民営化

Saturday, October 28, 2023

ドイツの後塵

まず減税くそメガネlで取り上げた無人タクシーの残念なニュースです。

米加州、GM傘下の無人タクシー運行停止 人身事故巡り:日本経済新聞
隣を走っていた別のクルマが撥ねて倒れた歩行者の女性を巻き込んで6m走って停止したという事故で、クルーズの無人タクシーの有責事故ではないんですが、問題は自動運転車が事故を認識して路肩へ寄せた結果、被害者のダメージを高めてしまったことです。しかもそのことを当局に対して隠ぺいしたということで運行停止となったものです。

グーグル関連会社ウェイモに始まる無人タクシーの実験運行ですが、結果的に複数企業が米国内各地で実験運行を始めた結果、事故の報告が増えています。搭載AIが学習途上ってことでしょうけど、主に画像解析に依存していて、変化の激しい道路の交通状況に対応しきれていないということのようですが、それならば尚更情報隠蔽は問題解決から遠ざかる訳で問題です。恐らくショッキングな映像で世論の反発を恐れた結果かもしれませんが、企業姿勢としては問題です。加えて画像以外の事故回避システムの必要性も示唆します。

こうした社会実験を認める米州当局の在り方ですが、合意形成が難しい連邦政府ではなく州政府への企業のロビー活動が盛んな結果がこうした事態を招いている面もあります。インフレは続くよどこまでもで取り上げた全米自動車労連(UAW)のストでも南部の共和党ステートの労働者保護の不備を問題視しており、それにバイデン大統領が連帯を示したことでややこしくなっております。その中でフォードが大幅賃上げを含むUAWの要求を呑んで和解した一方、GMやストランティスではストが続いており、労働者の権利拡大という面で言えば日本の国鉄で起きたスト権ストに近い性格で、GMは無人タクシー事故も重なって苦境にあります。という訳でウクライナやガザの紛争を抱え内憂外患に苦しむアメリカです。

とはいえ現状経済的には先進国で独り勝ち状態にあるのですが、こうしたことが重なり、且つコロナ給付金で生じた過剰貯蓄が枯渇しつつある米経済の先行きは明るくはありません。それでも相対評価でドル独歩高が続く為替市場ですが、円が主要通貨に対してほぼ値下がりしている結果、こんなことが起こる訳です。

日本のGDP、ドイツに抜かれ世界4位に IMF予測:日本経済新聞
日本が中国に抜かれて3位転落したのが2010年で、いずれインドにも抜かれるとは言われておりました。どちらも新興国で経済成長が目覚ましく、中国は既に日本の3倍近くと経済成長を続けております。それに引き替え先進国で低成長のドイツは、エネルギーのロシア依存が仇となって高インフレに苦しみ、中国依存が対中デリスキングで見直しを余儀なくされていて苦しんでいる訳ですが、あくまでもドル建て名目値での逆転であり、日独のインフレ率の差と為替変動の結果であり問題なしと解説する人もいますが、大間違いです。

ドイツが日本以上にインフレ率が高く苦しんでいるのはその通りですが、ECBの利上げでユーロの対ドルでの下落率が日本円と差がある訳ですが、日銀が利上げに動けないのは金利高による日本国債の暴落リスクがある為で、財政の健全性が仇となっていて動くに動けない結果です。異次元緩和を10年も続けた結果こうなった訳で、過去の政策が仇となっていて予想外の逆転をもたらしたという意味で深刻です。加えて人口8,300万人と日本の2/3ですから1人当たりGDPは1.5倍で、それだけ日本国民の購買力が低下した訳です。つまり新興国の成長の結果の逆転ではなく日本の衰退の結果の逆転ということで、深刻に受け止めるべきニュースです。

それなのに日本の国会では無意味な減税の議論ばかりしていて、更に財政を悪化させようとしているのですから救われません。加えて政府の打ち出す政策が悉く的外れという救いようのない状況です。所得税減税では納税者の6割が最低税率の5#課税で定額減税の恩恵が得られません。この中には年金受給者の嘱託雇用や主婦パートなどを含みますが貧困ひとり親世帯が多数含まれており、少子化対策と矛盾します。また賃上げを狙った法人税減税も問題があります。

賃上げ減税、中小6割が対象外 赤字体質の脱却重要に チャートは語る:日本経済新聞
法人税は欠損の最大10年の損失繰越という税法の仕組みで、資金繰りを図りながら敢えて欠損を出して繰越繰越で課税を逃れることは可能です。そうした企業は賃上げしても減税の恩恵は受けられませんから意味のない減税です。寧ろ基準を見直して課税強化した方が賃上げを促します。あと年金に関する2つのニュースです。企業の年金負担22年度6兆円減 金利上昇で業績押し上げ【イブニングスクープ】:日本経済新聞JAL再建会社更生法適用が決まるで解説した確定給付型企業年金(DB)が高度経済成長期には企業にとっても従業員にとってもメリットがあり、公的年金の貧弱さをカバーしてきた訳ですが、バブル崩壊後の低成長期にも見直されずに企業による拠出金でDOBに給付してきた訳で、所謂レガシーコストと呼ばれ、これが90年代の事業縮小や新卒採用手控えで所謂ロスジェネ世代を生み出しました。その後日本版401kと呼ばれる企業型確定拠出年金(DC)の制度かで乗り換える企業が出た一方、OBの顔色を窺って企業業績に躓いたJALのような企業も出た訳です。利回りを見直すなどして制度を維持した企業も昨今の金利上昇で利回りが改善してメデタシなんですが、その結果生じる剰余金を賃上げの原資にするならともかく、内部留保される可能性もあります。こうした資金を賃上げに回せるように背中を押すことが出来れば持続可能な賃上げも不可能ではないでしょうけど、同時に保有資産の減価による損失との見合いとなりますが、例えば内部留保課税のような形で賃上げに回るような制度的工夫はあり得ます。
国民年金、給付水準の低下抑制 保険料納付5年延長案も:日本経済新聞
年金制度の持続可能性を高める検討は必要ですし、労働市場の実態や長寿命化の実態から見ても納付期間延長や給付年齢繰上げはいずれ避けられないでしょうけど、第3号被保険者制度を廃止して専業主婦から保険料を納付することが抜けてます。保険料負担が無いから主婦パートの年収の壁問題が生じる訳で、厚生年金に加入すれば保険料負担が無くなる上に老齢年金の増額や妊婦給付など保証範囲も広がる訳で、受け入れやすくなります。但し雇用主の負担は変わらず雇用側の都合でシフト減らしの可能性は排除できませんが、そうした雇用主は従業員を確保できずに淘汰されるとすれば、被雇用者側にとってはメリットです。

年金と国鉄の意外な関係で解説したように元々国家総動員体制の一環として会社員が転職で不利になる上、保険料を徴収して戦費に充てる狙いもあってスタートした厚生年金保険制度ですが、時代が変わればアップデートが必要な訳で、そうした議論が進まない中で年金財源が枯渇することで、結局被害を受けるのは今の現役世代と姿なき将来世代なんです。世代間の対立を煽って議論をやりにくくする昨今の風潮は問題があります。

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Sunday, October 01, 2023

インフレは続くよどこまでも

有り難くないタイトルですが、中国バブル崩壊の次はアメリカの話題です。米国債金利の上昇で円安が進む昨今、米連邦政府閉鎖の危機が今度ばかりは避けられない情勢でしたが、ギリギリのタイミングで回避されることになりました。

米下院、超党派のつなぎ予算案可決 政府閉鎖回避へ前進:日本経済新聞
10/1から始まる新年度の予算執行のためのつなぎ予算が下院で否決されたことに端を発する騒動ですが、下院多数派の共和党の強硬姿勢で民主党案が否決された後、マッカーシー下院議長の修正案が提案されたものの、民主党のみならず共和党からも反対が出て否決となり、絶望的な状況ということで、バイデン台帳量も政府閉鎖準備を指示せざるを得ない状況となりました。結果的にはマッカーシー議長案の修正で下院を通過したものです。

ここまで揉めたのは米国内の分断の深刻さを示すものです。元々新年度予算は民主、共和両党で合意済みですが、下院多数派の共和党が執行段階でブレーキをかけた格好です。共和党が嫌うリベラル的政策の予算を削り、不法移民対策としてのメキシコ国境のフェンス建設に予算を回せというのがザックリした主張ですが、既に合意済みの予算を削れというのは無理筋です。但し今回のつなぎ予算も45日間ですから、同じような騒動は繰り返されると見ておくべきでしょう。

これにはいろいろな背景があるんですが、共和党地盤の南部諸州にとって不法移民問題が重荷になっていることは確かな一方、東部エスタブリッシュメントや西海岸のハイテク地帯に強い民主党の移民に甘い姿勢は許せないという感情が前に出る訳です。その一方でヒスパニック系移民の増加で人口が増えており、移民の出生率の高さから人口の低年齢化も進んでいて、それが南部の生産年齢人口の厚みとなって工業化が進んだ面もあります。加えて共和党ステートの労働規制のユルユルさもあり、組合運動を認めないテスラの工場などが立地しております。それが別の問題を引き起こしていることも見ておきます。

米自動車スト拡大 新たに7000人、GMとフォード工場で:日本経済新聞
全米自動車労連(UAW)のストでGM、フォード、ストランティス(クライスラー)のビッグ3の工場がスト突入で生産が滞っております。UAWの主張はエンジン車からEVへのシフトは避けられず、自動車関連の労働者の数が減ることを睨んで、EV用バッテリーなどの製造工場の労働者もUAWに加盟させて保護を受けられるようにすべきだという主張です。産業構造の転換を理由に労働者が不利益を被ることは避けるべきということです。

ややこしいのはバイデン大統領が集会に参加して連帯を表明したことで、組合側が勢いづいていることで、結果的に火に油を注いだ形になってしまったことです。2016年大統領選で組合票がトランプ氏に流れたこともあり、組合票の囲い込みに動いた形です。不法移民が雇用を圧迫して産業が停滞したというトランプ流ナラティブの否定と共に、暗に南部諸州の労働規制の緩さを批判している訳です。同時に政権のEV政策も関わります。

トランプ時代のバイアメリカン法に触らずにインフレ抑制法(IRA法)を成立させた結果、米国内で販売されるEVは基本北米地域で生産されることを条件とされてしまいます。その結果EVシフトを進める欧州メーカーからWTO違反ではないかと言われごたついています。狙いとしてはバッテリー製造で世界をリードする中国への牽制なんですが、欧州やアジアのメーカーも引っかかる訳で、故に韓国現代なども米国内にEV製造拠点を設置を表明し、SKハイニックスなどバッテリーメーカーも追随しております。

当然欧州メーカーにも同様の動きがある訳ですが、製造拠点が置かれるのは労働規制の緩い南部諸州だったりメキシコだったりすると、結果的にビッグ3中心のUAWにとっては放置できない問題でもあり、出来れば連邦法で規制して欲しいというのが本音です。IRA法の狙いは気候変動対策と共に経済安全保障という面もあり、気候変動を重視するなら地産地消で可能な限り国内で生産して販売するのが正しいし、化石燃料依存の低減は経済安全保障の側面も持ちますが、同時に中国リスクも意識されており、中国産バッテリーの排除の狙いもあります。WTO提訴は現状上級委員の指名をアメリカが拒否していて機能していないですが、トランプ時代のそれを引き継いでいるのは、やはり提訴されたくないのでしょう。

という訳で政府閉鎖とストというリスクを抱えたアメリカで国債金利が上昇するのは当然となる訳です。分断による政治リスクが解消される見通しは立たず、また労組の強化は賃金を押し上げることにもなりますから、今後もインフレは収まらずFRBの追加利上げも現実味を増す訳です。となると低金利政策から抜け出せずにいる日本円の減価は避けられず、円安は進みますから、輸入物価上昇に伴う消費者物価上昇は今後も続くってことです。日銀の政策見直しが無ければ更にこの傾向は続きます。

経済安保は日本も取り組んでいる訳ですが、2020年の外為法改正の結果、妙なことが起きています。NHKスペシャルで取り上げられた大川原化工機の起訴取消事件の顛末のお粗末さが示す寒い現実です。

起訴取り消し事件「捏造」 訴訟出廷の警部補が発言:日本経済新聞
捜査官が捏造を認めたことも驚きですが、大川原化工機が輸出したのは液体噴霧乾燥機で、液体を噴霧して乾燥させることで粉末化する機械で、インスタントコーヒーや粉ミルクの製造装置になる訳ですが、警視庁公安部は生物兵器転用可能として無許可輸出を違法として刑事訴追した訳ですが、根拠となる証拠を捏造して会社幹部3名を長期間収監して1人はガンが進行して死亡するというとんでもない事件です。

警視庁公安部が動いた理由は推測ですが、法改正で実刑が定義されたことを受けて、捜査の指針となる判例を確定させたかったのでしょう。その為には抵抗力のある大企業よりも中小企業を追い込んで立件すれば手っ取り早いってことですね。狙い撃ちされた大川原化工機にとってはただただ迷惑な話ですが、特に経済安全保障絡みの政治性の強い法律故に、判例を確立させて捜査に睨みを利かせる所謂一罰百戒を狙ったと考えられます。それが今回のような人質司法の冤罪事件を生む訳です。現れ方の違いはありますが、政治が絡むとろくなことにならないのは日本も同様です。

JR北海道の札幌圏赤字急減、「黄線区」は拡大 4〜6月:日本経済新聞
コロナ禍前の水準に戻ってきたというニュースですが、記事中延慶損益を見ると、北海道新幹線並行在来線区間の函館―長万部間の赤字額が長万部―小樽間の赤字額の3倍以上あり、営業キロの違いがありますが、貨物列車運行の重荷を感じさせます。ま、それ言えば絶対額では北海道新幹線が絶対額では断トツで、青函トンネル区間という特殊区間ではありますが、札幌延伸後の収支改善も厳しさを匂わせます。

札幌都市圏以外は収支均衡は絶望的と言えます。その中で並行在来線協議を進める訳ですから厳しい現実ですが、加えて余市―小樽間で並行路線を持つ北海道中央バスがドライバー不足からバス転換を渋っていますし、それどころか事前に何の相談もなくバス転換を打ち出した北海道に対する不信感もあるようです。

鈴木知事が夕張市長だった時代に夕張支線の廃止に道筋をつけたことが成功体験となっているのでしょうけど、地元事業者の夕張鉄道が引受に動いたことでまとまったものの、ドライバー不足からバス便の維持は困難を極めており、鉄道時代を受け継ぐ伝統の長距離路線の新札幌夕張線の運行停止など満身創痍です。バス転換が選択肢にならない時代に直面しているってことです。

アメリカでペンセントラル鉄道が破綻したときの連邦政府の素早い対応と比べると、本当に危機感がないですね。ペンセントラル鉄道の場合は、結局連邦政府が線路保有機構としてコンレールを立ち上げて上下分離で運行継続を図りました。東方回廊とシカゴをエリアに持つペンセントラル鉄道が運行停止されると大量の貨物の滞留が起きるということでの緊急避難だったんですが、結果的に経営の苦しい他の民間鉄道も合流して鉄道ネットワーク維持に寄与しました。

コンレールはその後民間入札でサザンパシフィック鉄道に売却されて所謂北米5大ネットワークの一角を占めますが、それぐらい鉄道貨物の重要性が高いってことでっすね。結果的に旅客部門は都市圏毎の交通営団が引き受け、長距離列車はアムトラックが引き受ける形で現状となります。線路保有が貨物会社で旅客会社が線路を借りるという日本と逆の形になりました。この形態が基本ですから、なるほど日本の新幹線のような高速鉄道の整備のハードルは高い訳で、鉄道好きと言われるバイデン大統領がIインフラ整備法で約束したものの、財政支出を巡る共和党との綱引きで進んでおりません。政治はリスクの時代と自覚するしかないのかな。

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Sunday, September 24, 2023

中国バブル崩壊を喜ぶ大人たち

戦争を知らない大人たちで敢えて踏み込まなかった話題です。中国不動産大手の中国恒大集団の米破産法15条申請や碧桂園のデフォルト危機などの報道でいよいよ中国不動産バブル崩壊が言われますが、何れも外貨債務の整理であって、資本流出を防ぐ為です。国内の人民元建て債務にはメスが入れられておりません。

故にバブルの後始末が進まず日本のように長期停滞に陥るんじゃないかと言われており、実際デフレ的な物価下落が見られたり、若年層の失業率が高止まりしたりしてますし、同じタイミングで生産年齢人口の減少も起きており、まるで90年代の日本を早送りしているように見えます。実際中国経済は成長鈍化が見られます。但し日本と違って不動産デベロッパーはマンション建設前に全室完売して建設費に充てるということをしてきたため、契約して代金決済を済ませながら引き渡しを受けられない人が多く、それに対する政府の限定的な救済はあり得ます。

それでも4%台の成長率を実現している訳で、中国がゼロコロナ政策を続けて経済活動を抑制してきたことと、にも拘らず財政的な補償措置が取られていないことを考えると、驚異的な成長率です。人口規模の大きさが生むダイナミズムでしょう。不動産バブルが弾けてなおこの水準ということは日本とはかなり異なります。絶好調の米経済を追いかけるスピードは落ちるでしょうけど、ほぼ横ばいの日本より高い成長率は維持されて日本は置いて行かれるということですね。

ただ課題は様々あります。そもそもの不動債バブル拡大はリーマンショックで世界各国が軒並み停滞した中で、当時の胡錦涛政権による5兆元(当時レートで57兆円)の財政出動を発表し実行したことによります。これ80年代の米経済停滞の救済策として行われたプラザ合意によるドル買い協調介入と、その後の貿易収支改善策としての内需拡大要請で、日銀の低金利政策と政府の財政出動が行われました。プラザ合意による円高で購買力が増した日本は好況に沸きますが、それでいて円高による輸入物価の低下でインフレにはならず、故に低金利政策は長期化します。その結果カネ余りで不動産投資が活発化し、本業がさえない企業の含み資産拡大で株が買われ、所謂バブル経済となります。

中国でも財政出動で主にインフラ投資が活発化し、高速鉄道や高速道路が張り巡らされ、その結果鉄鋼やセメントの政策が活発になり、それを受けた地方政府の開発熱が進みます。社会主義国の中国は土地は交友が前提ですが、地方政府の開発資金として土地使用権が売りに出され、民間デベロッパーが買って開発し完成前に完売という形で資金循環が起こりましたが、多くの副作用もありました。

一つは腐敗の蔓延で、地方政府にとっては土地使用料の売り出しは無から財政資金を生み出す錬金術として多用され、農地から農民を追い出して売り出すようなことも起こります。そして地方官吏と民間デベロッパーの癒着が起きるのはお約束で、胡錦涛政権末期にはかなりひどい状況だったようです。習近平政権の反腐敗運動はその尻拭いだったってことですね。

また鉄鋼やセメントの過剰生産問題もあり、その対策として海外インフラ事業への進出を狙ったのが一帯一路であり、資金面を支えるAIIBです。この辺は中国の軍事的拡張と結び付ける議論もありますが、実態は国内の過剰生産能力対策の意味合いが強く、故に往々にして相手国の事情を無視した強引なこともあったのは確かです。しかしスリランカで言われた債務のワナは寧ろ先進国が投資を渋ったから中国が出てきたもので、AIIBの融資判断がガバガバだったことは間違いいありませんが、それ以上でも以下でもありません。

あと社会保障の不備の問題もあります。生産年齢人口の減少で社会保障政策の維持が難しいのは先進国も共通ですが、中国はその人口規模の大きさもあって社会保障の充実が難しいし、そもそも中国の国民は政府を信用してません。故にある意味自助の精神が根付いており、住宅の取得はある意味その対策でもある訳です。政治や経済がどうなろうが住むところが確保されていることの安心感もあります。加えて不動産価格の上昇で転売して差益を得た人も出てきて投資目的の住宅取得も増えた訳です。習近平政権で共同富裕を謳い不動産投資を規制したことは理由がある訳です。

その意味でアメリカの対中経済制裁や制裁関税を撤廃して欲しいのは本音ですが、トランプからバイデンに政権が動いても制裁は解除されず、寧ろ強化されてますが、実は抜け道があります。ラオスやカンボジアなど東南アジア諸国で謎の企業が立ち上がっており、中国から輸入した商品をパッケージを変えてアメリカに輸出することで偽装しているもので、アメリカも中国との全面禁輸は無理なのでスルーされているということで、寧ろ米中の経済的な繋がりは強くなっております。

特に資本財と呼ばれる機械製品は中国が近年輸出を増やしてきた分野で、アメリカも中国依存から抜けられない訳です。これは日本も同様で、というか日本の貿易統計で機械製品がほとんどの国に対して黒字なのに対中国だけ赤字です。つまり中国依存から抜けられない訳で、デカップリングは掛け声だけです。ロシアの石油輸入で下支えしてるし、今や中国無くして世界は成り立たない現実があります。但し武器供与はせず、故にロシアは北朝鮮を頼らざるを得ないし、同盟国のアルメニアがアゼルバイジャンの侵攻に遭っても助けられない現実があります。カザフスタンの内乱で中国を出し抜いたロシアの姿はありません。

てことで膠着しているウクライナ情勢ですが、アメリカが武器支援を小出しにしているのは、ロシアが核保有国という事情もさることながら、オバマ政権で方向づけられた対中国の米軍のアジアシフトが進まないこともあり、生産能力の制約もあって気前よく最新兵器を出せない事情もあります。これは中国にとっては心地よい状況ですから、国内経済の不振を理由に台湾進攻するというナラティブは現実的にあり得ません。それを理解できない大人たちの放言は聞き流しましょう。

胡錦涛政権で建設が進んだ高速鉄道も収支は赤字でお荷物になっておりますが、国有企業だから問題視されません。そもそも高速鉄道は江沢民時代の朱鎔基首相の肝いりで、日本の新幹線を参考に旅客輸送を高速鉄道に集約して空いた在来線を貨物輸送インフラにするという、田中角栄の日本列島改造論を参考にしたもので、在来線も4ft8in1/2(1,435㎜)の国際標準軌で新在直通も可能だったことから、短期間で高速鉄道網を整備することが計画されて胡錦涛時代に実現したものです。徹軌道式高速鉄道よりリニアを推進すべしという意見もあり独トランスラピートのライセンスで上海空港リニアを建設したものの後が続かず朱鎔基首相の実務家としての見識を示します。

この点は日本のアイデアで中国が先へ進んだ訳ですが、日本は国鉄分割民営化で列島改造は葬り去られました。整備新幹線スキームで事業は継続されましたが、仮に国鉄分割民営化されずに国鉄が新幹線整備を進めていたとすると、結局赤字を拡大する結果になったであろうことは中国の高速鉄道網が教えてくれます。そしてこのニュース。

JRが外国人パスを大幅値上げ 訪日客価格、手本は途上国 編集委員 石鍋仁美:日本経済新聞
民営化されたJRではなりふり構わずの増収策。手本は途上国ということで、訪日外国人の増加は円安によるディスカウントの影響ですからその分日本の停滞の象徴でもあります。

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Sunday, September 17, 2023

国際問題になった東京五輪の落とし物

東京五輪の落とし物の続きですが、ユネスコの諮問機関のNGOイコモスから神宮外苑の再開発撤回が要求されました。

神宮外苑再開発、イコモスが撤回要求 事業者や東京都に:日本経済新聞
富士山をはじめ世界遺産登録でお世話になったイコモスからの撤回要求ですから、スルーはできないでしょう。

おさらいですが、神宮外苑は明治天皇の崩御を悼む日本国民の寄進によって実現したもので、国民にとっては倒幕で維新、開化を実現させた偉い人程度の認識でしょうけど、広く国民から敬われていた存在でした。そんな国民の声を踏まえて当時の政府は開発制限で地権者の権利を制限する風致地区を制度化してその指定第1号としました。その結果緑地の保全や建設物の高さ制限が課されており、神宮球場や秩父宮ラグビー場、国立競技場などのスポーツ施設もその規制の範囲内で作られたものでした。

Undoしたい大草原wwwの小さな森のザハ案撤回騒動を覚えている人は多いと思いますが、あまり報じられておりませんが、当初旧国立競技場を改修して使うとしていた五輪招致がいつの間にか新国立競技場建設となり、旧国立競技場はあれよあれよと解体されて、工事の難易度が高いザハ案が撤回されたものの、同じ規模の隈研吾案に落ち着いたというアレですね。

実は事前に神宮外苑エリアの高さ制限緩和の都市計画変更が行われていて、謂わば新国立競技場はその露払いで、故にあの規模の新競技場が必要だったってことです。お陰でキャパが大きすぎてレンタル料も高く稼働率スカスカのお荷物になった訳ですが、高さ制限緩和で高層ビル建設が可能になれば。商業施設を誘致して高額のテナント料が稼げますから、少数の民間地権者を利する訳です。

実際三井不動産が高層ビル建設を表明してますし、一方で高層化を快く思わない明治神宮に対しては高さ制限緩和で生み出された容積率の過剰分を隣接する伊藤忠商事に譲渡して譲渡益を得ることで黙らせるという具合に実に悪知恵の詰まった再開発計画です。立案したのは萩生田光一議員で五輪招致委員長の森喜朗が後押ししたものです。ちなみに五輪汚職で招致委員などの刑事訴追がされてますが、萩生田光一も森喜朗もお咎めなしで単なるガス抜きですね。

こういう事情があるので、コロナ禍で1年延期してしかも無観客でも、五輪をやらないわけにはいかなかったし、その裏でこうした悪事が進行していたけど、スポーツを餌にメディアも沈黙していたしで、結局国民の知らないところで進んだ再開発計画というところもイコモスも問題視しています。五輪をダシにした再開発が問われます。

イコモスに関しては世界胃酸でとろける文化散財万歳で取り上げた軍艦島の世界遺産登録で英文の説明に韓国がクレームをつけたことで揉めたこともありましたが、一応日本の主張に沿った決着を見ております。その意味でイコモスからのクレームへの対応は難しいところがあります。

国際ルールを盾に政府の姿勢を正当化する姿勢はALPS処理水海洋放出でIAEAを利用したりしてますが、IOCも利用されただけってことで、国際ルールの都合の良いチェリーピッキングということが言えます。国も都も対応を誤れば国際世論を敵に回すことになりかねません。どうなるでしょうか。

一方五輪汚職で電通の指名停止もあって工程管理がグダグダになっている大阪万博ですが、怪運国債市場の蓋で述べたように工事が進まずいよいよ開催が危ぶまれてます。しかも夢洲の地盤沈下で土壌改良が追い付かないってはて、これ辺野古と同じような状況で土壌改良しないとパビリオン建設も困難ですし、建設資材の搬入路は橋とトンネルが1ずつですし電気もガスも水道も無いからトイレも浄化槽が必要と何だかウンコ臭い現状です。地下鉄中央線の公示も滞っております。

こうして見ると維新のザル頭ぶりが目につきます。所詮底の浅い小悪党で関西財界も腰が引けてます。政府が乗り出してゼネコンへの協力要請をしたりしてますが、図面すら開示されない工事を請負うことはできません。結局政府と大阪府/大阪市の責任のなすり合いになりそうですね。なにわ無くとも江戸村先五輪ですよで示唆したように、どこか間抜けな維新です。まあ阪神のアレで浮かれとりゃええわい。フランチャイズを失うヤクルトの優勝は遠のくでしょうから、留飲を下げられます。

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Sunday, September 10, 2023

どうする縦割り

ジャニーズ問題ですがBSJストラクチャーで取り上げたビックモーター問題と似ています。非公開のオーナー企業でオーナー社長が役職を退いてイエスマンの雇われ社長を立てたところはそのまんまですね。ソーセージ問題の応酬などの話題性は流石芸能事務所、エンタメを忘れていない^_^:。同時に性加害問題の根の深さも露になりました。

芸能界は人々に娯楽を与えるという意味で公娼制度の延長線上にあり、その意味で性的虐待や性的搾取が起こりやすいのは洋の東西を問いません。某NHK元会長が「慰安婦も当時合法だった公娼だ」と言い、欧州で現存する公娼制度を引き合いに出したことがありました。但し彼が見落としていたのは、現存する欧州の公娼制度は感染症防止のための健康診断の義務付けや、反社会勢力が入り込みやすい斡旋人などの性的搾取の防止に力点が置かれていて娼婦の人権擁護法としてアップデートされていることをご存じなかったようです。つまり慰安婦もジャニーズも人権問題という認識が希薄なメディアの報じ方や政府の対応なども問題です。

早速JALなど一部企業でジャニーズタレント起用の見直しの動きが出ています。海外事業にコミットする企業にとっては途上国の劣悪な労働環境や児童労働などで投資家から圧力を受けており、人権問題は経営課題と認識されている訳ですが、問題はドメスティックなメディア企業です。元々噂はあったし、90年代の所属タレントの実名告発を一部メディアは報じたものの特に放送メディアは沈黙しました。

報道部門は後追い取材はしたのでしょうけど採用されず没となれば記者もモチベーションを失います。大手芸能事務所の機嫌を損ねれば番組やイベントのタレントのブッキングや情報提供で割を食うということですね。放送事業者が利害を持つ利益相反がある訳で、ビッグモーター問題で明らかになった自動車販売店が自賠責保険の斡旋で損保会社に優位な立場だったこととも似ています。報道機関としてよりも視聴率競争で優位に立ちたい企業論理が前に出ました。そして日本的な横並び主義も災いしました。また報道機関としての編集権の独立も日本には存在しないことも。そういやNHK大河ドラマの主役誰だっけ?どうするNHK。

台風直撃のお盆が示した課題で懲りたJR東海は台風13号の進路次第では東海道新幹線の運休ありと示唆しました。幸い進路は東へ逸れて事なきを得ましたが多客期のダイヤ混乱は懲りたようで国交省への報告書でも取り上げました。

JR東海、国交省に検証結果報告 台風ダイヤ混乱で:日本経済新聞
16日の豪雨で山陽新幹線との直通運転を止めた結果、新大阪駅に多数の編成が滞留し、車両基地に収容できなかった結果、17日始発の出発準備が遅れて混乱となったもので、再発防止策として運行や混乱の状況全体を把握する担当者を置いたり車両基地の在線状況に応じて京都駅や米原駅に退避させるなどを示しています。

よく考えると国鉄時代は一体だった東海道山陽新幹線が分割民営化で新大阪で分割された結果、新大阪で滞留した編成を山陽側に送り込むことが出来ずに起きた混乱とも言えます。分割民営化の検討段階では新幹線の一体性を重視した本州2社+三島会社+貨物の6社体制案もありましたが、西日本会社の規模が過大になり地域分割の意義が薄れるということで現行案に落ち着いた経緯があります。

歴史にifは禁物ですが、同案が実現していればかなり異なった展開となり、東海道新幹線の一本足打法というJR東海の特異性もなく、今回のような混乱もおきなかったでしょうし、実現が見通せない北陸新幹線の関西延伸もすんなり米原ルートで実現に動いていたでしょうし、敢えてリニアを作ることもなかったでしょう。また東北新幹線東京延伸時にJR東日本が要請した東海道新幹線との直通運転も実現していた可能性もあります。地域分割がもたらした縦割りの弊害が如実です。

宇都宮LRT、市街地へ20分の利便性を生かせぬジレンマ 30年越しの悲願 宇都宮LRT④:日本経済新聞
鬼怒川両岸の広大な土地は農地を中心とした市街化調整区域で都市計画変更しないと開発できないジレンマがあります。元々駅東側から芳賀町に至る道路の渋滞対策として計画されたLRTで都市計画とは別建てだったこともあり、また地権者の同意も必要ということで、現時点で具体的な開発計画はありません。また水害が頻発する昨今、開発してよいものかどうかの判断も難しいところです。30年に亘る計画故にコンパクトシティのコンセプトより前だったこともあります。故に開発はベルモールのある宇都宮大学陽東キャンパスまでの区間に集中しており、マンションラッシュとなっております、ある意味結果オーライのコンパクトシティと言えなくもないですが、他にゆいの杜中央最寄りの新興住宅地が新幹線とLRTの組み合わせで移住者に人気ということです。

あと処理水海洋放出で見えた「新しい戦前」で取り上げた軌道法縛り問題ですが、宇都宮ライトレールでは上上下分離を実現するために全区間宇都宮市道、芳賀町道として整備されており、見かけ上新設軌道の鬼怒川橋梁前後区間や車両基地も道路予算で整備された併用軌道という法的位置づけで、開業後の事業収支を支えています。これ国交省予算の柔軟化で可能になったもので、例えばバスタ新宿がR20甲州街道の環境整備事業として道路予算が使われたり、肥薩線復旧事業への道路予算や河川予算支出が提案されていることともつながり、部分的に縦割りが解消されてはいますが、別問題もあります。

つまり鬼怒川橋梁前後を含む全区間が法令上併用軌道区間となり40km/h規制を受けることになります。一方いいとこ取りで道慮予算を多用した結果B/C比を悪化させた訳ですし、公金の支出として説明責任を果たす必要も大きいのですが、反対派を説得できていない以上果たしたと言えないところは残念です。鉄ちゃんの間では昭和レトロの反対派というレッテル貼りが横行しておりますが、行政側の対応に課題があることは指摘しておきます。

おそらく特認を受けて併用軌道区間50km/h、鬼怒川橋梁前後区間70km/hのスピードアップ実現時を前提にB/C比を計算したのでしょうけど、用地買収や土地改良で事業費の上振れがあったとはいえ、かなりメンドクサイ手続きを経てやっと実現した宇都宮ライトレールがLRT新設の先行事例となることは現状では期待薄でしょう。根拠法規の軌道法をアップデートして鉄道事業法の参入規制を緩和した軽快鉄道事業法のような形にすることで、もろもろのメンドクサイ手続きを簡素化することは考えられます。そうすることでLRT新設に留まらずローカル線の地元引受などにも活用できる汎用性が得られます。例えばローカル線の末端区間で40km/h規制を受け入れる代わりに無閉そく目視運転容認とか第四種踏切容認とか道路予算による上下分離に応用できます。

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Sunday, July 30, 2023

本気の気候変動対策

豪雨の梅雨が明けて猛暑の夏となりましたが、豪雨の影響は多岐に亘ります。

大雨、排水能力超え 秋田大雨1週間「どこの都市でも」:日本経済新聞
秋田市の水害は典型的な内水叛乱です。かがやきを失った北陸新幹線 で取り上げた川崎市のタワーマンション被害のように、豪雨で雨水が下水道の処理能力を超えて流入した場合、逆流して住宅等に被害をもたらすもので、内水氾濫と呼びます。タワマンの場合電気設備を地下に置くケースが多く、水没して停電という被害が起きた訳ですが、停電するとエレベーターが使えず揚水ピンプで水道水をくみ上げて落とす給水設備も使えなくなりますから地獄です。戸建てでも床上浸水もありますし、都市部ならどこでも起こり得るものです。河川の越提氾濫と違って見た目で危険がわかりにくいし、自治体のハザードマップに記載されているとは限りません。

とはいえ地下の下水道の能力増強は簡単ではありませんし、当然多額の費用が掛かります。例えば東京都で大規模な地下調整池を設けたりしてますが、東京都の財政力だから可能ということもありますし、それすら想定外の豪雨が続けば氾濫は起こり得ます。つまり完全な備えは難しい訳です。また確率の低い豪雨への備えにどれだけ公費を使うかについての合意形成も困難です。また人口減少下では公費負担を簡単には増やせません。

そもそも都市化で人口が集積するから下水道を整備しなければならなくなる訳ですが、例えば開発に適さない低湿地を公費で購入して調整池にするとかして、過剰開発を抑制する方向で考えて下水道への雨水流入を抑える方が安上がりで現実的になるんじゃないかと思います。上記かがやきエントリーで北陸新幹線の車両基地が低湿地に立地していたこともありますが、作っちゃいけないところに車両基地を作っちゃったということも言えます。財源制約が強い整備新幹線故に安い底地買いで被害を受けたとも言えます。

てことで苦い経験をしたJR東日本ですが、国鉄時代に建設された東海道新幹線の大阪運転所のように近くに天井川があって、当初から水害対策が考慮され、民営化後も車両を盛土上の本線に避難させる訓練を積み重ねてきた訳で、その経験はJR東日本に引き継がれなかった訳です。とはいえJR東海は水害対策が万全かと言えばそんなことはなく、名古屋の天白川の氾濫で当時の葛西敬之社長の運行継続の指示で多数の列車が立往生して車内泊を強いられましたし、今年の6月豪雨では早めに規制をかけたものの混乱しました。

東海道新幹線、大雨混雑防げ ダイヤや情報伝達改善へ:日本経済新聞
東海道新幹線の約半分の区間が盛土で、パイプを埋め込んで水抜きしたり土留めの擁壁で法面崩落を防いだりといった対策はされてますが、雨量が植えれば盛土が緩んで路盤や法面の崩落は起こり得ます。列車の通過に伴う振動がきっかけになることもあり、沿線の雨量計を見ながら徐行や運休などの規制を決める訳ですが、問題は情報伝達の拙さで駅に乗客が滞留し混乱したことです。JR西日本のように予報段階から計画運休するぐらいしないと結局混乱は避けられないんじゃないでしょうか。

山陽以降の全幹法規格の新幹線では高架橋主体で盛土は取付部などに限られますが、それでも豪雨による混乱は完全には避けられない訳ですから、盛土の多い東海道新幹線ではより慎重な対応が求められます。しかしのぞみ増発で輸送能力を高めてしまったが故に運休の判断が難しくなっているということも言えます。JR東海はそれ故に中央リニアを作るんだとしていますが、輸送力は東海道新幹線には及びませんし、第一難工事で開業の見通しが立たない状況です。

一方の北陸新幹線も敦賀で当面足踏みの状況が続きそうです。やはり難工事が予想される小浜京都ルートに拘らず、早期開業が見通せて事業費も少ない米原ルートで実現することで代替ルートは確保できます。但しJR東海の孤立主義が問題を難しくしている面があります。また豪雨にしろ猛暑にしろ気候変動の影響と見るのが妥当ですし、欧米やオーストラリアなどでも熱波や山火事を気候変動に絡めて報道されることが増えてますが、日本では見られません。正直言って人口減少に対応した開発抑制はCO2排出削減にもなりますし、実際電力需要は縮小しており、再エネ転換がやり易い状況になってきています。政府が言うGXの本気度が疑われます。

水害じゃありませんが首都圏ではこんな輸送障害がありました。

山手線全線で運転再開、11万人に影響 信号装置が故障:日本経済新聞
月曜朝の輸送障害で混乱しましたが、原因は信号トラブル。しかも大崎の東京総合車両センターの本線出口部分の機器トラブルで主要車両を本線に出せずに運休という致命的なもんです。思い出されるのは2015年の籠原駅の地落事故で電留線から車両を出せなくなった輸送障害ですが、今回は信号システムが原因です。

首都圏ではATOSと呼ばれる運行管理システムで列車の進路選定や遅延時の指令業務から駅の案内表示に至る一連の自動化がされている訳ですが、車両基地の出口のトラブルで車両を本線上に出せなければどうにもなりません。勿論システムを解除してマニュアル操作することは可能ですが、その場合車両基地に収容された車両を1編成ずつ手作業で進路を選定し、手旗などで合図しながら動かすことになりますから、大量の要員を確保して慎重に行う必要があります。当然処理能力は落ちますから、早めの復旧はしたものの平常の6割程度の運行に留まった訳です。JR東日本はそれなりに努力した結果です。

但し乗客への告知や案内は徹底しており、大きな混乱は見られませんでした。山手線は京浜東北線との並走区間の代替輸送と共に地下鉄網による代替輸送が可能という立地もありますから、元々冗長性が確保されているとも言えますし、加えてコロナ禍によるリモートワークでピーク輸送量が減っていたことも幸いしました。金融危機は核より怖いで取り上げた通勤定期運賃値上げの影響もあるかもしれません。つまり需要抑制のための値上げを実施ている訳で、こうした冗長性の確保はトラブル対応にも有効ということですね。効率重視一辺倒は見直す時代と言えます。

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Saturday, July 15, 2023

ブルシットジョブ型雇用の国

デジ足らん国のデジタルジャック(DX)で取り上げたマイナンバーカードのトラブルはその後も続いております。いちいち取り上げませんが、トラブルの発生率が低いとか、人的ミスでシステムの問題じゃないといった擁護論がありますが、要件定義がいい加減だからカードのICチップへの紐付けを手入力でやってミスを誘発しているのはシステムの問題ですし、個人データを流出させて危険に晒すのはそもそもセキュリティに無頓着だからです。端末に前の人のデータが残るとか保険証の紐付けも自治体職員の手入力だったりして、しかも地方交付税減らすぞと脅して尻叩く一方、問題が発覚しても責任取らないじゃ、ますます不信感を生みます。

てことで内閣支持率ダダ下がりで解散できなかった岸田政権ですが、マイナカード推進派に言わせればカードのトラブルより増税が嫌われたという解釈のようですが、防衛増税にも踏み込めず、当面決算剰余金を充てることで誤魔化そうとしております。コロナ禍に乗じて予備費を積み増してますから、当初予算で赤字国債を発行していて決算で余ったから防衛費に回すでは結局国債の財源化ですし、決算剰余金は基本的に次年度の赤字国債発行の圧縮に使われますから、それを流用することで二重に国債の財源化になっています。誤魔化しばかりです。そして社会保障改革でも誤魔化しです。

年収の壁どうなる パート「働き損」解消、50万円の奇策
年収の壁問題はやや複雑なんですが、かつて103万円の壁が言われましたが、これは実際は壁でも何でもなくて、当時の基礎控除38万円+給与所得控除65万円の合計額を上回ると所得税が課税されるというものですが、所得税はあくまで課税所得つまり控除を超えた部分にかかるだけで、しかも最低税率5%ですから、稼ぎ過ぎて手取りが減る訳ではなく、単に税金が引かれるだけです。但し地方税の住民税は基礎控除100万円で1年遅れの負担となりますので、それで驚くケースもあります。

一方社会保険料はいきなり負担となり、従業員数区分で106万円と130万円の壁が生じますが、100人以下が130万円で101人以上が106万円ですが、人数区分が1,000人から100人に変わったことで、例えばスーパーの主婦パートの多くが106万円の壁に捕まるということで、シフトを減らす動きが出ているということですが、この議論には違和感があります。

問題の根底には専業主婦の特権と言える第3号被保険者問題が潜んでいます。被用者年金の配偶者は自己負担無しに基礎年金加入者として扱われ、老齢基礎年金の受給資格を得ますが、パート労働者の厚生年金加入が制度化されて社保加入が事業主に義務付けられた結果、シフトを減らして人手不足になるということで、該当企業から悲鳴が上がった訳です。

これ単純化すれば主婦パートが第3号被保険者から第2号被保険者に変わり、結果的に老齢年金の受給額が増えたり、あるいは第3号被保険者は対象外の妊娠出産一時金の受給資格を得ますし、加えて雇用保険への加入もある訳ですから、例えば勤め先の廃業などで職を失った場合も失業保険の受取も可能なんで、こうした負担と受給の関係をきちんと説明できていない結果でしかない訳です。まあ事業主側の本音としては事業主負担が増えることへの抵抗感を言い換えている可能性はあります。だから対策も雇用保険を使って事業主に補助する形になっていると見ることができます。

あと当然ながら第3号被保険者制度の見直しが連動していない結果でもあり、付け焼刃で制度を弄って混乱させているというのが実態です。こうしたことを放置する一方、少子化対策と称して児童手当の拡充を進めてますが、こちらも財源問題で右往左往しており、別の社会保険会計からの付け替えなどの姑息な対応が意図されております。これが危険なのは認めてしまえば国会審議無しに財源を拡大できてしまう訳で、財政民主主義に反します。

こうした制度の複雑さは、歴史を辿れば近衛文麿政権が進めた国家総動員体制に行き着きます。年金と国鉄の意外な関係で示したように、元々厚生年金制度は日中戦争激化に伴う戦費調達木庭だったことと、当時のサラリーマンが良い待遇を求めて頻繁に転職していたことから、転職が不利になる制度として設計されたもので、元々が軍人から文民に拡大した国の恩給制度の民間版として制度設計されております。勘のいい方は分かると思いますが、日本の雇用形態の特徴と言われるメンバーシップ型雇用の原型が形作られたものです。つまり元々日本はジョブ型雇用の国だったのですが、戦時体制と共に失われました。

より正確に言えば、雛形は軍隊にあって、文民の官僚に波及し、それを民間に平行移動させたものです。そして戦後国民皆保険の建前から個人事業主を包摂する目的で国民年金が制度化されましたが、厚生年金や恩給から始まった共済年金が世帯単位で制度化されたのに対して個人単位となり、故に個人事業主の配偶者も国民年金に加入せざるを得ない状況の一方、厚生年金と共済年金には寡婦年金が制度に盛り込まれております。第3号被保険者の老齢年金は基礎年金と寡婦年金の多い方が適用され、高給取りの配偶者としての専業主婦は優遇されています。

そもそもジョブ型雇用が可能になるためには企業単位を越えた外部労働市場の存在が欠かせませんが、大正昭和期の日本は第一次大戦特需による経済成長と関東大震災の復興需要で成長軌道に乗りながら、反動の昭和恐慌と続く大恐慌で停滞していた時期でもあり、工業化と都市化が進んだ時代でもあります。その結果の電力過当競争や大都市圏の電鉄ブームというイノベーションが進行し、その事業に特化したスペシャリストの需要が増した結果のジョブ型雇用だったという意味で、自然発生的なものだったのでしょう。

首都圏で言えば京成電気軌道の高速電車化と千葉延伸と成田延伸、東武鉄道の電化と日光進出、武蔵野鉄道の電化、京王電軌の子会社玉南電気鉄道による八王子進出、目黒蒲田電鉄や東京横浜電鉄の事業拡大、湘南電気鉄道の開業、小田原急行鉄道の開業、川越鉄道の電化と村山線による高田馬場進出で商号を西武鉄道に変更などがあり、微妙に時期がズレていて特に小田急の開業スタッフは開業後川越鉄道に移って旧西武鉄道の成立に寄与するという形で繋がっております。こうしたダイナミズムは戦時体制で失われました。

そして時は移り日本でもジョブ型雇用が言われるようになりましたが、スペシャリストの能力評価が伴わないからうまく機能せず、新卒採用でスペシャリストを囲い込み優遇する一方、長年勤務の中高年社員は55歳で役職定年で部課長もヒラ待遇で減給、それでも60歳の定年と65歳の年金受給を繋ぐ再雇用のために年下上司の忖度するなんちゃってジョブ型雇用が横行しております。つまりスペシャリストとして会社に貢献するのではなく会社に居続けるための仕事ってことですね。こういうのをブルシットジョブ、日本語で言えばクソどうでもいい仕事となる訳です。マイナカードの紐付け作業を押し付けられる自治体職員も同じですね。これじゃ経済停滞は続きます。

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Sunday, July 02, 2023

オリガルヒの叛乱

先週の出来事ですが、大きな出来事ですので取り上げます。

ワグネル、武装蜂起を停止 プリゴジン氏はベラルーシへ:日本経済新聞
ワグネルの叛乱でロシアのクーデターや政権転覆もあり得たという分析もありますが、疑問でした。結果的にベラルーシのルカシェンコ大統領の仲裁で衝突を回避した訳ですが、プーチン大統領から見れば飼い犬に噛まれたような災難と同時に格下扱いのベラルーシの仲裁を受け入れたことになります。

ワグネル創業者のブリゴジン氏ですが、多数の企業を支配下におさめる新興財閥(オリガルヒ)でもあります。ホットドッグ屋台から事業を興し、高級レストラン経営に至って政府要人が来店し、ブーチン氏とはその時知り合い、気に入られて便宜を図られて台頭し、プーチン氏が大統領になって我が世の春を謳歌してきた訳ですが、民間軍事会社とされるワグネル以外にもレストランやケータリングの会社からメディア企業まで多数の企業を支配下に置き、ロシア発のフェイクニュース拡散などでロシア政府を助けてきたズブズブの関係にありました。

ワグネルの兵士は受刑者の減刑や赦免でリクルートするなどしており、元々アウトローで且つ練度も高いということで、弱体化したロシア正規軍を助ける存在でもありました。ロシアの言うウクライナへの特別軍事作戦でも活躍し、民間人への攻撃などの残虐行為も厭わないその姿勢はロシア国内では報じられず英雄扱いされていただけに、ロシアの国内世論も動揺しています。加えて特別軍事作戦の大義名分としたロシア系住民に対する虐待もウソとバラしちゃうしで、外から見ると何があったの?という話ですが、ロシアのオリガルヒという文脈で見れば謎は解けます。

オリガルヒとは主にソビエト解体後の新興財閥を指す言葉ですが、改革開放で国有企業が次々に民営化される中で、政権に取り入って経営権を取得して財を成したという意味で政治との癒着が特徴ですが、同時にグローバル化の恩恵で事業を拡大して行く中で、政権との軋轢で批判に回るなどして揺さぶる存在でもあります。実際そうしたオリガルヒの叛乱は繰り返されており、政権と対立して海外に亡命して亡命先で謎の死を遂げた富豪が複数存在します。ロシア当局の関与が疑われております。

今回はウクライナ紛争中でウクライナの反転攻勢中という微妙なタイミングということもあって世界を騒がせましたが、劣勢なロシア側で弾薬などの補給が正規軍が優先されたことへの不満が昂じていた訳ですが、とはいえ恩義のあるブーチン氏に弓退く訳にはいかず、側近のショイグ国防相とゲラシモフ参謀総長の解任を求めた行動という訳で、体制内のゴタゴタです。つまりクーデターに発展する可能性はほぼ皆無だったと言えます。

とはいえプーチン氏がショイグ、ゲラシモフ両氏を更迭することは考えられず、逆に潰されるぞということでベラルーシのルカシェンコ大統領が説得してブリゴジン氏はベラルーシが身柄を保護することで矛を収めさせたという流れです。ロシアにとっては格下とはいえ数少ない同盟国の仲裁を受け入れるしかなく、ベラルーシから見ればロシアに大きな貸しを作った形となります。同盟国が保護する以上過去の叛乱オリガルヒのように暗殺(多分^_^;)を仕掛けるのも憚られます。ブリゴジン氏は丁度ロシアが保護するアメリカ人のスノーデン氏のような存在になります。

そしてワグネルとしてはシリアやアフリカのマリやスーダンなど資源国の政権に食い込んで利権を得ており、そちらの活動が制限されなければ存続可能であり、ベラルーシにとっては金の卵を産む鶏を手に入れたようなものです。ロシア国内に残るワグネル軍ですが、今回の叛乱劇では正規軍士官が便宜を図ったりしており、正規軍に統合しても軍の統制はかなりギクシャクするでしょう。この面を捉えて日本の226事件との類似性も指摘されますが、高橋是清の財政均衡策への反発とはいえ北一輝というイデオローグに共感した青年将校とはかなり異なった動機です。

という訳でウクライナの反転攻勢でロシアの敗戦という希望から、ウクライナはNATO加盟を希望しております。ベラルーシが立場を強めることは欧州にとっては1つ不安定要因となる訳で、ウクライナのNATO加盟で均衡を図るという面は確かにありますし、NATO加盟の前提として現在の戦闘状態は終息させる必要がありますし、ウクライナが希望する領土の奪還もあきらめる必要があります。加えてトルコなどの反対もあるでしょうし、簡単にできることではありません。しかし一方で戦後処理に関する動きがあることも確かです。

ウクライナ鉄道網、欧州と規格共通に G7交通相会合
ロシアの黒海海上封鎖でウクライナ産の小麦その他の資源輸出が滞ったのはウクライナの鉄道がロシアンゲージの1,520㎜で欧州の国際標準軌4ft8in1/2(1,435㎜)の間で台車交換が発生し輸送量が限られることから、ウクライナの鉄道の改軌をG7主導で進めようという会合です。斎藤国交相は日本のローカル線問題に言及して不興を買ったようですが^_^;。

オリガルヒはウクライナにもいて政治との癒着どころかオリガルヒ出身の政治家が大手を振るって汚職に勤しむどうしようもない状況で、バイデン大統領の次男を含む世界各国の投資家が関与したりしていましたが、それ故に親ロと親欧米派に分かれて清掃を繰り返し国民を呆れさせてきたグダグダな状態だった訳で、故にロシアに隙を突かれてクリミアを奪われたりした訳ですが、その結果オリガルヒならざるゼレンスキー氏が中間層の支持で大統領になれたということもあります。その意味でオリガルヒの存在はロシア特有のものとは言い難く、例えばアリババ創業者の馬雲氏のように中国政府の逆鱗に触れて更迭されるというようなことも起きます。新興国にありがちな話ではあります。

しかし先進国も企業や投資家が取引で関与していることもあります。元々企業や投資家の政治関与はアメリカでもロビイストの活動を通じて都合の良い法律を通したり規制緩和を求めたりは普通にある訳で、彼らは新興国でも当然のごとく同じことをします。寧ろオリガルヒは彼らに倣って政治関与しているとも見ることができます。上記のウクライナ鉄道の改軌問題も、市場アクセスを都合よく行うという視点はあります。

逆にこうしたG7会合に参加しながら鬼が笑う2024年で指摘した日本の鉄道貨物に対する政府の対応を自省することがないのは困ったものです。鉄道貨物を失えば日本のウクライナといえる北海道経済は停滞します。それがわからない政治の貧困です。その一方でこんなことが起きます。

電動キックボード普及へ加速 街中・観光390億円市場に:日本経済新聞
クルマの自動運転のレベル4や電動キックボードなどの規制緩和を盛り込んだ改正道交法が前倒しで今月1日から施行されました。交通崩壊 (新潮新書)市川嘉一著で拙速な規制緩和を危惧していますが、同書によれば審議会での検討段階では慎重な意見があったものの、最終報告書には反映されず閣議決定され国会審議もそこそこに可決成立したもので、レンタル事業者の要求で自民党MaaS議連など運輸族議員の圧力が働いたものと見られます。新産業創出の大義名分ですが、自転車同様歩道走行を容認するもので、走行安定性に問題がありながら無免許ヘルメット無しとした点は問題があります。現場の警察官には事故多発を危惧する声があります。

昨今例えば北陸新幹線敦賀以西で議論のまとまらないルート案で小浜京都ルートに調査費を計上させたりしてやりたい放題の与党運輸族ですが、これもJR西日本の意向を受けたもので、それによって並行在来線として切り離される湖西線を抱える滋賀県は蚊帳の外だし、そもそも関西広域連合で合意した米原ルートはガン無視ということで、意思決定手続き上もd内だらけです。こんなことがまかりと売るのは結局有権者の投票行動の結果ですが、オリガルヒ同士の対立に嫌気してゼレンスキー大統領を選んだウクライナ国民を見倣えと言いたいところです。

余談ですが国鉄分割民営化以後JR東海の経営を掌握して政治に関与した故葛西敬之氏をイメージすればオリガルヒは理解しやすいですね。

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Sunday, June 25, 2023

鬼が笑う2024年

今年10月からのインボイス制度を巡り、声優やクリエーターなどフリーランスからの反対の声が出ています。売上1,000万円未満の非課税事業者の所謂益税問題も解消が狙いですが、それ自体は消費税導入時からの制度上の積み残しですから、見直しはいずれ必要なことではあります。加えて食料品等の軽減税率導入で、経理処理が複雑になったこともあり、やっと制度見直しとなった訳ですが、問題は別のところにあります。

1つはフリーランスと呼ばれる零細個人事業主の問題ですが、場合によっては契約書も交わさず報酬も曖昧だったりという弱い立場にあることがあり、インボイス制度導入で課税事業者を選択しなければ取引から排除される可能性があります。勿論インボイス制度自体の狙いが非課税事業者の排除にある訳ですが、問題は課税義務を負うにはあまりに弱い経済主体であることで、課税義務が生じたからといって取引先に報酬の増額を要求しにくいことがあります。

この辺欧州の付加価値税でうまくいっているからということで正当化できない問題でして、何故ならば欧州では強固な産業別、職業別組合があり、中小零細企業に加えて個人事業主も加盟していて、中央労使交渉の結果の順守が求められますから、制度的に保護されている訳で、日本で同じことをやってもフリーランスを保護する仕組みがないから泣き寝入りの現実がある訳です。

加えて電帳法対応を求められ、仮に課税事業者を選択して税額を明示した適格請求書を発行しても、その控えを電子帳簿として7年間保管する義務を負います。また仕入れや経費で受け取ったインボイスもスキャナーで電子化して同様に7年保管を求められますが、当然ながらそれに伴うIT機器の購入やセキュリティ対策も求められ、それらがコスト増要因となる訳です。つまり納税するためにコスト負担が生じる訳です。

大企業ならばクラウドサービスで対応可能な事でも零細企業や個人事業主ではハードルが高い訳です。これもやはり紙で保管が可能な欧州とは事情が異なります。真面目に納税しようとすると壁に突き当たるって冗談みたいな状況です。まるでデジ足らん国のデジタルジャック(DX)を地で行く話です。来年秋の紙の保険証廃止に通じる愚策です。

一方で東京都が打ち出した新築家屋の太陽光発電設置義務では、当然一般住宅からの電力調達が起きる訳ですが、住宅所有者が課税事業者登録するとは思えませんが、そこは再エネ支援金として電気料金に上乗せされますから、電力会社は無傷で契約者に価格転嫁できてしまいます。再エネ活用は大事ですが、こうした運用面で大企業ほど優遇される仕組みは問題です。

来年の2024年はいろいろな意味でこの国の進路に重大な障害が生じるという意味で、覚悟しといた方がよさそうです。まずはインフレですが、3%を超えるインフレが依然として続いてますが、日銀が政策を見直す気配はありません。少なくともYCCの停止は最低限必要です。というのはYCCが続く限り日米金利差による円安が続き、輸入物価を押し上げますから、インフレは止まりません。

例えば海外勢の日本国債購入が増えてますが、円安で買いやすくなっていて、為替予約でリスクヘッジすることで、実質円資金を借りたのと同じことになり、日本国債を担保に外貨をちょつあつして運用すれば、実質的に金利差をさや取り出来てしまう訳で、キャリートレードと同じです。長期金利を低いまま放置すればこうして簡単に稼げる訳で、その結果日本の富が海外に染み出す訳です。

その一方で実需の貿易決済では円安で輸入物価が上昇し、日本企業は価格転嫁を進めてますから、結果的にインフレは止まらない訳です。そしてインフレは見かけ上の売上を増やしますし、便乗値上げも含めて価格転嫁することで企業は儲けられる一方、インフレ率に届かないベースアップで実質賃金は下がる一方です。売り上げや企業利益だけ見ていると一見景気が良いように見えますが、国民の窮乏化は進む訳です。

そして物流2024年問題が控えます。トラックドライバーなど働き方改革で例外とされた物流や建設などの猶予期間が終了する結果、今でも深刻なドライバー不足が助長されると言われています。しかしこれ変なのは時短によるドライバーの収入を補償する話は出てこないんですよね。建設も同じですが、多重下請けで安値受注が横行している結果、長時間働かないと稼げないというドライバーの置かれた状況を悪化させますから、時短によって廃業するドライバーも多数出ると考えられます。つまりトラック依存の物流システムが維持できなくなるということです。トラック業界の様々な問題を解決することなしにはどうにもなりません。そんなときに起きた事故のニュースです。

バスとトラック正面衝突、乗客ら5人死亡 北海道・八雲:日本経済新聞
事故原因の解明はこれからですが、中央線オーバーのトラック側の重過失は間違いないところで、今後の捜査でドライバーの勤務状況などが明らかになると思います。加えてこの区間は長い直線路で速度超過しやすく、風景が単調で睡眠を誘いやすいという事故多発地帯とも報じられており、特段の対策は取られていなかったということです。尚、バスを運行する北都交通(札幌市)は空港リムジンバスや都市間高速バスを長年手掛けており、信頼できる事業者です。

例えばハンプと呼ばれる舗装面のコブを設置するとか、センサーで速度超過を感知して警報を鳴らすとか、敢えてクランクカーブを設けて注意喚起するとか、道路側の対策は必要でしょう。しかしここは北海道新幹線の並行在来線区間として存廃が協議されている区間でもあります。仮に鉄道貨物輸送が存続できなければ道路交通うの負荷が高まりトラック便で吸収することは不可能です。故に鉄道貨物存続が必要不可欠ですが、一方で戦艦トンネル区間の新幹線の速度制限問題から貨物廃止も言われます。

こうしたことから国として何らかの対策を打ち出す必要がありますが、整備新幹線は地元とJRの問題として国は対応に消極的です。確かに地域が整備新幹線を欲しがらなければ起きなかった問題ではありますが、ことここに及んでそんなお題目を唱えて鉄道貨物を衰退させて北海道経済に打撃を与え、またトラックの増加で道路交通をマヒさせる可能性、更にトラックのヤミ残業で過労運転が横行し事故多発など、リスク要因は挙げればきりがありません。加えて北海道庁もこの問題では動きが鈍いということもあります。

ちなみに貨物列車1列車の輸送能力は10tトラック40台相当ですから、鉄道貨物を止めた時のトラック輸送にかかる負荷は大きくなります。逆に言えば鉄道貨物に集約できればトラック輸送の負荷を大きく減らせるということでもあります。ということで、来年に限らない先の話ですが、鬼が笑うぞ!

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Saturday, June 10, 2023

アルプスの盛土ハイキ

盛土の灰色すぎる夜叉で規制強化された盛土ですが、長野県阿智村清内路地区にあるクララ沢である問題が起きています。サイドバーで取り上げた土の声を 「国策民営」リニアの現場から:信濃毎日新聞編集局著で取り上げられてますが、阿智川の支流黒川に流れ込む小さな沢で、中央リニアの中央アルプストンネルの斜坑萩野平非常口から搬出される発生残土処分先としてJR東海が検討中ですが、地権者への提案のない状況でボーリング調査や測量が進みJR東海自身も処分先として検討していることを認めています。

ところがここが山腹崩壊や地滑りの危険のある「崩壊土砂流出危険地区」と県が指定しているところで、住民に不安が広がっています。指定地域とはいえ法的な規制はなく地権者との合意が成立すれば問題ないのですが、住民説明会も開かず既成事実を積み上げるJR東海の姿勢に住民の不安と困惑は広がっています。1961年に36災害と称する大規模土石流災害の経験のある下伊那地区住民にとってはセンシティブな問題です。残土埋めて「クララが立った」ぢゃねーだろ(怒)。

これ大井川の水問題とも共通しますが、住民感情を逆撫でして軋轢を生むのはJR東海の姿勢にあると言えます。但し残土問題の複雑さは、残土は資源として活用されることが法律で定められていて、元々地形の険しい伊那地区では谷を埋めて開発用地を生み出す期待も一方であるし、また残土を運ぶダンプカーが地域の生活道路を走ることを避ける意味で地域内処分を求める意見もあり、一筋縄では解決できない問題でもあります。

だからこそ住民にリスクも含めた丁寧な説明をしながら着地点を見出す姿勢が大事なんですが、残念ながらそうなってはおりません。大井川の水問題や残土問題に限りませんが、JR東海の情報開示姿勢はお世辞にも十分とは言えません。上記書籍のサブタイトルにある「国策民営」の影響なのでしょう。

中央リニア事業は全国新幹線鉄道整備法(全幹法)に基づく国策事業であり、3兆円の財政投融資資金融資しも受けている訳ですが、JR東海単独の民間事業という特殊なスキームです。整備新幹線ならば事業主体は鉄道建設・運輸施設整備推進機構(鉄道・運輸機構)という独立行政法人が担い、その名の通り鉄道建設に特化した公的主体ですから、情報開示義務を負いますが、民間企業であるJR東海は「社外秘」を盾に情報開示に消極的な姿勢を見せています。

また国鉄分割民営化後には、山梨リニア二期工事ぐらいしか建設事業の経験がなく、国鉄時代の建設事業のスキルは継承されていないということもあります。その結果が名古屋リニヤ談合だがやの談合事件や岐阜県工区瀬戸トンネルの崩落死傷事故など、施主であるJR東海の姿勢に関わる問題が噴出しています。残土問題でもJR東海の発表では東京―名古屋間で5.680立米(東京ドーム48個分)の7割以上は活用先や処分先が決まっているとしていますが、その内訳は非公開ですし、長野県内分974立米については3割しか決まっておりません。加えてヒ素やホウ素などの毒物を含有した要対策土は大鹿村の仮置き場に積み上げられて処分保留と難題山積です。

熱海の事故を受けて盛土の規制は強化されて、JR東海も排水パイプを埋め込み土留め擁壁で崩落を防ぐ対策は示しますが、経年劣化がありますから、埋めた後もメンテナンスが必要です。しかしその責任と費用は誰が負担するのかは曖昧です。地震で盛土崩落の東名高速で取り上げましたが、公的インフラとして減価償却の対象外とされた高速道路に対して、事業用資産として減価償却資金で補修とメンテナンスを重ねた東海道新幹線の盛土との違いが明らかになった出来事でした。つまり利益の出る東海道新幹線の盛土は丁寧に保守されメンテナンスされる訳ですが、過疎に悩む地元自治体に押し付けて知らん顔とすれば悪質極まりない話です。

そして地域活性化の期待からリニア誘致の陳情を重ねた長野県の動きの鈍さもあります。基本的に民と民の問題として住民のの不安に寄り添う姿勢を見せておりません。この点は静岡県とは大違いですが、それでもJR東海への不満はあちこちで噴出してます。例えばいいだといちだの一字違いの長野県駅が結局飯田市上郷飯沼・座光寺地区に決まり、集落の住民の移転が進みますが、名産の市田柿の産地に波風を立てています。

一方、飯田線飯田駅併設を希望し、河岸段丘上の市街地再開発の種地として飯田駅の貨物施設跡地を国鉄清算事業団から飯田市が買い取り、現在駅前駐車場となっておりますが、バブル崩壊で地価下落で含み損が出ている一方、郊外商業施設が増えて市街地が空洞化しており、梯子を外された格好になっており、期待した商業関係者からは「話が違う」と恨み節。そもそも全幹法は地域開発に資することを目的としていた筈ですが。

という訳で、リニアは誰を幸福にするの?教えておじいさん^_^:。

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