都市間高速鉄道

Saturday, August 31, 2024

迷子の台風

本題に入る前に令和のコメ騒動の続きです。

坂本哲志農相、お米の円滑流通を卸業者に要請 備蓄米放出は慎重 - 日本経済新聞
政府は対応する気なし。卸業者に円滑な流通を促してますが、流通が滞っている状況で政府備蓄米の放出はしないで、もうすぐ新米出るからそれで解決というスタンスです。しかし問題は新米は割高というか、値上がり確実です。というのも農協が生産者に支払う前払いの概算金が増額されていて、小売り段階で2~4割高くなると見込まれています。新米と古米の価格差が大きくなるのは仕方ないですが、スーパーの棚からコメが消える、つまり今必要なコメが手に入らない状況の改善こそ必要な筈です。

ここからは裏の取れていない話ですが、元々コスト上昇で農協が生産者に支払う概算金は上がっているのに、コロナ禍で需要が減って値崩れしていたことから、卸が利益確保のための価格つり上げの動機はある訳で、本来ならばそうした流通の不全を解消するため平成のコメ騒動を受けて成立した政府備蓄米制度じゃないのか?ってことですね。加えて市況によって生産者に概算金の上振れ分として加算金を支払う場合もあります。勘の良い方ならお判りでしょうけど、自民党総裁選の後に信を問う解散総選挙という段取りを睨むと、農協を通じてコメ農家にアメを与えることで票の離反を防ぐ狙いが読み取れます。農政改革を打ち出した立民枝野氏はその辺意識してるかも。

東海道新幹線、29日の運転取りやめ 静岡県内の大雨影響 - 日本経済新聞
東海道新幹線は沿線の雨量計が規制値を超えたことから29日の運休を決め、明日9月1日も運休と長引いていますが、それもこれも台風の動きが遅いからです。豪雨に弱い盛土構造も災いしてますが、こればかりはやむを得ません。

台風の動きが遅いのは台風を動かす動力となる太平洋高気圧が弱いのと、偏西風の蛇行で日本列島付近は北へ偏っていて台風10号はうまく乗れなかったから近畿地方で停滞している訳です。そして台風の北側にある秋雨前線に湿った暖かい風を送り込んで活発化させているから東海から関東にかけての広範囲に雨を降らせている訳です。気球の地政学で中国製とみられる観測気球が大きくコースを外れて北米に達して議会の突き上げで撃墜された事件がありましたが、将に偏西風の蛇行を実証しております。ちなみに23年5月に撃墜した気球の残骸を調査した米政府から軍事観測気球でなかったことがこっそり発表されてます。

一方今回は空の便は九州発着便が大量運休したものの、首都圏対関西などは飛んでいますから、輸送力は比較になりませんがある程度受け皿になったと考えられます。故に輸送力に差のある北陸新幹線も米原に繋げば機能するってことです。自民党総裁選出馬表明が遅れてメディア露出を増やしたい与党陣営には水を差された感があるかもしれませんが、脱炭素をサボり石炭火力依存でCO2出しまくった結果、上述のように偏西風が惰行して台風が停滞した訳で、ある意味自業自得です。福島第一原発事故で原発が全停止したから仕方がないと言訳されてますが、このニュースも仕方がないんでしょうか。

原発新増設、誰ができるのか? 技術継承へ細る人材 原発 誰が動かす(上) - 日本経済新聞
東海大学が原子力学科の募集を停止するという記事ですが、福島の事故で受験生が減って定員割れ状態で維持できなくなったわけです。つまり若手の原子力エンジニアが育っていないから、政府方針で原発新増設を決めたところで作る人も動かす人も足りないという状況になる訳です。世界を見渡せばアメリカもスリーマイル事故以来新設が止まり、やはり技術的なブランクを埋められずに迷走してますし、イギリスやフランスも同様です。世界を見渡せば新増設はほぼロシアと中国に偏っており、脱炭素電源として新設を希望する新興国もロシアや中国の企業に頼っているという状況です。いずれ日本もその列に並ぶかも^_^;。建設だけでも10年はかかり立地選定や環境アセスメント、原子力規制委の承認や住民避難計画策定と地元同意とスケジュールこなすうちに2050年来ちまいます。

更に言えばアメリカは原子力産業の空洞化で既存原発のウラン燃料をロシアから輸入していて、ウクライナ戦争の制裁対象にもなっていません。更に悲報ですが安全性が高いと言われる新型炉の中でも有望とされる小型モジュール炉(SMR)に使われる高濃縮ウラン燃料は、現時点でロシアのみが商業供給可能とされており、実際シベリアの北極海沿岸で実用炉が稼働しています。まあロシアが保有する濃縮ウランを発電で減らせるという意味で悪いことばかりではありませんが、冷戦時代に過剰生産されたソビエト時代のレガシー資産は膨大で、とても発電だけでは消化しきれません。核燃料の調達面では欧州も似たり寄ったりの状態です。

日本では核燃料サイクル事業で「国産」を謳いますが、その六ケ所村の核燃料サイクル事業1997年稼働開始の予定をトラブルで27回も変更されていていつできるかもわからないし、そもそももんじゅの開発失敗で高速増殖炉の開発を放棄した結果、プルトニウムを含むMOX燃料を軽水炉で燃やすプルサーマルでお茶を濁してますが、増殖炉と違って高レベル放射性廃棄物を増やす厄介者ですし、既存原発で使う場合、放射線被爆で躯体の劣化が進むと考えられますから、折角動いている既存原発の経年劣化を早めるだけで、メンテナンスコストも上がります。

脱炭素燃料として水素やアンモニアも注目されてますが、何れも現時点で石油由来の発生品だから脱炭素にならないし、再エネ由来の水素などはコスト面で商業化は程遠い現状です。アンモニアも当面石炭火力の併燃で対応ですから、結局石炭火力の延命にしかなりません。また日本製の石炭火力は高効率だという議論もありますが、それでもガス火力などに比べてCO2排出量は多いし、新設した場合30~50年の稼働期間を睨めばカーボンゼロ宣言の2050年を越えて稼働させるのかということですね。その前に停止を余儀なくされる座礁資産にしかならない訳です。

てことで停滞する迷子の台風は日本が生み出した日本の写し鏡かもしれませんね。

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Sunday, August 25, 2024

令和のコメ騒動

災害の備えと憂いは東京も例外ではありません。

東海道新幹線、大雨で一時運転見合わせ 山手線も - 日本経済新聞
港区などで連続150㎜の雨量となって東海道新幹線が規制値越えで運転見合わせ。また山手線など首都圏各線も止まりました。一方、SNSで南北線市ヶ谷駅コンコースの水没や都営大江戸線六本木駅の地上階段から雨水が滝のように流れ込む動画が拡散されたりしてますたが、地下鉄各線は一部地上出口の閉鎖で乗り切り、列車運行は続けていたとか。地下鉄の排水能力の高さを見せました。同時に排水を受ける公共下水道の能力も高い訳ですが。とはいえ帰宅ラッシュのタイミングでのハプニングは影響が大きかったとは言えます。

ノイジーサマーで指摘したように、地震や台湾有事などの軍事的緊張よりも、水害リスクは発生確率から言えば重大です。さりとて全国で東京都並の対策が可能かといえば難しいし、本当のところは原因である気候変動対策としての脱炭素を進めることが重要でしょう。脱炭素の観点から言えばクラウド上で働くAIは大量の電力消費を伴いますから、この観点からも規制が必要ですし、ましてエネルギー資源をほぼ全量輸入に頼る日本に勝ち目はありません。一方で今は落ち着いている電力需要がAIで上振れするという妄言で脱原発を主張していた河野太郎議員が宗旨替えしました。愚かです。

その河野太郎議員は自民党総裁選に出馬の意向だそうですが、前回小石河連合と呼ばれ河野氏支持に回った小泉氏や石破氏はそれぞれ出馬の意向を示しております。河野氏は唯一解散していない麻生派の支援でということでしょう。小泉氏の後ろには菅義偉前首相がついていると言われ、石破氏は独自に推薦人を集めて出馬表明しています。二階派出身でコバホークと呼ばれる小林鷹之議員は甘利昭氏が裏についていて安倍派に多い4回生以下の若手議員票の分散が狙いらしく、噛ませ犬というか当て馬ということのようです。更に出馬意向の議員は多く、党員票の比重が増すことになりますが、党員票も医師会その他の業界団体の影響下にありますから、誰が選ばれても自民党の金権体質は温存されると見るべきです。

一方立憲民主党の代表選で若手が出てこないという嘆きの声がありますが、劣勢の野党第一党で議員数が少ない中で20人の推薦人を集められるのはベテランになりますし、まして影の首相として政権交代を迫る政治手腕も問われますから、ベテラン同士の争いで寧ろ政権構想や政策論争を闘わせることで有権者の関心が高まり次期総選挙に繋げることが狙いですから、単なる権力闘争の自民党の総裁選とはそもそも意味が違います。そして自民支持の業界団体も必ずしも一枚岩ではないので、与党支持層の切り崩しにもつながります。例えばこんなニュース。

米が揺さぶる物価高 7月17.2%上昇、20年ぶり伸び幅 - 日本経済新聞
古米と新米の端境期で昨年の猛暑の不作やインバウンド需要で外食のコメ消費が伸びたとかいろいろ言われてますが、確かに急な値上がりではありますが、水準としては20年前に戻っただけ。その間減反で供給を絞って価格維持をしながら需要がそれ以上に減って価格低下傾向にあったコメ価格ですが、実は卸し倉庫には十分な在庫があると言われております。価格維持で高値で仕入れたコメですが、ウクライナ戦争や円安で輸入小麦が値上がりし、パンやパスタや即席めんが軒並み値上げとなったことから便乗値上げが疑われます。

ウクライナ戦争は長引き為替の円安が定着する中で、相対的に安値の国産米には輸出の目が出てきている訳ですし、民主党時代に打ち出した農家の個別所得補償が有効な局面です。コメの価格維持ではなく農家の所得を補償することで、国内販売価格も下がるし円安と相まって輸出競争力も増す訳ですから、それを梃子に食料自給率を高めるというオーソドックスな食料安保政策になりますし、自民党の票田の農協を切り崩すことにもなります。立憲民主党の代表選ではこうした文字通り骨太の政策論争を期待します。

ノイジーサマーの北陸新幹線関連でも動きがありまして、与党PTが北陸新幹線小浜京都ルート早期着工を画策して25年度予算で事項請求をいいだしているとか。事項請求というには防衛費などで多用されてますが、金額を明示せず事項を明示するもので、執行段階で予備費等から付け替える狙いです。そのため実は防衛費GDP1%はとっくに突破していたりします。同じことを整備新幹線でやろうとしていますが、こうなると整備新幹線着工5原則無視どころか、財政民主主義に反する権力の暴走と言わざるを得ません。こんな与党は早く下野してくれ。

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Sunday, August 18, 2024

災害の備えと憂い

バイデン不出馬のプランBで大統領選を混戦に持ち込んだ米民主党に倣った訳ではないでしょうけど、キッシーも総裁選不出馬を決めました。早速出馬に名乗りを上げる自民党議員が複数出てきてメディアはそれらしく報じてますが、騙されちゃいけません。プランBエントリーでも指摘したように、公職選挙法の縛りがなく実弾飛び交う自民党総裁選がまともな選挙になる筈がありません。派閥が解散しても派閥資金は宙に浮いている訳で、これがどう動くかで決まるだけの目晦ましです。寧ろ出馬に必要な推薦人20人の顔ぶれや唯一解散していない麻生派の動きに注目です。

検証 政治とカネ (岩波新書 新赤版 2021) 新書 – 2024/7/22 上脇 博之 (著)で詳しく解説されてますが、自民党の裏金問題はそもそも法の不備で抜け穴だらけで、通常国会で成立した改正政治資金規正法もザル法で意味がないことが国民にバレているのに、岸田では選挙に勝てないとばかりに顔を変えれば勝てると勘違いしているのが今の自民党という訳です。どうしようもない政治的茶番劇です。

その一方で正月の能登半島地震の復興は進まず、先日の日向灘地震が南海トラフ地震の震源域に当たるということで注意情報が出されて一部で海水浴場閉鎖などの措置が取られたりした中で、台風7号の直撃予報で東海道新幹線の16日終日運休を決めました。結果的に進路が東へ逸れて直撃はなく、一部で終日運休が批判されてますが、余地が困難な地震と違って予報の精度が高まっている天候の異変に先回りすることは、結果的に空振りに終わったとしても咎められるべきことではありません。

去年も本気の気候変動対策のように東亜気道新幹線が豪雨被害で運休となり、除却が駅に溢れ変更や払い戻しでみどりの窓口に長蛇の列ができて混乱しました。JR西日本はいち早く計画運休を決めていたことから判断を遅らせ情報提供も不十分だったJR東海は批判されました。その意味では今回のJR東海の判断は妥当なものと言えます。予知の困難な地震と違って予報精度の高い天候の異変に対しては、事前対策で災害の被害を減らすタイムライン防災の考え方が定着してきたということです。ましてJR東海は災害は忘れた頃にで取り上げた2000年水害の失態もありますから、よくぞ決断したと褒めたい気分です。

勿論JRにとっては稼ぎ時のお盆シーズンの終日運休は収益面ではマイナスですが、動かすことによる被害を回避することで余分なコストを減らす意味もあります。というか、そう考えざるを得ない程気候変動の影響が大きくなっているということでもあります。コストを言い訳に脱炭素をサボってきた結果でもあり、愚かです。

JR東海はプランBエントリーで取り上げた保守車両事故による運休もありました。このときはJR東日本が北陸新幹線に臨時列車を増発したり、ANAが臨時便を飛ばしたりしましたが、今回は北陸新幹線も列車を間引き、羽田成田発着便を中心に航空便も運休が相次ぎ、代替手段がなく前後の日に変更したり諦める人が殆どだったようです。関空連絡橋のタンカー衝突事故を受けて大型船舶の東京湾入湾規制まで実施されたぐらいですから、今回は仕方がないと言えます。一方保守車両事故の続報です。

衝突の新幹線保守用車、ブレーキ機能低下 点検に甘さ - 日本経済新聞
当該保守車両の一部に点検の不備が見つかりました。鉄道の世界で自動ブレーキと言われるもので、コンプレッサーで作った圧縮空気を空気溜めに溜めてホースで各車両に渡した加圧空気管でブレーキシリンダを緩め位置に保持し、ブレーキレバーで加圧管の空気を抜いてブレーキシリンダを込め位置に動かしてロッドで繋がったブレーキシューを車輪に押し付けて摩擦で止めるという仕組みですが、一部の保守車両で圧力不足でブレーキシューが込め位置のまま動かしていて過剰摩耗でスキマができていたということです。

営業車両では電気指令式が主流となっている中で、圧搾空気を用いる自動ブレーキが保守車両では残っていた訳で、また非営業で車籍のない保守車両故に点検に甘さがあった可能性はあります。技術の進化が不均衡なことを思い知らされますが、同時に盛土路盤にバラスト道床の東海道新幹線の特殊性があります。盛土路盤は豪雨時の緩みもありますから、保守精度を求められる高速鉄道の路盤として維持管理が負担になるんじゃないかとも思います。営業車両の一部へのセンサー搭載で2025年にドクターイエローの退役が発表されており、より多くのデータ収集が可能になるとしても、実際の保守作業が旧態依然ではこれがネックになる可能性もあります。

一方予知が困難と言われる地震も知見が増えており、日本列島はすごい-水・森林・黄金を生んだ大地 (中公新書 2800) 新書 – 2024/4/22 伊藤 孝 (著)で詳しく解説されてますが、大陸プレートと海洋プレートのぶつかり合う周縁部で比重の差から海洋プレートが沈み込み、その際に境界部が動いて地震が起きるし、また海水が地層に取り込まれて圧力の不均衡からマグマだまりができやすく火山が多数あり、温帯地域の大陸東端の多雨地帯であることもマグマだまりを形成するという不安定な日本列島で人工工作物の老い大都市の集積のリスクと共に、それ故に豊かな自然にはぐくまれた日本列島の特性を生かし切れていない現状からすると、集積を加速するリニアは不要だし建設は困難というリアルを直視すべきですね。故にリニアはプランBになり得ません。

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Sunday, August 11, 2024

ノイジーサマー

株価の乱高下が続いております。おそらく新NISAデビューの人にとっては初めての経験でしょうけど、一方で日向灘で地震があり台風5号が東北直撃の予報です。秋田県で豪雨被害が起きたばかりなのに台風直撃の東北地方。お盆の帰省シーズンに水を注す自然災害に比べたら、株安なんぞかすり傷レベルではあります。

ネギ背負ったカモその他のエントリーで繰り返してますが、新NISAデビューの人はショックでしょうけど、個人投資家のスタンスとしては株は買ったら忘れろです。積立NISAの場合は特にですが、時価の変動は無視して積立を続けることで、複利運用の効果を高めますし、成長投資枠で個別銘柄を購入した人も、いずれ株価は戻りますから、配当を受け取りながら気長に待つというスタンスで良いと思います。但し自らの投資スタンスを見直すなら、いい機会ではあります。

積立NISAで購入者が多いと言われるオールカントリー株式投信(通称オルカン)などの積立株式投信は所謂パッシブ運用の投信で、上場株式の時価総額に合わせて個別銘柄を売買して市場のパフォーマンスをなぞることで手数料を安くできてリターンが多いし、昨今はアルゴリズム取引で自動化されていたりもします。その意味で合理的な選択ですが、残高が増えれば市場取引のウェートが増えて、株価に影響する様々なパラメータを参照しますから、今回の米雇用者統計の数値が予測値を下回ったり、インテルの業績悪化などのイベントに反応して自動的に売り込んで下げを増幅してしまうということが起きます。

見方を変えれば人が介在しない機械取引として謂わばAIが実装されているようなもので、そのAIがノイズを拾った結果の過剰反応ということが言えます。そしてノイズで拡がったボラティリティの着地点は容易に見つからず、上げと下げを繰り返すことになります。それに夏季休暇の薄商いがありますから、落ち着くまでには時間がかかりそうです。パッシブ運用の比重が高まればこういうことは起きやすいとも言えます。機械の過剰反応でも借株による信用取引をしている投資家は下げ幅が下限を越えれば追証を求められ、払い込まなければ自動解約されますから、更に株価を下げてしまい、最後は個人によるパニック売りで損を被るという流れです。こうした株式市場の特性を踏まえながら、個人の投資目的に合った投資スタイルの見直しをするのはあり得ます。損は高い授業料と割り切りましょう。

これ生成AUがフェイクを吐き出すのも同じ原理といえます。フェイクを拡散するには好都合ですが、余計なノイズを拾うこと自体は無くならないでしょう。故に使い方は要注意ですが、AIで生産性が上がるかといえば、有効なノイズキャンセル機能を実装しない限り、アウトプットの有効性の評価に人が関わることで生産性を下げてしまうことが多いと考えられます。これ古典的な情報理論でも説明できますが、情報の正誤が50%の時に意味のある情報伝達は成り立たないカオスになるというもので、逆に必ず間違えるなら寧ろ有効性があるという評価になります。そもそも人の聴覚構造が自然音から音声言語を峻別することで意味を捉えるように、ノイズキャンセル機能が備わっている訳です。将棋や囲碁のようにパラメータが限られていればともかく、現実の多くのパラメータを参照する以上、ノイズの混入は避けられません。それでこのニュース。

北陸新幹線、延伸費用は最大5.3兆円試算 物価高で増加 - 日本経済新聞
物価高でというよりも、京都駅アプローチの具体化によって精緻化した結果の事業費膨張です。インフレは税収を増やしますから、B/C比の悪化はある程度緩和される筈ですが、小浜京都ルートに付きまとうトンネル難工事問題や地下水問題に対する見かけ上の回避策を示す一方、事業費の膨張を示すことで、小浜京都ルートをごり押しする与党PTを国交省が諦めさせようとしていると見ます。ところがB/C比なんか無視していいとか、計算方法を見直せと言っているトンデモ議員たちには響かない。何しろ座長の西田議員はネギ背負ったカモエントリーで触れた電動キックボード解禁をゴリ押しした粒議員です。言ってみれば生身のノイズテーカーにノイズキャンセルを試みる官僚の構図が読み取れます。しかもほとんど無意味なな桂川案を安く提示しているし^_^;。ノイズキャンセルしないと寧ろ生産性を下げるのはAIと変わりませんね。

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Sunday, July 28, 2024

プランB

ここへ来て為替が円高に動いています。きっかけはトランプ銃撃事件からの一連でもしトラがほぼトラじゃないかという観測から始まった所謂トランプラリーらしいのですが、加えて今月末の日銀政策決定会合での利上げ観測と、同時に行われる米FOMC関連で9月会合での利下げ観測を示唆する発言が出るかどうかあたりから、日米金利差が縮まるかもしれないという見方です。加えて言えば8月の円高傾向という経験則もあります。これは米財務省債の償還が8月に集中することから、受け取ったドルを売って円に替える傾向があると言われています。そして長く見られなかった日本時間の昼間の円買いが増えていることも指摘できます。つまりこれまで海外で稼いだドルを海外法人に内部留保していた日本企業が、円高が進行する前にドルを売って益出ししている結果です。円安インフレに苦しむ国民のをよそに利益追求に勤しむ日本企業の頭隠して尻丸出しの姿勢によるものです。

そして突然喰らうド障害でシステム復旧が遅れた企業が多数あり、その中には自動化が進んだテスラのEV工場も。DXだのIOTだのといっても、こうした大規模障害の可能性までは考慮されておらず、プランBが存在しなかった訳です。経済安保を謳ってもロシアなどのサイバー攻撃で機能不全に案る可能性はある訳でプランBは重要です。そしてAIブームもあって絶好調だったテック系企業の株価が調整局面に入ったこともあります。

大統領選に関してはインフレ定着が意味するところでいずれにしろ対日本では誰がなっても「金出せ!」に変わりはないですが、パレスチナ政策ではイスラエルに厳しいと見られるハリス氏に期待します。バイデン大統領の出馬辞退を受けてのことですが、トランプ氏銃撃事件から共和党大会で副大統領候補にバンス氏指名とメディア露出の増える局面での民主党の作戦勝ちのハリス旋風でトランプ氏有利を少なくともほぼ互角まで切り返しました。これを狙っていたという説もありますが、高齢のバイデン大統領の健康問題は以前からわかっていたことですから、最初から狙っていた訳ではなくあくまでもプランBのシナリオと見るべきでしょう。それにひきかえ日本では。

堀井学衆議院議員、香典「違法性を認識」供述 地検聴取に - 日本経済新聞
裏金議員の橋本聖子議員の子分で小物ですが、元スポーツ選手で地元に地盤のない落下傘候補故に有権者の慶弔事への祝金や香典は大事だけど、本人持参という法の縛りがある一方、高齢化で弔事が増えて議員本人が動けないから家族や秘書が代理でということで、本人も違法性を認識していたということで万事休す。こういうところに裏金が使われていたのでしょう。但し香典だけで千万単位にはならない訳で、大口裏金議員は何に使っていたのでしょうか?

小泉劇場で新自由主義に舵を切り福祉切り捨てに走ったことで離反した自民党員が多く、党員が支払う党費が減ったことで裏金の重要性が高まりました。特に派閥資金は公職選挙法の対象にならない自民党総裁選で飛び交う実弾の原資となります。今回は派閥解散が相次ぎましたが、派閥が管理する政治資金は残っている訳で、実弾飛び交う総裁選が展開されます。故に国民的には人気の高い石破氏や小泉氏には可能性はない訳で、あとは不人気な岸田氏に代わる若手が出るかどうかですが、いずれにしてもカネまみれの総裁選で事態を打開できると考えているなら甘いですね。プランBはなさそうです。故に野党の出番ですが、野党同士の足の引っ張り合いが続いており、政権交代もすんなりとは進まない感じです。プランBはあるか?そして日本でもリアルなトラブルが。

東海道新幹線が運転見合わせ、再開は夜以降 保守車脱線 - 日本経済新聞
22日未明に東海道新幹線豊橋―三河安城間で粗酒車両の脱線という第一報だったのですが、詳細がわかると保守車両同士の衝突事故で双方動けない状態で復旧に時間がかかることが次第に明らかになりました。これ福島の原発事故のように、当初は過小な事故のように報じて徐々に大事になるという情報開示姿勢の悪しき慣習ですが、実際はバラスト散布車編成とバラスト突き固めのマルチブルタイタンパー、通称マルタイの衝突事故で、チオ国マルタイの損傷がひどくて現地解体を余儀なくされたことが復旧を遅らせた原因ですが、幾つかの疑問があります。

バラスト軌道は新幹線では東海道新幹線のみで、山陽以降の全幹法準拠の新幹線とは軌道構造が異なります。三尿以降の新幹線は高架橋主体でコンクリートスラブと称する鉄筋コンクリート板をコンクリート路盤に防振ゴムを介して固定する構造でメンテナンスフリーなんですが、盛土区間が多く不等沈下があるので、微調整が可能なバラスト軌道にせざるを得ない上、16連285km/hの高速列車が3~4分間隔で走る訳ですから、軌道破壊の修復を高頻度で行う必要があります。しかも0時~6時の保守間合いの間に行う必要があります。現場作業はかなりタイトになる訳です。故にバラスト散布車両とマルタイが同じ線路上で作業ということになるんでしょうけど、信号回路はoffで基本目視確認ですが、夜間作業でもあり、保守車両にはGPS連動のふれーきが装備され、また当該乗務員もブレーキ操作をしたにもかかわらず止まれなかったということで、原因はわかりませんが、作業員の確保も含めて保守作業が困難になっている可能性はあります。スラブ軌道は無理でも何らかのメンテナンスフリー対策を考える必要があるように思います。ぶっちゃけのぞみ増発で無理をしている可能性はありそうです。回避の為のプランBは開業時期が見えないリニア?

そしてプランBとしてがぜん注目されたのが、先日敦賀まで開業した北陸新幹線ですが、東海道からシフトした乗客は全車指定のかがやきではなく自由席のあるはくたかに集中した結果、通路まで埋まる大混雑となりました。こうなると敦賀乗換が恨めしい。中途半端な敦賀開業を急ぐより当面乗換でもいいから米原まで開業していれば混乱はある程度緩和されたでしょう。レジリエンスを叫ぶ某京大教授が整備に時間のかかる小浜京都ルートを押してますが、画に描いたプランBでは意味がありません。

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Sunday, July 07, 2024

イノベーションの可能性

イノベーションを阻むものばかりが目に付くのですが、こんなニュースも。

金融庁が三菱UFJ銀行など処分、銀証連携の規制緩和に影 - 日本経済新聞
型式指定検査の不合理の見直しに消極的だったトヨタとは逆に、銀証分離のファイアーウォール規制見直しを政府に求めてきたメガバンクトップの不正です。利益相反が起きやすい銀行と証券の顧客情報共有は原則禁止されてますが、三菱UFJは傘下証券2社の顧客企業情報を同意なしに銀行と共有していたもので、例えば顧客企業が社債を発行する場合の幹事社選任で銀行が圧力をかけるなどしていた訳で、銀行の優越的地位の乱用が問題視されました。つまりファイアーウォール規制緩和で何がやりたいのかをばらしちゃった訳です。身勝手にも程があります。他方こんなニュースも。
ASEANの再生可能エネルギー広域送電網を支援 首相、中国関与にらみ - 日本経済新聞
供給地と需要地が地理的に離れる再エネ電力の活用には送電網の強化が欠かせません。特に限界費用ほぼゼロの太陽光の活用に道を開く訳で、意義ある投資ですが、わかってるなら国内先にやれよって話です。国内でやれば電気料金が下がるしグリーン電力比率が上がって国内投資の呼び水になります。つまり国内でやればイノベーションになることなのに、地域分割体制で再エネ電力の増加が自社発電所の稼働率低下につながり独占利益を損なうからやらない訳です。そしてこうなります。
1〜3月期GDP、実質2.9%減に修正 建設統計の改定反映 - 日本経済新聞
下方修正の原因は建設総合統計が実態より高く計上されていたのを遡って修正した結果、公共投資の減額や住宅リフォームの減額が反映されたものですが、従来景気対策とされた公共投資と住宅政策が景気対策として効かなくなっていることを意味します。積極財政が無意味なことを示した訳です。そしてそこには構造要因があります。

建設業界の構造変化が進み、ゼネコンと呼ばれる総合建設業からサブコンと呼ばれる型枠工や鉄筋工その他の専門領域を持つ会社に下請けに出す業界慣行が崩れてきています。サブコンを支える職人の不足からゼネコンから下請けされる仕事をサブコンが選んでいるというのがザックリとしたところで、サブコンに断られた案件は公共工事であっても期日までに執行できずに遅れるということが起きている訳です。そこへ2024年問題の働き方改革が重なって専門職人の人手不足を助長している訳です。怪運国債市場の蓋で万博工事の遅れの原因の1つとしてTSMC熊本工場建設を上げましたが、政府の補助金もあって潤沢な資金で金払いの良いTSMC関連に人手を取られた結果、万博工事は進まないという構図ですね。

この構図は事業費がJR東海の資金繰りに依存するリニア工事にも当てはまります。またトンネル工事が多いから残土搬出や最終処分などの問題も未解決のまま見切り発車しているため、今後も遅れが見込まれます。人手不足によるサブコン優位が続けば工期の管理は事実上不可能ですから、いつまで経っても終わらない工事で資金を溶かし続けることになります。東海道新幹線の儲けをつぎ込んで終わらない工事を続けるなら、財投資金3兆円の借金のカタにリニアを放棄するというのも選択肢になります。国にとってはドライバー不足対策としてリニアトンネルを活用した物流施設整備に活用することが可能です。例えば梶ヶ谷貨物ターミナルと名古屋貨物ターミナルを結ぶ貨物専用鉄道整備へ転用とかです。40/1,000の勾配がネックですが、1軸1,000kwのH級機で8,000kwとすればEF210重連相当の出力で1,000t列車牽引なら可能性はあります。そして貨物幹線の東海道本線の貨物列車は1.300t列車を残して新貨物線に回せばJR東海が不満を持つ静岡地区のダイヤ編成の自由度が増しますから、地域密着サービスで静岡工区着工のバーターになり得ます。

あと鈴木知事が設置を希望する静岡空港新駅ですが、掛川駅と近すぎる問題はこだまは通過扱いで一部のぞみを停車させるという解決策はあり得ます。元々首都圏第三空港狙いですから、それで不都合はありませんし、静岡県内のぞみ停車の要望にも応えたことになります。まあこの辺は話し合い次第でしょうけど、不可能ではないということは言えます。こうした積み重ねが実はイノベーションの実践なんです。この点は強調しておきたいと思います。

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Saturday, June 29, 2024

鉄路的連結列車はどこ行き?

怪運国債市場の蓋でYCC末期の悪足搔きから黒田日銀の後継総裁に植田氏の名が挙がったことに加えて、大阪万博の工事遅れで開催が危ぶまれていることを指摘しましたが、案の定万博関連のトラブルは絶えません。

大阪万博はうっすらウンコ臭い? “腐った卵”硫化水素が流出も「対策これから」の体たらく―日刊ゲンダイ
ゴミ埋め立て地の夢洲故に地中で発生したメタンガスが爆発してトイレが吹っ飛んだ事故を受けて、地中にパイプを挿してガス抜き対策がされてますが、その結果硫化水素が検出されてリアルにウンコクサイことに^_^;。比重の大きい硫化水素はガス抜きしても拡散せず地面近くに滞留します。高濃度だと死に至る毒性があるだけに追加の対策が必要ですが何も決まっていないとか。そんなところに人集めて大規模イベントの狂気。いっそ東京五輪に倣ってネット中継で無観客開催したらwww。東京五輪の落とし物で取り上げた神宮外苑再開発はゲートシティ開発で発掘された高輪築堤に続いて2年連続イコモスからクレーム。そしてその続きがこれ。
北九州の「初代門司駅」鉄道遺構保存を イコモスが緊急要請の発出検討 - 日本経済新聞
世界遺産登録に積極的な一方、タイ政府が申請する泰緬鉄道クワイ川鉄橋は裏金のウラで見たように反対して歴史戦を気取る国交省ですが、おひざ元の国内で門司港駅周辺の再開発絡みでイコモスが懸念を示し、3年連続のヘリテージ・アラート発出という不名誉の可能性も。再開発優先で文化遺産保護が置き去りにされています。そしてこれも国交省が関わります。
インフラ海外展開の官民ファンド 累計損失が955億円に - 日本経済新聞
アベノミクスの成長戦略としてインフラ輸出が掲げられ、促進のためにJOINという官民ファンドが立ちあげられましたが大赤字。テキサス高速鉄道のように米政府のインフラ投資法事業として補助金が決まったにもかかわらず事業者となる現地企業が債務不履行に陥り停滞しています。ちなみにJR東海が関与していて安倍元首相との親密さは知られているところです。8連で国際規格準拠のN700Iがデビューする筈だったのですが、人件費が高くコロナ後も人手不足が続くアメリカでは難しいかも。もしトラなら補助金自体キャンセルの可能性も。
角川歴彦前会長、国を提訴 「人質司法で精神的苦痛」 - 日本経済新聞
一連の五輪不正疑惑で訴追された大物ですが、黒幕視される森元首相に代わる当て馬の疑惑があります。公判が楽しみです。裏金問題も森元首相の関与が確実視されているにも拘らずこちらも今のところお咎めなしです。厚労省村木事件や大川原化工J機事件に留まらず長期勾留で長時間の取り調べで言質を取る人質司法の闇が明らかになる可能性があります。
黒川弘務元東京高検検事長の定年延長文書、一部開示認める 大阪地裁 - 日本経済新聞
地裁レベルですが、司法にも変化の兆しはあります。黒川東京高検検事長の定年延長を決めた閣議決定の関連公文書家事を拒否した国を訴えた裁判ですが、全面開示を命じています。当時森友学園、加計学園にさくらを見る会疑惑と追い込まれていた当時の安倍首相が、権力に甘いと言われる黒川氏を検事総長にするための定年延長と言われました。結果的に黒川氏の賭けマージャン暴露で辞任に追い込まれ実現しませんでしたが、裏金問題の対応で今でも甘い検察の態度が更に甘くなった可能性はあります。裏金問題に関しては安倍元首相はやめようとしたけどやめられなかった経緯がありますが、自身の疑惑で手一杯で派閥議員を掌握できていなかったのでしょう。他方でこれ。
東京大学・安田講堂に学生侵入 警備員けが、周辺で集会 - 日本経済新聞
学費値上げを発表した東京大学の安田講堂前の芝生植え込みで東大生がキャンプを張って反対運動しているもので、警備員とのもみ合いはあったようですが、警備員がケガした事実は確認されておりません。大学当局が警察を呼んだものですが、さしずめいちご白書を東大もということか。学術会議指名拒否や科研費削除など大学の自治権を削る政府の姿勢が学生をないがしろにするということです。国内ではまともな学びが受けられないとなればこの国はどうなることやら。

東京繋がりですが町田は東京都 です。この巨大な公設掲示板ジャックが話題ですが、選挙のマネタイズという意味で不快感を表す見解が見られますが、選挙でばら撒き裏金で回収する自民党の方が悪質ですね。選挙そのものがイベント化してメディアもおこぼれ頂戴している現状で、法改正の議論には違和感があります。逆に公職選挙法で発言や表現が保護されているから、300万円の供託金払えばやりたい放題ですが、選挙以外の日常の政治活動や社会活動は世間の目とやらで自主規制される現状のおかしさこそが問題です。

そういえば表現の自由を謳ってヌードポスターを公設掲示板に張った候補もいましたが、表現の自由が実はエロ解禁で、ポスターは東京都迷惑防止条例違反の疑いがあるということで警察が注意して外されました。これを警察の選挙妨害というのは無理があります。条例は法律を越えられない原則がありますから、当該候補者がそれを公選法の自由妨害として拒否する可能性もあったでしょうけど、そうしなかった程度の主張だったとは言えます。但し公選法でも表現の自由が公序良俗に反しない限りという但し書きはありますが。

てことで行先の分からない列車に乗っているようなこの国の現状です。鉄路的リンク(連結)集でした。

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Saturday, June 22, 2024

イノベーションを阻むもの

不正を生む会社の掟の自動車検査不正ですが、豊田彰男トヨタ会長の記者会見での検査基準の不合理性に言及したことが不評です。三部ホンダ社長が法令違反の不正を率直に謝罪したことに対して、何だか言い訳がましいということです。もちろん現場を庇いたかったということでしょうけど、謝罪会見でのこの差は意味深です。というのは元々2015年に発覚した三菱やスズキの燃費不正の構造と酷似しているからです。

三菱とスズキは共に当時のJC08モードという日本独自の燃費基準に則った試験ではなく三菱はアメリカ基準、スズキは欧州基準の検査方法を採用していて、惰行法と呼ばれるクルマの走行抵抗を実測して試験ローラーを踏ませるという手間のかかる方法でしたが、テストコースの立地条件や天候次第で実測データのばらつきが大きくなる不都合があり、より厳しい海外基準に準拠した形で試験していたものです。そして海外基準に比べると緩い基準だったこともあり、2016年に見直され燃費基準は国際基準に準じたものに改められました。つまり今回の型式指定検査と同じ構図で既に見直されていた訳ですが、燃費以外の日本独自基準は一部に残って放置されていた訳です。

つまり自動車工業会的には日本基準の不合理性はある程度共有されていたのですが、国に改善を求めるでもなく放置されました。そして基準見直しに最も後ろ向きだったのがトヨタです。検査が不合理で余分なコストがかかると生産台数が少ないメーカーほど負担が大きくなるからトップメーカーのトヨタには有利ですし、まして輸入車にも同じ検査を義務付けられている訳ですから、非関税障壁でもある訳です。国内シェアトップのトヨタとしてはやりたくない訳です。つまり謝罪会見での豊田会長の発言は身勝手ですし、一方海外市場に強いホンダの三部社長は日本基準の見直しは求めるけど、それを言うのはここじゃないという自覚があったということですね。国内市場に対する両社のスタンスの違いが出た訳です。

その国内市場も人口減少で縮小は避けられないから、トヨタも海外進出は活発に行ってはいますが、国内の強さが土台になっており、そこを明け渡す気はないってことですね。また完成車メーカーが乱立して競争が激しかったかつての日本と違って今やダイハツ、日野、スバル、スズキ、マツダとも資本関係を持つ巨大企業グループとなり、かつてのライバルの日産は落ち目、世界のホンダも国内で売れるのは軽ばかり、政府も御用聞きに来ると我が世の春を謳歌するトヨタ。現状を変えたくないイノベーションのジレンマを地で行く存在になっているということですね。これかつてのビッグ3時代のGMの立ち位置に酷似します。

そしてそのアメリカでバイデン政権肝いりの反インフレ法(IRA法)でEV普及促進をしているけど、売れるのはテスラばかりで多数のEVスタートアップは現れては消えで定着せず、そのテスラもEVの普及が進んで市場独占が進んだ結果足踏みしています。そこへ中国メーカーが参入を狙ってメキシコに工場を建ててアメリカ輸出を目論みますが、バイデンでもトランプでも関税がかけられること確実と見られています。とはいえテスラの1/3の価格の新型小型EVなら仮に200%関税かけられても競争力はある訳で、EVの世界でも早くもイノベーションのジレンマが起きつつある状況です。

中国の強さはBYDに留まらず多数のメーカーがしのぎを削る過当競争状態で、かつての日本市場を凌ぐ国内競争市場で鍛えられた競争力は、すでに東南アジアでは存在感を増し、例えばいすゞのピックアップトラックが席巻するタイ市場でも異変が起きています。日本でも大型中型小型のラインナップを揃えた中国製EVバスが増えており、乗用車でもBYDが既に国内ディーラーを立ち上げています。中国は今不動産バブル崩壊や習近平体制で民間企業を圧迫するなどして経済は順調とは言えませんが、EVブームでイノベーションを先導しています。欧州で中国製EVの補助金によるダンピング輸出の認定も、それだけ中国製EVが売れている結果の市場防衛であって、右派の台頭もあってEUとしても動かざるを得なかったものですが、イノベーションの波に乗れていない訳です。、

とはいえ中国も既に人口減少が始まっており、日本を含む先進国と同じ成長力の低下に直面している訳ですが、それでも人口規模が大きく、農民工などの廉価な労働力のボリュームがあり、加えて海外企業との合弁による技術移転もあって最新技術+廉価な労働力という強みは健在です。そしてネックの先端半導体分野でも独自技術でキャッチアップに動いており、台湾や韓国にはかなわないかもしれませんが、日本よりは強くなると見られます。もちろん製造装置その他日本の強い分野はありますが、逆に中国デカップリングが進めばその日本の強みも薄まります。

という訳でマクロ経済的には経済減速が見込まれる中国が強いのは、国内市場規模が大きくそこへ多数の事業者が参入して熾烈な競争を展開しているからで、その中で例えばBYDのような企業が勝ち上がって世界を目指すというかつての日本の自動車産業のようなミクロの競争環境があり、それがイノベーションを生んでいる訳です。イノベーションを唱えたシュムぺーーターもイノベーションはあくまでミクロの現象であり既存のリソースの組み合わせによる新結合による価値創造としており、日本でイメージされる技術革新とはニュアンスが異なります。寧ろ国のマクロ経済政策に経済成長の要素はなく、経済成長は企業家のアニマルスピリットと述べたケインズと同じことを言っています。故に補助金でTSMC誘致とかラピダス支援とか、その他スタートアップ支援とかしても意味はない訳です。

その意味ではJR東海の中央リニアへの挑戦はアニマルスピリットと言えなくもないですが、本音は東名阪の三大都市圏の都市間輸送の市場独占に狙いがあります。だから東海道新幹線の二重化による東海地震対応とか東海道新幹線の老朽施設更新のための長期運休の必要性とか、もっともらしい理由を並べますが、既に東海道新神瀬はのぞみ大増発で対航空で優位に立っています。航空便は便数こそ維持してますが、機材の小型化で提供座席数を減らしていますし、さらに国際線のコードシェアで座席を埋めるとかしている訳で既に勝負はついています。加えて二重化ならば東海道新幹線と共通の徹軌道方式の方が合理的ですし、中央リニアのルートも東海地震警戒エリアが被ってます。東海地震対策ならば地震減の異なる北陸新幹線の大阪延伸こそ本命の筈です。

加えて言えば国土の均衡ある開発という全幹法の趣旨から言えば新幹線ネットワークの形成こそ求められる訳で、取ってつけたような小浜京都ルートではなく米原ルートこそ本命です。何故ならば距離が短く少ない事業費で短期間に整備が可能であり、既に関西広域連合で合意されており、費用便益比(B/C比)2.2と優秀です。

それに対して東海道新幹線の過密ダイヤに乗り入れは不可能とか、米原駅周辺の土木工事の困難さや保安装置の違いや脱線防止システムの違いといった重箱の隅つつきがされてますが、全て解決可能です。そもそも米原ルートもとりあえず米原乗換をベースにB/C比を算出しており、それでもこれだけの経済効果が見込めるという意味ですし、乗入れの為の米原駅の構造とかはJR東海を含めた協議を経なければ決定できませんし、その場合B/Cは悪化するでしょうけど。それでも1.8程度には収まるでしょう。東海道新幹線の過密ダイヤといってもこだまの退避で列車間隔が空くところへ滑り込ませれば可能です。この場合事故や悪天候時の運転整理が複雑にはなりますが、不可能ではありません。あと保安装置や脱線防護システムの違いを言い訳にするのは笑っちゃいます。初代ユーロスターはDC660v,1.5kv,3kv,AC16・2/3hz15kv,50hz25kvの5電源で架線集電とサードレール集電両対応、英仏ベルギーで異なる信号装置やホーム寸法に対応した可動ステップなどのギミックてんこ盛りでした。全幹法で規格が決められている新幹線同士の直通運転はそれよりはるかに容易です。技術的課題を回避する姿勢はイノベーションを阻害します。

まあとかく孤立主義のJR東海との協議をJR西日本が嫌った可能性はあります。例えば北へ届かなかったひかりで取り上げた東北新幹線の東京延伸に伴うJR東日本の東海道新幹線直通要請をJR東海は断りました。国鉄時代の計画では東北新幹線開業時に6番ホーム(12,13番線)を在来線から転用するほか、7番ホーム(14,15番線)を東北新幹線と繋げて東京をスルーする運転形態が考えられていた訳ですが、J国鉄分割民営化時に財産区分として7番ホームはJR東日本と東海の共用とすることになっていたものをJR東海が拒んだ形です。こうした前科があるからJR西日本がJR東海との協議を嫌った可能性はあります。それもこれも国鉄分割民営化に合わせて全幹法を見直さず、法を読み替えて対応した結果、国の事業なのにJRにイニシアチブを握られるという不都合が生じた訳です。こうしたことをきちんと見直さないから、後になって揉める訳ですね。ああイノベーションはいずこに?

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Sunday, June 02, 2024

終わらない後始末

アベノミクスの後始末関連で幾つか。小林製薬紅麹サプリの健康被害で青かびによるプベルル酸原因説の蓋然性が高まり、紅麹培養過程で青かびが混入したらしいということで、小林製薬の衛生管理に問題があったのは間違いないですが、それに留まらず健康成分を凝縮したサプリメントで規制の緩い特定保健用食品というところに違和感があります。規制の緩さ故にメーカーのモニタリングが甘くなった可能性は指摘できます。特に健康成分を濃縮したサプリメントは過剰接収の弊害が見落とされがちで、この面からの運用見直しは必要です。そしてリニア問題で注目の静岡県知事選。

静岡県新知事に鈴木氏、「県中・東部でも仕事で信頼」 知事選2024 - 日本経済新聞
川勝氏の後継と目された鈴木氏の当選は順当で与野党対決の構図よりもリニア静岡工区の着工問題が注目されました。鈴木氏自身はリニア推進を掲げていますが7割は反対とされる県民のリニア着工を巡る世論もあり、選挙期間中に微妙に態度を変えています。そしてこのニュースがかなり影響したようです。
リニアトンネル工事で井戸水位低下か 岐阜県瑞浪市で14カ所 - 日本経済新聞
大井川だけじゃなかった水問題ですが、実は山梨実験線の建設段階から井戸の枯渇などはいくつも発生していたものの、金丸信氏の鶴の一声で決まった経緯からか政治的にナイーブな問題としてあまり報道されませんでしたし、トンネルの多いリニアのルート故に静岡県以外でも当然起こりうる問題ですが、おそらく大口広告主としてのJR東海への忖度や当事者への個別補償で表に出なかったりだったのでしょう。しかしリニアにメリットのない静岡県故に大井川の水問題は抑えられず、またJR東海は水を全量戻すと言いながらトンネル工事が終わってからと当事者の神経を逆なでしてきたことで県民感情を悪化させてきました。そして川勝知事の突然の辞職を受けての静岡県知事選というタイミングでの報道ですが、開業時期が見通せないリニアの神通力が働かなくなったのでしょう。当然ながら鈴木新知事もJR東海に説明を求めています。

国策で進められているリニア事業が地方からストップがかかる構図はこれだけじゃなく、例えば佐賀県玄海町の各廃棄物最終処分場候補地の文献調査問題で山口知事が待ったをかけたりとか、辺野古の新基地建設を巡る沖縄県玉城知事の対応とか、国の動きに待ったをかけるという意味で地方首長選びは重要です。そんな中で都知事選への蓮舫氏の出馬表明がありました。五輪霧中などで繰り返し指摘してきた不正だらけの神宮外苑再開発が止められるかもしれません。そして国連も後押しします。

神宮外苑再開発「中止を」 ユネスコ諮問機関が会見 - 日本経済新聞
「文化遺産の不可逆的な破壊だ」というのは、元々明治天皇崩御を受けて地権者や国民の寄進で成立したメモリアルパークとしての神宮外苑の性格を踏まえたもので、私的所有を制限して成立した文化遺産を商業的に再開発することへの批判です。五輪関連の疑惑や不祥事は他にもいろいろありますが、とりあえず神宮外苑の再開発が止められるなら蓮舫氏だろってことですね。五輪の後始末も大事です。

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Saturday, May 25, 2024

賃金ホントに上がってる?

円安が止まりません。こどもの疲弊で指摘したように、3月の日銀政策決定会合でマイナス金利解除、YCC終了、ETF等の購入終了を決めた後、日銀は政策の現状維持を続けている一方、米FRBも現状維持ですから、金融政策に変わりはないのに、何故か為替は円安に動いています。4月決定会合の後の植田総裁の発言が円安容認と取られたと批判されてますが、米雇用統計の弱い数字で反転しました。その間日本政府の覆面介入があったと言われ、荒い値動きがありましたが、終わってみれば植田発言と米雇用統計という金融政策上のイベントに反応しただけでした。

しかし最近の円安進行でまたドル円157円まで進みました。米雇用統計の弱含みでFRB利下げ前倒しが起き、4月の植田発言を円安インフレの可能性を示唆した植田総裁の修正発言から、日米金利差が縮小して円安反転という展望が言われる中での出来事ですが、日米金利差を名目で見るか実質で見るかという視点で説明できます。指標とされる10年物国債金利で米4.5%に対して日本国債0.75からYCC終了で徐々に上がって1%を超える水準にありますから、名目値は微妙に差が縮まっていますが、ここへ来て米インフレ率の低下で実質金利差が寧ろ拡大しています。

名目値をインフレ補正して実質値が求められますから、米金利は実質プラスに対して日本は実質マイナスで、しかも米インフレも鎮静化が見られる一方、日本のインフレはしぶとく、特に6月に予定される電気料金値下げの補助金も止まって大幅値上げがアナウンスされてますから、実質値の先行きも金利差拡大が予想されます。4月の植田発言を実質金利がマイナス圏にあることから「緩和的」と表現したという意味では正直ではありますが、円安の戦犯扱いは気の毒です。とはいえ「好循環」と言われる賃上げに疑義のある分析も出てきています。

年金データで見る賃金動向 大企業の上昇率、中小に劣後 西村清彦・政策研究大学院大学客員教授、肥後雅博・東京大学教授 - 日本経済新聞
去年の23年春闘で大幅賃上げがアナウンスされてますが、それが公的統計の賃金構造基本統計調査と毎月勤労統計でどう反映されているかを見ると大きなズレがあるばかりか公的統計同士でも異なった動きである点から、同時点での厚生年金標準報酬月額から数値を拾って実態に迫ろうとした結果、思いがけない事実が浮かび上がってきます。

厚生年金の標準報酬月額は厚生年金保険制度の執行上の実数であり、サンプル調査の公的統計と異なる全数でもあり、また業態別や規模別など大企業対象の公的統計では把握できない情報も取れます。その結果「大企業の賃上げをいかに中小に波及させるか」という問いとは逆に、中小ほど人手不足から賃上げを迫られ、大企業ほど当事者発表のベースアップとは裏腹に平均賃金が低下している実態が見えてきます。

考えられるのは大企業ほど女性や高齢者の非正規採用を拡大して結果的に賃金を抑制しているけど、中小ではそもそも非正規では人が集まらないし、元々マンパワーが限られるから女性であれ高齢者であれ適材適所で処遇しないと回らないということもあるようです。加えて今や大企業ではほぼ当たり前になっている役職定年制度の影響もあるでしょう。50歳になったら部長や課長といった役職を外れて役職手当を受け取れなくなるばかりか平社員待遇で年下の役職者の部下になるなど過酷な対応がされてます。加えて賃上げの一方で希望退職募集で正社員を減らすなどもしていたり、非組合員の役職者は手当てはもらえるけどベースアップが抑えられたり、ジョブ型雇用の美名で事実上の固定残業制を呑まされたり、あるいは成果連動給込みだったりといったことが行われていると考えられます。つまりそもそも賃上げがウソだったかも。その一方でこんなニュースもあります。

地方のインフレ、観光・半導体が先導 賃上げ体力に格差 物価を考える 試される持続力(4) - 日本経済新聞
半導体やインバウンドで盛り上がっている地域でも人手不足は深刻で、地元企業の雇用維持のために自治体が補助金を出して雇用維持を図っています。元々若者は少ないから女性や高齢者の雇用機会が増えていると考えられますが、持続可能性はあるか、あるいは他業種の地場賃金相場を押し上げて悪影響はないか、対応できない自治体はどうなるかなど課題はあります。そして定額減税が実施されますがこれどーなの?
定額減税額、6月から給与明細に明記 企業に義務 - 日本経済新聞
3月期決算企業では決算事務や株主総会開催で超多忙な6月に余計なお仕事です。減税額を明細書に明示を義務付けるということが実務上どれだけ負担になるかはお構いなしですね。こんな資料があります。
給与所得の源泉徴収税額表(令和6年分)
国税庁のホームページにある令和6年の源泉徴収月額表です。所得税の源泉徴収を義務付けられている企業の給与計算事務の円滑化のためのツールとして公開されているものですが、1人3万円の国税分の減税額を単月で控除できるのは扶養家族0人で社会保険料控除後503,000円以上からで、そこそこ高所得者ですが、更に扶養家族分だけ3万円の控除が積み増される訳ですから、殆どのサラリーマンでは単月控除は不可能で翌月以降に繰り越されます。給与額が低ければ毎月の控除だけでは間に合わず年間所得確定後の年末調整にまで持ち越されるケースも出てくるでしょう。つまり個人ごとに状況が異なりますが、大企業ほど給与計算が基幹業務システムに組み込まれている可能性が高く、そんなレガシーデジタル資産を抱えて個別対応の難易度は高くなります。加えて6月に限り地方税の控除差し止めも義務化されてますから自治体にも煩雑な事務作業が発生する訳です。こうした現実に無頓着で見た目を取り繕う姿勢では、マイナンバーカードを含めてDXがうまくいく訳がありません。当然人為ミスの発生も出てくるでしょう。当面給与明細をしっかり確認する必要があります。

更に言えば民間や地方には平気で負担を強いる半面、政治資金規正法改正では抜け穴づくりに余念がない訳ですから、政治不信はますますたかまります。減税アピールが寧ろ評判を下げる訳ですが、それ以上に気になるのが経団連や連合の談合で賃上げをアピールして反映される6月に定額減税を開始することで見た目の手取りが増える演出をしながら、一方で異次元の少子化対策の財源として社会保険料が値上げされるのも6月からですから単なる目晦ましですね。それが見え見えなのにそこを突っ込まないメディアも問題です。まるで戦前です。

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