氷河期世代をネタにする票餓鬼政治
一応政府が2022年以来続けている就職氷河期世代支援の続きってことらしいけど、6月の骨太の方針に盛り込むということで参院選を睨んだ動きと見ることができます。
氷河期世代支援、就労・老後対策など3本柱 首相議長の会議新設 - 日本経済新聞重点政策としてリスキリング支援、農業・建設業、
物流業の就労拡大、公務員や教師の採用拡大が打ち出されたということですが、就労拡大の3業種は人手不足業種だし、公務員や教師も志望者が減っているということで、人手不足分野へのマッチングが意識されています。
1973~82年生まれで新卒でバブル崩壊や金融危機による企業の採用手控えの影響を受けた世代で1700万人いるとされており、加えて小泉改革による非正規雇用拡大や正規雇用者も日経連のベアゼロ春闘方針で定期昇給以外の賃上げはなく、2004年の100年安心の年金改革で保険料の天引きが増え、企業の重荷だった団塊世代のリタイアで浮いた資金も少子化による新卒採用の売り手市場化で初任給が引き上げられ、それでも足りずに勤続年数による賃金カーブのフラット化、つまり定期昇給率の悪化に加えて後期高齢者医療保険制度で健康保険料の値上げ、更に大量採用されたバブル世代対策として企業が採用した役職定年制度は氷河期世代の正規雇用者にも適用されます。そして賃金が上がらないから報酬比例の保険料も少なく、受給時の低年金問題にも直面します。そして昨年の年金財政検証を受けた年金改革案でおかしなことが起きています。
年金なき氷河期世代の支援は形骸だ 老後の理不尽こそ対策を - 日本経済新聞年金制度はいろいろ複雑なので細かい説明は端折りますが、2004年の年金改革でマクロ経済スライドと称する年金給付調整の制度が導入され「100年安心」が謳われましたが、実態は支給減額を認めなかったため低インフレで調整が進まず足踏みし、制度見直しで減額され、更にインフレに転じてやっと調整が進んだものの、基礎年金部分と報酬比例部分で調整の進み方の違いが出て、報酬比例部分は非正規雇用者の加入拡大で改善が進んだ一方、合法違法を問わず未納率が高い基礎年金部分では進まず、その解決策として報酬比例部分から基礎年金部分への会計補助をする案が厚労省で検討されましたが、企業や現役世代の反対で盛り込まれなくなりました。選挙を意識した結果と見られます。
誤解があるのは厚生年金や共済年金なども含めて基礎年金部分には支給額に国の財政資金による補助がある点で、基礎年金の強化は報酬比例部分の支給調整を経ても支給総額を増やすことになり、その恩恵はこれから支給年齢を迎える現役世代にあり、支給調整は既受給世代が負うということです。つまり氷河期世代の低年金問題に一定の歯止めをかけられる訳です。同様のロジックで言えば現在保険料負担のない第3号被保険者制度廃止による保険料徴収も効果がありますし、この場合は保険料自体が増えますから更に効果が大きいのですが、何れも年金改革案から外されてます。そして新NISAに若者が関心を示すのも老後不安からと言われますから、年金制度の安定は安心感を高めて若者の消費拡大に繋がります。これ老後2000万円問題を指摘して批判を浴びて撤回された金融庁レポートから続く問題です。
制度の複雑さが政治を通して歪められているという意味では前エントリー*1に通じる問題ですが、野党も氷河期世代対策を打ち出していますが、大事なのは世代論ではないということです。上記のようにこの世代に矛盾が集積してますが、年金問題に限らず非正規雇用問題、新卒高賃金の傍ら上がらない賃金、正規雇用でも保証されない未来、高額療養費支援制度*2で露呈した医療保険制度の矛盾、介護不安など、何れも全世代に関わる問題なのに、世代論に絡めとられると対立を助長してしまいます。
個人的な体験ですが、両親が同時に寝たきりになって追い詰められました。父母共に入院し、父は長期入院後そのまま死亡し、母は要介護状態で退院し、自宅で介護サービスを受けながら暫く過ごしたのち、脳梗塞で再入院して死亡という経過でした。その間の家族介護が仕事の制約要因にはなりましたが、父が高額年金を受給し、母も父の死後の寡婦年金ででそこそこの額を受給していたので、医療費や介護サービス利用で資金的な持ち出し無しにできて助かりました。年金は単純な現役世代から高齢世代への贈与ではなく現役世代の高齢者扶養の回避になりますし、医療にしろ介護にしろ、制度が整っていたから利用することで負担を軽減できました。社会保障はこうした包摂性こそが重要です。
安倍政権時代に全世代型社会保障と称して少子化対策として子育て世帯への支援をしたり、石破政権でも維新の高校無償化案を呑んで予算通したりしてますが、何れも限られた予算を特定の利害関係者に配るだけで寧ろ包摂性を損なっています。減税ドミノとも関連しますが、財源が示されない減税が寧ろ国民を苦しめますが、所得税の累進性強化や法人税強化が言われており、何れにしても法改正を経なければ実現しませんから来年度以降の話です。特に義務的経費である社会保障財源は安定財源である必要があります。一つ可能性がるのが金融所得課税強化です。富裕層ほど金融資産を多く保有し、源泉分離課税で21.5%の税率で恩恵を受けていますが、これを25~30%程度に上げることは検討されてよいですし、実際岸田氏も石破氏も総裁選では主張しながら政権に就いたら引っ込めてますが、新NISAで非課税枠が拡充されているし総合課税を選択することもできるので、中間層への影響も軽減できます*3。
氷河期世代問題は国鉄改革絡みで国鉄末期の採用手控えの影響がJR化後の世代分布のアンバランスから技術継承を支障して事故やトラブルに繋がったり、労働組合運動の連続性を阻害したりという弊害*4を生みましたが、これを他山の石としなかった日本の政府や企業の不作為が氷河期世代をもたらしたとも言えます。年金問題でも国鉄時代の共済年金から民営化後の厚生年金への移行に伴う職域加算の企業年金への移行に伴う国鉄時代の積立不足をJR負担にすることで揉めました*5。これらも含めて行き当たりばったりで問題先送りで窮地にといういつまでも改まらないこの国の病弊は直さなければなりません。
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