ローカル線

Saturday, July 25, 2020

五方面作戦の闇

やや大げさですが水に流せない過去で触れたJRの国鉄体質の復活の懸念を感じております。場合によっては国鉄改革の成果を台無しにしかねない問題です。

国鉄の前身は鉄道省という行政機関だった訳で、現業としての鉄道事業と鉄道を含む民間交通事業者に対する監督官庁という後の運輸省の役割を併せ持つ存在でした。理屈としては鉄道事業の国家独占の考え方で、国が鉄道を建設し運営する分には権限の行使だけど、民間事業者が参入する場合は国に申請して免許の交付を受けることが義務付けられるとともに、国の判断で買収を要請された場合には拒否できないという法体系でした。

故にその権限は強大でしたし、またそれ故に政治の介入を受けやすい存在でした。戦前期の立憲政友会と民政党の疑似二大政党制時代に両党が競い合うように選挙区の地方路線の建設を押し付け、広軌論や電化推進などの幹線の改良を潰してきました。根拠法として鉄道施設法が制定され、基本計画線、整備計画線、工事線を示す別表が添付され、その内容は毎年のように更新されておりました。

その後国家総動員法の施行で戦時体制に突入すると、中央省庁も大規模な改変がされて鉄道省も商工省を経て運輸逓信省となり、郵便事業も管轄する大組織となりましたが、戦後GHQの命令で郵政の分離と共に、鉄道と付帯する自動車や船舶事業などの現業部門を公社として分離し、独立採算制で経営自主権を持たせることになり、公社としての日本国有鉄道が発足します。しかし鉄道の国家独占原則はそのままで、国鉄は国に免許申請することなく事業展開できる存在になった訳です。

そのことは東海道新幹線の実現には貢献したものの、鉄道施設法は存続していて、相変わらず政治家の圧力で地方路線の建設を強要されましたが、独立採算制が盾になっていたというと意外感がありそうですね。故に1964年に鉄道建設公団を発足させ、主に地方線区の建設し、完成後国鉄に無償貸与若しくは無償譲渡するという形で切り離されました。またそれ故に鉄道施設法の別表の更新も続いた訳です。あとお気づきかと思いますが、全国新幹線鉄道整備法に基づく新幹線建設も、基本計画線、整備計画線、工事線を示す別表が添付されており、戦前からの古いスタイルを踏襲しています。

この辺は東京都交通局などの地方公営交通や帝都高速度交通営団のような特殊法人と国鉄の違いとして重要です。都交にしろ営団にしろ法的には民間に準じた事業者として国に申請して免許の交付を受けなければ事業ができない存在です。それ故空飛ぶ都営交通で取り上げた都市交通審議会1号答申で都の都市計画高速鉄道5路線の内1-4号線までは事業者名まで明示していましたが、5号線は未定としていました。混雑が激しい中央快速線の混雑緩和を狙ったバイパス線という性格から、国鉄による事業化の可能性があったから触れなかった訳です。

実際は首都圏五方面作戦の走りとなる中央線複々線化事業との関連で営団が地下鉄として整備し、国鉄の線増線と相互直通とされました。それと共に都の都市計画高速鉄道も改訂され10路線が新たに制定され、5号分岐線は6号線として分離され1号線西馬込系統と統合され西馬込―志村(仮)間となりました。同時に7号線(目黒―岩渕町、ルート変更の上営団南北線として実現)、8号線(喜多見―日暮里、一旦キャンセル後区間、ルート見直し後9号線として復活、営団千代田線として実現)、9号線(芦花公園―麻布、キャンセル)、10号線(中村橋―両国、8,9号線キャンセルで8号線に繰り上がるもキャンセル)が答申されました。

当時まだ首都圏五方面作戦とは言われておりませんでしたが、東京一極州通で混雑が激しくなる一方で、国鉄としても線増を進めて輸送力増強を図ることが避けられない状況でした。その時に国家機関としての権限を保持していた国鉄は、都を格下と見て都市計画は無視する一方、出資者として営団とは良好な関係を持っていました。

都市計画で追加された路線は結局キャンセルが多く、実現した路線もルートや区間が変更されていますが、これには国鉄が微妙に絡んでおります。8号線は喜多見で小田急線との相互直通し小田急は喜多見分岐の多摩ニュータウン新線を計画していました。一方日暮里では国鉄常磐線の複々線化を睨んで相互直通を意図しておりました。

8号線に反応して営団は喜多見駅北方の野川河川敷に広大な土地を先買いして車両基地用地を確保しましたが、小田急が都区内区間で並行する8号線計画に難色を示します。一方1964年から赤字転落した国鉄ですが、幹線区間の電化や複線化に加えて首都圏五方面作戦で大規模投資目白押し状態でした。特に総武線の複々線化で快速線を東海道と分離後の横須賀線とつないで直通する構想を進めた結果、常磐線に予算が回らなくなり、特に下町の密集地帯で用地賠償が難しい上、墨田川と荒川に橋をかけなければならないことから、事業費圧縮のために接続点をできるだけ都心から離れたところにしたいということから消極姿勢でした。

恐らくそれらを忖度して小田急に対しては代々木上原接続で喜多見までの小田急線複々線化工事を都市計画に取り込み。喜多見の土地は経堂電車区の移転先として小田急に譲渡し、代わりに綾瀬に車両基地を建設するということで荒川の鉄橋を営団が作り,国鉄は綾瀬以遠に複々線化区間を圧縮するという調整を経て9号線として都市計画路線に組み込んだ結果、千代田線として実現したと見ることができます。国鉄も営団の言い分は聞く訳です。

一方米軍グランドハイツ返還後の跡地開発で西武豊島線の延伸を想定した都は10号線→8号線で西武との相互直通を想定し、他方両国では総武線複々線化による線増線との相互直通を想定していましたが、都の働きかけに対して西武は動かず、加えて国鉄は都の都市計画を無視するように総武快速線の事業に着手します。8号線→9号線と違って放置プレーでキャンセルに追い込まれた訳です。

そして総武快速線の事業は都心の地下トンネル工事という国鉄にとっても未知の事業であり、地上構造物の基礎の仮受や地下埋葬物との競合回避などで事業費は膨らみ遅れもあり、総武線の混雑は酷くなる一方だったことから、東西線の東陽町―西船橋間の延伸を営団に要請し、営団もそれに応じます。関連して東武野田線方面への延伸も示唆され、新船橋接続が検討されましたが、実現しませんでした。営団としても総武快速線完成までのつなぎと分かっていたので、その後を意識していた訳です。

千代田線の相互直通で営団6000系と国鉄103系1000番台都の電力消費量の差額を会計検査院に指摘され、国鉄と営団で差額精算が行われるようになったことも、国鉄と営団の特殊な関係を語るときに忘れることはできません。これは小田急9000系にも適用されトバッチリを受けた訳ですが、それ故に国鉄は203系を開発し投入したものの、予算制約から剛性不足の柔なアルミ車体が災いして轟音を振りまくノイジーな電車になりました。また小田急がVVVF制御車1000系の開発を急ぎ、用途を失った9000系は早期に引退しました。

常磐線に関しては複々線化で新駅が2つ誕生しています。北柏と天王台ですが、それぞれに経緯があります。北柏は緩行線にしかホームがありませんが、快速線にも折り返し線があって取手発着の中電の折り返しに使われてますが、元々は貨物駅でした。松戸―我孫子間の複々線化では各駅の貨物扱いを集約して用地を確保しましたが、そのために貨物駅として北柏が作られ、後に緩行線に旅客ホームを追加して旅客扱いを始めた一方、車扱い貨物の廃止で北柏の貨物扱いが無くなった結果が現状です。旅客駅化は地元対策だった模様です。

天王台は松戸電車区の支所として快速線用の電留線が作られましたが、用地取得のために駅設置を約束したと言われております。この辺北柏と共に地元の不利益を打ち消す思惑が見られます。同様に線増工事関連で貨物線と貨物駅が作られることになった横浜羽沢では住民の強硬な反対に遭って大幅に遅れ、横須賀線の分離が遅れたことが知られております。相鉄の都心プロジェクトで羽沢横浜国大駅が旅客駅として開業しましたが、当時は旅客液化など想定もされてなかった訳で、歴史の綾を感じますね。同時にリニア静岡工区を巡るJR東海と静岡県の対立を見るにつけ、国鉄時代のこうした独善性とバーター主義が垣間見えます。

てことで、h現時点では杞憂かもしれませんが、国鉄を出自とするJR上場4社の株式持ち合いは国鉄体質の復活おw警戒する必要があります。特にコロナ禍で売り上げを落とし、株価も下がった各社が株式持ち合いでもたれあいする可能性は高いと思います。一方鉄道業界では西武と京急、小田急と相鉄、京成と小湊などで伝統的に株式持ち合いが続いていますが、民間事業者同士として問題を引き起こす可能性は低い訳です。JRの持ち合いとは意味が違います。

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Saturday, July 11, 2020

水に流せない過去

豪雨被害で大変なことになっておりますが、おそらく出てくるんじゃないかと予想していた川辺川ダムお化けが現れました。特にSuica甘いかの最後に登場した京大教授氏曰く「7割出来てた川辺川ダム中止したから人が死んだ。人殺し!」とかもう狂ってるとしか言いようがないですね。

巨大ダム建設は順調に進んでも50年はかかると言われます。水没エリアに集落があると集落ごとの移転が必要ですし、営農地であれば耕作地の移転先も必要になります。移転先は表土の厚みのある肥沃な土地で且つ道路アクセスと水利も備えなければなりませんから、なかなか困難です。加えて集落内の学校などの公共施設の移転も必要ですから、相当時間をかけて準備しなければなりません。当然費用もかかります。

そして道路の付け替えや作業用道路、作業ヤード、宿舎などを準備してやっと本体工事です。当然工事の進捗に合わせて作業員の確保やセメントその他の資材の調達なども絡みますから、長い時間と費用が掛かる訳ですが、出来ているとされる7割の根拠は不明です。時間軸で捉えて7割なのか予算の消化率が7割なのか、モノサシを示さない議論は学者としてどうなのか?ですね。仮に時間軸で7割なら中止が決まった2012年時点からあと15年かかりますから、今回の豪雨には間に合わない訳ですね。

八ッ場ダムでも問題になりましたが、元々水資開発を目論んだ事業が時の経過で低成長期になり水需要が増えないということで利水から治水へ看板をかけ替えて事業を継続というありがちなパターンです。加えて補償金弾んで反対意見を封じ込めるから、それが地元住民の分断を生み禍根を残すという地域にとって不幸な展開が見られます。その中で当時の熊本県民の意思として川辺川ダムへの反対が大勢を占めていて、それを踏まえて蒲島知事が国に中止を申し入れ、当時の前原国交相が中止を決断した訳です。

当時の熊本県民は球磨川の自然保護と共に、堤防や調整池整備、河床の掘り下げなどの流域対策で対応すべきという声が多かった訳ですが、当時はまだ線状降水帯なんて言葉もなかった時代で、今のような異常な気象現象は見られませんでした。加えて流域対策に国はろくに予算をつけてこななかった訳で、そういった経緯から言えば「ダムを止めた人殺し」発言は政治的意図の有無に関わらず暴言です。またダム治水は運用次第なのは昨年の台風19号豪雨での肱川ダムの事例で明らかですし、肱川の場合上流にダムがあることを理由に市街地の堤防整備が進まなかったという倒錯した事情もありました。

線状降水帯は海水温の上昇による水蒸気の発生の増加と大氣温の上昇で水蒸気の飽和点が上昇した結果、水蒸気濃度が高くなった一方、地形や梅雨前線に沿って水蒸気を含んだ大気が上昇気流に乗って放射冷却で雲を発生させるメカニズムが連続的に起こることの結果ですから、温暖化の影響と考えて間違いありません。その意味では低コストだからと石炭火力依存を続ける大手電力会社こそ「人殺し」にふさわしいと言えましょう。

という具合に時間がかかる大規模土木工事は一旦始まると止めるのが困難なんですが、ダムじゃありませんが、やはり時間がかかる山岳トンネルも、準備工事に多大な時間と費用がかかります。てことでリニア静岡工区の続報です。

リニア準備工事、再開容認を 国交省が静岡県に要請:日本経済新聞
これ唖然とさせるニュースですが、そもそもJR東海と静岡県の対立は、静岡県条例で開発面積5ha以上は県自然環境保護条例に定められた自然環境保護協定が必要というのが県の言い分です。既に許可された宿舎工事は申請の開発面積4.9haだから許可したけれど、宿舎に付帯する作業ヤードは17haあり県条例の求める協定締結が必要として許可を保留している訳です。

そして協定にはJR東海が採るべき環境保全措置を記載した計画書の添付が必要だけど、県専門部会で決定していないから協定を結べないし、本体工事に関わる国の有識者会議の検討を経て問題点をクリアにしなければ手続きが進まないというのが静岡県の言い分ですが、それがまったく顧みられずJR東海の言い分をなぞっただけの調停案ですから、案の定10日の知事と国交次官の面会で川勝知事に否定されました。

結局JR東海は7年前から大井川の水源遮断問題にまともに答えず、準備工事だから認めてくれという主張を繰り返すばかりで、実質的な対策を取ってこなかった訳です。宿舎工事の開発面積4.9haというのは、JR東海自身が県条例を承知していたことを物語りますし、それに付帯する準備工事であって本体工事ではないという理屈で押すことしかしてこなかった結果です。まあ駅のできる他県ならば魚心あれば水心で不問に付されたかもしれませんが、駅のない静岡県ではそれが通じない訳です。さりとて奥大井の山岳地帯のトンネル部分に駅を作るって言っても相手にはされないでしょうけど。

これ結局JR東海の国鉄体質なんですね。元々国の機関として強大な権限を有していた国鉄は、全体的な事業計画や予算及び決算報告を国会に対して行うことが義務付けられてはいるものの、個別事業は国鉄の裁量で実施されてきた訳で、それ故に往々にして国の機関として自治体を下に見る傾向がありその意識が抜けないのかもしれません。若い人にはわかりにくいでしょうけど、例えば首都圏五方面作戦でも表に出にくい黒歴史がありまして、特に常磐線にはいろいろなエピソードが集中しておりますが、別の機会に譲ります。

てことで国交省は役に立たない調停案を示してその無能ぶりを明らかにしてしまいました。前身の運輸省も国鉄は許認可対象ではなかったので対国鉄の権限は限定的でしたし、整備新幹線でもJRの意向が重視されますし、まして国費投入のないリニアに関してはものが言えないってのが正直なところなのでしょう。その意味で風邪ひかない人たちで取り上げたJR上場4社の株式持ち合いに危惧を抱きます。

例えば今回の豪雨で肥薩線と久大本線が被災したJR九州ですが、株式上場時に経営安定基金を取り崩して資産の減損処理をして7減価償却費を圧縮して益出しした訳ですが、新幹線リース料の繰り上げ支払いと違って資産の減損処理はあくまでも帳簿上の評価替えでキャッシュアウトを伴いませんから、その分キャッシュリッチになっている訳です。故にアクティビストファンドに目を付けられ、720億円の自社株買いを迫られた訳です。

幸い株主提案による自社株買いは株主総会で否決され回避できましたが、結局アクティビストの圧力に屈して100億円の自社株買いを実施してます。その一方で18年の西日本豪雨で被災した日田彦山線は廃止された訳で、上場したがためにファンドに金を毟られる一方、交通政策基本法に則り災害復旧に自治体の関与が条件づけられた訳です。故に事業の継続よりも投資家に還元することが優先される体制ですが、国鉄OBの経営陣にとっては地元の反発よりも株主への対応が大事で、プライドも高い。故に株式持ち合いでアクティビストに対抗という構図が見えてきます。肥薩線や久大本線はどうなるでしょうか?

プライドの高さはまた別の問題にもつながります。

「富岳」使いやすさ探求 国産スパコン、世界一に返り咲き 「京」の反省生かし互換性高く:日本経済新聞
「2位じゃダメないですか?」の蓮舫氏の問いでお馴染みのスパコン「京」の後継機の「富岳」がスパコン世界一になったニュースですが、世界一を目指した「京」が純国産に拘って汎用性のない独自アーキテクチャーで使えるソフトが少なかったために活用されなかった反省に立ち、世界から汎用性の高いプロセッサーなどの部品を調達し、多くのソフトを走らせる使いやすさに拘った結果、図らずも世界一になったって話です。元々蓮舫氏の質問も世界一に拘って迷走することを危惧したものですが、結果的にそうなった訳です。

翻ってリニアですが、世界一に拘って汎用性の乏しいシステムにすることを考え直すべきだと思います。東海道新幹線は世界初の高速鉄道ですが、斜陽産業と言われ、ある意味技術的には枯れた鉄道技術に拘ることで、汎用性のあるシステムとして世界に提案できた訳で、仏TGVや独ICEをはじめ鉄道の復権に貢献できた訳ですが、汎用性に疑問のあるリニアに拘るのは何故なのか?世界一を目指すプライドの問題ならばくだらないからやめろって話です。

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Sunday, May 17, 2020

マスク、マスク、マスク

私自身はマスクする習慣は無いし、感染を防ぐ効果が乏しいので、マスク無しで通そうと思っておりましたが、取引先でマスク着用を要請されて已む無く入手した布マスクを着用し、毎日手洗いしております。あーメンドクさ。ちなみにアベノマスクではありません。届いてないし。

医療品、海外依存度高く 感染爆発の備えに不安:日本経済新
マスク問題はコロナゲートウエイでも取り上げました。その際に情報の攪乱によるナッシュ均衡(囚人のジレンマ)で説明いたしましたが、yamanotesenさんのコメントで「合成の誤謬じゃないか」というツッコミもいただきました。まあ双方の要素がある訳で、現実の事象ではこうしたことは珍しくありません。

合成の誤謬の典型的な事例は貯蓄投資バランスの問題で見られます。社会の構成員が全員貯蓄に励むと、借り手不在でリターンを期待できない一方、全員が貯蓄を取り崩して借金に頼ると、貸し手不在で金利が跳ね上がり経済を冷やす訳で、日本でデフレと称された現象は前者に該当します。故にアベノミクスや黒田バズーカでデフレ脱却という議論は寧ろ逆効果で如何にバカバカしいかがわかります。

マスクに悲してはグローバル化に伴うサプライチェーンの拡大による国際分業の影響が背景にあります。医療品は元々輸入超過状態で、医薬品は国内メーカーの有力特許失効と多額の開発費を費やした海外メーカーの高額医薬品の差がある一方、マスクや防護服などの消耗品は中国を中心に海外生産が定着していた訳ですが、その中国の武漢で爆発的感染が起きて国内需要が爆発的に増えた結果、日本向けに生産されたものも中国港内で消費され日本に回らなくなりました。何のことはない生産の中国依存の必然的結果なんです。

加えて一部は東南アジアなどへ生産拠点を移す分散化も進んではいたものの、規模は小さく、加えて遅れて感染拡大しいてやはりマスク輸出が差し止められる事態になり、結局品薄の解消には至りませんでした。とはいえ中国を含むアジア地域の感染は落ち着いてきており、また内外で増産がかけられた結果、徐々に供給量が増えて入手可能になってきました。結局需給の均衡によってしか解消しない問題です。

その意味で「布マスク配布を決めたから、マスクバブルが弾けて転売ヤーが涙の投げ売り」というストーリーを語る人々の頓珍漢ぶりも指摘できます。未だ5%しか配布されていないアベノマスクを過大評価したいだけの妄言です。そういや安倍首相も国会答弁で言ってたな。おまけですが、多くの日本人にとっては未経験の、夏のマスク地獄が待ち受けています。くれぐれも熱中症には注意しましょう。ことほど左様に国民生活と乖離した政府の姿勢は困ったものです。

マイナンバー、10万円給付で注目だが… 活用で海外と差  税財政エディター 小滝麻理子:日本経済新聞
マイナンバーカードを用いた電子申請がスタートした結果、自治体窓口に人が殺到して密状態という笑えないことが起きています。政府としては10万円の特別支給を梃子に20%しかないマイナンバーカードの発行を増やそうとしたものの、当然これを機にマイナンバーカードを作ろうとする人が自治体窓口に殺到する訳ですが、それに留まらずオンライン申請手続きがうまくいかなくて問い合わせが殺到しているという状況です。

1つは意外なことにマイナンバーを発行した人の年齢層が高齢者に偏っていてITスキルが必ずしも高くなく、二重パスワード認証などの仕組みを理解できていないとか、専用カードリーダー若しくは対応スマホが必要だけど、ガラケーのみでPCすら持っていないとか、マイナンバーカードを巡るお寒い現実の壁に直面している訳です。

三蜜で即身成仏で指摘したように自治体の課税台帳使えばマイナンバーカードは要りません。個人または勤務先の何れかで申告納税していれば漏れはないですし、扶養家族などの情報も把握されてますから、あとは通信事務で世帯全員の氏名と指定振り込み口座を通知してもらうだけで非接触で手続きできます。既存の制度インフラを使い尽くせってことですね。

マイナンバーカードに関しては、国による個人情報取得への拒否感が国民側にありますから、何故必要なのかを本質的なところで説明する必要がありますが、これまで国の説明ではワンストップでコンビニで手続きできて便利といった枝葉の部分が強調されており、国民の納得を得られておりません。この辺古くは納税者カード(グリーンカード)や住基カードの失敗の総括が出来ていないってことでもあります。

グリーンカードに関しては資産課税を含む総合課税のインフラになるとして当時の大蔵省と社会党がタッグを組んで推進し、専用コンピューターセンターまで作られましたが、結局法案成立に至らず実現しませんでした。住基カードは記憶に新しいですが、マイナンバーカードとの重複で無意味化しています。

何故こうなるかというと、結局アベノマスクやアベノコラボが側近の官邸官僚の提案だったように、現場を知らない人間の思い付きでことを進めている結果だってことでしょう。そして普及率の上がらないマイナンバーカードの普及促進という雑音に流されて現場はパニックってことですね。そういう意味で密かに注目しているニュースがあります。

JR四国、コロナで業績悪化 4月の損失「残り11カ月で補えない」:日本経済新聞
前エントリーで取り上げたJR四国の資金繰りが悪化し6月にもアウトという状況です。交通政策基本法の定めるところにより事業者と自治体の協議を経て国に助けを求める手続きとなりますが、現実はそこまで持たないほどひっ迫しています。加えて忘れてならないのはJR四国はJR北海道やJR貨物と同様国全額出資の根拠法に基づく特殊会社であるため、勝手に全業廃業したり解散したりできない立場ってことですね。国は株主として資本注入なり融資なり債務保証なり何らかの姿勢を示す必要があります。こういった法律の建付けを政府は理解しているかどうか。検察官の定年を勝手に延長するような遵法精神欠如が見られる現政権ではまともな対応は期待できないかも。
#検察庁法改正案に抗議します
検察庁法改正案の強行採決に反対します

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Tuesday, May 05, 2020

出口が見えないアベノ自粛

予想されたこととはいえ、緊急事態宣言の延長が決まりました。そしてプロンプター読んでるんだけの「台本営発表」とも謂われる首相記者会見で、緊急事態宣言の解除の基準は語られませんでした。8日を8月に読み違えたみたいですが^_^;。出口が見えないという意味でアベノミクスと同じです。加えて検査体制の拡充が未だに実現できていないために、そもそも出口を判断できるデータがないという現実もあります。

この辺統計135°の歪みで指摘した統計不正問題に通じますが、現状を正しく把握できないから緊急事態宣言解除のような責任のかかる決断が出来ない訳です。あと内緒ですが伝染ルンですアベノミクスで指摘した消費指標を家計調査ではなく商業統計に切り替えてインバウンド消費が二重計上されていた疑惑ですが、コロナ禍でこっそり見直されてます。嘘が下手な嘘つきの典型的対応です。

あと「新しい生活様式」とかいう大きなお世話を専門家会議が発表しましたが、これ政府の諮問に基づいた助言機関がなぜ国民向けにこんな発表するのかですが、助言に基づいて責任を負うべき側に責任を負う姿勢が見えず、専門家会議に丸投げしている状況が透けて見えます。政府への助言が暖簾に腕押しでは、国民に語り掛けて協力を得るしか手段がない訳で、余計なことをさせられている訳です。当然専門家会議としては責任を負えず安全側へ判断が偏りますから、出口の判断はますます遅れます。

てことで巣篭りは長引きそうです。そうなるとリモートワークの範囲が拡大することになります。既に通勤定期券の払い戻しが増えており、加えて年度替わりで買い替えが多い4月もおよそ3割減ということで社畜の国で指摘した企業の通勤手当支給見直しがさらに進むことになります。その結果鉄道事業者が苦境に陥ております。

記者の目 JR東、コロナで見えた鉄道の盲点 3割減収なら利益ゼロ  証券部 堤健太郎:日本経済新聞
JR東日本だけの問題じゃないんですが、大都市圏の通勤需要で支えられている事業者にとっては、割引とはいえ前払いで収益を現金化できる定期券売上は経営安定のキモであり、経営の基礎体力をもたらします。記事で指摘されている固定費のかなりの部分を定期券売上でカバーし昼間や土休日の定期外客で上乗せすることで利益の最大化を図る訳ですが、こちらも外出自粛で激減している訳ですから、JR東日本と言えども1-3月期に赤字転落してますし、現状では4-6月はもっと悲惨です。

収益構造から言えば、運輸収入の依存度の高いJRの方が関連事業収入が多い大手私鉄より厳しい訳です。例外的に関連事業比率の高いJR九州は安泰かと言えば、ライバルの西鉄と比べれば生活関連事業で沿線にドミナント形成という水準には達しておらず、営業エリアが広すぎるから仕方ないんですが、トータルな経営体力では苦しいところです。

加えて整備新幹線が重荷になります。整備新幹線は30年リースで負債を計上している訳で、特に整備新幹線区間が長いJR東日本には重荷でしょう。救いは水害で水没した北陸新幹線E7系廃車に伴って延命されたE4系を廃車して減便することである程度出費を防げますが、リース料は固定費としてのしかかります。鉄道・運輸機構による債務繰り延べの可能性は、リース料が北海道新幹線などのの整備費用として見込まれており整備を止めることになりますから、難しいでしょう。

それでも莫大な減価償却費があり、JR東日本でおよそ2,000億円規模ですから、投資の抑制によってキャッシュアウトを防ぐことは可能ですが、ホームドア設置やバリアフリー化などは減らせませんから、車両更新や新線建設が抑制されると考えられます。航空業界の逆風もありますから、羽田空港アクセス線は幻の新線計画になる公算大でしょう。

この流れで言えば関空アクセス輸送を睨んだ大阪のなにわ筋線もヤバいかも。泉北線と市営地下鉄の売却益で府市共に財源確保してメトロの稼ぎ頭の御堂筋線のライバル路線を作るという倒錯が起きる訳ですから。

JR東海も稼ぎ頭の東海道新幹線で8割減ですから、長引けばリニアを諦めることになりそうです。名古屋リニヤだがや以来疑問を指摘してきた中央リニアも幻になる訳です。それでも財務体質の強いJR東海はある程度持ち堪えるでしょう。JR西日本は赤字ローカル線の整理に活路を見出すと考えられます。中国地方の路線網はかなり整理されそうです。JR九州は上場時に経営安定基金を取り崩して資産の減損処理と整備新幹線リース料の前倒し支払いで負担を減らしてますが、やはり赤字ローカル線整理に踏み込むことになるでしょう。本州3社と比べて財務体質の弱さは否めません。そしてJR四国ですが。

JR四国に国が改善指導 自立経営阻む2つの「老い」:日本経済新聞
コロナショックで真っ先に連想されるのはJR北海道でしょうけど、札幌都市圏への経営資源集中を前提とした再建策で先が読めるJR北海道に対して、エリアに大都市圏が存在せず、過疎化と高齢化が止まらないJR四国の方がより深刻です。とはいえ関係の深いJR西日本に助けを求めたくてもその余裕はなく、そこへ外出自粛が重なる訳ですから、出口が見当たりません。四国だけ三蜜解禁してお遍路さん呼び込むか?

鉄道として残すならば何らかの財政支援が必要ですが、JR北海道でも見られるように、結局交通政策基本法で謳われた地元自治体の関与が無いから国が動かないという倒錯が起きる可能性があります。JRでこれですから、過疎地の地方ローカル私鉄で持ち堪えられないところはちらほら出てくるでしょう。アベノ自粛は公共交通を枯れさせる可能性大です。

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Sunday, April 26, 2020

不要不急の黄金律

Zoomを200mと空目して、ソーシャル・ディスタンシングってそこまで離れないといけないの?と勘違いした人もしなかった人も、お元気でしょうかwwww。私はと言えば、元々引きこもりのボッチですから、あまり変化ありませんが、流石に接触機会が増える乗り鉄は自粛してます。

しかし不要不急が叫ばれるけど、何を以て不要なのか不急なのかは曖昧です。例えばパチンコ規制ですが、開店前の行列に始まり、店内の密集度も高いし、換気が十分かどうかも不明で、しかもプレイ時間もそれなりに長い訳ですから、入場制限や間隔を空けるなどは必要かもしれませんが、補償無しの自粛要請には無理があります。そして自粛に応じなければ店名公表するとして大阪市などでは公表されましたが、これ逆に人を集める効果があるので、あまり意味がありませんし寧ろ逆効果です。欧米のように休業補償を条件に強制力を持たせるべきところです。

現行憲法でも強制力を持たせること自体は可能ですが、補償したくないから曖昧にしている訳です。旧憲法下で国家総動員法などと共に成立した陸上交通事業調整法で、東京の私鉄統合が行われたのは空飛ぶ都営交通でも取り上げましたが、東武野田線の柏以南は京成エリアですし、東上線は西武エリアですが、路線移管は行われず、中央線以南の西南部が東急に統合されたに留まりますが、西武に統合された多磨鉄道はそのままだし、実際は資本の論理による乗っ取り(京浜)や電力国家管理による独立維持の放棄(小田急、京王)の結果ですし、南武、鶴見臨港は国有化だし相鉄は相模線の国有化で東急への経営委託はしたものの旧神中線のみで独立存続してます。

地方でも1県1事業者を模索されましたが、ほぼ実現した富山と福岡は、事業者同士の自主的な統合の結果ですし、富山では県営鉄道や富山市電まで富山地方鉄道へ統合する徹底ぶりでしたが、一方で県内の交通統合の音頭を取った熊本では、熊本電気鉄道と熊延(ゆうえん)鉄道(後の熊本バス)が応じず中途半端になりました。近畿圏でも関西急行鉄道と南海鉄道が統合して近畿日本鉄道が成立した一方、南海傍系の高野山電気鉄道は独立を維持して戦後の南海電気鉄道の分離独立の受け皿となりましたし、力業の統合の阪神急行電鉄と京阪電気鉄道は、やはり旧京阪が分離独立してますが、新京阪線は阪急に残り京都線になるなど混乱しました。コロナ対応がうまくいかないのは憲法は関係ありません。

そして国家総動員体制下で鉄道事業者に求められたのが不要不急線の休廃止と資材の供出でしたが、こちらは国鉄白棚線(白河―磐城棚倉)をはじめ全国の多くの鉄軌道で行われ、軍需品増産や兵員輸送に必要な路線建設に回されたり、金属類は兵器生産に回されたケースもあるようです。という訳で鉄ちゃん的にはこれを連想してしまいますが、基本的に未補償でした。国鉄白棚線は路盤を専用道にして国鉄バス路線として存続しただけマシではありました。戦時BRTですね。

てことでコロナ問題での政府の対応は大いに不満のあるところです。炎上したアベノマスクにしろアベノコラボにしろ、官邸の1人の経産省出身秘書官の発案だそうで、いずれも内閣支持率の低下に焦って提案したものだそうですが、検査を増やすとか衛生用品の増産などの実質的な対策ではなく人気取りに走るところが国民から見透かされている訳です。また1世帯30万円給付も無条件に1人10万円に変更されましたが、これ公明党がが意地を見せた訳じゃなくて支持母体の創価学会からの突き上げで仕方なくって話で、単なる自己保身です。こんな連中が言う不要不急には違和感しかありません。今一番の不要不急は五輪だろ。その一方で感染爆発した欧米は次のフェーズへ進みます。

米欧のコロナ感染、公表値の10倍も 抗体検査で判明  人口6割で「集団免疫」 まだ遠く 精度向上に課題
PCR検査に精度の問題があることは確かですが、とにかく感染の実態を把握するには検査を増やすしかない一方、出口となる集団免疫の獲得進行度を見る意味もあり、遺伝子検査であるPCR検査に留まらず血液を採って抗体の有無を調べる抗体検査へと進み、疫学データを拡充しています。結果はPCR検査の陽性反応で確認された感染者数を大幅に上回る感染率であることが分かった一方、集団免疫獲得と言える60%には全く届かないということで、終息にはまだまだ時間がかかることが明らかになりました。また1度回復して再発症するケースも報告されており、その場合重症化するケースが多いということもあり、免疫の暴走が疑われています。つまり集団免疫獲得が本当に出口になるかどうかもわからないってことですね。

加えて国内感染が終息しつつある中国では帰国者を原因とする感染拡大が見られるなど、今後第2波第3波の感染拡大も警戒する必要があります。しかもそのタイミングが国毎にズレてますから、一旦落ち着いても油断できない状況は続く訳です。1年後に五輪開催できると考えるのはあまりに楽観的です。

最後にちょっと臭い話。鉄道を巡る戦時体制で特筆すべきは戦時下の食糧増産計画でして、人口密集地の東京では住民の糞便が大量に出ることに注目した当局が、郊外の営農地帯への堆肥供給のために鉄道各社に汚わい輸送を要請したものの、乗客の評判を気にして各社尻込みする中で、唯一要請に応じたのが西武鉄道ですが、戦時体制でただでさえ要員が徴用されて人手不足の中、御大堤康次郎の陣頭指揮で大混乱に陥ったという逸話があります。所謂西武鉄道黄金列車伝説です^_^;。

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Sunday, February 16, 2020

貧テック鈍テック

新型肺炎問題での日本政府の対応に内外から疑問が突き付けられております。無意味な水際作戦は所詮政権のパフォーマンスに過ぎず、結果的に国内感染がジワジワ拡がっていて死者まで出ています。しかも該当の神奈川県の80代女性は不調を訴えながら渡航歴がないことを理由にウイルス検査は行われていなかったとか、国立感染症研究所の人手と予算の制約から1日300人しか検査できないそうですが嘘っぱちです。SARSの時のように民間製薬会社提供の検査キットを配布して対応すれば簡単に能力を増やせるのに、金の出し惜しみをしているんですね。

前エントリーの時点より多くの情報が明らかになり、政府の対応に内外から批判の声が上がっております。既に日本は感染地域とされて渡航制限を課す国も現れましたし、ダイヤモンドプリンセス号の対応の迷走に業を煮やしたアメリカは、乗船中のアメリカ人の帰国のためにチャーター便を仕立てており、流石に日本政府も対応を見直さざるを得なくなりました。感染症対策はれっきとした安全保障問題であり、グローバル化でいつ起きてもおかしくない状況なのに、まともな対応ができないってのは、これまでも山梨の豪雪、熊本地震、西日本豪雨、昨年の台風などいずれも初動の失敗で対応が後手に回った訳ですが、安倍政権はよほど危機管理が苦手らしいです。これ非常時のロジステイックス問題ですから、9条を改正して軍隊を持っても、まともに動かせず負け戦必至です。

東京オリパラに関してはおそらくIOCが中止を判断することはないでしょうけど、感染が収束しなければ無観客試合となる可能性はあります。米NOBCの放映軽量が入ればIOCは潤いますが、開催コストを負担する東京都は大赤字で何のためのオリパラか?それがどうも変な感じに。

新潟・南魚沼で少雪、五輪の暑さ対策ピンチ:日本経済新聞
問題視される東京オリパラの暑さ対策として豪雪地帯の南魚沼の雪を使う計画が暖冬による雪不足で狂いが生じています。何だかどんどん漫画チックになっているような気が\_^;。

一方前エントリーで指摘したように、中国では既にウイーチャットを用いた遠隔診療が行われているとか。これを実現するためにはおびただしい数の画像サンプルをAIに学習させる必要がありますが、医師会の反対で電子カルテによる診療データ共有すらできない日本のなんと遅れていることか。新型肺炎のような感染症診療は特に感染者と医師の接触が避けられるだけに重要です。これガラパゴス・スモールブラザーズに加えたいですね。加えて後れを取っているのは対中国だけじゃありません。

英フィンテック、手数料変革迫る 送金・外貨両替で:日本経済新聞
英国がBrexitで強気な理由の1つがこれです。元々大手銀行の寡占で手数料がバカ高かった英国では、国の法律で銀行にフィンテック企業へのAPI公開を義務付けたことで、フィンテックで世界をリードしています。API公開とは、銀行が保有する決済などのシステムへのアクセス制限を課しているため、フィンテック企業はユーザーの委託で口座へアクセスするのにユーザーからパスワードの通知を受けて行う訳ですが、当然セキュリティが甘いとハックされて外部流出して結果的に不正アクセスにつながる訳ですが、フィンテック企業に直接アクセス権を与えて限定的にユーザーの代理人としての権限を与えれば、問題を回避できます。ユーザーは銀行窓口へ出向くことなく振り込みや海外送金などのサービスを受けられ、競争環境で手数料も割安になるということになります。

ただしこれマイナス金利で青息吐息の日本の銀行はなかなかAPI公開を認めず、国内フィンテック企業が育ちません。そこへ英国フィンテック企業が黒船として襲来するって話です。ただしガラパゴス・スモールブラザーズで指摘したNTTデータの通信網の独占問題が絡みますので、簡単ではありませんが、公正取引委員会が調査を始めており、結果如何では風穴が開く可能性はあります。

そのときに力を持った英国勢に国内フィンテック企業た太刀打ちできるかって問題はあります。またやむを得ない部分ですが、COBOLで記述された基幹業務システムを維持改良しながらセキュリティ対策を取る銀行システムの維持費が高止まりしていることも問題なんですが、さりとてコストダウンのためにクラウドに乗り換えることが簡単にできない悩みもありますし、みずほのシステム統合でトラブったように、特に経営統合機運が強まる地方銀行にとっては頭の痛い問題です。で、基幹業務システム問題は実はJRにも頭の痛い問題でもあります。

タッチしやすい改札機 JR東、新宿駅などで実証実験:日本経済新聞
JR東日本が首都圏で自動改札機を本格導入したのが1990年ですが、この時点でSuicaの開発計画が進行中だったこともあり、10年後をめどにSuica対応機が開発され予定通り更新されました。2010年にはマイナーチェンジ版の現行モデルに交換されてはや10年。次世代モデルを新宿と高輪ゲートウエイ駅で試験導入してテストを行うというものです。

目玉はQRコード読み取り装置を装備してQRコード決済のテストを行うものですが、Felicaシステムはコイルによる電磁誘導の仕組みを使って無電源で瞬時に読み取りが可能なのに対し、QRコードは光学的に読み取って変換する関係で動作に遅延が生じるため、特に混雑する首都圏の駅では動作に問題がないかどうかを慎重に見極める必要があります。加えてユーザーがスマホを操作してアプリを立ち上げる必要があり、混雑する駅で混乱しないかも見極める必要があります。ただしSuicaであれQRコードであれ、固有のID番号を読み取って処理する部分に違いはありません。

とするとQRコード導入の意図は何かってことになりますが、1つは将来的に磁気券の廃止を視野に入れているのでしょう。既に航空の搭乗口では搭乗券をスマホへダウンルードするか紙にQRコードを印刷してゲートの読み取り口にかざす形になっており磁気券の搭乗券は過去のものになっています。となると駅の自動券売機が空港の自動チェックイン機のような形になってユーザーのスマホにダウンロードされる形が考えられます。メリットとしては情報量を盛り込めますから新幹線を含む特急券などとのセット券も簡単に対応できますから、Suicaより汎用性が高まります。

2つ目はローカル線のチケットレス化が低コストで可能になる点でしょうか。ローカル線の場合首都圏のような混雑はあまり考える必要がなく、また読み取り機とクラウドで簡単にシステムが構築できるなどコスト面で有利ということもあります。ただしこれはSuicaの裏側で動く鉄道の基幹業務システムとは異質のシステムなので、ローカル私鉄が単独で導入するならともかく、JRが導入する場合は現行の基幹業務システムとの整合性が問われることになります。JRにとっては構築してきた基幹業務システムを簡単に変更できないだけに、悩みの種になるでしょう。

一方、MaaSを視野に入れると、戸口から駅、駅から戸口のラストマイル輸送との連携でSuica対応はコスト面で課題がありますから、それを睨むとQRコードシステムに優位性がある訳で、両者をどう繋ぐかは大きな課題です。銀行とフィンテックの関係に似た構図が見えてきます。

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Sunday, January 26, 2020

気候変動の経済リスクに向き合う欧米当局

タイトルはそうじゃない某日本国を揶揄してるんですが^_^;。

気候変動がもたらす金融リスク、欧米当局が分析開始*:日本経済新聞
主なリスクは2つあって、異常気象や海面上昇による自然災害の増加により土地価格の低下による融資の担保割れや、保険金支払いの増加による保険会社の経営悪化などと、温暖化対策としてのCO2削減対策の結果として化石燃料価格が下落して、油田ガス田や石炭火力発電が座礁資産となり不良債権化することなどが挙げられます。

前者は日本でも台風被害で現実のものと認識されるようになってきましたが、後者に関しては認識が弱いどころか、内外で石炭火力発電所の新設計画を進めていて、世界的に非難されてます。飛び恥のグレタ・トゥンベリさんからも厳しく叱責されてます。

舌鋒鋭いグレタさんの発言に対しては、様々な反応が見られますが、欧米では多くの若者が共感している一方、日本ではあまり見られないのが不思議です。勿論現在の産業構造の大転換を伴い、時間も費用もかかる話ですが、現在の富を生み出す仕組みを温存する結果、その後始末のコストが将来世代へ先送りされるという構図で見れば、グレタさんに代表される若年世代が不満を表明するのは自然なことです。

それに耳を傾けられないとすれば、それは現在世代のエゴでしかない訳で、気候変動に限りませんが、環境問題は突き詰めれば現役世代と将来世代間の富の分配に関わる問題であり、社会制度として解決が求められるものであって、科学技術の進化で解決できるという性格の問題ではないということは押さえておきましょう。灼熱の氷河急行で取り上げた2009年のCRUメール流出事件で騒がれたデータ捏造が、結局捏造の証拠なしとなり、寧ろCO2原因説を強化した経緯に見られるように、今利益を得ている人達による言いがかりは後を絶ちません。

その意味で小泉環境相の石炭火力見直し発言は妥当なものですが、政府与党からは困惑する声が聴かれます。確かに原発を「重要なベースロード電源」と位置付ける政府のエネルギー基本計画を前提とする限り、13か月ごとに運転停止して点検が義務付けられている原発のバックアップ電源として、大出力石炭火力は必要不可欠ですし、まして安全対策の追加費用が重荷で原発の再稼働が進まない現状では、石炭火力を主力電源とせざるを得ないのが大手電力会社の事情としてある訳ですが、将来の重荷を背負わされる若者がそんなこと忖度する必要はないです。

そんな中で欧米の金融当局が気候変動リスクを意識し始めたのは、時代の変化の帰結と見ることもできます。特にECBはIMF専務理事だったラガルト新総裁が金融政策の見直しを宣言し、これまでの2%インフレ目標のための量的緩和やマイナス金利政策と共に、気候変動リスクへの対応も検討中ということで注目されます。昨今金融政策の限界説が言われ、低成長が常態化している中で、効果が乏しい一方副作用が目立つ量的緩和やマイナス金利の見直しは避けて通れませんが、加えて気候変動リスクを金融政策に織り込む模索が始まった訳です。

具体策はわかりませんが、化石燃料関連への融資を抑制して再生可能エネルギー関連へ資金シフトを促す方向性が打ち出される可能性はあります。但し悩ましいのは、これ高度経済成長時代の日銀の窓口規制と同じようなものになるとすれば、これまで模索されてきた中央銀行の政治に対する独立性の議論を揺り戻すことになりかねないだけに、議論を呼びそうです。QQEで出口戦略を封印し緩和継続しか選択肢のない日銀にとっては議論に参加すらできない訳です。

そんな日本にも変化の兆しはあります。

再生エネ、地域越え連携 太陽光など一括制御に免許制:日本経済新聞
太陽光など分散する多数の小規模電源を束ねて仮想発電所(VPP)とする事業を免許制として参入を受け付けるというもの。地産地消のマイクログリッドの制度化ですが、台風被害で長期停電を余儀なくされたこともあり、分散電源の重要性を政府も認めた形です。関連してこんな記事も。
停電下、ともった明かり 台風で分散型電源の強み証明  電力、代わる主役(中):日本経済新聞
千葉県睦沢町の町営住宅や道の駅に給電する同町出資のCHIBAむつざわエナジーが地元産天然ガス発電で給電した結果「停電に気付かなかった」と。繰り返し述べてますが、分散電源による地産地消型のマイクログリッドの災害に対する強靭さを証明しました。これ太陽光や風力など、その地域で調達可能なエネルギー源を用いれば、かなり応用範囲が広いと言えます。

加えて言えばえちぜん鉄道の最エネ電力託送事業がヒントになりますが、需要者としての鉄道事業者が地域の分散電源を束ねてマイクログリッドの核となる形で事業参入の可能性が出てくる訳です。これ運賃収入以外の収益源が得られることに留まらず、災害時でも停電リスクのが低減できることを売りに沿線への移住を促す効果も期待できますし、需要者としての鉄道の省電力技術で、例えば回生ブレーキ電力を蓄電してVPP電源の一翼を担うという形でコスト削減と収益確保の両立も狙えるなど可能性が広がります。

問題は相応の設備投資が必要なので、経営が苦しい地方私鉄には参入ハードルが高いですが、自治体が支援して融資先の乏しい地銀の融資を引き出せれば、過疎化で苦しむ地方の課題を解決する可能性もあります。逆に大電流の制御に四苦八苦している首都圏のJRや大手私鉄では制御の困難が伴うだけに小規模に始められる地方私鉄に比較優位があると思います。是非チャレンジしてほしいところです。

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Saturday, December 14, 2019

これから始まるBrexit

米中雪解けと英総選挙での保守党単独過半数を好感して世界的に株価が上昇してます。これ冷静に見ればアメリカが勝手にいちゃもんつけて喧嘩売っといて「今のなし」って話ですから、単なる材料にされてるだけです。そんな中で中国でのiPhone販売不振のアップルと737MAXの安全問題で中国の緊急輸入の恩恵を受けられないボーイングは蚊帳の外。香港人権法の大統領署名で揉めるんじゃないかと言われましたが、実際は運用次第であって、抜かずの伝家の宝刀の意味です。中国も面子上内政干渉を言い立てますが、通商交渉で実を取るのは既定路線。つまり株高はご祝儀相場以上の意味はありません。

一方のBrexitはこれからが本番。EUの譲歩を引き出したジョンソン首相の思惑通りの展開ですが、関連法を成立させなければ1月末の強硬離脱の可能性は残っています。加えで北アイルランドの扱いは今後の対EU通商交渉と4年毎の北アイルランド住民の意思確認に委ねられますから、具体策はこれから決めるって話です。この辺資本主義と民主主義エントリーで指摘しましたが、メイ前首相が火だるまになりながら取りまとめたEU離脱案を下敷きにしながらの課題解決という、ある意味歩きながら考える英国流の民主主義が機能した結果です。

こうなることは予想してましたが、最大の理由は英国の政府や議会が本気で課題解決に取り組んだ一方、EU側は英国への厳しい態度を示す一方、Brexit撤回を期待するなど、英国民から見れば責任逃れにしか見えない態度に終始しました。だからとにかく前へ進もうというジョンソン首相の呼びかけが効いた訳です。ここまでの混乱で英国民も経済的には厳しい状況を理解していると思いますが、ある意味EUに愛想をつかした訳です。

こうなると英EU通商交渉も英国が強気に出られる一方、強硬派の仏マクロン大統領に対してドイツは醒めてるし、イタリアその他多くの国で反EUの世論が抑えきれない現状では、EUがまともに対応できるとも思えません。EU各国にはギリシャ危機のときの生々しい記憶もあり、まとまりを欠いたまま交渉に臨む訳ですから、かなり高い確率で英国に押し込まれると見ます。

一方スコットランドの独立問題などで英国が連合王国の現体制を維持できずに解体されるんじゃないかという人がいますが、元々英国は国内バラバラで、スコットランドは昔からイングランドへの対抗心が強いし、イングランドでもロンドンの金融街シティはエリザベス女王も許可を得なければ入れないという独立性の強いエリアで、丁度中国と香港の関係のような断絶があり、イングランドのはずれの田舎では、ロンドンは嫌悪や蔑みの対象ですらあります。

仮にスコットランドが独立してEUに加盟するとすれば、スコットランドとイングランドとの間に国境線を引く必要があるため、結局これアイルランドと北アイルランドの関係をブリテン島に持ち込むだけで、混乱に輪をかけるだけですね。実現可能性はほぼ皆無でしょう。様々な矛盾を抱えながら前へ進む英国流民主主義は強固です。

それより深刻なのは日本です。例えばこのニュース。

増税後の景気見通せず 10~12月は下げ公算:日本経済新聞
統計の胡麻化しなんかするから、今景気が良いのか悪いのか判断できなくなってます。実態は相当悪いんですが、昨年秋ごろにはピークアウトしていたと見れば、統計を化粧してよく見せていたけど、誤魔化し切れなくなったってのが現実です。特に貿易統計で顕著に表れてますが、ここのところ輸出が減少してますが、それ以上に輸入が減って結果の貿易黒字を計上してますが、輸入の減少は内需の弱さの証拠で誤魔化しようがありません。これ消費増税の前後とも変わらぬトレンドです。貿本主義も民主主義もダメなニッポン-_-;。更にダメダメなこのニュース。
与党税制改正大綱の要旨:日本経済新聞
ベンチャーを騙る反社会的勢力が企業を食い物にする税制、展望なき5G投資、そもそもこれらが何故デフレ脱却になるのか?OECDでデジタル課税が話し合われている現状で、どこ向いてんだか。ま、標的とされるグローバル企業に日本企業が入っていないから他人事なんでしょう。私的年金やNISAの見直しも結構なんだけど、これ結局公的年金への国民の不安の解消とセットでなければ意味がない。納税手続きの電子化ってマイナンバーカードの強制を含む普及促進ですが、セキュリティへの不安解消が前提です。ま、細部はいろいろありますが、これで経済成長できる根拠がわかりません。

加えて言えば、水害に見舞われた今年、温暖化の影響は明らかなのに、炭素税の導入などは議論されず、欧米との意識のギャップは救いがたいところ。3度目の化石賞と相成りました。これ繰り返しになりますが、原発と石炭火力を前提とした大規模電源主義を見直せない以上仕方ないところです。グレタ・トゥンベリさんに叱ってもらいましょう^_^;。

そのグレタさんが流行らせた「飛び恥」。これうまく使えば鉄道復権につながるんだけど。例えばJR北海道問題ですが、丘珠発着便を廃止して鉄道輸送に切り替えるのに使えそうです。JR北海道の都市間列車を北海道エアシステム(HAC)のコードシェア便として運行するといった方法を何故北海道は考えないのか?あるいは都市間バスの運行事業者とコードシェアするとかですが、そのための環境整備として道と関連自治体が出資して線路保有機関を設置するとかですね。

JR北海道には鉄道施設を現物出資させてオフバランス化して経営の負担を軽減する一方、低金利でほとんど機能しない経営安定基金は線路保有機関への国(鉄道・運輸機構)の出資分として保守と設備更新と投資の基金にするといったことですが、鈴木道知事は利用促進以外での自治体負担を求めないとしてiいます。やっぱりJR北海道潰して経営安定基金を長崎新幹線に回すつもり?英国流オープンアクセスを試すなら北海道なんですがね。

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Sunday, October 06, 2019

痺れて関電

関電役員の金品受け取り問題が連日報道されてますが、受け手としてリテラシーの問われるニュースです。というのも、発覚の経緯がかなり特異であることです。その意味で注目すべき記事はこれです。

税務調査後に1.6億円返却  受領額の半額 関電、元助役側に:日本経済新聞
高浜町の吉田開発という建設会社に金沢税務署の強制税務調査が入ったのが18年1月。その直後に高浜町元助役の森山氏に受領した金品の返却が集中している訳です。これ森山氏と吉田開発の関係を知っていて受領した金品の出どころもわかってたからですね。つまり発覚を恐れて証拠隠滅に動いたわけで、総額3.2億円の半額相当の1.6億円がこの時に返却されている訳です。加えてこれ。
関電監査役会、金品受領を昨秋把握  監視機能働かず 工事の7割、元助役に情報:日本経済新聞
ちょうど1年前の18年秋、税務調査の半年後には関電の監査役会も事実を把握しながら、取締役会に諮らなかったんですね。つまりこの時点では世間には知られていなかった訳で、スルーして見て見ぬふりしたわけです。ガバナンスが働かなかった訳で、これ自体も問題ですが、結局思わぬところから外部へ洩れます。

今年3月に森山氏が死去し、遺族による遺産相続の過程で故人のメモが出てきて、関電幹部の名前と金額が出てきてしまい、隠しきれなくなって今に至る訳です。発覚の発端となった金沢税務署の税務調査から1年半を経過していた訳で、既に多くの証拠は散逸していると見るべきでしょう。ですからチラホラ名前の取りざたされる政治家もいますが、身に覚えのある者は既に処置済みで高みの見物でしょう。モリカケ問題で学習してますから。

こうなるとあからさまな自己保身に走る関電幹部がヒール役を一手に引き受けてくれますから、世論に迎合して一緒に叩いて涼しい顔してる巨悪がいるってことですね。とにかく地元負担でローカル線の小浜線を電化しちゃうぐらいの資金力が原子力界隈にはありますから、3億なんて氷山の一角のはした金です。小物を血祭りにあげてガス抜きまでできちゃうからたまりませんね。

閑話休題、関西電力といえば2018年まで鉄道事業者でした。長野県大町市の扇沢と黒部ダムを結ぶ関電トンネルのトロリーバスは関電の直営で鉄道事業法準拠の第一種鉄道でしたが、バッテリー電気バスに置き換えられて終焉しました。資本規模で言えばおそらく日本最大の鉄道会社だった?トロッコ電車でお馴染みの黒部渓谷鉄道は関西電力100%出資の子会社ですが直営ではありません。

関電の黒部川水系の水利権は、戦前の日本電力から戦時統合の国策会社日本発送電を経て1951年に関西電力に移管されたものですが、地域分割で9大電力に再編された中で、需要地である関西向けに豊富な北陸の水力資源の一部を持たせた訳ですね。黒部川沿いの日電歩道の名前に名残があります。似たようなことは中部電力エリアの長野県の高瀬川の水利権を得た東電が首都圏向けに電源開発を行いましたが、これは戦後の話で、戦前からの歴史を引き継ぐ関電の黒部川とは異なります。最近は寧ろ福島第一第二や柏崎刈羽など原発の域外立地が目立ちます。

実はこのビジネスモデルは日本電力がもたらしたもので、北陸の豊富な水力資源を利用して遠距離高圧送電で東名阪の需要地に安い電気を売り込もうという目論見で関西地盤の宇治川電気の子会社として発足した会社ですが、庄川水系の電力を中京圏で販売して東邦電力と競合し、電力兼営の小田原電気鉄道を買収して電力部門を残して7ヶ月後に箱根登山鉄道として分離し、残った信濃川水系の電力を首都圏で販売して東京電灯と競合し、果ては親会社の宇治川電気が大同電力の電力供給を受けていたために関西エリアで親子バトルまでしてしまうという破天荒な存在で、後に過当競争を理由とした電力国家管理の扉を開くことになります。

第一次大戦と第二次大戦の戦間期は日本の工業化が進んだ時代でもあり、工業化と共に電力需要の拡大が見込まれたことで、それまでは需要地の近くに小規模な火力発電所を構えて限られたエリアに配電していた電灯電力事業を、現代に通じる大規模電源と遠距離高圧送電で効率性を追求した系統電力事業に進化させたイノベーション期だった訳です。ところが昭和恐慌で一転需要が縮小し、余剰電力の処理に困った事業者は、熾烈な競争に巻き込まれていきます。その過程で大口需要者として電気鉄道の存在が意識されます。

例えば宇治川電気は兵庫電気軌道と神戸姫路電気鉄道を傘下に収め、両者の直通運転で神戸姫路間の電気鉄道を実現します。後の山陽電気鉄道ですが、その際に車両限界の小さい兵庫電軌に車両サイズを合わせた関係で、神姫電鉄の1型がお役御免となりましたが、滋賀県のローカル私鉄の近江鉄道を傘下に収めて電化してそちらへ回します。関東でも東京市電気局に電力供給していた鬼怒川水力電気が小田原急行鉄道と帝都電鉄を開業させて事業拡大と販路確保をしたりという動きもありましたし、逆に京王電気軌道のように電力事業の方が寧ろ収益性が高かったなんて事例もあります。電気鉄道もイノベーションの一翼を担っていた訳です。

しかし直流き電で電力変換が必要なうえ、負荷変動が激しく安定しない電気鉄道は、地域分割で地域独占企業となった戦後の9大電力時代には寧ろ嫌われます。系統電力は工業用の電力供給が主たる目的ですから、電力の安定が最優先ということで、大口需要者向けの安い料金は適用されず、割高な電力料金を負担してきました。ま、これがサイリスタチョッパ制御やVVVF制御などの省電力技術へのインセンティブとなり、連敗続きの日本の半導体でパワー半導体では世界をリードする存在になっているのかもしれません。大口電力需要者である国鉄が直営の信濃川発電所を持っていたことは東電を助けていたかも。

そして時代は進み、再生可能エネルギーの利用の観点からマイクログリッドが求められる時代になると、系統電力網は下手すればサンクコスト(埋め込み費用)の塊になりかねないのですが、分散電源のタイムリーなマッチングう意味でスマートグリッドを実現することで生き残る可能性はありますが、そのためには原発のような大規模電源が寧ろ邪魔になります。分散電源ならば電源のトラブルは多数の別電源でカバーできますから、寧ろ安定します。その意味で原発をこれ以上引っ張るのは得策とは言えませんね。

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Sunday, August 18, 2019

困難なインフラのトリアージ

2030年の北海道新幹線札幌延伸に伴う並行在来線問題の検討が前倒しされました。

北海道新幹線の並行在来線、「存廃判断」5年前→前倒し  :日本経済新聞
対象区間は沿線人口が少なく、財政力の弱い町村が連なるだけに、調整は相当手間取りそうです。バス化も含めた検討ですから、廃止も有り得る訳ですが、貨物列車をどうするかが悩ましいところです。

JR貨物の問題は東北新幹線延伸のときに並行在来線を三セクで引き受ける時に、ローカル輸送対応ならば複線電化の東北本線の設備は明らかにオーバースペックとなりますから、JR貨物が貨物列車を維持することが困難と発議されました。その際JR貨物が負担する線路使用料がタダ同然の格安だったことから、並行在来線引き受け三セクにとっては負担ばかりになるということで揉めました。結果的にはJR貨物が支払う線路使用料と三セクが受け取るコスト見合いの線路使用料の差額をJR東日本の負担で補填することで決着しました。加えて北斗星やカシオペアの運行に伴う運賃料金収入もあり、それで経営の屋台骨を支えることで決着しました。貨物幹線だけに貨物廃止は無理だった訳です。

JR東日本にとっては整備区間より手前の根元区間の受益があるので、貨物輸送に伴う負担増は受け入れ可能だった訳ですが、同様の問題に直面した九州新幹線の八代―川内間ではこの手は使えず、並行在来線三セクの肥薩オレンジ鉄道にJR貨物が出資することで、貨物列車向けの電化設備等を維持するという方法が採られました。肥薩オレンジ鉄道のローカル列車は軽量ディーゼル車によるワンマン列車です。

北陸のIRいしかわ鉄道とあいの風富山鐡道では、当初検討されたサンダーバードの富山乗り入れは結局JR貨物とのコスト分担問題で実現しませんでした。IGRいわて銀河鉄道と青い森鉄道が客単価の高い寝台特急の収入を当てにしたのとは対照的です。という具合に並行在来線貨物問題は統一的なスキームはなく個別対応に終始しました。言い換えれば行き当たりばったりだった訳です。

北海道新幹線に関しては、経営危機にあるJR北海道に追加負担を求めるのはそもそも無理ですし、これまで以上に沿線人口が少なく、財政力の弱い町村に負担を強いることになります。貨物廃止してバス転換もあり得る訳ですが、青函トンネル開通で天候に左右されない輸送手段として特に農産物輸送で優位性を発揮する貨物の廃止は、北海道経済に大きな打撃を与えるだけに、簡単にはいきません。

青函トンネルの新幹線と貨物の供用区間が速度と列車本数の制約条件になっていることから、国交省の本音は貨物廃止に傾いているようで、実際船舶へのシフトが検討されてますが、輸送量から言えば可能でも、天候の影響は避けられず、鉄道による安定輸送が北海道産農産品の競争力となっている現実から無理筋でしょう。

加えて東北新幹線の並行在来線三セクであるIGRいわて銀河鉄道と青い森鉄道にとっては、寝台特急の廃止で旅客収入を減らした上に、JR貨物の線路使用料収入まで減れば、存続が危うくなります。こうなると北海道の都合だけで決めることもできず、着地点が見えなくなります。あとJR貨物自身も国の支援で基盤強化投資を行った結果、黒字転換して株式上場も視野に入る中で、その基盤を国に潰されることになる訳です。この点も将に行き当たりばったりです。

山線区間を除く長万部以南の区間はJR貨物が出資するということも考えられますが、北海道経済に関わる問題だけに、北海道庁が動かなければまとまらない可能性があります。とするとJR北海道に冷たい道庁の対応から見て期待できそうにありませんね。これインフラの積み増しによる維持費拡大問題として指摘しましたが、こうして過剰インフラを抱えると、その廃止も簡単ではないってことで、寧ろ問題を複雑にして解決を困難にします。

一方九州でも問題が起きています。

JR九州「自社株買い」株主総会で否決、青柳社長「今後も対話」  :日本経済新聞
株式上場したばかりに、株主となった投資ファンドからの圧力を受けている訳ですが、同時に豪雨被害で不通の日田彦山線の復旧を巡って関連自治体との間で困難な話し合いが行われています。日田彦山線自体は現状既に都市間輸送も貨物輸送も担っていない純然たるローカル線で、企業経営的には災害復旧するよりバス転換する方が合理的ではあります。

しかし忘れてはいけないのは、JR九州が株式上場に当たって上場基準クリアのために行った経営安定基金を取り崩して新幹線リース料の一括納付と償却資産の減損処理の結果、減価償却費を圧縮して本業の赤字体質を改善した一方、減価償却費の減少は同時にフリーキャッシュフローの減少を意味しますから、災害復旧の資金捻出を困難にしているという側面もあります。言い方は悪いですが、株式上場したために災害復旧もままならなくなったってことです。日経記事では複数のステークホルダーへの対応の困難さと纏めてますが、覚悟がないなら上場なんかするなって言いたいところです。

というわけで公共インフラの民営化は万能薬でも何でもない訳で、例えば大阪メトロや大阪シティバスの民営化の意義は今もって理解に苦しみますが、とりあえずここでは踏み込みません。しかし過剰インフラの淘汰を資本の論理に委ねて良いのかってところはあまり議論されてません。そんな中で北越急行ほくほく線の生き残り策は示唆に富みます。

元々スーパー特急方式を想定していたJR西日本区間の北陸新幹線は、ほくほく線経由で越後湯沢で上越新幹線に乗り継ぐ形が想定されていて、それを前提に北越急行では線路の高速化と共にJR西日本の681/683系を導入し、段階的にスピードアップして160km/hの営業運転を実現した訳ですが、北陸新幹線のフル規格化で梯子を外された形になりました。

そこで利益の一部を基金として内部留保して将来の減収に備える一方、特急廃止でお役御免となる681/683系をJR西日本に売却しローカル輸送に特化します。減収にはなりますが、特急車両の譲渡収入が得られる一方、通過車両キロの減少で保守負担が減少しますから、そこで収支をバランスさせることで存続を図ります。超快速スノーラビットで都市間輸送を維持しつつ、鈍速列車スノータートルという企画列車を走らせるなどして増収に励む一方、2018年12月1日には運賃値上げして収支改善を図ります。万博輸送対応の車両を大阪市に譲渡した北大阪急行と同じ手ですね。

幸いなことに高速化で高規格な線路故にメンテナンスフリーなのと、積雪対策により運休が少ないということで、ローカルな利用者の信頼を得ていることで、安定した収支を実現しています。てことでJR北海道もJR九州の前例を梃子に電化や線路強化や積雪対策などで将来のメンテナンスコストを圧縮することと、運賃改定を併せて収支改善を図るのが、道庁が当てにならない以上必要ではないかと。利子補給されているとはいえ低金利で運用益が期待できない経営安定基金ですが、現物投資は優先順位を間違わなければ本業でのハイリターンが可能です。

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