都市間高速鉄道

Sunday, June 01, 2025

DOGEで間抜けなTACOだけど

MAGAを信じて突き進むトランプ政権。その結果米長期金利は上昇し、10年債と30年債の金利差が拡大しイールドカーブの傾きが大きくなっております*1。株高と矛盾した動きですが、トランプ関税を巡る先行きの不透明感をリスクとして市場が織り込み始めたものです。特に海外勢の長期債応札が減っており、ただでさえ価格下落で海外勢の売りを誘ったのは全農の神*2で指摘した通りですが、米議会はトランプ減税を盛り込んだ予算案を通して財政拡大に動き、関税で税収を増やし政府効率化省(DOGE)の歳出カットで均衡させると息巻くものの、債券市場の異変で国別関税は執行を猶予して日和って見せてTACO(Torump is Always Chicken Over=トランプはいつも怖気づいて終わる)と揶揄されて市場に織り込まれています。米国債大量保有する日本政府もヤバいかな?

その「全農の神」ですが、米国債売りは外債投資で大穴開けて年度末に向けて損切りしたから米政府からも睨まれたんですが、売却は年度末に終えていて米国債下落時には売っていなかったので濡れ衣ではありますが、損切りで自己資本を棄損した結果、全国の農協に追加出資を仰ぐ羽目になりました。しかしそもそも経済事業でカツカツの農協にそんな余裕あるのか?という疑問も去年の夏の令和のコメ騒動*3でコメ価格が急騰した結果、コメ集荷業者としての農協は大儲けできている訳です。しかしその儲けは農家にはあまり還元されず農林中金の外債投資で溶かした穴埋めに使われる訳で、コメ価格の上昇がコメ増産に繋がらない現実になっている訳です。

そしてやっと重い腰を上げて備蓄米放出を決めた日本政府ですが、買い戻し条件付きの入札で、事実上農協以外は手を出しにくい状況で9割が農協が落札しており、減反政策の結果農協ルートのサプライチェーンはさび付いて小売店に届かない*4。そして買い戻し条件撤廃などで備蓄米放出は続くものの「もらったコメが売るほどある」農水大臣が更迭されて小泉新農相の下で備蓄米放出の方法が変わって古いコメを安値で早く届くよう方針転換で謂わば安い指値の随意契約で集荷業者や卸を通さずに放出したのが今回です*5。

尚、精米のネックは相変わらずで問屋の精米機は取り合い状態で、農協ルートに流れた備蓄米の流通が滞る一方、今回の随意契約米は早くも店頭に並び始め、しかも安値で高値入札した農協は既存の卸ルート以外のルートを開拓しても店頭にはなかなか届かず、結局農協ルートのさび付いた現実を垣間見せました*6。故に故意の買占めや売り惜しみが鋼管謂われますが、実はもっと深刻なコメ産業の衰退の現実があります。謂わばジャパニーズラストベルト。

で、今回の随意契約ではネット通販事業者に門戸が開かれましたがJR東日本も応募しています*7。新幹線の「はこピュン」で運び6月中旬には東京駅と上野駅で販売会を開催予定ということで、コロナ前の95%止まりの運輸業収入を新事業で支える一環ではありますが、果たして成果や如何に?

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Saturday, April 05, 2025

MAGAのリアル

MAGA不思議なアメリカが本格始動しました。

アメリカ公表の「相互関税」全リスト 日本24%、中国34% - 日本経済新聞
とりあえず各国一律10%関税が始まり。国別の上乗せは9日からとしてますが、その間の各国の反応を見る為です。早速中国とカナダは報復関税を課すし、EUも米国内投資の停止指令を出して対抗する姿勢を示す一方、メキシコは様子見と国毎に対応が分かれます。日本はと言えば除外を懇願するという対応ですが、これ一番まずい対応です。理由を以下に述べます。

そもそも相互関税というのは二国間で協調して相互に関税を下げる場合の用語法ですが、今回はアメリカが一方的に関税を課す訳ですから相互関税と呼ぶのは誤りです。しかも各国の関税率は10%の最低ラインを前提に各国の対米貿易状況を「貿易赤字高÷輸入高×100÷2」という雑な数式で導き出しているものです。つまり輸入に占める貿易赤字の百分率の半分ということで、輸入超過分はアメリカが搾取されたものと見做しつつ、半分にまけてやるという意味です。つまり二国間交渉の土俵をアメリカが用意している訳で、それに乗れば確実に負けます。

また米中対立でチャイナプラスワンとして投資が集中し漁夫の利を得た東南アジアのベトナムやカンボジアの関税率が高い訳です。関税回避の為のサプライチェーン見直しを迂回貿易と捉えている訳で、大ぐくりで言えばターゲットは中国ということになります。しかし日本企業の多くが中国の拠点を東南アジアに移しつつある中で出口を塞がれたということでもあります。仮に日本だけ除外してもらっても日本企業は救えません。報道によると日産が関税回避で国内生産の米国内移管を検討というニュースもあり、存亡の危機の日産には言い訳が立ち神風かも^_^;。とはいえ株は大変なことに。

NYダウ急落、2231ドル安 関税応酬で史上3番目下げ幅 - 日本経済新聞
新聞の株式欄がストップ安で真っ黒という見慣れない椿事ですが、冗談抜きに経済のブロック化で国際貿易縮小し大恐慌へ発展し、各国の対立激化で果ては世界大戦ということも心配した方が良さそうです。防衛費3%と言われなくて良かったとか、逆にディールのカードとして米製兵器買いますとか言っちゃまずいってことです。特にハイテク株の下げが目立ちますがDeepSeekショックで指摘したようにAI開発に資金突っ込み過ぎた結果のバブルが今回の関税騒動で剥落したとすれば、相場が戻る可能性は低いと言えます。

てことでMAGA勢の動きを止めるとすれば皮肉にも市場の圧力ということになりそうですが、トランプ政権の高官が「デドックス」と表現するようにMAGA勢はバイデン政権の政策の否定をテーマにしていて、政権移行初期の今なら不都合なことは全て前政権のせいにすることも可能と見ている訳です。安倍政権が「悪夢の民主党政権」と言ってデタラメやったことを見倣っている訳です。つまりアメリカは今後衰退する道に入る可能性が高い訳で、関税まけて欲しさに安易な譲歩はすべきではない訳です。同時に今回の関税問題は反対派を混乱させる情報戦の意味もあります。

そして株式以外の市場もいろいろ動いておりまして、株式市場との裁定で債券市場は上昇し金利低下しており、日米金利差も縮まって円高に振れました。所謂リスクオフ相場で高リスクの株式から低リスクの債券に式がシフトしてリスクオフの円高となっておりますが、この動きは早晩止まると見られます。米FRBにとっては関税はインフレを呼ぶことになりますから利下げが止まり、寧ろ利上げシフトすらあり得る一方、日銀は先行きの不透明感から利上げに動きにくくなります。加えて日銀ETFの含み損で財務が傷つき、踏み込んだ利上げがやりにくくなります。故に日米金利差は寧ろ拡大に向かうと考えられます。オマケですが年金運用のGPIFも含み損が発生してますから、去年の年金財政検証はやり直すべきです。

一方で原油価格は値下がりしており、これは関税発動前の駆け込みでOPEK+が増産した結果の値下がりで、輸入に頼る日本にとっては助かります。逆に値崩れでシェール増産が難しくなるアメリカにとっては誤算ですが、原油の値崩れは戦費調達をエネルギー輸出に頼るロシアを苦しめます。これでウクライナ停戦が実現するなら瓢箪から駒ですが、資源権益とバーターとなるウクライナの苦しみは続きます。それを間近に見るグリーンランド住民の反発は当然ながら、最大の在外米軍基地がグリーンランドにある以上、アメリカはNATOから抜けられないし、資源権益も欲しいから諦めないでしょう.故に米欧の対立は長期化する可能性があります。こう考えると日米同盟を前面に立てる日本政府の対応は危ういと言えます。

以下鉄ちゃん的蛇足。ストップ安で真っ黒な中で内需株、特に関税の影響を受けない鉄道株は寧ろ買われています。こういう点からも外需依存を減らして内需関連に投資をシフトすることで難局を回避することはもっと考えられた良いと言えます。但し生産年齢人口の減少下ですから、投資案件の選択は重要です。例えばこれはどうでしょう。

新空港線「蒲蒲線」、国が東急の構想認定 今夏にも具体案 - 日本経済新聞
蒲蒲線と呼ばれる新空港線事業を国が認可したもので、とりあえず第一期区間の矢口渡―京急蒲田間の1.7㎞の事業区間で。蒲田と京急蒲田の800mのミッシングリンク解消となりますが、事業費1000億円で京急蒲田駅地下の乗入れる形で当面乗換対応となります。故に北陸新幹線敦賀問題のような高低差乗換が発生することになります。

しかも空港利用客がガラガラ引いて乗換ですから相当なストレスとなります。とはいえ大鳥居までの第二期の事業化は、軌間や車両サイズや保安装置の違いがある上、そもそも京急は乗り気ではなくめどは立っておらず、この点も北陸新幹線に似ます。米原ルートの東海道新幹線乗り入れより厄介かも。加えて現状で羽田空港連絡輸送は需給面で余裕がある一方、JR東日本の羽田空港アクセス線も事業化されており、供給過剰が心配されます。そもそも羽田空港発着枠にも限りがありますし、成田空港も第三滑走路整備と共用時間帯の拡大で発着便数を増やすとされており、関連して京成電鉄が相互車庫拡張で空港連絡輸送強化を打ち出すなど、高度成長期さながらの需要追随型投資を競っていますが、果たして必要な投資なのか?

あと敦賀の乗換は未体験ですが、東京で追体験できそうなところとしては東京駅京葉線ホームや下北沢駅の小田急線急行ホームと京王井の頭線ホームとの乗換、東京メトロ日比谷線と都営大江戸線六本木駅といったところでしょうか。京急蒲田駅はどうなる?

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Saturday, March 22, 2025

答え合わせあれこれ part2

答え合わせあれこれの続編です。

関税がアメリカの農家直撃、綿花4年ぶり安値 トランプ氏「我慢を」 - 日本経済新聞
カナダ次期首相カーニー氏 トランプ氏に挑む「危機の男」 - 日本経済新聞
トランプ関税を巡る対決姿勢を中国とカナダが見せていることですが、トランプ大統領が単純に対米黒字の多い国を標的にした結果、敵対国のみならず同盟国も敵に回しました。そしてともに対決姿勢です。元々制裁関税が課されている中国の場合は追加関税なのでより負担が大きいし、問答無用で適用されるのに対して、同盟国のカナダには猶予期間を与えて交渉余地を残してはいますが、相応の見返りを求めてきます。それに対するカナダ政府の対応は英イングランド銀行総裁を務めた実務家のカーニー氏を首相に指名して報復関税も辞さずの姿勢を見せています。

EUと日本はそこまでの姿勢は見せていませんが、EUの場合はウクライナ問題が絡みますし、中国の輸出攻勢で域内産業が窮地にある点はアメリカと同じということもあり曖昧な対応ですが、バイデン時代の非課税枠を持ち出して例外扱いを狙う日本の姿勢は大甘です。とはいえ中国の米農最物報復関税では米農家が損失を受けると反発し、自動車や鉄鋼アルミの一律関税はテスラを含む米自動車メーカーも損失を被りますが、トランプ大統領は意に介さずです。

堅調米景気、関税で暗雲 トランプ氏「過渡期」発言波紋 - 日本経済新聞
トランプ関税で不利益を被るのは過度期の一時的な現象で我慢しろということですが、これで株価が下がったことも確かです。しかも従来米株価と連動していた欧州や日本の株価が逆に上がったりしています。明らかに黒字国から還流していたドル資金の動きが変化しています。またDeepSeekショックの後、低コストの蒸留方式の生成AIも先端半導体との組み合わせでパフォーマンスを高められるなら米国優位は揺るがないというロジックで買い戻されたエヌビディアなどの米テック株もここへきて変調、更にDOGEトップでやりたい放題のマスク氏への反発からテスラ車のボイコットによる販売不振や販売店への放火事件でテスラ株ダダ下がり。その結果がこのニュース。
テスラのマスク氏、放火や不買運動は「理不尽で異常」 - 日本経済新聞
放火などのテロ行為は問題ですが、それだけ恨みを買っていた結果です。しかし発言の趣旨は株を持っている従業員や投資家に向けた「株を売るな」という謂わば口先介入。part1 の「トランププット」が図らずも実現した形です。同時に米経済を痛めて何がやりたいのかという疑問も湧きます。まるでアリババの金融部門のアントの上場停止を命じ、ゼロコロナ政策で国内経済を困窮させた中国習近平政権と同じです。違いがあるとすれば中国は国有企業優先で民間企業を圧迫する一方、今のアメリカは民間の巨大企業が政府を乗っ取った形ですが、その結果民間経済を強権で圧迫しているのは同じです。世界を荒野に変えてそれでも俺らがチャンピオンと威張るつもりでしょうか。
北海道新幹線延伸遅れ JR北海道へ膨らむ政府支援、自立遠く - 日本経済新聞
最後に国内鉄ネタですが、JR北海道が掲げていた2031年度の単年度黒字転換の再建計画が北海道新幹線の工事遅れで狂いが生じています。在来線の存続困難路線と新幹線の並行在来線切り離しで身軽になって出直す筈が、並行在来線の切り離しが遅れる訳で、それを前提とした車両置き換え計画が見直しを余儀なくされますから、事実上仕切り直しを迫られますし、それを前提とした国の支援策も狂います。金利上昇で政府財政も厳しくなる一方、経営安定基金の運用益は増えることが期待できますが、それでどうにかなる問題でもありません。課題の並行在来線貨物問題も解決先送りは可能になりますが、人口減少が続く中で現状維持すら困難な中での再建計画見直しです。、民間任せでは解決困難な問題をどうするか。トランプ騒動を対岸の火事と見ずに他山の石として政府の役割を見直す機会です。

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Saturday, March 15, 2025

いしばしをたたいてわらう

いしばしをたたいてわたれのあとですが、大草原を期待してくださいwwwww^_^;。

東北新幹線、連結運転14日再開へ こまち号に電気異常か - 日本経済新聞
「わたれ」で取り上げたJR東日本はやぶさ/こまちの列車分離事故で、E6系の連結器解放テコを動かす電磁弁に走行中謎の不規則電流が見られ、それが原因ではないかということで、とりあえず固定金具でテコが動かないよう暫定対策を講じて連結運転を再開しました。3月15日のダイヤ改正前日というきわどいタイミングです。

謎の不規則電流というと赤字3Kで取り上げた1974年9月の新幹線品川事故の原因とされた意図せざる誘導電流の悪戯の可能性はあります。交流電気車の新幹線車両は当然トランスを積んでますし、モーターの磁場も強力ですし、その他多数の電子機器も搭載されてますし、ミニ新幹線規格のE6系故にタイトなぎ装など、誘導電流を起こす可能性はありますし、特定も困難が予想されますから、これで原因究明と対策が済んだことにはなりません。逆に金具で固定するという作業を現場に課すことになりますから、自動化が仇になったとも言えます。

気になるのが人口減少を先取りして省力化を睨んだ設備投資を前倒ししてますが、コロナ後の利用客が戻らない中で有利子負債を拡大している点で経営上の課題があります。DXがうまくいかない日本の行政や企業にも似てますし、有利子負債の拡大で利払いに窮した旧国鉄にも似ます。コロナ後の新幹線絶好調なJR東海がリニアで資金を溶かしているけど、JR東日本もちとヤバい局面です。てな答え合わせの後に本題です。

石破茂首相、自民党衆院1期生に商品券10万円 「政治資金規正法に抵触せず」 - 日本経済新聞
石破首相が3日に公邸で1年生議員と会食したときに10万円の商品券を配ったことが13日の朝日新聞のスクープで明らかになり、石破首相が夜の緊急会見に臨んだものですが、何とも気持ち悪いニュースです。明らかに与党内からのリークであり、石破おろしが始まったということですが、京都選出の西田参議院議員が総裁交代を迫ったり、ヘイト発言で物議を醸す杉田水脈前議員を参議院比例代表候補に選んだりといった動きがあり、所謂保守派と言われる裏金壺議員が裏で動いていることを思わせるニュースが先駆けて流れてますし、会見での石破首相の受け答えも記者に逆質問してまで合法であることを強調するということで、期待していた国民をがっかりさせてます。ちなみに西田議員は北陸新幹線の小浜京都ルートを手続きを無視して強行したり、事故が多い電動キックボードの解禁をしたりと、ろくでもないことばかりしています。

一方野党は石破首相は予算修正その他野党の主張を受け入れるなど与しやすいので、追及は主に都議選や参院選で劣勢が言われる与党サイドが強いという逆転現象も起きており、政局が一気に流動化しています。てことで、国民サイドから見れば醜い権力闘争が見られるレアな状況ですから、石破首相にはぜひ粘って与党保守派と争ってほしいところです。与党保守派からすれ棚ぼたの石破氏叩きの炎上作戦で笑いたいところでしょうけど、本当に最後に笑うのは国民かも。政局ドラマを楽しみましょう^_^;。

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Saturday, March 08, 2025

いしばしをたたいてわたれ

赤字3Kの掟?で分割民営化というドラスティックな改革が行われたJRですが、課題は尽きません。

東北新幹線でまた分離トラブル JR東日本、連結は当面取りやめ - 日本経済新聞
上記エントリーで取り上げたはやぶさ・こまちの列車分離が、半年弱で再発しました。いしばしをたたいてわたるで原因として走行中はロックされている筈の連結解放装置のスイッチ部に製造時に発生したと見られる金属片が付着していてそれが原因ではないかということで、加えて通常は使わないバックアップシステムとしての開放スイッチの使用を停止することで対応しましたが、同様の事故が再発したことで、原因がわからなくなりました。故に深刻で重大インシデントとして国の事故調査委員会が招集されて検討されることになりました。またJR東日本は原因究明と対策が済むまで連結運転を中止し、つばさは福島で、こまちは盛岡で打ち切って東北新幹線に乗り換える形で対応する方針を示しています。つまり新在直通を止めた訳です。

当然輸送力は落ちますし、乗客に負担をかけることになりますが、安全優先のためやむを得ないところです。また線路容量の問題もあるので連結せずに続行運転というのも無理ですし、安心してくださいのつばさE3系単独運転でのオーバーラン事故もあり、慎重を期したものと思われます。JR東日本ではこまち用E6系の電気系統に問題があると見ているようですが、原因究明には時間がかかる可能性もあります。しかし安全第一です。いしばしをたたいてわたれ

3Kの2つは社会保障関連ですが、政府管掌健保は47都道府県の広域連合組織の健保協会に丸投げ、国民年金は基礎年金制度で専業主婦を第3号被保険者とすることで、余裕のある厚生年金、共済年金からの会計補助で誤魔化すという形で根源的な改革を避けてきたものの、人口動態の変化で高齢化が進む一方、支える現役世代は減る一方というJ構造問題は放置できないところです。但し注意が必要なのは世代間扶助そのものが問題なのではなく、世代間対立を煽ることは、寧ろ解決を困難にします。それを踏まえてこのニュース。

高額療養費、引き上げ実施見送り 石破茂首相が表明 - 日本経済新聞
高額療養費制度は一般にはなじみが薄いかもしれませんが、ガンその他の難病の治療薬や治療法は高額なものが多く、必要でも患者の負担が大きいと治療を諦めることにもなりかねず、また医師としても患者に勧めにくいということも起きます。当事者には命に係わる問題なのに、例えば国民民主玉木代表が外国人に利用されるとかデマを飛ばしてましたが、そうした事実は確認されてません。

また高額療養費は高齢者ほど恩恵を受けるというのも間違いで、寧ろ若年性ガンのように現役世代ほど進行の早い疾病で、よく効くけれど高額な薬を使うことで治癒して社会復帰を助けるとすれば、現役世代こそ救われるし、高齢の両親を扶養している場合はやはり現役世代に負担がある訳で、こうした問題を高齢者排除や外国人排除を口実に叩くことは問題です。

高齢者ほどガンの進行も遅く、余命から高額な薬を使う動機も少ないし、寧ろ生活習慣病予防や苦痛を和らげる終末期医療などウェルビーイング重視の方向性で見れば高齢化による負担はある程度和らげられます。勿論それでも人口の多さから負担が増えるのは仕方がないところですが、そもそも現役世代の労働分配率の低下が問題の根本であって、産業構造の転換や税制による所得再分配などで解決すべき問題です。故に恒久減税を伴う基礎控除の見直しは寧ろ政策の幅を縮めてしまいますし、自公維で合意した高校無償化も寧ろ富裕層にメリットが偏るという意味で問題です。

高額療養費問題も患者団体が声を上げ野党や世論が反応して政府に見直しを迫りましたが、石破首相は一部見直しの上8月から実施の方針を崩さず、患者団体との面談も避けていたのですが、抗しきれずに見直しを決めました。但し夏の参議院選挙の与党改選議員から「闘えない」の声が出たことで面談に踏み切り見直しを約束した訳ですから、選挙が終わればしれっと見直されることも視野に入れておくべきでしょう。故に夏の参院選では与党を勝たせない方が良い訳です。故に敢えて申し上げます。

国民はいしばしをたたいてわたれ^_^;、

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Sunday, March 02, 2025

答え合わせあれこれ

まずMAGA不思議の答え合わせ。

米ウクライナ首脳会談が決裂 トランプ・ゼレンスキー氏が口論、協定署名せず - 日本経済新聞
トランプ流ウクライナ戦争停戦がとん挫しました。バイデン時代のウクライナ支援の資金回収にウクライナのレアアース権益を要求する一方、停戦後の平和維持にアメリカが関与する意思がないことをゼレンスキー大統領に突っ込まれ、罵り合いとなって決裂したものです。EV生産に必要なレアアースの供給網を中国がほぼ独占している状況から、ソビエト時代の資料を根拠にウクライナのレアアース採掘に投資するというもので、対中国を視野に米企業の投資を後押しするという目論見でしたが、ソビエト時代の資料の正確性にも疑問があり、また同資料ではロシアが実効支配するドンパス地方に多く埋蔵されているということで、民間企業が投資するにはリスクが大きすぎますし矛盾だらけの代物です。それでもアメリカがコミットすればロシアも手を出せないというMAGA的ゴリ押しでまとめようとして案の定失敗。その結果株価が反応。
自縄自縛のトランプ相場 分水嶺は選挙前水準か - 日本経済新聞
株価自体は上昇したものの、今週軟調だった株価の戻しに過ぎませんし、交渉決裂のニュースで下げる場面もあり、トランプトレードの巻き戻しに自身が関わる皮肉な状況です。それでも強気の投資家は下げれば政府要人の口先介入で相場を戻すと見ており、トランププットと呼ばれます。選挙前水準を割り込む場合が想定されているようです。神頼みならぬトランプ頼み。

そして貿易決済通貨としての米ドルは世界中の国で外貨準備として保有され、特に対米黒字国が保有するドルの多くは投資目的でアメリカに還流されて、米資本市場の流動性の供給源になっている訳で、それが赤字スタートアップを支え、そこから育ったGAFAMのような大手テック企業の資金調達を助けていて、一方日本や欧州には同種の企業が育たない背景でもあります。だからDeepSeekショックで見えたLentSeekが米テック大手の優位を揺るがせた訳です。同時にS&P500の時価の3割はテック大手という偏った状況で、バブルが心配されている理由でもあります。またトランプ関税のインフレ効果で好調とされる米経済も曲がり角ではあります。アンチ地球の歩き方の答え合わせ。

岩手・大船渡の山火事、ヘリで消火活動 1人焼死で関連調査 - 日本経済新聞
カリフォルニアだけじゃない山火事ですが、陸前高田にしろ大船渡にしろ、被害市日本大震災の復興住宅として高地に建てられた復興住宅に被害が広がっています。地震の仮設住宅が豪雨で流され豪雪で復興が進まない能登半島もそうですが、災害に対する脆弱さを克服できません。その一方で万博工事たけなわで復興は後回し。狂ってます。
「消えたコメ」さらに2万トン 備蓄米放出に影響も - 日本経済新聞
インフラゾンビの見つけ方で農水省の言う流通段階の不明米21万トンがなかった可能性を示すニュースです。おさらいすると23年のコメ不作で端境期のコメ不足から値上がりし、24年産の新米が出れば落ち着くとされていたけど、寧ろ値上がりが止まらない状況で、政府備蓄米の放出を決めたものの、そのアナウンス効果による値下がりはない状態で、1年前より不足分は増えていたということです。つまり流通段階の行方不明米というナラティブが疑われる状況です。どうする政府。
JR東日本、送電ロス防ぐ「超電導送電システム」 中央線で検証 - 日本経済新聞
個人的には以前から期待していたことですが、鉄道総研が開発する超電導技術の応用としての直流長距離送電システムの実証試験が中央快速線で実施されるというニュースです。混雑は飛んで来る五輪霧中の首都圏JRの弱点としての饋電システムの改善になる可能性があるだけに注目したい動きです。桜木町のエアセクション短絡による架線切断事故や籠原の絶縁不良による地落事故などですが、エアセクション事故は大都市部の変電所立地のバラツキの影響で電路区分毎に異なる線路抵抗の差分でショートに近い大電流が流れる現象で、絶縁不良による地落は、15連2列車の同時力行で1万アンペアにもなる日常的な大電流で、マイルドな絶縁不良による地落をブレーカーが検知できずに起こるなど、大電流故のトラブルという点で共通してます。加えて戦前からの電化区間で変電所も老朽化が進み、設備更新が課題になる中で、線路抵抗ゼロの饋電システムが実現すれば、変電所の数を減らすだけでなく、変電所立地の偏りによるエアセクション事故も防げますし、同一電路内での複数列車で力行と回生のマッチングの可能性が高まり、回生電力か有効利用という交流電化のAT饋電のような効果も期待できます。

あとオマケ。中央快速線の輸送改善で国鉄が意図した全電動車編成による高加速とクロージングイン(移動閉そく)信号システムによる1分ヘッド運転で殺人的混雑緩和を意図したものの、落成したモハ90(後の101系)の電力消費量が変電所容量を超えることがわかって量産車では一部未電装を余儀なくされ、結局旧型国電と同等の性能しか発揮できなかったという、大電流に阻まれたイノベーション挫折の舞台でもあります。リニアよりもこうした一見地味なイノベーションの優先度は高いということは申し上げておきます。

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Sunday, February 23, 2025

MAGA不思議

石橋を叩いて渡る日米同盟とは裏腹に暴走トランプは止まりません。ウクライナ戦争停戦交渉を米ロで進めてウクライナの頭越しというのは、WW1戦後を規定するベルサイユ体制を崩壊させたチェコスロバキアのズデーデン地方のドイツ領有を認めたミュンヘン合意と同じ構図です。英仏伊独4か国で英チェンバレン首相がナチスドイツのこれ以上の軍事行動を起こさないという約束を信じて一方の当事国のチェコスロバキアの意見も聞かずに決めた結果、ナチスドイツに軍事侵攻の成功体験を与えてWW2へと突き進んだ歴史の転換点ですが、トランプ大統領はウクライナにレアアースの権益をよこせと言っており、世界平和のために融和を図った英チェンバレン首相のお人好しぶりと違って悪辣です。

寧ろWW2の戦後処理を話し合ったクリミアのヤルタ会談の方が構図が近いかもしれません。英チャーチル、米ルーズベルト、ソ連スターリンの3首脳が秘密会談でドイツ降伏後3か月以内にソ連が対日参戦することを決め、その為に海軍力の弱かった当時のソ連に対して軍事訓練やロジスティクス支援まで約束していました。当時の日本は泥沼化する戦況で本土決戦まで視野に入れながら、ソ連に和平仲介を求めていたのですから浮かばれません。結果的にソ連参戦で南樺太や北方4島を失った日本ですが、アメリカから無理難題を押し付けられるウクライナの立場は深刻です。そしてロシアの軍事的膨張を止める手立てをアメリカ抜きで見出さなければならない欧州も大変です。

てことでトランプ流MAGA政策の狂気は留まることを知りません。関税連発でインフレ助長が心配されている一方、インフレでFRBが利上げすれば金利差からドル高になってインフレを抑制するから心配ないという政権スタッフも居たりしますし、財政膨張はマスク氏のDOGEのリストラで回避できるとか、奇妙な経済理論?で大統領令連発で連邦政府をリストラし足を引っ張る官僚をクビにして、逆に政府機能を弱体化させて呼び戻したりしてます。そんなアメリカとの向き合い方を各国は迫られます。てことでこのニュース。

米国、日本の「非関税障壁」問題視 車の安全基準など - 日本経済新聞
日米首脳会談の安全運転ぶりでもこれですから、覚悟しといたほうがいいでしょう。勿論交渉材料という面もありますから、脊髄反応で余計な約束をしないことが大事です。そして仮に関税かけられても、対象は完成車に留まらず部品等のサプライ品もありますから、寧ろ米ビッグ3が割を食うということも言われております。関税回避を焦らず、寧ろ米国内の混乱を黙って見てりゃいい。その意味でこのニュース。
鴻海、ホンダに協業を提案 日産・三菱自含む4社で陣営 - 日本経済新聞
製造業の壁で解説しましたが、もはやガラケー化した既存の自動車メーカーの生存戦略は狭き道になっております。日産の再建を待てずに子会社化を言い出してぶち壊れた統合話ですが、ホンダも単独では対応できないことはわかっていて、日産との統合話も寧ろプラグインハイブリッド車を持つ三菱自動車が狙いだったとも言われます。しかし三菱は早々に統合に参加しないことを決め、日産が煮え切らない中で子会社化して三菱を間接支配というシナリオだったんでしょう。元々経産省がお膳立てした話ってこともホンダには乗り気になれなかったかも。

鴻海の狙いはアイフォンの受託生産で実現した成長モデルをEV事業で再現することですが、既存の自動車メーカーは自前主義でなかなか話に乗ってこないから事業を進められないということで、鴻海のEVトップが日産出身の関潤氏ということもあり、内情を知る日産に接近するためにルノーの日産株譲渡を打診したのですが、関氏は日産内田社長とトップを争ったライバルでもあり、ゴーン事件でガタガタになった日産の立て直しでトップ候補としては寧ろ前評判が高かったけど経産省OBの豊田社外取お気に入りの内田氏に決まった経緯もあり、内輪揉めの延長戦として経産省に助けを求めてホンダとの経営統合を指導されたという一連が見えてきます。逆にホンダが欲しがる三菱のプラグインハイブリッド技術を活かそうとしなかった経営判断は、日産に欠けているものを浮き彫りにします。イノベーションに背を向けている訳です。

鴻海としては早くEV生産に参入して実績を作りたい訳で、工場閉鎖が避けられない日産の現状からすれば、工場を鴻海に託してEV向けに作り直してもらえばリストラも進めやすくなるし、新車開発と販売というマーケティングの川上と川下を押さえておけば高付加価値の事業環境が整うという風に再建の道筋も見えてきます。経営陣の内輪揉めで袋小路に入るより遥かにマシですし、加えて言えばアジア連合でアメリカの25%関税に打ち勝つクルマ作りぐらいの構想は持ってほしいところです。ウクライナで示したようにイザとなればトランプ政権は台湾を見捨てることすらあり得る訳ですから。

JR東と岩手県北自動車、山田線とバスの共同経営に認可 - 日本経済新聞
突然ドメスティックな話題ですが、グローバル企業もドメスティック企業も事業環境の激変に晒されているのは同じで、その中でイノベーションを怠れば存続が危ういということにもなります。鉄ちゃん的には岩手県北自動車の106急行は山田線を追い込み、行き違い駅の棒線化などで列車間隔も伸びて劣勢になるなど恨みを感じるところでしょうけど、盛業に見えるバス事業も人口減少とドライバー不足で事業環境は悪化しており、このままではじり貧になりかねない訳で、少ない客を取り合っている場合ではない訳です。

鉄道とバスの共通乗車はJR四国牟岐線と本四間の高速バスの末端区間でJR乗車券で高速バスに乗れるようになっていて実績はありますが、本数の多い106急行/特急バスとの提携はJR山田線の廃止を睨んでいるのかとさえ勘繰られますし、記者会見でも質問されてJR東日本は否定しています。事業として認可を受けていますから、単純な共通乗車に留まらずダイヤ調整や共同での観光客誘致や企画商品開発なども視野に入っていると思いますが、JRからすれば宮古への足の利便性が増せば例えば東北新幹線との通し乗車券の売上が伸びて広域にメリットが出るでしょうし、岩手県北自動車から見ればJRの広域集客力を利用できる訳でwin-winの関係を構築できる訳です。

キモは独占禁止法の例外扱いとしての認可というところで。単純な規制緩和ではなく既存の法令規制を踏まえた例外としての認可ということで、米DOGEのような力づくの制度破壊ではない制度イノベーションと言えます。実は欧州の都市交通で広範に見られる運輸連合方式の運賃共通化も同じロジックで行われており、例えば東京のメトロと都営の運賃共通化のようなことも視野に入るものでもあります。そして欧州で進むMaaSも運輸連合がプラットフォームとして機能していることも指摘できます。道交法にねじ込んだLuupのようなジャパニーズMaaSとは似て非なるものです。

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Saturday, February 15, 2025

インフラゾンビの見つけ方

まず令和のコメ騒動の答え合わせ。

コメ不足の真実 - 日本経済新聞
コラムの著者は農水省の21万トンの流通段階の行方不明説を否定しています。かつて9割以上だった農協集荷が法改正で集荷業者の新規参入で農協のシェアが5割程度まで下がり、農水省が把握していないだけの可能性が高いのですが、実際は2023年の40万トン減産に対して2024年に18万トン増産で差引22万トンのマイナスで、従来はコメが値上がりすればコメ離れで消費が減って結果的に値下がりというサイクルが続いて作付自体が縮小均衡しててコメの市場規模が縮んでいました。

今回は世界的な日本食ブームとインバウンド客の増加で主に外食で消費が増えた結果、全体の消費があまり減らず2024年の新米出荷前の端境期にコメ不足が顕在化したもので、農水省の言う行方不明の21万トンは最初からなかったという見立てです。ということは備蓄米放出で一時的に値下がりはあるでしょうけど、逆に買い溜めを助長して直ぐに値上がりすることが考えられます。それでいて農水省は1年以内の買い戻しを言ってますから結局先行き値下がりはなく、それどころか逆に投機を呼び込みかねない愚策です。米価を下げたくない農水省の本音が見えますが、今回は石破首相の何とかならないかという指示があって渋々でしょうけど、だから却って市場をかく乱させることをやっちゃうんですね。まあ目先しか見ていないのは農水省に限りませんが。

埼玉・八潮で県道が陥没、車両転落 1人救助中 - 日本経済新聞
2週間前のニュースで、しかも後の顛末も含めて深刻な問題を含みます。とはいえ単純にインフラの老朽化問題と括ると本質を見失います。というのも、現地はつくばエクスプレス開業を機に開発が進んだ地域で、崩落地点の下水道管も耐用年数をけていないし、県の広域下水道の一部として定期点検も行われ、直近の点検で異常は見つかっていないとも報じられております。国土交通省の統計では2022年度で年間10,548件の道路陥没事故が起きており、都市部では3割が下水道管が原因だそうです。ということで下水道特有の問題も視野に入れておく必要があります。

上記エントリーでも触れてますが、去年の8月21日の都内の豪雨で東海道新幹線や山手線などの運転抑止の一方で地下鉄南北線市ヶ谷駅や都営大江戸線六本木駅のコンコースに水が流れながら営業を継続したことで、東京の地下鉄の水への耐性とそれを支える公共下水道の能力の高さを示しましたが、一朝一夕にできたものではなく、長い歴史の中で整備されたものです。実際1960年代前半は都内でも杉並区など郊外部では上下水道も都市ガスもなく、上水は井戸で下水は側溝から川へ流す垂れ流し状態でしたが、下水道が先に整備されて井戸が枯れて掘りなおしたりして凌いで後に上水道が整備されました。無圧で勾配をつけないと水が流れない故に深くなる下水道管を先に整備した結果ですが、一応都市計画に沿って整備された訳です。人口密集地だから税収も多く計画的な整備が可能だったということでしょう。

八潮市など隣接県の人口増加は遅れて進みますし、相対的に自治体税収も少なく、開発の進捗に合わせて後追いで整備される形になる訳で、都市計画と整合的な整備ができるとは限らないし、特に八潮市のように最近まで田園地帯だった地域の場合、平地で地下水位が高いと下水道管整備のときの埋め戻しで土が締まっていないと地下水を集めてしまって軟弱化したり、また下水道は有機物を含む汚泥も流れますから、化学変化で硫化水素が発生し水と反応して硫酸になって下水道管のコンクリートを腐食させることもあるということで、崩落の原因となる可能性はいくつか考えられます。仮に腐食が原因とすれば別ルートのバイパスを整備して作り直す必要があり。最低3年かかると言われています。当然バイパスルート上の住民の同意という壁もあります。

公共インフラの維持問題は人口減少下で大きな課題です。民間インフラの場合地震で盛土崩落の東名高速で指摘した減価償却によって東海道新幹線の盛土崩壊がなかったように維持費が手当てできますし維持管理のインセンティブも働きますが、国や自治体が管理する公共インフラの場合その仕組みがない訳で、今回の事故を機に解決を図ろうにも予算がないということになります。さてどうする?

地方創生、26事業で予算過半余る 成長呼べぬ甘い政策 - 日本経済新聞
政府は地方創生助成金の倍増を言いますが、予算は余らせるしコンサルタントの助言に従って全国で似たり寄ったりの金太郎飴政策で成果も見えていない。ただコンサルタントへの報酬だけは確実に執行され、中にはマッチポンプで私腹を肥やす悪徳コンサルタントも。地方は創生できないこんな交付金やめて公共インフラ保全に回せないか?
能登の消雪装置9割使えず 地震で配水管損傷、復旧長期化 - 日本経済新聞
地震から1年以上経ってもライフライン復旧が進まない能登半島ですが、雪国の公共インフラとしての消雪装置は9割が使えない状態で、上下水道などより優先度が低いということで、当然ながら今回の寒波で移動や物流を阻害して被災地を苦しめます。温度が安定している地下水を汲み上げて道路に張り巡らせた排水管から路面へ流すものです。てことで雪繋がり。
なぜ東海道新幹線は雪に弱いんですか?―― どうしても“遅れやすい”理由 雪以外にもあった | 乗りものニュース
寒波の大雪で北陸新幹線がほぼ平常運転だった一方、東海道山陽新幹線に遅れが出ました。その為か湯金強い北陸新幹線を雪に弱い東海道新幹線に繋げる米原ルートを腐し、小浜ルートの優位性を騙るネットの書き込みが見られましたが、ここまで表面的にしかものを診ないネットユーザーに眩暈がします。

のりものニュースの記事にあるように、東海道新幹線が雪に弱いのは雪以外のファクターがあります。簡単に解説すると新幹線列車が高速走行で積雪地をは通過すると、列車風で雪を舞い上げ、プラス気化熱で氷塊を車両に付着させます。それが融解して線路に落ちると道床のバラストを跳ね上げて床下機器などを損傷して走行不能になるトラブルが開業後に頻発し、積雪の多い関ヶ原付近で地下水の水利権を国鉄が購入して列車通過時にスプリンクラーで散布することで氷塊付着を防止することで安定させましたが、それでも雪が多かったり今回のように積雪範囲が広がった場合には、列車を徐行させて氷塊の付着を少なくする一方、駅停車中に人海戦術で氷塊をこそげ落とすことでトラブルを防止している訳で、徐行や駅停車時間の延長で遅延が生じる訳です。

山陽以降の新幹線は高架橋に固定したコンクリートスラブの道床にレールを固定してますから、バラストの跳ね上げはありませんし、東北以降では積雪地帯走行を前提に特に雪の多いと開床式高架として車両の前頭部のスノーブラウで排雪して下へ落とすことで積雪自体を減らし、またボディマウント構造といって床下機器がカバーで覆われた車体構造でモーター冷却風も雪切り室のフィルターを通して供給することでトラブルを防ぐという風に車両側でも対策されてます。そしてほとんどの区間が盛土の東海道新幹線ではバラストの量で線路レベルを微調整することが必須ですので、北陸新幹線並みに耐雪強化することは困難です。

しかし逆に言えば東海道新幹線が雪でダイヤが乱れる時には雪に強い北陸新幹線車両の優先運行で輸送力を確保するという裏技も可能になる訳で、こうした点は米原ルートの具体化の過程で調整可能な問題です。B/C比だけじゃない小浜ルート派の誤解です。

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Saturday, February 01, 2025

DeepSeekショックで見えたLentSeek

石橋を叩いて渡るのは米FRBパウエル議長も同じみたいです。

FRBパウエル議長「利下げ急がず」 金利維持、トランプ政策見極め - 日本経済新聞
実際1期目から利下げに応じないパウエル氏と対立してましたし、解任も視野に入れていたものの、大統領権限での解任はできない法の建付けですが、2期目でも既にトランプ氏の犯罪捜査に当たったFBIや司法省職員を解雇する大統領令を連発しているぐらいですから、言うことを聞かないならクビだというスタンスです。そして1期目でも相当数の連邦職員が解雇されていて、例えば航空管制官の人手不足が起きていますが、案の定ワシントンDCのロナルド・レーガン空港で事故が起きました。そしてこの発言。
トランプ大統領、ワシントン飛行機事故「DEI推進が背景」  根拠示さず - 日本経済新聞
ペンタゴン近くで軍用ヘリが多く飛ぶ立地条件で危険性は以前から指摘されていましたが、ある意味起こるべくして起きた事故ですが、それを民主党の多様性重視のDEI政策で、知的障害や精神障害を持つ人の雇用を進めたせいだと根拠も示さず発言するなど人格が疑われます。アンチ地球の歩き方でカリフォルニア山火事を環境対策ばかりの民主党のせいだと言わんばかりの批判と同じですが、悪い出来事は民主党のせい、ガザ停戦のような良い出来事は自分の手柄と自画自賛です。

というわけで、現在好調なアメリカ経済ですが、トランプ政権というワイルドカードを抱えて先行き見通せないのは米FRBも同じ悩み故に、様子見の現状維持という判断になった訳です。特に自らをタリフマンと称するトランプ関税政策の本気度が見えない部分があるということで、株式市場にも迷いがあるようですが、結果的に2/1からメキシコとカナダの25%関税を実行するということでNY株は下げました。しかし今週のハイライトは寧ろこちらですね。

DeepSeekの衝撃、公開技術でAI開発費「10分の1以下」 - 日本経済新聞
このDeepSeekショックが何故米株式市場を揺らしたかといえば、オープンAIのChatGPTが典型的ですが、元々非営利組織だったオープンAIがマイクロソフトと組んでマネタイズを模索したように、大規模な開発資金が必要で、学習に大量のデータが必要だからエヌビディアのGPUのような先端半導体が大量に必要で、しかもその駆動に大量の電力が必要だから原発を動かそうということで、大量の資金が必要とされていたのですが、バイデン政権のスモールヤード・ハイフェンス政策で先端半導体が入手困難になった中国のスタートアップ企業が、他のAIを先生役にして通常半導体だけで機械学習をさせて米AI企業の1/10以下の開発費で僅か2か月で公開したということで衝撃が走ったものです。特に数式問題その他論理性が問われる問題ではChatGPTを越えるパフォーマンスを示し、米国内でダウンロード数トップになるなどして衝撃となりました。米テック大手が掲げるAIナラティブに疑義が生じた訳です。ちなみに元々ChatGPTは数式問題の誤答が多いと言われています。数学苦手は人間らしさかもwww。

とはいえDeepSeekは中国企業だし当然中国当局の規制を受けて当局への開示義務を負う訳ですから、実際の利用には注意が必要ですが、オープンソース故にスキルのある人なら修正して使えるし、何よりアメリカの半導体禁輸などの制約下で可能なことを模索した結果辿り着いたやり方で、既にあるオープンソースAIの生成物を利用しつつ、不純物を排除する形で純化する蒸留といわれる工程も、大量のデータ処理を必ずしも必要としない訳です。つまりDeepSeekに留まらず、大量の開発資金が必要な米テック企業の優位とされた前提が、アメリカ以外の地域の企業にもイノベーションの可能性が見えたという意味で大きな出来事です。

DeepSeek自体は中国当局の規制もあるしセキュリティ面でも不完全なようですから、このまま米AIと入れ替わることはないでしょうし、短期的にエヌビディアのGPUの需要が落ちることもないでしょうから、株式市場はとりあえずショックの反動で戻しましたが、AI開発で今のところ収益化の成功例はなく、開発費ばかりが膨らんでいる状況でもあり、市場でも疑問を持たれていたから株式市場が反応したという側面もあります。但し熊本のTSMCや北海道のラピダスのような先端半導体需要を先取りした投資はちとやばいかなとは言えます。という訳で米テック企業も反応しました。

DeepSeekがデータ不正利用か OpenAIとMicrosoft調査 - 日本経済新聞
オープンAIの言い分はChatGPTの外部アプリ連携機能が悪用されて生成物が利用されたということで、利用規約違反ということですが、先生役のAIにChatGPTの成果物らしき成分が含まれているだけでは違反の証明になりません。プロンプトへの返しが似るのは自然なことですし、人間ならば著作権の保護で闘えるけど、公開されたAIの生成物の著作権をAIに帰することはできません。手があるとすれば蒸留禁止や悪意あるなど倫理的に問題のある回答の排除などで当局に規制してもらうしかない訳です。とはいえこれは価値観が絡むので公平公正をどう担保するかは難問です。つまりDeepSeekが米テック企業をLentSeekingに駆り立てることになりそうです。

とするとマスク氏、ザッカーバーグ氏をはじめ米テック大手のトップがトランプ大統領就任式に揃って出席してマスク氏のようにトランプ氏の懐に飛び込むようなことをしている訳で、なるほどトランプのようなビジネス優先の政府トップは企業にとってレントシーキングのターゲットとして最適な訳です。EUが進めるデジタル規制もアメリカは独自ルールで切り返して地位を守ることができます。こういう観点からは独裁的なトップは独占を狙う大企業にとっては好都合な訳ですね。

そしてトランプ関税ですが、1期目のトランプ減税の恒久化財源として関税を充てる方針が示されている以上、全ての貿易相手国に関税をかけることは視野に入っている筈ですし、その上で外交交渉の手段として追加関税を迫るというのは本気と考えるべきでしょう。だからこそ日鉄は米国内に生産拠点があれば関税を回避できるからUSスチールが欲しいし、ホンダとの統合でリストラを迫られる日産がシフトを減らして整理解雇はするけど米国内工場を温存しようとする訳です。どちらもうまくいく可能性はかなり低いですが。

ということは、JR東海が進めるテキサス新幹線も、車両などを国内から輸出することがネックとなって収益性を損なう可能性がある訳です。ただでさえ資金集めに苦労していて事業が進まない訳です。ロビー活動で日本の新幹線システムを米鉄道規制の例外にしたのはいいけれどその為に使ったロビー活動費は無駄になるという訳ですね。まあそのJR東海は安倍政権下でリニア事業に3兆円の財投資金がもらえたけれど、調布で、町田で、相模原で、多治見で、トンネル工事に関わるトラブル続きですし、知事交代で着手が期待された静岡工区も手付かずで、最近では川勝知事が正しかったという評価もされるようになっています。レントシーキングの結果公金を溶かすJR東海はいずこへ向かうでしょうか。

ついでですが、自民党の裏金問題も大企業によるレントシーキングそのものです。

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Saturday, January 25, 2025

石橋を叩いて渡る石破氏と植田氏

波乱の8月で触れたように、株価下落を「植田ショック」とまで言われた結果、年内と見られていた追加利上げを年を越してから決定いたしました。

[社説]日銀はより精緻な利上げの戦略と対話を - 日本経済新聞
日経の社説とは裏腹に、利上げを遅らせて米政権移行に伴う市場の反応を見極め、しかも副総裁と総裁が揃って事前に利上げを示唆する発言をして市場に織り込ませた対応は慎重そのものです。決定会合後の記者会見で中立金利までの長い道のりに言及して、追加利上げは今後も続くことを市場に問いかけています。利上げ観測の為替の円高もわずかで、寧ろ未だインフレ補正の実質金利はマイナス圏ですから当然といえば当然なんですが、円安修正はまだ先ということです。
石破茂首相「令和の列島改造」実現へ5本柱 施政方針演説 - 日本経済新聞
こちらもいろいろ言われてますが、とりあえずは安全運転の姿勢です。いやツッコミどころは満載で早速楽しい日本とか曖昧という批判もあります。そして令和の列島改造と称して五本柱を示しています。①若者や女性にも選ばれる地方②産官学の地方移転と創生③地方イノベーション創生構想④新時代のインフラ整備⑤都道府県を越えた広域連携の枠組みの推進の5つです。

田中角栄内閣で打ち出した日本列島改造論は新幹線や高速道路の整備を通じて国土の均衡ある発展を狙うというものでしたが、是非はともかく具体的だったのに対して、確かに抽象的で曖昧ですが、反主流派だったから具体化するスタッフがいなかっただろうし、また具体策を示せば身内の与党から背中に矢が飛んでくるということもあるでしょう。つまり石破首相としては最大限の安全策ということです。

田中角栄版列島改造当時は鉄道貨物のシェアは今より高く、地方の港湾や工業団地も鉄道アクセスが当然視されていた時代ですから、新幹線に都市間旅客輸送が移行した後の在来線は貨物インフラとして活用することが含意されていました。当時貨物は大赤字でしたが、そもそも田中角栄氏は国鉄の赤字は国民福祉の観点から意に介していなかったし、組合のスト権付与にも理解があったようです。翻ってJR化後の地方ローカル線の窮状を見ると、こうした考え方も一理あるとも言えます。短期間に高速鉄道網を整備したものの大赤字にあえぐ中国は実は列島改造を実践しているかも。鉄ちゃん宰相の石破氏にそこまで踏み込むことの困難な現実はあります。

外交でもトランプ政権発足前の会談を敢えて行わず様子見する一方、対米カードとしての対中融和などの仕込みもしてますし、安倍政権以降の歴代政権よりバランス感覚がありそうです。但し全体的には曖昧にせざるを得ない現状もあり、具体化の過程で野党に攻められるのみならず、身内のからの矢もかわさなきゃならない一方、さりとて与党内にポスト石破候補がいない中で、逆に野党に助けられる場面もありそうです。これ石破氏を褒めてるんじゃなくて、いずれ明らかになる具体策へのツッコミはしっかりやろうと思います。

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