフレ下の政治混乱の自粛解禁wwwで東京メトロを取り上げますが、売り出し価格1,200円に対して1,630円をつけ、その後も買い優勢で一時時価層が置く1兆円越えという幸先の良いスタートとなったものの、その後の足踏みが続いています。立地条件の良さから鉄道企業としては収益性抜群で、高配当や株主優待の期待があって個人中心に幅広く買われ、新NISA後初の大型上場でもあり、買われた理由ははっきりしてますが、成長戦略が見えないことは指摘しておきます。有楽町北進線や南北線品川延伸で運輸収入が増える要素はありますが、関連事業で成長を目指すという成長戦略は具体性がありません。

通常の鉄道会社なら郊外の開発で開発利益を生む田園都市線方式や国鉄分割民営化で誕生したJRなら高輪ゲートシティのように鉄道用地の余剰を活用した再開発事業を自ら手掛ける余地がありますし、JR東日本では開発後にファンドへ売却して得た資金を次の不動産開発に充てる形で事業を成長させるというビジネスモデルが可能ですが、鉄道用地の余剰が殆どない地下鉄では同じ手は使えません。保有物件は主に地上出口や通風口などと若干の保守ヤードぐらいで、単独での開発事業の余地はほぼ無く、大手デベロッパーとの協業か相互直通社の沿線開発など限られております。

東日本大震災の復興資金にするとされた株式売却益も東京都の意向で国と都の保有比率を維持した形で50%だけの売り出しですから、国庫に入った資金は半分になった訳ですし、国と都が支配株主として残る形で一般株主は個人中心となるとまともなコーポレートガバナンスが働かない可能性があります。上場後のの新線建設は将にそれで、恩恵を受けるのは地権者とデベロッパーばかりで東京メトロのメリットは見えません。そして今少数株主となる一般株主は高配当と株主優待で満足しろという形になる訳です。そしてアクティビストも手を出しにくい訳ですが、その辺を睨むと今の株価水準はあまり上がり目がないということになります。

東京メトロでは都市鉄道の運営受託の事業化も考えているようですが、日本の鉄道事業者の高品質だけど高コストで参入は簡単ではありません。但し円安は若干プラスかもしれませんが、海外事業に熱心なJR東日本でも成長分野というには至っておりません。都市鉄道分野では香港地下鉄が東京メトロ以外では唯一の民間事業者で同様の事業を展開してますが、実績のない中での後追いはかなりしんどい道のりと覚悟すべきです。

あと株式売却益の東京都分が何に使われるかが不透明です。単年度黒字を実現したものの累積債務返済に喘ぐ都営地下鉄の債務償還に使うなら、将来の地下鉄統合へ向けた前向きな話になりますが、東京都は東京-有明間の湾岸地下鉄の実現に回す可能性があります。その為に事業主体とされる東京臨海高速鉄道の増資に回すということか?そうするとJR東日本が希望するりんかい線編入が微妙になる訳で簡単ではありません。いずれにしてもこれらの事業は開発主体となる三井不動産などの民間デベロッパーにいいとこ取りされる訳で、三井不動産は小池知事や都議会自民党議員や萩生田光一議員などのパーティ券購入で助けている訳で、神宮外苑再開発に見られるように都民から見れば明らかな利益相反です。裏金議員を許しちゃいけない理由はこういうところです。

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Saturday, November 09, 2024

インフレ下の政治混乱

米大統領選が早々大勢が判明しました。

アメリカ大統領にトランプ氏、4年ぶり返り咲き ハリス氏破る - 日本経済新聞
僅差で伯仲と言われた選挙前の予想に反してトランプ氏大勝という結果です。いろいろな見方はあるでしょうけど、選挙イヤーと言われた今年の選挙で英総選挙で労働党勝利による政権交代や仏マクロン派の敗北や日本の総選挙での与党の過半数割れなど荒れた選挙は米国でもということで、予想どおりだったのはプーチンのロシアぐらいwww。共通項を探すとすればインフレ経済による構造変化が指摘できます。

バイデン政権の4年間はトランプ政権のデタラメなコロナ対応の修正に始まり、規模は圧縮されたものの老朽インフラ対策のインフラ投資法や半導体や環境関連で成長を目指すインフレ防止法(IRA法)を成立させ、コロナ明けの経済回復もあってとりあえず有権者に示した約束は果たしており、消費も好調で株価も上昇していて成果をあげていたにも拘らず、その路線を踏襲すると見られたハリス氏が敗れた訳で、非白人の女性だからとかエリートだから嫌われたとか、いろいろ言われてますが、財政拡大がインフレを呼び込み、それが中流以下の米国民の生活を圧迫したことが大きいと言えます。英仏日の選挙でもインフレに無力な政府に対する反発です。インフレ退治は基本中央銀行の役目ですが米FRBはこう出ました。

FRB、「トランプ・リスク」警戒 追加利下げ決定も暗雲 - 日本経済新聞
FRBは9月に続いて利下げに動きました。今回は0.25%と前回の半分ですが、FRBの判断はインフレが鎮静化しているという見立てで利下げに動いた訳ですが、トランプ政権の経済政策が不透明で、選挙中に主張していた関税強化や富裕層源氏絵は実現してもインフレを助長することになり、状況によってはFRBも再利上げということも起こり得ます。インフレが落ち着いてきたタイミングでの野党ネガキャンによる選挙敗北とすれば皮肉です。

一方の日銀は金融戦場かの旗は降ろさないものの利上げは見送ってますし、FRBやECBと違って国債償還によるテーパリングには踏み込めず、国債購入を続けています。これは国債金利の上昇で大量保有する国債の含み損で自己資本が毀損することを割く得たもので、アベノミクスの負の遺産がのしかかっている訳ですが、それがインフレ率に届かない長期金利の低さから政府財政の健全化の圧力を弱める結果になっています。故に過大に計上されたよ墓碑その他の予算を余らせて譲許金を防衛費に充てて不人気な防衛増税を誤魔化している訳です。その意味では年収の壁のウソで取り上げた国民民主党の103万円の壁見直しは与党にはすんなり吞めない話ですが、腰だめの数字としても一気に75万円アップの178万円にかかる7~8兆円ではなく、せいぜい10万円アップの113万円程度で手打ちでしょう。

それでも1兆円規模の恒久減税になる訳ですが。確かにインフレ下で基礎控除の見直しの必要はわかりますし最低賃金上昇もあります。物価上昇や賃金上昇の実態から言えば10%程度が相場感でしょう。それよりも立憲民主党が選挙公約に掲げた給付付き税額控除(負の所得税)の方が消費税の逆進性緩和の意味もあり、所得税が課税されても税額控除で手取りが減らないしで就労を邪魔しないしで優れており、欧米の複数国で導入されています。国民民主のように与党税調にねじ込むよりも立憲が委員長ポストを取った予算委員会で議論すればよいですが、どのみち税法改正が必要で実施は早くて来年以降になります。国民民主はそれまで今のテンション維持できるかい?

協議に応じる自公も大概だけど、少数与党として野党の切り崩しもしたいから話は聞くってことでしょうけど、インフレ下では多少の予算の過大計上は税収の自然増で賄えるからわざと余らせて防衛費に充ている与党に国民民主が相乗りするサインでもあります。これかつての高度経済成長期の財政拡大によるインフレ政策をなぞるもので、敢えて赤字予算を組むことでインフレが進むから結果的にインフレ分だけ税収は増えますが、借金は残ります。但し貨幣価値の切り下げで国民生活は窮乏します。高度成長期当時でもインフレで豊かさの実感が乏しいと国民は不満たらたらでした。それでも経済全体が成長していたから回ったけど、労働力人口が減少して回らなくなっている現状で産業構造を見直すことなしに成長は無理なんです。その意味で気になるニュース。

東京メトロ、有楽町線と南北線の延伸工事に着手 - 日本経済新聞
上場初日にトップ会見で運輸業比率の高い現状から不動産尚のあkん連事業を育成して脱却して成長したいと述べていましたが、結局上場後に新線建設するということは、そこへリソースを割かなきゃならないから関連事業育成と矛盾します。地下鉄ですから元々保有不動産はJRと比べても少なく、地価の高すぎる東京都区部では東急の多摩田園都市のように自前開発するには地価が高すぎて、結局民間デベロッパーにうまい汁吸われるだけでしょう。上場し絵も国と都が株式の半数を握っているから東京メトロとしても断れない。それで潤うデベロッパーから都知事や自民党議員に裏金がピー――――――――――――(以下自粛^^;)。

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