ローカル線

Saturday, May 24, 2025

ア・イ・シ・テ・ルのサイン

時事ネタは売るほどある*1けど今回はスルーします。おコメを買ったことはありますが*2。

最近気づいたんですが、ポンピングブレーキしてるクルマを見かけなくなった気がします。私の年代だと教習所で口すっぱで言われたポンピングブレーキですが、最近は教えているのでしょうか。ポンピングブレーキとは減速や停止のときのブレーキ操作でブレーキペダルをリズミカルに数回に分けて踏むことで、ブレーキが車輪のドラムやディスクにブレーキシューを押し付けて車輪の回転の運動エネルギーを摩擦で熱に変換して待機中に熱を放散することで制動力を得る仕組みですが、多用すると熱放散が間に合わずに過熱して制動力が低下する所謂フェード現象を回避する意味があります。加えて過熱によるブレーキオイルが気化して油圧伝達ができなくなるべーハーロック現象になればほぼノーブレーキ状態になる危険もあり、実際それらが疑われる事故は今も起きています*3。

とはいえクルマのブレーキ性能も昔に比べて改善されていることも確かで、大型バス/トラックでは元々エンジンブレーキの強力なディーゼルエンジンですし、真空ブレーキが下り勾配の抑速ブレーキ的な使い方もできますし、さらに強力なリターダなどの補助ブレーキ装置を搭載したものもあります。また大型車ではエアブレーキが主流でべーハーロックも無縁です。そして乗用車でも電動車は回生ブレーキが使えるので摩擦ブレーキの負担は減っているとは言えます。故にフェード現象の心配は減ったとも言えますが、ポンピングブレーキの効用はそれに留まらないものがあります。

一段ブレーキで強いブレーキをかけるとスリップの可能性があり、路面状況やタイヤの摩耗度によっては危険なケースもありますが、ポンピングだと断続的に強めのブレーキをかけることでスリップを回避する所謂再粘着を図ることでトータルの制動距離を縮めることも可能です。通常ブレーキ時でもソフトタッチの断続で徐々に減速することで乗員や積み荷へのストレスを減らせ、ブレーキシューの摩耗も減らせます。他にも意外な効用があります。

最近気づいたのは、後ろから煽られたときに、チョンチョンと軽くブレーキングすると高い確率で後続車が車間を空けます。先行車のブレーキランプに反応してブレーキを踏むのでしょう。西成活裕教授の名著*4で解明した自然渋滞のメカニズムは、先行車のブレーキランプに反応して後続車がブレーキを踏み、それが後ろへ伝搬する連鎖反応で団子状態になるということですね。歌の文句じゃないけれど「ア・イ・シ・テ・ルのサイン」が後方へ情報として伝わる訳です。回避策は先行車のブレーキに反応しなくて済むバッファとしての車間を取ること(40m)も示されています。これ鉄道のクロージングイン(移動閉そく)の原理じゃないかと^_^;。てことで広く共有したい興味深い記事があります。

「これが日本の鉄道技術か…」海外も注目するJR東日本の「信号機不要」の制御システムとは | News&Analysis | ダイヤモンド・オンライン
ATACSについては過去のも取り上げてますが*5、JR東日本が地道な開発を続けた結果、ほぼ開発目標をクリアでき、試験を続けていた仙石線への導入を皮切りに首都圏の埼京線への導入に続いていよいよ山手線と京浜東北線への導入を決めました。山手線向けはさらに高度化されたドライバレスシステムを目指してます。またコストダウンの観点から携帯電話の公衆回線を用いた簡易システムも開発の視野に入っているようで、地方線区への展開もあり得ます。地方線区ではJR九州の香椎線で既にATACSではない別のシステムが実装されてますが、JR東日本が狙うのは日本発の世界標準ということで、Felicaシステムを利用したSuicaが挫折気味なだけに、JR東日本にとっては捲土重来になるかもしれません。楽しみです。

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Tuesday, May 06, 2025

雷都の晴れ間のライトライン

GW真っ只中ながら人出の多い観光地(地元がそうですが)へ行く気にもなれず、それならばライトラインの現状を見てみるかと久々に宇都宮へ出かけました。いろいろ発見がありましたが、その前に前エントリー*1関連ニュース。

説明しない厚労省 SNS炎上、年金底上げ策の削除招く - 日本経済新聞
消費税減税を巡る立憲民主党の迷走*2に似た状況ですが、このままでは氷河期世代の基礎年金実質30%減額となることから見直しが検討されたものの、制度を理解しない非難によるSNS炎上で自民党内からの批判もあり撤回ということで、同世代を1700万票の票数でしか見ていない政治が不作為を生じさせています。

で、本題。昨年3月にスピードアップされたライトラインで併用軌道区間50km/h専用軌道*3区間70km/hと謳われておりましたが、乗車時の体感では70km/hは出ていない感じで、また列車間隔を制御する閉そく信号機も見当たらないところから、流石に目視運転では70㎞/hは無理ということでしょう。HU300形の走行安定性の問題もあるかもしれません。そして開業直後の訪問時には気づきませんでしたが、副本線のある平石とグリーンスタジアム前で軌道に地上子が設置されていて、おそらく後付けなのでしょう。推測ですがおそらく快速運転に備えた列車選別装置で、先行の各停の通過を検知して副本線側に進路設定し、副本線の地上子で入線を検知して本線側に進路設定して快速を通すのでしょう。快速出発後、後続の各停はフランジ割出しで進路を作形成し、一定時間後に自動復帰するように設定されているとして、最小限の設備追加で快速運転が可能です。目視運転を基本としつつ朝の2本だけの快速運転ですから、鉄道並みの保安装置設置よりもリーズナブルな対応と言えます。

バスとの結節の実態も知りたいところで、休日は参考にならないかもしれませんが、芳賀工業団地管理センター前で降りたところ、もう1人降りてバス乗り場へ向かう人がいて、横断歩道を2度渡るためタイムラグはあるものの、その人はバス乗り場に併設された待合室へ入りました。バスポールの時刻表を確認しつつ電停へ戻るときにも電停からバス乗り場へ向かう人がいて、それなりに結節点として機能していることはわかります。時刻表で確認した限りでは、本数は少ないものの茂木方面へ向かうバスもあり、真岡鉄道とセットで行程を組むのも一興です。同様の結節点は清原地区市民センター前と宇都宮大学陽東キャンパス(ベルモール前)が案内されてますが、それぞれバスの本数の少なさはあるものの実態はどうなのか、興味は尽きません。ちなみに駅へ戻るときに数少ない並行路線のバスが並走してパッと見席が埋まる程度の乗車が確認できました。関東自動車の旧年式車でしたが、駅直通便の需要も根強いのでしょう。

休日ということもあり、IC乗車券を持たない乗客も多数いて、降車の多い停留所では最前部ドアで現金支払いに時間がかかっていました。この辺は定時運行を妨げるほどではないようですが、交通信号に引っかかる機会が増えてしまうことは避けられないようで、実際そういう場面も見られました。とはいえ乗客が定着したことは間違いないようで、GW中ということもあり、家族連れの利用が目立ちましたが、家族そろって現金払いとかも見られました。ともかく盛業であることは間違いありません。

また渋滞解消という政策目標の実現も実証データが示されました*4。宇都宮大学などの調査結果では車利用が70%から62%へ8%減で、率の話ですがザックリ実数でも1割程度は減ったと見られます。交通量の1割減は大抵の渋滞が解消できる水準ですから効果はあったということです。但しだからLRT整備は大成功と結論付けるのはどうでしょうか。着手後の見直しや工事の遅れで事業費が膨らんで費用便益比(B/C比)が悪化したこともありますし、同等の渋滞解消策としての道路拡幅やバイパス整備の場合との比較でどうだったかこそ問われるべき問題です。また渋滞を嫌ったり、時刻を確認しないと利用しづらいバス利用と比べてほぼ定時で頻繁運行される都市型公共交通による需要誘発効果もありますので、それが母数を増やして車利用率を下げた要素もあります。これは宇大等の調査でも言及されているようですが、単純な数値比較では見えない部分があるということは言えます。但し外出の誘発は消費に繋がりますし、ウェルビーイングの観点からも望ましいことでもあります。単純な数値比較に陥りやすいB/C比の議論の戒めとしたいところです*5。そして懸案の西側延伸も動き出しました。

宇都宮LRT、大通り1車線は自動車乗り入れ禁止への布石 - 日本経済新聞
地域限定記事且つ会員限定記事ですが、全文を読むことをお勧めします。キモは現状3車線の大通りの1車線化で、その為に南北の並行道路の拡幅による迂回路整備で一般車を迂回させることにあります。3車線の1車線化は批判を呼ぶことになりますが、工事のために前倒しで実施して、中央車線を軌道にして左側車線はバス停や貨物車荷捌きレーンに充てて1車線化して工事スペースを生みつつ一般ドライバーを慣れさせる狙いもあります。大通り区間は混雑対策で軌道中央の島式ホームでホーム幅を確保して車いすやベビーカー利用にも配慮します。これは東側で問題になった混雑時のホームの手狭さの反省と共に、圧倒的に集積度が高い西側では、停留所間隔も短くして分散を図ると共に乗客の安全確保にもなるということですね。そしてその先には国内では前例のないトランジットモールの実装の先駆けという狙いもあります。そしてほぼ全区間道路併設の併用軌道で東側の鬼怒川橋梁前後の専用軌道区間のような用地買収も不要で土木工事上のネックもほぼ無い*6ことから、今年度に決めて26年着工で30年開業はほぼ可能という展望です。しかし課題はあります。

詳細は省きますがまず西口停留所の混雑対策が不十分*7で見直しが避けられないことがあります。計画見直しの結果事業費が上振れしたり手続きが遅れたりすれば東側の鬼怒川前後区間の轍を踏む可能性があります。また資材費や人件費の高騰による建設費の上振れもあり、400億円とされた見積りが600億円超と1.5倍以上になる可能性もあります*8。西口混雑対策とも絡んで手続き上西側分断整備の可能性も示唆されています。但しその場合新潟トランシス製HU300形の弱点とされる高価な車両価格や混雑対策の困難さや走行安定性の不安*9などから国産車両の導入が検討されているとか*10。そして大通りトランジットモールによる中心市街地活性化の一方で抱える中心市街地のレガシー東武百貨店の扱いと東武宇都宮線*11。

というわけで、帰路は西口バスターミナルから東武駅前までバス移動して東武宇都宮線ワンマン列車で南栗橋からスカイツリーラインのルートを辿りました。駅西側は東武鉄道のバス事業撤退があり東野交通の関東自動車への経営統合とライトライン開業に絡むJRバス関東の実質的撤退で事実上駅西側は関東自動車の独占エリアですが、関東自動車の新旧カラーにEV専用カラーに旧東野交通カラーとカラフル。また前後扉のツーステップ車から最新ノンステップ車やEVまでとバリエーション豊富でバスファンにもお勧めです。西側延伸で大通りのバス3割減が求められる一方、東側同様バス結節点の整備も構想されており、今後の変化も大きいという意味でも注目されます。

東武駅前から東武宇都宮駅までは100mほど離れており、ターミナルデパートの東武百貨店もお世辞にも活気あると言えず、売り場も典型的地方百貨店のような冴えないもので、仮に大通りトランジットモールが実現してもタイムスリップしたような一画として温存される公算大です。西側には小規模ながらバスターミナルがありますが、発着便は少なく人気のない空間になっています。ライトラインと東武宇都宮線の相互直通も示唆されますが、その場合大通りと東武宇都宮駅を繋ぐ軌道の整備と共に東武百貨店の建て替えは必至ですし、盛土上の東武宇都宮線との接続も課題ですし、架線電圧がDC1.5kvで750vのライトラインとの直通には複電圧車が必要になりますが、HU300形での対応は難しいところですし、まして走行安定性に不安を抱えるから尚更です。日比谷線直通車転用の20000系ワンマン列車に揺られながらつらつら思うGWでした。

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Saturday, March 22, 2025

答え合わせあれこれ part2

答え合わせあれこれの続編です。

関税がアメリカの農家直撃、綿花4年ぶり安値 トランプ氏「我慢を」 - 日本経済新聞
カナダ次期首相カーニー氏 トランプ氏に挑む「危機の男」 - 日本経済新聞
トランプ関税を巡る対決姿勢を中国とカナダが見せていることですが、トランプ大統領が単純に対米黒字の多い国を標的にした結果、敵対国のみならず同盟国も敵に回しました。そしてともに対決姿勢です。元々制裁関税が課されている中国の場合は追加関税なのでより負担が大きいし、問答無用で適用されるのに対して、同盟国のカナダには猶予期間を与えて交渉余地を残してはいますが、相応の見返りを求めてきます。それに対するカナダ政府の対応は英イングランド銀行総裁を務めた実務家のカーニー氏を首相に指名して報復関税も辞さずの姿勢を見せています。

EUと日本はそこまでの姿勢は見せていませんが、EUの場合はウクライナ問題が絡みますし、中国の輸出攻勢で域内産業が窮地にある点はアメリカと同じということもあり曖昧な対応ですが、バイデン時代の非課税枠を持ち出して例外扱いを狙う日本の姿勢は大甘です。とはいえ中国の米農最物報復関税では米農家が損失を受けると反発し、自動車や鉄鋼アルミの一律関税はテスラを含む米自動車メーカーも損失を被りますが、トランプ大統領は意に介さずです。

堅調米景気、関税で暗雲 トランプ氏「過渡期」発言波紋 - 日本経済新聞
トランプ関税で不利益を被るのは過度期の一時的な現象で我慢しろということですが、これで株価が下がったことも確かです。しかも従来米株価と連動していた欧州や日本の株価が逆に上がったりしています。明らかに黒字国から還流していたドル資金の動きが変化しています。またDeepSeekショックの後、低コストの蒸留方式の生成AIも先端半導体との組み合わせでパフォーマンスを高められるなら米国優位は揺るがないというロジックで買い戻されたエヌビディアなどの米テック株もここへきて変調、更にDOGEトップでやりたい放題のマスク氏への反発からテスラ車のボイコットによる販売不振や販売店への放火事件でテスラ株ダダ下がり。その結果がこのニュース。
テスラのマスク氏、放火や不買運動は「理不尽で異常」 - 日本経済新聞
放火などのテロ行為は問題ですが、それだけ恨みを買っていた結果です。しかし発言の趣旨は株を持っている従業員や投資家に向けた「株を売るな」という謂わば口先介入。part1 の「トランププット」が図らずも実現した形です。同時に米経済を痛めて何がやりたいのかという疑問も湧きます。まるでアリババの金融部門のアントの上場停止を命じ、ゼロコロナ政策で国内経済を困窮させた中国習近平政権と同じです。違いがあるとすれば中国は国有企業優先で民間企業を圧迫する一方、今のアメリカは民間の巨大企業が政府を乗っ取った形ですが、その結果民間経済を強権で圧迫しているのは同じです。世界を荒野に変えてそれでも俺らがチャンピオンと威張るつもりでしょうか。
北海道新幹線延伸遅れ JR北海道へ膨らむ政府支援、自立遠く - 日本経済新聞
最後に国内鉄ネタですが、JR北海道が掲げていた2031年度の単年度黒字転換の再建計画が北海道新幹線の工事遅れで狂いが生じています。在来線の存続困難路線と新幹線の並行在来線切り離しで身軽になって出直す筈が、並行在来線の切り離しが遅れる訳で、それを前提とした車両置き換え計画が見直しを余儀なくされますから、事実上仕切り直しを迫られますし、それを前提とした国の支援策も狂います。金利上昇で政府財政も厳しくなる一方、経営安定基金の運用益は増えることが期待できますが、それでどうにかなる問題でもありません。課題の並行在来線貨物問題も解決先送りは可能になりますが、人口減少が続く中で現状維持すら困難な中での再建計画見直しです。、民間任せでは解決困難な問題をどうするか。トランプ騒動を対岸の火事と見ずに他山の石として政府の役割を見直す機会です。

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Sunday, February 23, 2025

MAGA不思議

石橋を叩いて渡る日米同盟とは裏腹に暴走トランプは止まりません。ウクライナ戦争停戦交渉を米ロで進めてウクライナの頭越しというのは、WW1戦後を規定するベルサイユ体制を崩壊させたチェコスロバキアのズデーデン地方のドイツ領有を認めたミュンヘン合意と同じ構図です。英仏伊独4か国で英チェンバレン首相がナチスドイツのこれ以上の軍事行動を起こさないという約束を信じて一方の当事国のチェコスロバキアの意見も聞かずに決めた結果、ナチスドイツに軍事侵攻の成功体験を与えてWW2へと突き進んだ歴史の転換点ですが、トランプ大統領はウクライナにレアアースの権益をよこせと言っており、世界平和のために融和を図った英チェンバレン首相のお人好しぶりと違って悪辣です。

寧ろWW2の戦後処理を話し合ったクリミアのヤルタ会談の方が構図が近いかもしれません。英チャーチル、米ルーズベルト、ソ連スターリンの3首脳が秘密会談でドイツ降伏後3か月以内にソ連が対日参戦することを決め、その為に海軍力の弱かった当時のソ連に対して軍事訓練やロジスティクス支援まで約束していました。当時の日本は泥沼化する戦況で本土決戦まで視野に入れながら、ソ連に和平仲介を求めていたのですから浮かばれません。結果的にソ連参戦で南樺太や北方4島を失った日本ですが、アメリカから無理難題を押し付けられるウクライナの立場は深刻です。そしてロシアの軍事的膨張を止める手立てをアメリカ抜きで見出さなければならない欧州も大変です。

てことでトランプ流MAGA政策の狂気は留まることを知りません。関税連発でインフレ助長が心配されている一方、インフレでFRBが利上げすれば金利差からドル高になってインフレを抑制するから心配ないという政権スタッフも居たりしますし、財政膨張はマスク氏のDOGEのリストラで回避できるとか、奇妙な経済理論?で大統領令連発で連邦政府をリストラし足を引っ張る官僚をクビにして、逆に政府機能を弱体化させて呼び戻したりしてます。そんなアメリカとの向き合い方を各国は迫られます。てことでこのニュース。

米国、日本の「非関税障壁」問題視 車の安全基準など - 日本経済新聞
日米首脳会談の安全運転ぶりでもこれですから、覚悟しといたほうがいいでしょう。勿論交渉材料という面もありますから、脊髄反応で余計な約束をしないことが大事です。そして仮に関税かけられても、対象は完成車に留まらず部品等のサプライ品もありますから、寧ろ米ビッグ3が割を食うということも言われております。関税回避を焦らず、寧ろ米国内の混乱を黙って見てりゃいい。その意味でこのニュース。
鴻海、ホンダに協業を提案 日産・三菱自含む4社で陣営 - 日本経済新聞
製造業の壁で解説しましたが、もはやガラケー化した既存の自動車メーカーの生存戦略は狭き道になっております。日産の再建を待てずに子会社化を言い出してぶち壊れた統合話ですが、ホンダも単独では対応できないことはわかっていて、日産との統合話も寧ろプラグインハイブリッド車を持つ三菱自動車が狙いだったとも言われます。しかし三菱は早々に統合に参加しないことを決め、日産が煮え切らない中で子会社化して三菱を間接支配というシナリオだったんでしょう。元々経産省がお膳立てした話ってこともホンダには乗り気になれなかったかも。

鴻海の狙いはアイフォンの受託生産で実現した成長モデルをEV事業で再現することですが、既存の自動車メーカーは自前主義でなかなか話に乗ってこないから事業を進められないということで、鴻海のEVトップが日産出身の関潤氏ということもあり、内情を知る日産に接近するためにルノーの日産株譲渡を打診したのですが、関氏は日産内田社長とトップを争ったライバルでもあり、ゴーン事件でガタガタになった日産の立て直しでトップ候補としては寧ろ前評判が高かったけど経産省OBの豊田社外取お気に入りの内田氏に決まった経緯もあり、内輪揉めの延長戦として経産省に助けを求めてホンダとの経営統合を指導されたという一連が見えてきます。逆にホンダが欲しがる三菱のプラグインハイブリッド技術を活かそうとしなかった経営判断は、日産に欠けているものを浮き彫りにします。イノベーションに背を向けている訳です。

鴻海としては早くEV生産に参入して実績を作りたい訳で、工場閉鎖が避けられない日産の現状からすれば、工場を鴻海に託してEV向けに作り直してもらえばリストラも進めやすくなるし、新車開発と販売というマーケティングの川上と川下を押さえておけば高付加価値の事業環境が整うという風に再建の道筋も見えてきます。経営陣の内輪揉めで袋小路に入るより遥かにマシですし、加えて言えばアジア連合でアメリカの25%関税に打ち勝つクルマ作りぐらいの構想は持ってほしいところです。ウクライナで示したようにイザとなればトランプ政権は台湾を見捨てることすらあり得る訳ですから。

JR東と岩手県北自動車、山田線とバスの共同経営に認可 - 日本経済新聞
突然ドメスティックな話題ですが、グローバル企業もドメスティック企業も事業環境の激変に晒されているのは同じで、その中でイノベーションを怠れば存続が危ういということにもなります。鉄ちゃん的には岩手県北自動車の106急行は山田線を追い込み、行き違い駅の棒線化などで列車間隔も伸びて劣勢になるなど恨みを感じるところでしょうけど、盛業に見えるバス事業も人口減少とドライバー不足で事業環境は悪化しており、このままではじり貧になりかねない訳で、少ない客を取り合っている場合ではない訳です。

鉄道とバスの共通乗車はJR四国牟岐線と本四間の高速バスの末端区間でJR乗車券で高速バスに乗れるようになっていて実績はありますが、本数の多い106急行/特急バスとの提携はJR山田線の廃止を睨んでいるのかとさえ勘繰られますし、記者会見でも質問されてJR東日本は否定しています。事業として認可を受けていますから、単純な共通乗車に留まらずダイヤ調整や共同での観光客誘致や企画商品開発なども視野に入っていると思いますが、JRからすれば宮古への足の利便性が増せば例えば東北新幹線との通し乗車券の売上が伸びて広域にメリットが出るでしょうし、岩手県北自動車から見ればJRの広域集客力を利用できる訳でwin-winの関係を構築できる訳です。

キモは独占禁止法の例外扱いとしての認可というところで。単純な規制緩和ではなく既存の法令規制を踏まえた例外としての認可ということで、米DOGEのような力づくの制度破壊ではない制度イノベーションと言えます。実は欧州の都市交通で広範に見られる運輸連合方式の運賃共通化も同じロジックで行われており、例えば東京のメトロと都営の運賃共通化のようなことも視野に入るものでもあります。そして欧州で進むMaaSも運輸連合がプラットフォームとして機能していることも指摘できます。道交法にねじ込んだLuupのようなジャパニーズMaaSとは似て非なるものです。

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Saturday, February 08, 2025

石橋を叩いて渡る日米同盟

石橋を叩いて渡る安全運転はアメリカも同じだった?

トランプ大統領が認めた「日本の価値」 日米首脳会談、視線は中国 - 日本経済新聞
アンチ地球の歩き方の尹大統領の弾劾と内乱罪容疑で韓国が当てにならず、北朝鮮の金正恩総書記の韓国敵対政策もあって1期目のような対話も無理ということで、対中国では日本を取り込むことが必要という判断でしょう。故に岸田政権の防衛三文書見直しで防衛費倍増を打ち出したことに「ありがとう」と言われるなど、石破首相の成果と言えないことまで褒められております。

一方気になるのがLNG爆買いの約束です。LNGは保存性に問題があり、輸出国側の冷却プラント、低温輸送船、輸入国側の受入れ態勢が揃う必要があり、その為に長期契約で相対で値決めすることになります。日本の場合、オーストラリア、カタール、ロシア、アメリカの4か国からの輸入が多い現状で、対ロシア制裁の意味からロシアからの輸入分をアメリカにシフトする限りでは問題ありませんが、今後追加投資を迫られるなら慎重になる必要があります。

日鉄によるUSスチール買収問題も買収を投資と言い換えただけとも言えますが、バイデン政権の否定になるということもあるでしょう。加えてトヨタといすゞの工場建設計画もタイミングが良かったことで、日本の資金でアメリカを豊かにするというナラティブで世論対策にもなるという訳ですね。USWやクリフスが納得するかどうかは定かではありませんが。あと首脳会談で触れられなかった問題がこちら。

トランプ大統領「アメリカがガザを所有」 イスラエルのネタニヤフ首相と会談 - 日本経済新聞
中東のリビエラとしてトランプ大統領の娘婿のクシュナー氏が再開発アイデアを披露していて米国内では知られていたようですが、イスラエルとの首脳会談で公式化されて国連はじめ周辺国や欧州中国にまで非難されました。石破首相はあえて触れなかったんでしょうけど、日本の国会でも野党から指摘されて岩谷外相が曖昧な答弁してましたが、明らかに再開発で上書きしてパレスチナの痕跡を消す訳ですから、安倍政権以来の価値観を共有する同盟とか法の支配といった御託のウソがバレバレです。同時にトランプ大統領の不動産屋というかデベロッパー的な発想の恐ろしさは止めなきゃヤバいよってことは言えます。

日本でも東京五輪の落とし物の神宮外苑再開発が典型ですが、再開発のために国立競技場を建て替えて明治天皇を偲ぶメモリアルパークを商業化したり、その過程で都営霞ヶ丘住宅の住民を退去させたり、大阪五輪のリベンジ兼カジノ開発を睨んだ大阪万博開催もゴミ捨て場の上書きです。しかし怪運国債市場の蓋で指摘したように国主催の国際イベントがTSMC熊本工場建設という民間工事に阻まれ、それでも能登半島地震の復興を押しのけて進む暴力性はあります。

万博を押しのけたTSMC熊本工場も開業し、従業員の通勤問題が出ていますが、その結果JR九州管内の混雑率トップに豊肥本線肥後大津ー熊本間の121%(数字でみる鉄道2024より)という異変が起きています。熊本といえば壁は成長する?で取り上げた全国共通ICカード乗車券から離脱して話題になりましたが、元々九州産業交通の経営破綻から始まるバス再編の流れでクレカ決済でコスト削減狙いですし、昨今は熊本市電や熊本電気鉄道の乗務員の非正規化で運行継続が危ぶまれていたりしている中で単線の豊肥本線の輸送力増強を迫られている訳ですが、政令市で企業誘致に成功した経済が好調な地域なのに課題を抱えている訳です。

これまでにも再三指摘してきた生産年齢人口の減少による人手不足の結果です。まさか地方創生の成功例なんて言わないですよね>石破さん。

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Saturday, January 25, 2025

石橋を叩いて渡る石破氏と植田氏

波乱の8月で触れたように、株価下落を「植田ショック」とまで言われた結果、年内と見られていた追加利上げを年を越してから決定いたしました。

[社説]日銀はより精緻な利上げの戦略と対話を - 日本経済新聞
日経の社説とは裏腹に、利上げを遅らせて米政権移行に伴う市場の反応を見極め、しかも副総裁と総裁が揃って事前に利上げを示唆する発言をして市場に織り込ませた対応は慎重そのものです。決定会合後の記者会見で中立金利までの長い道のりに言及して、追加利上げは今後も続くことを市場に問いかけています。利上げ観測の為替の円高もわずかで、寧ろ未だインフレ補正の実質金利はマイナス圏ですから当然といえば当然なんですが、円安修正はまだ先ということです。
石破茂首相「令和の列島改造」実現へ5本柱 施政方針演説 - 日本経済新聞
こちらもいろいろ言われてますが、とりあえずは安全運転の姿勢です。いやツッコミどころは満載で早速楽しい日本とか曖昧という批判もあります。そして令和の列島改造と称して五本柱を示しています。①若者や女性にも選ばれる地方②産官学の地方移転と創生③地方イノベーション創生構想④新時代のインフラ整備⑤都道府県を越えた広域連携の枠組みの推進の5つです。

田中角栄内閣で打ち出した日本列島改造論は新幹線や高速道路の整備を通じて国土の均衡ある発展を狙うというものでしたが、是非はともかく具体的だったのに対して、確かに抽象的で曖昧ですが、反主流派だったから具体化するスタッフがいなかっただろうし、また具体策を示せば身内の与党から背中に矢が飛んでくるということもあるでしょう。つまり石破首相としては最大限の安全策ということです。

田中角栄版列島改造当時は鉄道貨物のシェアは今より高く、地方の港湾や工業団地も鉄道アクセスが当然視されていた時代ですから、新幹線に都市間旅客輸送が移行した後の在来線は貨物インフラとして活用することが含意されていました。当時貨物は大赤字でしたが、そもそも田中角栄氏は国鉄の赤字は国民福祉の観点から意に介していなかったし、組合のスト権付与にも理解があったようです。翻ってJR化後の地方ローカル線の窮状を見ると、こうした考え方も一理あるとも言えます。短期間に高速鉄道網を整備したものの大赤字にあえぐ中国は実は列島改造を実践しているかも。鉄ちゃん宰相の石破氏にそこまで踏み込むことの困難な現実はあります。

外交でもトランプ政権発足前の会談を敢えて行わず様子見する一方、対米カードとしての対中融和などの仕込みもしてますし、安倍政権以降の歴代政権よりバランス感覚がありそうです。但し全体的には曖昧にせざるを得ない現状もあり、具体化の過程で野党に攻められるのみならず、身内のからの矢もかわさなきゃならない一方、さりとて与党内にポスト石破候補がいない中で、逆に野党に助けられる場面もありそうです。これ石破氏を褒めてるんじゃなくて、いずれ明らかになる具体策へのツッコミはしっかりやろうと思います。

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Saturday, December 21, 2024

壁は成長する?

安倍公房の壁―S・カルマ氏の犯罪で主人公を診るドクトルとパパによく似たユルバン教授による「成長する壁調査団」が主人公の中を探索しようとする描写があります。何のメタファーなのかは謎ですが、実は壁って成長するんだというのはリアルな話ということで、例えばトランプ大統領返り咲きで、バイデン政権下で止まっていたアメリカとメキシコの国境の壁は成長確実です^_^;。てことで壁―以下略の続きです。

ホンダ・日産が経営統合へ 持ち株会社設立、三菱自動車の合流視野 - 日本経済新聞
小型ロケット「カイロス」打ち上げ失敗 3分後に飛行中断 - 日本経済新聞
一見何の関係もない2つのニュースですが、スペースワンの社長が台風と共に去ったメディアの公共性で取り上げた日産ゴーン事件当時の社外取締役で、通産審議官からキャノン電子その他の民間企業の取締役も務めた元経産審議官というキャリア官僚で、安倍政権当時の官邸に近い人物で特に管官房長官とは近かったということでキナ臭いですね。ゴーン事件も未だに謎なのは当初はゴーン氏の退任後の顧問料支払予定が有価証券報告書に記載されていないという金融商品取引法違反ですが、取締役会に議決を経て決まったことですから、ゴーん氏個人ではなく法人としての日産自動車の問題だし、刑事訴追するにしても金融庁との連携とかがない中での検察の動きは不可解でした。

当時フランスのマクロン政権下でルノーの支配権を強化する法案が可決されて日産が飲み込まれるということで、日本政府もフランス政府を非難していたこともあり、ルノー/日産の会長を兼任するゴーン氏を追い落とすことを目的とした国策捜査も疑われました。結局ゴーン氏の逃亡で真相は藪の中ですが、ゴーン氏に後継指名された志賀氏とその後の西川氏の不仲もありましたし、西川氏も取締役会決議で社長職を解任されたのですが、豊田氏はそれを助けて院政を後押しした疑惑もデジタル経済はビッグブラザーの夢を見る?で指摘した通りです。スペースワンの出資者はキャノン電子、IHIエアロスペース、日本政策投資銀行などが名を連ねる官製ベンチャーですが、JAXAには三菱重工が食い込んでいるから敢えてライバル企業に粉かけてという経産官僚らしいと言えばらしいやり方ですが、宇宙ビジネスに壁を作るつもり?

日産のゴーン改革がうまくいったのは、元々部門間の壁が厚く不仲だった当時の日産の各現場から選抜したクロスファンクショナルチームで本音をぶつけ合うことで、部門間の壁を取っ払い会社全体をワンチームにするという教科書通りのチームビルディングの成功事例だったのですが、ポストゴーン体制で経営陣に亀裂があったことで、豊田社外取が余計なことをしてぶち壊した結果、米中で苦戦する日産の対応能力の低下を招いたと見ることができます。壊したはずの壁が再度成長してしまった訳です。

その一方で当時プジョー・シトロエングループ(PSA)がフィアット・クライスラー(FCA)との統合を決めてステランティスとなるなど欧米の自動車産業の合従連衡は進んでいて、PSAは本当はルノーとの統合を希望していたけれど、ルノーと日産のゴタゴタでFCAに切り替えたとも言われます。とすればフランス政府も余計なことをしたことになるかも。日本メーカーは規模で劣る状況が続いてきた訳ですが、今回のホンダ/日産の統合でさらに三菱自自動車の合流も囁かれる中で、日本もやっとトヨタとホンダ/日産の2系列に収斂されたということは言えますが、統合後の会社の壁は残りますからまだまだどうなるかはわかりません。

まあ結果的にメーカーが多すぎると言われた日本の自動車産業ですから前向きにとらえることは可能ですが、メディアの報道姿勢はやはり楽観的というか何というか。既に商用車メーカーはベンツ系の三菱ふそうがトヨタの持ち分は残るとはいえ日野の救済に動いていて、ボルボ系列のいすゞ/UDの2系列に収斂しており、何れも外資が支配株主です。自動車が日本のリーディングインダストリーの時代は去ったのかもしれません。大型バスに関しては三菱ふそうといすゞ/日野合弁のJバスとちょっと捩れた資本関係にはなりますが、ヒュンデやBYDなど韓国や中国の輸入バスも存在感を増しています。

でやっと鉄ネタですが磁気券IC券二重価格in新横浜でも取り上げたおそらくJR東海が意図的に仕組んだTOICAの壁問題です。東海道本線の熱海―函南間と御殿場線の国府津—御殿場間がTOIKAエリアから外されており、一方EX-ICから進化した独自アプリで乗客を東海道新幹線に誘導している訳ですが、その結果アプリを利用しない盆暮れの観光客や帰省客が水害による運休で乗変や払戻で窓口に殺到したことは台風直撃のお盆が示した課題でも述べました。JR東海が増収策で乗客間に壁を作っている訳ですが、公益企業として問題があります。またSuica互換のPASMO協議会に加盟する伊豆箱根鉄道が大雄山線のみIC化している一方、東京からの直通客の多い駿豆線では導入できないという困った状況もあります。ちなみに伊豆急行はPASMOには加盟せずJR東日本の資金援助でSuica委託販売を条件にシステムを導入して対応していますが、これが可能なのはTOICAエリアからの直通客が壁で存在しないからですね。皮肉です。

とはいえSuicaにも課題があって、導入エリア拡大でシステム上経由地の特定はできませんから、首都圏、新潟近郊、仙台近郊とエリアを分けて敢えて間を繋がない形にしていますが、それでも流動の多い区間例えば常磐線いわきや中央篠ノ井線松本などを首都圏近郊区間に組み込んだりしている訳ですが、その結果途中下車すると打切り計算になるし有効期間が当日中になるなどの問題もあり、国鉄時代から引き継いだ旅客営業規則と整合性が取れなくなってきているということもあります。加えてコロナ禍によるサプライチェーン混乱でFelicaチップが入手困難となってSuicaの新規発行を止める事態となるなど逆風もあります。更にこのニュース。

熊本のバス・電車5社、交通系ICカードを11月15日で廃止 - 日本経済新聞
全国共通ICカード乗車券から熊本の5社が離脱し、来年3月をめどにクレジットカード決済のシステムを導入するとしております。国が音頭を取って共通カードが導入されたものの、導入時こそ補助金が交付されたものん、機器の更新時期になっても補助金はなく事業者の自己負担となることから、追随する地域が出ることが予想されますが、熊本の場合は「くまもんのICカード」と呼ばれる地域振興カードのみ利用可能で、発行主体は肥後銀行ということですが、TSMC効果で人口増の熊本県地盤の地方銀行の強気が決断に繋がったのでしょう。とすると他の地方でおいそれと追随とはいかない可能性もありますが、JR東日本の銀行参入と逆に銀行の交通事業者取り込みという意味では興味深いとはいえ、結局利用客の囲い込みで壁を作ることに変わりはありません。こうして事業者間の連携が乱れると公共交通の利用者を遠ざける可能性もあります。

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Sunday, October 27, 2024

もう一つの高齢化問題

高齢化社会と言われて久しく、人口に占める高齢者の比率も高まる一方で、それを支える現役世代の負担増問題は深刻ですが、それをネタに「高齢者は早く死んでくれ」と言わんばかりに尊厳死に言及する国民民主党玉木代表のような議論も出てきますが、当然ながら論外です。国民民主党は選挙公約で「手取りを増やす」として社会保険料減額や年収の壁対策を訴えています。20代30代の支持層が多いことの反映でしょうけど、世代間対立を煽るだけで寧ろ解決を困難にします。

よく言われる年金の世代間扶助は元々賦課方式年金では形式上そうなる訳ですが、高齢者の増加の一方で現役世代の人口減少で負担が増すことに対してはマクロ経済スライドなどの対策で対応中ですが、誤解の多い所得代替率は年金支給開始時点での現役世代の所得が基準であって、本人の現役時代の所得が基準ではないという点です。つまり現役世代の所得が高ければその分年金支給額は増える訳で、支える現役世代の所得を増やせれば問題は解決します。真の問題はその現役世代の所得を増やす展望が開けない点にあるということです。

保健医療に関しても、高齢者の医療費を現役世代が負担するのは不公平と言われますが、高齢化の進捗と共に高齢者医療費が増えること自体は避けられませんが、この裏には高齢者医療のボリュームが増えることから、それを当て込んだ新薬や医療技術の開発が活発になり、その結果膨らんだ開発費を価格転嫁した高額医療が増えていることが影響している訳で、簡単な解決策はありませんが、基本的にはウェルビーイングで健康寿命を延ばし高齢者を元気にすることが大事です。その意味では薬やサプリメントの過剰摂取による腸内環境の劣化が指摘されるように、そもそも現状が過剰医療である可能性があり、その辺の意識改革に解決の糸口を見出すことが大事です。

てことで本題。減耗する固定資本に沈む夕陽の続編です。

道路陥没、3週間で3回も 老いるインフラ「保全技術」課題 - 日本経済新聞
水戸市の市道で3週間に3度の道路陥没が起きました。地下の老朽化した下水道管の破損が原因ということで、通行止めにして補修工事を実施したのですが、公共インフラの老朽化は全国的な問題で、しかも自治体財政の逼迫と人手不足で補修や更新が追い付いていない現実があります。つまり公共インフラの維持管理という悩ましい問題が顕在化している訳です。

固定資本減耗というのはマクロ経済で言うところの資本の維持費で、GDPの三面合一の分配面から見た恒等式「GDP=雇用者報酬+固定資本減耗+営業余剰」で表されます。上記エントリーでも触れましたが、GDPの名目値がほぼ変わらなかったゼロ年代で見るとほぼ107兆円程度の水準で推移しており、一方雇用者報酬は減り営業余剰が増えています。

雇用者報酬は企業会計で言うところの人件費に相当し、固定資本減耗は減価償却費に相当し、残余が営業余剰となり、これが投資資金、役員報酬、株主還元、納税の原資となります。そして固定資本減耗は過去の投資資金の回収の意味合いがありますから、通常は投資によって増えていく筈ですが、変わらないということは過去の投資回収分を超える投資が行われなかったことを意味します。そりゃ長期停滞する筈だわ。

その一方で公共投資はバブル後の90年代以来増え続けてゼロ年代で停滞したことは確かですが、アベノミクスで増やされ、財政を圧迫する訳ですが、一方で人手不足で公共事業の執行段階での入札不調の影響で停滞したこともあり、上記エントリーで危惧した公共インフラの固定資本減耗の膨張は制限された面はありますが、一方で補修や更新も滞るということになった訳です。

地震で盛土崩落の東名高速でも指摘しましたが、元々単年度主義の公会計では減価償却は考慮されず、それに準じた高速道路通行料でも減価償却費は計上されていなかったから、東名の地震による盛土崩落や中央道笹子トンネルの天井板落下のようなことが起きる訳で、流石にまずいということで補修費の計上が増やされるようになりましたが、作業員を確保0できなければ補修工事も進まない訳です。そしてこれらの費用は税金で賄われる訳ですから、リタイヤした高齢者ではなく現役世代の負担となる訳です。社会保障費で世代間対立を煽るのがバカバカしくなりませんか?

こうした現状は災害復旧にも影を落とします。阪神大震災や東日本大震災と比べて能登半島の復旧遅れは深刻ですが、東日本と比べても人手不足は深刻になっている訳で、災害復旧に時間がかかるようになっている構造問題もあります。鉄道関連でも球磨川氾濫で長期運休中の肥薩線が未だに復旧工事に着手できていません。国が道路予算や河川予算を使った支援策を打ち出してもJR九州が渋っている現実がある訳で、復旧しても大赤字でそこへ社員を張り付けるのも難しいということで、JRのローカル線問題が単なる赤字問題ではくくれなくなっていることを示します。同様の問題は芸備線、米坂線などにもありますが、ハードの復旧費を手当てするだけでは済まない問題です。

加えて言えば今後はインフラの補修や更新が課題となり、財政を圧迫することは確実です。そうした状況での新規のインフラ投資は慎重であるべきです。少なくとも費用便益比(B/C比)が相当高い案件に絞るべきです。その観点からB/C比ではっきり差が出ている北陸新幹線の延伸ルートは小浜京都ルートではなく米原ルートを選ぶのが合理的です。

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Saturday, September 21, 2024

赤字3Kの掟?

JRの掟?の続きのニュース。

東北新幹線、走行中に連結外れる 国交省が原因究明指示 - 日本経済新聞
300km/h超で総胸中の列車分離という重大事故です。連結器には損傷がなく、システムj上5km/h以下でしか作動しない筈の連結器開放テコが動いたとしか考えられない事故です。新幹線でも通常の電連付き密着連結器が使用されていて、開放テコは運転席からの遠隔操作で自動化されてますが、走行中はロックされている訳で誤操作の可能性もほぼ無い訳ですが、1974年9月12日の新幹線品川事故で当時の品川運転所部機器部でATC建屋内に車両洗浄機用のトランスが置かれていて、電磁誘導で信号電流類似の異常電流が流れて信号が乱れたもので、言ってみれば偶然発生したノイズ電流がキャンセルされずにシステムが信号電流と認識した事故が思い出されます。

列車分離後は非常ブレーキで停止してけが人は出なかったのですが、JR東日本によると分離した編成の非常ブレーキの方が強く作動するようになっていて、300m離れて停止したということで、フェイルセーフが働いたとは言えます。災害の備えと憂いの東海道新幹線の保守車両事故のところで説明した自動ブレーキというのは、圧搾空気を封入した加圧管を編成全体に引き通し、列車分離すると圧力が下がってブレーキシリンダ―が動いて停止するという仕組みですが、電気指令式になっても同様の仕組みは組み込まれております。しかし高速走行中であり、誤作動の可能性があることが分かった訳ですから、原因究明が大事なのは言うまでもありません。そして輪軸組立でも新展開です。

京王電鉄系「京王重機整備」、車軸1786本の数値改ざん 京王・都営で使用 - 日本経済新聞
JR貨物で発覚した輪軸組立工程のデータ改ざん問題が私鉄にも飛び火してます。東京メトロで傘下企業の不正が発表され、東京都からも都営地下鉄で発表がありましたが、都営地下鉄の輪軸組立は京王電鉄系列の京王重機整備に委託していて、更に関東を中心に多くの中小私鉄からも委託されていて大ごとになってきています。そして京王重機は特装車の製造や戦車を含む自衛隊車両のメンテナンスなども請け負っており、東京特殊車体名義のオーダーメードバスではとバスなどの事業者に納入されております。

鉄道のメンテナンス部門は言うまでもなくコストセンターで、固定費の重い鉄道事業にとってはコスト削減が重要なのですが、規模の小さい中小私鉄にとっては重荷ですが、大手私鉄でも中規模の京王電鉄でもやはり重荷です。そこで他社のメンテナンスや車両改造、更新修理などを請負って規模を確保した上で委託事業者から受け取る委託料も入るという訳で、京王グループにとっては欠かせない事業ですが、それ故にコスト削減圧力も強かった可能性があります。加えて言えば輪軸組立の圧力データの関するルールも曖昧なところがあって、基準値を超えても超音波探傷などの非破壊検査で不具合は確認できるということでスルーされやすいというか、結果オーライで済ます傾向はあるかもしれません。民間事業では赤字は悪という意識は強いですし。

一方で公共部門でかつて赤字3Kと呼ばれた事業があります。国鉄、健保、国民年金の頭文字Kをとって呼ばれたものですが、国鉄はそれを理由に分割民営化されてJRになり、健保、正確には中小零細企業対象の政府管掌健保ですが、47都道府県の広域連合としての健康保険協会を立ち上げて保険者が政府から協会へシフトして、謂わば体よく地方に押し付け、国民年金は今も制度としては存続してますが、1985年の年金改革で基礎年金が制度化され、財政規模が大きく余裕のある厚生年金からの会計間扶助で悪名高い第3号被保険者制度が作られ、今に至るもそのままです。以後5年ごとの財政検証が行われ、2004年には100年安心プランが打ち出され、現在に至ります。今年も財政検証が行われましたが、詳細は別の機会に取り上げます。

国鉄の赤字は赤字ローカル線のせいだということで、国鉄時代に赤字83線区廃止が打ち出され実行されたものの国鉄の赤字は解消するどころか累積し、次いで特定地方交通線切り離しでバス転換、私鉄、三セク鉄道引き受けなどが進められ、民営化後も続きました。そしてJR北海道と四国の慢性的赤字やJR東海を除くJR旅客会社の線区別営業係数公表などで地方ローカル線の存続問題が出てきていますが、厄介なのは特に上場3社の場合は全行黒字故に公的支援を受けられないことです。地方中小私鉄や地法交通線転換三セクは公的補助を受けやすいし、JR北海道や四国も鉄道・運輸機構への預託による利子補給や基盤整備補助などで事実上の公的補助を受けています。それでも出口の見えない厳しい状況は続きます。

JR北海道の4〜6月、札幌圏が黒字転換 新幹線は赤字縮小 - 日本経済新聞
唯一黒字転換の可能性のある札幌圏の黒字転換と北海道新幹線を含む赤字縮小で全体的には収支が改善したものの、札幌圏の内部補助で全体を支えることは不可能です。北海道新幹線の札幌延伸も遅れているし収支完全効果もどの程度か?並行在来線の切り離しで改善はするでしょうけど、鉄道ネットワークを維持するには至らないでしょう。加えて老朽車両取り換えで新車を多数投入してますが、その減価償却費が重荷となります。公共部門の赤字を理由とした民営化の限界は確実に見えています。

一方でかつての食糧管理制度の赤字は問題視されることなく、減反に伴う添削補助金や資料米その他の食用米との差額補助はされてコメ不足でも備蓄米は出さずと、国民生活をないがしろにしながら国民生活を支える公的な赤字は許さない、そんな政府は変えたいですね。

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Saturday, June 15, 2024

これからも失われ続ける日本

円安が止まりません。原因はこれ。

日銀政策決定会合、量的引き締めへ転換 国債購入減額「相応の規模」 - 日本経済新聞
国債買い入れ減額による量的引締めの予告ですが、利上げと共に次回の議題ということで今回は現状維持ということで円安圧力は続きます。日銀の慎重姿勢は金利の大きな変動の悪影響は為替変動の比ではない混乱をもたらしますから動くに動けないのが本音。赤字が常態化した拡張的な財政運営を日銀の実質国債引き受けでファイナンスして為替の円安誘導したものの、国内企業の製造拠点海外移転で輸出は増えず、逆に資源高で貿易赤字が定着したため、財政と貿易の双子の赤字状況になっております。アメリカの80年代を見ればわかる通り、国力の低下による構造的な変化なので、米FRBの利下げで一気に反転する状況にはありません。

賃金ホントに上がってる?で金利を名目で見る短期の投機筋の動きは直ぐに止みますが、日本が未だマイナス圏にある実質金利に反応するのはより期間の長い中期資金ですから、目先のイベントに反応するより腰の入った投資ポジションを採ります。故にこれを反転させるためには米利下げと日本の利上げが複数回続くぐらいのことがなければ実現しません。故にインフレは今後も続きますし財政赤字は財政インフレとなって国民生活を圧迫し続けます。そんな局面での「バターより大砲」の防衛費増額はさらに国民を苦しめます。

産業政策としての半導体ですが、台湾TSMC熊本工場の影響で関連企業の投資も呼び込んでますが、政府の補助金大盤振る舞いが功を奏してるものの、日本企業はあくまでわき役ですし、電力と水を大量消費する半導体産業の成長の持続可能性はいかほどか。AIブームで時価総額が一時アップルを抜いたエヌビディアのGPUの電力消費の大きさから、気候変動問題がAIで解決可能になるか寧ろエネルギー消費を増やして気候変動の原因になるかという議論が既に始まっており、著作権やフェイク問題、さらに労働市場への悪影響など不確定な問題が山積しております。国や財界は円安メリットとしての製造業復権に期待があるようですが、生産年齢人口の減少が立ちはだかります。そこで政府は技能実習生に代わる育成就労を制度化して外国人労働者を増やそうとしてますが、そもそも円安で稼げなくなった日本にわざわざ来る外国人がどれだけいるのか。本当に現実が見えていませんね。こんなニュースも。

企業物価指数、5月2.4%上昇 4カ月連続で伸び率拡大 - 日本経済新聞
消費者物価の先行指標とされる企業物価指数の上昇が続いており、転嫁が進めば消費者物価に波及することは確実です。「物価と賃金の好循環」が如何に空疎かということです。加えてこれは日本だけではありませんが、企業の価格転嫁が便乗値上げの疑いが指摘されております。これはマクロデータのGDPデフレーターに見られるGDPの名目値と実質値の乖離が欧米も含めて大きく、名目値はプラスなのに実質値はマイナスという状況が続いています。つまり企業の強欲が国民を苦しめている訳です。こうした企業にとって心地よい状況を続けるには企業献金やパーティ券購入で政治家に裏金作らせて見返りを求めることは続けたい訳です。

とはいえ労働力不足は簡単には解消できず、特にサービス業の人手不足は深刻で、2024年問題による働き方改革も影響します。特例で長い待機時間を認められていた運輸業も規制対象となります。故により多くの人手を確保しないとサービスを維持できない訳で、運賃値上げの要件緩和もあってJR東日本をはじめ各社が値上げに動いています。DXブームに乗ってみどりの窓口を減らしたり営業時間を短縮したりしたものの、ネット予約や指定席券売機のユーザーインターフェースの使いにくさもあってJR東日本は見直しを宣言しました。複雑な運賃料金制度やマルスシステムの縛りもあってうまくいきません。故に省力化も足踏みとなる訳ですが、そうなると例えば豪雨被害で長期運休中の肥薩線のように、道路予算や河川予算を投入してJR九州の負担を軽減しても、JR九州が渋っているために復旧が手つかずとなってますが、仮に復旧しても赤字路線だし、そこに人手が取られれば全社的にマイナスという判断になる訳です。

よく引き合いに出されるJR東日本只見線では福島県と沿線市町村で54億円を負担して線路を普及した上県が第三種事業者となって第二種免許を受けたJR東日本が運行する上下分離形態で復旧したものの、福島県包括外部監査ではバス転換の方が地域活性化できた可能性があると指摘されるなどしており、これが今後のローカル線維持のロールモデルになるかどうかも不明です。やはり災害で長期運休中の津軽線中小国―三厩間もバス転換が決まりました、但し人手不足が深刻なバスによる転換も今後は困難が予想されます。という訳で政治家や企業のやりたい放題を放置した結果、ドン詰まりの未来しか見えないのが現状です。

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