ローカル線

Saturday, March 18, 2023

田代の水は山をも越すが水に流せぬ大井川

箱根馬子唄ならぬリニア迷子唄^_^;。リニア60年のウヨ曲折の続編です。

リニア工事中の水量減解消、JR東海が静岡自治体に説明へ:日本経済新聞
上記エントリーでも取り上げた大井川の水問題での東電田代ダムの取水量調整でJR東海が東電と協議することを前提とした説明をするということですが、すんなり進むとは思えません。田代ダムは大井川最上流の田代にダムを作って導水管で山梨県の冨士川系の早川へ落として水力発電を行うという目論見で建設され1928年に完成した大井川水系では初の本格的ダムです。つまり元々田代ダムの水は古くから山梨県に送水されていた訳ですが、これが後年大井川で水利権争いの種になります。

早川電力は後に東京電灯に吸収され、更に電力国家管理で日本発送電に摂取され、戦後GHQ の日本発送電の解散命令で後に東京電力となる関東配電に引き継がれ今に至ります。こうした歴史過程もあって大井川水系では田代ダムのみが東電で他は中部電力という形になり、水力の一河川一社の原則から外れております。大井川水系は多数のダムが作られました。余談ですが大井川鉄道は元々電源開発のための鉄道として電力資本で作られたから、ローカル私鉄としては重厚な設備で整備されており、SL列車の運行が可能なのもそのお陰です。

そんな事情からダムの取水で大井川の渇水が問題視され、特に1955年に田代ダムの取水量が当初の毎秒2.92トンから4.99トンに増やすよう東電が静岡県に申請し、静岡県は流域自治体の同意を得ずに認可したために流域住民が反発し、東電や中部電力に河川維持放流を求める運動に発展し、住民の座り込みなど実力行使にまで発展する騒ぎになりました。特に山梨県で発電事業を営む東電の態度は頑なだったようです。1997年の河川法改正で河川環境の維持が義務化されたのを受けて2006年委解決しましたが、水利権問題の解決は半世紀を越えました。

といった係争の歴史を踏まえると、JR東海は将に地雷を踏んだ訳ですが、同時に東電も過去の係争の経緯から流域関係者の了承を前提に協議するとしており、静岡県は東電の協力の確約を求めているということで、JR東海が話をまとめるハードルは高いと言えます。そもそも東電が今償却前収支の赤字、つまりキャッシュフローの欠損という深刻な事態に直面しており、取水制限にすんなり応じられる状況にはありません。という訳ですから、まだまだもめます。

という訳で視界不良な中央リニア事業ですが、河川法改正が大井川の水利権問題の解決を後押ししたように、法律的に打開する可能性は考える余地があります。但しその前にそもそも中央リニア事業の法的位置づけがどうなっているのかについて、あまり取り上げられることはありませんが、問題を多数含みます。

事業の根拠法機は全国新幹線鉄道整備法(全幹法)ですが、元々国鉄が事業主体となる前提で作られた法律で、基本計画線の公示や整備計画策定のための調査指示、分割民営化後に見直され、所謂整備新幹線スキームと呼ばれ、鉄道建設・運輸施設整備支援機構が建設主体となって建設費を国と地方が負担し、事業者は受益の範囲リース料を30年間支払うこと公的負担を軽減する形ですが、中央新幹線に限ってはJR東海が建設主体となっており、公費の投入はない形ですが、そのことがJR東海に地元軽視姿勢をもたらした可能性はあります。

元々1970年に成立した全幹法は高速道路整備と並ぶ国土総合開発計画と連動した国土軸形成のための法律であり、地域開発に資することを目標としている訳で、その観点から見ればリニアのメリットを受けず大井川の水問題に留まらず環境破壊や事故災害時の乗客救援の責任まで負わされる静岡県が反対するもの無理もない話なんですが、死去した葛西名誉会長を筆頭に幹部の国鉄OBが国鉄時代のノリで事業を進めようとして静岡県で躓いたという見方は可能です。とはいえ現実的に静岡県内にリニアの中間駅を設置するのは無理ですし、国鉄流バーター主義では対応できない訳ですね。

加えて言えばそもそも中央新幹線は2011年にJR東海の発議で整備計画線に昇格したように、元々基本計画線の中でも優先順位の低い路線だった訳です。JR東海としては稼ぎ頭の東海道新幹線と競合する路線をJR東日本や西日本といった他社に参入されたくなかったという動機付けが強かったと思いますし、それ以上に一定のシェアを維持する東阪間の航空のシェアを奪って独占したかったということがあります。つまり全幹法を利用した輸送シェア独占を目論んだってことですね。

よく言われる国土強靭化策としての二重化の機能は北陸新幹線に託されており、また東海地震対策という意味ではリニアのルートはほぼ想定震災域に被っており、敢えて中央新幹線を急いで作る必要性は乏しい中で、リニアという技術革新を売りに国に認めされたという意味で、全幹法の趣旨をかなり逸脱した存在であるということになります。

東海道新幹線の輸送逼迫もJR東海ののぞみ増強や品川新駅開業などJR東海自身の追加投資によるもので、実際90年代には輸送量の伸びが止まって一度シェアを落としています。余談ですが日本の上場企業のPBR1倍以下、つまり解散価値以下企業の中にJR東海がリストアップされています。意外ですがPERの水準は高いので東海道新幹線へのてこ入れで資産価値が高まった結果、時価総額を上回ったってことでしょうけど皮肉な結果です。

二重化の観点から言えば来年敦賀まで開通する北陸新幹線の関西アクセスルートで揉めてますが、二重化の観点からは米原ルート一択です。特に難工事が予想される小浜京都ルートは事業費もかかるし整備期間も長くなるし、公費負担分の費用便益比(B/C比)が1を割ると予想される一方、距離が短く建設費も低廉でB/C比も2近く、また並行在来線の湖西線問題でも地元滋賀県との協議の可能性が高まります。三日月知事が唱える交通税も、近江鉄道支援に留まらず湖西線問題に備える意味があるとすれば、納税者に負担を求める滋賀県にメリットのない小浜京都ルートでは論外ですね。JR西日本はJR東海のリニアの躓きを学んでいませんね。

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Saturday, March 04, 2023

半導体連合で企業ジョーカー待ち?

気球宇宙だと物騒なニュースが多いですが、朝鮮戦争を契機に日本の戦後復興と再軍備やA級戦犯の恩赦と公職復帰が進んだ1950年代に似ています。その1人が岸信介で、後に首相となって60年安保改定を実現したばかりか、統一教会を日本に呼び込んで未だに多くの人を不幸にしている訳ですが。所謂戦後史の逆コースと呼ばれる時代状況に似てきました。但し朝鮮特需で戦後復興が本格化したこともあり、一般的には景気が上向いた良い時代と見られております。

という訳で55年体制に象徴される自民党による保守長期政権がスタートし、続く高度経済成長時代に接続する訳ですが、人口減少の現在はそんな希望もない中で、半導体を巡る地方の誘致合戦を見ると、同じ期待を抱いているのかと眩暈がします。トランプのジョーカーはゲームでワイルドカードに使われることが多いですが、半導体がどんな未来をもたらすか、冷静に見ましょう。まずはこのニュース。

ラピダス、5兆円投資 北海道・千歳に先端半導体工場:日本経済新聞
米IBMが半導体生産を日本に打診したけど受ける企業が見当たらず、ならばと立ち上げた半導体ファウンドリーのラピダスで、世界最先端の2nmの微細加工に挑戦するということですが、北海道千歳市に誘致が決まりました。

但し課題山積で、立地の決め手は水資源と電力で、半導体生産には欠かせない条件ですが、電力に関しては再エネ電力比率が高いことが評価されたそうですが、おそらく福島第一原発事故以降営業運転されていない泊原発の再稼働を見込んだというのは穿った見方かもしれませんが、あり得ます。脱炭素で欧州が炭素税国境調整を言い出す中、化石燃料依存の日本の製造業が不利になるし、ウクライナ問題でエネルギー価格の高止まりもあるしということも背景にあると思います。というのは、複雑な半導体サプライチェーン構築で有利と言えない北海道を選んだことの説明がつかないからです。

台湾TSMCが熊本県菊陽町の立地を選んだのは明らかで、元々80年代に世界の半導体市場を席巻した日本の半導体産業が多数立地してシリコンアイランドとさえ言われた九州には元々関連産業が多く、特に大口ユーザーのソニーの画像センサー工場に近いことが決め手と考えられますが、北海道にはそうした半導体関連の集積は見られません。2027年の供給開始を想定しているので、それまでに関連産業を呼び込もうということかと思いますが、そもそも国内企業が及び腰だった先端半導体生産がうまくいく保証は現時点ではありません。

半導体は微細化すると歩留まりが悪くなる一方、それ故に歩留まりをうまく抑えれば希少性から高値で売れるということで、チャレンジングな事業です。一方旧世代の汎用半導体は市況商品で値崩れしやすいこともあり、それ故に半導体不足が言われながら増産されにくいというメンドクサイものでもあります。特に汎用品を大量に使う自動車などは大きな影響を受ける訳です。加えてEV化電動化が言われる昨今、サプライヤーも簡単に増産に踏み切れない事情もあります。という訳で自動車の供給制約は当分続くと考えられます。

そして実はウクライナ関連で欧米の軍需産業も半導体不足で兵器支援がだんだん難しくなっています。所謂支援疲れとは違って具体的に兵器生産のサプライチェーンに目詰まりが見え始めています。そんな事情もあってアメリカ政府は半導体の国内生産に拘り、また日米韓台のチップ4連合のグリップを強めようとしているという側面もあります。それに乗っかれば日の丸半導体も復活できるかもという甘い見通しもあるでしょう。

という訳で、軍需品需要が半導体不足を助長している訳ですから、民生品への圧迫は世界規模で起きると考えられますし、また世界的なインフレで主要国中銀の利上げが、半導体産業の追加投資を阻害すると考えられますから、結局政府支援で投資を行う流れということで、この点は日米ともに変わりません。半導体が戦略物資として国家の統制を受ける訳です。そして防衛費倍増を決めた日本にとっては、欲しい兵器がウクライナ優先で後回しにされることを意味します。米中デカップリングのリアルで取り上げた時代遅れの無人偵察機グローバルホークも未だ納品されておりません。

とまああれこれ見ていくと、消耗戦が続く限り世界規模で経済が好転する要素は凡そ見当たりません。戦争が終結して復興が始まるまでは状況は変わらないということですね。地方が企業誘致で夢を見ても、微細加工のナノレベル先端半導体の供給開始までの道のりは遠く、また中国への輸出は無理で売り先も制限される訳ですから、果たして採算に乗るのかどうかも定かではありません。そして半導体不足の意外な影響は自動車や兵器に留まらず鉄道にも及びます。

2020年の五輪開催に間に合う筈だった中央快速線グリーン車が半導体不足で生産が滞っています。グリーン車自体は無動力ですが、ICグリーン券をかざして着席を示す発光ダイオード―のインジケーターなど半導体が多数使われます。JR東日本としては通勤通学需要の低迷で着席サービスによる増収を見込んでいる訳ですが、それが遅れる分収支は厳しくなり地方ローカル線の維持も困難になる訳です。地方の受難は続きます。

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Saturday, January 14, 2023

怪運国債依存症

色々ヤバいニュースが多いですが、年末に勝てないのはコロナだけじゃないで取り上げたコロナ感染は案の定拡大しています。特に死者数の多さには怒りを覚えます。

コロナ死者最多520人 国内20万3361人感染:日本経済新聞
第8波と言われる今の感染拡大ですが、遺伝子検査では第7波と同様 BA.5 が主流で、第7波の残りの性格が強いのですが、昨年コロナは万病の素らしいで指摘した問題は何も解決されない中で、大きく変わったのは、第7波が主に家庭内クラスター感染だったことで、家族単位での隔離で感染が止められた一方、今回は医療従事者や老人看護施設などでのクラスター感染が多いのが特徴です。

家庭内クラスターならば当該世帯の自粛で感染拡大は止められますし、リスクの多い子供のワクチン接種も親が接種を済ませることで子どもは接種無しでも感染リスクを減らせるということもあり、加えて公的な感染者数の全数把握も、出来ていたかはともかく、国民の行動自粛を促す指標になっていた面はあります。

それを止めてしまった今回は行動自粛の指標を失い警戒が緩んだ面はあります。その結果コロナ感染者の発見が遅れて手遅れになってから救急搬送されて医療関係者にクラスター感染をもたらし、医療と関連の強い介護施設でも同様の状況が起きている訳です。つまり収束しきれなかった第7波の残り火なんですが、そのタイミングで主にアメリカで発生した XBB,1,5 のが国内で確認されており、感染力は在来種の20倍とも言われ既

絶望の少子化対策で人口減少が国力を低下させる現実を指摘しましたが、繰り返しますが、生産年齢人口の減少で労働力も購買力も減って成長どころか収縮へ向かう局面での少子化対策は寧ろ現役世代の負担になるということを述べました。誤解のないように少子化対策としてではなく子育て支援は国民の権利の実現という意味で必要なことで、少子化対策と切り離して議論すべきですが、同時に生産性向上も省力化投資が中心ということも述べました。規模の経済を狙う大規模投資よりも、既存のリソースを活かした新たな付加価値の創出が大事ってことです。リニアよりぬれ煎餅です。

加えて言えばこうしたタイミングでの軍備増強は最悪です。実際失敗した国があります。ロシアって言うんですが。ソビエト解体後の核装備を継承して軍事大国のイメージが強いロシアですが、ことロシア人に限って言えば少子化による人口減少が急で、チェチェンなどの元々の少数民族とソビエト時代の強制移住でロシア領内に住む他民族を含む多民族国家故にロシア人以外で人口が増えてバランスしている状況で、ウクライナ侵攻でもチェチェンのカディロフ首長が率いる部隊や民間軍事会社ワグネルの関与抜きにはできなかったですし、ロシア正規軍の劣勢に見るように、元々人口が減っていて兵力が低下していることが明らかになりました。それでいて軍事作戦もデタラメです。

[FT]ロシア軍幹部への批判強まる 砲撃で死者多数:日本経済新聞
弾薬庫は敵の攻撃能力を削ぐ意味で攻撃の評手ににされやすい訳で、隣に兵舎というのは常識外なんですが、それが出来ていない程ロシア軍が劣化しているのか、単に人命を軽く見ているのか、ロシアの場合あり得ますが、兵を失うのも損失です。こういう状況で戦争なんかやっちゃいけませんね。

で、日本ですが、防衛費増額の財源問題で与党内がゴタゴタしてますが、そんな中で国債の60年償還ルールの見直しという議論が出ているようです。

国債60年償還見直しに慎重 鈴木財務相「信用に影響」:日本経済新聞
元々法律で認められているのは建設国債においてで、単年度主義の公会計では建設工事が複数年度にまたがる公共インフラの場合一括計上は困難になるため、建設国債を財源に充てることが認められており、その償還ルールが60年償還ルールですが、90年代半ば以降の金融危機その他の財政需要を賄うために特例国債と言われる赤字国債にも援用されるようになったもので、毎年度既存の赤字国債を借り換える措置を予算化して予算関連法で合法化するという手続きを踏んでいます。

その結果歴代政権で踏襲された国債借換え費として膨張し、23年度予算では16.7兆円にも及びます。建設国債の対象となる公共事業費は6兆円程度ですから完全に逆転しています。喩えて言えばいろいろ物入りだからローン組んで凌いでいる状況ですが、その結果膨張した借換え費を防衛予算に回せないかという語論が飛び出した訳です。新車買いたいから住宅ローンの支払い止めて自動車ローンに回せという議論で空いた口がふさがりません。住宅ローンなら一括返済を求められます。

てことで国債依存にどっぷり漬かった日本ですが、そんな日本の国債市場に異変が起きております。

長期金利上限超え、一時0.545% 13日の国債購入5兆円に:日本経済新聞
異次元緩和で国債飼いまくって残高の55%を日銀が保有していて流動性が低下した結果、値動きが粗くなっております。つまり投機筋の空売りも仕掛けやすい訳です。YYCの持続性に疑問が持たれている状況で、いずれYYCの見直しは避けられませんが、そうなると異次元緩和で抑えられてきた国債金利の上昇は国債利払い費の膨張という形で財政を圧迫します。23年度予算では8.5兆円の利払い費が計上されておりますが、金利動向如何では倍増またはそれ以上もあり得ます。つまり今後財政がより窮屈になる訳です。

財政拡大を唱える人たちに言わせると国債は固定金利だから影響はないとか、9割が国内で消化されているから問題ないとか言われますが、固定金利は既発債限定で、今後発行される新発債の金利上昇は避けられませんし、国内といっても過半を日銀が保有してその他も銀行や保険会社などの機関投資家が保有していて、彼らにとっては国債は担保価値があるから簡単に手放せませんから、結果的に流動性が低下することになります。その結果投機筋に狙い撃ちされて評価額が下がれば担保価値も下がる訳で、そうなると評価損の引き当てが必要になり、ただでさえ低金利で利ザヤが圧迫されている中で利益を削ることになります。この点は日銀も同じですが。

あとありがちなのが所得の恒等式「所得=消費+投資+純輸出+政府支出」の右項の「政府支出」を財政赤字と勘違いしている議論です。この恒等式では財源を問題にしておらず、税収が財源の場合は所得の再配分を意味する訳です。所得は三面合一の原則でGDPと等価ですから、財政支出を増やせばGDPが増えると勘違いしている訳です。また減税も財政による再配分が無くなるだけですから、GDPを増やしも減らしもしません。これ経済学の常識です。

但し国債発行による財政支出の増加はGDPを増やす効果があります。というのは、国債は将来の税収を担保に発行されますから、国債の発行残高分だけ将来の税収を減らす訳で、これつまり給料の前借りのようなものです。その意味で日本は既に年収に2倍以上の前借りをしている状況ということで、将来の税収を取り崩している訳です。将来世代へのツケというのは将来GDPの先食いという意味でもあります。

そして人口減少の帰結としてGDPの縮減は避けられないとすると、将来世代の負担は重くなる訳ですね。今生きている年寄りはどうせそれまで生きてはいないから無責任なことを言うのかもしれませんが、若い人が同調するのは不思議です。という訳で、国債依存もそろそろ限界というのが実際です。忘れてならないのは高橋是清が体張って守った財政規律を226の反乱分子による殺害をいいことに戦時国債乱発した結果、ハイパーインフレが起きたのは戦後復興の過程で経済が上向いてからです。財政出動で経済を支えろという議論も、結局国民にツケ回しすることにしかならないのは歴史の教えるところです。今の日本もいよいよか。怪しいウンコクサイ時代が始まります。

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Saturday, January 07, 2023

絶望の少子化対策

前エントリーの戻らない混雑 にも関連する問題ですが、政府や都が少子化対策を打ち出した新年ですが、釘を刺しておきたいと思います。岸田首相が新年記者会見で「異次元の少子化対策」に旧統一教会が名付け親の子ども家庭庁が中心にとか、家父長的パターナリズムが前提で欧米標準の婚外子の法的保護な眼中にないでしょうし、悪い冗談としか思えません。中身も児童手当の恒久化とか不妊治療の無料化とか、目新しいものはなく、どこが異次元なんだか。

加えて小池東京都知事が18歳以下への月5,000円の支給ですが、年間6万円ってことですね。東京都は合計特殊出生率が47都道府県中最下位であり、コロナ禍前は転入人口の増加による社会像で人口増加が続いていた訳ですが、コロナ禍で転出が増えて危機感を覚えた訳ではないでしょうが、子育て支援を強化して子育て世代に選ばれることを狙ったものということです。

しかし東京の出生率の低さは住居費の高さが一番のネックです。賃貸の賃料が高い上に分譲マンションの値上がりも続いており、子育て世代の年収では高根の花です。共稼ぎのパワーカップルならば何とかなるとしても、子供が出来たら手狭になるから郊外に引っ越すということも起こります。そう考えると年間6万円程度の支援では焼け石に水です。

加えて教育費の負担もあります。少子千万!でも取り上げましたが、教育費の負担、特に大学の学費の値上がりは、貧困世帯の子供の将来を閉ざします。子供を産み育てる環境は障害だらけです。それをどうにかするのではなく小手先で何とかしようということですから効果は期待できません。

そもそも少子化対策がなぜ必要なのか?ですが、人口減少を止めたいからなんですが、人口減少の影響は結局経済成長の制約要因になるから何とかしたいということになる訳です。成長のために子供を増やせって、人間は機械じゃないです。より重要なのは労働力として見込める生産年齢人口の減少が問題なんですが、こんなこと70年代から言われてきたことが実現しているだけの話で、これまで何の手も打たれてこなかった結果でもあります。

15-64歳の生産年齢人口の減少は90年代後半から起きている訳で、凡そ四半世紀で3,000万人減っており、年平均60万人という規模です。その結果労働力の投入量が減って供給制約となる一方、家計所得も国全体では減少する訳ですから、消費が縮小して需要制約も起こる訳で、需給両面の制約要因となって経済を下押しする訳ですから、ありきたりな成長戦略ではどうにもなりません。前エントリーの末尾でリニアを作る作業員の不足と完成後の利用客の不足を指摘しましたが、将にこれです。

そして少子化対策は、高齢人口を支える現役世代に更に扶養人口を増やして負担を増やすことにしかならない訳で、現役世代の困窮化はそれ自体少子化をもたらしますし、支えられる高齢者世代の社会保障圧迫で不満となるばかりか、それを見せられる現役世代の将来不安をもたらす訳です。それもこれも経済成長を前提とした対策故のミスマッチなんです。

労働力の投入量の減少を補うための移民受け入れも、年平均60万人もの穴を埋めるのは現実的に無理な訳で、唯一可能なのは資本装備を増やして労働力不足を補い、労働生産性を高めて現役世代の賃金を上げることで、1人当たりGDPの水準を維持することのみが可能なことです。仮に移民を受け入れるにしても稼げない国に行きたい外国人はいない訳で、海外からの転入人口を増やすことにも繋がります。

つまりリニアのような大規模インフラの整備よりも、省力化に資するデジタル投資など、労働生産性を高めて賃金上昇につながる投資を行うことが重要です。限られた労働力を例えば軍事部門に張り付けたり、国立競技場のように維持費が高く低稼働なハコモノを作ったりすることは何の役にも立ちません。

その意味でDX推進は総論としては良いのですが、国民にマイナンバーカードを持たせることなどは無意味です。これは栗鼠殺し?の論点ですが、そもそも国民の個人データを国が管理する必要はない訳で、本人に鍵を持たせて必要な時だけ本人の意思で使う形にすれば十分なんで、それならシステムの維持費も低廉で済みますし、情報漏洩のリスクも減りますから、セキュリティにコストをかけずに済みます。これ良い見本がが目の前にありますよね。中国っていうんですがコロナに敗けた国で示したように大量の国民データの処理には高いコストがかかります。

当然大量輸送に優位性がある鉄道にとっては存続が難しい時代ですが、新しい動きも徐々に出てきています。

無人駅、5割に迫る グランピングやエビ養殖に活用:日本経済
コスト削減のための無人駅化は進みますが、その結果不要となった駅舎や隣接する土地の活用の事例が少数ながら出てきていることです。コストダウンだけだといずれ支え切れずに廃線ということもあり得ますが、駅を別の用途で活用して人を駅へ呼ぶとか、地域の必要なインフラにするとかですね。

これだけでどうにかなる訳ではありませんが、発想としてはローカル線のプラットフォーム化とでも言いますか、ローカル線の存在を前提とした地域ならではの付加価値創造が可能ならば、そこで得た富でローカル線の赤字補填も現実的な話になります。グーグルやフェイスブックがサービスは無料提供して広告費で稼ぐみたいなものをイメージすればわかりやすいと思います。

加えてえちぜん鉄道や岳南電車で取り組む電力託送事業とか銚子電気鉄道のぬれ煎餅とかもこのジャンルに入ると思いますが、更に駅に充電しテーションを併設してEVレンタルとか地域5Gシステムを構築してリモートワーカーを集めるとか、アイデアはいろいろあると思いますが、重要なのは地域の特性を生かした他にないものを生み出せるかどうかだと思います。その結果地方の人口減少が止まれば、中長期では人口減少の底打ちにもつながります。まあそこへ至るには時間がかかりますが、どのみち子供が増えたところで労働力となるのは20年後とかですから、回り道のようで有効性は高いと言えます。こうした構想が出せるならば「異次元」と言えるかもしれませんが。

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Sunday, November 20, 2022

底抜け脱線ゲーム

京成高砂駅の脱線事故による長時間運休を取り上げます。

京成高砂駅で回送電車脱線 けが人なし、内規違反か:日本経済新聞
回送電車の入庫で運転士が指令の指示と異なる番線に進入したことで、後進した結果、8両目がポイント部でr脱線したということで、内規違反が原因とされてますが、運転士は異線親友に気付いた時点で停止して指令に通知し判断を仰ぐのが正しい対応です。しかしそんな初歩的なミスがなぜ起きたのかは現時点ではわかりません。

真っ先に連想したのは1973年2月21日の東海道新幹線大阪運転所脱線事故です。こちらは大阪運転所から本線へ出庫する新幹線車両の脱線事故で、本線上を高速走行中の営業列車が迫っていてあわや大惨事の可能性のある重大事故です。概要は新大阪へ向かう回送列車が出庫線から本線へ出る時にATCの停止信号を無視して冒進して本線進入し、運転士の判断で400m離れた後方運転台に移動して戻ろうとしてポイント欠損部で脱線したものです。ノーズ可動式の本線合流ポイントが災いしたものです。

信号冒進の原因ははっきりしませんが、出庫戦の曲線部に設置された軌条塗油器の影響が指摘されました。レールと車輪フランジの接触による走行抵抗軽減と摩耗防止のために列車通過時にスポイトでレールとフランジの間に油を飛ばして車輪の回転で潤滑させるものですが、塗油器の油でレールが湿潤状態になっていたことで、スリップで停止できなかったのではないかと言われておりますが未だに原因ははっきりしません。本線進入の結果本線のATC信号は絶対停止の00信号に切り替わって迫っていた営業列車が緊急停止した結果、衝突は免れましたが、停止位置は437m手前というきわどい位置でした。

加えて高架上の勾配区間という足場の悪さで復旧に時間がかかり長時間運休を余儀なくされたという点でも京成高砂事故と似ています。京成の場合復線作業に手間取っていて、事故対応のまずさも指摘されています。その観点から注目したいのがこのニュースです。

鉄道車両分解して検査、組み立て 京王電鉄若葉台基地 探訪 ググッと首都圏:日本経済新聞
京王電鉄若葉台車両基地では、年に1回脱線車両の復線作業などの非常時対応訓練を行うもので、事故そのものは防げない可能性はある訳で、それに備えて訓練を行うというものです。決めつけはできませんが、京成電鉄の事故対応がどうだったかは検証の必要があります。そしてこんなニュースも。
LRT試運転中に脱線 宇都宮市、けが人なし:日本経済新聞
宇都宮LRTで採用された新潟トランシス製ブレーメンタイプの低床車両ですが、ボンバルディアのライセンス生産で熊本市電や岡山電気鉄道、万葉線、富山地方鉄道軌道線、福井鉄道、えちぜん鉄道で採用され、前後車体の台車が連接部の円盤とリンクで結ばれていて、前後台車と円盤の相対位置で車体が連接する構造で、挙動が不安定化しやすいという特性はあります。

ドイツなど海外のLRTでは高規格で軌道狂いの少ない線路を走行する前提ですので問題は起きにくいのですが、40km/hの速度制限があり軌道構造も簡易なものが多い日本の場合は問題が顕在化するリスクがある訳です。快速運転や将来のスピードアップを視野に入れていると言われる宇都宮LRTにとっては座視できないトラブルです。カーブの緩和曲線不足見直しや気道狂いの許容度の見直しなどで事業採算性に影響する可能性もあります。ただでさえ工事の遅れで事業費が膨張しているだけに見逃せません。

話変わって米中間選挙のニュースです。

米中間選挙、下院は共和が多数派奪還 ねじれ議会に:日本経済新聞
トランプ政権時の18年中間選挙でもねじれは起きている訳で、ある意味米政治の年中行事みたいなもんですが、バイデン人気の低迷でレッドウェーブと称する共和党の地滑り的勝利は幻に終わりました。妊娠中絶問題を争点化した民主党の作戦勝ちですが、同時にトランプ氏の大統領選出馬観測が中間層の危機感をもたらし若者を中心に中間選挙としては異例の投票率となったとも言われます。

分断が言われ民主主義の危機さえ言われるアメリカですが、ギリギリ踏ん張ったってことでしょう。しかし妊娠中絶のような価値観の衝突問題で冷静な判断を示した米中間層ですが、対して同性婚や選択的府不別姓問題二賛成する若者が、それを認めない自民党に投票する日本の方が病んでいるのかもしれません。民主主義の脱線は日本の方が深刻かも。ある意味底が抜けてます。

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Saturday, October 22, 2022

ドルは我々の通貨だが

1971年の米ドルの金交換停止、つまり米ドルが金の裏付けを失うニクソンショックの混乱で世界から批判を浴びたニクソン政権のコナリー財務長官がタイトルのような返答をしたと言われています。米ドルはアメリカの通貨だからどうしようが勝手、それで影響を受けるというのはその国の経済政策に問題がるからだ、ということですね。

昨今のドル高に対する批判を受けて、バイデン大統領や政府高官の発言が、ドル高容認、問題はその国の経済政策と異口同音に発せられており、ドル安の起点となったニクソンショックとは逆の局面で同じニュアンスなのが何とも。という訳で円安の不都合な真実を逆の視点で見てみようということです。

「多くの通貨、大きく変動」 G20財務相会議が議長総括:日本経済新聞
12~13日にワシントンで開かれたG20財務相会議で議長国のインドネシアが名指しは避けつつも、ドル高の影響が世界に拡散していることに言及したものです。というのも97年のアジア通貨危機の記憶があるからですね。

当時工業化で投資が活発だったアジア各国はドル建て債務を膨らましていた中で、クリントン政権のルービン財務長官の進言で強いドルは国益とするドル高政策が採られた結果、債務膨張して返済に窮した経緯があります。このときの経験から日本主導で外貨準備を融通し合うチェンマイイニシアティブという通貨スワップ協定が作られますが、アメリカに振り回された記憶は生々しく残っている訳です。ジャカルタ―バンドン間の高速鉄道プロジェクトが中国勢が落札し日本勢が敗れたなんてこともありましたが、日本勢がドル建ての資金計画を提案していたとすればそれが嫌われた可能性はあります。大国に振り回された歴史故に大国間のバランスを重視する姿勢なのかもしれません。

中国に関しては一帯一路の債務のわなが言われ、スリランカがz財政破綻に追い込まれたことがr取り上げられてますが、実際は債務に占める中国のシェアは10%程で、元々放漫な財政運営だったってこともありますし、元々一帯一路は国内消費が低調な中国で現高による余剰資金の活用策としての海外投資という側面が強かったので、新興国にとっては元高が債務を重くした側面もあります。そう考えると今のドル高とどう違うのかは微妙です。

加えて今回のドル高は資源高と連動しているので、資源輸入国には特に過酷ということもできます。原油価格こそ下がりましたが、石炭や天然ガスは高止まりしており、コバルト、ニッケルなどのレアメタルや肥料原料のリンなども値上がりしています。70年代の2度の石油ショックでは米ドルの下落がバッファとなっていたこととは様変わりです。特にウクライナ紛争のあおりで欧州のガス価格が急騰しており、逆にアジアは中国がロシア産LNGの輸入でアジア市場の需給は緩和してますから、欧州により過酷ということも言えます。ドル高放置はアジア危機以上の経済ショックを引き起こす可能性がある訳です。そんなアメリカに不満も言えない日本はといえばステルス介入のようです。

政府・日銀が円買い介入 7円急騰、151円台から144円に:日本経済新聞
前回と異なり今回は予告なしですが、政府としては投機の動きをけん制したいということでしょう。限られた外貨準備の中ではできることも限られますが、前回同様元に戻るのか確実ですから、逆に投機筋は介入の逆張りで円売りドル買いを仕掛ければ確実に儲かります。介入は寧ろ投機筋を呼び込むことになります。加えて介入資金として米財務省債を売れば米長期金利の上昇で日米の金利差が開きますから円安を助長します。
貿易赤字、4~9月過去最大の11兆円 資源高・円安響く:日本経済新聞
資源高をきっかけに貿易赤字転落ですが、その結果の円安が貿易収支をさらに悪化させ、9月の貿易赤字2兆円は所得収支黒字を相殺する水準で経常収支赤字まであと一歩の水準です。つまり実需に基づくファンダメンタルズを反映した円安ですから、介入は無意味です。打つ手があるとすれば日本企業の海外法人が抱える海外内部留保を国内送金して円買いを促すぐらいでしょうか。その為には国内で成長の種を見つける必要がありますが、栗鼠殺し?で指摘した行政DXのデタラメぶりを見ると無理かなと^_^;。

マイナンバーカードの問題点で言えば、マイナンバーを公的部門が管理する個人データへアクセスする為のキーとして紐付けすれば、各省庁や自治体などの個々のシステム自体はスタンドアローンで良い訳で、その方が特定個人のデータを不正に集める手間が増えてそれがセキュリティを高めます。それを本人が手元で管理することで、いちいち同意を得る手間が省けますし、仮に紛失してもマイナンバーの紐付けを停止して新たに発行したカード番号に紐付ければよい訳です。子供や高齢者も携帯するとすれば、これぐらいシンプルなシステムの方が使い易いしランニングコストも低い訳です。こういうシンプルな発想が出来ずに下手に高機能を狙って淘汰された国産携帯電話などなどこの手の話は枚挙に暇がありません。

どうすれば日本人の賃金は上がるのか (日経プレミアシリーズ)で著者の野口教授は日本ではイノベーションが起きず生産性が上がらないから経済成長できず、結果的に賃金が上がらないと容赦がありません。その原因の多くは制度に由来する市場機能の祖語にあるということです。ひょとしたら日本企業自身がそれを知っていて海外収益を国内投資に回せないという判断をしているとすれば、円安をもたらすファンダメンタルズの改善は絶望的に困難ってことですね。

思い当たるのは例えば東芝ですが、国内事業で利益が出ないから原発輸出で巻き返そうとしてウエスティングハウスを買収したら財務ボロボロだったとか、三菱電機や日野自動車の検査不正のようにコストセンターの検査部門に圧をかけて利益確保に動いたとか、まだいろいろありますが、国内事業で行き詰っていたことは間違いないでしょう。海外展開する製造業大手でこれですから、内需関連企業はさらに苦しいのかと思えば、実は電力、ガス、通信などの参入障壁のある規制業種の特に男性正社員の平均賃金が高いという分析があります。

これ交通事業もかつては地域独占を保証されておりましたが、鉄道は自動車や航空との競争環境で独占が崩れております。それでも動力車運転士のような免許業種では高賃金ですが、整備や保線などは必ずしも当てはまらず、それが例えばJR北海道や富山地方鉄道のような事故を繰り返す事業者を生み出すことに繋がるのでしょう。ちなみに富山地方鉄道は鉄道営業キロ100km余でほぼ東急と同等です。

段階的に参入規制が緩められたバス事業では90年代半ばからバスドライバーの賃金が顕著に低下しております。その結果ドライバー不足を助長し、大都市部を含めて減便や廃止が相次いでいます。また新免事業者の中には運行管理に問題を抱える事業者も見られます。そんな現状を示すニュース2つです。

長時間労働認める、処分へ 愛知の炎上バス運行会社:日本経済新聞
静岡バス横転、ブレーキ多用で過熱か 急勾配の「難所」:日本経済新聞
三位一体で原罪侵攻系で取り上げた名古屋のあおい交通の炎上事故で、長時間勤務を認め、運行管理に問題があったとして処分必至の状況となりました。クラブツーリズムの下請けの美杉観光の事故ではフットブレーキ多用によるフェード現象が原因ではないかと言われています。ドライバーが26歳と若く、このコースの乗務は初めてということで、経験不足が言われています。

下り勾配でのフットブレーキ多用の危険性はドライバーとして常識に属しますし。大型ディーゼルバスですからエンジンブレーキも強力ですし、補助ブレーキ装置として排気リターダも装備されている筈ですが、不慣れで活用できなかった可能性があります。需給調整規制の緩和で競争環境が生まれたことは悪いことではありませんが、そのしわ寄せがこういう形で起きるとすれば、交通事業の規制緩和は慎重であるべきでしょう。同時にMaaSなどで自動運転に期待がかかりますが、安全を担保するハードルは高いと言えます。世界的には交通事業への公的支援は半ば常識でもあり、独立採算の見直しも視野に入れる必要があります。

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Saturday, September 17, 2022

物流を止めるな

コロナショックは従来の経済ショックと異なる面があります。大恐慌やリーマンショックなどは金融の混乱で消費が委縮したことで起きた需要ショックと言えますが、70年代の2度の石油ショックは石油の供給不安からの供給ショックと言えます。第三次オイルショックエントリーで指摘したように、需要ショックに対しては所謂ケインズ効果を狙った財政出動で需給ギャップを埋める政策が合理的です。一方供給ショックに対しては、需要喚起するとインフレが進んで経済を圧迫しますから、基本的には市場に委ねて需給調整するのが合理的です。その意味では総需要抑制策で市場調整を促す政策に合理性がある訳で、実際日本では福田政権でそれを実証している訳です。

コロナショックはロックダウンや行動制限などによる需要の蒸発という意味では需要ショックですが、一方で医療や物流などの供給側に供給制約を課す供給ショックの側面もあります。それ故に各国政府の対応も混乱した訳ですが、需要ショックの側面で見れば、旅行や外食が需要蒸発した一方、巣篭り需要で食品スーパーや電子商取引(EC)に需要シフトした訳ですから、経済セクター毎に影響はまだら模様で、またそのことが給付金を巡る混乱や不正などに繋がった訳です。勿論医療も影響を受けますが、初期に複数の医療機関でクラスター感染が発生したこともあり、一般診療は激減した一方、PCR検査やコロナ診療やワクチン接種という特需も享受しています。そんな中で考えさせられるこのニュース。

医療費、再び過去最高に 21年度4.6%増の44.2兆円:日本経済新聞
検査精度の高いPCR検査ですが、何故か日本では忌避論が言われました。出所はどうやら厚労省の医系技官らしいんですが、なるほどPCR検査はそれなりにコストがかかりますから、医療費の膨張で財務省からつつかれるのを嫌がったってことだとつじつまが合います。ぶっちゃけ保身ですね。

一方でコロナ病床確保の補助金を受け取りながらコロナ患者を受け入れない病院の問題などが報じられましたが、陰圧室や別棟で専門スタッフを置くといった対応が出来なければ院内感染の恐れがある訳で、受け入れが難しいのも確かです。だからコロナ受け入れを大病院に集約して専門スタッフも集約するということが必要でしたが、それだとコロナ関連の補助金が小規模病院に行き渡らない訳で、医師会がいい顔しない訳で、本来その辺を差配すべき医系技官がまともに働かなかったってことですね。

というう具合にコロナによる経済ショックは一筋縄ではいかない訳で、ある程度混乱はやむを得ない部分はあります。但し一方で疫学データも出揃ってきているのですから、経過観察期間の短縮や行動制限緩和や海外からの入国制限の緩和なども必要に応じて行うこと自体は必要な事なんですが、それに伴う見直しの根拠に完成手は納得のいく説明がされていないし冬に予想される第8波の備えもはっきりしないという状況です。

物流の混乱は主にアメリカのコロナ感染拡大に伴う港湾労働者の人手不足が原因ですが、裏には港湾労働者を含む低所得労働者の感染爆発がある訳で、それに加えてECの拡大による巣篭り需要で、主にアジア地域からの輸入が増えて西海岸のロスアンジェルス港やロングビーチ港にコンテナ船が殺到して、荷役が進まないから沖合待機させられて、世界中の海運が滞る事態になった訳です。つまり需要の拡大に供給が追い付かないという意味での供給ショックが起きた訳です。ちなみにアメリカの対中貿易赤字も拡大していますから、米中デカップリングどこ吹く風の現実が垣間見えます。その意味でこのニュースは結構重大です。

米国、鉄道スト警戒強まる 長距離路線はキャンセルに:日本経済新聞
スト自体はバイデン大統領の仲介で回避されましたが、実施されれば国内物流の30%を分担する鉄道貨物が止まる訳ですから、その影響はかなり大きい訳です。故に大統領が仲介して事なきを得ましたが、鉄道各社は従業員の賃上げや待遇改善を約束されました。当然運賃へ波及しますからインフレを助長しかねない訳ですが、賛否は分かれます。

トランプ時代にデタラメだったコロナ対策を立て直して経済を回復させたものの、その結果賃金上昇でインフレが止まらない事態を招いている訳ですが、何もしなければより大きな経済ショックを招きかねない中で、批判を覚悟の決断だったと思います。こういうことが所謂政治決断というやつで、目先の批判は受け入れるけど信念を以て動くというのは日本ではなかなか見られないことではあります。逆に政治家が邪魔して要らぬ災難を招く例は枚挙に暇はありません。

KADOKAWAの角川歴彦会長を逮捕 五輪汚職、贈賄容疑:日本経済新聞
アンダーコントロールのウソで招致し、旧国立競技場や都営霞ヶ丘住宅を解体して神宮の森を利権まみれにしてコロナ禍で無観客で経済効果無しの東京五輪ですが、出るわ出るわの五輪利権汚職です。被害者や国民だということは忘れてはいけません。スポーツ界からは札幌五輪招致への影響を危惧する声が聞こえますが、そういう問題じゃないだろ(怒))。一応予定では北海道新幹線札幌開業のタイミングですから、北海道としてもやりたいでしょうけど、その前に北海道新幹線の並行在来線問題が未解決なのは衰退途上国の在り方l で指摘しましたが、続報が出ました。
青函の貨物維持、国主導でJR貨物・JR北海道と協議へ:日本経済新聞
これは並行在来線引き受けを巡る自治体との協議とは別に、現実的な落としどころを探る動きです。現実問題として船舶へのシフトは難しいし、また例えば同島産のジャガイモはJR貨物で熊谷貨物ターミナルに運ばれてそこから仕向け地にトラック輸送される形で物流倉庫などが整備されている訳で、船舶シフトは受け入れる関東側のインフラも整備する必要がある訳です。JR貨物がみずほ総研に依頼した試算の経済損失は主に北海道の話ですから、こうした需要地側の経済損失もまた考える必要がある訳です。

また同試算で並行在来線三セクが毎年30億円規模の赤字ということもあり、自治体の協議がフリーズしている状況を打開する必要もあります。資産に貨物調整金が反映されているかどうかは定かではありませんが、財源は新幹線リース慮負担後のJR旅客会社の受益分ですから、元々収益性の弱い北海道新幹線では十分な負担が出来ない可能性はあります。実際北陸新幹線金沢開業でサイダーバードの富山乗り入れが無くなったのも、JR西日本の負担能力でカバーしきれない結果と言える訳です。

国が動いたことで、国交省は鉄道貨物を残す方向性を明らかにした訳ですが、北海道庁は動く気配がありません。沿線市町村だけでは毎年30応円の赤字を出す並行在来線三セク鉄道について協議しろと言っても無理ですし、国が助け船を出すとしても交通政策基本法の趣旨に照らせば地元からの働きかけが無いと動けない訳で、道が取りまとめに動くのが望ましいのですが、目先の経済損失よりも五輪招致の方が大事なのかな?だとすればそんな道知事や道議は落選させるべきです。道(どう)が道(みち)を誤らないことを祈ります。

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Sunday, August 28, 2022

三位一体で原罪侵攻系

ユダヤ教、キリスト教、イスラム教は一神教という共通点があります。考え方として人知を超えた超越的な存在としての神を定義することで、人間としての在り方を定義するという意味では共通ですが、その原点は原罪にあります。蛇にそそのかされて知恵の実を食べて神の怒りを買いエデンの園を追われたアダムとイブ(エバ)から人類の試練は始まり、神は様々な試練を与えますが、同時に救いの道を用意して人類を導き、導きに応じた者だけが生き残り、神を忘れた不届き者を一掃するということがこれでもかとばかりに繰り返されるのは聖書に記述された通りです。

しかしよく考えたら、困難に直面しても必ず救いの道はあるということになりますから、メンタルがタフになり逆境を跳ね返す力にもなる訳で、そうしたポジティブな評価が可能な一方、神に選ばれし民という選民意識、差別意識にもつながります。ある意味他民族の反感を買ってユダヤ人の迫害の歴史に繋がったという見方も可能です。

キリスト教とイスラム教はそうしたユダヤ教の教えを踏まえた上で、新たな物語を紡いだわけですが、キリスト教が神の子としてのイエス・キリストと精霊が三位一体の神の在り方という独自の見方を示します。故に神の子を処刑したことで原罪が重ねられ、試練は続きますが、精霊が生きている人に降臨して救いの道を示すことで導かれるという風に物語は展開します。歴史に名を遺す聖人はこの類という訳です。

しかし困ったことに精霊の降臨を示す証拠は示しようがない訳で、騙りの余地を生みます。統一教会開祖の文鮮明氏は言うに及ばず、中国の太平天国の洪秀全のように自らをキリストと同列の神の子とさえ名乗っていた事例もあります。余談ですが、太平天国はキリスト教の宣教師たちから異端扱いされて支えを失い清朝に滅ぼされますが、農民蜂起の闘争や移動しながら意表を突く戦いぶりなどが後の孫文の辛亥革命や毛沢東の長征などのロールモデルとなっています。

そうしたキリスト教の曖昧さはユダヤ教やイスラム教からは多神教的で堕落しているという批判もあり、クルアーンにも記述されてます。イスラム教では普通の人であるムハンマドが神託を受けてクルアーンを書き上げたとされており、神はアッラーだけという一神教の原点回帰をしています。故にムハンマドは神託を受けた神の代理人に過ぎず、死後は弟子たちの中から指導者を選びイスラム神学的な正しさを指針に指導するというイスラム帝国の体制が整備されます。スンニ派ではカリフという宗教指導者がスルターン(皇帝)を指名するということも初期には行われました。シーア派でもイマームと称する指導者を置きます。

そうしたキリスト教の多神教的曖昧さは、元々多神教の欧州では受け入れられやすかったということは言えます。ローマはオオカミの子孫を名乗る一族が建国した国で、国の発展と共に周辺の耕作地を拡大し、遊牧民の生息域を圧迫します。イソップの「オオカミが来た」という嘘つき少年の寓話はオオカミをローマの暗喩と読めば別の物語になる訳です。

そしてゲルマン民族大移動の混乱で国を立て直すためにキリスト教を認めた結果、侵略者のゲルマン人までキリスト教化された訳です。そうした融通無碍なところがキリスト教の特徴ですが、日本には大航海時代にスペインとポルトガルの宣教師が到達して布教をします。宗教改革で新教徒が勢力拡大する中、新大陸やアジアに布教先を求めた結果ですが、王を教化すれば国丸ごと布教できるということで抵抗したフィリピンは武力で支配下に置くなど強引なこともしていた訳ですが、幸か不幸か戦国時代に日本に辿り着いて王が誰かもわからないし長い戦乱で洗練された武力を持つ数多の戦国大名に武力で対抗も難しく、南蛮交易に興味を示す織田信長の保護を受けて布教を認められました。

元々寺社領を持ち力を蓄えていた仏教系各宗派に対するけん制の意味もあったと思いますが、そのあまりに強引な布教の姿勢故に秀吉の治世では一転布教を禁じられます。但し大名が帰依した所謂キリシタン大名の領地は例外で黙認されていました。そして以下略で明治維新で禁止が説かれ再度布教が始まる訳ですが、江戸時代に武家の統治思想としての朱子学に対抗して国学が興った流れで、天皇中心の統治へシフトする過程で、国家神道が形成されます。天皇は元々神話で神の子孫とされており、キリスト教の神の子という概念を借りて男系男子の万世一系の神の国の現人神という概念が作られます。これってカルト宗教と変わりませんね^_^;。

余談ですが、アジアの儒教文明という西洋から見たアジア観所謂オリエンタリズムですが、日本は例外で南宋儒教という革新的儒教としての朱子学の導入は徳川幕府による武家の統治思想というもので、長幼の序を重んじる古代の儒教とは異なり、西欧の啓蒙主義哲学思想家たちから「神なき秩序」として注目され参考にされました。しかし科学的知見の進む西欧では、結局変化の遅い儒教は時代遅れの思想として棄却されます。その一方で儒教圏の台湾でおそらくアジア一の民主主義が実現しているように、儒教のモダナイズで民主化の可能性はある訳で、中国の新儒教の思想もこの流れですが、大陸中国の民主化は足踏みしています。

そして原罪の知恵の実を食べたアダムとイブの物語ですが、蛇にそそのかされて先に林檎をかじったのがイブということで、実はミソジニーの思想も隠れている訳です。それは封建的な女性蔑視の風潮が残っていた明治時代ですから、国家神道にも反映されて女性の従属的地位が固定化される訳ですが、キリスト教圏の統一教会の開祖文鮮明も三位一体のキリスト教の教義から作られた宗教指導者ですが、こうした類似性が日本への浸透を助けたでしょう。つまり日本の保守思想に根付くミソジニーと統一教会の教義はシンクロしている訳です。故に支持率ダダ下がりでも統一教会と簡単に縁を切れない自民党がある訳です。

話は変わりますが、バスで重大事故が起きました。

名古屋高速でバス横転・炎上 2人死亡、7人けが:日本経済新聞
報道では手前から左右にふらついて不安定走行していたバスが中央分離帯に乗り上げて左に横転した単独事故で、前部オーバーハングの燃料タンクの燃料漏れが原因と思われる出火で炎上したもの。2人死亡7人ケガという事故ですが、明らかにドライバーが運転を継続できない異常事態が起きたと推測されます。

バスは名古屋市内から県営名古屋飛行場へ向かう乗合バスで、運行事業者はあおい交通という規制緩和後の新免事業者です。あおい交通に関しては地元では運転が荒っぽく急ハンドル急ブレーキや無理な割込みなどマナーも悪いと言われておりますが、それでも国交省の監査は通っております。当然ながら中小規模の新免事業者への監査はより念入りに行われると考えられますし。

そして4日後の26日未明には新東名下り線長篠設楽原PAで夜行高速バスがトラックに追突する事故が起きました。こちらもグレース観光という新免事業者ですが、乗り合いバス事業への参入規制緩和は民主党政権時代に実現しました。当時は所謂ツアーバス問題が取り沙汰されており、貸切バスによるツアー募集の形の乗合類似行為が問題視され。ホリデーイールドマネジメントで取り上げられた関越道のツアーバス事故もあって、安全管理を公共交通としての高速乗合バスに寄せる一方、貸切バス事業者への乗合免許付与を緩和した訳で、それ自体は時代の要請によるものでした。

ですから規制緩和が問題だった訳ではなく、実際新免事業者も含めて乗合バス事業者への国交省の監査は度々行われ、安全管理に問題がないか目を光らせてはいた訳です。しかし当時とはバス事業を巡る状況に大きな変化が見られます。元々既存乗合事業者にとっては短時間に距離を稼げる高速バス事業は採算性に優れていて、既に過疎化などの影響で一般路線の収益が悪化していたし、都市部の事業者も2年毎に排ガス規制が強化されるしバリアフリーでノンステップバスへの置き換えにも追われ、採算がとりにくい状況の中で採算部門の高速バス事業への参入は一般路線維持のための内部補助の原資確保の意味もありました。

故に乗合バス事業の参入規制緩和は既存事業者にとっては必ずしも歓迎されることではありませんでしたが、ツアーバスに営業基盤を侵食されるよりはマシな状況ではあります。また同じ土俵に乗れば運行面、営業面も含めて既存事業者には一日の長がある訳で、健全な競争環境の中で競い合うことは歓迎されました。

しかし地方の過疎化は止まらず、また少子化の影響でバスドライバーの確保が難しくなると、地方路線の減便や撤退が相次ぎバスの無い自治体も増える一方、大都市部でもドライバーの確保が難しいために減便を強いられるケースも出てきています。また高速バスも新規参入による競争激化で採算性が低下して撤退を迫られる路線もありますし、またコロナ禍で長距離移動需要が蒸発して多くの路線が休止に追い込まれ、京急など大手事業者の撤退表明もあり、休止路線の復活も微妙です。

そんな状況ですから相対的に小規模事業者が多い新免事業者ほど経営が苦しい状況は容易に想像できますし、ドライバー確保も綱渡りで過重労働を強いられている事例もあり得ます。その意味で新免事業者の事故が続いたことは偶然で片付けられない問題をはらみます。サイドバーで紹介した週刊エコノミスト2022年8月30日号の鉄道特集で面白い記述がありますが、日本一のバス会社^_^;西日本鉄道では鉄道の黒字復帰の一方、バス事業は赤字となっております。加えて西鉄は阪急阪神HDと並んで航空貨物フォワーダー事業で巣篭り需要のコロナ特需で潤った鉄道業界では珍しい存在でもあります。

一方国鉄のローカル線問題では自治体の硬直的な姿勢が目立ちますが、同時に国鉄時代の基準より厳しい乗車密度1,000人未満の路線のバス転換が現状のバス業界の状況を見る限り難しい現実もNationalRail幻想で指摘した通りです。実は鉄道よりバスの方が痛んでいる現実の中で、公共交通をいかに維持発展させていくのか、その見識が問われます。国葬なんかやってる場合かい!

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Saturday, July 30, 2022

NationalRail幻想

国を葬る話に続いて国鉄を葬る話をします。JR西日本に続いてJR東日本も赤字ローカル線の線区別収支を公表しました。

JR東日本、地方35路線の赤字693億円 収支初公表:日本経済新聞
国土交通省の有識者会議でも乗車密度1,000人未満の路線の存廃協議基準を示しました。
ローカル線、存廃協議の新ルール 1日平均1000人未満で:日本経済新聞
JR西日本の発表が2,000人未満を基準としていたのに対して、国はその半分の基準を示した形で、JR側から見れば存廃協議のハードルが高くなった形ですが、自治体からは総じて廃止の既成事実化に対する警戒感が強まっているようです。

しかし国鉄時代には乗車密度4,000人未満を地方交通線と定義して、バス転換が望ましいという方針を出しつつ、当面の存廃協議をその半分の乗車密度2,000人未満として特定地方交通線に指定し、地元との協議を始めたものです。その結果多くの路線が対象となってバスや第三セクター鉄道へ転換されました。

1983年北海道の白糠線(白糠―北進間)が白糠町運行の自家用有償バスに転換されたのを皮切りに転換は進み、第三セクター鉄道転換の始まりは岩手県の三陸鉄道ですが、同時に国鉄が引受を拒否していた建設線の三セク引受を認めさせることになります。それが野岩鉄道やあぶくま急行、北越急行、智頭急行など多くの建設線が実現することにもなりましたが、わき道にそれますのでここまでにします。

ただ当時と経済状況も異なり、当時ならば2,000人未満のローカル線でもバスならば存続可能だし、三セク鉄道でも国鉄から切り離して独自の運賃を設定することで存続の可能性もありました。しかし人口減少で地域の人口流出も止まらず、少子化で鉄道利用する通学生も減少する中では存続もままならず、実際三セクや地元交通企業が鉄道で引き受けた大畑線、黒石線などの例もあり、鉄道での存続も厳しくなっております。加えてバス事業も乗客減とドライバー不足で経営環境が厳しくなっており、鉄道からの転換で簡単に利益を出せる状況ではなくなりつつあります。実際鉄道もバスもない公共交通不在地域も増えている現実があります。となると1,000人未満の路線のバス転換は容易ではない現実がある訳です。

有識者会議ではバス転換以外にも上下分離による線路の公的保有や自治体の同意を条件に運賃値上げを認可制から届け出制にするとか、観光列車などの誘客案の実行なども選択肢として示しており、補助金も出すとしておりますが、自治体としては協議に応じること自体が廃止前提の議論として応じない姿勢で対応することになりそうですが、そうなれば見切り廃止の口実にされるだけのことです。元々JRの内部補助頼みの路線存続だったところに、コロナ禍で大都市圏や都市間輸送の落ち込みで支えきれなくなった現実があります。現状を踏まえて地域の交通政策を見直す機会と捉えるべきでしょう.

実際国鉄時代に打ち出されたローカル線廃止論は上述のように基準を緩めてJR各社の内部補助でカバーすることで対応してきた結果、ローカル線問題は民営化後、遠景に退きましたが、旧国鉄債務のJR各社への引受を制限して見えなくしただけとはいえ、JR発足直後のバブル景気もあって沿線自治体には楽観論が広がったのは間違いないでしょう。その意味で同時に行われた鉄道運賃の改革案も観ておく必要があります。

鉄道運賃に変動制、混雑時高く 国が制度設計へ JR東日本など検討
議論の前提としてJR本州3社は消費税転嫁を除いて基本的に国鉄末期の運賃体系を維持している訳で、コロナ禍による利用減で現行運賃の維持が難しくなっている現実があり、見直しが必要な局面ではあります。

元々国鉄民営化後の見通しとして当時の運輸省も単年度黒字が可能なのはJR東海1社と見積もっていて、各社の収支状況を見ながら3年程度の周期で運賃値上げを想定していましたが、民営化当時のバブル景気で収支が上振れし、特に首都圏を受け持つJR東日本の恩恵は大きかったし、アーバンネットワークの輸送サービス強化で並行私鉄から客を奪っていたJR西日本も好調でした。そのため消費税転嫁分を除いた運賃値上げは実施されず、寧ろ好業績による超過利潤の還元策を求められ、並行私鉄に合わせた特定運賃や割引率の高い回数券やフリー切符などの還元策が採られましたが、これらも収支状況を見ながら見直され縮小されています。

記事中のオフピーク定期券ですが、JR東日本としてはリモートワークの普及とフレックスタイム制の定着でピークの利用をオフピークに誘導する目的を謳っており、これをダイナミックプライシングと説明している点には違和感があります。同時に通学定期券制度の見直しにも言及しており、元々国の機関として民間より高い割引率で定期券を発行していたこともあり、本来JRが負担すべきものではなく、政府や自治体の文教予算で負担すべきとも言っております。

これは現行運賃の上限運賃認可制の制度上の矛盾なんですが、JRなど鉄道事業者は普通運賃や特急などの特別料金の他、定期運賃も含めて総括原価との均衡を求められてますから、割引率の高い通学定期運賃は乗客間の補助となる訳で、ここを見直すことで割安なオフピーク定期券の発売が可能になりますし、運賃制度としては小中高大で異なる割引率が適用される通学定期運賃を排除して運賃体系もシンプルになり運賃改定の認可手続きもやり易くなるということも視野に入れていると考えられます。つまり現行運賃制度の完全見直しとなるダイナミックプライシングとは別物で、航空やバスでは既に実施されてますが、結果的に客単価が上がって多くの乗客にとっては値上げとなっていることから、利用客が多く社会的に影響の大きい鉄道運賃への適用は慎重にすべきです。

蛇足ですが日本の上限運賃制と似て非なるイギリスのプライスキャップ制の違いですが、イギリスではインフレ率に合理化係数を掛けたプライスキャップを設定してその範囲内での事業者の運賃設定に自由を与えております。制度的にインフレ率より低率のプライスキャップを設定することで事業者の合理化努力を引き出すと同時に、合理化努力で得られた超過利潤の還元義務は課されませんから、実態としては毎年運賃は値上げされます。今のように9%超のインフレだと当然運賃値上げ幅も大きくなり国民生活を圧迫します。ジョンソン首相失脚はスキャンダルもありますが、インフレに対する国民の怒りが大きい訳です。

あと国鉄民営化時のくびきから会社を跨った運賃通算制度も見直される可能性があります。そのためにJR運賃は200㎞程度まで殆ど遠距離逓減が働かず、並行私鉄との運賃差が生じていたりします。私鉄並みに境界駅での打ち切り合算にすれば利用実態に即した遠距離逓減を戦略的に採用できるようになりますし、JR間で他社の意向を気にする必要もなくなります。東京基準で言えば熱海から西は別運賃ということですね。

てことでとっくに終わっている筈の国鉄のくびきをJRは背負わされている訳ですが、そうは言っても国民のNationalRail意識は残っており、特に政府や自治体の対応を縛っている面はあります。整備新幹線やリニアへの期待もそうした文脈から見直した方が良いということは以前から申し上げておりますが、人口減少下で初期投資の大きい高速鉄道の経営の難易度は高まります。実際整備新幹線区間ではリース料が固定されているために、コロナで乗客が蒸発してJR東日本の収支を直撃しました。苦肉の策の新幹線カーゴサービスでどこまでカバーできるのか。しかも在来線貨物輸送の代替は不可能なので、青函トンネル貨物併用問題の解決にもなりません。いい加減国鉄の亡霊は退治しなくてはね。

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Monday, July 18, 2022

あったらしい資本主義

帝国憲法時代の皇族や軍神の死を悼む「国葬」は、制度としては戦後の日本国憲法公布で旧憲法の失効の道連れになりました。いや待て、吉田茂の国葬は?実は当時も猛反対に遭いながら実施されて、法的根拠のない国家行事への国費支出の前例が出来てしまいましたが、当時の議論が尾を引いて、歴代総理、例えば沖縄返還でノーベル平和賞受賞の佐藤栄作ですら国葬は実現しませんでした。

当然国葬するなら法律を作ってからの話ですが、岸田首相は記者会見で国葬の実施を表明しています。これ明らかにおかしい訳ですが、内閣権限の拡大解釈でスルーするつもりのようです。法律作るとなると国葬の対象者を定義しなければならないし、それに安倍元首相が該当することを示さなければならない訳ですが、それらをすっ飛ばしている訳で、国会軽視の姿勢は安倍管両政権から引き継いでいます。キッシーの温故知新以来繰り返してますが、自民党総裁選のような茶番を仕掛けても政権の本質は変わっておりません。

所得倍増もそうだしデジタル田園都市構想もそうですが、過去の政権のキャッチフレーズをパクってますが、中身はなく、所得倍増に至っては金融所得倍増と言い換えて個人株主を増やして金融所得を増やすと言い出す始末。個人が株を買えば株価が上がるという短絡思考には眩暈がします。株価はあくまでも企業の将来収益の割引現在価値を反映したもので、稼げる企業は株価が上がるし、また低金利で連動する割引率が下がれば将来収益を押し上げますから、単純に需給で決まる訳ではありません。問題は日本企業の将来収益に明るい材料が見当たらないことなんですがねえ。

デジタル田園都市構想も大平政権の田園都市構想をパクると同時に、安倍政権の地方創生と目先を変えて見せたという意味で、空疎な言葉遊びですし、極めつけは国民に不人気なGo To を使わずに県民割の全国展開など言い換えで対応する姿勢が目立ちます。そんな岸田政権は課題山積なのに大丈夫でしょうか?

「国策」の原発、事故責任は事業者に集中 東電株代訴訟:日本経済新聞
終わらない電力危機で取り上げた福島第一原発の集団訴訟に対する最高裁判決と違って会社法による企業経営者に対する株主代表訴訟なので、原告は株主で会社を代表して経営幹部の責任を問う裁判であり、賠償受取りは企業としての東電ということで裁判の性格は異なりますが、その賠償額の大きさが目立ちます。勿論地裁判断で今後上級審で判断が変わる可能性はありますが、原発事故の損害賠償請求訴訟との整合性はある判断ではあります。

今回は地震や津波の規模が想定を超える可能性を経営陣は認識しながら対策を怠ったとしてますが、あくまでも東電経営陣の話で、規制当局としての国の責任を問うてはいませんし、事業者としての電力会社への責任を重く問うているという意味でも矛盾はありません。但しこれは事業者にとっては原発がリスク資産として重荷になることを意味しますから、原発再稼働が進まないことになります。そんな中でやはり記者会見で電力逼迫に備えて原発9基の再稼働に言及した岸田首相ですが、中身はというと既に規制委の審査を通った10基中9基ってことで、追加工事や定期点検で停止中のものを動かすだけ。言葉だけの誤魔化しでした。流石キッシー-_-:。

という訳で「新しい資本主義」は過去にあったらしい^_^:言葉をつなげて目先を誤魔化しているものと言えます。寧ろ「資本主義」を名乗ることに本音があるのでしょう。人新世の「資本論」 (集英社新書):斎藤幸平著がベストセラーになったように、資本主義や経済成長への疑問からポスト資本主義や脱成長に関心が持たれ、また気候変動などでサスティナビリティが問われている中で、それでも資本主義で経済成長を求めるというメッセージと見れば、姿勢を明らかにしたという意味で新しいとは言えるかもしれません。

現実には気候変動もそうですが、コロナやウクライナ紛争、資源高、インフレと。解決困難な社会的課題に直面する中で、成長よりもこれらの困難な課題の解決にリソースを投入すべきではないかというのは、議論の余地があります。例えば東京メトロのコロナ減便の最後で取り上げた滋賀県の交通税導入のように、社会的課題解決のために敢えて増税するというのもその1つですが、歴史が古く減価償却の終わっているローカル私鉄の存続は銚子電気鉄道の濡れ煎餅販売で可能なレベルです。近江鉄道はそれより規模が大きいですが、税で広く浅く負担することで存続可能ならば現実解になり得ます。鉄道の維持が結果的に公益として地域に還元されれば良いという考え方ですね。

しかし例えば北海道新幹線の並行在来線として存廃が注目される函館本線長万部以南のように、貨物輸送インフラとして資本費保守費の負担が大きい路線の存続は、その社会的意義の大きさに関わらずより困難です。特に貨物輸送インフラという側面から言えば、藤代線、砂原線という戦時輸送の要請から建設された緩勾配迂回線を含めた8の字線としての存続が求められ、引受三セクの運営費負担も膨らみます。国や道が線路を保有する上下分離が現実的でしょうけど、道の鉄道存続意欲の低さから見れば可能性は低いと言わざるを得ません。

しかし貨物輸送動脈を断つことは北海道経済へのマイナスインパクトの大きさは計り知れません。ま、そもそも北海道新幹線を欲しがった結果なんで自己責任とは言えますが、プラス面だけを経済効果に計上しマイナス面に目を瞑った結果でもあり、工事の遅れや資材費人件費の高騰で事業費も膨張気味でB/C比も1以下になる可能性があります。愚かな選択と言われる未来が見えてきます。

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