第三セクター鉄道

Friday, May 03, 2024

国家は憲法でできている

本題に入る前にインフレ定着の続きです。

【ドル円相場】円再び下落、介入観測後も157円台後半 強い米物価警戒 - 日本経済新聞
先月29日の乱高下で日本政府の覆面介入があったと見られます。更に今月2日早朝にも同様の介入と見られる動きがあり、29日に5兆円、2日に3兆円規模の介入と見られています。なんでそんなことがわかるかといえば、日銀当座預金の残高が相当額減少したからです。

政府の為替介入の原資は円売りドル買いの場合は日銀が米NY連銀に持つ口座を利用してドル買いする訳で、円の供給量が増えるので事後的に政府短期証券と呼ばれる短期国債を発行して民間から資金を集めて戻して日銀の金融政策への影響を相殺するという手順となりますが、ドル売り円買いの場合は外貨準備のドルを取り崩して円を買いますから、日銀が買い取った円は消滅し、その分当座預金残高が減る訳です。

日本の外貨準備は凡そ1.3兆ドル、円換算で200兆円程度で日銀に預託されていてほとんどはアメリカ国債で運用されています。介入資金は国債以外のドル建て現預金を用い、その規模は円換算で50兆円程度と見られ、今回その一部が使われた形です。故に介入資金はまだあり、今後も介入の可能性はありますが、結局事後的に相場は戻してしまいます。故に無駄なことしてる訳ですが、円安対策としてやったフリはできる訳です。

尚、巷間謂われる円安による外貨準備の含み益は上述のように日銀が円を買えば消滅する訳ですから、含み益は実現せずそれを防衛費などの財源にという議論は成り立ちません。確かに外貨準備でアメリカ国債などで運用された分についての利子分の歳入はあり年度ごとの決算で剰余金として計上されますが、法律により一部は外貨準備に繰り入れられた上で一般財源に拠出されますが、円安による含み益はその時点で発生するもので、その規模も防衛費を賄うレベルには遠く及びません。「含み益を財源にしろ」という経済専門家は無知か噓つきかのどちらかです。

一方で投機筋は安心してくださいで指摘した3重の下駄ばき状態でたっぷり含み益を抱えてますから、一時的な相場の乱高下でも慌てる必要はなくあまり動揺していません。そもそも投機筋の動員する資金は政府の介入資金の2桁上で勝負になりません。勝てない戦を仕掛けて抜けられないってアレ?先の大戦と同じじゃん。

という訳で憲法記念日恒例の護憲改憲論争ですが、議論は全く深まりません。何故かといえば議論がとっ散らかっているからで、例えば9条の見直しで安倍政権時代に自衛隊明記の方針を打ち出した訳ですが、これが議論を複雑にしています。主権国家に備わる自衛権の為の実力組織である自衛隊は軍隊じゃないとして戦力放棄に抵触しないというのがこれまでの標準的な憲法解釈だったのですが、憲法に敢えて自衛隊を明記するとすれば自衛権に関わる条文も足さないと整合性が取れません。そしてその場合自衛権の範囲を自国の領土と国民の防衛に限定する個別的自衛権とするのか、同盟国の防衛も含めた集団的自衛権とするのかという点が問題になります。

そうすると厄介なのは現行憲法の解釈変更で集団的自衛権を限定的に容認した安保法制との整合性も問われることになります。憲法で個別的自衛権に限定されれば安保法制は違憲立法として無効になりますし、憲法で集団的自衛権を認めたとしても、国会が発議して国民投票に問うと安保法制込みの国民投票となる訳で、国民の賛同は得にくくなりますし、万が一否決されれば安保法制の在り方が再度議論になり与党にとっては都合が悪いことになります。つまり安倍元首相の憲法理解が浅すぎて議論を混乱させているのが現状ってことです。改憲議論に地雷が埋まってしまった訳です。

遡ればそもそも明治政府が憲法制定に汗かいたのは、幕末の混乱の中で列強から押し付けられた不平等条約の解消の為だった訳で、故に天皇を頂く立憲君主国として自国を定義する狙いでしたが、所謂皇道派の横やりで天皇親政的な解釈に幅を持たせた妥協の産物でもありました。こんなだから昭和の政治不信と改革官僚や軍部の専横で国を戦争に追い込んでしまった訳です。その流れで敗戦後の新憲法制定も自主的にできずGHQ原案が押し込まれた訳ですが、そのことから押し付け憲法論で改憲が必要という理路となる訳ですが、その結果中身の議論がお粗末になってしまった訳です。この辺をクリアにした改憲議論は長い人生で一度も見たことがありません。

よく言われる条文が少なく具体性がないとか理念ばかりで実効性がないとかも、そもそも国の基本法である憲法は最低限の国の在り方を定義したもので、具体性や実効性は個別具体法で定義するってのが立憲主義憲法なんですから、この手の批判も的外れです。そして具体性や実効性を伴う法律を作るのが立法府であり「国権の最高機関」たる国会です。その国会議員の憲法改正議論がこの体たらくですから日本国憲法は100年経っても変わらないでしょう。憲法改正よりちゃんとした法律作れ!

例えば全国新幹線整備法という法律がありまして、新幹線は万能ではないでも取り上げましたが、元々新幹線鉄道は国の事業とされていて、制定当時は公社化された国鉄という実体があり、しかも独立採算制故に国の財政資金を使わないで国土開発に資する目的が定義されていました。その前提が崩れたのが国鉄分割民営化です。

本来ならばこの時点で見直して法改正すればよかったのですが、そうせずに法解釈で対応しました。それが一定の条件の下で条文の「国」を分割後の各旅客会社に読み替えるというもので、民営化された旅客会社に過重な負担をさせないために並行在来線を旅客会社から切り離すことと、それを踏まえた地元の合意が得られることと、国の事業としての広域国土開発に資することという形でJR、地方、国の3者が合意することが求められました。加えて資金の手当てで92年のJR本州3社による買い取り代金の査定額に上乗せして拠出した鉄道整備基金で整備し、JRが受益の範囲で30年リースで負担した残りについて国と地方が2:1の割合で分担するという整備新幹線スキームが作られました。国の事業と言いながら財政資金が投入されない事業故に整備資金スキームを苦労してひねり出した訳です。

この辺も法改正して財政資金投入ではなく事業ごとに毎年度の必要額を査定して予算請求するスタイルなので潤沢な資金がある訳ではなく、結局JRと地方の合意を待って予算化されるということになります。そんな予算のやり繰りがあるので費用便益(B/C)比を重視して高い経済効果のある事業への優先傾斜配分という運用がされていて、第1号事業は長野五輪対応もあってJR東日本を事業者とする北陸新幹線高崎―長野間とされた訳です。

但しB/Cの算出は簡単ではなく幾つもの仮定を置きますから正確無比とも言えず、ある種恣意性が入り込む余地はあります。その結果例えば当初フーパ―特急方式で整備が予定されていた九州新幹線鹿児島ルートでは、実績のない狭軌200km/h営業運転での経済効果を謳って優先順位を上げてましたし、当初沼宮内―八戸間フル規格で間をミニ新幹線でつなぐ計画だった東北新幹線延伸部も全区間フル規格でスピードアップ効果を評価してB/C比を高く見せ、更に当時事業化されていなかった北海道新幹線が事業化された場合の培養効果とか、鉛筆ナメナメ数字を作ってなし崩しでフル規格化が進んだりとデタラメな運用がされてきました。

その結果何が起きたかと言えば佐賀と滋賀で「詐欺だ!」でありやもめのジョナサン でありということですね。そして北陸新幹線敦賀開業での新在乗継レース^_^;という乗客無視に等しい失敗が起きている訳です。にも拘らず敦賀から新大阪までのルートは五里霧中です。上記整備新幹線スキームに従えばB/C比2倍で事業費も少なくて済む米原ルートが選択される筈なんですが、与党PTの横やりで小浜京都ルートという実現可能性の低いルートが地元合意を経ずに調査費が計上されるという脱法的な手続きが行われております。法改正どころか運用ルールも守れない与党議員とは醜悪です。

更に整備新幹線スキームに属さない中央リニア事業も全幹法に基づく国の事業ですが、JR東海の自己資金事業ということで地元合意もなく進められ、3兆円の財投資金投入で政府が支援というのは法的には説明のつかないところです。憲法以前に法律を守れない裏金議員の好き勝手は許すべきではありません。憲法改正以前に立憲主義憲法が空洞化していることこそ問題であって憲法改正があっても無くても問題は何も解決できないということです。

という具合に個別具体法の適時改正もできない与党に改憲発議ができるとは思えません。一説によれば岸田政権は改憲発議を急いでそれを争点に会期末解散を狙っていると言われます。壺や裏金で支持率ガタガタの起死回生の憲法改正だとすると動機が不純すぎますね。

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Saturday, March 23, 2024

インボイス始めました

確定申告が終わって一息つきました。やはりというか、物価上昇の影響で経費が膨張して課税所得は激減です。インフレが憎い-_-;。また昨年10月1日付で適格請求書発行事業者に登録されて消費税の納税義務も負いましたから、所得税と消費税の2回の確定申告となりました。消費税に関しては1-9月の非課税事業者期間と10-12月の課税事業者期間があって区分経理で仕分けがメンド臭かったけれど、インボイスの電子帳票保存などは経過措置で紙で良いということになりましたので、当面紙で対応して電帳対応はゆっくりやればよいということで助かってます。

とはいえインボイス対応は零細企業や個人事業主の事務負担を高めたことも確かで、自民党の裏金問題に厳しい目を向けられるのはタイミングですね。昨年末の発覚時は安倍派中心でその影響力を受ける岸田政権にとってはチャンスでもあったのですが、他派へ波及し、特に岸田派の会計責任者の訴追で捨て身の派閥解散でサプライズを演出するも、世論の逆風が収まらなかったのは確定申告の時期に当たったこともあるでしょう。好事魔多しですね。

米ドジャースの大谷選手の専属通訳水原氏の事件は意外でしたが、野球も賭博対象となるアメリカでプロ選手が違法賭博に関わったってのは、本人の関与の有無に関わらず重大事件になります。ドジャース移籍でプロアスリート世界最高年俸を得て結婚し、公私にわたって絶好調だっただけに痛いところです。日本の国税庁にあたる内国歳入庁(IRS)とFBIが捜査に動き、MLBも本人から聴取するということで最悪身柄拘束もあり得ます。

てなことに関係なく円安株高は続きます。日銀政策決定会合の後で米FOMCで利下げ示唆があって米国株が値上がりした流れで日本株も上げてますが、日銀はマイナス金利解除でも緩和的と言いFRBは利下げするけどまだ先と言い、結局枠組みは変わらないということで安心してくださいで指摘した通りの展開です。但し日本株はともかく米株はバブルの水準ですから、この相場がいつまでも持続する訳ではありません。外国人相場の日本株もいつ資金が引き上げられるかはわかりません。円安相場では利益確定の売り逃げで終わると見るべきでしょう。

てことで特に新NISA出で株始めた人は要注意。損切りで売却損が出た場合、普通口座や特定口座なら確定申告で配当所得との損益通算ができますし、本業が低所得なら総合課税を選ぶことで配当控除が使えます。非課税のNISA口座ではできません。また配当所得は年20万円以下は課税免除となります。故に非課税だからといった理由ではなく、自分に合った投資スタイルを見つけることが大事です。基本的に資金力の乏しい個人投資家は株を長く持って配当を受け取ったり株主優待を受けたりしてメリットを得るといった狙いで良いでしょう。その意味では明らかに高値の現状で株を仕込むのは悪手でお勧めできません。

あと蛇足的ニュース。

国際機関の拠出金、当初予算で未確保 円安が外交に影 - 日本経済新聞
当初予算の想定為替レートを超える円安で拠出額が不足してしまい、補正予算でカバーすることが検討されています。つまり税金の一部が海外へ流出することになる訳で、その分政府支出を圧迫し行政サービスを低下させる訳ですね。こうなるとただでさえ遅れが指摘される能登半島の復興が進まなくなるでしょう。それでいて武器購入や五厘や万博には景気良く税金を投入するのですから救われません。特に自衛隊の出動を怒らせたりボランティアの現地入り自粛を求めたりと疑問だらけの対応ばかりで政府によるプッシュ型支援打ち切りとかひどいことばかりです。

そんな中で被害の大きかったのと鉄道の能登中島―穴水間が4月6日に復旧し全線運行されるのは朗報です。ボランティアの現地入りもやり易くなります。但し未だに宿泊場所がないから、例えば金沢などからの通いで対応となり移動時間分だけ作業時間が圧迫される訳です。当然ながら観光客を受け入れる余裕はありません。その一方で北陸新幹線敦賀延伸開業で観光客を呼び込もうとしているなど、政府や県の対応はチグハグです。そもそも自衛隊の災害復旧というのは前線補給のロジスティクス能力の活用な訳で、それがうまくいっていないのは実際の戦闘能力に疑義があるってことでもあります。これで国を守れるのか?

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Sunday, March 10, 2024

徒然に大草原wwwwwwww

8日の大雪予想は外れてくれて助かりました。滑って転んでばかりはいられません。しかし滑りっぱなしの政権の迷走は続きます。例えば減税。

減税の事務負担、企業・自治体が反発 政権浮揚効果に影響 - 日本経済新聞
賃上げ時期の実施で手取りが増えて見える効果を狙ったもpのですが、その結果ただでさえ賃上げに伴う給与計算見直しの事務負担がある時期に減税までやらなきゃならないため、企業や自治体が悲鳴を上げています。ホント岸田政権は現場感覚皆無の思いつきばかりです。
経済安保情報、明確な基準を要求 関連法案で経団連提言 - 日本経済新聞
これザックリ言えば特定秘密保護法の民間版です。特定秘密は公務員が対象でしたが、経済安保情報は民間企業や個人が対象で、厳罰化の一方で基準が明確ではないため、第二第三の大川原化工機事件になりかねないだけに、財界が基準の明確化を政府に要請したってことです。民間に疑心暗鬼が広がればイノベーションを阻害することにもなります。中国の反スパイ法のように経済活動を抑制しかねません。
離婚後の「共同親権」導入、民法改正案を閣議決定 - 日本経済新聞
一緒に居られない、あるいは居たくない事情があって別れた両親が共同で子育てって現実的にあり得ません。子どもの養育費の未払いを防ぐ方法としては公正証書作成で縛りを入れることは可能ですし、公正証書作成を義務付けて違反した場合の厳罰化など実情に即した見直しの方法はありますし、親権を持たない側の面会権は現行法でも認められております。そして両親が共同して子育てや教育の方針を決められるならそもそも別れる必要もありません。子どもの教育方針で対立した場合や子連れ再婚の阻害要因にもなりかねず、これらの解決の困難さは結局子どもが被害者となる訳で、何一つメリットはありません。子育て支援にも逆行します。明らかな悪法です。おそらく母が親権を得ることが多いことを快く思わない壺系議員の父権パターナリズムを喜ばせるだけです。
少子化対策の支援金、負担額「月1000円超の可能性」 加藤こども相 - 日本経済新聞
その子育て支援の財源に健保などの社会保険料に上乗せして確保する訳ですが、これ子育て世代の負担が増えるってことです。でも賃上げと減税で実質負担はないというのが政府の説明です。つまり賃上げも減税も行って来いのお金で手元に残らないってことです。インフレ下では実質マイナスです。
<子育てとお金>大学資金、まず預金・国債で - 日本経済新聞
満18歳または高校卒業までの児童手当でカバーできない大学資金は結局貯蓄で賄うしかないのが現実です。大学の学費や教材費が高すぎるのがネックになっている訳で、大学の学費無償化や奨学金制度の見直しの方が子育て支援には有効です。
公共工事の費用対効果、5割で悪化 着工後も増額頻発 - 日本経済新聞
ライトなリスクでもライトラインの公費部分の費用便益比(B/C比)悪化が指摘されてますが、昨今の公共事業は押しなべてB/C比が悪化してます。R20八王寺南バイパスでは鉄道との立体交差部分での鉄道会社との調整不足で工事費が見直されたように事業費の見積りの甘さが指摘されてますし、R103奥入瀬バイパスでは3,200台/日の需要予測に対して実績が2,700台/日でB/C比が1.0から0.7に悪化したりと需要面の見積りの甘さが指摘されてます。インフレや人手不足で事業費が膨張する傾向はあるものの、簡単に増額を認めるのも問題です。経済効果マイナスの公共事業はマクロ経済にとってもマイナスです。
送電ロスなし「超電導」、伊豆箱根鉄道に 営業路線で世界初 - 日本経済新聞
最後ぐらいは草生えない話題・JR総研が伊豆箱根鉄道駿豆線大仁駅近くで13日から超電導送電の営業稼働を始めるというニュースです。ささやかな1歩ですが、送電ロス無しに直流電気を遠距離送電することが可能になしますし、電圧降下を防げますから、将来的には変電所の集約も可能になります。その結果1セクション内の列車数が増える訳で、力行と回生のマッチングも容易になり副次的な節電効果も期待できます。大電流に悩まされる首都圏の通勤路線で採用されれば効果絶大ですし、一方で地方路線では出力調整で余っている再エネ電力を利用した地産地消も可能になるなど可能性は広がります。リニアより汎用性の高い超電導技術の可能性が開けます。

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Saturday, March 02, 2024

円安でつくばとねり的ライトなリスク

来年度予算の年度内成立が確定しました。

2024年度予算案が衆院通過、年度内成立へ 総額112兆円 - 日本経済新聞
憲法の規定で予算案は衆院優越で衆院で可決成立すれば30日後に自然成立となることから、年度内成立が確定した訳ですが、23年度本予算と補正予算で予備費を大量に積み増して使い残している現状からすれば、予算成立が遅れても執行に影響することはなく、能登半島地震の復旧復興などへの影響はほぼありません。寧ろボランティアに制限をかけたりして足を引っ張っているのは国と石川県です。やるべきことをやらない責任は政府と県にあります。

寧ろ新年度予算の審議が生煮えで成立させたことの方が問題です。それでも強行採決に及んだのは岸田首相の意向が強かったようです。政治とカネ問題で炎上中で、予算審議を質に取っての追求は野党として当然の戦術ですが、衆院成立後に送致される参院の予算委でも追及されることを嫌った模様です。その為の岸田首相の政治倫理審査会への出席だった訳で、早くこの問題に蓋をしたいのが本音です。しかしあれほどキックバックとな還付金とか言っていたのに首相が裏金発言をしたから寧ろ火に油。しかも故安倍元首相が「やめよう」といっていたのに復活した経緯もかなり解像度が上がりました。やめようとしたのは法令違反の認識があったと考えられますし、それが覆った経緯が不透明で寧ろ疑惑を深めました。もはやトカゲのしっぽ切りでは済まなくなりました。

そんな政治の混乱をよそに、日銀のマイナス金利解除は確度を上げています。IMFでも好感を示すレポートが出され、同レポートで政府の財政支出頼みの姿勢は寧ろ批判されています。加えてここへ来ての日本株の好調が、日銀に思わぬ追い風をもたらします。異次元緩和機に大量購入された株式ETFの含み益が拡大しており、異次元緩和で国債市場が機能を失って利ザヤが消失している一方で、ETF売却で益出しできる環境が整った訳です。つまり仮に緩和見直しで保有国債に含み損が出ても、国債ならば期間をかけて償還を待てますが、売れば値を下げる株式ETFの売却問題は日銀にとっては重い宿題でしたが、高すぎる米株式に対して割安感のある日本株への海外マネーの流入は日銀にとってはチャンスな訳です。

あと日本株ETFを大量保有するGPIFも含み益拡大で投資ポートフォリオ見直し売りで益出ししますから、当面日本株は日銀とGPIFという大量保有機関投資家が売りポジションをとる訳で、新NISAで日本株投資を考えている人は、日銀とGPIFを助けたい人以外は考え直した方が良いでしょう。令和の秩禄処分の地雷です。とはいえ日銀の緩和姿勢は簡単には解消されないことも確かで、当面この構図は続くと考えられます。故に円安反転で円高は現時点では心配することではないでしょう。しかし円安の影響は意外なところにも現れています。

栃木の宇都宮LRT、車両追加へ価格7割高の衝撃 増発・検査視野 - 日本経済新聞
現在宇都宮ライトレールが保有する車両HU300形は17編成あり、昼間ダイヤで3編成が休んでいる状況ですが、4月に予定されるスピードアップで13編成で回せるようになる見込みで、利用が好調なこともあり、増発も視野に入ります。しかし問題は開業時に竣工した17編成は2027年に一斉に重要部検査の期限を迎えるため、期限前に一部編成を前倒しで検査入場させて輪番検査の体制を作る必要があり、その為に予備車確保で2編成の増備となった訳ですが、問題は増備車の価格です。新潟トランシス製のGTシリーズはアルストム傘下のドイツ企業のライセンス生産で、そのライセンス料と輸入部品代が円安で高騰し、実に7割高となった訳です。当然ながら今後の増発や西側延伸への対応が難しくなります。また検査時の部品交換も割高となることもあります。そこで国産メーカーで対応できないかということになります。
宇都宮LRT 福井鉄道フクラムライナー・広島電鉄グリーンムーバー改良型導入も一考の余地 - 日本経済新聞
フクラムライナーは阪急阪神グループのアルナ車両製のリトルダンサーと呼ばれる部分低床車、グリーンムーバーマックスは近畿車両、三菱重工、東洋電k製造、広島電鉄の4社共同開発の完全低床車ですが、純国産のリトルダンサーと異なり弾性車輪や駆動装置などドイツのシーメンス製部品が一部使われていて、やはり円安の影響は受けます。

宇都宮ライトレールに関しては開業に至る過程で紆余曲折があり、県と市が対立して足踏みしましたし、地場のバス大手関東自動車の反対もありましたし、自動車交通の阻害や財政支出を巡る市民グループの反対もありました。関東自動車は経営悪化でみちのりHDグループ入りし賛成に転じたものの、工事の遅れや見直しで費用便益比(B/C比)が当初の1.1から0.7へ悪化したことなども問題視されております。そうした市民の不満に対して立憲民主党と共産党が後押ししてますが、あくまでも市民グループの声を掬い上げる議会野党の役割ということで、新年度予算を質に裏金問題を追及することと同じで、国会の新年度予算強行採決の轍を踏まないで議論を重ねることが大事です。

それはさておき、元々宇都宮市の東西軸交通に新交通システム導入を検討したことから始まったLRT事業ですから、西側延伸で東武宇都宮駅に接続することが求められていて、検討過程でモノレールやAGTなどの高架式新交通システムでは事業費が高すぎるということでLRTになった経緯があります。しかし西側延伸の為にはJR宇都宮駅北側の陸橋に軌道を整備して駅西側に至り、メインストリートの大通りを通って東武宇都宮駅前から桜通十文字付近までの事業化が進められております。

但しこの区間は利用が見込める一方、バス路線が集中する区間でもあり、東側同様に並行バス路線をバッサリ切ることの難易度ははるかに高いと言えます。実際宇都宮大学陽東キャンパス、清原地区市民センター前、芳賀町工業団地管理センターの3カ所でアクセスバスとの乗り継ぎが図られ、ローカルIC乗車券のtotraで乗継割引サービスが導入されてますが、昼間12分ヘッドのライトレールに対して1時間1本のバスへの乗り継ぎははかばかしくないようです。利便性の乏しいアクセスバスよりもマイカーで停留所付近の駐車場に停めて乗り継ぐ方が利便性は高い訳で、西側の時のように関東自動車がバス路線再編に協力してくれるかどうかはわかりません。当然乗り継ぎによるバスの利便性低下は客離れを起こす可能性もあります。また資材費の高騰や建設2024年問題による人手不足もあり、すんなり進むとは限りません。

一方で宇都宮ライトレールの営業成績は上々で、開業半年の乗客数が予想の200万人を超える220万人に達し、月間の乗客数も開業景気が落ち着いて直近では37,000人程度で、これも想定の31,000人程度から2割増しですから上出来ですが、これが素直に喜べないのは、タイトルのつくばとねり的リスクってことです。つくばエクスプレス(TX)が好業績ながら沿線開発が急すぎて輸送力増強に追われ、車両増備、ダイヤ見直し、座席のロングシート化による収容力強化に追われて、構想にある東京駅延伸がいつまでたっても果たせず、寧ろ8連化に伴うホーム延伸や車両入れ替えで追加投資を余儀なくされてます。

また都営日暮里舎人ライナーも、やはり沿線開発が急で輸送力増強に追われこちらは収容力の大きいロングシートの新車への入れ替えで凌いでおり、既に限界に達し、コロナ禍で通勤ラッシュが緩和傾向にある中で混雑率ワーストとなったことは戻らない混雑で指摘した通りです。日暮里舎人ライナーは沿線にめぼしい集客施設がなく片輸送の非効率もあって2023年度の黒字転換予定が果たせずにいます。

TXも舎人ライナーも車両増備だけでは足らず車両のロングシート化で収容力を高めて対応するところまで追い込まれ、舎人ライナーではゴムタイヤの荷重制限から軽量化した新形車に入れ替えるという追加費用をかけた結果の収支見通しの悪化ですが、これ宇都宮ライトレールのHU300形がタイヤハウスの位置にボックスシートの背もたれを配置する構造からロングシート化は不可能ですから、車両の収容力強化のための入れ替えすらあり得るということですね。TX、舎人ライナー、ライトラインの豊作貧乏トリオになりかねないリスクはある訳です。業績の好調をただ喜んではいられないってことですね。

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Saturday, February 17, 2024

キャッシュフルなキャッシュレス社会

滑って転んでアップした後で気づいたんですが、桐島容疑者と自民党裏金政治家の共通点に気付きました。どちらも現金決済の匿名性のスキマに生存空間がある点です。現金つまり日銀券などの現物貨幣は名前が書かれている訳ではなく、人から人へと渡り歩く訳で、その動きを後追いして調べるのは困難です。これを現金の匿名性と呼びます。対して銀行などの口座取引やカード、電子マネー、QRコードなどのキャッシュレス決済は取引記録が残る訳で、犯罪捜査などで所謂アシがつく訳です。つまり政治家や派閥のパーティ券が現金で売られるのは、政治家や派閥にとっても、買う側の個人や企業にとっても都合が良い訳です。関係があるかどうかわかりませんがこのニュース。

「年越しお札」125兆円、13年連続で最高更新 - 日本経済新聞
記事では銀行のATM手数料課金が増えた影響などを指摘してます。また年末年始のお年玉や初詣の賽銭などで現金需要が増える時期ではありますが、年越しの日銀券が毎年増えていることは確かです。キャッシュレス社会のキャッシュフルな現実というのが何を意味するのかは謎です。例えばマフィア経済の比重が大きかったかつてのイタリアや麻薬ビジネスが横行する中南米などのようなインフォーマル経済では現金が動きます。果たして今の日本は?

1つ押さえておきたいのはインフレの影響です。物価上昇は結果的に現金需要を押し上げますから、その意味では整合的ですが、一方で政府発行の補助通貨である硬貨の発行は減っている訳で、キャッシュレス決済拡大と整合的です。その一方で日銀券が増えているのは謎です。利息の付かない日銀券の保有は銀行金利がほぼゼロならば所謂タンス預金として合理的ですが、それでも盗難や焼失などのリスクもある訳です。ましてインフレならば実質購買力の低下による価値の毀損がある訳ですから、インフレ下での日銀券増加はやはり謎です。表に出せない金が増えているのか?

記載漏れ3,500万円で書籍購入した二階氏の購入書籍の内訳を公開しました。二階氏のヨイショ本5,000冊他ですが、出版不況でベストセラー本でも1万冊、初刷1,000冊が今や業界標準の時代に5,000冊とはそれだけで出版社を動かせるし著者や自らへの印税もあり、また支持者へ配布することで世論への働きかけにもなります。加えて書店で平積みされて一般客の目にも触れやすくなります。取り締まる法律はありませんが、金の力で言論を買う行為は憲法で保障された言論の自由とは相いれません。民間の営利事業ならば禁止されているステルスマーケティングに当たります。

裏金問題では他にも地雷多数で、例えば政治資金団体としての派閥を解散しても、残金をどうするかは難問です。法令上は構成員による山分けで問題はないんですが、そうなるとそれを受け取った議員個人の政治資金団体側で収支報告書に記載し公開しなければなりません。これも炎上の種になります。故に解散手続きを先送りして忘れた頃にとなりますが、世間が忘れてくれるならシレっと派閥復活の芽もある訳です。いずれにしても当面動かせない金が塩漬けになる訳ですね。メディアはこの辺も注視してほしいところです。

という訳でインフレに苦しむ庶民とは無縁の世界でまともな政策が実行されない訳です。その一方でやはり庶民には無縁の株価上昇が起きていて、バブル期の最高値に迫る場面もありましたが、これだけ生活実感とかけ離れた株価上昇がなぜ起きるのかといえば、基本的にはインフレの影響です。

インフレが呼ぶGDP「5%成長」 32年ぶりの恩恵と錯覚 - 日本経済新聞
2023年の暦年でGDP5%成長という数値だけで海外投資家の日本株への関心が高まっています。つまりインフレで生活実感が悪化している日本国民の苦しみとは無縁の海外投資家が相場を押し上げている訳で、しかも米NY株上昇を受けての動きですが、個別銘柄を細かく見ると日米で共通の動きがあります。いずれも半導体が主導したものという点で共通します。最高値に迫った16日よりも15日(NYは14日)が典型ですが、多くの銘柄が値下がりする中で、米半導体メーカーのエヌビディアが値上がりし、日本では英アーム株を保有するソフトバンクグループ(SBG)が評価益拡大で値を上げて相場を主導しました。いずれも時価総額の大きい大型株故に相場を押し上げたもので、特殊要因が働いたと言えます。故に今回の相場の持続性には疑問符がつきます。

一方インフレによる名目GDP上昇は株価に連動しますから、株価上昇が国民の生活実感と乖離しているのはひとえに政策の不整合によるもので、具体的には日銀の金融政策を引き締めにシフトすることが必要ですが、そうなるとインフレで財政負担が減じている政府の債務に金利上昇圧力をかけることになり、財政政策との整合性が取りづらいということもあり、中途半端な対応に甘んじております。異次元緩和と積極財政で事実上の財政ファイナンスを10年続けたアベノミクスの後遺症です。インフレに苦しむ国民を救うなら政府の財政出動は寧ろインフレの原因になりますので、公共事業の一時凍結などによる総需要抑制策こそが王道です。当然大阪万博や明治神宮再開発なども止めるべきです。

しかし懲りないのは政府だけではないところが頭の痛いところで、例えばマンション価格が上昇しても主に外国人と思われる投資用の需要が旺盛で民間事業も盛んですから、公共事業を止めたぐらいでは効果は薄いし、当然ながら2024年問題も解決しません。寧ろ202年もd内は賃金上昇圧力をもたらしますから、賃金インフレは続くことになります。そして名目賃金は上がってもインフレを後追いするのが精一杯で実質賃金は低下するばかりです。売れるから高価なマンションの建設が止まらないし、それ故に人件費や資材費も上昇してインフレを助長する訳です。神子ぐ延焼に悩む日本に必要な住宅は数の上では充足されている訳で、寧ろ既存ストックを活用した低価格の公営住宅を供給するなどの方が国未生活の支えになります。また能登半島地震のような自然災害の復旧復興も遅れることになります。関連ニュースです。

のと鉄道、一部区間で再開 利用客「ありがたい」 - 日本経済新聞
JR西日本七尾線の七尾―和倉温泉間と同区間を共有するのと鉄道の七尾―能登中島間が2月15日に復旧し営業再開しました。能登中島―穴水間も4月中旬に再開予定ですが、穴水―珠洲間はまだ見通しが立ちません。鉄道の再開は復旧復興を後押しするだけに遅々として進まないのはじれったいところですが、未だに水道も復旧しない状況で優先順位を差配するのは困難ではあります。

その一方で北陸新幹線の敦賀延伸は3月16日に開業予定で、それに合わせて北陸応援割という50%オフの観光キャンペーンを政府は打ち出し、それに関連して避難所不足で域外避難した被災者を受け入れたホテル旅館を空けるために追い出しかけるという鬼畜の所業が行われます。災害復興よりも新幹線開業に合わせた観光振興を優先するってのは違うだろって話です。しかも旅行会社や旅行サイトの手数料が手厚いから、被災地の復興に直接公金を入れるよりも被災地への波及は限られますし、寧ろ被災者の生活再建を遅らせることにもなります。3.11後の2011年3月12日に博多―新八代間を開業した九州新幹線が放映予定のTVCMをJR九州が自粛したことと比べてもひどい話です。この構図は円安インフレで株価上昇の恩恵に預かる企業を潤し、生活が窮乏する国民を置き去りにする構図と相似形ですね。怒ろう!

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Sunday, February 04, 2024

漂流する世界と日本とひょっとして東京都

根拠なき楽観論が色々なところで綻びつつあります。

円安呼ぶ新NISA 個人の海外投資「月3250億円外貨需要」 - 日本経済新聞
同エントリーで指摘した新NISAによる海外への資金流出が毎月3,250億円の試算です。そうなれば年間4兆銭弱の資金が海外へ向かい、その多くが米株ETFへ向かうと言われております。その結果ドル円が円安に振れる圧力がかかる訳ですが、投資経験の乏しい素人が新NISAへの関心を高めていて、積立NISAに資金拠出した結果、円安インフレで生活を圧迫するという笑えない状況が実現しそうです。

米株式市場は上げ相場が続いてますが、明らかに高すぎる株価の実現可能性にも疑問符がつきます。一方で日本株もバブル後最高値更新が続いてますが、おそらく今が天井でこれ以上は難しいと思います。円安メリットは確かにありますし、実際大手企業を中心に増益が続いております。TSMC熊本工場など国内製造拠点への投資も見られますし、また中国の不動産バブル問題やスパイ防止法で現地勤務社員の突然の拘束もあり、中国リスクが高まって、中国からの資金シフトも言われており、日本株を押し上げる要因にもなっております。

但し注意が必要なのは、日本株の場合円安によるドル建て価格の割安感も海外勢の動きに繋がってます。そしてそれらの資金の流入は円高要因ですが、多くの場合為替先物予約で円売りポジションをとっており、円買いが円高要因になりにくい上に日米金利差がさや取り出来るので、それだけで投資利回りに下駄を履かせてもいます。そして米FRBの利下げ転換は当分なく、逆に日銀の金融政策の引き締め転換にまだ先という見通しがあるからこその動きです。その一方で日銀のマイナス金利解除は確実視されています。

日銀1月の主な意見、金融正常化「要件満たされつつある」 - 日本経済新聞
日銀がマイナス金利解除をはじめとする金融政策の変更に慎重なのは、主に2つの理由があります。1つは日銀自身のバランスシートの調整問題です。大量の国債を保有し、しかもYCCを止めてはいないので、金利動向如何で購入も有り得る状況で、保有国債の償還期限も伸びている状況なので、所謂テーパリングと呼ばれる償還に伴う保有国債の減少が簡単ではないし、逆に売れば価格低下で損失を被りますから、当面動けない状況です。一方大量保有している日本株ETFが株価上昇で評価益を得ており、株式市場が好調な中で一部償還を進めていて、それによる益出しでほぼゼロ金利の国債に代わって業務純益を稼ぐ状況が続いており、当面この形を維持せざるを得ないということです。

もう1つは政府との関係です。アベノミクスの起点となった政府と日銀の政策アコードで2%の物価上昇を安定させるという責任を負っている中で、既にインフレは2%以上となっておりますが、安定的なインフレではないとする批判が政府から飛んでくるのを警戒しているものです。特に所謂リフレ派が多い安倍派議員からの批判を警戒している一方、岸田官邸からも賃上げと物価上昇の好循環を望む声が強く、動きにくい状況があります。故に春闘統一回答後の4月の政策変更が言われている訳ですが、安倍派解散で時期が早まった可能性があり、3月説が言われるようになっていて、上記記事の「要件満たされつつある」に繋がっていると見られます。逆にそれまでは海外勢の日本株投資は安泰でもある訳ですが、日銀の政策変更に伴うポジション調整は当然あります。

そしてアベノミクス継承を謳う岸田政権ですが、インフレ進行で税収の自然増が見込まれる状況にあり、一方日銀が国債償還に動きにくい状況で金利上昇の影響は当面抑制的ですから、所謂増税メガネを言い立てるリフレ派の見立てとは異なり、当面増税には動かないでしょう。一方で防衛費増額や子育て支援の財源問題もあり、国会審議を経ないで見直せる社会保険料値上げなどの姑息な手段で凌ぐというスタンスです。繰り返し述べたますが、インフレは最大の債務者である政府にとっては望ましいことである一方、国民の不満解消は民間の賃上げに依存するというスタンスとなる訳です。そして継続的な賃上げは継続的なインフレの素となりますからデフレへ逆戻りはあり得ず、増税を急ぐ必要はない訳です。これがインフレ税というやつで、ザイム真理教論者が見落としている視点です。

中国を巡る動きも不透明感を増してますが、確実なのはそれでも中国の世界経済に対するウエートの大きさは変わらないということです。上述の中国からの資金シフトによる投資先として日本が選ばれているという要素はあるものの、完全なデカップリングは不可能ですし、バイデン弾頭量が言うスモールヤード・ハイフェンス(狭い範囲の高障壁)も、世論に押されてスモールヤードは徐々に広がりハイフェンスは機能せず、結局混乱をもたらすだけに留まりそうです。それを示すニュースです。

IPEF貿易交渉、漂流の足音 米政治の内向き潮流深まる - 日本経済新聞
元々安倍政権が打ち出したインド太平洋構想の経済版の中国包囲網を意図したものの、米国内の労組票を巡る争いから、所謂もしトラならばアメリカは確実に離脱だろうし、バイデン政権も労組の反対を押し切ってまでは踏み込めないということで、TPPの二の舞が確実視されています。しかも米国内世論への配慮から関税問題は元々外されており、アメリカが抜ければ参加国に具体的なメリットは殆どない訳で、日本が音頭を取っても進まないでしょう。その一方でもしトラ以外にもアメリカに火種があります。
米地銀、続く引き締め余波 利ざや縮小や不動産融資劣化 - 日本経済新聞
これ日銀の政策変更が間近な日本も対岸の火事とは言い難い状況で、債券投資と企業融資や住宅ローンで利ザヤを稼ぐビジネスモデルは中小銀行では日米共通なものが多く、中央銀行の政策変更に影響を受けやすいところです。加えて利上げは不動産市況を悪化させますから、米商業用不動産の不調の原因にもなります。日本と違ってテーパリングが進むアメリカでは尚更です。
スーパープライムショックの予兆
が現実味を帯びます。バブル崩壊は中国だけに留まらない可能性があります。アメリカの馬ブロウ崩壊となればリーマンショック以上の経済ショックになる可能性があり、日本も無事では済まないでしょう。それを踏まえるとこんなニュースにも微妙な感想を持ちます。
新路線「臨海地下鉄」、東京臨海高速鉄道が運行へ - 日本経済新聞
結構意外な展開ですが、元々JR東日本が引き受けると言われているりんかい線を運営する三セク東京臨海高速鉄道に臨海地下鉄を建設させるとともに、JR東日本が進める羽田空港アクセス線の臨海ルートを介した羽田空港乗り入れまで視野に入れているということです。但しJR東日本が出資を断ったつくばエクスプレスとの直通の構想があることから、JR東日本との調整は難航するんじゃないかと思います。

あくまでも東京都の発表ですから、JR東日本との調整はこれからの話でしょうけど、おそらく東京都が描いたシナリオは東京メトロの株式上場と絡んだ話だと思います。国と都の意見の不一致で遅れていた東京メトロの株式上場が、小池都政で豊住線や南北線品川延伸に消極的な東京メトロへの影響力保持から、完全民営化ではなく国と都の持ち分比率を維持した形での株式公開で国と意見集約されており、上述のように表面上好調な日本の株式市場で元々6,000億円相当と見積もられていた時価総額が今なら1兆円程度と見込めて、その半分の公開で5,000億円で都の持ち分46%から2,300億円の税外収入が見込めます。それを東京臨海高速鉄道の増資に充てて都の支配力を強めた上で臨海地下鉄の事業主体とするということですね。但しアメリカのバブルが弾ければ成り立ちませんがね。

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Sunday, January 14, 2024

ガバナンス不在の政治

諸人こぞりて苦しむイブの続きですが、悪夢は続きます。

自民党安倍派「裏金」、幹部聴取は週内に終結 立件見送り公算 - 日本経済新聞
まあ予想通りの展開ですが、政治資金規正法で不記載は会計責任者の責任と定義されていて、公職選挙法で「秘書がやった」の穴を塞ぐ連座制のような規定がない以上、会計責任者の在宅起訴で幕引きとなることはやむを得ない部分があります。

一方インフレは続くよどこまでもの大川原化工機事件のように、証拠を捏造してまで冤罪事件を起こしたのも検察ですから、検察のダブルスタンダードですが、あまりここを突っ込みすぎると選挙で選ばれた議員を同様に追い込んでよいということにもなりかねず問題があります。政治資金規正法の改正で穴を塞ぐ立法府の出番ということで、26日召集の通常国会が注目されますが、能登半島地震の対応も含めて政権にとっては茨の道になりそうです。加えて検察の立件空振りで国民の怒りが収まらない状態で選挙はしたくないでしょうから、解散風を吹かせて政局をコントロールすることもままなりません。どうするキッシー?

その能登半島地震ですが、これまでにも増してデマ情報がSNSで拡散されていて問題ですが、そもそも正確な情報が少なく、被害の程度が酷いものだということが後になって明らかになる傾向から憶測を呼ぶことになると考えられます。典型的なのがれいわ新鮮組の山本太郎議員の被災地入りを巡るバッシングですが、被災地入りした政治家は山本議員だけではなく、複数の議員が被災地入りしており、政府発表やニュースでは伝えられない情報を発信していて、これによって情報の解像度が上がる訳で、叩く理由はありません。その中で山本議員1人だけを叩くというのはおかしなことです。

一方北陸電力志賀原発を巡る放射能漏れ疑惑のような言説も流布しておりますが、政府がドローン飛行禁止を打ち出したり、モニタリグポストの機能していないことを以て、重大な事態を隠しているんじゃないかという疑惑がエスカレートしているようですが、現時点で放射能漏れが起きているという事実は確認されておりません。とはいえ地震直後に「異常なし」の発表があった後にトラブルが発覚するという福島第一原発事故を彷彿させる情報隠蔽姿勢がこうした流言を生み出したとも言えます。

志賀原発が過去様々なトラブルを重ねて運転停止を繰り返し、情報開示も問題だらけという点も憶測を生んだ原因でしょう。以下wikiからざっと拾ってみます。

1993年2月に能登半島沖地震発生、7月に1号機運転開始
1997年には配管溶接部のトラブルと使用済み燃料輸送容器に関するデータ不正が発覚
1998年1月に復水器細管漏洩で手動停止
19999年6月に非常用ディーゼル発電機のクランク軸ひび割れ、更に定期点検中の臨界事故でデータ改ざん、対外報告を怠り8年間隠蔽、原子炉自動停止後の必要な措置を行わないなどの不正
2000年1月にy2kでシステム障害
2003年6月に定期検査中に配管の水があふれて作業員が浴びる事故
2004年6月に廃棄物処理施設洗浄中に水漏れで160万ベクレルの放射線漏れ
2005年3月に国の地震調査委員会が建設中の2号機炉心近くの断層の危険性を指摘、4月に地滑りで送電線鉄塔倒壊
2006年1月には試運転中の2号機で原子炉隔離冷却系の開閉試験で全閉できず運転停止、3月それでも2号機営業運転開始、直後に金沢地裁が運転差し止め請求訴訟で差し止め命令、6月に原子力安全・保安院が中部電力浜岡原発5号機ののタービン羽損傷を受けて同型の志賀原発2号機の点検を指示し7月に運転停止して点検の結果ひび割れが確認され、9月に2号機高圧タービン室に粒状金属発見、11月に1号機定期点検中に発電機付属装置の冷却ファンに記録用紙が吸い込まれ一部が残り運転監視中に異常振動で手動停止、同月2号機の耐震裕度向上工事着手
2007年3月に能登半島地震で1号機の使用済み燃料貯蔵プールで45リットルの水飛散、放射線量約750万ベクレル、7月に新潟県中越沖地震発生で志賀原発でも震度4でも1,2号機とも運転停止中
2008年に2号機の再起動も気体廃棄物の水素濃度上昇で出力低下で手動停止の後再起動、7月に1号機の耐震裕度向上工事着手
2003月3月に大阪高裁金沢支部が2号機運転差し止め請求を棄却、1号機の再起動を申し入れ起動、4月に気体廃棄物処理系でキセノン133が通常の10倍も監視運転継続して好感度オフガスモニタの異常値で通常の約200倍で出力を下げて漏洩燃料の範囲特定作業、石川県と志賀町も立ち入り検査、11月に調整運転中の2号機の非常用ディーゼル発電機で潤滑油洩れ、12月にも再度の潤滑油洩れ
2010年10月に2号機運転差し止め訴訟で最高裁により住民側の敗訴確定
2011年1月に2号機の原発格納容器内の冷却器凝縮水量が低下して手動停止、2月に1号機の原子炉再循環軸封部の第2段シール圧力増加で部品交換のため運転停止、3月の東日本大震災時には2号機の定期点検で1,2号機とも運転停止中、4月に福島第一原発級の緊急時対応訓練実施、8月に北陸電力が破砕帯周辺の地殻変動と地震発生状況の報告書提出
2012年6月に石川県と富山県の住民から1,2号機の運転差し止め請求訴訟で金沢地裁に提訴、7月に原子力安全・保安院が破砕帯の調査計画提出を命じる
2013年5月に1号機の低圧タービンにひび割れを確認7月に新しい規制基準が施行、12月に前年い保安院から指示された破砕帯調査の最終報告書提出
2014年8月に原資慮億規制委員会に2号機の適合性審査を申請
2015年3月に原子力規制委の有識者調査団が敷地内断層が活断層の可能性を指摘、9月に2号機建屋内に雨水侵入
22019年7月に構内の防災敷材倉庫付近で電源車火災が発生し自主消火
2021年8月に2号機安全装置不具合を発表、主蒸気隔離弁の基板故障で7月に警報を確認していた
2022年6月に能登半島で地震発生、令和6年地震に連なる群発地震の始まり
2023年3月に原子力規制委が2号機の敷地内断層を活断層でないとする北陸電力の主張を妥当と判断、5月に能登地方で地震
2024年1月に令和6年能登半島地震発生
今回の地震の原因と見られているのは地層の流体上昇圧力によるものと見られております。太平洋プレートがユーラシアプレートの下に潜り込むときに一定量の海水も取り込み、地価の高温高圧に晒されることで上昇圧力がかかるもので、その結果タイル状に並ぶ隣接地殻を繋ぎ止める目地が壊れて地震になる訳で、今回は能登半島北部の未知の断層が動いたものとされております。当然ながら近隣の断層にストレスがたまりますから、今後も余震が続くということになる訳です。

正月早々の躓きで見たように志賀原発のトラブルは多発しており、今後の群発地震の影響もありますから、補修計画も作りにくいですし、北陸電力が規制委から得た「活断層ではない」というお墨付きもチャラになり断層の調査はやり直しです。とにかく地殻が大きく動いて最大4m隆起し水平方向に1.2mズレた訳で、その結果海岸線の形が変わり、多数の港が接岸不能となって災害支援活動を支障している状況です。

しかも北陸電力は今回の震源地のほぼ真上に当たる珠洲に原発を作ろうとしていた訳で、仮に完成し稼働していたら、福島どころじゃないシビアアクシデントになっていた可能性もあります。加えて道路の寸断で避難計画の実効性もなかったことが明らかになりました。今後志賀原発の廃炉が議論の対象となることは避けられません。

当然ながら鉄道の被災も深刻で、JR七尾線と三セクののと鉄道も路盤のずれで線路が曲がり復旧が困難な状況が続いています。その中でのこのニュース。

【能登半島地震】JR七尾線、羽咋まで15日再開 七尾は22日以降 - 日本経済新聞
高松以北が運休となっていたJR七尾線は15日に羽咋まで復旧、七尾までは22日以降ですが、和倉温泉までは見通しが立っておりません。当然ながら線路を共有するのと鉄道も復旧の見通しが立っていない状況です。JR西日本とのと鉄道の資金力の差も気になりますが、一方で北陸新幹線敦賀延伸開業が3月に迫る中で、並行在来線絡みの動きもあります。
富山の城端・氷見線再構築案決定 北陸、残る4線が次の課題に - 日本経済新聞
並行在来線としての切り離しを免れた北陸のローカル線のうち城端線と氷見線をあいの風とやま鉄道が引き受ける形でJRから切り離されます。同様の問題は七尾線、高山本線、越美北線、小浜線でも浮上しております。小浜線の場合は孤立線ではないですが、新大阪延伸時の小浜京都ルートを想定した並行在来線となる訳ですが、小浜ルートに固執する福井県の対応が見ものです。

七尾線に関してはIRいしかわ鉄道の引受ですんなり決まりそうですが、七尾―和倉温泉間を共有するのと鉄道との調整をどうするかが難問です。加えてサンダーバードの和倉温泉直通もなくなる訳です。逆に言えばJR西日本は早く決着をつけたい筈です。しかし震災復興にはマイナスですし、ましてのと鉄道の存続も危ぶまれます。石川県の判断はどうなるでしょうか。

かつて水害で長期運休した越美北線も、当時は北陸新幹線の金沢以西が事業化の見通しすらなかった時代に、沿線自治体が住民の定期券購入補助を行うなどの条件で西日本JRバスの専用営業所を現地に設置して代替輸送を行うなどした路線ですから、ここへ来ての切り離しには当然抵抗があるでしょう。なまじフル規格で整備したために地域に難問がのしかかります。政治のガバナンス不在はこんなところにも影響している訳ですね。

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Thursday, November 23, 2023

勤労感謝にAIは勝つ?

「心配ないからね」とはいかないAI開発を示したオープンAIの騒動はこうなりました。

OpenAI、サム・アルトマン氏がCEO復帰 理事会大幅刷新へ - 日本経済新聞
元々汎用AI開発をで人類への貢献をミッションに掲げるNPO法人として発足し、大手ハイテク企業の市場独占や軍事利用、サルとロバの法螺吹き合戦で触れたデマ拡散などのネガティブなものを排除して人類に貢献するというその姿勢に賛同した多くのITエンジニアが集まりました。

当初はその名の通りオープンソースでの開発を目指し、開発過程をオープンにすることで悪意ある開発を排除し、競争環境でハイテク寡占の弊害を除去できるという見通しを示したものの、少数でも悪意あるエンジニアが開発に関与することでミッションが台無しになるというジレンマに気付きます。故にソースを公開しない形の開発にシフトする訳ですが、この点には賛同できないエンジニアもいる訳で、オープンソースでボランティア的に開発することで低コストで開発できるというメリットも失われます。

という訳でNPOが研究開発費を手当てするために営利目的の子会社を設立して営利部門を担わせる形になり、その子会社にマイクロソフトが提携のために出資するという形で関係が築かれ、大規模言語モデルの生成AIとしてGPTを開発しリリースした訳ですが、そうなると開発のスピードが速まって、しかもマイクロソフトという大手IT企業を利する形で事態が進捗することにNPOの理事たちが不安を覚えてブレーキをかけたということのようです。

マイクロソフトとしては折角掴んだ金の卵をやすやすと手放す訳にもいかずNPOの理事たちの説得と共にアルトマン氏を研究員として雇用するなどして動いた訳ですが、そこへオープンAIの従業員からアルトマン氏復帰を求める声が上がり、9割超の署名が集まりました。アルトマン氏はエンジニアの人望が厚かったようです。結果的に理事会が折れて決着し、加えて6人の理事の半数の3人を入れ替え、1人はマイクロソフトから送り込み、ガバナンスを安定させる手当もした訳です。

この一連のニュースで感じたのは、AI開発でアメリカが世界を大きくリードしている現実です。中国に限らず日本でもAI開発でアメリカを追う訳ですが、そこで語られることが例えば日本では人口減少をカバーする生産性向上策だったり、人間は労働から解放されると言われる一方、労働者から労働を奪うと反対されるなどのレベルの議論が中心ですが、アメリカではその先を行っていて、人類に貢献するAI開発というミッションと本気で格闘している人たちがいるということです。おそらく中国も日本もこの領域に達することは困難でしょう。

という訳で、勤労感謝の日だし、AIが労働市場にどんな変化をもたらすかという視点で見ると、AIへの期待は主に人口減少に伴う労働力不足の代替ということになります。経済学で言うところの資本装備率を高めて労働生産性を高める効果が期待される訳ですが、工場労働がロボットで代替されたように頭脳労働がAIに代替される訳ではありません。AIは単なるアルゴリズムですから、それ自体には創造性はなく、創造性が求められる頭脳労働は原則代替できません。

わかりやすい例として進化著しい自動翻訳で見てみると、マニュアルや技術解説書のようなものは自動翻訳の後に人間がチェックすることでほぼ問題ないレベルの翻訳が可能ですが、機微が表現される文学作品などは難しいということになります。故に翻訳家の仕事は無くなりませんが、従来はそれ故にハイスキルを求められていた翻訳家ですが、スキルの低い人が参入できる分野ができることで翻訳家は増えて結果的にハイスキルの翻訳家も含めて競争激化で報酬が下がるということが起きる訳で、AIに労働が奪われることはないとしても賃金は下がるということになります。これ事務仕事でも営業職でも結局ハイスキルの人ほどAIによる労働生産性効果が得られず、ライバルが増えて賃金が減ることを意味します。日本の場合で言えば連合などの労働団体こそAI問題に向き合う必要がありますが、現実はお寒い限りです。

そしてドライバー不足から自動運転への期待も高まりますが、気になる動きがあります。

自動運転事故、刑事責任の基準作成へ 実用化へ懸念払拭 - 日本経済新聞
記事にもあるようにあくまでも企業の参入障壁の緩和に力点がある訳で、ドライバー不足を錦の御旗に緩和を模索する動きです。ドライバー不足問題は働き方改革の例外扱いが2024年で終了することに伴って注目されましたが、それ以前に生産年齢人口の減少と需給調整規制撤廃による参入自由化の影響で賃金が下がり、そもそもなり手が減っていた中で、経過措置として2024年まで猶予され、企業は様々な対策を講じているものの、報酬アップだけはスルーされています。低報酬故に残業でやっと稼げるのに残業の上限が規制されれば収入源となる訳で、そこには手をつけずに対応すしようとするから無理がありますし、当然若者も免許取得のコストに見合わないから担い手は枯れる一方で、ドライバーの高齢派だけは進むという状況です。簡単にはいかない現実があります。

そもそも道路は公共空間な訳で、公共空間の私的利用には当然ながらルールが必要なんですが、オリガルヒの叛乱で取り上げた電動キックボードの解禁もレンタル事業者の便宜を優先した結果ですし、ユニコーンの馬脚で取り上げたライドシェア問題もそうですが、公共空間を利用した営利事業に規制がかかるのは当然のことです。実際ロンドンをはじめ欧州の大都市では営業許可を採取れていなかったり、規制のないアメリカでもライドシェア絡みの事故は多数報告されています。故にドイツの後塵で取り上げたカリフォルニアの自動運転車の事故に関わらずウーバーよりは安全と評価されてたりします。ライドシェアにしろ自動運転にしろ上述の翻訳家の例のように結果的に低報酬化をもたらすものについては、労働団体が問題意識をっ持つことが必要です。

公共空間としての道路という視点ではどうする縦割りで取り上げた宇都宮ライトレール(以下ライトラインと記す)の問題も関わってきます。同エントリーで記したようにライトラインは新設軌道に見える区間も道路扱いで全線併用軌道となっており、故に軌道法の規制で目視運転を前提とする40km/h規制を受けている訳ですが、出かけて試乗してみました。

とりあえずは40㎞/h規制でゆっくり走っており、交差点信号に黄↑赤×の二位式軌道信号が併設され、その他両終端のシーサスクロッシングと平石、グリーンスタジアム前のポイント部に軌道信号がありましたが、閉そく信号に相当する信号は見当たらず、列車間隔を制御するシステムはどうなっているのかはわかりませんでした。また信号に引っかかることもあり、電車優先信号が設置されているようにも見えません。現状では電車の表定運行時分に合わせて交通信号を調整しているだけのように見えます。現状はLRTというより通常のトラムの域を出ておりません。

現状道路上の目視運転で自動車の軌道敷内通行を規制している状況ですが、公共空間として緊急車両の通行帯として軌道敷が利用されることなどを踏まえれば目視運転のままのスピードアップは問題があります。おそらく何らかの対応は取られるのでしょうけど、ならば何故開業時から併用軌道50km/h新設軌道70km/hで開業しなかったのか、その辺の事情が明らかになっておりません。当然ながら専用路を走る鉄道と違って自動運転は簡単ではありません。自動車の自動運転が俎上に上る中でのライトラインの評価には難しさがあります。

また並行バス路線をバッサリ切って宇都宮大学陽東キャンパス、清原地区市民エンター前、芳賀工業団地管理センター前で途中乗り換えとしたことに対する評価は時間がかかるとしても結果的に公共交通利用が増えて渋滞が解消することがゴールということも踏まえておく必要があります。地元のバス事業者の関東自動車は出資と共にバス路線再編でドライバー不足が緩和されたとしてますが、乗換を嫌って乗客が減るようであれば本末転倒なのは言うまでもありません。未だに市民や鉄ちゃんの試し乗りと思しき乗客が見られるのが気がかりです。当然ライトライン自体の運行維持という新たな負担も負う訳です。

という訳でAI時代になっても労働力不足を解消できる訳ではなく、労働から解放されるといった楽観論がいかに非現実的かということは間違いなく言えます。AIもLRTもシステムとして社会にどう実装されるのかが大事ってことです。

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Saturday, November 11, 2023

ユニコーンの馬脚

ちょっとだけ中東のニュース。

米軍、シリアのイラン関連施設を空爆 「自衛目的」 - 日本経済新聞
中東に多数ある米軍施設にイラン系の墓相組織が攻撃を仕掛けたから報復したという公式発表。イスラエルとハマスの紛争中にややこしいことをしますが、あくまでも米国の問題ということです。欧米の対テロ戦争回帰で指摘したようにイスラエルはアメリカの劣化コピー版ですね。自衛権を反撃権に読み替えているとしか思えません。そんな国からミサイル買うぞと意気込む日本ですが、反撃能力のリアルはこれだぞ!
米WeWork破綻 金利上昇の重圧、不振企業の倒産増 - 日本経済新聞
資本主義と民主主義の微妙な関係で取り上げたWeWorkが遂に破綻しました。伝説の一角獣ともてはやされた会社が実はロバだった^_^;。ニューヨークなど大都市のオフィスをシリコンバレーのハイテク企業に倣ってカフェ風のお洒落なレンタルオフィスに改装してビジネスパーソンの交流を促し、イノベーションをもたらすという狙いだったようですが、賃料の高い大都市でド田舎だから可能なシリコンバレーのゆとりあるビジネス環境というのはどう見ても無理があります。所詮低金利カネ余り時代の仇花だったってことですね。

そしてこんな企業をユニコーンと持て囃してソフトバンクが出資して損している訳ですが、追加出資したものの、コロナ禍でリモートワークが拡大して利用者が減り、回復しないまま賃料は上がる一方で、FRBの利上げで借入金の金利上昇で事業継続が困難になり破綻処理となりました。ソフトバンクグループは英半導体企業のアームの上場で潤っており、やっと赤字脱却が見えてきたとはいえ、孫正義氏の目利き力はこんなもんなのかも。

そしてやはりユニコーンと持て囃されたウーバーも日本では食事宅配のウーバーイーツがメインという状況で、コロナ禍による外食規制で寧ろ追い風だったようですが、本業のライドシェアは日本の道路運送事業法に阻まれて事業展開が滞っております。それがここへ来て日本でも地方のタクシードライバー不足問題から規制改革会議で議論されており、政府も前のめりなのは減税くそメガネで記しました。

ポンド飛び出し円の切れ目で取り上げた京丹後市久美浜町のウーバーの事業に関しては地方のタクシードライバー不足を言うならいの一番に参照すべき事例ですが実績が公表されていない一方、国家戦略特区として特認を得た兵庫県養父市の「やぶくる」で河野行革相がこんなこと言ってます。

地域交通「喫緊の課題」 河野デジタル相、兵庫の特区視察 - 日本経済新聞
流石に国家戦略特区の指定事業なので非公表という訳にはいかなかったようで、視察時の記者会見で年間400人の利用があったことが明かされました。1日平均1人強という微妙な数字です。300余の基礎自治体の一定割合が視察したとすると、この程度の数字は行政関係者の視察でかなりの部分を占めると考えられますから、一般利用者の実数はかなり悲惨なものと言えます。過疎化で需要自体が蒸発したとしか言えません。

元々過疎化でバスの撤退が問題化していて、多くの自治体でデマンド交通の取り組みが行われております。ザックリ言えばバスとタクシーに中間的なモードで、会員登録した住民が電話や専用端末やスマホアプリで目的地と希望到着時刻を告げて呼び出し、小型バスやワゴン車が予約状況に最適のルートで利用者を拾い目的地へ届けるというもので、会員制乗合タクシーのような存在です。その中の幾つかは道路運送事業法の自家用車有償運行特例によっております。

ライドシェアは配車ベンダーがシステムを提供するのでシステム負担は減りますが、当然ながら利用が少なければ売り上げが少なく、手数料も稼げません。加えて本当の狙いであるデータ収集も非効率なので、本音は都市部への参入ですが、当然ながら都市部ではタクシーと競合する訳で、反対もありますし、参入規制の緩和で台数規制が緩められてタクシードライバーの収入が減っていた訳で、コロナ禍の利用低迷で離職したドライバーも多数います。その結果都市部でもドライバー不足は進行している訳ですが、逆に現役ドライバーにとっては残存者利益を享受できる状況になっている訳ですから簡単に認める訳にもいきません。そんな中で都市部でも動きが出てきています。

横浜の三和交通、タクシー運転手に副業人材 実証実験 - 日本経済新聞
横浜でタクシー会社と配車アプリベンダーのコラボで二種免許保持者を対象とした副業人材活用の実証実験ですが、ドライバー不足をライドシェア導入の口実にされることを睨んだ動きとも取れます。同時にライドシェアの問題点がタクシーとの競合といった狭い領域の問題ではないことも示唆します。

都市部でライドシェアが解禁されれば、当然ながら本業を持った人のスキマ時間活用に使われます。例えばパパの車使い放題の専業主婦やドラ息子、売れないタレント、大学教員の非正規化で生活苦の若き学者の卵たち、正規雇用でも賃金の少ない人たち、おそらくその中には社用車で営業する剛の者も現れるでしょう。そしてスキマ時間で無理な営業をすれば事故のリスクが高まりますが、ただでさえ事故時の責任の所在があいまいな上にドライバーが車のオーナーではない事例では当て脱げ逃亡の可能性もある訳です。それでも解禁すべきとするならウーバーのような配車ベンダーの利益にしか貢献しません。つまり新たな利権漁りでしかない訳です。加計学園の獣医学部新設に見られるように規制改革会議が利権を誘導したことを忘れてはいけません。

ギグ老いるショックで指摘したようにアメリカでは2016年の大統領選でヒラリー・クリントン候補がギグエコノミー問題として取り上げましたが、アメリカでは事実上ほぼ規制なしです。一方欧州ではロンドン市で問題が多すぎるとして営業許可を取り消してますし、同様に規制緩和に慎重な都市が多数あります。アジアでもほぼ規制なしですが、やはり問題は多数報告されてます。ライドシェアを世界標準のように言うのは間違いです。

公共交通で寧ろ今問題になっているのは通信のようなユニバーサルサービスが欠如していることで、例えば北海道新幹線の並行在来線問題のようにバス転換も困難ですし、上述のデマンド交通も極限的な効率を追求しながら採算性は悲惨で自治体の持ち出しで維持されてます。国や自治体がどのように関与すべきかといった枠組みを考えて実現することが必要です。

NTT問題ともオーバーラップしますが、通信のユニバーサルサービスは持ち株会社のNTTとNTT東西が負っていますが、政府保有株放出となればNTT東西を公的保有とするなどして担保する必要があります。そうでなければデータ通信や無線通信もNTT東西が持つ光回線に各通信事業者が依存している現状の通信事情でNTTグループに便宜が図られれば公正な競争環境が損なわれます。まあこれは防衛費倍増の為の株式放出なんですから、ミサイル買うのやめれば済む話でもありますが。通信も交通も加えて防衛も、大元の議論がそもそも欠如しております。

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Saturday, November 04, 2023

笑う鬼退治

鬼が笑う2024年で取り上げたインボイス問題のニュースです。

インボイス導入1カ月「想定以上に負担」 混乱続く企業:日本経済新聞
サラリーマンの経費精算でインボイスの有無の確認作業で現場負担があることは国税庁も認識していて1万円以下の取引でインボイスが省略できる経過措置を決めたりしましたが、ネット取引での登録ナンバー確認など次々に面倒な問題が湧いて出てますし、ドライバー不足なのに運送大手が委託先の多重下請けが仇となって委託先の登録の有無を把握しきれないなどの問題も起きています。独禁法違反が疑われる委託切りも見られるなど混乱しています。

これらはインボイス自体の問題というよりも説明不足や日本的な商慣習故の問題だったりしますが、ただでさえ働き方改革の2024年問題でドライバー不足が言われる中で、タイミングが悪かったとは言えますが、欧州付加価値税制度では機能している制度が日本ではこうなってしまうというのは、日本社会が抱える問題と見るべきでしょう。欧州でも当てない民主政治で損くらってますで取り上げたギリシャショックのようにヤミ営業でインボイス発行しない脱税が横行していたなんて例もありますから、明示された法令も社会の受容次第で機能を失うことは同じではありますが。

ギリシャショックは同時に財政破綻のリアルを示しており世界最悪の日本財政の反省材料にもなります。長期金利が7%になると財政が持続可能でなくなることを明らかにしました。今の日本の減税議論に違和感しかありません。それも所得減税に拘ったために実現は来年6月という役に立たないものですし、1年限りなら後に増税が待っている訳で、リカードの中立定理が働く故に減税くそメガネになります。減税うそメガネとも言われているようですが^_^;。だからといって恒久減税は論外ですが。

別の視点ですが今回の減税は税収の上振れ分の還元を謳っている訳ですが、その根拠となるのが22年度の10兆円超の税収上振れでして、円安による企業業績の上昇による法人税収とインフレによる消費税収が主なもので、7:3の割合です。昨年円相場が激しく動いた結果ですが、今年は150円前後で膠着しており、去年のような上振れが起きるとは言えませんし、インフレは税収増をもたらすと同時に政府支出も増やします。今年度の予算は当然インフレを踏まえて連動する社会保障費は拡大しますし、人件費や資材費の上昇は公共事業費も上振れさせますから、年度をまたいだ歳出増で消化されます。故に減税財源にはならない訳です。

日銀、長期金利1%超容認 植田総裁「大幅に上回らず」:日本経済新聞
日銀がYCC見直しに動きましたが、1%変動枠に長期金利が近づいて維持困難と判断して限度からめどへと表現を変え1%超の金利を容認する姿勢を見せました。但し急激な変動は抑えるということで緩和継続を謳っておりますが、実態は市場の圧力に押されての判断ということですね。それでも不十分ということで為替は円安に振れて150円のバリアを突破しており円安傾向は続きます。

とはいえ変動幅は小さいですから、上述のように法人税収の上振れ効果は限られます。但しインフレ要因ですから消費税収の上振れはある程度発生しますが、政府支出増を上回る水準になるかどうかは微妙です。ということは税収上振れを見込んだ減税は財源的には微妙ってことです。増税メガネと悪口言われたから減税を打ち出すとか、思いつきで政治をやるなということですね。

岸田政権の打ち出す政策は。例えば少子化対策と称して児童手当の拡充を打ち出し高校生も対象に加えてますが、一方で自民税調で高校生の扶養控除圧縮が議論されているという具合に目先を誤魔化す姿勢が見られます。基本的に国民をなめているとしか思えません。手当拡充よりより高校無償化の方が効果的ですし予算も少なくて済みます。という具合に目につくところをやったフリで乗り切って選挙の票稼ぎというあざとい姿勢は国民に見透かされてます。桃太郎よろしく鬼退治しても宝は得られません。桃太郎は岡山だけど。

2024年の働き方改革で人手不足が言われている中で少子化対策でバラまくというのは本当の問題解決にはならないばかりか、仮に出生率が上がって子供が増えたところで家庭内のケア労働を増やして特に女性の就労を圧迫しますから、人手不足は悪化します。持続可能な賃上げを打ち出して法人減税をしても法人税を払っていない赤字企業は蚊帳の外ですし、仮に賃上げが定着しても企業の人件費上昇は価格転嫁に繋がりますから賃金インフレで結局実質賃金は伸びないですし、新NISAで家計貯蓄を資産運用へという画を描いても、今の市場環境では国内株式に資金が回る保証はありません。日銀のETF購入で下駄を履かせた官製市場の現在の株価では個人投資家が得られる利益は限られます。一方でそれでも株価が上がらない日本企業はアクティビストの草刈り場です。

京成電鉄、ディズニーでゆがむPBR 実態は「1倍割れ」 - 日本経済新聞
お業績好調なオリエンタルランド株の保有分の時価が1.6兆円と自身の時価総額を上回る水準にあり、OLC株を除いた本体のPBRは0.5倍程度と見積もられ、英アクティビストファンドから一部売却を迫られております。京成電鉄の場合コロナ禍で空港輸送が大打撃を受けた不運はありますが、逆に空港輸送の1本足打法の脆弱性が露呈した訳で、オリエンタルランドのような優良企業を連結対象にしていることがリスク要因となっている訳です。

京成電鉄には新京成電鉄という優良企業をグループ内に抱えており地域輸送に特化した事業環境もあってコロナ禍の影響も軽微だった訳ですが、その結果コロナに勝てない国で取り上げたように完全子会社化して元々の保有分の含み益由来の負ののれんで益出しするなどしてきましたが、そんな一過性のことでは事態は改善せず次のステップを踏みます。

京成電鉄が傘下・新京成を吸収合併へ 25年4月 - 日本経済新聞
継続的に利益を計上して株価を上げるには、経営統合して運営面で規模の経済を狙うしかない訳ですが、悩ましいのは運賃の共通化問題です。共通化して運賃通算すると初乗り運賃の二重取りが無くなり乗客にはメリットがありますが、運賃収入の減少は避けられず寧ろネガティブな評価になりかねません。故に当面現行運賃を維持するということになりました。

別運賃自体は現行制度で禁止されておりませんし、京成自身もちはら線と成田空港線(スカイアクセス)は別運賃です。それぞれ歴史的事情があって、ちはら線は元々小湊鉄道が東京直通を狙って京成千葉(現千葉中央)―海土有木間の地方鉄道免許を申請して交付されたことに始まります。京成線を通じて東京進出を図った訳ですが、4ft8in1/2(1,435㎜)電化の京成と3ft6in(1,067㎜)非電化の小湊では直通はできない訳で、長らく免許更新を続けながら棚ざらしになっておりました。京成との合弁で千葉急行電鉄を設立して事業化を模索したものの進まず、沿線予定地の宅地開発が具体化して途中の千原台(仮)までの事業化が動き出し実現しました。しかしバブル期の仇花で宅地分譲は遅々として進まず、業績が上がらずに京成が救済合併して京成ちはら線となりましたが別運賃は維持されました。故に対都心でJRに乗り換える場合には千葉中央と京成千葉の間の京成線運賃の合算が重荷になりますが、赤字路線を引き受けた京成としては簡単に運賃を弄れないわけです。

成田空港線は元々三セクの北総開発鉄道(現北総鉄道)の路線を利用していて、小室以東は千葉県営鉄道由来の宅地開発公団線として別運賃だったこともあり、高運賃で利用が低迷しました。宅開公団は小泉改革の特殊法人改革で統廃合や名称変更の結果、鉄道事業を切り離すことになって京成が引き受け第三種事業者の千葉ニュータウン鉄道となり北総が第二種事業者となって一体化されたものの高運賃は改善されず、住民訴訟にまで発展しました。結果的には成田新幹線ルートを利用した北総ルート(成田スカイアクセス)が整備され北総線の運賃の見直しをすることで和解しましたが、それ故に北総線と共通化された成田空港線運賃も安易に動かせない政治性を帯びた訳で、やはり解消は困難です。

という訳で、新鎌ヶ谷で接続する新京成線と成田空港線の運賃統合はやはり無理となると、京成津田沼での京成本線・千葉線との運賃通算に限られる訳ですが、これも新京成線が新津田沼でJRと乗換可能で船橋乗換からシフトすることになると京成にとっては減収要因になります。船橋乗換の場合も東京メトロ東西線に向かう場合はJR線を挟んで初乗り運賃の重複負担となりますが、東京メトロの低運賃に助けられています。京成西船に優等列車を停めないのはJRに気を遣っているのかも^_^;。

ということで、当面車両の共通化や乗務員も含めた運営の柔軟化などで地道に益出ししたり、それぞれが抱えるバス事業の再編などで合理化を進めるぐらいしか打つ手はない訳で、アクティビストの納得を得るハードルは高いといえます。こうした問題を抱えて身動きが取れない日本企業は数多くあり、海外投資家を通じた国富の流出を助けるだけです。鬼たちも大爆笑-_-;。

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