大手私鉄

Saturday, November 04, 2023

笑う鬼退治

鬼が笑う2024年で取り上げたインボイス問題のニュースです。

インボイス導入1カ月「想定以上に負担」 混乱続く企業:日本経済新聞
サラリーマンの経費精算でインボイスの有無の確認作業で現場負担があることは国税庁も認識していて1万円以下の取引でインボイスが省略できる経過措置を決めたりしましたが、ネット取引での登録ナンバー確認など次々に面倒な問題が湧いて出てますし、ドライバー不足なのに運送大手が委託先の多重下請けが仇となって委託先の登録の有無を把握しきれないなどの問題も起きています。独禁法違反が疑われる委託切りも見られるなど混乱しています。

これらはインボイス自体の問題というよりも説明不足や日本的な商慣習故の問題だったりしますが、ただでさえ働き方改革の2024年問題でドライバー不足が言われる中で、タイミングが悪かったとは言えますが、欧州付加価値税制度では機能している制度が日本ではこうなってしまうというのは、日本社会が抱える問題と見るべきでしょう。欧州でも当てない民主政治で損くらってますで取り上げたギリシャショックのようにヤミ営業でインボイス発行しない脱税が横行していたなんて例もありますから、明示された法令も社会の受容次第で機能を失うことは同じではありますが。

ギリシャショックは同時に財政破綻のリアルを示しており世界最悪の日本財政の反省材料にもなります。長期金利が7%になると財政が持続可能でなくなることを明らかにしました。今の日本の減税議論に違和感しかありません。それも所得減税に拘ったために実現は来年6月という役に立たないものですし、1年限りなら後に増税が待っている訳で、リカードの中立定理が働く故に減税くそメガネになります。減税うそメガネとも言われているようですが^_^;。だからといって恒久減税は論外ですが。

別の視点ですが今回の減税は税収の上振れ分の還元を謳っている訳ですが、その根拠となるのが22年度の10兆円超の税収上振れでして、円安による企業業績の上昇による法人税収とインフレによる消費税収が主なもので、7:3の割合です。昨年円相場が激しく動いた結果ですが、今年は150円前後で膠着しており、去年のような上振れが起きるとは言えませんし、インフレは税収増をもたらすと同時に政府支出も増やします。今年度の予算は当然インフレを踏まえて連動する社会保障費は拡大しますし、人件費や資材費の上昇は公共事業費も上振れさせますから、年度をまたいだ歳出増で消化されます。故に減税財源にはならない訳です。

日銀、長期金利1%超容認 植田総裁「大幅に上回らず」:日本経済新聞
日銀がYCC見直しに動きましたが、1%変動枠に長期金利が近づいて維持困難と判断して限度からめどへと表現を変え1%超の金利を容認する姿勢を見せました。但し急激な変動は抑えるということで緩和継続を謳っておりますが、実態は市場の圧力に押されての判断ということですね。それでも不十分ということで為替は円安に振れて150円のバリアを突破しており円安傾向は続きます。

とはいえ変動幅は小さいですから、上述のように法人税収の上振れ効果は限られます。但しインフレ要因ですから消費税収の上振れはある程度発生しますが、政府支出増を上回る水準になるかどうかは微妙です。ということは税収上振れを見込んだ減税は財源的には微妙ってことです。増税メガネと悪口言われたから減税を打ち出すとか、思いつきで政治をやるなということですね。

岸田政権の打ち出す政策は。例えば少子化対策と称して児童手当の拡充を打ち出し高校生も対象に加えてますが、一方で自民税調で高校生の扶養控除圧縮が議論されているという具合に目先を誤魔化す姿勢が見られます。基本的に国民をなめているとしか思えません。手当拡充よりより高校無償化の方が効果的ですし予算も少なくて済みます。という具合に目につくところをやったフリで乗り切って選挙の票稼ぎというあざとい姿勢は国民に見透かされてます。桃太郎よろしく鬼退治しても宝は得られません。桃太郎は岡山だけど。

2024年の働き方改革で人手不足が言われている中で少子化対策でバラまくというのは本当の問題解決にはならないばかりか、仮に出生率が上がって子供が増えたところで家庭内のケア労働を増やして特に女性の就労を圧迫しますから、人手不足は悪化します。持続可能な賃上げを打ち出して法人減税をしても法人税を払っていない赤字企業は蚊帳の外ですし、仮に賃上げが定着しても企業の人件費上昇は価格転嫁に繋がりますから賃金インフレで結局実質賃金は伸びないですし、新NISAで家計貯蓄を資産運用へという画を描いても、今の市場環境では国内株式に資金が回る保証はありません。日銀のETF購入で下駄を履かせた官製市場の現在の株価では個人投資家が得られる利益は限られます。一方でそれでも株価が上がらない日本企業はアクティビストの草刈り場です。

京成電鉄、ディズニーでゆがむPBR 実態は「1倍割れ」 - 日本経済新聞
お業績好調なオリエンタルランド株の保有分の時価が1.6兆円と自信の時価総額を上回る水準にあり、OLC株を除いた本体のPBRは0.5倍程度と見積もられ、英アクティビストファンドから一部売却を迫られております。京成電鉄の場合コロナ禍で空港輸送が大打撃を受けた不運はありますが、逆に空港輸送の1本足打法の脆弱性が露呈した訳で、オリエンタルランドのような優良企業を連結対象にしていることがリスク要因となっている訳です。

京成電鉄には新京成電鉄という優良企業をグループ内に抱えており地域輸送に特化した事業環境もあってコロナ禍の影響も軽微だった訳ですが、その結果コロナに勝てない国で取り上げたように完全子会社化して元々の保有分の含み益由来の負ののれんで益出しするなどしてきましたが、そんな一過性のことでは事態は改善せず次のステップを踏みます。

京成電鉄が傘下・新京成を吸収合併へ 25年4月 - 日本経済新聞
継続的に利益を計上して株価を上げるには、経営統合して運営面で規模の経済を狙うしかない訳ですが、悩ましいのは運賃の共通化問題です。共通化して運賃通算すると初乗り運賃の二重取りが無くなり乗客にはメリットがありますが、運賃収入の減少は避けられず寧ろネガティブな評価になりかねません。故に当面現行運賃を維持するということになりました。

別運賃自体は現行制度で禁止されておりませんし、京成自身もちはら線と成田空港線(スカイアクセス)は別運賃です。それぞれ歴史的事情があって、ちはら線は元々小湊鉄道が東京直通を狙って京成千葉(現千葉中央)―海土有木間の地方鉄道免許を申請して交付されたことに始まります。京成線を通じて東京進出を図った訳ですが、4ft8in1/2(1,435㎜)電化の京成と3ft6in(1,067㎜)非電化の小湊では直通はできない訳で、長らく免許更新を続けながら棚ざらしになっておりました。京成との合弁で千葉急行電鉄を設立して事業化を模索したものの進まず、沿線予定地の宅地開発が具体化して途中の千原台(仮)までの事業化が動き出し実現しました。しかしバブル期の仇花で宅地分譲は遅々として進まず、業績が上がらずに京成が救済合併して京成ちはら線となりましたが別運賃は維持されました。故に対都心でJRに乗り換える場合には千葉中央と京成千葉の間の京成線運賃の合算が重荷になりますが、赤字路線を引き受けた京成としては簡単に運賃を弄れないわけです。

成田空港線は元々三セクの北総開発鉄道(現北総鉄道)の路線を利用していて、小室以東は千葉県営鉄道由来の宅地開発公団線として別運賃だったこともあり、高運賃で利用が低迷しました。宅開公団は小泉改革の特殊法人改革で統廃合や名称変更の結果、鉄道事業を切り離すことになって京成が引き受け第三種事業者の千葉ニュータウン鉄道となり北総が第二種事業者となって一体化されたものの高運賃は改善されず、住民訴訟にまで発展しました。結果的には成田新幹線ルートを利用した北総ルート(成田スカイアクセス)が整備され北総線の運賃の見直しをすることで和解しましたが、それ故に北総線と共通化された成田空港線運賃も安易に動かせない政治性を帯びた訳で、やはり解消は困難です。

という訳で、新鎌ヶ谷で接続する新京成線と成田空港線の運賃統合はやはり無理となると、京成津田沼での京成本線・千葉線との運賃通算に限られる訳ですが、これも新京成線が新津田沼でJRと乗換可能で船橋乗換からシフトすることになると京成にとっては減収要因になります。船橋乗換の場合も東京メトロ東西線に向かう場合はJR線を挟んで初乗り運賃の重複負担となりますが、東京メトロの低運賃に助けられています。京成西船に優等列車を停めないのはJRに気を遣っているのかも^_^;。

ということで、当面車両の共通化や乗務員も含めた運営の柔軟化などで地道に益出ししたり、それぞれが抱えるバス事業の再編などで合理化を進めるぐらいしか打つ手はない訳で、アクティビストの納得を得るハードルは高いといえます。こうした問題を抱えて身動きが取れない日本企業は数多くあり、海外投資家を通じた国富の流出を助けるだけです。鬼たちも大爆笑-_-;。

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Sunday, September 17, 2023

国際問題になった東京五輪の落とし物

東京五輪の落とし物の続きですが、ユネスコの諮問機関のNGOイコモスから神宮外苑の再開発撤回が要求されました。

神宮外苑再開発、イコモスが撤回要求 事業者や東京都に:日本経済新聞
富士山をはじめ世界遺産登録でお世話になったイコモスからの撤回要求ですから、スルーはできないでしょう。

おさらいですが、神宮外苑は明治天皇の崩御を悼む日本国民の寄進によって実現したもので、国民にとっては倒幕で維新、開化を実現させた偉い人程度の認識でしょうけど、広く国民から敬われていた存在でした。そんな国民の声を踏まえて当時の政府は開発制限で地権者の権利を制限する風致地区を制度化してその指定第1号としました。その結果緑地の保全や建設物の高さ制限が課されており、神宮球場や秩父宮ラグビー場、国立競技場などのスポーツ施設もその規制の範囲内で作られたものでした。

Undoしたい大草原wwwの小さな森のザハ案撤回騒動を覚えている人は多いと思いますが、あまり報じられておりませんが、当初旧国立競技場を改修して使うとしていた五輪招致がいつの間にか新国立競技場建設となり、旧国立競技場はあれよあれよと解体されて、工事の難易度が高いザハ案が撤回されたものの、同じ規模の隈研吾案に落ち着いたというアレですね。

実は事前に神宮外苑エリアの高さ制限緩和の都市計画変更が行われていて、謂わば新国立競技場はその露払いで、故にあの規模の新競技場が必要だったってことです。お陰でキャパが大きすぎてレンタル料も高く稼働率スカスカのお荷物になった訳ですが、高さ制限緩和で高層ビル建設が可能になれば。商業施設を誘致して高額のテナント料が稼げますから、少数の民間地権者を利する訳です。

実際三井不動産が高層ビル建設を表明してますし、一方で高層化を快く思わない明治神宮に対しては高さ制限緩和で生み出された容積率の過剰分を隣接する伊藤忠商事に譲渡して譲渡益を得ることで黙らせるという具合に実に悪知恵の詰まった再開発計画です。立案したのは萩生田光一議員で五輪招致委員長の森喜朗が後押ししたものです。ちなみに五輪汚職で招致委員などの刑事訴追がされてますが、萩生田光一も森喜朗もお咎めなしで単なるガス抜きですね。

こういう事情があるので、コロナ禍で1年延期してしかも無観客でも、五輪をやらないわけにはいかなかったし、その裏でこうした悪事が進行していたけど、スポーツを餌にメディアも沈黙していたしで、結局国民の知らないところで進んだ再開発計画というところもイコモスも問題視しています。五輪をダシにした再開発が問われます。

イコモスに関しては世界胃酸でとろける文化散財万歳で取り上げた軍艦島の世界遺産登録で英文の説明に韓国がクレームをつけたことで揉めたこともありましたが、一応日本の主張に沿った決着を見ております。その意味でイコモスからのクレームへの対応は難しいところがあります。

国際ルールを盾に政府の姿勢を正当化する姿勢はALPS処理水海洋放出でIAEAを利用したりしてますが、IOCも利用されただけってことで、国際ルールの都合の良いチェリーピッキングということが言えます。国も都も対応を誤れば国際世論を敵に回すことになりかねません。どうなるでしょうか。

一方五輪汚職で電通の指名停止もあって工程管理がグダグダになっている大阪万博ですが、怪運国債市場の蓋で述べたように工事が進まずいよいよ開催が危ぶまれてます。しかも夢洲の地盤沈下で土壌改良が追い付かないってはて、これ辺野古と同じような状況で土壌改良しないとパビリオン建設も困難ですし、建設資材の搬入路は橋とトンネルが1ずつですし電気もガスも水道も無いからトイレも浄化槽が必要と何だかウンコ臭い現状です。地下鉄中央線の公示も滞っております。

こうして見ると維新のザル頭ぶりが目につきます。所詮底の浅い小悪党で関西財界も腰が引けてます。政府が乗り出してゼネコンへの協力要請をしたりしてますが、図面すら開示されない工事を請負うことはできません。結局政府と大阪府/大阪市の責任のなすり合いになりそうですね。なにわ無くとも江戸村先五輪ですよで示唆したように、どこか間抜けな維新です。まあ阪神のアレで浮かれとりゃええわい。フランチャイズを失うヤクルトの優勝は遠のくでしょうから、留飲を下げられます。

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Sunday, July 30, 2023

本気の気候変動対策

豪雨の梅雨が明けて猛暑の夏となりましたが、豪雨の影響は多岐に亘ります。

大雨、排水能力超え 秋田大雨1週間「どこの都市でも」:日本経済新聞
秋田市の水害は典型的な内水叛乱です。かがやきを失った北陸新幹線 で取り上げた川崎市のタワーマンション被害のように、豪雨で雨水が下水道の処理能力を超えて流入した場合、逆流して住宅等に被害をもたらすもので、内水氾濫と呼びます。タワマンの場合電気設備を地下に置くケースが多く、水没して停電という被害が起きた訳ですが、停電するとエレベーターが使えず揚水ピンプで水道水をくみ上げて落とす給水設備も使えなくなりますから地獄です。戸建てでも床上浸水もありますし、都市部ならどこでも起こり得るものです。河川の越提氾濫と違って見た目で危険がわかりにくいし、自治体のハザードマップに記載されているとは限りません。

とはいえ地下の下水道の能力増強は簡単ではありませんし、当然多額の費用が掛かります。例えば東京都で大規模な地下調整池を設けたりしてますが、東京都の財政力だから可能ということもありますし、それすら想定外の豪雨が続けば氾濫は起こり得ます。つまり完全な備えは難しい訳です。また確率の低い豪雨への備えにどれだけ公費を使うかについての合意形成も困難です。また人口減少下では公費負担を簡単には増やせません。

そもそも都市化で人口が集積するから下水道を整備しなければならなくなる訳ですが、例えば開発に適さない低湿地を公費で購入して調整池にするとかして、過剰開発を抑制する方向で考えて下水道への雨水流入を抑える方が安上がりで現実的になるんじゃないかと思います。上記かがやきエントリーで北陸新幹線の車両基地が低湿地に立地していたこともありますが、作っちゃいけないところに車両基地を作っちゃったということも言えます。財源制約が強い整備新幹線故に安い底地買いで被害を受けたとも言えます。

てことで苦い経験をしたJR東日本ですが、国鉄時代に建設された東海道新幹線の大阪運転所のように近くに天井川があって、当初から水害対策が考慮され、民営化後も車両を盛土上の本線に避難させる訓練を積み重ねてきた訳で、その経験はJR東日本に引き継がれなかった訳です。とはいえJR東海は水害対策が万全かと言えばそんなことはなく、名古屋の天白川の氾濫で当時の葛西敬之社長の運行継続の指示で多数の列車が立往生して車内泊を強いられましたし、今年の6月豪雨では早めに規制をかけたものの混乱しました。

東海道新幹線、大雨混雑防げ ダイヤや情報伝達改善へ:日本経済新聞
東海道新幹線の約半分の区間が盛土で、パイプを埋め込んで水抜きしたり土留めの擁壁で法面崩落を防いだりといった対策はされてますが、雨量が植えれば盛土が緩んで路盤や法面の崩落は起こり得ます。列車の通過に伴う振動がきっかけになることもあり、沿線の雨量計を見ながら徐行や運休などの規制を決める訳ですが、問題は情報伝達の拙さで駅に乗客が滞留し混乱したことです。JR西日本のように予報段階から計画運休するぐらいしないと結局混乱は避けられないんじゃないでしょうか。

山陽以降の全幹法規格の新幹線では高架橋主体で盛土は取付部などに限られますが、それでも豪雨による混乱は完全には避けられない訳ですから、盛土の多い東海道新幹線ではより慎重な対応が求められます。しかしのぞみ増発で輸送能力を高めてしまったが故に運休の判断が難しくなっているということも言えます。JR東海はそれ故に中央リニアを作るんだとしていますが、輸送力は東海道新幹線には及びませんし、第一難工事で開業の見通しが立たない状況です。

一方の北陸新幹線も敦賀で当面足踏みの状況が続きそうです。やはり難工事が予想される小浜京都ルートに拘らず、早期開業が見通せて事業費も少ない米原ルートで実現することで代替ルートは確保できます。但しJR東海の孤立主義が問題を難しくしている面があります。また豪雨にしろ猛暑にしろ気候変動の影響と見るのが妥当ですし、欧米やオーストラリアなどでも熱波や山火事を気候変動に絡めて報道されることが増えてますが、日本では見られません。正直言って人口減少に対応した開発抑制はCO2排出削減にもなりますし、実際電力需要は縮小しており、再エネ転換がやり易い状況になってきています。政府が言うGXの本気度が疑われます。

水害じゃありませんが首都圏ではこんな輸送障害がありました。

山手線全線で運転再開、11万人に影響 信号装置が故障:日本経済新聞
月曜朝の輸送障害で混乱しましたが、原因は信号トラブル。しかも大崎の東京総合車両センターの本線出口部分の機器トラブルで主要車両を本線に出せずに運休という致命的なもんです。思い出されるのは2015年の籠原駅の地落事故で電留線から車両を出せなくなった輸送障害ですが、今回は信号システムが原因です。

首都圏ではATOSと呼ばれる運行管理システムで列車の進路選定や遅延時の指令業務から駅の案内表示に至る一連の自動化がされている訳ですが、車両基地の出口のトラブルで車両を本線上に出せなければどうにもなりません。勿論システムを解除してマニュアル操作することは可能ですが、その場合車両基地に収容された車両を1編成ずつ手作業で進路を選定し、手旗などで合図しながら動かすことになりますから、大量の要員を確保して慎重に行う必要があります。当然処理能力は落ちますから、早めの復旧はしたものの平常の6割程度の運行に留まった訳です。JR東日本はそれなりに努力した結果です。

但し乗客への告知や案内は徹底しており、大きな混乱は見られませんでした。山手線は京浜東北線との並走区間の代替輸送と共に地下鉄網による代替輸送が可能という立地もありますから、元々冗長性が確保されているとも言えますし、加えてコロナ禍によるリモートワークでピーク輸送量が減っていたことも幸いしました。金融危機は核より怖いで取り上げた通勤定期運賃値上げの影響もあるかもしれません。つまり需要抑制のための値上げを実施ている訳で、こうした冗長性の確保はトラブル対応にも有効ということですね。効率重視一辺倒は見直す時代と言えます。

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Saturday, July 15, 2023

ブルシットジョブ型雇用の国

デジ足らん国のデジタルジャック(DX)で取り上げたマイナンバーカードのトラブルはその後も続いております。いちいち取り上げませんが、トラブルの発生率が低いとか、人的ミスでシステムの問題じゃないといった擁護論がありますが、要件定義がいい加減だからカードのICチップへの紐付けを手入力でやってミスを誘発しているのはシステムの問題ですし、個人データを流出させて危険に晒すのはそもそもセキュリティに無頓着だからです。端末に前の人のデータが残るとか保険証の紐付けも自治体職員の手入力だったりして、しかも地方交付税減らすぞと脅して尻叩く一方、問題が発覚しても責任取らないじゃ、ますます不信感を生みます。

てことで内閣支持率ダダ下がりで解散できなかった岸田政権ですが、マイナカード推進派に言わせればカードのトラブルより増税が嫌われたという解釈のようですが、防衛増税にも踏み込めず、当面決算剰余金を充てることで誤魔化そうとしております。コロナ禍に乗じて予備費を積み増してますから、当初予算で赤字国債を発行していて決算で余ったから防衛費に回すでは結局国債の財源化ですし、決算剰余金は基本的に次年度の赤字国債発行の圧縮に使われますから、それを流用することで二重に国債の財源化になっています。誤魔化しばかりです。そして社会保障改革でも誤魔化しです。

年収の壁どうなる パート「働き損」解消、50万円の奇策
年収の壁問題はやや複雑なんですが、かつて103万円の壁が言われましたが、これは実際は壁でも何でもなくて、当時の基礎控除38万円+給与所得控除65万円の合計額を上回ると所得税が課税されるというものですが、所得税はあくまで課税所得つまり控除を超えた部分にかかるだけで、しかも最低税率5%ですから、稼ぎ過ぎて手取りが減る訳ではなく、単に税金が引かれるだけです。但し地方税の住民税は基礎控除100万円で1年遅れの負担となりますので、それで驚くケースもあります。

一方社会保険料はいきなり負担となり、従業員数区分で106万円と130万円の壁が生じますが、100人以下が130万円で101人以上が106万円ですが、人数区分が1,000人から100人に変わったことで、例えばスーパーの主婦パートの多くが106万円の壁に捕まるということで、シフトを減らす動きが出ているということですが、この議論には違和感があります。

問題の根底には専業主婦の特権と言える第3号被保険者問題が潜んでいます。被用者年金の配偶者は自己負担無しに基礎年金加入者として扱われ、老齢基礎年金の受給資格を得ますが、パート労働者の厚生年金加入が制度化されて社保加入が事業主に義務付けられた結果、シフトを減らして人手不足になるということで、該当企業から悲鳴が上がった訳です。

これ単純化すれば主婦パートが第3号被保険者から第2号被保険者に変わり、結果的に老齢年金の受給額が増えたり、あるいは第3号被保険者は対象外の妊娠出産一時金の受給資格を得ますし、加えて雇用保険への加入もある訳ですから、例えば勤め先の廃業などで職を失った場合も失業保険の受取も可能なんで、こうした負担と受給の関係をきちんと説明できていない結果でしかない訳です。まあ事業主側の本音としては事業主負担が増えることへの抵抗感を言い換えている可能性はあります。だから対策も雇用保険を使って事業主に補助する形になっていると見ることができます。

あと当然ながら第3号被保険者制度の見直しが連動していない結果でもあり、付け焼刃で制度を弄って混乱させているというのが実態です。こうしたことを放置する一方、少子化対策と称して児童手当の拡充を進めてますが、こちらも財源問題で右往左往しており、別の社会保険会計からの付け替えなどの姑息な対応が意図されております。これが危険なのは認めてしまえば国会審議無しに財源を拡大できてしまう訳で、財政民主主義に反します。

こうした制度の複雑さは、歴史を辿れば近衛文麿政権が進めた国家総動員体制に行き着きます。年金と国鉄の意外な関係で示したように、元々厚生年金制度は日中戦争激化に伴う戦費調達木庭だったことと、当時のサラリーマンが良い待遇を求めて頻繁に転職していたことから、転職が不利になる制度として設計されたもので、元々が軍人から文民に拡大した国の恩給制度の民間版として制度設計されております。勘のいい方は分かると思いますが、日本の雇用形態の特徴と言われるメンバーシップ型雇用の原型が形作られたものです。つまり元々日本はジョブ型雇用の国だったのですが、戦時体制と共に失われました。

より正確に言えば、雛形は軍隊にあって、文民の官僚に波及し、それを民間に平行移動させたものです。そして戦後国民皆保険の建前から個人事業主を包摂する目的で国民年金が制度化されましたが、厚生年金や恩給から始まった共済年金が世帯単位で制度化されたのに対して個人単位となり、故に個人事業主の配偶者も国民年金に加入せざるを得ない状況の一方、厚生年金と共済年金には寡婦年金が制度に盛り込まれております。第3号被保険者の老齢年金は基礎年金と寡婦年金の多い方が適用され、高給取りの配偶者としての専業主婦は優遇されています。

そもそもジョブ型雇用が可能になるためには企業単位を越えた外部労働市場の存在が欠かせませんが、大正昭和期の日本は第一次大戦特需による経済成長と関東大震災の復興需要で成長軌道に乗りながら、反動の昭和恐慌と続く大恐慌で停滞していた時期でもあり、工業化と都市化が進んだ時代でもあります。その結果の電力過当競争や大都市圏の電鉄ブームというイノベーションが進行し、その事業に特化したスペシャリストの需要が増した結果のジョブ型雇用だったという意味で、自然発生的なものだったのでしょう。

首都圏で言えば京成電気軌道の高速電車化と千葉延伸と成田延伸、東武鉄道の電化と日光進出、武蔵野鉄道の電化、京王電軌の子会社玉南電気鉄道による八王子進出、目黒蒲田電鉄や東京横浜電鉄の事業拡大、湘南電気鉄道の開業、小田原急行鉄道の開業、川越鉄道の電化と村山線による高田馬場進出で商号を西武鉄道に変更などがあり、微妙に時期がズレていて特に小田急の開業スタッフは開業後川越鉄道に移って旧西武鉄道の成立に寄与するという形で繋がっております。こうしたダイナミズムは戦時体制で失われました。

そして時は移り日本でもジョブ型雇用が言われるようになりましたが、スペシャリストの能力評価が伴わないからうまく機能せず、新卒採用でスペシャリストを囲い込み優遇する一方、長年勤務の中高年社員は55歳で役職定年で部課長もヒラ待遇で減給、それでも60歳の定年と65歳の年金受給を繋ぐ再雇用のために年下上司の忖度するなんちゃってジョブ型雇用が横行しております。つまりスペシャリストとして会社に貢献するのではなく会社に居続けるための仕事ってことですね。こういうのをブルシットジョブ、日本語で言えばクソどうでもいい仕事となる訳です。マイナカードの紐付け作業を押し付けられる自治体職員も同じですね。これじゃ経済停滞は続きます。

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Sunday, May 28, 2023

払い損国家ニッポン

2つの新聞記事に注目しました。

円安・株高の共振、円半年ぶり140円 米景気が左右か:日本経済新聞
低成長で税収増の不思議 22年度、初の70兆円超えへ チャートは語る:日本経済新聞
両者は深くかかわりがあります。円安が一段進みドル円140円を超えました。若干の揺り戻しはあるものの、均衡点が変わった可能性があります。米FRBの利上げ観測が起点ですが、米雇用統計や消費者物価動向が強めに出ていて、打ち止めが期待された利上げが続く可能性が意識された結果、日米金利差の拡大予想で円が売られドルが買われた結果です。

一方の日本では低成長下の税収上ブレという奇妙な現象が起きている訳ですが、3つの要素が積み上がった結果です。1つ目は円安による大手企業の業績上ブレによる法人税収増、2つ目は主に個人事業主の所得税收増、3つ目は物価上昇に伴う消費税収上ブレです。法人税収増は主に円安による輸出大企業の業績が上ブレした結果で、内需企業や中小企業の多くは寧ろ業績を落としています。個人事業主の所得税收増はコロナ禍での持続化給付金や専従者雇用を守る為の雇用調整助成金が寄与したもので、一部内需企業の法人税も同様のことが起きたと見られます。消費税収増は後で取り上げます。

これつまりコロナと円安が起点になっているという点で関連したニュースということになります。特に円安の影響は多岐に亘り、当面反転の見込みはありません。その結果輸出大企業を中心に業績は上向いてますから、日本株の買い材料となる訳で、特にFRBの政策スタンスから迷いのある米株式市場から日本株に資金シフトが起きている結果、株価上昇に繋がった訳で、東京市場は国債市場のサブ市場というポジション故の出来事ですから素直に喜べません。当然海外勢はリニアちゃん気をつけてで取り上げたPBR1倍割れ企業の株主還元策への期待もあります。

てことは輸入インフレは終わらないで庶民の財布から失われた富が輸出大企業に移転して、それが株主還元策で海外投資家に漏出することを意味します。そうなるのは業績が上向いても雇用者報酬を増やさない企業の姿勢によるものです。春闘で賃上げが報じれれてますが、定期昇給込みですから、ベースアップ部分はインフレ率に追いつかず、実質賃金は減る一方です。つまり日本企業は雇用者報酬を減らしながら海外投資家に貢いでいると整理できる訳です。これじゃ低成長から抜け出せる訳がありません。

インフレ下の消費税收増は深刻な問題を提起します。インフレ税という言葉がありますが、インフレで恩恵を受けるのは債務者であり、債権者は損失を被る訳ですが、だから利上げはインフレ退治という側面に留まらず債権者保護の意味もある訳です。日本の最大の債務者は政府であり、日銀の異次元緩和で殆ど金利負担無しに債務を拡大している状況です。これつまり債権者である国民の負担の上に財政運営をしている状況ということです。

消費税増税が批判され消費減税を野党が主張する訳ですが、同じ野党が財政赤字の拡大やインフレを批判しないのはおかしなことです。インフレによる消費税収増は言ってみれば庶民への二重課税ってことです。ならば日銀の低金利政策の見直しこそが重要な筈ですが、詳細は省きますがその日銀は動くに動けない状況にあり、植田新総裁の慎重姿勢もあって具体的な動きはありません。

賃上げもそれ自体が次のインフレを呼び込むことになり所謂インフレスパイラルの入り口にある状況ということになると単純に喜べません。加えて賃上げの結果課税所得区分が上位へ移行する層が一定数いる訳です。その人たちにとっては増税になる訳です。高度成長期ならば定期的に税収区分の見直しによる所得減税が行われましたが、これは成長経済故にできたことで、今のような低成長下では税収の上ブレは、単純に決算剰余金を増やし、防衛費増の財源に転用されますから、多くは高価な米国製兵器の購入に使われ、行政サービスとして国民に戻ることはない訳です。

あと異次元の少子化対策と称する子育て支援策の財源を巡る議論で、社会保険料の流用が言われてますが、社会保険料は法改正を経ずに改定可能、つまり国会審議を経ずに増やせる財源ということは指摘しておきます。例えばコロナ禍で雇用調整助成金を大盤振舞いした結果積み立て不足になった雇用保険で保険料値上げという形で負担が来ます。雇用保険料は労使折半の負担ですから、雇用保険で手当てされた雇用調整助成金が企業や個人事業主に支払われた訳ですが、それなら敢えて雇用を守らず失業給付で直接失業者を救済した方が被雇用者側の負担は軽かったと言えます。つまり誤魔化された訳です。

この手の話はまだまだありますが、きりがないのでこの辺にしておきますが、実はここに日本の病理が隠れています。怪運国債依存症で取り上げた所得の恒等式「所得=消費+投資+純輸出+政府支出」の右辺の最終項の政府支出が税の再分配を示すことを述べましたが、格差を示すジニ係数が日本の場合再分配後の方が悪化していることが以前から言われております。つまり制度が寧ろ格差を助長している現実があります。

という訳で、税の議論でも取られることばかり言われ、それがきちんと再分配されて社会的厚生の向上に繋がる議論がなされない結果、国民はますます貧乏になるという構図です。主権者であり納税者でもある国民のこの自覚のなさが問題解決を困難にしています。その意味で例えば滋賀県の三日月知事が提唱する交通税の議論は注目されます。鉄道などの公共交通の維持に公的な支援が必要な現実があり、滋賀県の場合、具体的には近江鉄道の存続が当面の課題ですが、おそらく北陸新幹線の新大阪延伸で並行在来線として切り離しが言われる湖西線も視野に入っていると思います。

北陸新幹線自体は思い付きレベルの小浜京都ルートの実現可能性の問題もあり当面進展はなさそうですが、仮に米原ルートでも湖西線の切り離しは避けられないでしょうから、それに備えて財源確保ということもあるでしょう。滋賀県としてはJR西日本の路線として維持したい意向があるようですが、その際に上下分離などの対案を示す意味からも財源確保が必要ということでしょう。こうした幹線レベルの路線ですら公的支援なしには維持が難しい中で、やはりというかコロナの影響はより弱体なローカル私鉄にのしかかります。そんなニュースです。

ローカル鉄道「運賃上げ検討」2割どまり 顧客離れ懸念 全国95社調査:日本経済新聞
コロナ禍の乗客減に見舞われJRや大手私鉄では値上げが相次いでおりますが、元々過去の運賃値上げで運賃水準が高い状況の中小ローカル私鉄では乗客離れを助長しかねないという難しい局面にあります。既に自治体の補助金を受け取っている事業者も多数ありますが、条件が厳しく使途も制限されているなど使い勝手は必ずしも良くないということもあります。滋賀県の交通税の取り組みが注目される現状です。

鉄道への補助金の歴史は実は古く、幹線鉄道を想定した私設鉄道法に対してローカルな需要を想定した軽便鉄道法と軽便鉄道補助法がセットで成立して全国に軽便鉄道ブームが起きて政府が見直しを余儀なくされました。鉄道国有化後にほぼ適用事例のなくなった私設鉄道法と統合して地方鉄道法となったのちも地方鉄道補助法として存続しましたが、地方鉄道法では国の買収提案に応じる義務がありましたから、ある意味幹線ルートから外れたローカル線の建設に民間資金を使ったという面もあるでしょう。

そして地方レベルでは大阪市の市営地下鉄建設費を賄う目的で駅予定地周辺700m以内の地権者に受益者負担税を課した事例もあります。これらは建設目的であって維持目的ではないとはいえ、日本でもこうしたことは古くから行われてきたことも確かです。特に大阪市の事例は滋賀県の交通税の先取り的な面もある訳です。税に関する議論がこうした面に及ばない現状は、ただ人々を不幸にするだけとも言えます。という訳で税が課されることが問題なのではなく、払い損なのが問題なのです。そこが見えない議論は限界(horizon)があります。お粗末^_^;。

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Saturday, May 20, 2023

民主主義対権威主義では見えない本音

サミット始まりました。コロナ禍で避けていた遠出を解禁しようと思っていたタイミングで躊躇しております。金融危機は核より怖いから米国発の金融危機や財政上限問題も予断を許さない中で、G7で世界平和を話し合うって言いつつ、紛争当事国のウクライナのゼレンスキー大統領が訪日してG7会合に参加するという形で話題をさらいました。

日本の本音としては中国の台湾進攻リスクを訴えて対中デカップリングを演出したかったところですが、おそらく画を描いたのはフランスのマクロン大統領でしょう。マクロン氏は台湾問題は欧州にとって重要ではないと発言して批判を浴びましたが、ウクライナ問題は欧州にとってそこにある危機なんで、本音ではありますし、ある意味巻き返しを狙ったというのは穿った見方でしょうか。

フランスに限らず欧州諸国はアメリカの腰の引けたウクライナ支援には不満な一方、ロシア産石油やガスに依存してきた歴史から、経済制裁の反作用を受ける立場でもあり、より踏み込んだ軍事支援をしたいのが本音。ウクライナが要望するF16戦闘機の供与をアメリカは渋っておりますが、同盟国の供与を認める形で譲歩してドイツが訓練込みで供与するなど、立場の違いからいろいろ注文を付けている訳です。

アメリカが踏み込めないのはロシアとの核戦争回避の意図はあるものの、中国の台頭の方が気になるし、共和党など保守派の過剰に支援するなという圧力もあり、財政上限問題もその取引材料となっているということもあります。一方で対中強硬姿勢は与野党で意見が一致しやすい問題でもあり、ウクライナに深入りせず対中国にシフトしたいのが本音です。但しわかりにくいですが、少なくともバイデン政権で台湾有事は当面起きないと見ており、あくまでも中国が軍事力による現状変更に動くなら許さないという立場です。

一方中国は台湾独立派の政権掌握などで現状変更するようなら軍事オプションも否定しないよということで、狙いはあくまでも現状維持です。加えて台湾も独立派は一定数居るのは確かですが、中国との分断は台湾経済が成り立たなくなるという現実的な問題もあり、やはり現状維持が本音です。但し万が一に備えた軍備増強支援をアメリカに求めておりますが、アメリカは中国と直接対峙を避ける意味で訓練などは州兵と日本の自衛隊に委託するという流れです。その意味での重大ニュースがあります。

米機密文書流出、過大なアクセス権原因か 州兵の男逮捕:日本経済新聞
通信傍受でワシントン混線さす気球の地政学で指摘した米諜報機関の集めた秘密情報を空軍州兵が閲覧してSNSで拡散したというお粗末な情報漏洩事件ですが、何故か日本ではあまり大きく取り上げられておりません。しかも漏洩情報は多岐に亘り、ウクライナの弾薬の在庫とか中東情勢に関するものとかいろいろですが、その為にウクライナ政府が対ロシア反撃作戦を保留したといった影響が出ています。

加えて台湾有事の軍事作戦シミュレーションもあり、それによると中国は勝てないけれど台湾を援護する米軍と日本の自衛隊のダメージも大きいという結果です。当然中国はこれ見て今は動く時ではないことの裏付けを得たことになります。秘密情報とはいえ実際の軍事作戦では州兵や自衛隊に頼っているから、かなり広く閲覧権限を持たせていたってことでしょう。この辺アメリカらしいといえばらしいですが、怪運国債米国債と欧州劣つ後-!で指摘したように、西側諸国が弱って来るのを待つだけで中国は優位になる訳ですから。

ウクライナ戦争ではインドやブラジルなどが和平仲介に意欲を見せていますが、実現可能性は低いものの、ウクライナにコミットする西側諸国と異なった立場を表明しています。これには意味がありまして、対中であれ対ロであれデカップリングが進めば当事国は経済的に困窮しますが、中立の立場を採れば双方と取引していいとこどりできる訳で、資源輸入国のインドなどは典型ですが、ロシア産の安い石油を手に入れてインド国内で精製して割安な軽油を欧州などに売っている訳で、対ロシア経済制裁の実効性を損ないますが、漁夫の利を得られる現状は寧ろ好都合なんですね。これ中国も同じです。例えば小麦を米国産からロシア産に乗り換えるとかしてますが、中国は現状維持の狙いもあってロシアへの軍事支援は避けている訳です。

ですから世界的な地政学リスクに備えてグローバルサウスを味方につけるというのがG7広島サミットの狙いでしょうけど、そうはならない現実があります。ということでウクライナ戦争は膠着し、資源インフレは収まってきてはいるけれど高止まりは避けられず、それ故資源を輸入に頼る日本は貿易赤字から抜け出せず、国力を消耗することになります。

当然防衛費倍増は国民負担になりますが、一方で台湾有事の自衛隊の立ち位置は米州兵レベルの下請け組織に過ぎない訳で、日本より米国を守る弾除けでしかない訳ですね。故に米国は日本と韓国の核保有を認めない代わりに核の傘強化の口約束で拡大抑止を謳う訳です。ってことで、台湾有事で騒いでいるのはほぼ日本だけというのが実際なんで、地政学リスク拡大もマッチポンプの議論です。とはいえアメリカ様には逆らえないとばかりに防衛三文書を閣議決定した岸田首相は、盧溝橋事件の対応を誤り軍部の強行派に屈して兵員増派した一方、第二次国共合作で反転攻勢に出た国民党とガチンコ勝負になって戦争の泥沼に国を巻き込んだ近衛文麿の轍を踏んでるんじゃないかと危惧します。

で、近衛文麿はそれだけでも重大な誤りを犯した一方、1938年に国家総動員法を成立させて産業再編に手を突っ込んだという意味でも罪深いところです。この結果電力国家管理で国策会社の日本発送電と9つの地域配電会社に再編された電力業界は、戦後処理でGHQの日本発送電解散命令を受けて発送電一体の9電力会社に再編され、強固な地域独占企業となって現在に至ります。その結果原発事故起こすわ原発自治体と不適切な関係を持つわ再生エネ発電の接続拒否するわ自由化で新規参入した新電力各社の顧客情報を閲覧して不正競争するわやりたい放題。日本の電力料金が高いのは原発動かさないからではなくこの地域独占体制故です。

こうしたことは他業界でも多数ありますが、鉄道業界では陸上交通事業調整法による地方鉄道の地域統合と、一方で産業政策上重要な路線の国有化という所謂戦時買収で国鉄に編入された路線も多数あります。陸上交通事業調整法は戦時立法と見做されて、統合主体となった東京急行電鉄が大東急解体で小田急電鉄、京王帝都電鉄、京浜急行電鉄が分離独立し、関西でも京阪神急行電鉄から京阪電気鉄道が分離、近畿日本鉄道から南海電気鉄道が分離(正確には別会社の高野山電気鉄道へ譲渡)といったことが起き、それが多少の変化はありますが現在の大手私鉄を形成している訳です。

そしてこの体制は村上ファンドに狙われた阪神電気鉄道を阪急電鉄が救済して阪急阪神HDとなった以外は変わっておりません。つまり現状維持の力が働いている訳です。地方では福岡県や富山県のように1県1社に近い統合が実現したところは少数派で、結局多数のローカル私鉄が存続することになりますが、産業構造の変化や都市部への人口移動に伴う過疎化でで多くの路線が廃止されています。電力と比べると交通事業への国の関与は手薄だったってことです。

その流れで言えば国鉄改革で誕生した旅客6社と貨物会社のうち上場した旅客4社を除くJR北海道、JR四国、JR貨物への国に支援は見込み薄でしょう。但し変化の兆しもあり、例えばJR九州肥薩線の復旧には河川予算や道路予算の投入が決まっており、JR九州の負担を軽減しています。交通事業基本法や地域公共交通活性化法などの法整備もあって、地域の関与次第で国の予算がつくようにはなっております。例えばJR東日本只見線の復旧は更に自治体による上下分離スキームで復旧が実現してます。

その意味でJR北海道の苦境に対する北海道庁の冷淡さは疑問ですし、北海道新幹線並行在来線問題の膠着もやりようはあるだろうにと思います。そして廃止が宣告された函館本線山線の小樽―余市間では地域から反対の声が上がっております。札幌都市圏の末端であり、やりようによっては存続可能な輸送密度がある区間でもあります。

滋賀県の三日月知事が打ち出す交通税構想など過酷な現実を踏まえた変化が見られます。野口悠紀雄一橋大学名誉教授が国家総動員法に始まる政治体制は政府関与の資本主義計画経済体制として戦後も存続し、高度成長期には歯車がかみ合ってうまくいったものの、その成功体験故に抜け出せないのが今の日本ということです。ってことでキッシーが令和の近衛文麿じゃ期待できないですね。

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Sunday, April 16, 2023

成長しないこどもの日本

こどもの日本でJアラート発令を受けての東京メトロの運休措置で議論がありましたが、今回も議論を呼ぶ結果となりました。

北海道新幹線など一時運転見合わせ 北朝鮮ミサイルで:日本経済新聞
政府発表では7時半ごろには発射を確認していたものの、Jアラート発令は7:55で30分近いタイムラグがありますが、その間に軌道予想して落下点を割り出して北海道南西部の陸地に落下する可能性があると判断しての発令ということで、過剰反応とされた2017年の東京メトロとは違うとは言えますが、議論を呼んでおります。

東京メトロの場合は地下鉄駅へ人々が避難して混乱することを避ける為だったようですが、繰り返しますが日本の地下鉄には核シェルターの役割はなく、寧ろ人が殺到することによる混乱の方が怖いのは確かです。故に東京都が緊急避難場所として指定した地下鉄駅も東京メトロと都営地下鉄のやや閑散な駅が中心で、都心の大規模駅は外されております。地下鉄駅と直結のビル等との調整が困難なこともあるようです。つまりJアラートが発令されても殆どの場合逃げ場がないのが現実です。

一方で今回の北朝鮮のミサイルは固体燃料ICBMということで、発射のための燃料注入などの事前準備情報が得られない上に、今回さらに発射後の軌道修正もあったようですし、また日本側のレーダーが見失うという失態もありました。つまり北朝鮮のミサイルは確実に進化していて、迎撃も困難だし発射準備段階を捉えて敵基地を叩くということも困難ということで、ミサイル防衛システムや敵基地攻撃能力が無効ということでもあります。

加えてJアラート発令の迅速化も進められていたのですが、今回も発射から発令までのタイムラグが大きいのも気になります。そもそもJアラートは総務省消防庁所轄の災害警報システムで、地震や津波など時間的猶予の少ない自然災害で避難を促す目的がある訳ですが、当然ながらミサイルのレーダー追尾は所轄外な訳で、防衛省から官邸を経て総務省に指示が出るという形となる訳ですから、発令にタイムラグが出るのも仕方ないのでしょう。今の形だと国民の命を守る機能は心許ない状況です。という具合に何か釈然としない政府の対応です。

やはり国民の命よりもアメリカからの防衛力強化要請の方が優先されているのが現実です。これはウクライナ戦争で標的にされたチェルノブイリやザボリージャの原発の危険性は明らかなのに、原発再稼働に前のめりになれることに通底します。例えばこれ。

敦賀原発2号機の安全審査を再中断 規制委、資料不備で:日本経済新聞
日本原電敦賀発電所2号機は原子炉直下には活断層があると指摘されて停止しておりますが、日本原電はそれを否定して再稼働しようとしておりますが、当然ながら活断層があるという指摘を否定するエビデンスを示す必要がある訳です。規制委も門前払いせずに申請を受け付けたものの、書類の不備で却下され、再提出されたけど再度却下というのがこれまでの経緯です。「書類の不備」と報じられてますが、実態は数値の改ざんであって悪質です。これ東電の柏崎刈羽の不祥事で審査中断された経緯と似ています。

日本原電は電力9社と電源開発が出資する発電専業の民間会社ですが、敦賀の他東海第二原発も保有しており、こちらは周辺自治体の同意を得る過程で杜撰な避難計画がすっぱ抜かれていて物議を醸しています。つまり現状原発は休眠状態で稼働していない訳ですが、そんな中での政府の原発活用方針の打ち出しです。やはり国民の命よりも原発再稼働優先という訳ですね。こんな会社に原発動かして欲しくないです。

脱炭素目標の欺瞞で取り上げたように、稼働中の9基(運転停止中の高浜4号機を含む)で電源構成比6%で目標が22%ですから、許可済み7機と申請中11基を含む27基全てを稼働させても足りず、40年超の高浜1号機などで再稼働が計画されております。目標達成には30基程度が必要なので、政府は元々原発活用に舵を切るつもりだった訳で、最初から欺瞞だった訳です。

しかも目標年度は2030年度であと7年しかない訳ですから、いかに無理な数字かということです。但し成長率1.7%という高めの想定ですから、2015年以降の実績値である0.24%とすれば総需要が抑えられて原発は10基程度で済みます。つまり謎の運転停止中の高浜4号機を除外しても、規制委の許可を得た7基中2基程度が稼働すれば当面の需要は賄えます。故に原発再稼働を急ぐべきだという議論はミスリードです。そもそも再エネ38%もドイツで既に達成した水準ですし、アメリカでも再エネ活用が進んでいます。

米国の発電量、再エネが石炭を初めて抜く 2022年:日本経済新聞
欧州のようにFITで政策誘導した訳ではなく、しかも戸建てや工場の屋根のパネルの発電分は含まないですから、実態として再エネ活用が進んでいる訳です。インフレ対策法で再エネ投資が促進される状況もあり、日本より先を進んでいます。日本では実現可能性を無視した議論がまかり通る現状ですが、想定のように成長できていない現実を直視すべきです。同様のことはこちらにも。
大阪のIR認定へ、政府調整 14日にも推進本部で議論:日本経済新聞
詳述は避けますが、人気テーマパークUSJを上回る利用客を想定していて実現可能性に疑問符がつきます。府知事と市長のダブル選挙のみならず議会の単独過半数を得た維新のいい加減な計画に民意のお墨付きを与えたことで、大阪の未来が心配です。怪運国債市場の蓋 で指摘したように万博も微妙だし。

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Sunday, March 26, 2023

金融危機は核より怖い

何かいろんなニュースが流れてますが、違和感てんこ盛りです。例えば放送法文書を巡る国会論戦ですが、問題の本質は政府による報道機関への介入問題で、当時の磯崎陽輔首相補佐官の「政治的公平性」への説明を求めていたとされる問題ですが、放送法の「政治的公平性」は放送局の自主的な取り組みを定義したもので、政府による介入はロシアや中国のような報道規制と変わらない訳で、この点をこそ問題にすべきなのに、高市大臣の進退問題に争点がズレていることが気になります。

事実なら「法の支配」を掲げてロシアや中国を批判できない問題ってことです。そして岸田首相がウクライナ政府の招きを受けてキーウ訪問した際にも「法の支配」を連発してましたが、言葉の意味わかってるかい?強力な国家主権を法で縛るという原則を「法の支配」と呼ぶのであって、ロシアや中国はそれに反したことをしている訳で、放送法文書問題はそれに疑義を生じているということなんだけど。

岸田首相のキーウ訪問に関しても報道で公開されてセキュリティへの言及が言われますが、バイデン大統領のキーウ訪問と同じ行程を辿ったようにウクライナ政府の主導っで行われたもので、外国要人来訪の通知はロシア政府にもされていると考えられます。勿論ロシアが無視して攻撃することはあり得ますが、相互承認で外交関係を築くという主権国家の原理から言えば、他国の首脳を死傷させる可能性のある行動は外交上の孤立を招く愚行となる訳で、ロシアもその辺は理解しています。

それより偶然なんでしょうけど習近平総書記のモスクワ訪問と日程が被ったことで、いろいろ憶測を呼んでますが、中ロ接近のニュースを薄めたという意味で一番メリットを得たのはウクライナ政府でしょう。そして中ロの首脳会談で見えてきたのは戦況が劣勢のロシアにとってはある意味渡りに船ではあります。形式的な中立地帯を設定して休戦して兵や装備を立て直す時間稼ぎがしたいのが本音でしょう。但しウクライナ政府が同意するかどうかは微妙ですが、中国にとってはアメリカが失敗した和平協議を中国主導で行ってマウント取るだけでも意味があります。

中国の本音はウクライナが一帯一路の出口に当たり権益を確保したいと同時に、二正面作戦に動けない米軍の弱点として紛争が続く現状は実は有難い訳ですし、またロシア産原油などの資源を安価に買い叩けるし貿易決済に人民元を用いることでロシアを経済的に従属させることすら可能ということでいいことずくめです。先端半導体の供給制限は確かに痛いけれど、自国開発の時間稼ぎになりますし、更に言えば宇宙戦争は終わらないで取り上げたロシアの濃縮ウランの中国への供給というオプションもあり得ます。

とはいえ中国はアメリカでさえ明言できない核の先制使用や非核国への核攻撃の禁止を明言しており、ロシアに対しても核兵器使用をけん制している訳で、中ロ接近は寧ろロシアの核攻撃の可能性を低くしたと見ることができます。そして悪性インフレで成長が鈍化しつつある先進国と比べて尚成長余地があり経済力を縮めてくる訳です。「戦わずして勝つ」孫氏の兵法を百も承知の中国による台湾への軍事行動は当面ないということですね。

他方欧米で同時多発的な銀行不安が広がっております。米シリコンバレー銀行(SVB)破綻に始まる米地方銀行の破綻ですが、FRBが最後の貸し手機能を発動し、連邦政府も預金保護を打ち出して沈静化を図ってますが、事態は予断を許しません。SVBの破綻は典型的な取り付け騒ぎですが、SNS時代の情報拡散スピードがもたらした問題でもあります。

テック・金融が負の共振 米、SVBなど2行の全預金保護:日本経済新聞
SVBはシリコンバレーのテック企業やベンチャーキャピタル(VC)が預金者に名を連ねますが、有望とされるスタートアップ企業は余剰資金を投資に回すから損益は赤字だったりする訳で、通常の銀行はなかなか取引してくれない訳ですが、SVBはそんなテック企業の預金を集めて決済サービスなどの機能を提供してきた訳です。

テック企業やVBは低金利もあって投資資金は社債や株式で調達するから、融資は主に運転資金中心でしたが、スタートアップの株式公開(IPO)で大金を手にしたテック企業やVCの預金が膨張した結果、運用先に困って債券投資を拡大したのですが、FRBの利上げで保有債券に評価損が生じて含み損を抱えた結果、格付けが下がる懸念から債券を売って減損処理をした上、増資を発表したところ、逆に危ないんじゃないかといううわさがSNSで拡がって預金者の企業やVBが預金引き出しに動いたという流れです。続いて破綻したシグネチャー銀行は暗号資産関連の取引が多かったことから価格の乱高下で不安が広がったものです。共にテックと金融の負の連鎖がもたらしたと言えます。

少し長い目で俯瞰すると、リーマンショック以来の金融緩和の継続でマネー流通量が増加し、余剰マネーは資産価格を押し上げた訳で、その結果がスタートアップ企業のIPOでの資金調達を容易にしたということは言えます。低金利で運用先に困ったマネーがVCを通じてスタートアップ企業に流れ込みIPOでさらに膨張という循環が所謂ユニコーンブームをもたらしたとも言えます。FRBの金融引締めや利上げがそれを逆回転させたということですね。但し金融引締めが間違いという意味ではありません。

日本のバブル崩壊も元はといえばプラザ合意から始まる円高対応で日銀が低金利政策を続けた結果、余剰マネーが株や不動産に集まって膨らんだバブルが、国の不動産融資規制と日銀のバブル退治の利上げで弾けたものですが、そもそも長期間の金融緩和でもたらされた余剰マネーは簡単には解消せず、利上げ局面で予想外の動きをする訳です。つまり繰り返されてきたバブル崩壊の始まりと捉えることができます。一方クレディ・スイスの破綻は全く異なる展開です。

サウジファンド、クレディ・スイスで損失 運営に危うさ:日本経済新聞
サウジアラビアのサルマン皇太子による脱産油国政策で、石油精製や石油化学工業の国内立地促進による近代化と共に、金融への傾斜でクレディ・スイスに接近しました。米銀に頼っていては自前の金融業育成はままならず、サウジ・ナショナル銀行(SNB)がクレディ・スイスの株主となって影響力を行使し、国営ファンドの資金運用に注文を付けていたのですが、高利回りを追い求めるハイリスク投資を強要された一方、ECBの利上げでやはり含み損を抱えたものの、SNBは救済を否定し破綻に至ったものです。

但しこちらの破綻処理は問題を孕んでまして、AT1債の無価値化を発表して混乱しています。AT1債とは銀行の中核的的自己資本'(Tier1)としてバーセル銀行委員会によって認められた永久劣後債で、利回りが良い一方、一定条件で減損されたり株式転換されたりするハイリスク債券ですが、弁済順位下位のTier1債権の中で株式が保護されてAT1債が無価値化されるのは、SVBの保有株式の毀損や希薄化を回避したものと見られていて債券保有者の一部が法的手段に訴えるとしています。産油国の無茶な資金運用がもたらした災難ですが、破綻処理にも不透明さを見せております。

そしてAT1債は他の欧州銀行でも多数発行しており、やはりその連想で銀行不安が広がっているという状況にあります。という訳で米と欧州とそれぞれ異なった展開で銀行不安が広がっている訳ですが、邦銀はといえば、やはり爆弾を課開けています。特に地方銀行の行き詰まりは深刻で、金融庁主導で経営統合が進んでますが、地方の過疎化と経済停滞でそもそも融資先が見当たらず、日本国債は日銀の爆買いで市場から締め出され、已む無く外債投資に傾斜してますが、円安で緩和されているとはいえやはり欧米の利上げで含み損を抱えております。ただ日本の場合日銀にリスクが集中しており、超弩級の時限爆弾となっております。

日銀が異次元緩和を続ける過程で財務をか悪化させているのは周知のとおりです。その結果インフレになっても利上げが出来ない現実がある訳で、日本は輸入インフレに直面しております。欧米の銀行不安を受けて為替は円高方向へ動きましたが、22年初頭の115円水準に及ばない129円ですから円安の地合いは変わっておりません。貿易赤字は常態化しており、実需の円安は変わらない訳です。加えて春闘の賃上げ大盤振舞いですが、背景に人手不足がありますが、その結果次なるインフレをもたらすという意味で欧米と同じ状況になりつつあります。

加えて働き方改革2024年問題で運輸業や建設業などの猶予期間終了が目前に迫っております。働き手確保には賃上げしかない状況になってきており、それを先取りするように大都市圏でもバスの減便が相次いでいます。それに留まらず一部バス会社で運賃値上げされており、これまで安定していた交通運賃も値上げラッシュです。

首都圏鉄道7社、運賃一斉値上げ 初乗り10円程度 バリアフリー投資増や需要減に対応:日本経済新聞
JR東日本ではバリアフリー対応上乗せ委運賃10円を電車特定区間に敵将したほか、需要の減少した通勤定期券を値上げする一方で安価なオフピーク定期券を発売して需要誘導を図り輸送力増強投資の抑制を図っております。バリアアフリー課金は東急を除く大手各社も対応する一方、東急は通常運賃の値上げとなります。今回見送った京王、京急も秋に羽和えを予定しております。あと4月には関西各社も値上げを予定しており、やはり今回見送りの南海も秋には値上げ予定です。

その結果値上げに地方議会の同意が必要な公営地下鉄が取り残されるという珍事になり、東京メトロと都営地下鉄の初乗り運賃が久しぶりに揃います。輸入インフレが国内要因にシフトする構図は欧米と共通です。加えて言えば日本が先取りした実質賃金の低下は欧米でも賃上げがインフレ率に追いつかないという形で実現しています。賃上げラッシュの日本でも殆どインフレ率には追い付いておりませんが。

ってことで金融危機の可能性の低さでは中国が頭1つ抜けております。不動産バブルはどうなんだというツッコミはあるでしょうけど、財政も金融も健全度は高いですし、何より経済成長の余地があるので何とかなると見通せます。ということで、核戦争より怖い金融危機が進行中ということですね。潜在成長率が1%割れの日本とは事情が違います。同時にGDP比2%の防衛費増強が如何に無意味かがわかります。あと有事の備えとして平時の財政健全化は欠かせません。高橋是清の財政拡大も平時に戻って縮小しようとして226で暗殺されタガが外れた結果、戦時経済の窮乏化と戦後のハイパーインフレをもたらしたことは重ねて申し上げておきます。

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Saturday, February 11, 2023

怪運国債市場の蓋

怪運国債依存症の続編のウンコクサイ話です。

日銀ピボットで株高の死角 共担オペに「追い証」リスク NQN編集委員 永井洋一:日本経済新聞
「毒まんじゅう」とは穏やかではありませんが、取り上げられている共通担保資金供給オペ、略して共担オペを取り上げております。これは12月の日銀のYYCの上限見直し後も10年ものだけ金利が低い屈曲イールドカーブを批判されて10年もの以外の金利も下げるため、民間銀行が保有する国債の担保差し入れで日銀が低利融資するというもので、日銀だけではすべての残存年数国債の買い付けすることには限界があるので、民間銀行に代わりをさせるものです。つまり金利の高い国債を保有したまま低利融資することで利ザヤが稼げる訳で、銀行保有国債の売りを阻止しようということです。

こうすれば金利上昇を睨んだ投機筋カラ売りに必要な国債の現物が市場に出なくなってカラ売りが困難になることを狙ったもので、残存年限によっては市場が干上がっているケースもあり、また日銀自身も2年もの5年もの20年もののなど買い散りオペでイールドカーブ全体を下げる狙いです。その結果多くの銀行が共担オペに入札し恩恵を受ける一方、投機筋の打ち手を封じることになりますが、同時に投機筋は空売りに必要な国債現物を日銀を含む銀行から借り入れていた訳で、当の日銀が投機筋を助けていたという笑えない構図があります。国債の高値買い取りと当座預金の一部にかかる0.1%の利息を稼ぐ必要がある訳です。

結果的に日銀の国債買い取りは過去最高になっており、民間銀行の共担オペ入札で国債市場はほぼ流動性を失った訳ですが、これも痛し痒しで、逆に規模の小さい市場ほど少ない手持ち資金で市場を動かしやすくなりますから、日銀による国債爆買い以上の効果は見込めませんし、銀行も金利上昇による追証追加を迫られるリスクを負う訳で、やり過ぎが銀行を追い込むことになり、それが民間融資を圧迫する可能性もあります。ただでさえゼロゼロ融資の期限で通常融資への借り換えのタイミングでの民間融資圧迫は愚策ですし、既に多くの銀行で貸倒引当金を積み増している状況です。企業倒産が増えることは間違いありません。

日銀の異次元緩和はこうした瑕をもたらす結果を見ればわかる通り大失敗なんですが、さりとて利上げに動けば国債金利の上昇で銀行の信用不安や国債利払いの増加で財政を圧迫したりすることから、急激にシフトという訳にもいかず、とりあえずYYC見直しから徐々に手掛けて市場にショックを与えない配慮が欠かせません。そんな難題を残して黒田日銀総裁は4月8日に任期満了で退任する予定ですが、後継総裁選びは難航してこうなりました。

日銀新総裁に植田和男氏を起用へ 初の学者、元審議委員:日本経済新聞
日銀プロパーで歴代総裁に仕えて陰で支えた本命とされた雨宮正佳副総裁の辞退で人選は難航し、結果的に民間人の学者として初の総裁ということで植田和男氏が浮かんできました。1998年から2005年まで日銀審議委員を務めており、金融政策に明るいとはいえ速水総裁時代のゼロ金利解除で反対票を投じるなどしており、異次元緩和の見直しがどれだけ進むかはわかりませんが、日銀も財務省も後始末の困難さはわかっているので引き受け手がいないというのが実際のところです。学者先生に弾除けになってもらいたいというのが本音でしょう。でも財政拡張は続きます。
経済力こそ国防の基盤 財政政策と国債増発の行方 鎮目雅人・早稲田大学教授:日本経済新聞
防衛費の財源問題が与党内で論争となっておりますが、税であれ国債であれ国内の経済資源を費消することに変わりはない訳で、国民に我慢を強いることにまります。それなのに防衛費増の必要性に関して腑に落ちる説明はなされておりません。はっきり言いますが、アメリカの歴代政権が日本に求めてきて日本の歴代政権がぬらりくらりかわしてきた宿題に対する満額回答をした訳です。

アメリカの国内世論の分断で支持が盤石とは言えないバイデン大統領にとっては外交成果となる一方、日本には財政負担のみならず、例えば島嶼部防衛の名目で南西諸島の陸自配備を決めたら米海兵隊がついてきたということで話が違うと現地は大騒ぎになっていますが、財政以外でも国民に我慢を強いる訳で、どっち向いて政治やってるんだって話です。そもそも台湾は日本もアメリカも国家承認していないので、中台で紛争が勃発しても内戦ですから集団的自衛権の対象にはなりません。この辺のウクライナとの事情の違いを無視しての軍備増強は少なくとも日本にとっては何のメリットもありません。敢えて言えば日米同盟増強による核抑止力の恩恵ぐらいです。

またウクライナでNATO軍が参戦しないように、敵が核保有国の場合アメリカとしては参戦が躊躇される訳で、核保有国の中国と直接交戦は避ける筈です。そうなると反撃能力として日本に配備したトマホークはインテリジェンスをアメリカに依存する限りアメリカの都合で発射ボタンを押される可能性はある訳で、アメリカの参戦は議会が決めることで大統領は助言するにとどまりますから、議会のせいにして中国に対しては日本がやったことにして参戦をためらうことになれば自国兵士を傷つけることなく中国を叩くことができる訳です。そうならないと確約できるのか。日本の自衛隊の指揮命令権が事実として機能しない可能性を否定できない現実があります。

という訳で経済力が落ち目に日本は防衛力強化の前にやるべきことがる筈ですが、デタラメばかりです。例えばこれ。

大阪万博、背を向けるゼネコン 採算低下で入札不成立:日本経済新聞
公共事業の不調は今に始まった話ではありませんが、再来年開催予定の大阪万博に暗雲が漂います。というのも資材費の高騰に加え台湾半導体メーカーTSMC熊本工場建設で熊本県菊陽町が大騒ぎになっており、関連企業を含め企業の投資意欲が旺盛でゼネコンにとってはおいしい状況にある一方、慢性的な人手不足、更に働き方改革の猶予期間が終わる2024年問題、五輪の費用膨張に対する国民の怒りで予算増額ままならず、夢洲の軟弱地盤も,、翻翻、ハネた~_~;。

なにわ無くとも江戸村先五輪ですよから巡り巡って大阪万博のパビリオン建設が進まず工期が迫れば尚のこと入札は難しくなります。うめきた新駅は来月開業しますが、乗り入れ予定のなにわ筋線は未だに事業着手もされず「なにわ無くとも大阪万博」どころか大阪府、大阪市の見通しの甘さからゼネコンにそっぽを向かれている状況です。府や市は国が何とかしてくれることを期待しているようですが、五輪の躓きが行く手を阻みます。

五輪談合、組織委元次長ら4人を逮捕 独禁法違反容疑で:日本経済新聞
コロナ禍の五輪で無茶やったから国も動きにくいし、防衛増税の議論で万博どころじゃないというところでしょう。いや忘れた頃にこっそりやらかす可能性はありますので、国民として監視は怠れません。ホントいい加減にせい!

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Saturday, January 21, 2023

バスの細道

鉄道以上にコロナ禍による乗客減に加えてドライバー不足も深刻なバス事業ですが、ホリデーイールドマネジメントで取り上げた関越道ツアーバス事故から10年の節目の年です。当時は旅行会社がツアー募集の形で毎日運行する乗合類似行為として、公共交通である高速乗合バスに寄せる形で競争政策として新規参入を認めつつ、安全対策は乗合バス並みの厳格さを求め、抜き打ち監査などを実施して事業者のレベルアップが図られた筈ですが、実態は事業者毎に問題を抱えているケースがあることはドルは我々の通貨だがで取り上げた2件のバス事故で問題が顕在化しています。あおい交通は乗合新免事業者として空港連絡バスを運行中の事故で、以前から運転が粗いと言われていましたし、実際事故後の監査で不備が見つかっています。

クラブツーリズムは乗合バスではなくツアーバスですが、7年前の碓氷峠スキーバス事故と類似の不慣れなドライバーによる事故という意味で、教訓が生かされておりません。ツアーのスケジュールがタイトすぎる点が指摘されており、旅行会社の添乗員が若いドライバーに急ぐようプレッシャーをかけていたということです。しかも有料の富士スバルラインを避けたコース設定でもあり、その面でも疑問を禁じ得ません。最近のバスのシフトレバーの標準でもあるフィンガーコントロールは高速ではロックされてシフトチェンジできず、この事故では下り坂でニュートラルのまま暴走してフットブレーキ多用でフェード現象を起こしたということですから、ツアー会社の責任は重大です。

そんな中で首都圏のバスのドライバー不足で減便が相次いでますし、コロナ禍の乗客減で高速バス事業から大手事業者が撤退する流れから、相対的に安全性に疑念のある新免事業者の比重が増しているのは困った問題です。いずれ鉄道同様に運賃値上げもあり得る状況でしょう。実際空港連絡バスの運賃は値上げ改定が相次いでいます。

そんな中で逆に値下げされた事例があります。京急バスの船50大船駅桔梗山線で、ポニー号の愛称で呼ばれ、デマンド運行区間を有する特徴的な路線でしたが、デマンド区間を通常運行に切り替え、関連設備を撤去して割増運賃を無くしたもので、初乗り200円が180円に値下げされております。デマンド関連設備自体は国の補助金を得て設置されたものですが、経年による設備更新を省いたものと考えられます。しかしそれ以上に割増運賃時代と様変わりした乗客の少なさが見て取れます。コロナ禍による利用減が値下げをもたらした可能性はあります。

乗合バス事業者はそれでも例えば環境定期券のような柔軟なサービスで需要の掘り起こしを続けており、また国際興業を皮切りに導入された金額式IC定期券のようなサービスもあります。これは購入すると手持ちのSuicaやPASMOなどに情報を書き込んで金額区間内で繰り返し乗車でき、金額オーバーの場合は差額を引き落とすというもので、都区内などはプラス100円の一律となるというサービスですが、定期券制度を活用したサブスクリプションサービスという見方も可能であり、鉄道の定期券制度より柔軟な運用となっております。この辺は鉄道も見習ってほしいところです。

一方で空港連絡バスなど取れるところでは取る姿勢もあり、メリハリが効いています。この辺はJR西日本のAシート拡充やJR東日本の在来線特急強化と同じ流れですが、JR東日本の場合、湘南ライナーを廃止して特急湘南に置き換えるという実質値上げが乗客の支持を得たという判断のようです。

JR東日本の場合、座席予約システムと連動したLED表示を利用して車内改札を省略するなどしており、相応の資本装備をして実現している点は怪運国債依存症で示した資本装備増強に当たります。京急ぴにー号の値下げで設備撤去でコストダウンを狙ったのとは逆ですが、鉄道にしろバスにしろまだまだ打つ手はある訳です。

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