ローカル線

Sunday, December 03, 2023

遅れるのは万博だけじゃない

田代の水で取り上げた大井川の水問題が前進しました。

リニア新幹線、静岡県の川勝平太知事が「JR田代ダム案」賛意回答へ - 日本経済新聞
川勝静岡県知事も同意しており、一つ問題がクリアされたとは言えます。但しこれで着工とはいきません。南アルプストンネルの湧水量を調べるボーリング調査の結果如何では、湧水量が想定を超える可能性もあり、そうなると田代ダムを管理する東電の同意が微妙になります。故に静岡県は調査の継続をJR東海に求めて釘を刺しております。基本的な方向性が決まってもすんなり着工とはなりません。

加えて静岡工区以外の工事遅れの問題もあります。工事現場のコロナクラスター感染や仲良きことの調布市の外環道トンネル工事の陥没事故の影響で東京や名古屋の大深度地下トンネル区間の工事も止まりましたし、怪運国債市場の蓋のウンコクサイ万博工事と同じ2024年の働き方改革問題もあります。当然事業費の膨張もある訳で、当初名古屋まで5.1兆円大阪まで9.1兆円として見積もった事業費では足りず、大阪延伸前倒しのための財投資金3兆円にも手を付けてる状況です。大井川の水問題で遅れているというメディア報道とは裏腹に見通しの立たない状況に変わりはありません。

加えて東海道新幹線の乗客数がコロナ前の水準に戻らず、こうなるとリニアが本当に必要なのかすら問われます。私は元々人口減少下で将来の需要増は見込めず無駄になるという立場でしたが、コロナ禍で変化が前倒しされた形です。それでも週末の観光利用が好調で採算面の回復はあります。特に京都観光の外国人によるインバウンド需要は旺盛ですが、ジャパンレールパスによるのぞみ乗車を認めなかったことや予約の取り方などの不案内もあって、外国人は安くて空いてるこだま自由席の利用に流れています。ジャパンレールパスの制限は見直されたものの、この傾向は続いているようです。つまりビジネス利用が減ってスピードは必ずしも問われず、寧ろ車窓の変化が売りになる東海道新幹線の方が観光客にはうけるサービスってことです。明かり区間の少ないリニアでは取り込めない需要です。一方でJR東海以外のJR各社のローカル線問題が深刻度を増しており、今年もJR東日本と西日本で線区別乗車密度と営業係数が発表されました。

東北のJR東日本ローカル線、22年度も利用低迷 - 日本経済新聞
JR西日本の中国地方路線、経営依然厳しく 20〜22年度収支 - 日本経済新聞
何れも自治体との協議を模索しており、国も法改正して後押しっしておりますが、廃止ありきを警戒する自治体との協議は進んでおりません。そして国鉄時代のローカル線問題以上に厄介なのはバス事業の苦境です。
バス路線、都市に迫る崩壊の波 失われる「生活の足」 - 日本経済新聞
コロナ禍による乗客減に加えて燃料高やドライバー不足と四面楚歌状態で都市部でも減便が相次ぐ中で、過疎地の鉄道を廃止してバス転換することが困難な状況になっている訳です。特にバスドライバーは大型二種必須と資格条件が厳しい一方、年収ベースで全産業平均の2割安という賃金水準ですから人口減少は核より怖いでも取り上げたように若手が目指さないから新陳代謝が進まず高齢化で先細り確実という状況です。そうなると京都以外の観光地に観光客が行きたくても行けない状況となって地域の衰退を助長することにもなります。

観光の観点からは仮に開業すればリニアの体験乗車である程度需要は稼げるでしょうけど、それだったら現在の山梨実験線で営業すればプラチナチケットとして高く売れるでしょう。つまり現状でもマネタイズは可能となればリニアを完成させる意義はますます曖昧になります。人口減少の現実を踏まえればリニアは本当に必要か?という問いを発せざるを得ません。

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Sunday, November 26, 2023

人口減少は核より怖い

AIの生産性改善効果に疑問を示した勤労感謝にAIは勝つ?い関連したニュースです。

ハリウッド俳優組合、生成AI利用のルールや報酬で合意 - 日本経済新聞
ミッションインポシブルの公開が遅れたことで話題となったハリウッド俳優組合のストが生成AIの活用ルールや報酬に関して合意したというニュースです。AI開発が進むアメリカでは既に労働市場への影響を睨んだ動きが出てきて既に成果が出ている訳ですが、それに引き換え日本ではこうした動きはありません。

主演のトム・クルーズが自らスタント演技までして体を張った映画も、生成AIを使ってサンプル演技から生成してできるなら、配給会社としては劇的なコストダウンになりますし、トム・クルーズのような余人に代えがたい大スターを起用しなくても済むとなれば映画製作費は著しく下げられますが、そんな映画を劇場代を負担してまで見せられる観客もいい面の皮ってことになります。それに一定の歯止めを課した訳です。

一方の日本ではDXにしろAIにしろ人手不足対策として活用が叫ばれますが、元々のハイスキル人材には改善効果が出にくい一方、ロースキル人材ほど改善効果が出る訳ですから、若い人がコストのかかるハイスキル習得のインセンティブを失わせます。つまりまかり間違えば中長期で人材の質的劣化が進むということです。例えば不足が言われるバスドライバーになるために普通免許からステップアップして大型二種を取得する若者が減って補充されなくなれば、現役ドライバーの高齢化が進み引退や離職もあってドライバー不足によるバスの減便が反転する展望がない訳です。

自動運転技術の進捗によってドライバー不足を解消できるかと言えば、開発スピードや制度見直しの難しさもあっておそらく間に合いません。まして大型バスの自動化の難易度の高さは言うまでもありません。唯一可能な対策があるとすればスキル取得のコストに見合った報酬を約束することで経済インセンティブとすることぐらいです。

それに留まらず雇用のミスマッチ解消のためのリスキリングにも影響するでしょうし、そもそもAI開発ができるハイスキル人材が育ちません。オープンAIの騒動が示すハイスキル人材同士の摩擦も日本では起きない訳です。少子化の最大の原因は教育コストの上昇にある訳で、先進国ではほぼ共通しています。教育資金が高騰して子供を持つことが贅沢になっている訳です。それでいて大学まで終了して社会人になっても生産性の低い日本企業で安月給で我慢するしかないとなれば尚更です。かくして人口ゼロの未来へ向かって進むことになります。これある意味核戦争より怖い話です。安全保障面でも戦う兵士がいないという現実がある訳です。そんな日本でこんなニュースです。

北朝鮮衛星、ロシアが技術支援か 通告期間前に発射 - 日本経済新聞
偵察衛星打ち上げを事前通告していましたが、通告期間前の発射で北朝鮮は衛星軌道に乗せたと発表しておりますが、現時点でその真偽は不明です。但し成否にかかわらず米韓を揺さぶる心理戦の材料にはなる訳で、北朝鮮にとってはとりあえずそれで十分でしょう。抑止力は手札を立てて相手に疑心暗鬼を生むポーカーゲームですし。

そして沖縄にJアラートが発出されました。成長しないこどもの日本で触れましたが、元々災害が予想されるときに該当地域住民の避難を促す警報として総務省消防庁所轄のシステムにミサイル警報を乗っけたもので、防衛省から官邸を経て発出の指示が出されますから、タイムラグが発生すると同時に、発出の基準も恣意的になりやすいこともあります。今回も衛星打ち上げと予告されていたのにミサイルとして警報が出された訳ですが、沖縄では逃げ込める地下道などがない訳でただ住民を不安にさせただけです。それが狙いなのかもしれませんが政治的意図を感じます。

そんな中で内需が枯れていくことは避けられず、将来の増収を見込みにくい鉄道各社ですが、実際コロナ明けの増収局面でも利用はコロナ前に戻りません。特にリモートワークの進捗で出張などのビジネス利用が戻らない新幹線で顕著です。故にJR東日本では最初から戻らないことを前提に輸送事業比率を下げて不動産とSuicaを軸とするシステム関連事業拡充を打ち出しております。元々人口減少を視野に入れていたので、計画を前倒しした形ですが、減収に関わらず借入金で投資を前倒しする一方、オフピーク定期券の導入で需要分散を図ってピーク輸送力増強投資を抑制するといった形でメリハリをつけています。また新幹線による荷物輸送サービスを試行して収益化を模索するなどしておりますが、短期的には厳しい現実があります。

東北のJR東日本ローカル線、22年度も利用低迷 - 日本経済新聞
震災復興も道半ば、原発事故の影響で操業がままならなかった漁業の再開のタイミングでの福島第一原発処理水海洋放出に伴う中国の輸入禁止で打撃を受けたことに留まらず、コロナ明けのインバウンド復活でも外国人客は富士山や京都を目指し東北には向かわないから恩恵は限られ、東北のローカル線事情は厳しさを増しています。陸羽東線や花輪線では一部廃止でミッシングリング化する危機もあります。

地方の過疎化は高齢化と共に進んでますが、逆に言えば高齢化予備軍の世代が少ないからいずれ高齢化は止まります。そうすると逆に地方の社会インフラや古民家が資源として若い世代が活用できる余地が出てきます。その萌芽は四国徳島県の神山村で見られますが、何もない地方にブロードバンド回線を整備して移住者を受け入れた結果、日本版シリコンバレーと言えるような尖った人材が集まってきています。

こうした大都市と地方の逆転現象は、大都市での子育てのコストが嵩むこともあっていずれ他の地方でも起きる可能性があります。人口の多寡にかかわらずハイスキル人材が集まれば高齢化で停滞する大都市をしり目に、高齢者がいなくなった地方の方が地域が成長する余地もあります。ただそれまでに鉄道などのインフラが維持できるかどうかは微妙ですが、鉄道に限らず道路や橋などの社会インフラをどう維持するかは重要ってことです。戦略的に考えるならミサイル買うよりこっちに金回せよ。

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Saturday, November 11, 2023

ユニコーンの馬脚

ちょっとだけ中東のニュース。

米軍、シリアのイラン関連施設を空爆 「自衛目的」 - 日本経済新聞
中東に多数ある米軍施設にイラン系の墓相組織が攻撃を仕掛けたから報復したという公式発表。イスラエルとハマスの紛争中にややこしいことをしますが、あくまでも米国の問題ということです。欧米の対テロ戦争回帰で指摘したようにイスラエルはアメリカの劣化コピー版ですね。自衛権を反撃権に読み替えているとしか思えません。そんな国からミサイル買うぞと意気込む日本ですが、反撃能力のリアルはこれだぞ!
米WeWork破綻 金利上昇の重圧、不振企業の倒産増 - 日本経済新聞
資本主義と民主主義の微妙な関係で取り上げたWeWorkが遂に破綻しました。伝説の一角獣ともてはやされた会社が実はロバだった^_^;。ニューヨークなど大都市のオフィスをシリコンバレーのハイテク企業に倣ってカフェ風のお洒落なレンタルオフィスに改装してビジネスパーソンの交流を促し、イノベーションをもたらすという狙いだったようですが、賃料の高い大都市でド田舎だから可能なシリコンバレーのゆとりあるビジネス環境というのはどう見ても無理があります。所詮低金利カネ余り時代の仇花だったってことですね。

そしてこんな企業をユニコーンと持て囃してソフトバンクが出資して損している訳ですが、追加出資したものの、コロナ禍でリモートワークが拡大して利用者が減り、回復しないまま賃料は上がる一方で、FRBの利上げで借入金の金利上昇で事業継続が困難になり破綻処理となりました。ソフトバンクグループは英半導体企業のアームの上場で潤っており、やっと赤字脱却が見えてきたとはいえ、孫正義氏の目利き力はこんなもんなのかも。

そしてやはりユニコーンと持て囃されたウーバーも日本では食事宅配のウーバーイーツがメインという状況で、コロナ禍による外食規制で寧ろ追い風だったようですが、本業のライドシェアは日本の道路運送事業法に阻まれて事業展開が滞っております。それがここへ来て日本でも地方のタクシードライバー不足問題から規制改革会議で議論されており、政府も前のめりなのは減税くそメガネで記しました。

ポンド飛び出し円の切れ目で取り上げた京丹後市久美浜町のウーバーの事業に関しては地方のタクシードライバー不足を言うならいの一番に参照すべき事例ですが実績が公表されていない一方、国家戦略特区として特認を得た兵庫県養父市の「やぶくる」で河野行革相がこんなこと言ってます。

地域交通「喫緊の課題」 河野デジタル相、兵庫の特区視察 - 日本経済新聞
流石に国家戦略特区の指定事業なので非公表という訳にはいかなかったようで、視察時の記者会見で年間400人の利用があったことが明かされました。1日平均1人強という微妙な数字です。300余の基礎自治体の一定割合が視察したとすると、この程度の数字は行政関係者の視察でかなりの部分を占めると考えられますから、一般利用者の実数はかなり悲惨なものと言えます。過疎化で需要自体が蒸発したとしか言えません。

元々過疎化でバスの撤退が問題化していて、多くの自治体でデマンド交通の取り組みが行われております。ザックリ言えばバスとタクシーに中間的なモードで、会員登録した住民が電話や専用端末やスマホアプリで目的地と希望到着時刻を告げて呼び出し、小型バスやワゴン車が予約状況に最適のルートで利用者を拾い目的地へ届けるというもので、会員制乗合タクシーのような存在です。その中の幾つかは道路運送事業法の自家用車有償運行特例によっております。

ライドシェアは配車ベンダーがシステムを提供するのでシステム負担は減りますが、当然ながら利用が少なければ売り上げが少なく、手数料も稼げません。加えて本当の狙いであるデータ収集も非効率なので、本音は都市部への参入ですが、当然ながら都市部ではタクシーと競合する訳で、反対もありますし、参入規制の緩和で台数規制が緩められてタクシードライバーの収入が減っていた訳で、コロナ禍の利用低迷で離職したドライバーも多数います。その結果都市部でもドライバー不足は進行している訳ですが、逆に現役ドライバーにとっては残存者利益を享受できる状況になっている訳ですから簡単に認める訳にもいきません。そんな中で都市部でも動きが出てきています。

横浜の三和交通、タクシー運転手に副業人材 実証実験 - 日本経済新聞
横浜でタクシー会社と配車アプリベンダーのコラボで二種免許保持者を対象とした副業人材活用の実証実験ですが、ドライバー不足をライドシェア導入の口実にされることを睨んだ動きとも取れます。同時にライドシェアの問題点がタクシーとの競合といった狭い領域の問題ではないことも示唆します。

都市部でライドシェアが解禁されれば、当然ながら本業を持った人のスキマ時間活用に使われます。例えばパパの車使い放題の専業主婦やドラ息子、売れないタレント、大学教員の非正規化で生活苦の若き学者の卵たち、正規雇用でも賃金の少ない人たち、おそらくその中には社用車で営業する剛の者も現れるでしょう。そしてスキマ時間で無理な営業をすれば事故のリスクが高まりますが、ただでさえ事故時の責任の所在があいまいな上にドライバーが車のオーナーではない事例では当て脱げ逃亡の可能性もある訳です。それでも解禁すべきとするならウーバーのような配車ベンダーの利益にしか貢献しません。つまり新たな利権漁りでしかない訳です。加計学園の獣医学部新設に見られるように規制改革会議が利権を誘導したことを忘れてはいけません。

ギグ老いるショックで指摘したようにアメリカでは2016年の大統領選でヒラリー・クリントン候補がギグエコノミー問題として取り上げましたが、アメリカでは事実上ほぼ規制なしです。一方欧州ではロンドン市で問題が多すぎるとして営業許可を取り消してますし、同様に規制緩和に慎重な都市が多数あります。アジアでもほぼ規制なしですが、やはり問題は多数報告されてます。ライドシェアを世界標準のように言うのは間違いです。

公共交通で寧ろ今問題になっているのは通信のようなユニバーサルサービスが欠如していることで、例えば北海道新幹線の並行在来線問題のようにバス転換も困難ですし、上述のデマンド交通も極限的な効率を追求しながら採算性は悲惨で自治体の持ち出しで維持されてます。国や自治体がどのように関与すべきかといった枠組みを考えて実現することが必要です。

NTT問題ともオーバーラップしますが、通信のユニバーサルサービスは持ち株会社のNTTとNTT東西が負っていますが、政府保有株放出となればNTT東西を公的保有とするなどして担保する必要があります。そうでなければデータ通信や無線通信もNTT東西が持つ光回線に各通信事業者が依存している現状の通信事情でNTTグループに便宜が図られれば公正な競争環境が損なわれます。まあこれは防衛費倍増の為の株式放出なんですから、ミサイル買うのやめれば済む話でもありますが。通信も交通も加えて防衛も、大元の議論がそもそも欠如しております。

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Saturday, October 14, 2023

欧米の対テロ戦争回帰

ハマスの攻撃に対するイスラエルの軍事作戦が実行されようとする中で、民主主義対権威主義では見えない本音が露呈しました。

ハマスのイスラエル攻撃「断固非難」 G7が共同声明:日本経済新聞
気分は9.11後の対テロ戦争に回帰したかのような状況です。ハマスのテロ行為を肯定はできませんが、200万人以上が住むガザ地区は高いフェンスで覆われ、物資の出入りもイスラエル政府に管理されて最低限のものしか供給されず貧困の極みにある状況は放置されてきた訳で、重大な人権侵害が日常化していたことは指摘しておきます。

特にバイデン大統領の親イスラエルの姿勢には違和感を禁じ得ません。9.11後のアメリカの対テロ戦争でテロの主犯とされたアルカイダのリーダーのウサマ・ビンラディンを匿ったという理由でタリバン政権下のアフガニスタンにNATO軍で開戦して20年後の撤退戦という苦い経験を忘れたかのような対応です。アフガン地震でタリバン政権は国際社会に支援を求めておりますが、女性の権利侵害などを理由に経済制裁が科されていて、現時点で応じた国はありません。人権外交どこへやらです。

尤も今回はイスラエルが当事者ですから、アメリカはあくまでも支援する立場ですが、ウクライナとの二正面作戦を余儀なくされて対中国を睨んだ米軍のアジアシフトはますます遅れます。特にアメリカの仲介でイスラエルとの国交樹立を模索していたサウジアラビアの態度が微妙になり、バイデン大統領としては外交で大きな失点となりました。ウォール街のユダヤ人脈への忖度もあるでしょう。

色々な見方が錯綜してますが、ある意味イスラエルはアメリカと似た背景の国ではあります。ローマ時代から迫害され続けた欧州ユダヤ人によって建国されたイスラエルは、ある意味イギリスで宗教上の理由から迫害された清教徒の新大陸植民から独立に至ったアメリカとは相似相と言える建国の経緯があります。共にネイティブな住民を排除して建国された点も似ています。そしてイスラエル国内にも多数のアラブ系住民がいて主に低賃金のエッセンシャルワークを支えている点もネイティブアメリカンやアフリカ系などの有色人種の労働力に依存するアメリカと似ています。そして軍事大国でもあります。

ガザ地区を囲む高いフェンスもアメリカの保守派がメキシコ国境に作れといっている柵を先取りしたようなものとも見えます。実際イスラエルはネタニヤフ政権下でイスラエルの世論も保守化していますが、一方でネタニヤフ政権下での汚職事件や進められていた司法制度改悪に反対する運動も盛んです。イスラエルも一枚岩という訳ではありません。同時にネタニヤフ首相にとっては戦時のリーダーとして統治の強化を図れるチャンスでもある訳で、その為に失われるパレスチナ人の命は考慮されていません。これをジェノサイドと呼ばずに何と呼ぶべきか-_-;。

パレスチナ問題は深刻ですが、一方で日本国内でも深刻な事態が進んでいます。

ローカル線、運転士不足で減便相次ぐ 福井鉄道は2割減:日本経済新聞
アメリカやイスラエルがエッセンシャルワーカーを他民族に頼っている一方、公称単一民族国家の日本では、人口減少下エッセンシャルワーカーの確保が難しくなっていることはエッセンシャルワーカーが足りないで取り上げたバスやトラックのドライバー不足と同じ問題がローカル私鉄でも顕在化しているのですが、数の上では多い大型二種免許保持者と比べても鉄軌道事業の動力車運転免許保持者は圧倒的に少なく、実務経験などの資格要件も厳格な上国家試験が年2回で育成のボトルネックにもなっています。加えて大手事業者のような好待遇を出せないローカル私鉄の厳しさは尚のこと。

取り上げられた福井鉄道の場合は鉄道と軌道に跨る路線構成で、前者向けの第一種免許を保持するJR退職者も後者向けの第二種免許を取得するまで乗務できず、徹軌道分界点に駅がないことから乗務員交代の対応も取れないという特殊事情もあります。どうする縦割りで取り上げた鉄道事業法と軌道法の縦割りの弊害が作用している訳です。

政府はトラックやバスのドライバーを外国人解禁(特定技能職種に追加)で対応しようとしてますが、円安で稼げない日本にわざわざ来て大型二種免許取得というコストを負担してまで来てくれると考えるのは甘いでしょう。エッセンシャルワーカーの枯渇は先進国共通の課題ですが、日本の急速な人口減少はそれだけ危機的ですが、政府は有効な対策を打てておりません。国民の窮乏化が作用している現状で取ってつけた少子化対策は無意味だし財源ねん出過程で国民負担の増加や行政サービスの低下を伴うことも確実です。当然有事に戦う兵士もいないということでもあります。外国人兵士も解禁するのか?当然ながらそんな日本は世界平和を希求し平和の配当を受け取る以外に道はないんですけどね。

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Sunday, October 01, 2023

インフレは続くよどこまでも

有り難くないタイトルですが、中国バブル崩壊の次はアメリカの話題です。米国債金利の上昇で円安が進む昨今、米連邦政府閉鎖の危機が今度ばかりは避けられない情勢でしたが、ギリギリのタイミングで回避されることになりました。

米下院、超党派のつなぎ予算案可決 政府閉鎖回避へ前進:日本経済新聞
10/1から始まる新年度の予算執行のためのつなぎ予算が下院で否決されたことに端を発する騒動ですが、下院多数派の共和党の強硬姿勢で民主党案が否決された後、マッカーシー下院議長の修正案が提案されたものの、民主党のみならず共和党からも反対が出て否決となり、絶望的な状況ということで、バイデン台帳量も政府閉鎖準備を指示せざるを得ない状況となりました。結果的にはマッカーシー議長案の修正で下院を通過したものです。

ここまで揉めたのは米国内の分断の深刻さを示すものです。元々新年度予算は民主、共和両党で合意済みですが、下院多数派の共和党が執行段階でブレーキをかけた格好です。共和党が嫌うリベラル的政策の予算を削り、不法移民対策としてのメキシコ国境のフェンス建設に予算を回せというのがザックリした主張ですが、既に合意済みの予算を削れというのは無理筋です。但し今回のつなぎ予算も45日間ですから、同じような騒動は繰り返されると見ておくべきでしょう。

これにはいろいろな背景があるんですが、共和党地盤の南部諸州にとって不法移民問題が重荷になっていることは確かな一方、東部エスタブリッシュメントや西海岸のハイテク地帯に強い民主党の移民に甘い姿勢は許せないという感情が前に出る訳です。その一方でヒスパニック系移民の増加で人口が増えており、移民の出生率の高さから人口の低年齢化も進んでいて、それが南部の生産年齢人口の厚みとなって工業化が進んだ面もあります。加えて共和党ステートの労働規制のユルユルさもあり、組合運動を認めないテスラの工場などが立地しております。それが別の問題を引き起こしていることも見ておきます。

米自動車スト拡大 新たに7000人、GMとフォード工場で:日本経済新聞
全米自動車労連(UAW)のストでGM、フォード、ストランティス(クライスラー)のビッグ3の工場がスト突入で生産が滞っております。UAWの主張はエンジン車からEVへのシフトは避けられず、自動車関連の労働者の数が減ることを睨んで、EV用バッテリーなどの製造工場の労働者もUAWに加盟させて保護を受けられるようにすべきだという主張です。産業構造の転換を理由に労働者が不利益を被ることは避けるべきということです。

ややこしいのはバイデン大統領が集会に参加して連帯を表明したことで、組合側が勢いづいていることで、結果的に火に油を注いだ形になってしまったことです。2016年大統領選で組合票がトランプ氏に流れたこともあり、組合票の囲い込みに動いた形です。不法移民が雇用を圧迫して産業が停滞したというトランプ流ナラティブの否定と共に、暗に南部諸州の労働規制の緩さを批判している訳です。同時に政権のEV政策も関わります。

トランプ時代のバイアメリカン法に触らずにインフレ抑制法(IRA法)を成立させた結果、米国内で販売されるEVは基本北米地域で生産されることを条件とされてしまいます。その結果EVシフトを進める欧州メーカーからWTO違反ではないかと言われごたついています。狙いとしてはバッテリー製造で世界をリードする中国への牽制なんですが、欧州やアジアのメーカーも引っかかる訳で、故に韓国現代なども米国内にEV製造拠点を設置を表明し、SKハイニックスなどバッテリーメーカーも追随しております。

当然欧州メーカーにも同様の動きがある訳ですが、製造拠点が置かれるのは労働規制の緩い南部諸州だったりメキシコだったりすると、結果的にビッグ3中心のUAWにとっては放置できない問題でもあり、出来れば連邦法で規制して欲しいというのが本音です。IRA法の狙いは気候変動対策と共に経済安全保障という面もあり、気候変動を重視するなら地産地消で可能な限り国内で生産して販売するのが正しいし、化石燃料依存の低減は経済安全保障の側面も持ちますが、同時に中国リスクも意識されており、中国産バッテリーの排除の狙いもあります。WTO提訴は現状上級委員の指名をアメリカが拒否していて機能していないですが、トランプ時代のそれを引き継いでいるのは、やはり提訴されたくないのでしょう。

という訳で政府閉鎖とストというリスクを抱えたアメリカで国債金利が上昇するのは当然となる訳です。分断による政治リスクが解消される見通しは立たず、また労組の強化は賃金を押し上げることにもなりますから、今後もインフレは収まらずFRBの追加利上げも現実味を増す訳です。となると低金利政策から抜け出せずにいる日本円の減価は避けられず、円安は進みますから、輸入物価上昇に伴う消費者物価上昇は今後も続くってことです。日銀の政策見直しが無ければ更にこの傾向は続きます。

経済安保は日本も取り組んでいる訳ですが、2020年の外為法改正の結果、妙なことが起きています。NHKスペシャルで取り上げられた大川原化工機の起訴取消事件の顛末のお粗末さが示す寒い現実です。

起訴取り消し事件「捏造」 訴訟出廷の警部補が発言:日本経済新聞
捜査官が捏造を認めたことも驚きですが、大川原化工機が輸出したのは液体噴霧乾燥機で、液体を噴霧して乾燥させることで粉末化する機械で、インスタントコーヒーや粉ミルクの製造装置になる訳ですが、警視庁公安部は生物兵器転用可能として無許可輸出を違法として刑事訴追した訳ですが、根拠となる証拠を捏造して会社幹部3名を長期間収監して1人はガンが進行して死亡するというとんでもない事件です。

警視庁公安部が動いた理由は推測ですが、法改正で実刑が定義されたことを受けて、捜査の指針となる判例を確定させたかったのでしょう。その為には抵抗力のある大企業よりも中小企業を追い込んで立件すれば手っ取り早いってことですね。狙い撃ちされた大川原化工機にとってはただただ迷惑な話ですが、特に経済安全保障絡みの政治性の強い法律故に、判例を確立させて捜査に睨みを利かせる所謂一罰百戒を狙ったと考えられます。それが今回のような人質司法の冤罪事件を生む訳です。現れ方の違いはありますが、政治が絡むとろくなことにならないのは日本も同様です。

JR北海道の札幌圏赤字急減、「黄線区」は拡大 4〜6月:日本経済新聞
コロナ禍前の水準に戻ってきたというニュースですが、記事中延慶損益を見ると、北海道新幹線並行在来線区間の函館―長万部間の赤字額が長万部―小樽間の赤字額の3倍以上あり、営業キロの違いがありますが、貨物列車運行の重荷を感じさせます。ま、それ言えば絶対額では北海道新幹線が絶対額では断トツで、青函トンネル区間という特殊区間ではありますが、札幌延伸後の収支改善も厳しさを匂わせます。

札幌都市圏以外は収支均衡は絶望的と言えます。その中で並行在来線協議を進める訳ですから厳しい現実ですが、加えて余市―小樽間で並行路線を持つ北海道中央バスがドライバー不足からバス転換を渋っていますし、それどころか事前に何の相談もなくバス転換を打ち出した北海道に対する不信感もあるようです。

鈴木知事が夕張市長だった時代に夕張支線の廃止に道筋をつけたことが成功体験となっているのでしょうけど、地元事業者の夕張鉄道が引受に動いたことでまとまったものの、ドライバー不足からバス便の維持は困難を極めており、鉄道時代を受け継ぐ伝統の長距離路線の新札幌夕張線の運行停止など満身創痍です。バス転換が選択肢にならない時代に直面しているってことです。

アメリカでペンセントラル鉄道が破綻したときの連邦政府の素早い対応と比べると、本当に危機感がないですね。ペンセントラル鉄道の場合は、結局連邦政府が線路保有機構としてコンレールを立ち上げて上下分離で運行継続を図りました。東方回廊とシカゴをエリアに持つペンセントラル鉄道が運行停止されると大量の貨物の滞留が起きるということでの緊急避難だったんですが、結果的に経営の苦しい他の民間鉄道も合流して鉄道ネットワーク維持に寄与しました。

コンレールはその後民間入札でサザンパシフィック鉄道に売却されて所謂北米5大ネットワークの一角を占めますが、それぐらい鉄道貨物の重要性が高いってことでっすね。結果的に旅客部門は都市圏毎の交通営団が引き受け、長距離列車はアムトラックが引き受ける形で現状となります。線路保有が貨物会社で旅客会社が線路を借りるという日本と逆の形になりました。この形態が基本ですから、なるほど日本の新幹線のような高速鉄道の整備のハードルは高い訳で、鉄道好きと言われるバイデン大統領がIインフラ整備法で約束したものの、財政支出を巡る共和党との綱引きで進んでおりません。政治はリスクの時代と自覚するしかないのかな。

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Sunday, September 10, 2023

どうする縦割り

ジャニーズ問題ですがBSJストラクチャーで取り上げたビックモーター問題と似ています。非公開のオーナー企業でオーナー社長が役職を退いてイエスマンの雇われ社長を立てたところはそのまんまですね。ソーセージ問題の応酬などの話題性は流石芸能事務所、エンタメを忘れていない^_^:。同時に性加害問題の根の深さも露になりました。

芸能界は人々に娯楽を与えるという意味で公娼制度の延長線上にあり、その意味で性的虐待や性的搾取が起こりやすいのは洋の東西を問いません。某NHK元会長が「慰安婦も当時合法だった公娼だ」と言い、欧州で現存する公娼制度を引き合いに出したことがありました。但し彼が見落としていたのは、現存する欧州の公娼制度は感染症防止のための健康診断の義務付けや、反社会勢力が入り込みやすい斡旋人などの性的搾取の防止に力点が置かれていて娼婦の人権擁護法としてアップデートされていることをご存じなかったようです。つまり慰安婦もジャニーズも人権問題という認識が希薄なメディアの報じ方や政府の対応なども問題です。

早速JALなど一部企業でジャニーズタレント起用の見直しの動きが出ています。海外事業にコミットする企業にとっては途上国の劣悪な労働環境や児童労働などで投資家から圧力を受けており、人権問題は経営課題と認識されている訳ですが、問題はドメスティックなメディア企業です。元々噂はあったし、90年代の所属タレントの実名告発を一部メディアは報じたものの特に放送メディアは沈黙しました。

報道部門は後追い取材はしたのでしょうけど採用されず没となれば記者もモチベーションを失います。大手芸能事務所の機嫌を損ねれば番組やイベントのタレントのブッキングや情報提供で割を食うということですね。放送事業者が利害を持つ利益相反がある訳で、ビッグモーター問題で明らかになった自動車販売店が自賠責保険の斡旋で損保会社に優位な立場だったこととも似ています。報道機関としてよりも視聴率競争で優位に立ちたい企業論理が前に出ました。そして日本的な横並び主義も災いしました。また報道機関としての編集権の独立も日本には存在しないことも。そういやNHK大河ドラマの主役誰だっけ?どうするNHK。

台風直撃のお盆が示した課題で懲りたJR東海は台風13号の進路次第では東海道新幹線の運休ありと示唆しました。幸い進路は東へ逸れて事なきを得ましたが多客期のダイヤ混乱は懲りたようで国交省への報告書でも取り上げました。

JR東海、国交省に検証結果報告 台風ダイヤ混乱で:日本経済新聞
16日の豪雨で山陽新幹線との直通運転を止めた結果、新大阪駅に多数の編成が滞留し、車両基地に収容できなかった結果、17日始発の出発準備が遅れて混乱となったもので、再発防止策として運行や混乱の状況全体を把握する担当者を置いたり車両基地の在線状況に応じて京都駅や米原駅に退避させるなどを示しています。

よく考えると国鉄時代は一体だった東海道山陽新幹線が分割民営化で新大阪で分割された結果、新大阪で滞留した編成を山陽側に送り込むことが出来ずに起きた混乱とも言えます。分割民営化の検討段階では新幹線の一体性を重視した本州2社+三島会社+貨物の6社体制案もありましたが、西日本会社の規模が過大になり地域分割の意義が薄れるということで現行案に落ち着いた経緯があります。

歴史にifは禁物ですが、同案が実現していればかなり異なった展開となり、東海道新幹線の一本足打法というJR東海の特異性もなく、今回のような混乱もおきなかったでしょうし、実現が見通せない北陸新幹線の関西延伸もすんなり米原ルートで実現に動いていたでしょうし、敢えてリニアを作ることもなかったでしょう。また東北新幹線東京延伸時にJR東日本が要請した東海道新幹線との直通運転も実現していた可能性もあります。地域分割がもたらした縦割りの弊害が如実です。

宇都宮LRT、市街地へ20分の利便性を生かせぬジレンマ 30年越しの悲願 宇都宮LRT④:日本経済新聞
鬼怒川両岸の広大な土地は農地を中心とした市街化調整区域で都市計画変更しないと開発できないジレンマがあります。元々駅東側から芳賀町に至る道路の渋滞対策として計画されたLRTで都市計画とは別建てだったこともあり、また地権者の同意も必要ということで、現時点で具体的な開発計画はありません。また水害が頻発する昨今、開発してよいものかどうかの判断も難しいところです。30年に亘る計画故にコンパクトシティのコンセプトより前だったこともあります。故に開発はベルモールのある宇都宮大学陽東キャンパスまでの区間に集中しており、マンションラッシュとなっております、ある意味結果オーライのコンパクトシティと言えなくもないですが、他にゆいの杜中央最寄りの新興住宅地が新幹線とLRTの組み合わせで移住者に人気ということです。

あと処理水海洋放出で見えた「新しい戦前」で取り上げた軌道法縛り問題ですが、宇都宮ライトレールでは上上下分離を実現するために全区間宇都宮市道、芳賀町道として整備されており、見かけ上新設軌道の鬼怒川橋梁前後区間や車両基地も道路予算で整備された併用軌道という法的位置づけで、開業後の事業収支を支えています。これ国交省予算の柔軟化で可能になったもので、例えばバスタ新宿がR20甲州街道の環境整備事業として道路予算が使われたり、肥薩線復旧事業への道路予算や河川予算支出が提案されていることともつながり、部分的に縦割りが解消されてはいますが、別問題もあります。

つまり鬼怒川橋梁前後を含む全区間が法令上併用軌道区間となり40km/h規制を受けることになります。一方いいとこ取りで道慮予算を多用した結果B/C比を悪化させた訳ですし、公金の支出として説明責任を果たす必要も大きいのですが、反対派を説得できていない以上果たしたと言えないところは残念です。鉄ちゃんの間では昭和レトロの反対派というレッテル貼りが横行しておりますが、行政側の対応に課題があることは指摘しておきます。

おそらく特認を受けて併用軌道区間50km/h、鬼怒川橋梁前後区間70km/hのスピードアップ実現時を前提にB/C比を計算したのでしょうけど、用地買収や土地改良で事業費の上振れがあったとはいえ、かなりメンドクサイ手続きを経てやっと実現した宇都宮ライトレールがLRT新設の先行事例となることは現状では期待薄でしょう。根拠法規の軌道法をアップデートして鉄道事業法の参入規制を緩和した軽快鉄道事業法のような形にすることで、もろもろのメンドクサイ手続きを簡素化することは考えられます。そうすることでLRT新設に留まらずローカル線の地元引受などにも活用できる汎用性が得られます。例えばローカル線の末端区間で40km/h規制を受け入れる代わりに無閉そく目視運転容認とか第四種踏切容認とか道路予算による上下分離に応用できます。

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Sunday, September 03, 2023

戦争を知らない大人たち

「新しい戦前」の続きですが、国際海洋法で汚染物質の海洋放出は禁止事項です。ALPS処理水の放出でも問われることとなって現れるるところで、当然ながら外交問題になります。故に過剰反応とはいえ中国の海産物禁輸措置には根拠があります。ALPS処理水問題を国内問題から外交問題にしてしまった、しかも政府の意思決定を経てということですから外交の失敗なんです。

これ例えば民主主義対権威主義では見えない本音で取り上げた盧溝橋事件を巡る近衛文麿首相の判断ミスと似ています。第二次国共合作で反転攻勢を決めていた中国(南京政府)に対して陸軍増派という判断ミスを犯して日本を戦争へいざなった構図が思い出されます。台湾問題で火種を抱える中国に外交的な口実を与えることに無頓着すぎます。

同エントリーで取り上げたように近衛首相は国家総動員法を成立させて戦時体制構築に一歩を標したこともあり、それが戦後処理を通じて再編され固定化された産業秩序が戦後の高度経済成長で機能したことと、その成功体験故に強固な既得権となって今の日本の長期停滞をもたらしていることも指摘しました。つまり社会構造として戦前と戦後は連続性がある訳で、逆にその体制が行き詰まることで日本社会に与えられるストレスは容易に排外主義に転じやすい性格を有します。

そして問題なのは戦争を知っている大人たちが鬼籍に入り少なくなっていることです。アジアの周辺国が日本に倣って経済重視に舵を切り追いついてきた結果、追いつかれてきている訳で、それが嫌韓や反中となって現れております。以前から指摘しておりますが、韓国も中国も日本の後追いなんだから、いずれ日本と同じ長期停滞のワナに嵌ると申し上げてきましたが、実際にそうなりつつあります。

例えば中国の不動産バブル問題は典型的ですが、融資平台と呼ばれるノンバンクの不良債権問題は住専問題など日本の不動産バブル崩壊と同じような展開を見せております。但し制度や社会体制の違い、人口規模の違いなどで異なった展開になると考えておりますが、長くなりますので別の機会に有りますが、この状況を「それ見たことか」とばかりに喜んでいる人たちには、中国の経済停滞が日本や世界に与えるマイナスインパクトを考えていません。

逆に中国の経済停滞を台湾進攻が近づいたと騒いでますが、歴代王朝時代から経済に問題を抱えた状態で軍事オプションを用いることはありません。上海のゼロコロナ抵抗運動のように、巨大な人口を抱えるがゆえに民の圧が政権を揺さぶる構造は今も変わりません。そして中国政府は巨大な国内市場を戦略的に利用することを覚えた訳で、日本産海産物禁輸は典型的です。当然ながら他国漁船の日本近海の水揚げ分は対象外ですから迂回路はある訳です。

戦争を知らない大人たちは日本だけの問題ではなく、例えばアメリカではベトナム戦争のトラウマがある訳で、バイデン大統領がウクライナ支援に慎重姿勢鵜を見せる理由でもあります。ベトナム戦争当時の若者世代だった訳で、戦争と同時進行で若者たちが反戦歌を歌い抵抗した歴史があります。故にアメリカはまだ戦争を知ってる大人たちが顕在なんですが、例えば子ブッシュ大統領のように親の七光で兵役を回避したりした同性代も存在します。トランプも多分同類です。

そのバイデン大統領が日本には軍備増強を求めるのは、ベトナムへの自衛隊派兵を日本政府が断ったことがアメリカの外交課題となっていた訳で、満額回答した岸田首相はやはり令和の近衛文麿と呼ぶべき暗愚なリーダーです。戦争を知っているバイデン大統領故に、中国の軍事オプション発動をアメリカ単独で抑えることは不可能と知っており、故に日本や韓国との連携強化に動いた訳ですが、日本と韓国の国内世論はちと面倒です。

特に韓国ですが、保守派の尹錫悦大統領の支持率が低く、国内世論でも反共保守的な政治姿勢に反対の声があり、次期政権が革新派になれば約束が反故にされるリスクもあります。そんな不安定な同盟関係を梃子に本気で中国に対峙しようってのは無理です。また台湾とは外交関係がなく主権国家と見做されません。一つの中国の原則からすれば台湾有事は内戦に当たりますから、集団的自衛権行使の対象にならないという法的な壁もあります。それでいて「今はバターより大砲だ」と言わんばかりの軍備増強の意思決定は本当に戦争を知らないんだなと-_-;。

それでいて面倒な問題は先送りして意思を曖昧にしている訳で、ALPS処理水問題も典型ですが、安全性を考えれば自然乾燥による水蒸気放出が望ましいところです。水蒸気の水分子に含まれるトリチウムは少量であれば有害性は低いですし、そもそも福島第一原発20㎞圏は住民避難でほぼ無人ですから、環境への影響は少ないのですが、最初から海洋放出ありきで進めてきた経緯があります。決め手は蒸発後の残留する放射性汚泥の処理問題が難題ということです。

当初は凍土壁で地下水流入を抑えて処理水は数年で海洋放出を終える計画でしたが、凍土壁の遮水効果は限られ、今でも地下水流入は続き汚染水を増やし続けています。それでも当初日量500~800tあった地下水流入が200t程度の抑えられてはおりますが、当然凍土壁の経年劣化による性能低下は避けられない訳で、そうなると折角海洋放出で処理水を減らしても汚染水が増えるという事態は避けられません。結果的に海洋放出期間を30年としておりますが、その為には推定880tあると言われる燃料デブリの撤去が終わる必要がありますが、全く見通しは立っておりません。

加えてALPSで濾し取った放射性汚泥の処理方法が決まっておらず、専用容器に詰めて専用建屋に格納してますが、そちらもいっぱいいっぱいで、建屋増築が必要になっており、そのスペースねん出のためにALPS処理水の海洋放出は必要というロジックなんですが、これ自然乾燥による水蒸気放出で残る放射性汚泥と原理的に同じものです。つまり深く考えずに目先のコストで意思決定した結果の行き当たりばったりが実態ってことです。失敗を総括し軌道修正する知恵は存在しません。

台風直撃のお盆が示した課題で示した静岡県内の豪雨による徐行でJR東海の司令員の正常化バイアスが働いたことによる混乱を思い出していただきたいのですが、刻々と変わる状況を的確に判断して対処する能力は問われます。この点はJR東海も認識した模様です。

「運行管理に課題」 台風時のダイヤ混乱でJR東海社長:日本経済新聞
変化する状況に的確に対応することの重要性を認識させる出来事ですが、福島第一原発の廃炉事業を40年と見積もったことで、既に12年経っていて進まない廃炉事業を見直すのではなく行き当たりばったりで対応するから、あと30年弱で廃炉を終えるからALPS処理水の海洋放出期間は30年とぎゃkす案しているだけってことですね。こんなt頃からも国や東電のウソが見えます。

あとオマケ。8/26開業の宇都宮ライトレールが大盛況で団子運転が見られたようですが、これ東海道新幹線の豪雨による徐行の結果の列車渋滞と原理的には変わりません。恐らく不慣れな乗客による客扱い時間の延びが影響しているでしょうし、ある意味軌道系交通システムの弱点でもあります。その宇都宮ライトレールは当面40㎞/hでの営業運転ですが、これ併用軌道運行の軌道法に準拠した規制なのは前エントリーで指摘した通りです。

一方来年3月のダイヤ改正でスピードアップと増発と快速運転がアナウンスされてます。併用軌道区間50km/h、新設軌道区間70km/hとしておりますが、無閉そくの目視運転前提の40km/h規制ですから、スピードアップ実現のためには相応の保安装置の設置が必要です。水準としては京阪大津線と同等となる訳ですが、そうすると起動回路を使いにくい併用軌道区間でも閉そく運転をするのかどうか、あるいは何らかの安全対策で特任を受ける予定なのか、そして現時点で保安装置が設置されているのかどうかなどが興味をそそります。団子運転が報告されてますから、現時点では目視運転と思われますが、落ち着いたら現地で確認したいところです。

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Saturday, August 26, 2023

処理水海洋放出で見えた「新しい戦前」

タイトルの「新しい戦前」という表現は好きじゃありません。GHQの占領政策で強制された「戦後民主主義」が実感のないまま形骸化した現実を見せられて寧ろ後者こそイリュージョンではないかと突っ込みたくなります。勿論主権者たる国民の自覚が足りない結果ですが、戦前の統治システムを温存してきた現実が顕在化したことは、統治する側のなりふり構わない姿勢を露骨にしています。

サイドバーで取り上げた特捜検察の正体 (講談社現代新書)で著者の弘中惇一郎氏は村木厚子事件やゴーン事件の弁護を受任した弁護士で、多くの特捜事件を受任した経験をまとめて強引な操作姿勢を明らかにしておりますが、電気が足りない筈ではで取り上げた秋本真利議員の贈収賄疑惑でも日本風力開発社長が証言を覆したことがおそらく検察のリークで報じられました。村木事件の関係者の自白調書が公判で本人から否定されたり証拠捏造されたプロセスに似ています。

背景として秋田県などの洋上風力事業の1回目入札で陸上風力で実績のある日本風力開発やデンマーク風力大手べスタスなどが有力視されていた中で、三菱商事グループが安値落札で案件を独占したことに端を発します。発電単価が日本風力開発の半値程という明らかな赤字落札で、権益独占に意図があると見られておりました。その結果業界団体で内輪揉めとなり2回目の入札を延期して基準を見直したうえでやり直しとなる直前の東京地検特捜部の告発ということで、匂います。

脱炭素でエネルギービジネスの見直しが避けられない総合商社の利権保護よりも、実績のある内外の風力会社に担わせて風車など現時点では輸入に頼らざるを得ない中で、円安で輸送費も含めて割高となる輸入品よりも、国内メーカーの育成という観点からも、商社系の事業者よりも経験値のある専業会社の方がふさわしいと思うんですが、とりあえず訴訟を抱えた日本風力開発は2回目入札を降りざるを得なくなり、結果的に商社系が漁夫の利を得ます。

こうした不透明な問題は多数ありますが、何故という問いを発することは忘れてはいけません。それによって隠れていた問題点が表に出ることはままある訳ですし。上記エントリーでリンクを張ったハーバービジネスオンラインの記事でトリチウム以外の核種が遺っていることが河北新報にすっぱ抜かれて公聴会が大荒れになり、漁協の同意なしには放出はしないと約束したこともスルーして政府と東電の言い分だけを伝えるメディアの対応は疑問だらけです。

「廃炉」目標まで30年、原発処理水の放出開始:日本経済新聞
廃炉作業を40年で終える目標に対して、現時点で処理水問題がハードルになっていることは確かですが、元々はメルトダウンした燃料デブリに地下水や雨水が接触して汚染水になった訳で、地下水流入を防ぐ目的で凍土壁が作られたものの遮断には至らず、今でも増え続けており、タンクの置き場がないと騒いでいる訳ですが、最初から石油備蓄用の大型タンクを用意すれば問題をクリアできましたし、そもそもALPSで処理しきれないのはトリチウムだけではないという重要情報を敢えて説明せずにトリチウムの安全性ばかり強調している訳で、それによって問題にフィルターがかけられてしまうことが問題なんです。

残留核種の完全除去(少なくとも検出限界以下)とすることが事実上難しい中で、とりあえず「安全な水」から放出して、世論の関心のある間は海水検査で「基準を超える汚染はありません」と言い続ければいずれ世間は忘れてくれるってことですね。WHOやIAEAの検査もサンプル水を東電が提供しヒアリングしただけですから、科学的な反証可能性を満たしません。中国や韓国のみならず核実験で汚染された南太平洋の島嶼国も反発しています。加えて中国の水産品禁輸で漁業犯傾斜が悲鳴を上げてます。

中国の禁輸、豊洲動揺 ホタテ3割安「影響いつまで」:日本経済新聞
量販店やネット販売でシェアが低下する水産市場の頼みの綱が輸出拡大だった訳ですが、完全に冷水を浴びせられました。中国の過剰反応とはいえ事前に警告していた中でも日本政府の意思決定の結果ですから、中国をせめても仕方ありません。寧ろ東電のために民間の企業努力を潰したとも言えます。

また中国の原発でトリチウム水を海洋放出しており、濃度は福島より高いということも度々取り上げられてますが、正常運転されている原発の冷却水に中性子照射の結果として発生するトリチウムと、燃料デブリに触れた汚染水をフィルターで処理したものを同列に見ても意味がありません。問題なのはトリチウム以外の多種多様な残留核種なんですから。言ってみれば日本のメディアは政府と東電の思惑通りにトリチウム安全キャンペーンをしているようなもので、米NYタイムズでは「薄めた汚染水」と報じており、寧ろ正確な情報を伝えています。

てことでここまで日本のメディアは劣化したってことです。都合の悪いことは報じずまるで戦前の大本営発表ではないかってことです。本来政府発表に疑問を持ち突っ込んで取材し報道するのがメディアの本来の役割です、その意味では処理水問題での河北新報やアルプスの盛土ハイキでリニア工事の不都合な真実を報じた信濃毎日新聞など地方紙にはまだ社会の木鐸としての気概が残っているようです。

鉄道誕生から延々つづく「二重行政」とは!? 役人の縄張り争いに"手打ちの条件"…非効率生んだ「2つの法律」:乗り物ニュース
気概を感じる若き鉄道ライターの枝久保氏の論考ですが、鉄道と軌道の2つの法律のせめぎあいに見る中央省庁の角逐をザックリ整理していて目の付け所が秀逸です。奇しくも本日宇都宮ライトレールの開業日ですが、75年ぶりの路面電車新規開業で軌道法の呪縛が復活しました。モノレールやAGTなど鉄道事業法と軌道法のいいとこ取りが見られる一方、併用軌道前提の路面電車では最高速40km/h縛りで本来の性能を発揮できないばかりか、将来のスピードアップを見込んで作った鬼怒川橋梁前後の新設軌道区間が結果的に事業費を押し上げB/C比を悪化させたのに、新設軌道区間も40㎞/h縛りです。

というのは鉄道事業法が軽便鉄道法から地方鉄道法を経て国鉄民営化で鉄道事業法へと時代毎に見直され進化した一方、軌道法は大正時代の古い条文のまま大した見直しもされずにきたツケが出ました。富山で成功した上下分離も寧ろ公金のB/C比縛りで反対の声が出るなどして難産となりました。元を質せば役所同士の縄張り争いの結果ですが、課題を残します。

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Sunday, July 02, 2023

オリガルヒの叛乱

先週の出来事ですが、大きな出来事ですので取り上げます。

ワグネル、武装蜂起を停止 プリゴジン氏はベラルーシへ:日本経済新聞
ワグネルの叛乱でロシアのクーデターや政権転覆もあり得たという分析もありますが、疑問でした。結果的にベラルーシのルカシェンコ大統領の仲裁で衝突を回避した訳ですが、プーチン大統領から見れば飼い犬に噛まれたような災難と同時に格下扱いのベラルーシの仲裁を受け入れたことになります。

ワグネル創業者のブリゴジン氏ですが、多数の企業を支配下におさめる新興財閥(オリガルヒ)でもあります。ホットドッグ屋台から事業を興し、高級レストラン経営に至って政府要人が来店し、ブーチン氏とはその時知り合い、気に入られて便宜を図られて台頭し、プーチン氏が大統領になって我が世の春を謳歌してきた訳ですが、民間軍事会社とされるワグネル以外にもレストランやケータリングの会社からメディア企業まで多数の企業を支配下に置き、ロシア発のフェイクニュース拡散などでロシア政府を助けてきたズブズブの関係にありました。

ワグネルの兵士は受刑者の減刑や赦免でリクルートするなどしており、元々アウトローで且つ練度も高いということで、弱体化したロシア正規軍を助ける存在でもありました。ロシアの言うウクライナへの特別軍事作戦でも活躍し、民間人への攻撃などの残虐行為も厭わないその姿勢はロシア国内では報じられず英雄扱いされていただけに、ロシアの国内世論も動揺しています。加えて特別軍事作戦の大義名分としたロシア系住民に対する虐待もウソとバラしちゃうしで、外から見ると何があったの?という話ですが、ロシアのオリガルヒという文脈で見れば謎は解けます。

オリガルヒとは主にソビエト解体後の新興財閥を指す言葉ですが、改革開放で国有企業が次々に民営化される中で、政権に取り入って経営権を取得して財を成したという意味で政治との癒着が特徴ですが、同時にグローバル化の恩恵で事業を拡大して行く中で、政権との軋轢で批判に回るなどして揺さぶる存在でもあります。実際そうしたオリガルヒの叛乱は繰り返されており、政権と対立して海外に亡命して亡命先で謎の死を遂げた富豪が複数存在します。ロシア当局の関与が疑われております。

今回はウクライナ紛争中でウクライナの反転攻勢中という微妙なタイミングということもあって世界を騒がせましたが、劣勢なロシア側で弾薬などの補給が正規軍が優先されたことへの不満が昂じていた訳ですが、とはいえ恩義のあるブーチン氏に弓退く訳にはいかず、側近のショイグ国防相とゲラシモフ参謀総長の解任を求めた行動という訳で、体制内のゴタゴタです。つまりクーデターに発展する可能性はほぼ皆無だったと言えます。

とはいえプーチン氏がショイグ、ゲラシモフ両氏を更迭することは考えられず、逆に潰されるぞということでベラルーシのルカシェンコ大統領が説得してブリゴジン氏はベラルーシが身柄を保護することで矛を収めさせたという流れです。ロシアにとっては格下とはいえ数少ない同盟国の仲裁を受け入れるしかなく、ベラルーシから見ればロシアに大きな貸しを作った形となります。同盟国が保護する以上過去の叛乱オリガルヒのように暗殺(多分^_^;)を仕掛けるのも憚られます。ブリゴジン氏は丁度ロシアが保護するアメリカ人のスノーデン氏のような存在になります。

そしてワグネルとしてはシリアやアフリカのマリやスーダンなど資源国の政権に食い込んで利権を得ており、そちらの活動が制限されなければ存続可能であり、ベラルーシにとっては金の卵を産む鶏を手に入れたようなものです。ロシア国内に残るワグネル軍ですが、今回の叛乱劇では正規軍士官が便宜を図ったりしており、正規軍に統合しても軍の統制はかなりギクシャクするでしょう。この面を捉えて日本の226事件との類似性も指摘されますが、高橋是清の財政均衡策への反発とはいえ北一輝というイデオローグに共感した青年将校とはかなり異なった動機です。

という訳でウクライナの反転攻勢でロシアの敗戦という希望から、ウクライナはNATO加盟を希望しております。ベラルーシが立場を強めることは欧州にとっては1つ不安定要因となる訳で、ウクライナのNATO加盟で均衡を図るという面は確かにありますし、NATO加盟の前提として現在の戦闘状態は終息させる必要がありますし、ウクライナが希望する領土の奪還もあきらめる必要があります。加えてトルコなどの反対もあるでしょうし、簡単にできることではありません。しかし一方で戦後処理に関する動きがあることも確かです。

ウクライナ鉄道網、欧州と規格共通に G7交通相会合
ロシアの黒海海上封鎖でウクライナ産の小麦その他の資源輸出が滞ったのはウクライナの鉄道がロシアンゲージの1,520㎜で欧州の国際標準軌4ft8in1/2(1,435㎜)の間で台車交換が発生し輸送量が限られることから、ウクライナの鉄道の改軌をG7主導で進めようという会合です。斎藤国交相は日本のローカル線問題に言及して不興を買ったようですが^_^;。

オリガルヒはウクライナにもいて政治との癒着どころかオリガルヒ出身の政治家が大手を振るって汚職に勤しむどうしようもない状況で、バイデン大統領の次男を含む世界各国の投資家が関与したりしていましたが、それ故に親ロと親欧米派に分かれて清掃を繰り返し国民を呆れさせてきたグダグダな状態だった訳で、故にロシアに隙を突かれてクリミアを奪われたりした訳ですが、その結果オリガルヒならざるゼレンスキー氏が中間層の支持で大統領になれたということもあります。その意味でオリガルヒの存在はロシア特有のものとは言い難く、例えばアリババ創業者の馬雲氏のように中国政府の逆鱗に触れて更迭されるというようなことも起きます。新興国にありがちな話ではあります。

しかし先進国も企業や投資家が取引で関与していることもあります。元々企業や投資家の政治関与はアメリカでもロビイストの活動を通じて都合の良い法律を通したり規制緩和を求めたりは普通にある訳で、彼らは新興国でも当然のごとく同じことをします。寧ろオリガルヒは彼らに倣って政治関与しているとも見ることができます。上記のウクライナ鉄道の改軌問題も、市場アクセスを都合よく行うという視点はあります。

逆にこうしたG7会合に参加しながら鬼が笑う2024年で指摘した日本の鉄道貨物に対する政府の対応を自省することがないのは困ったものです。鉄道貨物を失えば日本のウクライナといえる北海道経済は停滞します。それがわからない政治の貧困です。その一方でこんなことが起きます。

電動キックボード普及へ加速 街中・観光390億円市場に:日本経済新聞
クルマの自動運転のレベル4や電動キックボードなどの規制緩和を盛り込んだ改正道交法が前倒しで今月1日から施行されました。交通崩壊 (新潮新書)市川嘉一著で拙速な規制緩和を危惧していますが、同書によれば審議会での検討段階では慎重な意見があったものの、最終報告書には反映されず閣議決定され国会審議もそこそこに可決成立したもので、レンタル事業者の要求で自民党MaaS議連など運輸族議員の圧力が働いたものと見られます。新産業創出の大義名分ですが、自転車同様歩道走行を容認するもので、走行安定性に問題がありながら無免許ヘルメット無しとした点は問題があります。現場の警察官には事故多発を危惧する声があります。

昨今例えば北陸新幹線敦賀以西で議論のまとまらないルート案で小浜京都ルートに調査費を計上させたりしてやりたい放題の与党運輸族ですが、これもJR西日本の意向を受けたもので、それによって並行在来線として切り離される湖西線を抱える滋賀県は蚊帳の外だし、そもそも関西広域連合で合意した米原ルートはガン無視ということで、意思決定手続き上もd内だらけです。こんなことがまかりと売るのは結局有権者の投票行動の結果ですが、オリガルヒ同士の対立に嫌気してゼレンスキー大統領を選んだウクライナ国民を見倣えと言いたいところです。

余談ですが国鉄分割民営化以後JR東海の経営を掌握して政治に関与した故葛西敬之氏をイメージすればオリガルヒは理解しやすいですね。

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Sunday, June 25, 2023

鬼が笑う2024年

今年10月からのインボイス制度を巡り、声優やクリエーターなどフリーランスからの反対の声が出ています。売上1,000万円未満の非課税事業者の所謂益税問題も解消が狙いですが、それ自体は消費税導入時からの制度上の積み残しですから、見直しはいずれ必要なことではあります。加えて食料品等の軽減税率導入で、経理処理が複雑になったこともあり、やっと制度見直しとなった訳ですが、問題は別のところにあります。

1つはフリーランスと呼ばれる零細個人事業主の問題ですが、場合によっては契約書も交わさず報酬も曖昧だったりという弱い立場にあることがあり、インボイス制度導入で課税事業者を選択しなければ取引から排除される可能性があります。勿論インボイス制度自体の狙いが非課税事業者の排除にある訳ですが、問題は課税義務を負うにはあまりに弱い経済主体であることで、課税義務が生じたからといって取引先に報酬の増額を要求しにくいことがあります。

この辺欧州の付加価値税でうまくいっているからということで正当化できない問題でして、何故ならば欧州では強固な産業別、職業別組合があり、中小零細企業に加えて個人事業主も加盟していて、中央労使交渉の結果の順守が求められますから、制度的に保護されている訳で、日本で同じことをやってもフリーランスを保護する仕組みがないから泣き寝入りの現実がある訳です。

加えて電帳法対応を求められ、仮に課税事業者を選択して税額を明示した適格請求書を発行しても、その控えを電子帳簿として7年間保管する義務を負います。また仕入れや経費で受け取ったインボイスもスキャナーで電子化して同様に7年保管を求められますが、当然ながらそれに伴うIT機器の購入やセキュリティ対策も求められ、それらがコスト増要因となる訳です。つまり納税するためにコスト負担が生じる訳です。

大企業ならばクラウドサービスで対応可能な事でも零細企業や個人事業主ではハードルが高い訳です。これもやはり紙で保管が可能な欧州とは事情が異なります。真面目に納税しようとすると壁に突き当たるって冗談みたいな状況です。まるでデジ足らん国のデジタルジャック(DX)を地で行く話です。来年秋の紙の保険証廃止に通じる愚策です。

一方で東京都が打ち出した新築家屋の太陽光発電設置義務では、当然一般住宅からの電力調達が起きる訳ですが、住宅所有者が課税事業者登録するとは思えませんが、そこは再エネ支援金として電気料金に上乗せされますから、電力会社は無傷で契約者に価格転嫁できてしまいます。再エネ活用は大事ですが、こうした運用面で大企業ほど優遇される仕組みは問題です。

来年の2024年はいろいろな意味でこの国の進路に重大な障害が生じるという意味で、覚悟しといた方がよさそうです。まずはインフレですが、3%を超えるインフレが依然として続いてますが、日銀が政策を見直す気配はありません。少なくともYCCの停止は最低限必要です。というのはYCCが続く限り日米金利差による円安が続き、輸入物価を押し上げますから、インフレは止まりません。

例えば海外勢の日本国債購入が増えてますが、円安で買いやすくなっていて、為替予約でリスクヘッジすることで、実質円資金を借りたのと同じことになり、日本国債を担保に外貨をちょつあつして運用すれば、実質的に金利差をさや取り出来てしまう訳で、キャリートレードと同じです。長期金利を低いまま放置すればこうして簡単に稼げる訳で、その結果日本の富が海外に染み出す訳です。

その一方で実需の貿易決済では円安で輸入物価が上昇し、日本企業は価格転嫁を進めてますから、結果的にインフレは止まらない訳です。そしてインフレは見かけ上の売上を増やしますし、便乗値上げも含めて価格転嫁することで企業は儲けられる一方、インフレ率に届かないベースアップで実質賃金は下がる一方です。売り上げや企業利益だけ見ていると一見景気が良いように見えますが、国民の窮乏化は進む訳です。

そして物流2024年問題が控えます。トラックドライバーなど働き方改革で例外とされた物流や建設などの猶予期間が終了する結果、今でも深刻なドライバー不足が助長されると言われています。しかしこれ変なのは時短によるドライバーの収入を補償する話は出てこないんですよね。建設も同じですが、多重下請けで安値受注が横行している結果、長時間働かないと稼げないというドライバーの置かれた状況を悪化させますから、時短によって廃業するドライバーも多数出ると考えられます。つまりトラック依存の物流システムが維持できなくなるということです。トラック業界の様々な問題を解決することなしにはどうにもなりません。そんなときに起きた事故のニュースです。

バスとトラック正面衝突、乗客ら5人死亡 北海道・八雲:日本経済新聞
事故原因の解明はこれからですが、中央線オーバーのトラック側の重過失は間違いないところで、今後の捜査でドライバーの勤務状況などが明らかになると思います。加えてこの区間は長い直線路で速度超過しやすく、風景が単調で睡眠を誘いやすいという事故多発地帯とも報じられており、特段の対策は取られていなかったということです。尚、バスを運行する北都交通(札幌市)は空港リムジンバスや都市間高速バスを長年手掛けており、信頼できる事業者です。

例えばハンプと呼ばれる舗装面のコブを設置するとか、センサーで速度超過を感知して警報を鳴らすとか、敢えてクランクカーブを設けて注意喚起するとか、道路側の対策は必要でしょう。しかしここは北海道新幹線の並行在来線区間として存廃が協議されている区間でもあります。仮に鉄道貨物輸送が存続できなければ道路交通うの負荷が高まりトラック便で吸収することは不可能です。故に鉄道貨物存続が必要不可欠ですが、一方で戦艦トンネル区間の新幹線の速度制限問題から貨物廃止も言われます。

こうしたことから国として何らかの対策を打ち出す必要がありますが、整備新幹線は地元とJRの問題として国は対応に消極的です。確かに地域が整備新幹線を欲しがらなければ起きなかった問題ではありますが、ことここに及んでそんなお題目を唱えて鉄道貨物を衰退させて北海道経済に打撃を与え、またトラックの増加で道路交通をマヒさせる可能性、更にトラックのヤミ残業で過労運転が横行し事故多発など、リスク要因は挙げればきりがありません。加えて北海道庁もこの問題では動きが鈍いということもあります。

ちなみに貨物列車1列車の輸送能力は10tトラック40台相当ですから、鉄道貨物を止めた時のトラック輸送にかかる負荷は大きくなります。逆に言えば鉄道貨物に集約できればトラック輸送の負荷を大きく減らせるということでもあります。ということで、来年に限らない先の話ですが、鬼が笑うぞ!

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