石橋を叩いて渡るのは米FRBパウエル議長も同じみたいです。
FRBパウエル議長「利下げ急がず」 金利維持、トランプ政策見極め - 日本経済新聞
実際1期目から利下げに応じないパウエル氏と対立してましたし、解任も視野に入れていたものの、大統領権限での解任はできない法の建付けですが、2期目でも既にトランプ氏の犯罪捜査に当たったFBIや司法省職員を解雇する大統領令を連発しているぐらいですから、言うことを聞かないならクビだというスタンスです。そして1期目でも相当数の連邦職員が解雇されていて、例えば航空管制官の人手不足が起きていますが、案の定ワシントンDCのロナルド・レーガン空港で事故が起きました。そしてこの発言。
トランプ大統領、ワシントン飛行機事故「DEI推進が背景」 根拠示さず - 日本経済新聞
ペンタゴン近くで軍用ヘリが多く飛ぶ立地条件で危険性は以前から指摘されていましたが、ある意味起こるべくして起きた事故ですが、それを民主党の多様性重視のDEI政策で、知的障害や精神障害を持つ人の雇用を進めたせいだと根拠も示さず発言するなど人格が疑われます。
アンチ地球の歩き方でカリフォルニア山火事を環境対策ばかりの民主党のせいだと言わんばかりの批判と同じですが、悪い出来事は民主党のせい、ガザ停戦のような良い出来事は自分の手柄と自画自賛です。
というわけで、現在好調なアメリカ経済ですが、トランプ政権というワイルドカードを抱えて先行き見通せないのは米FRBも同じ悩み故に、様子見の現状維持という判断になった訳です。特に自らをタリフマンと称するトランプ関税政策の本気度が見えない部分があるということで、株式市場にも迷いがあるようですが、結果的に2/1からメキシコとカナダの25%関税を実行するということでNY株は下げました。しかし今週のハイライトは寧ろこちらですね。
DeepSeekの衝撃、公開技術でAI開発費「10分の1以下」 - 日本経済新聞
このDeepSeekショックが何故米株式市場を揺らしたかといえば、オープンAIのChatGPTが典型的ですが、元々非営利組織だったオープンAIがマイクロソフトと組んでマネタイズを模索したように、大規模な開発資金が必要で、学習に大量のデータが必要だからエヌビディアのGPUのような先端半導体が大量に必要で、しかもその駆動に大量の電力が必要だから原発を動かそうということで、大量の資金が必要とされていたのですが、バイデン政権のスモールヤード・ハイフェンス政策で先端半導体が入手困難になった中国のスタートアップ企業が、他のAIを先生役にして通常半導体だけで機械学習をさせて米AI企業の1/10以下の開発費で僅か2か月で公開したということで衝撃が走ったものです。特に数式問題その他論理性が問われる問題ではChatGPTを越えるパフォーマンスを示し、米国内でダウンロード数トップになるなどして衝撃となりました。米テック大手が掲げるAIナラティブに疑義が生じた訳です。ちなみに元々ChatGPTは数式問題の誤答が多いと言われています。数学苦手は人間らしさかもwww。
とはいえDeepSeekは中国企業だし当然中国当局の規制を受けて当局への開示義務を負う訳ですから、実際の利用には注意が必要ですが、オープンソース故にスキルのある人なら修正して使えるし、何よりアメリカの半導体禁輸などの制約下で可能なことを模索した結果辿り着いたやり方で、既にあるオープンソースAIの生成物を利用しつつ、不純物を排除する形で純化する蒸留といわれる工程も、大量のデータ処理を必ずしも必要としない訳です。つまりDeepSeekに留まらず、大量の開発資金が必要な米テック企業の優位とされた前提が、アメリカ以外の地域の企業にもイノベーションの可能性が見えたという意味で大きな出来事です。
DeepSeek自体は中国当局の規制もあるしセキュリティ面でも不完全なようですから、このまま米AIと入れ替わることはないでしょうし、短期的にエヌビディアのGPUの需要が落ちることもないでしょうから、株式市場はとりあえずショックの反動で戻しましたが、AI開発で今のところ収益化の成功例はなく、開発費ばかりが膨らんでいる状況でもあり、市場でも疑問を持たれていたから株式市場が反応したという側面もあります。但し熊本のTSMCや北海道のラピダスのような先端半導体需要を先取りした投資はちとやばいかなとは言えます。という訳で米テック企業も反応しました。
DeepSeekがデータ不正利用か OpenAIとMicrosoft調査 - 日本経済新聞
オープンAIの言い分はChatGPTの外部アプリ連携機能が悪用されて生成物が利用されたということで、利用規約違反ということですが、先生役のAIにChatGPTの成果物らしき成分が含まれているだけでは違反の証明になりません。プロンプトへの返しが似るのは自然なことですし、人間ならば著作権の保護で闘えるけど、公開されたAIの生成物の著作権をAIに帰することはできません。手があるとすれば蒸留禁止や悪意あるなど倫理的に問題のある回答の排除などで当局に規制してもらうしかない訳です。とはいえこれは価値観が絡むので公平公正をどう担保するかは難問です。つまりDeepSeekが米テック企業をLentSeekingに駆り立てることになりそうです。
とするとマスク氏、ザッカーバーグ氏をはじめ米テック大手のトップがトランプ大統領就任式に揃って出席してマスク氏のようにトランプ氏の懐に飛び込むようなことをしている訳で、なるほどトランプのようなビジネス優先の政府トップは企業にとってレントシーキングのターゲットとして最適な訳です。EUが進めるデジタル規制もアメリカは独自ルールで切り返して地位を守ることができます。こういう観点からは独裁的なトップは独占を狙う大企業にとっては好都合な訳ですね。
そしてトランプ関税ですが、1期目のトランプ減税の恒久化財源として関税を充てる方針が示されている以上、全ての貿易相手国に関税をかけることは視野に入っている筈ですし、その上で外交交渉の手段として追加関税を迫るというのは本気と考えるべきでしょう。だからこそ日鉄は米国内に生産拠点があれば関税を回避できるからUSスチールが欲しいし、ホンダとの統合でリストラを迫られる日産がシフトを減らして整理解雇はするけど米国内工場を温存しようとする訳です。どちらもうまくいく可能性はかなり低いですが。
ということは、JR東海が進めるテキサス新幹線も、車両などを国内から輸出することがネックとなって収益性を損なう可能性がある訳です。ただでさえ資金集めに苦労していて事業が進まない訳です。ロビー活動で日本の新幹線システムを米鉄道規制の例外にしたのはいいけれどその為に使ったロビー活動費は無駄になるという訳ですね。まあそのJR東海は安倍政権下でリニア事業に3兆円の財投資金がもらえたけれど、調布で、町田で、相模原で、多治見で、トンネル工事に関わるトラブル続きですし、知事交代で着手が期待された静岡工区も手付かずで、最近では川勝知事が正しかったという評価もされるようになっています。レントシーキングの結果公金を溶かすJR東海はいずこへ向かうでしょうか。
ついでですが、自民党の裏金問題も大企業によるレントシーキングそのものです。
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