都市間高速鉄道

Saturday, March 18, 2023

田代の水は山をも越すが水に流せぬ大井川

箱根馬子唄ならぬリニア迷子唄^_^;。リニア60年のウヨ曲折の続編です。

リニア工事中の水量減解消、JR東海が静岡自治体に説明へ:日本経済新聞
上記エントリーでも取り上げた大井川の水問題での東電田代ダムの取水量調整でJR東海が東電と協議することを前提とした説明をするということですが、すんなり進むとは思えません。田代ダムは大井川最上流の田代にダムを作って導水管で山梨県の冨士川系の早川へ落として水力発電を行うという目論見で建設され1928年に完成した大井川水系では初の本格的ダムです。つまり元々田代ダムの水は古くから山梨県に送水されていた訳ですが、これが後年大井川で水利権争いの種になります。

早川電力は後に東京電灯に吸収され、更に電力国家管理で日本発送電に摂取され、戦後GHQ の日本発送電の解散命令で後に東京電力となる関東配電に引き継がれ今に至ります。こうした歴史過程もあって大井川水系では田代ダムのみが東電で他は中部電力という形になり、水力の一河川一社の原則から外れております。大井川水系は多数のダムが作られました。余談ですが大井川鉄道は元々電源開発のための鉄道として電力資本で作られたから、ローカル私鉄としては重厚な設備で整備されており、SL列車の運行が可能なのもそのお陰です。

そんな事情からダムの取水で大井川の渇水が問題視され、特に1955年に田代ダムの取水量が当初の毎秒2.92トンから4.99トンに増やすよう東電が静岡県に申請し、静岡県は流域自治体の同意を得ずに認可したために流域住民が反発し、東電や中部電力に河川維持放流を求める運動に発展し、住民の座り込みなど実力行使にまで発展する騒ぎになりました。特に山梨県で発電事業を営む東電の態度は頑なだったようです。1997年の河川法改正で河川環境の維持が義務化されたのを受けて2006年委解決しましたが、水利権問題の解決は半世紀を越えました。

といった係争の歴史を踏まえると、JR東海は将に地雷を踏んだ訳ですが、同時に東電も過去の係争の経緯から流域関係者の了承を前提に協議するとしており、静岡県は東電の協力の確約を求めているということで、JR東海が話をまとめるハードルは高いと言えます。そもそも東電が今償却前収支の赤字、つまりキャッシュフローの欠損という深刻な事態に直面しており、取水制限にすんなり応じられる状況にはありません。という訳ですから、まだまだもめます。

という訳で視界不良な中央リニア事業ですが、河川法改正が大井川の水利権問題の解決を後押ししたように、法律的に打開する可能性は考える余地があります。但しその前にそもそも中央リニア事業の法的位置づけがどうなっているのかについて、あまり取り上げられることはありませんが、問題を多数含みます。

事業の根拠法機は全国新幹線鉄道整備法(全幹法)ですが、元々国鉄が事業主体となる前提で作られた法律で、基本計画線の公示や整備計画策定のための調査指示、分割民営化後に見直され、所謂整備新幹線スキームと呼ばれ、鉄道建設・運輸施設整備支援機構が建設主体となって建設費を国と地方が負担し、事業者は受益の範囲リース料を30年間支払うこと公的負担を軽減する形ですが、中央新幹線に限ってはJR東海が建設主体となっており、公費の投入はない形ですが、そのことがJR東海に地元軽視姿勢をもたらした可能性はあります。

元々1970年に成立した全幹法は高速道路整備と並ぶ国土総合開発計画と連動した国土軸形成のための法律であり、地域開発に資することを目標としている訳で、その観点から見ればリニアのメリットを受けず大井川の水問題に留まらず環境破壊や事故災害時の乗客救援の責任まで負わされる静岡県が反対するもの無理もない話なんですが、死去した葛西名誉会長を筆頭に幹部の国鉄OBが国鉄時代のノリで事業を進めようとして静岡県で躓いたという見方は可能です。とはいえ現実的に静岡県内にリニアの中間駅を設置するのは無理ですし、国鉄流バーター主義では対応できない訳ですね。

加えて言えばそもそも中央新幹線は2011年にJR東海の発議で整備計画線に昇格したように、元々基本計画線の中でも優先順位の低い路線だった訳です。JR東海としては稼ぎ頭の東海道新幹線と競合する路線をJR東日本や西日本といった他社に参入されたくなかったという動機付けが強かったと思いますし、それ以上に一定のシェアを維持する東阪間の航空のシェアを奪って独占したかったということがあります。つまり全幹法を利用した輸送シェア独占を目論んだってことですね。

よく言われる国土強靭化策としての二重化の機能は北陸新幹線に託されており、また東海地震対策という意味ではリニアのルートはほぼ想定震災域に被っており、敢えて中央新幹線を急いで作る必要性は乏しい中で、リニアという技術革新を売りに国に認めされたという意味で、全幹法の趣旨をかなり逸脱した存在であるということになります。

東海道新幹線の輸送逼迫もJR東海ののぞみ増強や品川新駅開業などJR東海自身の追加投資によるもので、実際90年代には輸送量の伸びが止まって一度シェアを落としています。余談ですが日本の上場企業のPBR1倍以下、つまり解散価値以下企業の中にJR東海がリストアップされています。意外ですがPERの水準は高いので東海道新幹線へのてこ入れで資産価値が高まった結果、時価総額を上回ったってことでしょうけど皮肉な結果です。

二重化の観点から言えば来年敦賀まで開通する北陸新幹線の関西アクセスルートで揉めてますが、二重化の観点からは米原ルート一択です。特に難工事が予想される小浜京都ルートは事業費もかかるし整備期間も長くなるし、公費負担分の費用便益比(B/C比)が1を割ると予想される一方、距離が短く建設費も低廉でB/C比も2近く、また並行在来線の湖西線問題でも地元滋賀県との協議の可能性が高まります。三日月知事が唱える交通税も、近江鉄道支援に留まらず湖西線問題に備える意味があるとすれば、納税者に負担を求める滋賀県にメリットのない小浜京都ルートでは論外ですね。JR西日本はJR東海のリニアの躓きを学んでいませんね。

| | | Comments (0)

Saturday, February 04, 2023

無視されるシャドーワーク

オーストリアの社会評論家イヴァン・イリイチ氏の造語ですが、子育てを含む家事労働など賃金を伴わない影の労働を名付けたもので、欧州発のベーシックインカムの議論の基盤となっている考え方です。ここから敷衍されるのが、子育てに対する公的支援の在り方です。

絶望の少子化対策怪運国債依存症でも取り上げましたが、生産年齢人口の減少に伴う労働力減少を補う意味では子育て支援は寧ろ逆効果です。15~64歳の生産年齢人口の減少が急速に進行中ですが、現役四大卒で言えば頭の7年は学生で、せいぜいアルバイトで労働参加する程度ですから、労働力として実働する22歳以降から実際のキャリアがスタートする訳ですが、女性の場合は出産年齢が30代半ばまでとして、子育てを含めると20代30代は出産と子育てで手を取られます。これつまりシャドーワークが労働参加後のキャリア初期にバッティングする訳です。

更に大学等の学費高騰で教育費負担が来る40代も厳しいとなります。結果的に女性の多くがキャリアを中断して子育て後の復帰で地位保全されるケースは少なく、パートなどの補助的業務で低賃金を余儀なくされるという流れがあります。つまり女性は端からハンディキャップレースを強いられている訳です。加えて40代半ばからは高齢の両親の介護がのしかかる訳ですから、キャリア後期もシャドーワークを強いられる訳です。

1世代25年として50代で親が後期高齢者になるということですね。これらに対する経済補償としてのベーシックインカムというのが本来の議論です。新自由主義者が言う社会保障の一元化とは全く異なる考え方ですが、その意味で今国会で議論されている児童手当に所得制限を設けないのは当然となる訳です。

但し経済的に補償されれば済む話かと言えばそうではない訳で、シャドーワークの賃労働とのバッティングという問題は付きまとう訳です。加えて少子化対策としては殆ど無意味ということは重ねて指摘しておきます。育児に希少化する労働力が割かれる訳ですから、当面の労働力居不足は寧ろ深刻化します。これは保育園などの育児支援サービスも人手不足は避けられませんから、結局子育ての負担は増すことに変わりはありません。故に少子化対策としての効果は見込めません。故に「異次元の少子化対策」はあり得ません。

「育休中のリスキリング」発言 野党が岸田首相を批判:日本経済新聞
という訳で岸田首相の発言が炎上した訳ですが、シャドーワークとしての育児という実態を知らないということは、子育て支援の本気度もその程度ってことですし、寧ろ少子化対策にならないなら予算を削ろうという話にもなりかねません。子育て支援はシャドーワークに対する補償であるべきです。加えてリスキリングは学びなおしによるキャリアの乗り換えですが、当然コストもかかりますし、労働参加の空白にもなります。それを与党議員のおそらくやらせ質問で答えてしまうということは、原稿は官僚が作ったとして政府も与党議員もその程度の認識しかないということです。
少子化対策「N分N乗」案 茂木氏が紹介、維国導入訴え 子ども多いほど税軽減:日本経済新聞
フランスなどで採用されているという触れ込みですが、これも愚策。フランスの場合受け入れた移民が主たる受益者で、公式には移民政策を採っていない日本には当てはまりませんし、効果は知れており、出生率も人口増加ラインの2.07に遠く及びません。移民を引き付けて労働力不足を補う効果はありますが。

という訳で労働力不足は結局資本装備による労働代替が必要なのは繰り返し述べてますが、注意が必要なのは資本の質が問われるということです。例えばデジタル投資ですが、アメリカでもGAFAMの人員削減が止まらない状況ですが、巨大ハイテク企業の収益性は例えばアマゾンで言えばユーザーが勝手にポチってくれるから店舗無しでコストをかけずに高収益を得ている訳ですが、その結果ユーザーにシャドーワークを強いているとも言える訳です。グーグルやフェイスブックなども広告をスキップする手間をユーザーに強いているという意味では企業がユーザーにシャドーワークを移転してコスト負担を免れているという側面んもあります。

企業のみならず例えばコロナ対策で立ち上げたHERSYSという通知システムは入力項目が多すぎて医療現場に負担を強いており、それが医療逼迫をもたらすという本末転倒が起きていますし、マイナンバー付与で済むはずのマイナンバー制度が下手に高機能なマイナンバーカードを作ってセキュリティ問題を抱えたりということも同様ですが、申請手続きが煩雑な上、セキュリティのために二重パスワードが要求されたり紛失時の再発行に時間がかかったりで、国民視点でメリットは皆無です。

バスの細道で取り上げた京急ポニー号のデマンド運行見直しによるコストの引き算での値下げという視点も必要です。というのは資本装備は維持費がかかるということで、減耗する固定資本に沈む夕陽で示したように、資本装備を増やせば済む問題じゃない訳です。例えば新国立競技場のように低稼働で赤字となる施設を作っちゃったことは反省点です。その意味で取り上げたいのがリニア問題ですが、週刊ダイヤモンドでJR東海の迷走ぶりが特集されてます。その中の記事です。

JR東海「上から目線」でリニア沿線住民から総スカン、葛西イズムと国益至上主義の無神経:ダイヤモンドオンライン
オンライン記事は会員限定なので、全文は図書館で読んでほしいですが、川勝知事の前任の石川知事時代からの確執を川勝知事が引き継いだもので、故人となった葛西名誉会長の「上から目線」の無神経発言が発火元ということで、残されたJR東海幹部も対応のしようがないのが現実です。そしてこれ。
JR、鉄道回復8割の壁 本州3社の収入コロナ前戻らず:日本経済新聞
これつまり東海道新幹線の需要逼迫というリニア建設の必要性が消えたということです。加えて言えば元々厳しいリニア開業後の収支見通しも赤字必至ということでもあります。加えて地上コイルや車上の超電導コイルのメンテナンスなど未知のコスト負担もありますから、今からでも遅くはないんで、見直しすべきでしょう。とはいえ「皇帝」と言われ異論を述べると干されてイエスマンばかりとなったJR東海の今後は茨の道です。

| | | Comments (0)

Saturday, January 28, 2023

災害は忘れた頃に

バスの細道で取り上げた人口減少時代の資本装備問題のケーススタディにしたい事例です。

最強寒波 ポイント凍結で列車立ち往生、JR西見通し甘く:日本経済新聞
台風直撃予報で計画運休を業界に先駆けて実施したJR西日本にとっては痛恨の判断ミスですが、積雪10㎝を判断基準としていて気象会社の予報が積雪8㎝だったからということのようですが、当然予報は予報で上下にブレるのは普通のことです。せめて予防的にポイント融雪器に火を入れて間引き運転していたら、ここまでは混乱しなかっただけに判断の甘さは問われます。

但し融雪器といっても要は下に仕込んだカンテラに灯油を注して点火するという作業が必要になり、それを始発前の時間帯に行う必要がありますが、保線作業員の募集は年々困難になっており、雪だからと動員かけても集まらなという事情もあります。故に早めの決断が必要だったにも拘らずできなかったということですね。

特に構内配線が複雑な京都駅や湖西線分岐駅の山科駅、車両基地のある向日町駅などでの作業量は膨大ですし、当然コストもかかります。同じJR西日本でも豪雪地帯の北陸や山陰では電気融雪器でスイッチonだけで済みますが、降雪自体の少ない近畿圏ではコスト面からカンテラ融雪器で対応している訳ですが、少なくとも京都駅など運行上の急所となるところの電気融雪器設置は考える余地はあります。

加えて間引き運転もしていなかったので、15本もの駅間立ち往生が発生し、しかも1時間後には乗客を線路に降りして徒歩誘導するという内規がありながら積雪した線路の乗客誘導の困難さを嫌ったのか、運転再開に拘って乗客を長時間閉じ込めたことも重大な判断ミスです。結果的に少なくとも16名が気分が悪くなって救急搬送されることになりました。初動のミスは尾を引きます。

雪といえば東海道新幹線の関ヶ原も難所として有名で、開業後の運転障害の多くが関ヶ原の雪が原因ということで、当時の国鉄は現地の地下水の水利権を買ってそれを水源としたスプリンクラーを設置して融雪するという方法で対応しており、今回も1時間半ほどの遅れで運転は継続されています。2時間以内の遅れなので特急券払い戻しはなく、JR東海としては想定内の出来事だった訳ですが、国鉄時代の遺産に助けられているだけながら、備えの大切さは教えてくれます。

東海道新幹線では2000年豪雨で大失態をやらかしてまして、台風直撃で天白川などの都市河川の氾濫で線路の冠水などで運行が困難になる中、当時の葛西敬之社長の判断で列車運行継続の指令が出された結果、多数の列車が立ち往生して列車内で夜明かしという事態になりました。鉄道会社としては列車を停める判断はしにくいでしょうけど、ある意味民営化のマイナス面という見方もできます。

東海道新幹線の関ヶ原ルートの裏話として岐阜羽島駅と大物政治家大野伴穆の関係などが言われますが、実際は関ヶ原ルートは国鉄が決めたもので、比較ルートは旧東海道に沿った名古屋―京都直結ルートでしたが、鈴鹿山地越えの土被り1,000mの長大トンネル工事を回避するためと、北陸連絡で米原を通すことなどの判断で、現行ルートが選ばれ、関ヶ原の雪対策として手前に駅を設置して運転抑止時の列車収容を狙ったのが岐阜羽島駅ということで、下り副本線が2線になっているのはそのためです。同様に米原駅では上り副本線が2線になっていて、ある程度雪対策は考えられていたものの、開業してみれば運転障害の原因として問題視されてスプリンクラーが後付けされた訳です。JR西日本が今回の失敗をどう総括するかは目を離せません。

工期を意識したのは1964年の東京オリンピックに間に合わせて開業させるという世界銀行の融資条件から工期が5年しかなかったことが決定的だった結果の判断ということで、当時の国鉄は事業の実現可能性を高める現実的な判断をしたことになります。その意味で難工事が予想されていたJR東海の中央リニア南アルプスルートの選択は敢えてリスクを取ったとは言えますが、資金繰りの都合で2017年名古屋開業を目指すなら難易度の低い伊那谷ルートを選ばなかった判断の妥当性には疑問符がつきます。加えて東海地震等に備えて二重化による強靭化対策という面でも疑問符がつくニュースがこちらです。

寒波覆う、新名神の立ち往生解消 北日本で局地的大雪か
積雪予想で中日本高速道路は迷信の通行止めを決めたものの、その結果新名神にクルマが殺到してこちらも積雪で動けなくなった訳で、二重化による強靭化が如何に無意味かってことですね。つまりJR東海にとっての中央リニアは他社の参入を防ぐ以上の意味があるのかという疑問がが湧きます。

リニア60年のウヨ曲折で取り上げた金丸信の鶴の一声の乗った山梨リニア引受の結果、後戻りできなくなっただけとも言えます。加えて難工事の南アルプスルートを選んでしまった失敗は重大です。岐阜羽島のような駅も設置できないから静岡県を黙らせるネタもないし、一部で言われる静岡空港新駅は掛川駅と近すぎて事実上不可能ですしね。寧ろ国鉄の都合で決めた岐阜羽島駅設置を大野伴穆代議士の手柄として花をもたせた国鉄の方が柔軟な対応をしたとも言えます

同様の問題は北陸新幹線延伸問題でも起きていますが、実現可能性の低い小浜京都ルートで恩恵のない滋賀県の湖西線が並行在来線として切り離し対象となっているというのは、どう見ても滋賀県の同意は得られませんし、やはり長大トンネルや京都市街の大深度地下工事など難工事だらけで費用便益比(B/C比)にも疑問が残るしで、JR西日本も自社の権益を最大化したいだけという意図が見えます。国鉄分割民営化の弊害が色々見えてくる現状です。

| | | Comments (2)

Saturday, January 14, 2023

怪運国債依存症

色々ヤバいニュースが多いですが、年末に勝てないのはコロナだけじゃないで取り上げたコロナ感染は案の定拡大しています。特に死者数の多さには怒りを覚えます。

コロナ死者最多520人 国内20万3361人感染:日本経済新聞
第8波と言われる今の感染拡大ですが、遺伝子検査では第7波と同様 BA.5 が主流で、第7波の残りの性格が強いのですが、昨年コロナは万病の素らしいで指摘した問題は何も解決されない中で、大きく変わったのは、第7波が主に家庭内クラスター感染だったことで、家族単位での隔離で感染が止められた一方、今回は医療従事者や老人看護施設などでのクラスター感染が多いのが特徴です。

家庭内クラスターならば当該世帯の自粛で感染拡大は止められますし、リスクの多い子供のワクチン接種も親が接種を済ませることで子どもは接種無しでも感染リスクを減らせるということもあり、加えて公的な感染者数の全数把握も、出来ていたかはともかく、国民の行動自粛を促す指標になっていた面はあります。

それを止めてしまった今回は行動自粛の指標を失い警戒が緩んだ面はあります。その結果コロナ感染者の発見が遅れて手遅れになってから救急搬送されて医療関係者にクラスター感染をもたらし、医療と関連の強い介護施設でも同様の状況が起きている訳です。つまり収束しきれなかった第7波の残り火なんですが、そのタイミングで主にアメリカで発生した XBB,1,5 のが国内で確認されており、感染力は在来種の20倍とも言われ既

絶望の少子化対策で人口減少が国力を低下させる現実を指摘しましたが、繰り返しますが、生産年齢人口の減少で労働力も購買力も減って成長どころか収縮へ向かう局面での少子化対策は寧ろ現役世代の負担になるということを述べました。誤解のないように少子化対策としてではなく子育て支援は国民の権利の実現という意味で必要なことで、少子化対策と切り離して議論すべきですが、同時に生産性向上も省力化投資が中心ということも述べました。規模の経済を狙う大規模投資よりも、既存のリソースを活かした新たな付加価値の創出が大事ってことです。リニアよりぬれ煎餅です。

加えて言えばこうしたタイミングでの軍備増強は最悪です。実際失敗した国があります。ロシアって言うんですが。ソビエト解体後の核装備を継承して軍事大国のイメージが強いロシアですが、ことロシア人に限って言えば少子化による人口減少が急で、チェチェンなどの元々の少数民族とソビエト時代の強制移住でロシア領内に住む他民族を含む多民族国家故にロシア人以外で人口が増えてバランスしている状況で、ウクライナ侵攻でもチェチェンのカディロフ首長が率いる部隊や民間軍事会社ワグネルの関与抜きにはできなかったですし、ロシア正規軍の劣勢に見るように、元々人口が減っていて兵力が低下していることが明らかになりました。それでいて軍事作戦もデタラメです。

[FT]ロシア軍幹部への批判強まる 砲撃で死者多数:日本経済新聞
弾薬庫は敵の攻撃能力を削ぐ意味で攻撃の評手ににされやすい訳で、隣に兵舎というのは常識外なんですが、それが出来ていない程ロシア軍が劣化しているのか、単に人命を軽く見ているのか、ロシアの場合あり得ますが、兵を失うのも損失です。こういう状況で戦争なんかやっちゃいけませんね。

で、日本ですが、防衛費増額の財源問題で与党内がゴタゴタしてますが、そんな中で国債の60年償還ルールの見直しという議論が出ているようです。

国債60年償還見直しに慎重 鈴木財務相「信用に影響」:日本経済新聞
元々法律で認められているのは建設国債においてで、単年度主義の公会計では建設工事が複数年度にまたがる公共インフラの場合一括計上は困難になるため、建設国債を財源に充てることが認められており、その償還ルールが60年償還ルールですが、90年代半ば以降の金融危機その他の財政需要を賄うために特例国債と言われる赤字国債にも援用されるようになったもので、毎年度既存の赤字国債を借り換える措置を予算化して予算関連法で合法化するという手続きを踏んでいます。

その結果歴代政権で踏襲された国債借換え費として膨張し、23年度予算では16.7兆円にも及びます。建設国債の対象となる公共事業費は6兆円程度ですから完全に逆転しています。喩えて言えばいろいろ物入りだからローン組んで凌いでいる状況ですが、その結果膨張した借換え費を防衛予算に回せないかという語論が飛び出した訳です。新車買いたいから住宅ローンの支払い止めて自動車ローンに回せという議論で空いた口がふさがりません。住宅ローンなら一括返済を求められます。

てことで国債依存にどっぷり漬かった日本ですが、そんな日本の国債市場に異変が起きております。

長期金利上限超え、一時0.545% 13日の国債購入5兆円に:日本経済新聞
異次元緩和で国債飼いまくって残高の55%を日銀が保有していて流動性が低下した結果、値動きが粗くなっております。つまり投機筋の空売りも仕掛けやすい訳です。YYCの持続性に疑問が持たれている状況で、いずれYYCの見直しは避けられませんが、そうなると異次元緩和で抑えられてきた国債金利の上昇は国債利払い費の膨張という形で財政を圧迫します。23年度予算では8.5兆円の利払い費が計上されておりますが、金利動向如何では倍増またはそれ以上もあり得ます。つまり今後財政がより窮屈になる訳です。

財政拡大を唱える人たちに言わせると国債は固定金利だから影響はないとか、9割が国内で消化されているから問題ないとか言われますが、固定金利は既発債限定で、今後発行される新発債の金利上昇は避けられませんし、国内といっても過半を日銀が保有してその他も銀行や保険会社などの機関投資家が保有していて、彼らにとっては国債は担保価値があるから簡単に手放せませんから、結果的に流動性が低下することになります。その結果投機筋に狙い撃ちされて評価額が下がれば担保価値も下がる訳で、そうなると評価損の引き当てが必要になり、ただでさえ低金利で利ザヤが圧迫されている中で利益を削ることになります。この点は日銀も同じですが。

あとありがちなのが所得の恒等式「所得=消費+投資+純輸出+政府支出」の右項の「政府支出」を財政赤字と勘違いしている議論です。この恒等式では財源を問題にしておらず、税収が財源の場合は所得の再配分を意味する訳です。所得は三面合一の原則でGDPと等価ですから、財政支出を増やせばGDPが増えると勘違いしている訳です。また減税も財政による再配分が無くなるだけですから、GDPを増やしも減らしもしません。これ経済学の常識です。

但し国債発行による財政支出の増加はGDPを増やす効果があります。というのは、国債は将来の税収を担保に発行されますから、国債の発行残高分だけ将来の税収を減らす訳で、これつまり給料の前借りのようなものです。その意味で日本は既に年収に2倍以上の前借りをしている状況ということで、将来の税収を取り崩している訳です。将来世代へのツケというのは将来GDPの先食いという意味でもあります。

そして人口減少の帰結としてGDPの縮減は避けられないとすると、将来世代の負担は重くなる訳ですね。今生きている年寄りはどうせそれまで生きてはいないから無責任なことを言うのかもしれませんが、若い人が同調するのは不思議です。という訳で、国債依存もそろそろ限界というのが実際です。忘れてならないのは高橋是清が体張って守った財政規律を226の反乱分子による殺害をいいことに戦時国債乱発した結果、ハイパーインフレが起きたのは戦後復興の過程で経済が上向いてからです。財政出動で経済を支えろという議論も、結局国民にツケ回しすることにしかならないのは歴史の教えるところです。今の日本もいよいよか。怪しいウンコクサイ時代が始まります。

| | | Comments (0)

Saturday, January 07, 2023

絶望の少子化対策

前エントリーの戻らない混雑 にも関連する問題ですが、政府や都が少子化対策を打ち出した新年ですが、釘を刺しておきたいと思います。岸田首相が新年記者会見で「異次元の少子化対策」に旧統一教会が名付け親の子ども家庭庁が中心にとか、家父長的パターナリズムが前提で欧米標準の婚外子の法的保護な眼中にないでしょうし、悪い冗談としか思えません。中身も児童手当の恒久化とか不妊治療の無料化とか、目新しいものはなく、どこが異次元なんだか。

加えて小池東京都知事が18歳以下への月5,000円の支給ですが、年間6万円ってことですね。東京都は合計特殊出生率が47都道府県中最下位であり、コロナ禍前は転入人口の増加による社会像で人口増加が続いていた訳ですが、コロナ禍で転出が増えて危機感を覚えた訳ではないでしょうが、子育て支援を強化して子育て世代に選ばれることを狙ったものということです。

しかし東京の出生率の低さは住居費の高さが一番のネックです。賃貸の賃料が高い上に分譲マンションの値上がりも続いており、子育て世代の年収では高根の花です。共稼ぎのパワーカップルならば何とかなるとしても、子供が出来たら手狭になるから郊外に引っ越すということも起こります。そう考えると年間6万円程度の支援では焼け石に水です。

加えて教育費の負担もあります。少子千万!でも取り上げましたが、教育費の負担、特に大学の学費の値上がりは、貧困世帯の子供の将来を閉ざします。子供を産み育てる環境は障害だらけです。それをどうにかするのではなく小手先で何とかしようということですから効果は期待できません。

そもそも少子化対策がなぜ必要なのか?ですが、人口減少を止めたいからなんですが、人口減少の影響は結局経済成長の制約要因になるから何とかしたいということになる訳です。成長のために子供を増やせって、人間は機械じゃないです。より重要なのは労働力として見込める生産年齢人口の減少が問題なんですが、こんなこと70年代から言われてきたことが実現しているだけの話で、これまで何の手も打たれてこなかった結果でもあります。

15-64歳の生産年齢人口の減少は90年代後半から起きている訳で、凡そ四半世紀で3,000万人減っており、年平均60万人という規模です。その結果労働力の投入量が減って供給制約となる一方、家計所得も国全体では減少する訳ですから、消費が縮小して需要制約も起こる訳で、需給両面の制約要因となって経済を下押しする訳ですから、ありきたりな成長戦略ではどうにもなりません。前エントリーの末尾でリニアを作る作業員の不足と完成後の利用客の不足を指摘しましたが、将にこれです。

そして少子化対策は、高齢人口を支える現役世代に更に扶養人口を増やして負担を増やすことにしかならない訳で、現役世代の困窮化はそれ自体少子化をもたらしますし、支えられる高齢者世代の社会保障圧迫で不満となるばかりか、それを見せられる現役世代の将来不安をもたらす訳です。それもこれも経済成長を前提とした対策故のミスマッチなんです。

労働力の投入量の減少を補うための移民受け入れも、年平均60万人もの穴を埋めるのは現実的に無理な訳で、唯一可能なのは資本装備を増やして労働力不足を補い、労働生産性を高めて現役世代の賃金を上げることで、1人当たりGDPの水準を維持することのみが可能なことです。仮に移民を受け入れるにしても稼げない国に行きたい外国人はいない訳で、海外からの転入人口を増やすことにも繋がります。

つまりリニアのような大規模インフラの整備よりも、省力化に資するデジタル投資など、労働生産性を高めて賃金上昇につながる投資を行うことが重要です。限られた労働力を例えば軍事部門に張り付けたり、国立競技場のように維持費が高く低稼働なハコモノを作ったりすることは何の役にも立ちません。

その意味でDX推進は総論としては良いのですが、国民にマイナンバーカードを持たせることなどは無意味です。これは栗鼠殺し?の論点ですが、そもそも国民の個人データを国が管理する必要はない訳で、本人に鍵を持たせて必要な時だけ本人の意思で使う形にすれば十分なんで、それならシステムの維持費も低廉で済みますし、情報漏洩のリスクも減りますから、セキュリティにコストをかけずに済みます。これ良い見本がが目の前にありますよね。中国っていうんですがコロナに敗けた国で示したように大量の国民データの処理には高いコストがかかります。

当然大量輸送に優位性がある鉄道にとっては存続が難しい時代ですが、新しい動きも徐々に出てきています。

無人駅、5割に迫る グランピングやエビ養殖に活用:日本経済
コスト削減のための無人駅化は進みますが、その結果不要となった駅舎や隣接する土地の活用の事例が少数ながら出てきていることです。コストダウンだけだといずれ支え切れずに廃線ということもあり得ますが、駅を別の用途で活用して人を駅へ呼ぶとか、地域の必要なインフラにするとかですね。

これだけでどうにかなる訳ではありませんが、発想としてはローカル線のプラットフォーム化とでも言いますか、ローカル線の存在を前提とした地域ならではの付加価値創造が可能ならば、そこで得た富でローカル線の赤字補填も現実的な話になります。グーグルやフェイスブックがサービスは無料提供して広告費で稼ぐみたいなものをイメージすればわかりやすいと思います。

加えてえちぜん鉄道や岳南電車で取り組む電力託送事業とか銚子電気鉄道のぬれ煎餅とかもこのジャンルに入ると思いますが、更に駅に充電しテーションを併設してEVレンタルとか地域5Gシステムを構築してリモートワーカーを集めるとか、アイデアはいろいろあると思いますが、重要なのは地域の特性を生かした他にないものを生み出せるかどうかだと思います。その結果地方の人口減少が止まれば、中長期では人口減少の底打ちにもつながります。まあそこへ至るには時間がかかりますが、どのみち子供が増えたところで労働力となるのは20年後とかですから、回り道のようで有効性は高いと言えます。こうした構想が出せるならば「異次元」と言えるかもしれませんが。

| | | Comments (0)

Tuesday, January 03, 2023

戻らない混雑

コロナ禍で初の行動制限のない年末年始ですが、銀座や梅田の人出はコロナ前の2割減と元には戻りません。実際感染者数も死者数も増え、救急搬送の滞りが報じられる中では無理もありません。コロナを克服できていない現実です。そして生産年齢人口の減少で通勤客も減る傾向はありますから、コロナ禍が収束してもこれが新常態ぐらいに考えておくべきでしょう。そんな中で都市通勤鉄道の混雑率に異変が起きています。

日暮里・舎人ライナー、混雑率トップで赤字 東京都に誤算:日本経済新聞
混雑率1位は日暮里舎人ライナー(赤土小学校―西日暮里)144%、2位は西鉄貝塚線(名島―貝塚)140%、3位JR武蔵野線Z((東浦和―南浦和)137%、4位JR埼京線(板橋―池袋)131.8%、5位JR可部線(可部―広島)131.6%と様変わり。常連だった東京メトロ東西線も東急田園都市線も出てきません。コロナ禍がもたらした大異変を実感します。

ゴムタイヤ駆動のAGTで荷重制限のある日暮里舎人ライナーの144%はおそらく改札制限を伴う水準と考えられます。その結果車両増備や座席のロングシート化などの輸送力増強に追われ、当初計画の2023年度単年度黒字化は実現できない状況で、加えて初期車両の更新時期になり費用の負担で当面黒字転換は見込めない状況です。事業者の東京都交通局にとっては大誤算です。

都交通局は地下鉄都営大江戸線の勝どき駅の予想外の混雑が思い出されますが、沿線に集客スポットを複数抱える大江戸線と比べると、沿線にこれといった集客スポットがなく、専ら日暮里や西日暮里でJRや地下鉄に乗り継ぐ片輸送の通勤客ばかりで所謂集中率の高い非効率な路線という点でも不利な条件です。寧ろこの点は旧国鉄香椎操車場跡地開発で潤った西鉄貝塚線にも見劣りります。

その西鉄貝塚線も宮地岳線と呼ばれていた時代の香椎ヤード再開発で、都市計画による連続立体化事業での150億円の自己負担が重いということで、市営地下鉄秋塚線との相互直通を示唆されながら、追加負担を回避して相互直通を諦めたのですが、単線で増発が困難なこともあり、他線が混雑率を下げた中で残ったってことでしょう。混雑路線として名高い埼京線が辛うじて残ったものの、時代の変化を実感します。

そんな中で地方の崩壊で取り上げたように都市鉄道整備計画が目白押しなのが気になります。これから整備される路線は元を取るのが困難になると見込まれます。その中で今年3月開業の東急/相鉄新横浜線の動向は注目されます。新横浜線の場合は集客拠点としての新横浜がありますから、ある程度の営業成績は残せると思いますが、同エントリーで取り上げた豊住線や南北線延伸、湾岸地下鉄などは厳しい現実が待ち受けます。一方で関西の動きです。

JR西日本、奈良線増便や着座サービス拡大 23年春から:日本経済新聞
奈良線複線化による増発と梅田貨物駅跡地開発のうめきた2期で新地下駅開業となり、うめきた新駅は大阪駅と地下通路で繋がり、特急はるかやくろしおが停車する外、おおさか東線が新大阪から延長して折り返すことなど、運行体制が大きく変化します。他にも快速電車の有料着席サービス拡大などもあり、増収を睨んだ攻めも部分もありますが、全体としては微減というメリハリ型のダイヤ改正です。

これはJR西日本に留まらずJR東日本でも在来線特急の拡充などが見られ、明らかに客単価アップを狙ったものですが、乗客減が明らかな中では民間企業としてこの方向性は納得できます。加えてコロナ減便でリソースに余裕があるということでもあります。運輸業の収支好転が見込みにくい中で攻めているとは言えますが、同時に減便もしている訳で、この傾向は今後も続くと考えられます。

気になるのがうめきた新駅はなにわ筋線が乗り入れる予定なんですが、JRと南海の協議が続いており、2018年に環境アセスメント手続きが始まりましたが、事業着手はまだ先ですから、当然2025年の大阪万博には間に合いません。それどころかトンネル躯体が完成済みと言われる大阪メトロ中央線の夢洲延伸も怪しい雲行きです。

というのも予算が限られていてゼネコン各社が及び腰になっていることと、CGで示された構想図に基づいて具体化されたため、細かな詰めが出来ておらず、施工困難な部分も多数あるという状況です。加えて生産年齢人口の減少による作業員確保の問題もあり、万博パビリオンもできるのかどうか危ぶまれております。大阪地盤の大林組と竹中工務店が積極的ではないようで、万博関連で入札不調が相次いでいます。ど素人のお絵かきには付き合いきれないってことですね。

そして気になるのがなにわ筋線は大阪メトロの稼ぎ頭である御堂筋線と競合することです。只でさえ乗客が減少する中で、競合路線の開業は下手すれば赤字転落もあり得る訳で、大阪市の地下鉄民営化と大阪府の泉北高速鉄道売却で得た資金が投入されることを考えると、明るい展望を描けません。生産年齢人口の減少は輸送需要の低下のみならず、インフラ投資を困難にするという両面で経済を下押しします。

この辺リニア60年のウヨ曲折の工事の遅れも同じ背景ですし、それ以上に完成後の輸送需要の見込み違いもある訳です。人口減少下では労働力の減少を資本装備でカバーして生産性を高め賃金を上げる必要がありますが、資本装備強化のための投資は主に省力化が中心となります。新たなインフラを作ってもメンテナンスする人がいなければ経済を寧ろ冷やします。

| | | Comments (0)

Saturday, December 31, 2022

リニア60年のウヨ曲折

2022年も間もなく終わります。国鉄が浮上式リニアの開発に公式に着手したのが1962年ですから、今年は60年の節目だったのですが、現実のリニアは暗礁に乗り上げております。サイドバーで紹介している国商 最後のフィクサー葛西敬之:森功著 講談社刊で要領よくまとめられておりますが、静岡県の反対で静岡工区未着工だけではないリニアへの逆風は複雑怪奇な様相を呈しております。詳しくは後述しますが、葛西敬之JR東海名誉会長の死と、安倍元首相の死で流動化している政治状況が先行きを不透明にしています。

葛西氏の政治との関わりは深く、第二次安倍政権以降、官邸官僚の人事を巡って管政権、岸田政権にも引き継がれています。更にNHK人事への介入を通じたメディア支配もあります。加えて大広告主として広告出稿を通じた新聞、雑誌の言論封殺で、リニアを巡る不都合な報道は殆ど見られませんが、コロナ禍によるリモートワーク定着もあってリニアが見込むビジネス需要に陰りが見られる一方、JR東海の強引な姿勢が実現可能性を下げている現実もあります。

例えば大井川の水問題ですが、南アルプストンネルの湧水を全量戻すことで静岡県とJR東海は合意している筈ですが、JR東海の言い分はあくまでも工事衆力後の話で、トンネル掘削中の10か月ほどの期間は除外ということで「話が違う」となり静岡県が怒っている訳ですが、それをJR東海は「静岡県が無理難題を言う」として取り合いません。これは南アルプストンネルの構造からくる問題なんですが、山梨坑口から上り勾配で掘削すると、トンネル内の湧水は山梨県側へ流出する訳で、大井川へ戻すことは物理的に不可能ということです。

これは南アルプスルートでの建設を決めたことに由来する問題ですが、東西坑口を水平に結ぶと土被り3,000mにもなり、土圧でトンネル掘削自体が困難なため、東西両坑口から最大40/1,000の勾配をつけて最大土被り1,400mに抑える為です。山岳トンネルとしては大清水トンネルで1,300mの実績もあり、東海北陸道飛騨トンネルが1,000m以上の土被りの難工事の末2007年に貫通したことで、最短距離の南アルプスルートが選ばれたと言われています。しかし中央構造線をはじめ多数の活断層を横切る難工事が予想されていましたし、実際大井川の水問題もその1つではありますが、問題はそれだけに留まりません。

水問題については東電田代ダムで取水して山梨県側へ流す量が多く、その取水量を調整することで対応可能ではあり、実際JR東海からも提案されてますが、経産省の同意が必要で手続き上の難易度は高いです。加えて急岐な南アルプスの地形で大量のトンネル残土が出る訳で、それを運ぶダンプカーが通れる工事用道路の建設も、環境アセスメントをクリアするハードルは高く困難ということもあります。加えてJR老獪の高飛車な態度が県民を怒らせてきたということもあります。

加えて都市部の大深度地下工事を巡る不透明さもあります。仲良きことは美しき哉かな?で取り上げた調布市の陥没事故の影響で都市部の鉱区も着工が遅れています。こちらも事業主体の東日本高速道路の不誠実な態度が住民を怒らせており、簡単に幕引き出来る状況ではありません。また岐阜県工区の斜坑の落盤事故で死者も出してますし、神奈川工区など他の工区でも工事は遅れています。実は静岡県の反対がフィルター効果となって報道されていないだけで、巷間謂われるように静岡県知事が代われば解決とはなりません。

国鉄時代から開発が続けられた磁気浮上リニアですが、延長7kmの宮崎実験線で繰り返し試験を続けてきて、次のステップとしてより長い実験線が必要として宮崎実験線の延伸も検討されながら、将来中央リニア新幹線に繋がるという理屈で山梨に実験線が作られた訳ですが、金丸信自民党幹事長の意向が働いたと言われています。

一方で自民党林喜朗議員の後押しで運輸省と日本航空がHSSTという常電導リニア計画を持ち上げました。ドイツのトランスラピートのライセンス契約で目標最高速300km/hで、羽田空港と成田空港を結んで国内線と国際線の乗り継ぎを狙ったものらしいですが、シーメンスへのライセンス料支払い問題は会計検査院に指摘され国会でも問題になりました。日航が政府全額出資の特殊会社だったことからこうなった訳です。

結局日航は事業化を諦め、ライセンスは三菱重工へ引き継がれ、愛知高速交通東部丘陵線(通称リニモ)で実用化されましたが、最高速100km/hに留まります。しかし愛知万博の会場となった海上の森の丘陵地帯を抜けるルートはアップダウンが激しく、通常鉄道では整備が難しかったかもしれません。ちなみに最大勾配は60/1,000であり、磁気浮上でレールと車輪の粘着限界に影響されないからですが、逆に言えば中央リニアも60/1,000の急こう配を取り入れれば難工事は幾らか緩和された可能性はあります。

これ金丸信氏の鶴の一声で決まった山梨実験線をJR東海が引き受けるにあたって、中央新幹線が全幹法の基本計画線であることから、技術開発途上のリニアの実現可能性から通常の徹軌道式での整備も視野に入れた結果、粘着駆動の通常Y鉄軌道方式でギリギリ許容できるのが40/1,000ということのようです。つまり当初必ずしもリニアには拘ってはいなかった訳で、寧ろ東海道新幹線のバイパス線としてJR東海が一体運営すべきということで中央新幹線の権利を確保する目的だったようです。整備新幹線としてならばJR東日本に持っていかれる可能性があったことをブロックした訳です。

高速試験車300X系は中央新幹線を350km/hで走行する前提で設計されたもので、リニアの実現性への保険だった訳です。その成果は700系以降の新系列車に引き継がれてはいますが、隠れた意図があった訳です。それがリニアに傾いたのは技術開発の進捗が想定以上だったということに留まらず、日本の技術力を世界に知らしめるという葛西氏の右派的な思想によって目的自体がシフトしたことも指摘できます。

東海道新幹線の過密ダイヤは度々話題になりますが、実際には関西国際空港の開港や夜行高速バスの充実で輸送量が停滞した時期がありました。それを突破したのは品川新駅開業とのぞみ大増発によるJR東海自身の需要掘り起こしの結果であり、その原資は新幹線買い取りによる減価償却費の拡大と、その買い取り価格への政府へのイチャモンで認められたのぞみ付加料金の設備更新費用としての無税積み立て金です。

後者は買い取り価格の査定が減価償却されない地価部分が多くなることで設備更新が滞るという理屈で、長期運休を想定した設備更新の費用に充てるとしていましたが、認められると一転、長期運休無しでも設備更新は可能としてテヘペロしたりしております。JR東海の強引さや不誠実さを示す事実は事欠きません。

最後に森功氏の前掲書で示された仮説が、葛西氏が6年前に間質性肺炎で余命5年を宣告された直後に3兆円の財投資金受け入れを決めたのではないかということです。財投資金投入自体は当時の安倍首相の提案で、アベノミクスで中身がないと言われてきた成長戦略の目玉としてリニア大阪延伸の前倒しが検討され、税制優遇、補助金、財投資金提供の3案が財務省内で検討され前2者は法改正を伴い特に黒字企業のJR東海が対象となると日は安を浴びるとして財投案に落ち着いたということで、裏付け取材もされており、信ぴょう性は高いと言えます。お陰でJR東海がリニア事業を見直すことは困難になっております。

しかしこれが鈍器法定で取り上げたリニア談合事件のきっかけとなります。財投資金の投入で公共性ありと判断されて民間工事の談合事件として立件された訳です。当初立件は困難と言われましたが、リーニエンシー制度で大林組と清水建設が制裁を回避する一方、この2社と大成建設、鹿島建設とを分離公判で前2社を先に有罪化kていさせるという検察の公判テクニックで一審をクリアしております。とはいえそもそも難工事だらけのリニア事業でゼネコンも利益確保が難しく、こうした事件が発覚するのはある意味JR東海が見限られつつある結果とも言えます。日航HSSTの失敗とも通じます。

| |

Saturday, December 24, 2022

サンク苦労すのプレゼント

今年もあと1週間ですが、コロナとインフルエンザのツインデミックの兆候が見られます。勝てないのはコロナだけじゃない上に、生りを潜めていたインフルエンザもこの2年の感染者数の少なさが逆に免疫の空白となっている訳ですから無防備な状態です。

ややこしいのはコロナもインフルも表面的な症状は似ており、医療機関の受診のために検査が必要なことです。インフルならば抗ウイルス薬で治療することはできますが、現時点でコロナの特効薬はありません。緊急承認された塩野義のゾコーバを含め使える経口治療薬は3種類に増えましたが、感染初期に症状の進行を遅らせる程度の有効性しかなく、副作用のリスクはそれなりです。

進行を遅らせることで免疫力による自然治癒が狙いですが、当然ながら早期発見早期治療の必要があります。故に行動規制やマスク帰省を撤廃した欧米でも、希望者には公費負担でPCR検査を行う体制を維持しており、行政検査を絞り込んで自費の自主検査に委ねている日本の実情では、そもそもコロナ陽性が確認されないとコロナ専門医療に辿り着けない訳で、実際発熱が確認されて救急搬送のたらい回しや受け入れ拒否が普通に行われております。

当然感染確認が遅れて重症化してしまう訳で、死者数が高止まりしていることに表れております。2類5類の分類問題やマスク解禁などは現実を見ていない議論です。当然年末年始の帰省や旅行は自粛した方が賢明です。特に大都市圏から地方への移動は医療体制の脆弱なエリアでの感染拡大のリスクがあります。今年も巣籠の年末年始を予定しております。

さて、いろいろなニュースがありますが、これを取り上げます。

日銀の金融緩和修正、苦渋のサプライズ 市場は波乱含み:日本経済新聞
実質利上げとかアベノミクス終了とか言われてますが、実態は追い込まれたものです。10年物国債金利の利子率を抑えるイールドカーブコントロール(YCC)の見直しで既にゼロ近辺から0.25%に見直しており、今回それを0.5%まで容認するとしただけです。

そもそもYCCは日銀独自の政策で、中央銀行が制御可能なのは通常1日ものなどの短期金利が中心で、量的緩和は金融きあkンが保有する国債を中銀が買い取ることで通貨量を増やすことで幅広い金利の低下を促すもので、これはFRBやECBでもさあ愛用されましたが、YCCは10年もの国債金利を指標とする長期金利を下げるという意味で量的緩和とは別次元の政策です。

イールドカーブというのは長期の方が金利変動などのリスクがある分、高い利子を約束しないと引き受けられませんから、債券の残存期間をグラフ化すれば短期ほど低く長期ほど高い利子率カーブになる訳ですが、それを期間の長い国債の購入で長期金利も制御しようというそもそも無理筋の政策です。

当然うまくいきませんから欧米では採用が見送られ、日本でも国債の爆買いをしても達成が難しい状況でした。そこへFRBやECBの利上げで内外金利差が出て円安の元凶として批判されましたが、日銀が打ち出したのはYCCの目標金利となる0.25%での国債指値オペで長期金利を維持するというものですが、その結果既発国債の52%と過半数が日銀保有となり、その分流通市場の出玉が減って投機筋が空売りを仕掛けやすい状況になり、実際仕掛けられて維持が難しくなって膝を折ったのが実際です。加えて保有国債に含み損が発生しており、日銀の財務状況の悪化から国債爆買いも持続可能ではありません。アベノミクスの失敗は明らかですが、日銀としては政策の微調整と強弁するしかない訳です。

まあこうなることは予想出来ておりましたが、市場に屈する形での調整なので、市場は反応し、日経平均は下げました。また投機筋の攻撃はこれで打ち止めではありませんので、YCCの維持は困難になるばかりです。お陰で円安は止まり円高に振れてますが、貿易収支の赤字が定着している以上年初のドル円115円といった水準に戻ることはないでしょう。つまりインフレは終わらないってことです。FRBが量的緩和縮小を急ぎ、利上げにも踏み込んだのは、次の経済ショックに備えるノリシロを確保する意味もあった訳ですが、そうしたことに無頓着だった結果、追い込まれて身動きが取れなくなったわけです。言ってみればアベノミクスは多大なサンクコストを残して損切りを余儀なくされたという訳です。

まあ90年代のバブル崩壊から97年の金融危機に至っても銀行の不良債権問題解決に手間取ったことからすれば、日本にはありがちな話ですが、金融以外の分野にもそこここに見られます。例えばこれ。

原発建て替え・運転延長へ転換 政府、GX基本方針:日本経済新聞
やーツッコミどころ満載ですが、同じ日経紙面で2人の専門家がダメ出ししております。
現政権、「政策転換」には値せず 原発政策の行方 橘川武郎・国際大学副学長:日本経済新聞
運転延長、コスト低減限定的 原発政策の行方 大島堅一・龍谷大学教授
橘川氏は新型炉の具体化プランがない状況で、現状関電美浜3号機の建て替えで新型炉が構想されている段階で、計画としては具体化されておらず、コスト面も含めて実現可能性に疑問符がつく中、事故率の高い既存炉の運転延長に事業者を誘導することになりかねないと警鐘を鳴らします。大島氏はその運転延長のための安全対策費の膨張でコスト低減効果は限定的としています。つまりどう転んでも画に描いた餅の脳内フローラのファンタジーでしかないという訳です。

一方で太陽光や風力などの再生可能エネルギーにはあまり言及されておらずバランスを欠きます。現実的には少なくとも太陽光に関しては既にピーク出力時の送電網受け入れを制限されるほどの量を出力している訳で、蓄電や水素生産などでの出力調整や地産地消型の仮想発電所(VPP)の事業化などで安定供給を図るフェーズですが、一方でアジアやオーストラリア産の水素を輸入するとか、輸送によるコスト増や運搬時のCO2排出は見ないふりです。常識的には新型炉の建設は技術面以外にも立地選定や地元了承などの手続きを踏んでから建設すれば10年ぐらいかかる訳で、量産品の太陽光パネルを地面に並べる方が先に市場供給が可能な訳で、実現可能性をまじめに考えている気配はありません。サンクコストの損切りに未練たらたらの原子力村です。

電力網に老朽火力リスク 停止頻発、逼迫解消に懸念も:日本経済新聞
原発再稼働に拘った結果、思ったように再稼働が進まず、老朽火力の長時間稼働で凌いだ結果、補修が間に合わず停止続発となった訳です。電力会社の言い分としては太陽光Yなど再エネの出力が不安定なので火力に頼らざるを得ないと言いますが、老朽火力の主力は石炭火力で、これ鉄道の蒸気機関車(SL)と同じで炉に火を入れてから出力までに時間がかかりますし、停止しても直ちに冷えないからメンテナンスの間合い確保も難しい訳で、ガス火力なら出力の立ち上げも制御も停止も短時間で可能だしメンテナンスも容易な訳で、再エネ受け入れに消極的で火力のリプレースを怠った結果の自業自得です。同様に東日本大震災の時から問題を指摘されながら、今さらの地域間連系線の増強もやっとこれから取り組みますという体たらくです。

それでいて地政学リスクによる輸入化石燃料の高騰で電力会社は赤字に苦しんでいる訳ですから、サンクコストを気にして大損している訳です。サンクコストの損切が出来ずに苦労して得たプレゼントです。ちっとも嬉しくないですが-_-;。経営再建が滞っている東芝もそもそもは原子力事業での失敗で追い込まれた訳ですし、失敗してもそれを認めずに深みにはまるのが今の日本のお家芸なのかもしれません。

その意味で危惧しているのがJR東海が進める中央リニアですが、国鉄時代から開発が続けられ、分割民営化後もJR総研で開発継続され、技術者込みでJR東海に移管されて計画が立ち上がったものの、現状は足踏みしています。静岡県の反対で足止めされているという面ばかりが注目されてますが、そもそも技術的課題や建設コストの上昇や現場でのコロナクラスター感染もあり、外環道調布工区での大深度地下工事のトラブルもあって進まない現実があります。この辺はもう少し掘り下げて別エントリーで取り上げたいと思います。

| | | Comments (0)

Saturday, December 17, 2022

勝てないのはコロナだけじゃない

コロナに勝てない国の過酷な現実を示すニュースです。

コロナワクチン接種後死亡で 愛知医師会「体制に問題」:日本経済新聞
愛知県愛西市で起きた40代女性のワクチン接種後の死亡事案の検証の結果、集団接種会場でアナフィラキシー発症時の体制が出来ていなかったという結果となりました。アナフィラキシー自体はmRNAワクチンのリスクとして当初からアナウンスされており、アナフィラキシー・ショックは最悪死亡に至ることもありますが、その場で適切な処置をすれば回復するものでもあり、集団接種会場でその準備が出来ていなかったことが明らかになったものです。ワクチン接種が自己目的化されてリスク対応がお留守というありがちな日本品質です。

会場には問診や接種を行う医師や看護師が大勢いたにも拘らずですから深刻です。医師も看護師もコロナ禍で診療忌避で暇だから、その意味で集団接種はいいアルバイトなんでしょうけど、あらかじめアナフィラキシー対策の研修を受けるとかしていないと対応できないこと自体はやむを得ない部分があります。コロナ対策という課題解決がワクチン接種推進という目的のすり替えが起きた訳で、この手の話は日本の政治や行政では珍しくもないことですが深刻です。加えてオミクロン株派生ウィルスに既存のワクチンの有効性が低下しているという論文も出されました。

コロナ「BQ.1.1」「XBB」、従来ワクチンの予防効果低く:日本経済新聞
コロナに関しては様々な知見が蓄積されてきておりますが、新株にワクチンが効かないとすれば、現在の第8波で置き換えが起きて感染収束が見通しにくく長引くなることを意味します。ただでさえ乾燥で感染拡大しやすい状況が続く訳です。旅行支援や年末の帰省による感染拡大も注意が必要です。役に立たない政府を持つと国民は苦労します。
安保政策転換、問われる優先度 防衛3文書に映る課題:日本経済新聞
これも前エントリーの続きですが、反撃能力や財源論がメディアに踊る中で、国会閉会後の閣議決定でこれです。そりゃツッコミどころ満載だから年末年始を挟んで来年の通常国会の頃には国民も忘れてくれるとでも思っているのでしょう。サイバーや宇宙などこれでもかとばかりにメニューが並んでますが、省庁横断という点がミソですね。つまり国交省管轄の海上保安庁の巡視船新造とか、農水省関連で食糧安保のための自給率アップとか、経産省関連で防衛産業活性化とか、軍事研究を餌に科研費配分を増やすといった文科省関連とかですね。これで有事も安心か?

そもそも防衛費倍増が先に示されて、後付けで各省庁が予算分捕り合戦をしている構図です。税制改革が絡む財源論はある意味目晦ましです。課題解決ならばまず現状の課題を抽出して足りないピースが何かを明らかにした上で、実現可能な対策を検討するというプロセスを経ていませんから鉄火場になっている訳です。これでまともなものが出てくるとは思えません。ぶっちゃけ政治家も官僚も課題解決よりも我田引水に忙しいって訳で、国民は置き去りです。

カルテル「申告制」の威力 処分減免、関電は課徴金ゼロ:日本経済新聞
電力大手のカルテル事件ですが、元々呼び掛けた関電はリーニエンシーで自己申告し捜査協力したということで課徴金が免除され、捜査協力にも消極的だった中国電力は過去最高額の707億円の課徴金となり、折からの燃料費高騰もあって3月期決算で2千億円超の赤字予想となりました。課徴金は競争回避によって生じた超過利益の推定額から割り出されますから、免除された関電が課されたであろうか長期は1千億円ぐらいになると推定されています。

言い出しっぺがお咎めなしという何とも変な決着ですが、元々痺れて関電の高浜町助役との贈収賄事件の発覚を受けてコンプライアンス委員会を立ち上げて見直した結果、カルテルの事実が出てきて公取委へ申告した結果ですから、関電としては狙ったものではないとはいえ、痺れる話です。6基の原発再稼働で燃料費負担に喘ぐ他社をしり目に、電力自由化で越境延慶の余力がある関電ですが、製造業立地の多いエリアだけに他社の参入は避けたい一方、越境営業のメリットは薄く攻め込まれる立場で恫喝まがいのカルテルを仕掛けた訳です。

リーニエンシー制度は鈍器法定で取り上げたリニア談合事件でも採用され、大林組と清水建設は営業停止などの処分は受けたものの課徴金は免除されています。ただ構図として違うのは、大林組はJR東海の厳しすぎる予算管理の中での利益配分狙いでしたが、JR東海の姿勢は変わらず、大林組はJR東海に見切りをつけたと見られます。これ台車枠の亀裂の重大インシデントでJR東海が川崎重工を出入り禁止にしたこととも通底しますが、JR東海はとにかくコスト管理が厳し過ぎて、業者に無理難題を吹っ掛けると言われます。この辺は停滞するリニア問題と絡めて改めて別エントリーで取り上げる予定です。

| | | Comments (0)

Saturday, December 03, 2022

コロナに敗けた国

失われた中国の始まりがこんな形で顕在化するとは思いませんでした。

中国で「白い紙」掲げ抗議 若者らゼロコロナに不満:日本経済新聞
このニュースに接して感じたのは、監視国家中国のバグです。先端技術を躊躇せず情報統制に用い、監視カメラで国民の行動を制御する中国ですが、それをハードロックダウンによるゼロコロナ政策に活用した結果、行動制限でガンジガラメで経済活動に支障するに至り、国民の我慢の限界を超えた訳です。しかも各地で同時多発的に抗議行動が起きた結果、網羅的な監視カメラ網故に情報量が処理能力をオーバーフローしてしまった訳ですね。「白い紙」が抗議の意思を表すあたりも、監視に馴れた中国国民故の知恵なのでしょう。
江沢民氏の自宅付近は厳戒態勢 追悼集会を警戒か:日本経済新聞
こんなややこしい時に江沢民氏が死去したんですが、中国政府の対応は天安門事件のトラウマを感じさせます。1976年1月の周恩来首相の死去の追悼から始まった第一次天安門事件で前年復活した報小平氏が失脚、共に失脚した胡耀邦氏はその後鄧小平氏の復活を助け、1981年に失脚した華国鋒氏に代わって党主席に就任し、1982年党主席制度の廃止で総書記となったものの、1986年の全国学生デモで鄧小平氏が激怒してデモに理解を示して翌年失脚し、1989年4月に急死し、追悼集会と1919年の抗日運動「五四運動」70周年集会から第二次天安門事件に発展し、これを人民解放軍で制圧して「タンクマンの惨劇」が起きたという一連で、政府の過剰反応がもたらされました。
江沢民氏の自宅付近は厳戒態勢 追悼集会を警戒か:日本経済新聞
外国人ジャーナリストにインタビューされたデモ参加者は「胡耀邦、誰それ?」つまり政府の情報統制で国民は天安門事件を知らない一方、政府はナイーブな反応を示していて滑稽です。そもそも胡耀邦氏失脚後の後継の趙紫陽氏もデモ隊へ理解を示す発言で失脚し、その後継者として総書記に就任したのが江沢民氏で、天安門事件の後始末で愛国教育で民主主義を潰した人物ですから二重に滑稽です。中国の改革開放を進めて驚異的な経済成長をもたらしたと内外で評価されていますが、少なくともデモ隊が追悼するような人物ではない訳です。天安門事件は大きなトラウマになっている訳です。その結果こうなります。
ゼロコロナ緩和進める姿勢 中国副首相、抗議受け:日本経済新聞
国民の声に押されて見直しを余儀なくされた格好ですが、ゼロコロナ政策事態を撤回したわけではありません。押してそれはやむを得ない部分もあります。ゼロコロナ政策を徹底しすぎたために、変異株への対応が出来ておらず、それが感染拡大につながった訳ですし、更に国産ワクチンに拘った結果、有効性の高いmRNAワクチンなど欧米製ワクチンを排除した結果、集団免疫が不十分になってしまったこともあり、単純に規制緩和すれば200万人規模の死者も有り得る状況で、実際の緩和手続きは困難を極めます。それでも経済を圧迫し国民生活を窮乏化させることは止めなければならない訳で、中国政府にとっては茨の道です。

とはいえ国民が声を上げたことで国を動かしたという事実は広く共有されますから、今回の騒動が政変に繋がる可能性は無いでしょうけど。民主化の観点から言えば大きな一里塚ではあります。にも拘らず日本在住の中国人デモを「迷惑だ」と罵る日本人が少なからずいることは残念です。共感を示すことが彼らへの力になると共に、中国政府の姿勢に変化をもたらすならばウェルカムな筈です。

この辺は江沢民時代の愛国教育を民主化を潰したと批判した日本人は少なからず居たのに自国の愛国教育には無頓着だったりします。上記エントリーで指摘したように田中角栄氏の日本列島改造論を模倣して短期間に世界一の高速鉄道網を整備したように、中国の政策は日本のそれを模倣したものが多いのですが、愛国教育は寧ろ中国が先行したと言えます。この辺考えると日本の保守派の中国嫌いは嫉妬かもしれません。愛国ぶる嫉妬大丈夫か?略してぶる嫉妬丈夫wwwww。役に立たないブルシットジョブかい。日本も別の意味でコロナに敗けてるんだけどね。

| | | Comments (0)

より以前の記事一覧