民営化

Saturday, March 18, 2023

田代の水は山をも越すが水に流せぬ大井川

箱根馬子唄ならぬリニア迷子唄^_^;。リニア60年のウヨ曲折の続編です。

リニア工事中の水量減解消、JR東海が静岡自治体に説明へ:日本経済新聞
上記エントリーでも取り上げた大井川の水問題での東電田代ダムの取水量調整でJR東海が東電と協議することを前提とした説明をするということですが、すんなり進むとは思えません。田代ダムは大井川最上流の田代にダムを作って導水管で山梨県の冨士川系の早川へ落として水力発電を行うという目論見で建設され1928年に完成した大井川水系では初の本格的ダムです。つまり元々田代ダムの水は古くから山梨県に送水されていた訳ですが、これが後年大井川で水利権争いの種になります。

早川電力は後に東京電灯に吸収され、更に電力国家管理で日本発送電に摂取され、戦後GHQ の日本発送電の解散命令で後に東京電力となる関東配電に引き継がれ今に至ります。こうした歴史過程もあって大井川水系では田代ダムのみが東電で他は中部電力という形になり、水力の一河川一社の原則から外れております。大井川水系は多数のダムが作られました。余談ですが大井川鉄道は元々電源開発のための鉄道として電力資本で作られたから、ローカル私鉄としては重厚な設備で整備されており、SL列車の運行が可能なのもそのお陰です。

そんな事情からダムの取水で大井川の渇水が問題視され、特に1955年に田代ダムの取水量が当初の毎秒2.92トンから4.99トンに増やすよう東電が静岡県に申請し、静岡県は流域自治体の同意を得ずに認可したために流域住民が反発し、東電や中部電力に河川維持放流を求める運動に発展し、住民の座り込みなど実力行使にまで発展する騒ぎになりました。特に山梨県で発電事業を営む東電の態度は頑なだったようです。1997年の河川法改正で河川環境の維持が義務化されたのを受けて2006年委解決しましたが、水利権問題の解決は半世紀を越えました。

といった係争の歴史を踏まえると、JR東海は将に地雷を踏んだ訳ですが、同時に東電も過去の係争の経緯から流域関係者の了承を前提に協議するとしており、静岡県は東電の協力の確約を求めているということで、JR東海が話をまとめるハードルは高いと言えます。そもそも東電が今償却前収支の赤字、つまりキャッシュフローの欠損という深刻な事態に直面しており、取水制限にすんなり応じられる状況にはありません。という訳ですから、まだまだもめます。

という訳で視界不良な中央リニア事業ですが、河川法改正が大井川の水利権問題の解決を後押ししたように、法律的に打開する可能性は考える余地があります。但しその前にそもそも中央リニア事業の法的位置づけがどうなっているのかについて、あまり取り上げられることはありませんが、問題を多数含みます。

事業の根拠法機は全国新幹線鉄道整備法(全幹法)ですが、元々国鉄が事業主体となる前提で作られた法律で、基本計画線の公示や整備計画策定のための調査指示、分割民営化後に見直され、所謂整備新幹線スキームと呼ばれ、鉄道建設・運輸施設整備支援機構が建設主体となって建設費を国と地方が負担し、事業者は受益の範囲リース料を30年間支払うこと公的負担を軽減する形ですが、中央新幹線に限ってはJR東海が建設主体となっており、公費の投入はない形ですが、そのことがJR東海に地元軽視姿勢をもたらした可能性はあります。

元々1970年に成立した全幹法は高速道路整備と並ぶ国土総合開発計画と連動した国土軸形成のための法律であり、地域開発に資することを目標としている訳で、その観点から見ればリニアのメリットを受けず大井川の水問題に留まらず環境破壊や事故災害時の乗客救援の責任まで負わされる静岡県が反対するもの無理もない話なんですが、死去した葛西名誉会長を筆頭に幹部の国鉄OBが国鉄時代のノリで事業を進めようとして静岡県で躓いたという見方は可能です。とはいえ現実的に静岡県内にリニアの中間駅を設置するのは無理ですし、国鉄流バーター主義では対応できない訳ですね。

加えて言えばそもそも中央新幹線は2011年にJR東海の発議で整備計画線に昇格したように、元々基本計画線の中でも優先順位の低い路線だった訳です。JR東海としては稼ぎ頭の東海道新幹線と競合する路線をJR東日本や西日本といった他社に参入されたくなかったという動機付けが強かったと思いますし、それ以上に一定のシェアを維持する東阪間の航空のシェアを奪って独占したかったということがあります。つまり全幹法を利用した輸送シェア独占を目論んだってことですね。

よく言われる国土強靭化策としての二重化の機能は北陸新幹線に託されており、また東海地震対策という意味ではリニアのルートはほぼ想定震災域に被っており、敢えて中央新幹線を急いで作る必要性は乏しい中で、リニアという技術革新を売りに国に認めされたという意味で、全幹法の趣旨をかなり逸脱した存在であるということになります。

東海道新幹線の輸送逼迫もJR東海ののぞみ増強や品川新駅開業などJR東海自身の追加投資によるもので、実際90年代には輸送量の伸びが止まって一度シェアを落としています。余談ですが日本の上場企業のPBR1倍以下、つまり解散価値以下企業の中にJR東海がリストアップされています。意外ですがPERの水準は高いので東海道新幹線へのてこ入れで資産価値が高まった結果、時価総額を上回ったってことでしょうけど皮肉な結果です。

二重化の観点から言えば来年敦賀まで開通する北陸新幹線の関西アクセスルートで揉めてますが、二重化の観点からは米原ルート一択です。特に難工事が予想される小浜京都ルートは事業費もかかるし整備期間も長くなるし、公費負担分の費用便益比(B/C比)が1を割ると予想される一方、距離が短く建設費も低廉でB/C比も2近く、また並行在来線の湖西線問題でも地元滋賀県との協議の可能性が高まります。三日月知事が唱える交通税も、近江鉄道支援に留まらず湖西線問題に備える意味があるとすれば、納税者に負担を求める滋賀県にメリットのない小浜京都ルートでは論外ですね。JR西日本はJR東海のリニアの躓きを学んでいませんね。

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Saturday, February 04, 2023

無視されるシャドーワーク

オーストリアの社会評論家イヴァン・イリイチ氏の造語ですが、子育てを含む家事労働など賃金を伴わない影の労働を名付けたもので、欧州発のベーシックインカムの議論の基盤となっている考え方です。ここから敷衍されるのが、子育てに対する公的支援の在り方です。

絶望の少子化対策怪運国債依存症でも取り上げましたが、生産年齢人口の減少に伴う労働力減少を補う意味では子育て支援は寧ろ逆効果です。15~64歳の生産年齢人口の減少が急速に進行中ですが、現役四大卒で言えば頭の7年は学生で、せいぜいアルバイトで労働参加する程度ですから、労働力として実働する22歳以降から実際のキャリアがスタートする訳ですが、女性の場合は出産年齢が30代半ばまでとして、子育てを含めると20代30代は出産と子育てで手を取られます。これつまりシャドーワークが労働参加後のキャリア初期にバッティングする訳です。

更に大学等の学費高騰で教育費負担が来る40代も厳しいとなります。結果的に女性の多くがキャリアを中断して子育て後の復帰で地位保全されるケースは少なく、パートなどの補助的業務で低賃金を余儀なくされるという流れがあります。つまり女性は端からハンディキャップレースを強いられている訳です。加えて40代半ばからは高齢の両親の介護がのしかかる訳ですから、キャリア後期もシャドーワークを強いられる訳です。

1世代25年として50代で親が後期高齢者になるということですね。これらに対する経済補償としてのベーシックインカムというのが本来の議論です。新自由主義者が言う社会保障の一元化とは全く異なる考え方ですが、その意味で今国会で議論されている児童手当に所得制限を設けないのは当然となる訳です。

但し経済的に補償されれば済む話かと言えばそうではない訳で、シャドーワークの賃労働とのバッティングという問題は付きまとう訳です。加えて少子化対策としては殆ど無意味ということは重ねて指摘しておきます。育児に希少化する労働力が割かれる訳ですから、当面の労働力居不足は寧ろ深刻化します。これは保育園などの育児支援サービスも人手不足は避けられませんから、結局子育ての負担は増すことに変わりはありません。故に少子化対策としての効果は見込めません。故に「異次元の少子化対策」はあり得ません。

「育休中のリスキリング」発言 野党が岸田首相を批判:日本経済新聞
という訳で岸田首相の発言が炎上した訳ですが、シャドーワークとしての育児という実態を知らないということは、子育て支援の本気度もその程度ってことですし、寧ろ少子化対策にならないなら予算を削ろうという話にもなりかねません。子育て支援はシャドーワークに対する補償であるべきです。加えてリスキリングは学びなおしによるキャリアの乗り換えですが、当然コストもかかりますし、労働参加の空白にもなります。それを与党議員のおそらくやらせ質問で答えてしまうということは、原稿は官僚が作ったとして政府も与党議員もその程度の認識しかないということです。
少子化対策「N分N乗」案 茂木氏が紹介、維国導入訴え 子ども多いほど税軽減:日本経済新聞
フランスなどで採用されているという触れ込みですが、これも愚策。フランスの場合受け入れた移民が主たる受益者で、公式には移民政策を採っていない日本には当てはまりませんし、効果は知れており、出生率も人口増加ラインの2.07に遠く及びません。移民を引き付けて労働力不足を補う効果はありますが。

という訳で労働力不足は結局資本装備による労働代替が必要なのは繰り返し述べてますが、注意が必要なのは資本の質が問われるということです。例えばデジタル投資ですが、アメリカでもGAFAMの人員削減が止まらない状況ですが、巨大ハイテク企業の収益性は例えばアマゾンで言えばユーザーが勝手にポチってくれるから店舗無しでコストをかけずに高収益を得ている訳ですが、その結果ユーザーにシャドーワークを強いているとも言える訳です。グーグルやフェイスブックなども広告をスキップする手間をユーザーに強いているという意味では企業がユーザーにシャドーワークを移転してコスト負担を免れているという側面んもあります。

企業のみならず例えばコロナ対策で立ち上げたHERSYSという通知システムは入力項目が多すぎて医療現場に負担を強いており、それが医療逼迫をもたらすという本末転倒が起きていますし、マイナンバー付与で済むはずのマイナンバー制度が下手に高機能なマイナンバーカードを作ってセキュリティ問題を抱えたりということも同様ですが、申請手続きが煩雑な上、セキュリティのために二重パスワードが要求されたり紛失時の再発行に時間がかかったりで、国民視点でメリットは皆無です。

バスの細道で取り上げた京急ポニー号のデマンド運行見直しによるコストの引き算での値下げという視点も必要です。というのは資本装備は維持費がかかるということで、減耗する固定資本に沈む夕陽で示したように、資本装備を増やせば済む問題じゃない訳です。例えば新国立競技場のように低稼働で赤字となる施設を作っちゃったことは反省点です。その意味で取り上げたいのがリニア問題ですが、週刊ダイヤモンドでJR東海の迷走ぶりが特集されてます。その中の記事です。

JR東海「上から目線」でリニア沿線住民から総スカン、葛西イズムと国益至上主義の無神経:ダイヤモンドオンライン
オンライン記事は会員限定なので、全文は図書館で読んでほしいですが、川勝知事の前任の石川知事時代からの確執を川勝知事が引き継いだもので、故人となった葛西名誉会長の「上から目線」の無神経発言が発火元ということで、残されたJR東海幹部も対応のしようがないのが現実です。そしてこれ。
JR、鉄道回復8割の壁 本州3社の収入コロナ前戻らず:日本経済新聞
これつまり東海道新幹線の需要逼迫というリニア建設の必要性が消えたということです。加えて言えば元々厳しいリニア開業後の収支見通しも赤字必至ということでもあります。加えて地上コイルや車上の超電導コイルのメンテナンスなど未知のコスト負担もありますから、今からでも遅くはないんで、見直しすべきでしょう。とはいえ「皇帝」と言われ異論を述べると干されてイエスマンばかりとなったJR東海の今後は茨の道です。

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Saturday, January 28, 2023

災害は忘れた頃に

バスの細道で取り上げた人口減少時代の資本装備問題のケーススタディにしたい事例です。

最強寒波 ポイント凍結で列車立ち往生、JR西見通し甘く:日本経済新聞
台風直撃予報で計画運休を業界に先駆けて実施したJR西日本にとっては痛恨の判断ミスですが、積雪10㎝を判断基準としていて気象会社の予報が積雪8㎝だったからということのようですが、当然予報は予報で上下にブレるのは普通のことです。せめて予防的にポイント融雪器に火を入れて間引き運転していたら、ここまでは混乱しなかっただけに判断の甘さは問われます。

但し融雪器といっても要は下に仕込んだカンテラに灯油を注して点火するという作業が必要になり、それを始発前の時間帯に行う必要がありますが、保線作業員の募集は年々困難になっており、雪だからと動員かけても集まらなという事情もあります。故に早めの決断が必要だったにも拘らずできなかったということですね。

特に構内配線が複雑な京都駅や湖西線分岐駅の山科駅、車両基地のある向日町駅などでの作業量は膨大ですし、当然コストもかかります。同じJR西日本でも豪雪地帯の北陸や山陰では電気融雪器でスイッチonだけで済みますが、降雪自体の少ない近畿圏ではコスト面からカンテラ融雪器で対応している訳ですが、少なくとも京都駅など運行上の急所となるところの電気融雪器設置は考える余地はあります。

加えて間引き運転もしていなかったので、15本もの駅間立ち往生が発生し、しかも1時間後には乗客を線路に降りして徒歩誘導するという内規がありながら積雪した線路の乗客誘導の困難さを嫌ったのか、運転再開に拘って乗客を長時間閉じ込めたことも重大な判断ミスです。結果的に少なくとも16名が気分が悪くなって救急搬送されることになりました。初動のミスは尾を引きます。

雪といえば東海道新幹線の関ヶ原も難所として有名で、開業後の運転障害の多くが関ヶ原の雪が原因ということで、当時の国鉄は現地の地下水の水利権を買ってそれを水源としたスプリンクラーを設置して融雪するという方法で対応しており、今回も1時間半ほどの遅れで運転は継続されています。2時間以内の遅れなので特急券払い戻しはなく、JR東海としては想定内の出来事だった訳ですが、国鉄時代の遺産に助けられているだけながら、備えの大切さは教えてくれます。

東海道新幹線では2000年豪雨で大失態をやらかしてまして、台風直撃で天白川などの都市河川の氾濫で線路の冠水などで運行が困難になる中、当時の葛西敬之社長の判断で列車運行継続の指令が出された結果、多数の列車が立ち往生して列車内で夜明かしという事態になりました。鉄道会社としては列車を停める判断はしにくいでしょうけど、ある意味民営化のマイナス面という見方もできます。

東海道新幹線の関ヶ原ルートの裏話として岐阜羽島駅と大物政治家大野伴穆の関係などが言われますが、実際は関ヶ原ルートは国鉄が決めたもので、比較ルートは旧東海道に沿った名古屋―京都直結ルートでしたが、鈴鹿山地越えの土被り1,000mの長大トンネル工事を回避するためと、北陸連絡で米原を通すことなどの判断で、現行ルートが選ばれ、関ヶ原の雪対策として手前に駅を設置して運転抑止時の列車収容を狙ったのが岐阜羽島駅ということで、下り副本線が2線になっているのはそのためです。同様に米原駅では上り副本線が2線になっていて、ある程度雪対策は考えられていたものの、開業してみれば運転障害の原因として問題視されてスプリンクラーが後付けされた訳です。JR西日本が今回の失敗をどう総括するかは目を離せません。

工期を意識したのは1964年の東京オリンピックに間に合わせて開業させるという世界銀行の融資条件から工期が5年しかなかったことが決定的だった結果の判断ということで、当時の国鉄は事業の実現可能性を高める現実的な判断をしたことになります。その意味で難工事が予想されていたJR東海の中央リニア南アルプスルートの選択は敢えてリスクを取ったとは言えますが、資金繰りの都合で2017年名古屋開業を目指すなら難易度の低い伊那谷ルートを選ばなかった判断の妥当性には疑問符がつきます。加えて東海地震等に備えて二重化による強靭化対策という面でも疑問符がつくニュースがこちらです。

寒波覆う、新名神の立ち往生解消 北日本で局地的大雪か
積雪予想で中日本高速道路は迷信の通行止めを決めたものの、その結果新名神にクルマが殺到してこちらも積雪で動けなくなった訳で、二重化による強靭化が如何に無意味かってことですね。つまりJR東海にとっての中央リニアは他社の参入を防ぐ以上の意味があるのかという疑問がが湧きます。

リニア60年のウヨ曲折で取り上げた金丸信の鶴の一声の乗った山梨リニア引受の結果、後戻りできなくなっただけとも言えます。加えて難工事の南アルプスルートを選んでしまった失敗は重大です。岐阜羽島のような駅も設置できないから静岡県を黙らせるネタもないし、一部で言われる静岡空港新駅は掛川駅と近すぎて事実上不可能ですしね。寧ろ国鉄の都合で決めた岐阜羽島駅設置を大野伴穆代議士の手柄として花をもたせた国鉄の方が柔軟な対応をしたとも言えます

同様の問題は北陸新幹線延伸問題でも起きていますが、実現可能性の低い小浜京都ルートで恩恵のない滋賀県の湖西線が並行在来線として切り離し対象となっているというのは、どう見ても滋賀県の同意は得られませんし、やはり長大トンネルや京都市街の大深度地下工事など難工事だらけで費用便益比(B/C比)にも疑問が残るしで、JR西日本も自社の権益を最大化したいだけという意図が見えます。国鉄分割民営化の弊害が色々見えてくる現状です。

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Tuesday, January 03, 2023

戻らない混雑

コロナ禍で初の行動制限のない年末年始ですが、銀座や梅田の人出はコロナ前の2割減と元には戻りません。実際感染者数も死者数も増え、救急搬送の滞りが報じられる中では無理もありません。コロナを克服できていない現実です。そして生産年齢人口の減少で通勤客も減る傾向はありますから、コロナ禍が収束してもこれが新常態ぐらいに考えておくべきでしょう。そんな中で都市通勤鉄道の混雑率に異変が起きています。

日暮里・舎人ライナー、混雑率トップで赤字 東京都に誤算:日本経済新聞
混雑率1位は日暮里舎人ライナー(赤土小学校―西日暮里)144%、2位は西鉄貝塚線(名島―貝塚)140%、3位JR武蔵野線Z((東浦和―南浦和)137%、4位JR埼京線(板橋―池袋)131.8%、5位JR可部線(可部―広島)131.6%と様変わり。常連だった東京メトロ東西線も東急田園都市線も出てきません。コロナ禍がもたらした大異変を実感します。

ゴムタイヤ駆動のAGTで荷重制限のある日暮里舎人ライナーの144%はおそらく改札制限を伴う水準と考えられます。その結果車両増備や座席のロングシート化などの輸送力増強に追われ、当初計画の2023年度単年度黒字化は実現できない状況で、加えて初期車両の更新時期になり費用の負担で当面黒字転換は見込めない状況です。事業者の東京都交通局にとっては大誤算です。

都交通局は地下鉄都営大江戸線の勝どき駅の予想外の混雑が思い出されますが、沿線に集客スポットを複数抱える大江戸線と比べると、沿線にこれといった集客スポットがなく、専ら日暮里や西日暮里でJRや地下鉄に乗り継ぐ片輸送の通勤客ばかりで所謂集中率の高い非効率な路線という点でも不利な条件です。寧ろこの点は旧国鉄香椎操車場跡地開発で潤った西鉄貝塚線にも見劣りります。

その西鉄貝塚線も宮地岳線と呼ばれていた時代の香椎ヤード再開発で、都市計画による連続立体化事業での150億円の自己負担が重いということで、市営地下鉄秋塚線との相互直通を示唆されながら、追加負担を回避して相互直通を諦めたのですが、単線で増発が困難なこともあり、他線が混雑率を下げた中で残ったってことでしょう。混雑路線として名高い埼京線が辛うじて残ったものの、時代の変化を実感します。

そんな中で地方の崩壊で取り上げたように都市鉄道整備計画が目白押しなのが気になります。これから整備される路線は元を取るのが困難になると見込まれます。その中で今年3月開業の東急/相鉄新横浜線の動向は注目されます。新横浜線の場合は集客拠点としての新横浜がありますから、ある程度の営業成績は残せると思いますが、同エントリーで取り上げた豊住線や南北線延伸、湾岸地下鉄などは厳しい現実が待ち受けます。一方で関西の動きです。

JR西日本、奈良線増便や着座サービス拡大 23年春から:日本経済新聞
奈良線複線化による増発と梅田貨物駅跡地開発のうめきた2期で新地下駅開業となり、うめきた新駅は大阪駅と地下通路で繋がり、特急はるかやくろしおが停車する外、おおさか東線が新大阪から延長して折り返すことなど、運行体制が大きく変化します。他にも快速電車の有料着席サービス拡大などもあり、増収を睨んだ攻めも部分もありますが、全体としては微減というメリハリ型のダイヤ改正です。

これはJR西日本に留まらずJR東日本でも在来線特急の拡充などが見られ、明らかに客単価アップを狙ったものですが、乗客減が明らかな中では民間企業としてこの方向性は納得できます。加えてコロナ減便でリソースに余裕があるということでもあります。運輸業の収支好転が見込みにくい中で攻めているとは言えますが、同時に減便もしている訳で、この傾向は今後も続くと考えられます。

気になるのがうめきた新駅はなにわ筋線が乗り入れる予定なんですが、JRと南海の協議が続いており、2018年に環境アセスメント手続きが始まりましたが、事業着手はまだ先ですから、当然2025年の大阪万博には間に合いません。それどころかトンネル躯体が完成済みと言われる大阪メトロ中央線の夢洲延伸も怪しい雲行きです。

というのも予算が限られていてゼネコン各社が及び腰になっていることと、CGで示された構想図に基づいて具体化されたため、細かな詰めが出来ておらず、施工困難な部分も多数あるという状況です。加えて生産年齢人口の減少による作業員確保の問題もあり、万博パビリオンもできるのかどうか危ぶまれております。大阪地盤の大林組と竹中工務店が積極的ではないようで、万博関連で入札不調が相次いでいます。ど素人のお絵かきには付き合いきれないってことですね。

そして気になるのがなにわ筋線は大阪メトロの稼ぎ頭である御堂筋線と競合することです。只でさえ乗客が減少する中で、競合路線の開業は下手すれば赤字転落もあり得る訳で、大阪市の地下鉄民営化と大阪府の泉北高速鉄道売却で得た資金が投入されることを考えると、明るい展望を描けません。生産年齢人口の減少は輸送需要の低下のみならず、インフラ投資を困難にするという両面で経済を下押しします。

この辺リニア60年のウヨ曲折の工事の遅れも同じ背景ですし、それ以上に完成後の輸送需要の見込み違いもある訳です。人口減少下では労働力の減少を資本装備でカバーして生産性を高め賃金を上げる必要がありますが、資本装備強化のための投資は主に省力化が中心となります。新たなインフラを作ってもメンテナンスする人がいなければ経済を寧ろ冷やします。

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Saturday, December 31, 2022

リニア60年のウヨ曲折

2022年も間もなく終わります。国鉄が浮上式リニアの開発に公式に着手したのが1962年ですから、今年は60年の節目だったのですが、現実のリニアは暗礁に乗り上げております。サイドバーで紹介している国商 最後のフィクサー葛西敬之:森功著 講談社刊で要領よくまとめられておりますが、静岡県の反対で静岡工区未着工だけではないリニアへの逆風は複雑怪奇な様相を呈しております。詳しくは後述しますが、葛西敬之JR東海名誉会長の死と、安倍元首相の死で流動化している政治状況が先行きを不透明にしています。

葛西氏の政治との関わりは深く、第二次安倍政権以降、官邸官僚の人事を巡って管政権、岸田政権にも引き継がれています。更にNHK人事への介入を通じたメディア支配もあります。加えて大広告主として広告出稿を通じた新聞、雑誌の言論封殺で、リニアを巡る不都合な報道は殆ど見られませんが、コロナ禍によるリモートワーク定着もあってリニアが見込むビジネス需要に陰りが見られる一方、JR東海の強引な姿勢が実現可能性を下げている現実もあります。

例えば大井川の水問題ですが、南アルプストンネルの湧水を全量戻すことで静岡県とJR東海は合意している筈ですが、JR東海の言い分はあくまでも工事衆力後の話で、トンネル掘削中の10か月ほどの期間は除外ということで「話が違う」となり静岡県が怒っている訳ですが、それをJR東海は「静岡県が無理難題を言う」として取り合いません。これは南アルプストンネルの構造からくる問題なんですが、山梨坑口から上り勾配で掘削すると、トンネル内の湧水は山梨県側へ流出する訳で、大井川へ戻すことは物理的に不可能ということです。

これは南アルプスルートでの建設を決めたことに由来する問題ですが、東西坑口を水平に結ぶと土被り3,000mにもなり、土圧でトンネル掘削自体が困難なため、東西両坑口から最大40/1,000の勾配をつけて最大土被り1,400mに抑える為です。山岳トンネルとしては大清水トンネルで1,300mの実績もあり、東海北陸道飛騨トンネルが1,000m以上の土被りの難工事の末2007年に貫通したことで、最短距離の南アルプスルートが選ばれたと言われています。しかし中央構造線をはじめ多数の活断層を横切る難工事が予想されていましたし、実際大井川の水問題もその1つではありますが、問題はそれだけに留まりません。

水問題については東電田代ダムで取水して山梨県側へ流す量が多く、その取水量を調整することで対応可能ではあり、実際JR東海からも提案されてますが、経産省の同意が必要で手続き上の難易度は高いです。加えて急岐な南アルプスの地形で大量のトンネル残土が出る訳で、それを運ぶダンプカーが通れる工事用道路の建設も、環境アセスメントをクリアするハードルは高く困難ということもあります。加えてJR老獪の高飛車な態度が県民を怒らせてきたということもあります。

加えて都市部の大深度地下工事を巡る不透明さもあります。仲良きことは美しき哉かな?で取り上げた調布市の陥没事故の影響で都市部の鉱区も着工が遅れています。こちらも事業主体の東日本高速道路の不誠実な態度が住民を怒らせており、簡単に幕引き出来る状況ではありません。また岐阜県工区の斜坑の落盤事故で死者も出してますし、神奈川工区など他の工区でも工事は遅れています。実は静岡県の反対がフィルター効果となって報道されていないだけで、巷間謂われるように静岡県知事が代われば解決とはなりません。

国鉄時代から開発が続けられた磁気浮上リニアですが、延長7kmの宮崎実験線で繰り返し試験を続けてきて、次のステップとしてより長い実験線が必要として宮崎実験線の延伸も検討されながら、将来中央リニア新幹線に繋がるという理屈で山梨に実験線が作られた訳ですが、金丸信自民党幹事長の意向が働いたと言われています。

一方で自民党林喜朗議員の後押しで運輸省と日本航空がHSSTという常電導リニア計画を持ち上げました。ドイツのトランスラピートのライセンス契約で目標最高速300km/hで、羽田空港と成田空港を結んで国内線と国際線の乗り継ぎを狙ったものらしいですが、シーメンスへのライセンス料支払い問題は会計検査院に指摘され国会でも問題になりました。日航が政府全額出資の特殊会社だったことからこうなった訳です。

結局日航は事業化を諦め、ライセンスは三菱重工へ引き継がれ、愛知高速交通東部丘陵線(通称リニモ)で実用化されましたが、最高速100km/hに留まります。しかし愛知万博の会場となった海上の森の丘陵地帯を抜けるルートはアップダウンが激しく、通常鉄道では整備が難しかったかもしれません。ちなみに最大勾配は60/1,000であり、磁気浮上でレールと車輪の粘着限界に影響されないからですが、逆に言えば中央リニアも60/1,000の急こう配を取り入れれば難工事は幾らか緩和された可能性はあります。

これ金丸信氏の鶴の一声で決まった山梨実験線をJR東海が引き受けるにあたって、中央新幹線が全幹法の基本計画線であることから、技術開発途上のリニアの実現可能性から通常の徹軌道式での整備も視野に入れた結果、粘着駆動の通常Y鉄軌道方式でギリギリ許容できるのが40/1,000ということのようです。つまり当初必ずしもリニアには拘ってはいなかった訳で、寧ろ東海道新幹線のバイパス線としてJR東海が一体運営すべきということで中央新幹線の権利を確保する目的だったようです。整備新幹線としてならばJR東日本に持っていかれる可能性があったことをブロックした訳です。

高速試験車300X系は中央新幹線を350km/hで走行する前提で設計されたもので、リニアの実現性への保険だった訳です。その成果は700系以降の新系列車に引き継がれてはいますが、隠れた意図があった訳です。それがリニアに傾いたのは技術開発の進捗が想定以上だったということに留まらず、日本の技術力を世界に知らしめるという葛西氏の右派的な思想によって目的自体がシフトしたことも指摘できます。

東海道新幹線の過密ダイヤは度々話題になりますが、実際には関西国際空港の開港や夜行高速バスの充実で輸送量が停滞した時期がありました。それを突破したのは品川新駅開業とのぞみ大増発によるJR東海自身の需要掘り起こしの結果であり、その原資は新幹線買い取りによる減価償却費の拡大と、その買い取り価格への政府へのイチャモンで認められたのぞみ付加料金の設備更新費用としての無税積み立て金です。

後者は買い取り価格の査定が減価償却されない地価部分が多くなることで設備更新が滞るという理屈で、長期運休を想定した設備更新の費用に充てるとしていましたが、認められると一転、長期運休無しでも設備更新は可能としてテヘペロしたりしております。JR東海の強引さや不誠実さを示す事実は事欠きません。

最後に森功氏の前掲書で示された仮説が、葛西氏が6年前に間質性肺炎で余命5年を宣告された直後に3兆円の財投資金受け入れを決めたのではないかということです。財投資金投入自体は当時の安倍首相の提案で、アベノミクスで中身がないと言われてきた成長戦略の目玉としてリニア大阪延伸の前倒しが検討され、税制優遇、補助金、財投資金提供の3案が財務省内で検討され前2者は法改正を伴い特に黒字企業のJR東海が対象となると日は安を浴びるとして財投案に落ち着いたということで、裏付け取材もされており、信ぴょう性は高いと言えます。お陰でJR東海がリニア事業を見直すことは困難になっております。

しかしこれが鈍器法定で取り上げたリニア談合事件のきっかけとなります。財投資金の投入で公共性ありと判断されて民間工事の談合事件として立件された訳です。当初立件は困難と言われましたが、リーニエンシー制度で大林組と清水建設が制裁を回避する一方、この2社と大成建設、鹿島建設とを分離公判で前2社を先に有罪化kていさせるという検察の公判テクニックで一審をクリアしております。とはいえそもそも難工事だらけのリニア事業でゼネコンも利益確保が難しく、こうした事件が発覚するのはある意味JR東海が見限られつつある結果とも言えます。日航HSSTの失敗とも通じます。

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Sunday, October 30, 2022

失われた中国の始まり

中国の習近平氏が異例の国家主席3期目を決めました。最高幹部を側近で固め、李克強、汪洋両氏が最高幹部を外れ、上海市トップでハードロックダウンを主導した李強氏が登用されるなど、あからさまに側近で固めた人事は、何だか安倍政権を思い起こさせます。鄧小平氏が決めた国家主席2期10年までとか、最高幹部定年68歳も反故にして69歳での3期目就任の一方、李克強、汪洋両氏は67歳で引退というアンバランスもあります。中国の集団指導体制に幕を引いたと言えるます。

元々日本の自民党長期政権を参考にしたと言われる集団指導体制ですが、太子党と共青団のように自民党の派閥政治に似たところがあり、政権内部での異論の包摂という意味でうまく機能していたとは言えます。それでも天安門事件が回避できなかったように、共産党一党支配という規範を越えるものではない訳ですが、その点は日本でも親米保守という規範を越えられないという意味で似たり寄ったりではあります。

そして官邸を側近で固めて総裁任期延長や抜き打ちの衆院解散などで自民党の強みであった異論包摂の多様性は失われましたが、同様に党大会などの行事の開催時期を恣意的に動かしたり、反腐敗で政敵を粛清したりした習近平氏の手法は安倍政権と通底します、そして突然の民間ハイテク企業の規制強化で共同富裕を打ち出した一方、アメリカの半導体輸出規制に対抗して国産化を進めてますが、バイデン政権が半導体製造装置を含む輸出規制強化で道を塞がれています。

微細加工の先端半導体は歩留まりが悪くなりますので、使えるチップを大量に供給する難易度は高い訳で、その辺をクリアしてから台湾TSMCは米インテルを凌ぐ世界トップの位置を得た訳ですが、後追いするのは困難を伴います。この辺は日本メーカーも同じですが、設備投資と技術開発投資を継続できなければ追いつけません。その一方で自動車その他必ずしも最先端素子ばかりが需要される訳ではなく、量的には旧世代半導体の方がボリュームゾーンでもあります。しかし競争が激しく経済動向も絡んで市況商品として価格変動が激しいので、その分野で留まる限り安定した収益を得ることは難しい訳です。日本のDRAM敗戦は典型的ですが、中国が同じ轍を踏む可能性は高いと言えます。

加えて資源インフレで世界経済が布教に向かう局面となれば、奇跡的な成長を続けた中国経済も長期停滞は免れないと考えられます。人口動態も生産年齢人口が予想より早く減少に転じた模様で、この点も日本の後追いと言えます。日本の失われた30年が中国で再現されるという訳ですね。国内の不動産バブル崩壊も経済の足を引っ張ります。

となると台湾併合は先端半導体を手に入れることにもつながりますが、逆に台湾が先端半導体で世界をリードできたのは、世界になくてはならないオンリーワンとなることで、先進諸国の関与を強めて中国の圧力をかわす目的があります。独立を果たせない台湾故の生き残り戦略であり戦略的経済安全保障と言えます。その意味で日本で議論される経済安全保障のなんと底の浅いことか。

習近平氏は台湾併合に軍事オプションを排除しない姿勢を見せてますが、あくまでも最終手段であって今すぐという話ではない訳で、日本の台湾有事の議論も的外れです。寧ろ台湾は未承認故に集団的自衛権行使の対象にならないという法的問題もある訳で、それも含めてクリアすべき課題は多いと言えます。恐らく防衛力強化の口実ということなんでしょうけど、半導体不足と共にウクライナ紛争が影を落とします。

冷戦終結に伴う米国防費の削減で軍需産業の生産能力は大幅に縮小しており、その中でロシアのウクライナ侵攻が起きてウクライナに対する兵器供与が続いている訳ですが、その結果米軍需産業の生産能力がボトルネックになってきており、米政府は西側諸国に生産協力を求めています。当面ウクライナ向けの出荷が最優先ですから、日本向けは後回しでしょう。兵器増産は日本の防衛産業にもお鉢が回ってくるでしょうけど、元々数が出ないから利益が薄く、撤退が相次いでいる状況です。

そこへ特需と喜べないのは、ただでさえ儲からない兵器産業で、米政府の要請でライセンス生産となると、守秘義務契約など煩雑な手続きを経て、しかも指定の輸入部品購入やライセンス料の支払いまで求められたら、果たして引き受ける企業があるかどうか。政府は重工メーカーなどに強引に引き受けさせるでしょうけど、見返りに別分野の事業で便宜を求められる可能性はあります。それが原発になるのか洋上風力になるのか、何らかの国策事業での不透明な意思決定をもたらす可能性はあります。政府が公共事業を減らせないのはこうした背景があるかもしれません。

こうした日本の不透明な政府統治をお手本にしたとすると、中国も同じ轍を踏むのはある意味当然なのかもしれません。そして同じように長期停滞に直面するということですね。逆に中国が先を言っているのが短期間に世界一の路線網をを展開した高速鉄道です。これも日本の新幹線のパクりと言われますが、京滬トッキョキョキャキョキュ^_^;で取り上げたように元々国鉄とメーカーの間で権利関係が曖昧なまま民営化され特許の空白となっていたのは日本側のミスですし、そもそも新幹線自体は鉄道という枯れた技術が土台ですから、ある意味模倣は容易だったと言えするでしょうけど、ます。いつまでも「世界に管たる新幹線」という意識から抜けられないから隙を生んだとも言えます。

そして中国の高速鉄道プロジェクトはおそらく田中角栄氏の「日本列島改造論」を参考にしている節があります。国土の均衡ある発展のために新幹線網を全国に展開する一方、線路の空く在来線は貨物輸送強化で産業振興を図るというものですが、中国の高速鉄道は将にこれで、在来線も標準機ですから貨物輸送力も日本とは比較にならない大きなもので、世界の工場を支えました。

しかし一方で高速鉄道の収支は大赤字と暴かれました。これ日本でも北海道新幹線は今のところ単独では100億円規模の赤字です。青函トンネル区間という特殊事情があり、札幌延伸で収支は改善するでしょうけど、JR北海道の経営を支えるには至らないと見られます。新幹線も収益逓減の法則法則からは逃れられず、今後更に整備を続けるなら赤字は避けられないところです。

余談ですがロシア軌のウクライナの鉄道を標準機かするプロジェクトがウクライナの戦後復興に絡めて検討されています。ロシアによる黒海の海上封鎖でウクライナ産の小麦などの農産物輸出が困難になったことから、隣国ポーランドに合わせて標準機かすればEUの鉄道網で輸出が容易になるということで、実は中国も密かに支援を狙っています。というのは一帯一路の欧州側の出口という意味で、ロシアの影響力を排除したイノは中国も同じです。加えてカザフスタンなどロシア軌のの中央アジア諸国にも手を突っ込む可能性があります。21世紀のゲージ戦争はリアルにあり得ます。

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Sunday, October 02, 2022

連合王国の迷走

エリザベス女王の国葬が行われた先月19日。世界の要人がロンドンを訪れで弔意を表しました。日本の天皇皇后両陛下も参列した厳かな儀式ですが、イギリスの国葬は法律で定義されており、国家元首及び衆目の認める卓越した故人として、例えばアイザック・ニュートンも国葬で送られました。当然議会の同意を得ての話ですが。とはいえ過去の植民地支配の記憶もあり、旧植民地の反応は冷ややかなものも多いですし、またイギリス国内でも王政廃止して共和制へ移行すべしという議論もあります。面白いのは王政廃止論は主に保守党から出てきており、労働党は安定維持の立場から王政擁護の姿勢を見せております。

三位一体で原罪侵攻系 のイギリスバージョンとしてイングランド国教会というのがありまして、チューダー朝時代に王権を巡ってローマ教皇庁と対立し、イングランド国教会を設立してローマ教皇庁支配から離脱しました。教義に基づく離脱ではなく政治的なもので、喩えれば中世版Brexitですが、その過程で三位一体論に基づく神聖王権の概念を盾にアジア、アフリカへの進出を図ります。

生涯独身のエリザベス1世は聖母マリアに喩えられ、後に新大陸北東回廊をバージニア植民地と命名されるという流れです。なるほど日本の明治政府が天皇中心の国家統治を考えたのはお手本があった訳ですね。但し日本では国葬は国葬令という勅令によっていたため、戦後の新憲法制定で帝国憲法が失効したことで同時に効力を失いました。日本の国葬養護論者は認めたくないでしょうけど。そんなイギリスがえらいことになってます。

英ポンド最安値、大減税に動揺 世界市場へ新たな火種:日本経済新聞
米利上げの影響でポンド安が止まらずインフレに悩まされるイギリスですが、ジョンソン首相辞任に伴う後継の保守党トラス政権が打ち出した減税などの経済対策が嫌気され、国債金利上昇(価格下落)となり、イングランド銀行(BOE)が急遽国債買い入れしたものの嫌気され、ポンドが売り込まれる展開となりました。

Brexitに始まるイギリスの迷走は、Brexitで始まった通関手続きの影響で港湾に滞貨がたまり物流の遅れからイギリス経済を圧迫しましたし、コロナ禍がそれに輪をかけてしまいました。その結果コロナショックがイギリスでは供給ショックの度合いが強まり、加えてウクライナ危機側をかけますから、経済はガタガタになりました。そしてジョンソン首相が退任に追い込まれ、保守党の党首選で勝ち残ったトラス首相が打ち出した経済対策が減税中心の需要サイドに働きかける政策だったことで混乱が生じました。

インフレなんだよ愚か者という話ですが、供給ショックに需要喚起の政策を充てればより供給制約が深刻になるという常識が英保守党で失われている可能性があります。米共和党のトランプ支持派による伝統的保守派の圧迫もそうですし、イタリア総選挙での極右政党の勝利やフランス国民戦線の支持拡大などもあり、先進国共通の病巣があるのかもしれません。本来経済合理性を尊重する筈の保守派が経済を混乱させているということですね。

その流れから言えば日本の旧統一教会問題できちんと対応できない岸田政権ではアベノミクスの総括などできる道理がありません。その結果こんなことが起きる訳ですが。

政府・日銀、24年ぶり円買い介入 円一時140円台に上昇:日本経済新聞
為替介入に関してはめぇいあに露出している経済人でも間違った認識を持つ人が多く、国民に適切な説明もあsれませんが、1兆ドル以上とされる日本の外貨準備が介入の原資となります。但しそのほとんどは米財務省債として米国内で運用されており、その受取り利子も米国債に再投資されるのが通例ですから、介入原資となる流動資産(現預金)は日本円で19兆円程度であり、今回円建てで2.8兆円という過去最高額ですが、1日の出来高から見れば微々たる水準です。しかも使える原資は限られる訳ですし。

介入資金は財務省財務局の所轄で日銀に預託され運用されており、米ニューヨーク連銀の鋼材で管理されております。その一部を取り崩しての介入ですが、今回のようなドル売り円買い介入の場合、日銀が円を買う形になりますから、円の通貨量がその分減ることになるため、金融政策との整合性を取るために円資金の減少で生じる金利上昇を吸収するオペを実行して影響を抑えます。これを不胎化と呼びます。そうするとそもそも日米の金利差拡大で生じた円安であり介入効果を失うことになりますから、結局瞬間的に市場にショックを与えるだけで、効果は続きません。インフレ退治は金融政策で対応すべき問題なんです。しかし日銀は動きません。

実質で見る破格の円安 日本経済、「体力」低下著しく 齊藤誠・名古屋大学教授:日本経済新聞
斎藤教授の分析では、物価連動国債金利で表される実質金利と物価変動を加味した実質為替レートの関係をグラフにブロットした結果、1986年1月の1ドル200円を基準値とした2019年までのトレンドと21年以降のトレンドに明らかな乖離があり、この2年間の動きは複雑なんですが、結果的に19年の実質1ドル180円から21年には270円の水準となった訳で、これは1985年のプラザ合意前後の米ドルが1ドル250円が150円に下がったのと同等の減価で、ぶっちゃけ円の価値は2/3になったってことで、災害級の災難です。しかも世界の金融当局が通貨防衛の観点から利上げに動いている中で、主要国中銀では日銀だけが緩和継続している訳ですから、円安トレンドは今後も続くということになります。実質で見ると表面の数字以上のインパクトがある訳です。

日銀はインフレを原油高など海外要因で起きた一時的な現象として緩和継続を示唆し続けた訳ですが、なるほどWTI原油は80ドルを割る水準まで下がりましたが、円安がそれを帳消しにしている訳です。とはいえ日銀にも言い分はある訳で、異次元緩和からマイナス金利、イールドカーブコントロール(YYC)などで長期間緩和を維持してきた結果、日銀自身の国債保有が膨れ上がっており、利上げしろと言われてもその結果日銀自身のバランスシートを痛めてしまうジレンマがあります。つまり動くに動けない訳です。元々独立性が強くコロナ後の利上げに一番りしたBOEは逆に年金の国債保有による損失を避けるために国際買い取りに踏み込んだ訳で、金融秩序維持の意識が高い訳です。日銀もYYCの許容金利拡大ぐらいはやればできないことはありません。

日本国内を見渡せば、製造業の海外移転などによる空洞化が進み、衰退が明らかだった80年代のアメリカと被ります。それを象徴するこのニュース。

東芝再編、JICとJIPがそれぞれ提案 連携は解消 JIP案には中部電力が出資含め参画:日本経済新聞
かつてCOCOMしてますか?で取り上げた東芝機械のCOCOM規制違反事件ですが、アメリカから脅威と見られ言いがかりをつけられた東芝も今は昔。再建が進まず迷走しております。産業革新機構(JIC)と日本産業パートナーズ(JIP)は元々組んで海外ファンド勢と対峙してましたが、外為法改正で外資の株式保有が規制されたこともあり、投資妙味が薄いと様子見モードですが、上場維持のJICと非公開化のJIPで対立し、日本勢で争うことになりました。JIP陣営は中部電力などユーザー企業から資金を募っており名門企業の株式非公開化に現実味が出てきました。国策で潰せない企業として温存されることに変わりはありませんが。日本の企業統治改革の成れの果てという意味では80年代のアメリカ以上に重傷です。

てことで、イギリスやアメリカの心配よりも日本の心配をすべきなのでしょう。イギリスの鉄道改革は雑な制度設計で混乱がありましたが見直され、寧ろJR北海道などの経営不振で見習うべきじゃないかという見方もされました。ある意味イングランド王国時代から迷走し続けた「歩きながら考える」路線と見れば今の混乱もいずれ出口を見出すとは思います。逆にコロナ禍で経営悪化したJR各社や北海道新幹線の並行在来線問題が暗礁に乗り上げている現状を見ると、日本の方が出口が遠いかもしれません。残念ながら。

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Sunday, September 11, 2022

衰退途上国の在り方

NISAホイサッサの迷走ぶりは、確定拠出型年金でも同様です。

「放置年金」5年で7割増2400億円 運用機会111万人逃す 転職時手続き忘れ、現金で管理
企業向け確定拠出年金(DC)は鳴り物入りで導入されたものでアメリカの制度に倣った「日本版401k」とも呼ばれました。確定給付型企業年金が厚生年金の受託分を含めて企業の自主運用で従業員に給付額を約束するのに対して、DCは拠出額が決まっていてその範囲内で従業員が自ら選んだ投資商品で運用する仕組みで、アメリカでは定着した仕組みで、転職しても転職先で続けられる可搬性のある個人主体の制度として期待されましたが、採用企業は限られ、転職先がDC不採用だったり、早期リタイアで自営若しくは未就業となった場合は、個人向け確定拠出年金(iDeCo)へ変更するか解約して現金化する必要がありますが、それが放置されているケースが多く月額52円の事務手数料が引き落とされてしまうというもの。やはり制度が理解されず迷走している訳です。

こういうことが日本では多いと感じます。政府の統治システムの劣化を感じさせます。コロナ問題でも分科会での専門家の意見集約もないままに、全数検査を無くし陽性者の待期期間の短縮を打ち出すなどしてますが、何れも実務上の調整項目が多く、政治判断だけで出来る話じゃありません。実際専門家からは懸念の声が出ていますし、実際感染者数も減っているとはいえ高水準ですし、何より志望者数が多い点は問題です。それも自宅療養中の重症化とか、明らかに医療の包摂が出来ていない中で起きている点は重大です。

国民の命を軽視しる一方、国葬はやるという姿勢を崩しません。これも正確には国葬儀であって戦前の国葬とは別物と説明されてますが、それならなぜ国会に諮らなかったのか、司法の見解を確認しなかったのかが問題です。国会で多数派なんですから、最終的には実施する方向で採決できるし、司法が待ったをかける可能性も低いのに、内閣府設置法を根拠に国事行為を閣議決定で決められるとしたところが問題なんです。法的根拠のない国事行為を内閣が勝手にやるということですね。

実際世論調査では反対が多数派ですし、特に旧統一教会問題で安倍元首相がキーマンと見られていることで、このまま知らぬ存ぜぬで押し切ろうというのですから無責任です。他人の死を利用しようという意図が見えます。そしたら英エリザベス女王の死去のニュース。こちらは慣習法の国の国家元首の話ですから当然のように国葬が行われます。エリザベス女王の時代はイギリスの衰退の歴史を刻んだ訳ですが、逆にアベノミクスでインチキ成長戦略の安倍元首相の国葬儀が霞みます。「悼む人がいるんだから反対するな」というのも、おかしい訳で、政府が国費を投じて行う儀式である以上、反対派を説得する責任があります。

日本の失われた30年ですが、90年代半ば以降の生産年齢人口の減少による潜在成長率の低下が構造問題としてある訳で、それに対して適切な資本装備の強化ではなく非正規雇用の拡大で賃金抑制を図った結果、国民の購買力を低下させた結果が現在な訳で、小泉改革からの一連で事態は悪化の一途を辿っています。ドル円も140円を突破して輸入物価上昇が明らかに消費にブレーキをかけているのに日銀は動けないという形でアベノミクスの負のレガシーに苦しめられている訳です。

人口動態の変化は現役世代にとっては雇用面でメリットの筈ですが、実際は非正規雇用の拡大で労働市場が分断された結果、正規雇用者の賃金抑制も起きている訳ですが、とりあえず新卒の就職難がないことで若者の現状維持の心理からか保守化しているという現状です。アメリカではオキュパイ・ウォールストリート運動のように若者ほどリベラルな傾向があり、保守層は中高年白人男性とヒスパニック系反共主義者が中心という状況です。これはこれで深刻な分断ではありますが、日本では分断というよりも統治機構の劣化の影響の方が大きい気がします。

だから役に立たない成長戦略で空回りしていて、NISAもDCも外国の制度を参考にするの悪くはありませんが、それで不具合があれば見直してブラッシュアップしていくことが必要なのに、省庁の壁や政治家の身勝手でおかしくなっている訳です。そんな中で、来週には飛べないジョナサンが走ります。長崎は狭軌だけだった時点で軌間可変車両の開発は挫折すると予想しておりましたが、その通りになりました。結果的にスーパー特急からフル規格に変更した武雄温泉以西の整備区間が孤立状態で開業することになりました。特急かもめリレー号で武雄温泉でホームツーホームの乗換とはなりますが、乗換なしの九州急行バスがほくそ笑んでいるでしょう。新鳥栖—武雄温泉間のフル規格事業化は佐賀県の反対と財源問題で当面見込めません。

幸いなのは並行在来線となる長崎本線肥前山口―諫早間は、当面上下分離で」JRが運航継続となっておりますが、肥前鹿島までは博多からの特急列車運行のために電化路線が残りますが、一方肥前鹿島以西は電化設備を撤去してキハ40系のローカル列車だけとなります。九州新幹線の並行在来線の肥薩オレンジ鉄道ではJR貨物が出資することで電化設備を維持しましたが、貨物は既にJR貨物がトラック輸送に切り替えたため問題になりませんでしたが、事業の見直しが出来ないままの泥縄対応です。

そして並行在来線問題では北海道新幹線の並行在来線となる函館本線新函館北斗―長万部間の存続問題がネットを賑わせています。現時点で地元自治体は引受を表明せず、北海道庁も動いておりませんが、引受のハードルは高く、年30応円程度の赤字必至ですから、何らかの公的助成なしには実現できません。東北や北陸では貨物調整金と称する引受三セクが受け取る金額とJR貨物が負担する金額との差額を新幹線リース料に上乗せする形で対応しましたが、その結果北陸ではサンダーバードの金沢打切りと新幹線つるぎの運行という落としどころとなりました。

一方JR貨物の依頼で貨物廃止の場合の経済損失はみずほ総研の試算で1,453億円と弾き脱されており、特に北海道産農産品の天候ん左右されない市場アクセスインフラとして重要です。ザックリ2%強の負担で経済損失を回避できるんですから経済合理性はありますが、協議が進む気配はありません。対案として国交省で検討されたのが船舶輸送への置換えですが、そうすると天候に左右されますし、室蘭港にしろ苫小牧港にしろキャパシティに余裕はなく、また輸送時間も伸びると予想され断念されます。道内から積み出し港までのトラック輸送もドライバー不足で難しくなっておりますし。

あと民間で構想として検討されているのが第二青函トンネルですが、多額の公費投入が不可避なだけに、費用便益分析のよるB/C比がどうなるか不明です。ということで、当面は何らかの公的助成で並行在来線を残すのが最も現実的な解になる訳です。それと東北新幹線の並行在来線IGRいわて銀河鉄道と青い森鉄道も減収となります。とはいえ貨物のために地元負担を求めるのは難しい訳で、おそらく国交省では落としどころを考えていると思います。

あくまでも予想ですが、当該区間の鉄道・運輸機構によるJR北海道からの買い取りで貨物専用線として存続させることは考えていると思います。一応2025年までに結論を出すことになっておりますので、ギリギリのタイミングで官邸へ上げて政治判断を引き出すということになると思います。これはこれで泥縄ですが、経済合理性から考えてこれしかないでしょう。その場合三セクによる旅客輸送は無くなります。」

その上でJR北海道への売却代金の財源として機構がJR北海道へ融資している債権の棒引きで対応すれば敢えてこのための予算もいりません。似たようなことは債務の株式化(デッド・エクイティ・スワップ)の形でJR北海道株式の引受は行われております。JR北海道は売却代金を新千歳空港新ターミナル乗り入れに伴う線路付け替えなどの事業費に充てることで経営基盤を強化して、あわよくば株式上場ということになるでしょうか。その際JR九州のように経営安定基金の取り崩しを行って減価償却前倒しと言ったシナリオを考えている可能性はあります。そうすれば株式化された債権の元もとれますし。

こううまくいくかどうかはともかく、経済合理性を無視した貨物廃止は考えにくいところです。尤も経済合理性を無視してフル規格化した西球種新幹線や北陸新幹線の小浜京都ルートのような経済合理性無視がたびたび起きていることもまた事実ですが、こうして経済活性化どころか衰退を早めるとすれば国民として不幸なことです。統治の劣化が進む現状から言えばあり得ない話じゃないことが怖いですが。衰退途上国として賢く縮むことは重要です。

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Saturday, July 30, 2022

NationalRail幻想

国を葬る話に続いて国鉄を葬る話をします。JR西日本に続いてJR東日本も赤字ローカル線の線区別収支を公表しました。

JR東日本、地方35路線の赤字693億円 収支初公表:日本経済新聞
国土交通省の有識者会議でも乗車密度1,000人未満の路線の存廃協議基準を示しました。
ローカル線、存廃協議の新ルール 1日平均1000人未満で:日本経済新聞
JR西日本の発表が2,000人未満を基準としていたのに対して、国はその半分の基準を示した形で、JR側から見れば存廃協議のハードルが高くなった形ですが、自治体からは総じて廃止の既成事実化に対する警戒感が強まっているようです。

しかし国鉄時代には乗車密度4,000人未満を地方交通線と定義して、バス転換が望ましいという方針を出しつつ、当面の存廃協議をその半分の乗車密度2,000人未満として特定地方交通線に指定し、地元との協議を始めたものです。その結果多くの路線が対象となってバスや第三セクター鉄道へ転換されました。

1983年北海道の白糠線(白糠―北進間)が白糠町運行の自家用有償バスに転換されたのを皮切りに転換は進み、第三セクター鉄道転換の始まりは岩手県の三陸鉄道ですが、同時に国鉄が引受を拒否していた建設線の三セク引受を認めさせることになります。それが野岩鉄道やあぶくま急行、北越急行、智頭急行など多くの建設線が実現することにもなりましたが、わき道にそれますのでここまでにします。

ただ当時と経済状況も異なり、当時ならば2,000人未満のローカル線でもバスならば存続可能だし、三セク鉄道でも国鉄から切り離して独自の運賃を設定することで存続の可能性もありました。しかし人口減少で地域の人口流出も止まらず、少子化で鉄道利用する通学生も減少する中では存続もままならず、実際三セクや地元交通企業が鉄道で引き受けた大畑線、黒石線などの例もあり、鉄道での存続も厳しくなっております。加えてバス事業も乗客減とドライバー不足で経営環境が厳しくなっており、鉄道からの転換で簡単に利益を出せる状況ではなくなりつつあります。実際鉄道もバスもない公共交通不在地域も増えている現実があります。となると1,000人未満の路線のバス転換は容易ではない現実がある訳です。

有識者会議ではバス転換以外にも上下分離による線路の公的保有や自治体の同意を条件に運賃値上げを認可制から届け出制にするとか、観光列車などの誘客案の実行なども選択肢として示しており、補助金も出すとしておりますが、自治体としては協議に応じること自体が廃止前提の議論として応じない姿勢で対応することになりそうですが、そうなれば見切り廃止の口実にされるだけのことです。元々JRの内部補助頼みの路線存続だったところに、コロナ禍で大都市圏や都市間輸送の落ち込みで支えきれなくなった現実があります。現状を踏まえて地域の交通政策を見直す機会と捉えるべきでしょう.

実際国鉄時代に打ち出されたローカル線廃止論は上述のように基準を緩めてJR各社の内部補助でカバーすることで対応してきた結果、ローカル線問題は民営化後、遠景に退きましたが、旧国鉄債務のJR各社への引受を制限して見えなくしただけとはいえ、JR発足直後のバブル景気もあって沿線自治体には楽観論が広がったのは間違いないでしょう。その意味で同時に行われた鉄道運賃の改革案も観ておく必要があります。

鉄道運賃に変動制、混雑時高く 国が制度設計へ JR東日本など検討
議論の前提としてJR本州3社は消費税転嫁を除いて基本的に国鉄末期の運賃体系を維持している訳で、コロナ禍による利用減で現行運賃の維持が難しくなっている現実があり、見直しが必要な局面ではあります。

元々国鉄民営化後の見通しとして当時の運輸省も単年度黒字が可能なのはJR東海1社と見積もっていて、各社の収支状況を見ながら3年程度の周期で運賃値上げを想定していましたが、民営化当時のバブル景気で収支が上振れし、特に首都圏を受け持つJR東日本の恩恵は大きかったし、アーバンネットワークの輸送サービス強化で並行私鉄から客を奪っていたJR西日本も好調でした。そのため消費税転嫁分を除いた運賃値上げは実施されず、寧ろ好業績による超過利潤の還元策を求められ、並行私鉄に合わせた特定運賃や割引率の高い回数券やフリー切符などの還元策が採られましたが、これらも収支状況を見ながら見直され縮小されています。

記事中のオフピーク定期券ですが、JR東日本としてはリモートワークの普及とフレックスタイム制の定着でピークの利用をオフピークに誘導する目的を謳っており、これをダイナミックプライシングと説明している点には違和感があります。同時に通学定期券制度の見直しにも言及しており、元々国の機関として民間より高い割引率で定期券を発行していたこともあり、本来JRが負担すべきものではなく、政府や自治体の文教予算で負担すべきとも言っております。

これは現行運賃の上限運賃認可制の制度上の矛盾なんですが、JRなど鉄道事業者は普通運賃や特急などの特別料金の他、定期運賃も含めて総括原価との均衡を求められてますから、割引率の高い通学定期運賃は乗客間の補助となる訳で、ここを見直すことで割安なオフピーク定期券の発売が可能になりますし、運賃制度としては小中高大で異なる割引率が適用される通学定期運賃を排除して運賃体系もシンプルになり運賃改定の認可手続きもやり易くなるということも視野に入れていると考えられます。つまり現行運賃制度の完全見直しとなるダイナミックプライシングとは別物で、航空やバスでは既に実施されてますが、結果的に客単価が上がって多くの乗客にとっては値上げとなっていることから、利用客が多く社会的に影響の大きい鉄道運賃への適用は慎重にすべきです。

蛇足ですが日本の上限運賃制と似て非なるイギリスのプライスキャップ制の違いですが、イギリスではインフレ率に合理化係数を掛けたプライスキャップを設定してその範囲内での事業者の運賃設定に自由を与えております。制度的にインフレ率より低率のプライスキャップを設定することで事業者の合理化努力を引き出すと同時に、合理化努力で得られた超過利潤の還元義務は課されませんから、実態としては毎年運賃は値上げされます。今のように9%超のインフレだと当然運賃値上げ幅も大きくなり国民生活を圧迫します。ジョンソン首相失脚はスキャンダルもありますが、インフレに対する国民の怒りが大きい訳です。

あと国鉄民営化時のくびきから会社を跨った運賃通算制度も見直される可能性があります。そのためにJR運賃は200㎞程度まで殆ど遠距離逓減が働かず、並行私鉄との運賃差が生じていたりします。私鉄並みに境界駅での打ち切り合算にすれば利用実態に即した遠距離逓減を戦略的に採用できるようになりますし、JR間で他社の意向を気にする必要もなくなります。東京基準で言えば熱海から西は別運賃ということですね。

てことでとっくに終わっている筈の国鉄のくびきをJRは背負わされている訳ですが、そうは言っても国民のNationalRail意識は残っており、特に政府や自治体の対応を縛っている面はあります。整備新幹線やリニアへの期待もそうした文脈から見直した方が良いということは以前から申し上げておりますが、人口減少下で初期投資の大きい高速鉄道の経営の難易度は高まります。実際整備新幹線区間ではリース料が固定されているために、コロナで乗客が蒸発してJR東日本の収支を直撃しました。苦肉の策の新幹線カーゴサービスでどこまでカバーできるのか。しかも在来線貨物輸送の代替は不可能なので、青函トンネル貨物併用問題の解決にもなりません。いい加減国鉄の亡霊は退治しなくてはね。

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Monday, July 18, 2022

あったらしい資本主義

帝国憲法時代の皇族や軍神の死を悼む「国葬」は、制度としては戦後の日本国憲法公布で旧憲法の失効の道連れになりました。いや待て、吉田茂の国葬は?実は当時も猛反対に遭いながら実施されて、法的根拠のない国家行事への国費支出の前例が出来てしまいましたが、当時の議論が尾を引いて、歴代総理、例えば沖縄返還でノーベル平和賞受賞の佐藤栄作ですら国葬は実現しませんでした。

当然国葬するなら法律を作ってからの話ですが、岸田首相は記者会見で国葬の実施を表明しています。これ明らかにおかしい訳ですが、内閣権限の拡大解釈でスルーするつもりのようです。法律作るとなると国葬の対象者を定義しなければならないし、それに安倍元首相が該当することを示さなければならない訳ですが、それらをすっ飛ばしている訳で、国会軽視の姿勢は安倍管両政権から引き継いでいます。キッシーの温故知新以来繰り返してますが、自民党総裁選のような茶番を仕掛けても政権の本質は変わっておりません。

所得倍増もそうだしデジタル田園都市構想もそうですが、過去の政権のキャッチフレーズをパクってますが、中身はなく、所得倍増に至っては金融所得倍増と言い換えて個人株主を増やして金融所得を増やすと言い出す始末。個人が株を買えば株価が上がるという短絡思考には眩暈がします。株価はあくまでも企業の将来収益の割引現在価値を反映したもので、稼げる企業は株価が上がるし、また低金利で連動する割引率が下がれば将来収益を押し上げますから、単純に需給で決まる訳ではありません。問題は日本企業の将来収益に明るい材料が見当たらないことなんですがねえ。

デジタル田園都市構想も大平政権の田園都市構想をパクると同時に、安倍政権の地方創生と目先を変えて見せたという意味で、空疎な言葉遊びですし、極めつけは国民に不人気なGo To を使わずに県民割の全国展開など言い換えで対応する姿勢が目立ちます。そんな岸田政権は課題山積なのに大丈夫でしょうか?

「国策」の原発、事故責任は事業者に集中 東電株代訴訟:日本経済新聞
終わらない電力危機で取り上げた福島第一原発の集団訴訟に対する最高裁判決と違って会社法による企業経営者に対する株主代表訴訟なので、原告は株主で会社を代表して経営幹部の責任を問う裁判であり、賠償受取りは企業としての東電ということで裁判の性格は異なりますが、その賠償額の大きさが目立ちます。勿論地裁判断で今後上級審で判断が変わる可能性はありますが、原発事故の損害賠償請求訴訟との整合性はある判断ではあります。

今回は地震や津波の規模が想定を超える可能性を経営陣は認識しながら対策を怠ったとしてますが、あくまでも東電経営陣の話で、規制当局としての国の責任を問うてはいませんし、事業者としての電力会社への責任を重く問うているという意味でも矛盾はありません。但しこれは事業者にとっては原発がリスク資産として重荷になることを意味しますから、原発再稼働が進まないことになります。そんな中でやはり記者会見で電力逼迫に備えて原発9基の再稼働に言及した岸田首相ですが、中身はというと既に規制委の審査を通った10基中9基ってことで、追加工事や定期点検で停止中のものを動かすだけ。言葉だけの誤魔化しでした。流石キッシー-_-:。

という訳で「新しい資本主義」は過去にあったらしい^_^:言葉をつなげて目先を誤魔化しているものと言えます。寧ろ「資本主義」を名乗ることに本音があるのでしょう。人新世の「資本論」 (集英社新書):斎藤幸平著がベストセラーになったように、資本主義や経済成長への疑問からポスト資本主義や脱成長に関心が持たれ、また気候変動などでサスティナビリティが問われている中で、それでも資本主義で経済成長を求めるというメッセージと見れば、姿勢を明らかにしたという意味で新しいとは言えるかもしれません。

現実には気候変動もそうですが、コロナやウクライナ紛争、資源高、インフレと。解決困難な社会的課題に直面する中で、成長よりもこれらの困難な課題の解決にリソースを投入すべきではないかというのは、議論の余地があります。例えば東京メトロのコロナ減便の最後で取り上げた滋賀県の交通税導入のように、社会的課題解決のために敢えて増税するというのもその1つですが、歴史が古く減価償却の終わっているローカル私鉄の存続は銚子電気鉄道の濡れ煎餅販売で可能なレベルです。近江鉄道はそれより規模が大きいですが、税で広く浅く負担することで存続可能ならば現実解になり得ます。鉄道の維持が結果的に公益として地域に還元されれば良いという考え方ですね。

しかし例えば北海道新幹線の並行在来線として存廃が注目される函館本線長万部以南のように、貨物輸送インフラとして資本費保守費の負担が大きい路線の存続は、その社会的意義の大きさに関わらずより困難です。特に貨物輸送インフラという側面から言えば、藤代線、砂原線という戦時輸送の要請から建設された緩勾配迂回線を含めた8の字線としての存続が求められ、引受三セクの運営費負担も膨らみます。国や道が線路を保有する上下分離が現実的でしょうけど、道の鉄道存続意欲の低さから見れば可能性は低いと言わざるを得ません。

しかし貨物輸送動脈を断つことは北海道経済へのマイナスインパクトの大きさは計り知れません。ま、そもそも北海道新幹線を欲しがった結果なんで自己責任とは言えますが、プラス面だけを経済効果に計上しマイナス面に目を瞑った結果でもあり、工事の遅れや資材費人件費の高騰で事業費も膨張気味でB/C比も1以下になる可能性があります。愚かな選択と言われる未来が見えてきます。

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