地方公営交通

Sunday, March 12, 2023

失敗に学ばない国

1日遅れですが、3.11から12年が経ちました。被災地の現状は未だに復興途上ですが、特に福島では放射能汚染の問題もあって、ハード面の整備は進んだものの未だに3万人以上が避難中で人は戻っておりません。避難先で仕事を得て生活基盤が確立すれば、現実的には戻るに戻れない訳です。12年という時間軸の重みです。

一方40年か課kると言われた福島第一原発の廃炉事業は停滞しており、予定通りならばあと28年で終わる筈ですが、実際は未だに「40年」と言い続けていて具体的には進んでおらず逃げ水の「40年」のお題目となっております。「処理水放出」が進んでいるという報道ですが、これも単に地上に置くタンクのスペースが無くなったからという理由で、トリチウム以外の核種を含む汚染水を再度フィルターに通して海水で希釈して海底トンネル経由で100m沖へ放出するというものです。「科学的に安全」だそうです。希釈しても放出される汚染物質の総量は減らない訳で、こんな基本を無視した「科学」って何ですか?

そもそも汚染水は福一建屋に地下水が流入することで発生している訳で、その元を絶たなきゃ増えるのは当然のこと。故に凍土壁で遮断するとして国費345億円を投じて1,500本の冷却管を建屋周囲に設置して稼働させたものの、効果は限定的で汚染水の発生はその後も続き、年間数十億円の維持費もかかります。最初からコンクリート止水壁を作る方が結果的に安上がりだったのではないかというのは計画段階から指摘されていてその通りになった訳ですし、汚染水の保管も小型タンクを地上に置くのではなく石油タンクのような大型タンクに貯めて100年後に放出ならば半減期から無害化されますが、コスト減を優先した結果の失敗です。

そして殆ど報道されませんが、フィルターに残るスラッジと言われる固形物の保管問題が実は大変なんです。当然放射性核種を含むスラッジは放置できないので専用容器に入れて保管されておりますが、その保管スペースも逼迫しておりますが、今のところ処分方法も不明です。汚染水保管場所が逼迫するから放出しますと言っても、汚染物質は濃縮された形で残ります。つまり既に次の失敗の種がある訳です。行き当たりばったりで事態は複雑化して解決困難になります。

そんな状況で事故後に決まった原発の原則40年最大60年の期限撤廃が決められました。原発は動かしたいけど新設やリプレースには時間がかかるから今ある原発をとにかく動かそうってことですね。やはりコスト減が狙いですが、つまり老朽化が進む老朽原発を動かす訳で、福島の失敗から何を学んだんだ?しかも脱炭素やエネルギー安全保障や電力逼迫といったトピックをまぶして正当化しようとしていますが、何れも嘘八百です。

老朽原発を安全に動かすには補修が必要ですが、鉄とセメントの塊の原子炉の補修は鉄とセメントの投入が避けられずその製造段階で発生するCO2はカウントされていません。つまり原発で脱炭素は嘘ってことです。エネルギー安全保障を言うならば再エネこそ純国産エネルギーなのにそこはスルーしてます。加えて電力逼迫も嘘が含まれます。

電気が足りない訳じゃないで取り上げた大手電力の既得権が問題を起こしているだけで、実際接続拒否で利用されず捨てられている再エネ電力と、大手電力の先発権で実はガラ空きの送電線がある訳で、需給調整の仕組みを整えれば問題は解決可能なんですが、例えば地域間の連携線整備は進まず、原発再稼働が滞る東電管内では原発需給調整用の揚水発電を利用して再エネを受け入れているものの、その一方で原発のバックアップ用に敢えて残した老朽大型火力発電所は高稼働でダウンしたり、出力調整が容易なガス火力も高稼働で保守点検のスケジュールが重なったりという行き当たりばったりの結果としての予備率低下ということで、原発再稼働以外の対応策がない訳ではありません。

実はエネルギー価格上昇に伴う新電力の廃業ドミノの結果、行き場を失った契約者の補償で大手電力の採算が悪化したことで、なりふり構わず原発再稼働に向かっているという構図です。その結果赤字決算オンパレードとなった訳ですが、これもそもそもLNG価格上昇で予備率が低下して大手電力が自家発電を持つ工場などの余剰電力を卸電力取引所(JEPX)へ出す前に買い取った結果、JPEXの相場高騰で採算悪化して新電力の廃業ドミノが起きた訳である意味自業自得です。加えてこんなニュース。

看板倒れの発送電分離 電力大手の情報漏洩、罰則強化も:日本経済新聞
送電線を大手電力の傘下に残したのは、上述の先発権の担保に留まらず再エネ電力の託送料を高額にして自社系列の発電部門を利する利益相反もありますし、新電力と競合関係となる小売り部門でも新電力の契約者情報にアクセス可能だった結果やはり利益相反を生んでいる訳で、そもそも制度設計の失敗です。どうすればよかったか、実は中国に答えがありました。
「結果オーライ」の再エネ振興 中国の産業政策のいま 丸川知雄・東京大学教授 経済教室:日本経済新聞
欧州のFITに対応して太陽光パネルを増産したものの、輸出攻勢でダンピング関税を課され、更にFIT期間終了もあって過剰生産能力を持て余して企業救済のために国内普及を促し、また内陸部に偏在する電源と需要地の沿岸部を結ぶ送電線の増強を行った結果、世界一の再エネ大国になったという結果オーライだったということです。

ある意味行き当たりばったりだったとはいえ、元々原材料のポリシリコンは国内調達だし人件費は安いしで、ダンピング関税は明らかに欧州の自国産業保護でもある訳で、その結果窮地に陥り国立銀行の融資の焦げ付きを防ぐ為に国内へ普及させた訳ですが、ウイグルや内モンゴルなど元々土地が広く日照条件の良かった内陸部で普及したものの、やはり送電線接続拒否問題が起きたのは日本と同じですが、国が主導して送電線増強で対応したところが中国らしいところです。歴史的経緯で大手電力の既得権に切り込めない日本が停滞する訳です。

という具合に昨今民業圧迫が目につく中国ですが、民間企業が力を持つ弊害を抱える日本が優れていると言えない皮肉な現実です。新自由主義的に民営化すればうまくいくというロジックも不具合が目につく昨今ですが、そんな観点から注目したいニュースがあります。

地下鉄運賃下げたら乗客数3割増 神戸の「北神線」おカネ知って納得:日本経済新聞
グローバルコロナショックで取り上げた北神急行電鉄の神戸市買収による市営地下鉄編入の後日談ですが、コロナ禍にありながら乗客3割増しという驚くべき結果です。勿論上記エントリーで指摘した市営バス再編絡みで乗客を集約できたという側面はあると思いますが、運賃が下がったことのインパクトの大きさを示します。粟生線の乗客減に苦しむ神戸電鉄にとっては乗客減の影響はあるかもしれませんが、寧ろ有馬三田地区からの三宮へのアクセス向上は地域活性化に繋がる訳で、粟生線とは事情が異なります。新開地起点でターミナル立地が必ずしも良くない神戸電鉄にとっては寧ろビジネスチャンスかもしれません。「民から公へ」が成功する可能性は注目されます。

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Sunday, February 19, 2023

気球の地政学

トルコ・シリア国境地帯の地震はその規模の大きさも破格ですが、建物の倒壊が酷い状況です。災害は忘れた頃にやってきます。建物被害の原因がトルコでは賄賂が横行して耐震帰省が守られていなかったことが指摘されています。日本でも耐震強度偽造事件がありました。所謂姉歯事件ですが、大臣認証強度計算ソフトのコピペによるデータ改ざんで、デジタルオンチな日本の官僚のバグですが、五輪不正などでは日本もヤバいかも。

一方のシリアですが、被災地が反政府勢力の支配地域で政府軍による空爆で建物が破壊され、壁や天井の穴を天幕で補修して人が住んでいる状況故、耐震強度云々以前の弱さが災いしております。戦闘の激烈さにおいてはウクライナ以上かもしれませんが、内戦であり欧州から離れていることもあって報道が少なくその悲惨さはあまり認識されておりません。

反政府軍の中の自由シリア軍はアメリカをはじめ西側諸国の支援を得ていますが、必ずしもシリア国民の支持を得ている訳ではありませんし、また内戦故に怪運国債市場の蓋で示したように大っぴらに支援しにくいということもあります。故にアメリカは日本の防衛増強で防波堤になってほしいのが本音なんです。国民にとっては迷惑な話です。

そんな中で中国発の気球が物議を醸しておりますが、思い出されるのが通信傍受でワシントン混線さすで取り上げたスノーデン事件です。米NSCの下請け企業のITエンジニアだったスノーデン氏が米諜報活動の手口や実態を暴露して世界中が大騒ぎした事件です。米国内に留まらず各国から非難の嵐で当時のオバマ大統領は苦境に立たされました。

9.11後に成立した愛国者法で令状なしで通信傍受が可能になり、民間人に紛れるテロリストをあぶり出すためと言われたものの、実態は同盟国を含む各国首脳の通話まで傍受されていたということで、当時の独メルケル首相が不快感を露にするなどのことがありました。そして各国はそうれに反応して様々なことをする訳ですが、ロシアはサイバー攻撃やSNSを通じた米大統領選への介入などで「反撃」しており、トランプ政権誕生を後押ししてある意味わかりやすい反応です。

欧州は人権侵害を重視してEUがGDPR規制をかけています。個人情報の収集と利用を原則本人の承認を経なければならないとする原則に従って加盟各国で国内法制定が相次いでいます。EUは国際ルールとすることを主張し、民間企業の帰省を嫌うアメリカと対立してますが、アメリカも国内法で同等の規制をかける検討は進んでいます。

中国はスノーデン事件にショックを受けると共に,アメリカがそこまでやるならとばかりにデジタル技術を駆使した監視システムを構築し、チベットやウイグルを含む国内ではほぼ完成させたことはコロナ禍による暴力的規制の画像が世界に拡散して周知の事実となっております。一方でゼロコロナに対する抗議運動が全国で同時多発的に発生すると情報量によるバグで修正を余儀なくされました。アメリカの情報機関のようなプロファイリングの技術は持ち合わせていなかった訳ですが、事後的なデータ解析で獲得する可能性はあります。中国の民主化は遠い。

その一方でトランプ政権による経済制裁で特に5G技術を擁するHuqweiの通信機器の使用が多くの国で禁止されたことで、おそらく中国政府が想定していたHuaweiの通信機器へのバックドア設置がブロックされ、更にバイデン政権による先端半導体の輸出規制でより困難な状況から、気球を飛ばして情報収集することにしたってことでしょう。バイデン大統領がオバマ政権で副大統領だったことから、中国への容赦のない締め付けに躊躇はないのでしょう。

中国も複数の静止衛星を打ち上げていて当然偵察に使われていると思いますが、情報解析のためには別ルートの情報も欲しい訳で、バックドアによる通信傍受がダメなら別の方法でということでしょう。そして戦時中の日本の風船爆弾を彷彿させる偵察気球に行き着いたという仮説は成り立ちます。実際中国はアメリカの爆撃の対応に反応してますし、結構正直です^_^;。とはいえ失敗ではありますが。

米中、高まる偶発リスク 米軍が中国偵察気球を撃墜:日本経済新聞
ワシントンポストの記事が紹介されてますが、それによると気球は海南島で打ち上げられ、偏西風に乗ってグアムなど太平洋島嶼部の米軍基地の情報収集を狙ったものの、偏西風の蛇行で針路が北へずれてアリューシャン列島から米航空鵜識別圏入りしたもので、狙いを外した訳です。

偏西風の蛇行は気候変動で説明されており、CO2排出量の多い北米、欧州、東アジアの3カ所で気温差から大きく南へずれており、逆にCO2排出が少なく吸収源でもある海洋部分で押されて北へずれるということで、図らずも偏西風の蛇行を実証して見せた訳です。折しもシベリアの寒気で東アジアを寒波が襲うタイミングとも符合します。温暖化で寒波?という懐疑派の疑問への回答にもなります。ってことで、気候変動という人類全体の危機にあって戦争やってる場合かいという感想を持ちます。

中国「エネルギー消費」再起動 世界のインフレ左右 チャートは語る:日本経済新聞
エネルギー地政学から言えばミサイル買うより再エネによる地産地消体制構築こそ喫緊の課題の筈です。原発再稼働は手続き上直ぐには無理ですし、60年超の稼働を認めても安全対策投資が嵩んで寧ろ不経済ですが、サンクコストを損切出来ない電力会社の都合が優先されてます。サンク苦労すのプレゼント要らね。事故も災害も忘れた頃にやってくることを肝に銘ずるべきです。
舎人ライナー事故、地震で側面車輪浮き脱線 運輸安全委:日本経済新聞
コロぶナ日本で取り上げた日暮里舎人ライナーの脱線事故の運輸安全委の報告です。地震の揺れで案内輪がガイドレールから外れて脱線ということで、防ぎようのない事故だったようです。新幹線のように売れを検知したら自動停止するぐらいの対策が必要でしょうけど、無人運転によるコスト削減を狙ったAGTとしては追加コスト負担はつらいところです。まして戻らない混雑で示したように混雑対策でによる出費で赤字脱却できないとなれば尚更です。地方も含めて日本の官僚にはバグが多い。

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Tuesday, January 03, 2023

戻らない混雑

コロナ禍で初の行動制限のない年末年始ですが、銀座や梅田の人出はコロナ前の2割減と元には戻りません。実際感染者数も死者数も増え、救急搬送の滞りが報じられる中では無理もありません。コロナを克服できていない現実です。そして生産年齢人口の減少で通勤客も減る傾向はありますから、コロナ禍が収束してもこれが新常態ぐらいに考えておくべきでしょう。そんな中で都市通勤鉄道の混雑率に異変が起きています。

日暮里・舎人ライナー、混雑率トップで赤字 東京都に誤算:日本経済新聞
混雑率1位は日暮里舎人ライナー(赤土小学校―西日暮里)144%、2位は西鉄貝塚線(名島―貝塚)140%、3位JR武蔵野線Z((東浦和―南浦和)137%、4位JR埼京線(板橋―池袋)131.8%、5位JR可部線(可部―広島)131.6%と様変わり。常連だった東京メトロ東西線も東急田園都市線も出てきません。コロナ禍がもたらした大異変を実感します。

ゴムタイヤ駆動のAGTで荷重制限のある日暮里舎人ライナーの144%はおそらく改札制限を伴う水準と考えられます。その結果車両増備や座席のロングシート化などの輸送力増強に追われ、当初計画の2023年度単年度黒字化は実現できない状況で、加えて初期車両の更新時期になり費用の負担で当面黒字転換は見込めない状況です。事業者の東京都交通局にとっては大誤算です。

都交通局は地下鉄都営大江戸線の勝どき駅の予想外の混雑が思い出されますが、沿線に集客スポットを複数抱える大江戸線と比べると、沿線にこれといった集客スポットがなく、専ら日暮里や西日暮里でJRや地下鉄に乗り継ぐ片輸送の通勤客ばかりで所謂集中率の高い非効率な路線という点でも不利な条件です。寧ろこの点は旧国鉄香椎操車場跡地開発で潤った西鉄貝塚線にも見劣りります。

その西鉄貝塚線も宮地岳線と呼ばれていた時代の香椎ヤード再開発で、都市計画による連続立体化事業での150億円の自己負担が重いということで、市営地下鉄秋塚線との相互直通を示唆されながら、追加負担を回避して相互直通を諦めたのですが、単線で増発が困難なこともあり、他線が混雑率を下げた中で残ったってことでしょう。混雑路線として名高い埼京線が辛うじて残ったものの、時代の変化を実感します。

そんな中で地方の崩壊で取り上げたように都市鉄道整備計画が目白押しなのが気になります。これから整備される路線は元を取るのが困難になると見込まれます。その中で今年3月開業の東急/相鉄新横浜線の動向は注目されます。新横浜線の場合は集客拠点としての新横浜がありますから、ある程度の営業成績は残せると思いますが、同エントリーで取り上げた豊住線や南北線延伸、湾岸地下鉄などは厳しい現実が待ち受けます。一方で関西の動きです。

JR西日本、奈良線増便や着座サービス拡大 23年春から:日本経済新聞
奈良線複線化による増発と梅田貨物駅跡地開発のうめきた2期で新地下駅開業となり、うめきた新駅は大阪駅と地下通路で繋がり、特急はるかやくろしおが停車する外、おおさか東線が新大阪から延長して折り返すことなど、運行体制が大きく変化します。他にも快速電車の有料着席サービス拡大などもあり、増収を睨んだ攻めも部分もありますが、全体としては微減というメリハリ型のダイヤ改正です。

これはJR西日本に留まらずJR東日本でも在来線特急の拡充などが見られ、明らかに客単価アップを狙ったものですが、乗客減が明らかな中では民間企業としてこの方向性は納得できます。加えてコロナ減便でリソースに余裕があるということでもあります。運輸業の収支好転が見込みにくい中で攻めているとは言えますが、同時に減便もしている訳で、この傾向は今後も続くと考えられます。

気になるのがうめきた新駅はなにわ筋線が乗り入れる予定なんですが、JRと南海の協議が続いており、2018年に環境アセスメント手続きが始まりましたが、事業着手はまだ先ですから、当然2025年の大阪万博には間に合いません。それどころかトンネル躯体が完成済みと言われる大阪メトロ中央線の夢洲延伸も怪しい雲行きです。

というのも予算が限られていてゼネコン各社が及び腰になっていることと、CGで示された構想図に基づいて具体化されたため、細かな詰めが出来ておらず、施工困難な部分も多数あるという状況です。加えて生産年齢人口の減少による作業員確保の問題もあり、万博パビリオンもできるのかどうか危ぶまれております。大阪地盤の大林組と竹中工務店が積極的ではないようで、万博関連で入札不調が相次いでいます。ど素人のお絵かきには付き合いきれないってことですね。

そして気になるのがなにわ筋線は大阪メトロの稼ぎ頭である御堂筋線と競合することです。只でさえ乗客が減少する中で、競合路線の開業は下手すれば赤字転落もあり得る訳で、大阪市の地下鉄民営化と大阪府の泉北高速鉄道売却で得た資金が投入されることを考えると、明るい展望を描けません。生産年齢人口の減少は輸送需要の低下のみならず、インフラ投資を困難にするという両面で経済を下押しします。

この辺リニア60年のウヨ曲折の工事の遅れも同じ背景ですし、それ以上に完成後の輸送需要の見込み違いもある訳です。人口減少下では労働力の減少を資本装備でカバーして生産性を高め賃金を上げる必要がありますが、資本装備強化のための投資は主に省力化が中心となります。新たなインフラを作ってもメンテナンスする人がいなければ経済を寧ろ冷やします。

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Sunday, November 20, 2022

底抜け脱線ゲーム

京成高砂駅の脱線事故による長時間運休を取り上げます。

京成高砂駅で回送電車脱線 けが人なし、内規違反か:日本経済新聞
回送電車の入庫で運転士が指令の指示と異なる番線に進入したことで、後進した結果、8両目がポイント部でr脱線したということで、内規違反が原因とされてますが、運転士は異線親友に気付いた時点で停止して指令に通知し判断を仰ぐのが正しい対応です。しかしそんな初歩的なミスがなぜ起きたのかは現時点ではわかりません。

真っ先に連想したのは1973年2月21日の東海道新幹線大阪運転所脱線事故です。こちらは大阪運転所から本線へ出庫する新幹線車両の脱線事故で、本線上を高速走行中の営業列車が迫っていてあわや大惨事の可能性のある重大事故です。概要は新大阪へ向かう回送列車が出庫線から本線へ出る時にATCの停止信号を無視して冒進して本線進入し、運転士の判断で400m離れた後方運転台に移動して戻ろうとしてポイント欠損部で脱線したものです。ノーズ可動式の本線合流ポイントが災いしたものです。

信号冒進の原因ははっきりしませんが、出庫戦の曲線部に設置された軌条塗油器の影響が指摘されました。レールと車輪フランジの接触による走行抵抗軽減と摩耗防止のために列車通過時にスポイトでレールとフランジの間に油を飛ばして車輪の回転で潤滑させるものですが、塗油器の油でレールが湿潤状態になっていたことで、スリップで停止できなかったのではないかと言われておりますが未だに原因ははっきりしません。本線進入の結果本線のATC信号は絶対停止の00信号に切り替わって迫っていた営業列車が緊急停止した結果、衝突は免れましたが、停止位置は437m手前というきわどい位置でした。

加えて高架上の勾配区間という足場の悪さで復旧に時間がかかり長時間運休を余儀なくされたという点でも京成高砂事故と似ています。京成の場合復線作業に手間取っていて、事故対応のまずさも指摘されています。その観点から注目したいのがこのニュースです。

鉄道車両分解して検査、組み立て 京王電鉄若葉台基地 探訪 ググッと首都圏:日本経済新聞
京王電鉄若葉台車両基地では、年に1回脱線車両の復線作業などの非常時対応訓練を行うもので、事故そのものは防げない可能性はある訳で、それに備えて訓練を行うというものです。決めつけはできませんが、京成電鉄の事故対応がどうだったかは検証の必要があります。そしてこんなニュースも。
LRT試運転中に脱線 宇都宮市、けが人なし:日本経済新聞
宇都宮LRTで採用された新潟トランシス製ブレーメンタイプの低床車両ですが、ボンバルディアのライセンス生産で熊本市電や岡山電気鉄道、万葉線、富山地方鉄道軌道線、福井鉄道、えちぜん鉄道で採用され、前後車体の台車が連接部の円盤とリンクで結ばれていて、前後台車と円盤の相対位置で車体が連接する構造で、挙動が不安定化しやすいという特性はあります。

ドイツなど海外のLRTでは高規格で軌道狂いの少ない線路を走行する前提ですので問題は起きにくいのですが、40km/hの速度制限があり軌道構造も簡易なものが多い日本の場合は問題が顕在化するリスクがある訳です。快速運転や将来のスピードアップを視野に入れていると言われる宇都宮LRTにとっては座視できないトラブルです。カーブの緩和曲線不足見直しや気道狂いの許容度の見直しなどで事業採算性に影響する可能性もあります。ただでさえ工事の遅れで事業費が膨張しているだけに見逃せません。

話変わって米中間選挙のニュースです。

米中間選挙、下院は共和が多数派奪還 ねじれ議会に:日本経済新聞
トランプ政権時の18年中間選挙でもねじれは起きている訳で、ある意味米政治の年中行事みたいなもんですが、バイデン人気の低迷でレッドウェーブと称する共和党の地滑り的勝利は幻に終わりました。妊娠中絶問題を争点化した民主党の作戦勝ちですが、同時にトランプ氏の大統領選出馬観測が中間層の危機感をもたらし若者を中心に中間選挙としては異例の投票率となったとも言われます。

分断が言われ民主主義の危機さえ言われるアメリカですが、ギリギリ踏ん張ったってことでしょう。しかし妊娠中絶のような価値観の衝突問題で冷静な判断を示した米中間層ですが、対して同性婚や選択的府不別姓問題二賛成する若者が、それを認めない自民党に投票する日本の方が病んでいるのかもしれません。民主主義の脱線は日本の方が深刻かも。ある意味底が抜けてます。

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Saturday, October 15, 2022

栗鼠殺し?

三浦半島全域に生息域を広げた外来種のタイワンリスを得付け禁止から害獣として駆除にシフトするという話ではなくて、最近「リスキリング」という単語が新聞の見出しに目立ちます。ということでタイトルのような連想をしてしまいます^_^;。

再教育の意味だそうですが技術革新で労働者のスキルと企業が求めるスキルにズレが生じており、所謂雇用のミスマッチを解消しようということで、特に日本ではITエンジニアやデータサイエンティストが手薄ということもあり、ミスマッチ解消で生産性を高めて賃金アップに繋げたいとい「あたらしい資本主義」の最優先課題として人材投資が叫ばれているという文脈ですが、誰が誰に何を教えてどんな成果を期待しているのかは不明です。

70年代に資本金1億円以下の中小企業で社会人キャリアをスタートさせた私自身は文系に属しますが、数学は得意科目でしたし、また会社のオフィスオートメーションの取り組みで社外の有料プログラミング講座をを受講させてもらったり、それ以外にも外部講師を招いての社内講習や職場内教育(OJT)もありました。大手企業に比べて知名度や待遇面で社員の定着率が低い中小企業故に社員教育は大事だったのでしょう。プログラミングは実務で役立つことはありませんでしたが、システム思考を理解できたという意味で感謝しています。後の大手流通企業での営業現場でPOSシステムの導入を経験しましたが、現場レベルでのシステムへの理解の重要性を体験しています。

文系理系の壁は日本だけの現象とは言い難いものがありまして、アメリカでもザックリ言えば官僚や企業経営者といったテクノクラートと技術者(エンジニア))の双方を効率的に育成する教育システムが機能してきたことに変わりはありません。変化はIT革命によってもたらされました。ごく大雑把に言えば文系テクノクラートも金融工学などで理系的な知識が求められるようになる一方、多くの事務仕事がIT化でスキルが陳腐化し、他方特にITスキルへの需要が増した結果、希少なITエンジニアの争奪戦となっており、テクノクラートとエンジニアの立場が逆転した訳ですが、そんな世界の趨勢とかけ離れた国があります。日本ていうんですけど。

保険証、24年秋にマイナンバーカードと一体化 政府発表:日本経済新聞
マスク、マスク、マスクで軽く触れましたが、そもそもマイナンバーカードとは何者か?が十分説明されておりません。

70年代にグリーンカードという制度の導入が閣議決定されました。アメリカの社会保障カードに倣ったもので当時の大蔵省は「総合課税に必要」というロジックで当時の野党第一党の社会党を巻き込みましたが、国民の拒否感が強く結局見送られました。マイナンバーも制度としては野田政権時代に税と社会保障の一体改革を自民公明の賛成を取り付けて実現した流れで、制度としては導入されましたが、マイナンバーカードは保有を推奨するけど任意という扱いでした。

米社会保障カードの機能を持たせるだけなら、行政機関が保有する個人データへの物理的アクセスキーとしてのカードであればバーコード付きプラ板で必要かつ十分な筈ですが、NFCチップを搭載した多機能カードとしたことで、住基カードと同じ袋小路に舞い込みます。NFCチップを搭載することでセキュリティ問題が起きる訳です。

スキミングの危険性がありますから常時携帯には適しません。しかもNFC周りを含むシステム開発も複雑化し、カード発行には二重パスワードで厳重になりますから、初期設定に時間も費用もかかります。故に汚破損や紛失に伴う再発行も簡単には行えず、現時点で申請から発行まで2か月のタイムラグが存在します。この辺は住基カードでも問題視されてシステム自体が頓死状態になっています。同じ過ちを繰り返した訳です。リスキングが必要なのは政治家や官僚では?

一応カードを持たなくても保険診療を受けられる代替策は検討されるようで。何らかの証明書のようなものが発行されるらしいですが、保険証を廃止してまでやる意味があるのかどうか?しかも医療現場にNFCリーダーと連動したシステムを導入しなければなりませんから、その費用負担もあります。自然災害やコロナ禍で縦割りの壁が言われ、省庁別にシステムが統一されていないことから「横櫛を入れる」という議論もありますが、アクセスキーが共通化されていればデータアクセス自体はは可能なんで、省庁別のシステムの違いは問題になりません。省庁間の相互参照は特別な場合のみに限定されるべきであることは言うまでもなく、寧ろ法令で厳格に規制すべきです。別のニュースです。

厚生労働省、10年備えた感染把握システム採用せず:日本経済新聞
コロナ以前から厚労省ではFFHSという感染症対策システムを開発し、テストを重ねて完成度を高めていたんですが、事務方トップにも政治家にも情報は上げられず、HER-SYSという俄か作りのシステムを立ち上げましたが、このHER-SYSが入力が面倒な上に不具合の手直しに追われてデータ活用にも至らず散々な結果だった訳です。FFHSだと疑い例を含めて入力は1分で終わり、データ活用も可能だったと言われており、詳細は不明ですが意思決定の闇を感じます。

デタラメトランスフォーメーションなCOCOA騒動もありましたが、流れから言うとITベンダーに仕事を流す意図が感じられます。もっと言えばETCカードもそうですが、諸外国では本線車道の門型ゲートを通過した車のバーコードを読んで後日請求というシステムが主流なのに、やはり日本だけの無線通信規格カードを作ってます。新車にはほぼETCついてますから、諸費用の中にセットアップ料金が含まれてます。利権の臭いがしますね。

正確に言えばNFCが問題なのではなく、NFCを搭載したために生じるエトセトラが問題なんですが、例えばVISAなどの国際カードにはNFCは当たり前のように搭載されてます。国内カードの場合は交通系ICカードで普及したFelicaが主流ですが、カード会社では不正使用が疑われる場合は決済を止めますし、利用者に損害が生じた場合の補償もします。つまり決済に伴う信用を補完する仕組みがある訳ですが、国が管理する個人情報で同様の仕組みはありません。例えば特定個人のデータを調べて犯罪の濡れ衣を着せるようなことも可能な訳です。その部分について「国を信用しろ」だけでは国民としてh納得できない訳ですね。

てことでここまで鉄分ゼロですが、最後にオープンループの話題です。

オープンループ乗車システムはSuicaの地位を塗り替えるのか?:Impress Watch
元々ロンドン市交通局が交通系カードの Oister のコスト負担に悲鳴を上げて導入されVISAのクレジットカードやデビットカード決済で乗客の利便性を維持することを意図して導入されたもので、現在はニューヨークやシンガポールなど世界450事業者に拡大しています。機能としてはカードに搭載されたNFCで決済するもので、日本でも複数事業者で試験を含む導入が始まっております。国際カード保有の外国人旅行者にとっては便利なサービスです。またSuicaなどのFelica系交通ICカードも導入や運営のコストが高いことがネックで地方に拡がりません。

但し課題もありまして、あくまでもVISAのサービスであってそれ以外のカードは使えないですし、日本限定ですがNFCカードリーダーの設置が必要なのでコスト面の優位性は一部スポイルされます。またデータ読み書きのスピード重視のFelica系カードに比べると読み書きが遅く、混雑する大都市の都市交通には導入しにくいということもあります。またSuicaを開発したJR東日本は全く関心を示しておりませんので、特に東日本の事業者にとってはメリットを見出しにくい状況です。但し外国人利用が多い空港連絡バスやタクシーなどではメリットもありますので、部分的な共存の可能性はあるでしょう。

JR東日本は寧ろ磁気乗車券に代わるQRコード乗車券の導入を目指しており、自動改札の搬送ベルトのメンテナンスを省略することを狙っています。こちらもクラウド環境で迅速な処理が可能なのかどうかは開発途上で、こちらに注力すればオープンループ派の関与は薄まらざるを得ないというところでしょう。今後は見通しにくいですが、気が付けばFelicaシステムがガラパゴス化の可能性もあります。

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Sunday, July 03, 2022

梅雨明けの徒然大草原www

インフレを終わらせるには日銀の政策変更が必要なんですが、その日銀が炎上黒田節hl でインフレ対策眼中になしの姿勢を見せている訳ですが、第三次オイルショックエントリーで指摘したように、世界はスタグフレーションに向かいつつあります。第一次第二次のオイルショックは何れも戦争が契機となっている点に共通点があり、今回が第三次オイルショックと呼べるほど酷似しておりますが、同時にオイルショックに先立つ1973年のニクソンショックで米ドルと金の交換がストップし、戦後のブレトンウッズ体制が崩壊したことの影響も指摘できます。

結果的に金の裏付けを失った米ドルの信認は低下する一方、当時の米FRBの緩和的金融政策もあって米ドルが大量に発行されました。その結果ドル建てで決済される石油取引に影響し、ドル建ての原油価格急騰となった訳です。加えて対ドルで上昇圧力のかかる他国通貨は為替相場維持が困難になり、特に日本円と西ドイツマルクには厳しい状況となり、当時の日銀とブンデスバンクは米FRB以上の金融緩和を迫られます。その結果世界にマネーは溢れバブル状態になっていた訳です。

今回もリーマン後から続き各国中銀の緩和措置によるコロナバブルの渦中ですから、金融政策面から見ても第三次オイルショックと呼ぶべき類似性があります。これが是正されるのは80年代米FRBボルガ―議長の高金利政策によるインフレ退治と、高金利でドル高ととなり米国経済を圧迫したことから85年のプラザ合意でドル売り協調介入した結果やっと落ち着き、米経済が成長軌道に乗る90年代半ばまで待たなければなりませんでした。

つまり危機を抜けるのに20年ほどかかっている訳ですから、今回もそれぐらいの時間軸で見る必要があります。加えて日本が半導体産業で先行しながら他国に追いぬかれたIT関連産業の興隆という産業構造の世界規模の転換が起きた訳ですから、それを考慮すれば今やるべきことは脱炭素に舵を切り産業構造を大転換することでしか出口は見いだせないという見通しも得られます。

一方日本ではまさかの6月中の梅雨明けでいきなり猛暑で電力逼迫ですが、よく考えたら6月は年間で最も日射量が多いシーズンですから、太陽光発電の出力を活用することで対応は可能なんですね。ですから注意報も太陽光の発電力がピークアウトする午後から夕刻の節電って話でして、実際は朝から太陽光の過剰出力を揚水発電所のポンプを作動させて上流調整池を満水にして備えていた訳ですから、結果的にやや大げさな煽りになった点は否めません。平年だと梅雨という雨季で太陽光の出力を当てにできない一方で、今年は梅雨明けが早まったことが幸いしたということは言えます。

寧ろ日射量の少ない冬期の寒波襲来時の厳しさの方が深刻です。電気が足りない訳じゃない 21年1月の電力危機の再現はあり得ます。よく言われる原発再稼働も、東日本で最も早い東北電力女川原発で24年度見込みですから、どう頑張ってもこの冬には間に合いません。故に老朽火力の高稼働で対応せざるをえなせんが、それは同時に老朽火力のトラブルを増やします。

福島・勿来火力発電所が停止 姉崎5号機は再稼働:日本経済新聞
東北電力では東電への電力融通をしていた中でのトラブルですが、より古い東電姉ヶ崎火力へ火を入れる結果となった訳です。元々原発の13か月ごとの法定点検時のバックアップ電源として温存された老朽火力は燃費も悪いしメンテナンスも手がかかる厄介者なのに、原発再稼働を前提とするからつなぎで稼働率を高めてトラブルを呼び込む悪循環なんですね。そんなところに金掛けるならNAS電池やグリーン水素+燃料電池で蓄電設備を拡充することの方が緊急度は高いと言えます。その分エネルギー輸入を減らせますし、脱炭素にも貢献します。
5月の鉱工業生産7.2%マイナス 自動車など低下:日本経済新聞
サプライチェーンの混乱で鉱工業生産指数が低下しております。これつまり日本の製造業の生産能力が低下し、輸出余力が減ったことを意味します。つまり円安で輸出企業の利益拡大も望めない訳で、円安を活かした製造業の国内回帰も円安で設備投資の直達面の制約が増すことになります。円安メリットは悉く失われます。唯一工場稼働率の低下は電力逼迫を緩和しますから、悪いことばかりではないということは付言します。

という訳で電力問題では早い梅雨明けは言われるほどの影響はないと言えますが、もう一つ終わらないコロナの観点から言えば別の面が見えてきます。元々欧米に比べてアジアの感染者が少なめなのは、雨季の影響があると思われますが、雨季が早く終わるということは、次の感染拡大を警戒すべき状況と言えます。実際こんなニュースが。

東京都、新型コロナ警戒度上げ 感染者が増加傾向:日本経済新聞
実際人が動いていて感染機会は増える傾向に会否めません。ワクチンのブースター接種が進んである程度感染拡大は抑えられるでしょうし、重症化を防ぐ効果から言えば、緊急事態宣言やまん延等防止措置の発動による行動変容の必要性は低いと言えますが、同時に熱中症との取り合いで医療逼迫が起きる可能性は高い訳で、警戒は必要です。マスクに関しては35℃以上でウイルスは活動できなくなりますから、屋外で外すのは問題ないと思いますし、熱中症予防の観点からもマスクは外した方がリスクは減らせますが、逆に空調の効いた屋内や交通機関利用時は引き続きマスクは必要でしょう。てことで乗り鉄はマスク着用で。
ミサイル攻撃の避難先は地下鉄駅 自治体の指定数3.5倍:日本経済新聞
これも繰り返し指摘していますが、キーウ市民が地下鉄駅へ避難したのは元々核シェルター機能を持った社会主義国仕様の地下鉄だからということですね。日本の地下鉄とは設計思想に違いがあります。寧ろ狭い地下空間へ人が殺到スタ時の危険性は顧みられていません。梅雨の後先の男たちに騙され続ける純真なカフェ女給の君江ですが、いい加減政治家や役人に騙されることから卒業しないと不幸なままですね。

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Sunday, June 05, 2022

第三次オイルショックで大惨事の老いる先進国

コロぶナ世界では米NY株式の大暴落を予想しましたが、今のところ小刻みな小康状態を続けています。しかし景気減速を示す経済指標が発表される中で、株価は経済のファンダメンタルズと逆の動きになっております。景気悪化すればFRBが優しいハト派に転換するという根拠のない期待からですが、逆にFRBは株価が上がると消費を刺激しかねないと引き締め姿勢を見せますから、投資家の期待とは裏腹なチキンレースになっております。

逆に日経平均株価は徐々に上げていて対照的な動きですが、これは円安の寄与とNY市場のサブ市場として投資家が東京市場に疎開している結果と見ることができます。これ1987年の香港市場から欧州を経て米国に波及したブラックマンデーの時の東京市場の動きと軌を一にします。つまり損失を被った投資家が逃避先として東京市場を選んだ結果ですが、1985年のプラザ合意以来の日本のバブル経済に拍車をかけたものでした。以下略。

いずれにしてもウクライナ紛争で欧州がロシア産原油の禁輸を決定したことで、原油価格の上昇が止まりません。今後も原油やガス石炭その他の資源価格の上昇は続き、インフレが収まる気配はありません。そんな中でOPECプラスの増産枠拡大のニュースが流れましたが、規模は小さく、大勢に影響はなさそうです。

NY原油続伸、3カ月ぶり一時120ドル台 需給逼迫懸念で:日本経済新聞
アメリカの戦略備蓄放出で在庫が減っている状況なので、その補填もあって需要を満たすには至らないということでWTI原油先物が高値を付けております。産油国としてはアメリカにもロシアにも忖度した結果、実効性の伴わない増産でお茶を濁す結果となっている訳です。他方中国やインドがロシア産原油の輸入を増やせばOPEC諸国はその分市場を失う訳で、欧米に積極的に協力する気にもなれない訳ですね。

思い返せば1973年の第一次オイルショックは第四次中東戦争による供給不安、1980年の第二次オイルショックもイランイラク戦争という戦争絡みの供給不安が原因でした。その観点から言えば、現状は第三次オイルショックと言うべき局面ではないかと思います。アメリカで起きている賃金上昇がインフレ率に追いつかず実質賃金が下がっている現象はスタグフレーションの入り口にあると見ることができます。戦線の膠着で長期化が避けられないだけに油断できません。

世界を巻き込むスタグフレーションの波の中で、世界に先駆けて日本が経済を浮揚させたというのは確かのその通りなんですが、第一次では狂乱物価でトイレットペーパー騒動などが起き、当時労組が強かったこともあり、インフレは賃上げで調整されました。第二次では当時の福田内閣が総需要抑制策を打ち出して公共事業の一時凍結で供給ショックを需要の縮小で対応し、結果的にそれがうまくいった訳です。但し賃上げは抑制されたので国民からは不評でしたが。ちなみに公共事業ではありませんが、着工積みの国鉄東北新幹線と上越新幹線の工事も凍結されました。

しかし官需に頼れない中で、NECのパソコンとかソニーのウォークマンのようなユニークな新商品が市場に投入され、これが世界に先駆けて不況脱出を果たす原動力となりました。省エネが叫ばれエネルギー消費を伴わないイノベーションが求められた結果、日本の電機メーカーは半導体生産に注力しますが、当時半導体需要そのものの規模は小さく、あまり売れるものではなかったんですが、それならば自社製品に使って革新的な製品化を目指そうということになった訳です。日本の黄金期の80年代はこうしてスタートした訳です。

福田派の流れを汲む小泉純一郎の構造改革路線は福田政権の踏襲と言えますが、安倍晋三が積極財政を主張するのは明らかな宗旨替えですね。岸田政権はどうかと言えば、基本的にアベノミクスを踏襲してますので、相変わらず財政出動で景気浮揚を目指す路線です。第二次オイルショックの経験から言えば真逆の対応ということになります。今ならむしろ財政出動は絞った上で、脱炭素などの戦略分野への投資を促すことが、第二次オイルショックからの復活を見習うある意味好機です。税制もも法人や富裕層向けの累進課税強化に留まらず、脱炭素の直sつ結びつく炭素税導入が考えられます。

逆に Go To や消費減税といった需要喚起策は供給ショックを助長する結果となりますから慎むべきですが、参院選を控えて誰も言い出しません。短期的な供給ショックならば市場原理が働いて供給側の増産で需給が引き締まりますが、今回のような一方的で長期化必至の供給ショックの出口は需要を抑制することしかありません。ま、それを言えば票が取れないってことですが、第三次オイルショックとも言うべき現状で有権者におもねる政治家しかいない現実には暗澹たる気分です。

てことで再三述べてますが、ガソリン価格維持のための補助金も需要を高止まりさせる愚策です。ガソリンが高くなれば鉄道など公共交通に利用が誘導されるのは2回のオイルショックでも見られた現象ですが、今回はコロナ禍もあって密回避からマイカー利用が選考されやすい状況になっております。加えて地方の過疎化で公共交通空白地帯が増えており、人口減少下ではこの傾向を止める手立てはありません。

こう言うと「じゃあ少子化対策だ」って言われますが、人口動態の変化で大事なのは15-64歳の生産年齢人口の推移であって、単純に人口を増やすことが解決策にはならないことを重ねて述べておきます。日本の場合1995年の8,700万人をピークに減少に転じ、20年後の2015年には7,700万人になり、20年で1,000万人減少しています。1年で50万人減るペースです。しかも少子化傾向は以前から続いていましたから、今後減少ペースは増えていき団塊ジュニア世代の高齢者となる2030年代から40年代にかけては年100万人レベルでの減少となります。つまり高齢化は更に進捗しますから、今少子化対策で子どもを増やすと、労働力としてカウントされない依存人口を増やすことになり、寧ろ経済の足を引っ張ります。

ならば移民政策?となりますが、これは既に欧米で実施され、労働力確保は進んだものの、異文化の他民族の移民で社会的軋轢を増し、イギリスでは東欧圏移民の増加によるまさかのBrexit、アメリカでは白人男性の味方トランプ政権の誕生となりますし、欧州諸国の殆どで似たような問題が起きています。例えばフランス大統領選でのルペン候補の善戦などですね。日本でも技能時宗性や特定技能制度で外国人労働力を導入してますが、その数は年5万人程度で焼け石に水。加えて祝業選択の自由が保障されないなお問題だらけですし、日本の経済的プレゼンスの低下でそもそも日本を目指す外国人は減っています。

生産年齢人口の減少は労働力不足と理解されがちですが、寧ろこの年代は消費意欲が旺盛で国内消費市場を支える存在であるということが見落とされてます。単なる労働力不足ならばIT化その他の資本装備の充実である程度カバーできる訳ですが、買い手の不在は企業活動を委縮させます。実際日本の製造業では海外に生産設備を移転して国内投資を抑制しています。これが設備投資による経済浮揚を抑制することになりますから、経済が停滞する訳です。こうして国内市場が縮小すれば外資にとっても魅力は薄れます。東京を国際金融都市にする構想がいかに現実離れしているかは言うまでもありません。

てことで公共交通に厳しい地合いですが、そんな中で国交省鉄道局の運賃制度に関する中間取りまとめが発表されました。

鉄道運賃を柔軟に、国の認可不要 国交省が素案提示:日本経済新聞
止まらないインフレと鉄道運賃で述べた論点に沿っていきますと、まずは混雑緩和のための輸送力増強投資が進まないことから一定の基準での上乗せ運賃は認められてますが、ロンドン地下鉄のような時間帯別運賃の導入でピーク利用者の誘導を図ること、特にJR東日本などが提唱するオフピーク定期券のようなものが現行制度では実現しにくいという問題ですが、ピーク輸送力を増強してもピーク以外の時間帯では遊休設備となる訳で、投資効率が良くない訳で、それを運賃で差をつけて誘導しようということです。

バリアフリー投資に関しては既に新法で運賃上乗せが認められており、JR東日本、東京メトロ、西武、東武の各社が導入を表明しています。現行制度下の運賃改定手続き簡素化に関しては、東急、京王、京急の各社が表明した運賃値上げ申請の取り扱いが注目されますが、中間とりまとめでは特に言及は無いようです。相次ぐ鉄道値上げ表明 沈黙する東京都、国の議論注視:日本経済新聞その中で都議会に諮って条例を通さなければ値上げできない都営地下鉄が取り残されています。国の基準が緩和されれば追い風になる可能性があり国に議論を注視してますが、東京都にとってはいささか残念な展開になりそうです。

新幹線や特急列車などの料金設定を季節ごと列車毎に柔軟化するダイナミックプライシングについても大枠では認める方向ですが、上述の時間帯別運賃の問題と共に現行の総括原価方式による上限運賃制の大枠を残すかどうかは方向性が示されておりません。ダイナミックプライシングは結局需要に応じた柔軟な料金設定を容認することですが、気をつけなきゃならないのはダイナミックプライシング自体は買い手の消費者余剰の搾取となる訳で、結果多数が利用する列車ほど価格が上がり、結果的に乗客の輸送単価を高める効果があるということです。とすると現行上限運賃の枠組みを維持する場合、収支状況を国が監視し、限度を超えた超過利潤は年度末の割引販売などで乗客に還元するというややこしい仕組みにもなります。、つまり毎年3月に各社年度末バーゲンセールを行うことになるかもってことです^_^:。鉄ちゃんは喜ぶかもね。

それと存続が問題となる地方線区の上乗せ委運賃に関しては、自治体との合意で国の認可なしに届け出だけで可能になるということは明記されました。これは鉄道以上に地方の路線維持問題に直面するバス運賃に関して地方協議会での合意で運賃を決められる制度を鉄道にも導入する仕組みです。但しバスと違って例えばJR北海道の函館本線長万部以南の並行在来線区間のように、貨物輸送インフラとしての重要度がある場合などは別の枠組みが必要になりますし、まして芸備線末端区間のようなそもそも利用客の少ない路線の維持は多少の値上げでは困難なことに変わりはありません。

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Sunday, May 15, 2022

西武鉄道サステナ車両の徒然

やはりというか大型連休終わったけど コロナ感染はじわじわ増えています。国内死者が3万人越えと、決して終わっていない現実は受け止めるべきでしょう。それでもワクチン接種が進んでいることで、重症化予防で医療崩壊を防げて入るものの、オミクロン株では若年層の感染者が増えた一方、高齢者の死亡が増えていることから、軽症で済む若年層が高齢者へ感染させるルートが考えられます。

欧米ではウィズコロナで規制を緩める動きもありますが、深刻な後遺症の報告も多数あり、まだまだ警戒を怠ることはできません。加えて中国等のゼロコロナ政策の破綻が見えてきており、結局世界のどこかで感染拡大が続く限り、新たな変異株の出現と置き換わりは続くと見るべきです。その意味で気になるニュースです。

北朝鮮、コロナ発熱52万人 金正恩氏「建国以来の大動乱」:日本経済新聞
経済の生命線の筈の中朝国境を度々封鎖までして国内感染を防いできた筈の北朝鮮が、公式に国内感染を認めたというのは大ニュースです。しかも中国製ワクチンすら拒否してきただけに、免疫保持者はほぼ皆無ですから、相当深刻な状況と考えられます。韓国の政権交代を踏まえた核実験の予測もありますが、恐らくそれどころじゃない国内状況だと思います。そして医療の脆弱さもありますし、感染爆発は新たな変異株の出現も心配です。コロナ禍は続きます。

話題は変わって西武鉄道の22年3月期決算の添付資料が話題になっております。

西武鉄道、無塗装・VVVFインバータのサステナ車両導入で“黄色い電車”を置き換え。省電力化で固定費削減へ:トラベルWatch
無塗装VVVF制御車の中古車を「サステナ車両」と呼称して他社から購入するとしており、早速ネットではどの社のどの車両かと詮索が始まっておりますが、現時点では複数社と協議中で、とりあえず22年度中の導入はないというのが公式発表ですので、当分この話題は鉄ちゃん的には楽しめます。

中古車とはいえ無塗装VVVF制御車の活用は、償却済みであれば車両価格自体はタダ同然で、運送費と自社線適合改修費用をかけても格安で車両調達ができる訳ですし、運送費や改修費も取得価格に含まれますから動産として減価償却対象となりますので、費用負担の面を考えれば合理的ですし、また車両としての使用価値の残っている車両の活用は資源配分上も望ましいし、また車両新製時に生じるCO2排出などの環境負荷軽減にもつながりますので、サスティナビリティの観点からも望ましいことになります。総合車両製作所(JTREC)のステンレス車ブランドと紛らわしい命名ではありますが^_^;。

背景は言うまでもなくコロナ禍による運賃収入の減少ですが、多摩湖線や多摩川線の101系や本線系統に多数残る2000系の置き換えに高価な40000系では時間もかかるし、また車両数の見直しも併せて実施するということですが、時期や規模は今のところ明らかではありません。数の上では2000系の置き換えの方が急がれますし、省電力効果も大きいことと、加えて車両自体の経年状況から地方私鉄への譲渡の可能性も高く、コスト圧縮効果が大きいということは押さえておくべきでしょう。

大手私鉄の中古車導入は驚きを以て見られておりますが、元々西武鉄道は戦災国電その他の旧型国電の大量払い下げで戦後の輸送力増強を進めた実績があります。西武鉄道は戦災の影響は軽微で被災車両はゼロであったものの、資材不足と酷使で稼働車両の確保が難しい戦後混乱期には西武にに限らずどこも同じでした。

そこで当時の運輸省は国鉄に戦時設計のモハ63を大量投入し、戦災車、事故車、老朽木造車の私鉄払い下げを行う一方、地方鉄道法準拠の運輸省規格型電車を大手私鉄等に割り当て、代わりに在籍車の一部を地方私鉄に譲渡するという形で、国内の車両製造工場をフル稼働させて車両不足解消を図りました。所謂選択と集中を国ぐるみで行った訳です。

モハ63に関しては一部私鉄にも割り当てられ、東武鉄道、東京急行電鉄、名古屋鉄道、近畿日本鉄道、山陽電気鉄道の各社に割り当てられました。東急は大東急時代で小田急線と経営受託中の相模鉄道線へ、近鉄は戦時統合中の南海線へ配属し、山陽は唯一の標準軌線だったので広軌63の俗称で呼ばれました。定かではありませんが、運輸省は車両限界の大きい新京阪線改め阪急京都線への配給も打診したものの断られたと言われております。幻の広軌63だった可能性はあります。大柄なモハ63導入に当たって各社は限界拡張や橋梁などの構造物荷重の補強を行ったものの、支障物が多い名鉄の初代モ3700ク2700は使いどころを見出せず、後に東武鉄道へ14両、東急分離後の小田急電鉄へ6両を譲渡しています。

西武鉄道もやはり打診されたものの、在籍車の地方転出の強制など運輸省の規制を嫌ってモハ63も規格型電車も導入せず、専ら戦災車や事故車の復旧車を中心に車両を補強し、また木造国電まで払い下げを受けてなりふり構わない姿勢を見せます。後に木造国電は国鉄モハ50と同型の車体に乗せ換えたり、新車の一部を木造車鋼体化名義として車籍流用されて姿を消しています。モハ63は入れなかったけど、結果的に地方鉄道規格から国鉄規格に車両限界を拡大した結果、高度成長期の輸送力増強を助けることにもなりました。更にカルダン駆動車の時代にも国鉄クモハ11400番台を払い下げを受けてクモハ371としたりしており、国鉄標準の制御器CS5で統一されていたことが好都合だったという面もあります。

戦災国電等の復旧車は東武鉄道、京成電鉄、東京急行電鉄、小田急電鉄、相模鉄道などでも見られましたが、特に東急は西武に次ぐ37両の払い下げを受けております。面白いエピソードとしてはJTRECの前身の東急車両で復旧工事を実施したデハ3600を神武寺経由で菊名の渡り線で東横線へ発送するに際して車体の形式表記の頭に6を書き足して636XXとしてモハ63配給に偽装したところ、車体長が短いし緑色だしということで不審に思った国鉄職員の通報で発覚し大層怒られたとか。当然今なら犯罪行為として立件されるところですが、怒られただけで済んだとは暢気なものでした。

あと大手私鉄の中古車譲受では名鉄のも3880ク2880とモ3790ク2790もあります。前者は東急デハ3700クハ3750で、第一次オイルショックによるガソリン価格上昇でクルマ天国の中京圏でも電車通勤へのシフトが見られ、混雑が激しくなったことから導入されたものです。同型が選ばれたのは上述の運輸省規格型でモ3800とメカやスペックが同等ということで、1975年に3連4本12両、1980年委3連3本9両が成就され、クハ1両の不足分は東急クハ3671が当てられ合計21両が揃いました。

後者は水害で橋梁流出のため休止から廃止に至った東農鉄道駄知線のモハ110クハ210を引き取ってモ3790ク2790として築港線で運用しました。東農モハ110クハ210は元は西武鉄道モハ151クハ1151で1927年から8年にかけて製造された川崎造船所製のオールドタイマーですが、災害で廃止した系列会社の救済の意味もあったのでしょう。同年美濃町線に札幌市電A830改めモ870もも導入しており、美濃町線すら輸送力増強が必要だったようです。過去を遡れば岐阜市内線の北陸鉄道金沢市内線のボギー車を受け入れるなどしております。大手私鉄としては異端の存在だったんですね。

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Sunday, May 01, 2022

止まらないインフレと鉄道運賃

異次元円安が止まらない結果として必然的にこうなりますが、唯我独尊の黒田日銀です。

円安阻止より金利抑制 日銀、長期緩和抜けられず:日本経済新
国債金利上昇を抑えざるを得ないからこうなる訳ですが、財政ファイナンスを続けた結果、金融政策の選択肢を失っている訳です。当然円安は進みます。化石燃料以外にもニッケルやパラジウムなどのレアメタル類、化学肥料原料のカリウム等、小麦などの農産品と、紛争当事国由来の資源は枚挙に暇がなく、資源価格高騰と円安の相乗効果で輸入インフレは避けられません。にも拘らずインフレ退治より放漫財政の尻拭いに勤しむ日銀です。結果的に円安がますます進む訳です。
太陽光の電気落札価格、火力の半分以下 再エネに追い風 主力電源化には課題も:日本経済新聞
コントロール不能な構造要因によるインフレですから、回避策も構造変化をもたらすものが望ましい訳ですが、火力発電のコスト増の結果としてこういうことが起きる訳です。勿論再エネの有効活用には蓄電や系統電力の広域連携などの対策が必要なんですが、原発再稼働を前提とした送電線容量配分の固定化などで再エネ活用が進まないのは電気が足りない言い訳じゃないで指摘した通りです。

石油元売りに補助金配るよりも、こうした投資を進めることが結果的にインフレ対策に繋がります。ガソリン価格よりも電気代、ガス代の値上げの方が家計には負担になる訳ですし、国内投資をを後押しすることで経済対策としても効果があります。ガソリン価格に関しては家計支出の0.5-3.5%程度で、公共交通の利用度などから都市部と地方とで比率にばらつきがありますが、だからこそ目先のガソリン価格を抑えるよりも、地方こそ家庭用蓄電池を兼ねたEV普及を補助金で後押しするといった対策の方が望ましい訳です。

一方で公共交通はコロナの影響をもろに受けて苦しんでいる訳で、鉄道の場合原油高の影響は軽微ながら、元々大量輸送を前提とした装置産業の性格があるため、乗客減少は不採算ローカル線を維持する内部補助を困難にしますし、設備の維持費の捻出も困難になります。加えてテロ対策やバリアフリー対策など社会的に要請される投資も求められますから、現行の運賃制度の範囲では対応が困難になっています。故に鉄道運賃の制度改革が検討されています。

鉄道運賃変えやすく 国交省検討、時間帯で柔軟に ピーク緩和で投資負担抑制:日本経済新聞
国交省から審議会に諮問され、6月下旬に方向性をまとめることになっております。主な論点は現行の総括原価方式を維持しながら時間帯などによる柔軟な運賃設定を可能にすることや、コスト増による運賃改定の手続きの簡素化といったことになります。

現行の総括原価方式は、必要なコストを積み上げた原価に標準報酬率2&を上乗せした総括原価と運賃収入がバランスする水準の運賃の認可を受けるもので、鉄道事業者は収支見通しを示して申請し国に認可を受ける形となります。かつては収支見通し期間1年で、高度成長期のインフレに対応して改定申請が出されましたが、政府のインフレ抑制政策で値上げ幅を抑え込まれたりして、結果的に通勤ラッシュの混雑緩和のための輸送力増強投資が抑制されて満員電車が東京名物になる訳ですが、政府による価格統制の弊害でした。

それでは混雑緩和が進まないということで、私鉄による新線建設に対しては輸送原価増に対応した新線区間に対する上乗せ運賃が認められっるようになり、また線増などの輸送力増強策に対しては特定都市鉄道整備促進特別措置法、通称特特法で、認可運賃に10円程度の少額の上乗せ運賃を認めることで、輸送力増強投資を促進する狙いです。これ既に制度化され来年3月施行のバリアフリー新法も同様のもので、既にJR東日本の電車特定区間と東京メトロで導入が決まっております。

運賃制度はその後幾つかの変更が為されており、総括原価見直しのための収支見通し期間が3年に伸びて頻繁な改定を抑止する一方、認可運賃を上限運賃として軽微な値引きを届出で対応できるようにするといった柔軟化もありますが、同時にヤードスティック規制で事業者の経営努力を引き出す仕組みが組み込まれました。これはJR旅客会社、大手私鉄、大都市地下鉄、地方中小私鉄などの類型別に適正運賃水準を設定してそれを下回る事業者に対しては合理化努力などで生じる超過利潤の半分までの益金算入を認めるもので、コスト削減のインセンティブとする狙いですが、恣意性は否定できず、路線の立地条件によってバラツキますから、公平性は必ずしも担保されません。

運賃設定の柔軟性に関しては既に特急列車の座席指定料金の繁忙期と閑散期の価格差をつける形で実現しており、JR東日本などで最大300円の価格差をつけていますが、航空運賃並みに季節や列車毎に需要に応じた価格設定ができるようにというダイナミックプライシングの考え方の導入の可否が1つあります。一方JR東日本と西日本が要望しているのはオフピーク定期券のような仕組みで、時間帯をずらすことで割引運賃が適用される一方、制限のない現行の定期運賃は値上げするというものです。但し現行制度では定期運賃も上限運賃として認可されていて、それを越える値上げはできにくい仕組みです。

あと運賃改定の頻度を下げる目的の収支見通し期間3年というのも、コロナ禍のような予測不能な事態に対しては予測の困難さがある訳で、ある程度の乗客の戻りは予想できるとしても、完全に元に戻ることまでは見通しにくい訳です。その中で東急が上限運賃改定申請をし、近鉄がそれに続きました。見通しが不透明な中ですから、認可する側の国交省の判断も難しくなりますが、どういう判断になるか注目されます。

加えて地方ローカル線の存廃問題もあり、現行JR地方交通線運賃の水準では存続不可能な路線は今後も増えると思われます。JR西日本が乗車水戸づ2,000人以下のローカル線の営業益数を公表して物議を醸してますが、同水準の地方中小私鉄が維持されていることを根拠にJRの企業努力が足りないという議論は、運賃水準の違いを無視したものです。例えばかつて大野まであった京福越前本線が勝山以遠廃止された事例のように運賃差でJR越美北線に乗客が流れたとか、前橋―霧生間で競合するJR両毛線と上毛電気鉄道でもJRが輸送量だ圧倒しているとかということがあります。逆に言えば廃止を打診されたローカル線の存続のために運賃上乗せが認められるならば、ローカル線存続のメニューの1つにはなります。

という訳で、鉄道運賃も過去には政治に翻弄されてきましたが、今や寧ろ柔軟化などで自由度が増す方向に議論が進んでいます。オフピーク定期券の議論ではピーク対応の輸送力増強投資を抑制する狙いもある訳で、人口減少を睨んだ現実を踏まえれば、方向性としては鉄道運賃も上がる方向ということは避けられないでしょう。その意味でインフレは寧ろ事業者には好都合かもしれません。

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Sunday, April 17, 2022

安いニッポンの底が抜けた?

公示地価の発表で何故か地価上昇が見られましたが、喜べない現実があります。

不動産、外資が「安いニッポン」物色 低金利で投資妙味 コロナ下の地価回復㊦:日本経済新聞
21年に23区の人口が初めて転出超過となったにも関わらず、全国平均を超える地価上昇が見られました。都心部の高額取引が相場を吊り上げた結果ですが、そのほとんどが外資による取引です。不動産の実需よりも円安も手伝っての割安感から起きた珍事です。これ利権のふえる訳ワカメちゃん でも指摘したことですが、円安と低金利で資金がファイナンスされれる一方、REITなどの不動産投信でそこそこの高利回りが期待できるためにこうなる訳ですね。実需の裏付けを欠いた地価上昇です。
地下鉄大江戸線、24年度から静かに? 新型車導入で:日本経済新聞
その都心部を環状に結ぶ都営地下鉄大江戸線ですが、24年度に操舵台車装備の新型車を試験導入するというもの。元々リニア駆動で車軸駆動のない大江戸線では操舵台車の挿入の技術的ハードルは低いですが、コスト面から積層ゴム支持の軸箱支持でパッシブにステアリングする簡便な方法で対応した結果、轟音を立ててカーブする煩い電車になった訳ですが、その後東京メトロ銀座線の1000型で車軸駆動ながら操舵台車が導入され、その静かな走行音との落差は大きく、しかもコロナ感染対策で車内換気のための窓開けが常態化した結果、いよいよ車内が煩くなってしまったという訳ですね。コロナの影響はこんなことにまで及びます。
ロシア経済急収縮 22年マイナス10%成長予測:日本経済新聞
コロナの一方で起きた戦争の影響も多岐に亘りますが、欧米中心の経済制裁と外資の引き揚げでマイナス成長確実なロシアです。中国、インドなど新興国の対応が抜け穴になる可能性はありますが、経済制裁は確実に効いている訳です。しかし当然制裁を課す側にも影響はある訳です。ロシアからの外資撤退の一方、FRBやECBの利上げで単純に欧米へ資金が戻る訳ではなく、他国への投資機会を伺います。その意味で円安の日本は投資先として見直されている訳です。成長力で言えば台湾や韓国に劣るものの、地政学的な安全性で評価されている訳です。円安効果もあり安くて安心という訳ですね。しかしそれが国民生活を富ませる訳ではありません。
円、ルーブルに次ぐ弱さ 1~3月の主要25通貨で Quarterly Review 1~3月②:日本経済新聞
経済制裁中のロシアルーブルに次ぐ日本円の弱さが露呈しました。アベノミクスが始まる前からも述べていた通り、異次元緩和による円安誘導は企業収益にはプラスになりましたが、それ故に日本企業の国際競争力を寧ろ弱めてしまいました。資源高による貿易赤字拡大の一方、日本企業の対外直接投資で所得収支はプラスを保っておりますが、その水準は低く、このまま資源高と円安が進めば食いつぶしてしまいます。安いニッポンは成長力を失い交易条件の悪化と表裏一体の関係であり地価上昇を喜べない理由です。
地域交通ICカード「PASPY」廃止 広島電鉄の試練:日本経済新聞
そんな国際環境の変化とは裏腹にドメスティックな争い事は起こります。広島電鉄主導で広島地区の交通事業者で共同利用されていたICカード乗車券PASPYに代わるQRコードシステムへの移行を表明した結果、アストラムラインの広島高速交通が新システム不参加を表明したものです。理由は読み取りスピードがラッシュ時対応に追いつかない可能性ありということですが、同時に従来JR西日本ICOCAが片乗り入れの利用が出来なくなることへの不満もあります。アストラムラインでは大町駅でJR可部線と連絡しており、ICOCA利用もそこそこ多いと考えられますから、ダメージが大きい訳です。加えてアストラムライン沿線のアクセスバスも影響を受けますから、今のところ新システム参加は広電グループに限られており、アストラムラインはICOCA導入に動いており、他社は決めかねているということですね。広電としてはシステムの維持費を減らしたいのが本音でしょうけど、乗客に不便を強いる結果を避けられそうにありません。
JR西日本、ローカル17路線の年間赤字248億円:日本経済新聞
芸備線備後落合―備中神代間で営業係数25,000円超と話題になりましたが、問題の本質は新神瀬やアーバンネットワークなどの黒字部門がコロナ禍で収支悪化させた結果、248億円の赤字を内部補助できなくなったということですね。元々乗車密度が低かったものの国鉄特定地方交通線転換の時には例外規定で生き延びた区間です。加えて過疎化で人口減少が止まらない訳ですから、鉄道としての存続は絶望的です。しかし同時に赤字の絶対額は多くない訳ですから、これらの路線を廃止したところでJR西日本の経営上の負担はあまり軽減されないのも事実です。国鉄分割民営化でスルーされた鉄道への公的支援の在り方を考えるべき局面でしょう。
ロシア語案内表示、苦情受け一時覆い隠す JR恵比寿駅:日本経済新聞
終わらないコロナ で取り上げたキエフをキーウと呼び変えることにか関連して、ロシア語の言葉狩りと見られることが起きた訳で、恥ずべきことです。JR東日本がまた言い訳しているのも見苦しいですね。苦情を言う方も問題ですが、受ける方もダメですね。こうしたドメスティックな出来事が、日本の内向き姿勢の反映であるとすると、本当に将来は暗いと言わざるを得ません。

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