鉄道貨物

Sunday, October 08, 2023

戦争とインフレ

前エントリーのインフレは続くよどこまでもの続編を書かざるを得ない現実に直面しています。アゼルバイジャンによるナゴルノカラバフ侵攻のほか、コソボ国境へのセルビア軍集結はまるでロシアのウクライナ侵攻前夜を思わせます。加えてパレスチナのハマスによるイスラエル攻撃とイスラエルによる報復と紛争があちこちで噴出しています。多分元を辿ればこのニュースに行き着くのでしょう。

米下院、マッカーシー議長の解任動議を可決 米国史上初:日本経済新聞
10/1からのつなぎ予算をまとめたマッカーシー議長の解任動議が共和党から提出されて可決成立して下院議長が空位となりました。その結果後任を選ばなければなりませんが、多数派の共和党から選出される限り、保守強硬派の発言力が増すことが予想されます。その結果今回のつなぎ予算で削られたウクライナ支援予算が復活する見通しが立たなくなり、支援継続が難しくなっています。その分アメリカの軍事プレゼンスが低下した訳ですから、鬼の居ぬ間の洗濯とばかりに軍事行動を起こす国や地域が出てくる訳です。

但しそれぞれ抱えている事情は異なります。アゼルバイジャンのアルメニア侵攻は元々仲の悪かった両国の紛争がロシアの軍事的弱体化でバランスが崩れた結果ですが、石油成金のアゼルバイジャンはソビエト時代にも国内の山岳ユダヤ人迫害を抑えられないソビエト政府がイスラエル亡命を認めた結果、人口増のイスラエルがパレスチナ暫定政府(ファタハ)と交わした和平合意を反故にして越境入植したことでパレスチナ情勢を悪化させました。それに対して為す術のないファタハのぬるい対応に対する不満の受け皿としてハマスが台頭し、ガザ地区を実効支配するに至ります。つまりファタハの暫定政府の統治が及ばない訳です。

コソボはそもそもセルビアの自治州だったところをアルバニア系住民が多くセルビア人による虐待を口実にNATOが介入して独立させた経緯があります。故にロシアのクリミア侵攻の時に「ボスニアはどうだった?」とロシアの立場を正当化する口実に使われ、巡り巡ってウクライナ侵攻に繋がります。ロシアがウクライナを自国の一部と主張するように、セルビアがコソボを自国の一部とと主張することに繋がります。加えてウクライナ問題でNATOの対応が手薄になるという読みもあるでしょう。

同時にロシアにもアルメニアを支援する余力がないことでアゼルバイジャンが攻勢に出たという形でウクライナとの連動は見られます。但しパレスチナのハマスの攻勢は今のところ唐突感が強く、故にイスラエルも虚を突かれた形となっておりますが、やられた分はキッチリ倍返しするイスラエルの流儀からすれば結局パレスチナ側の被害の方が大きくなるのは避けられないでしょう。

という風に連鎖的に起きている紛争は、結局アメリカの軍事プレゼンスの低下で抑えが効かなくなっているってことですね。加えてウクライナ支援予算が減ればその傾向は更に増します。またロシアも北朝鮮に頼らざるを得ないほど弱体化している訳で、アメリカの支援が減ったからといってロシアが有利になるとも言えません。その一方でアフリカのサブサハラ地域でのワグネルの存在感が拡大してロシアの間接的プレゼンスを支えているなど、世界は複雑化しています。

これだけきな臭くなった世界ですが、台湾や朝鮮半島では大きな動きはありません。中国はゼロコロナの失敗や不動産バブル崩壊でそれどころじゃないし、北朝鮮もコロナ禍で国内経済が疲弊しており、特に海外へ出た出稼ぎ労働者が国内に帰れずにいた訳ですから、ウクライナ紛争でロシアへの武器輸出でやっと一息ついたのが現実ですし、国内装備の強化はその分後回しですから、直ちに有事となる可能性は低いといえます。

台湾に関しても騒いでいるのはほぼ日本だけですが、アメリカは本音ではウクライナで手を取られて米軍のアジアシフトが遅れていることを気にしていますが、岸田政権の防衛強化策でミサイル買ってくれるし米軍の指揮下で動くこともあり、寧ろ中国も北朝鮮も相手にしていなかった日本を攻撃する口実を与えることになります。アメリカにとっては日本が弾除けになってくれる一方、日米安保5条による防衛義務はあくまでも議会の承認が必要ですから、ウクライナへの支援すら打ち切ろうとしているアメリカの保守派が支配する議会で本当に防衛してくれるのかは疑っておく方が良いでしょう。

あと著す円半島と台湾の国際法上の違いも、日本でゃあまり話題になりませんが、朝鮮国連軍の名目で駐留在韓米軍は紛争当事国であり、朝鮮半島有事には動かざるを得ない立場ですが、台湾に関しては未承認ですから、集団的自衛権行使の対象にはなりません。装備強化などの支援はしてもイザというときには動けない、少なくとも議会の承認は必要です。となると米軍が動けない分初動を日本の自衛隊に頼る可能性はあります。つまり米中代理戦争を負わされる可能性はあります。

そしてミサイルを買うお金も予算化されずに放置されてます。これも度々指摘してますが、真水の財源を確保できなければ、例えば決算剰余金を充てるにしても、その分国債償還費を減らす訳ですから実質国債発行で対応することになります。つまり財政に負荷をかける訳で、生産力を持たない兵器の購入は様々な経路で国民の財布に戻る政府支出を圧迫し国民の経済厚生を悪化させます。しかしそうまでして必要とする議論は行われておりません。

加えて円安によるインフレ進行で国民生活が苦しい時だけに、本当に必要なのかをきちんと議論して国民の同意を得ることは必要です。加えて言えば有事への備えとはいえ一応平時の現状で真水の予算で対応すればこそ、有事の財政出動の余地が出来る訳で、太平洋戦争後のハイパーインフレが示すように、財政の悪化は事後的にインフレで調整されます。ということで紛争で財政支出を余儀なくされる状況では、財政インフレが起きる訳で、国民生活を圧迫します。

その前に定員割れ状態にある自衛隊を戦闘に駆り出すことは現実的に難しい訳で、そもそも人口減少が進む国での軍備増強は国民に負担を強いるだけで実際に戦える体制を構築することすら困難です。この点は自衛隊に限らず2024年問題に直面する建設業や運送業の人手不足と同根ですから、解決は容易ではありません。何しろ大阪万博すら開催が危ぶまれる現状です。遅まきながら政府も以後いてはいます。

鉄道・船舶の輸送量10年で倍増 政府の2024年問題対策:日本経済新聞
今ごろこんなこと打ち出しても来年3月の働き方改革には間に合わない訳で、分かり切っていても動かない政府の無策ぶりに眩暈がします。当然ながら北海道新幹線並行在来線の函館本線長万部以南に対する対応は行われることが期待されますが、現状維持ではなく倍増となると、日本の鉄道貨物で致命的な投資不足に対する支援がしっかりできなければ画餅に帰すことになります。まもなく発表される政府の経済対策を注視しましょう。

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Sunday, October 01, 2023

インフレは続くよどこまでも

有り難くないタイトルですが、中国バブル崩壊の次はアメリカの話題です。米国債金利の上昇で円安が進む昨今、米連邦政府閉鎖の危機が今度ばかりは避けられない情勢でしたが、ギリギリのタイミングで回避されることになりました。

米下院、超党派のつなぎ予算案可決 政府閉鎖回避へ前進:日本経済新聞
10/1から始まる新年度の予算執行のためのつなぎ予算が下院で否決されたことに端を発する騒動ですが、下院多数派の共和党の強硬姿勢で民主党案が否決された後、マッカーシー下院議長の修正案が提案されたものの、民主党のみならず共和党からも反対が出て否決となり、絶望的な状況ということで、バイデン台帳量も政府閉鎖準備を指示せざるを得ない状況となりました。結果的にはマッカーシー議長案の修正で下院を通過したものです。

ここまで揉めたのは米国内の分断の深刻さを示すものです。元々新年度予算は民主、共和両党で合意済みですが、下院多数派の共和党が執行段階でブレーキをかけた格好です。共和党が嫌うリベラル的政策の予算を削り、不法移民対策としてのメキシコ国境のフェンス建設に予算を回せというのがザックリした主張ですが、既に合意済みの予算を削れというのは無理筋です。但し今回のつなぎ予算も45日間ですから、同じような騒動は繰り返されると見ておくべきでしょう。

これにはいろいろな背景があるんですが、共和党地盤の南部諸州にとって不法移民問題が重荷になっていることは確かな一方、東部エスタブリッシュメントや西海岸のハイテク地帯に強い民主党の移民に甘い姿勢は許せないという感情が前に出る訳です。その一方でヒスパニック系移民の増加で人口が増えており、移民の出生率の高さから人口の低年齢化も進んでいて、それが南部の生産年齢人口の厚みとなって工業化が進んだ面もあります。加えて共和党ステートの労働規制のユルユルさもあり、組合運動を認めないテスラの工場などが立地しております。それが別の問題を引き起こしていることも見ておきます。

米自動車スト拡大 新たに7000人、GMとフォード工場で:日本経済新聞
全米自動車労連(UAW)のストでGM、フォード、ストランティス(クライスラー)のビッグ3の工場がスト突入で生産が滞っております。UAWの主張はエンジン車からEVへのシフトは避けられず、自動車関連の労働者の数が減ることを睨んで、EV用バッテリーなどの製造工場の労働者もUAWに加盟させて保護を受けられるようにすべきだという主張です。産業構造の転換を理由に労働者が不利益を被ることは避けるべきということです。

ややこしいのはバイデン大統領が集会に参加して連帯を表明したことで、組合側が勢いづいていることで、結果的に火に油を注いだ形になってしまったことです。2016年大統領選で組合票がトランプ氏に流れたこともあり、組合票の囲い込みに動いた形です。不法移民が雇用を圧迫して産業が停滞したというトランプ流ナラティブの否定と共に、暗に南部諸州の労働規制の緩さを批判している訳です。同時に政権のEV政策も関わります。

トランプ時代のバイアメリカン法に触らずにインフレ抑制法(IRA法)を成立させた結果、米国内で販売されるEVは基本北米地域で生産されることを条件とされてしまいます。その結果EVシフトを進める欧州メーカーからWTO違反ではないかと言われごたついています。狙いとしてはバッテリー製造で世界をリードする中国への牽制なんですが、欧州やアジアのメーカーも引っかかる訳で、故に韓国現代なども米国内にEV製造拠点を設置を表明し、SKハイニックスなどバッテリーメーカーも追随しております。

当然欧州メーカーにも同様の動きがある訳ですが、製造拠点が置かれるのは労働規制の緩い南部諸州だったりメキシコだったりすると、結果的にビッグ3中心のUAWにとっては放置できない問題でもあり、出来れば連邦法で規制して欲しいというのが本音です。IRA法の狙いは気候変動対策と共に経済安全保障という面もあり、気候変動を重視するなら地産地消で可能な限り国内で生産して販売するのが正しいし、化石燃料依存の低減は経済安全保障の側面も持ちますが、同時に中国リスクも意識されており、中国産バッテリーの排除の狙いもあります。WTO提訴は現状上級委員の指名をアメリカが拒否していて機能していないですが、トランプ時代のそれを引き継いでいるのは、やはり提訴されたくないのでしょう。

という訳で政府閉鎖とストというリスクを抱えたアメリカで国債金利が上昇するのは当然となる訳です。分断による政治リスクが解消される見通しは立たず、また労組の強化は賃金を押し上げることにもなりますから、今後もインフレは収まらずFRBの追加利上げも現実味を増す訳です。となると低金利政策から抜け出せずにいる日本円の減価は避けられず、円安は進みますから、輸入物価上昇に伴う消費者物価上昇は今後も続くってことです。日銀の政策見直しが無ければ更にこの傾向は続きます。

経済安保は日本も取り組んでいる訳ですが、2020年の外為法改正の結果、妙なことが起きています。NHKスペシャルで取り上げられた大川原化工機の起訴取消事件の顛末のお粗末さが示す寒い現実です。

起訴取り消し事件「捏造」 訴訟出廷の警部補が発言:日本経済新聞
捜査官が捏造を認めたことも驚きですが、大川原化工機が輸出したのは液体噴霧乾燥機で、液体を噴霧して乾燥させることで粉末化する機械で、インスタントコーヒーや粉ミルクの製造装置になる訳ですが、警視庁公安部は生物兵器転用可能として無許可輸出を違法として刑事訴追した訳ですが、根拠となる証拠を捏造して会社幹部3名を長期間収監して1人はガンが進行して死亡するというとんでもない事件です。

警視庁公安部が動いた理由は推測ですが、法改正で実刑が定義されたことを受けて、捜査の指針となる判例を確定させたかったのでしょう。その為には抵抗力のある大企業よりも中小企業を追い込んで立件すれば手っ取り早いってことですね。狙い撃ちされた大川原化工機にとってはただただ迷惑な話ですが、特に経済安全保障絡みの政治性の強い法律故に、判例を確立させて捜査に睨みを利かせる所謂一罰百戒を狙ったと考えられます。それが今回のような人質司法の冤罪事件を生む訳です。現れ方の違いはありますが、政治が絡むとろくなことにならないのは日本も同様です。

JR北海道の札幌圏赤字急減、「黄線区」は拡大 4〜6月:日本経済新聞
コロナ禍前の水準に戻ってきたというニュースですが、記事中延慶損益を見ると、北海道新幹線並行在来線区間の函館―長万部間の赤字額が長万部―小樽間の赤字額の3倍以上あり、営業キロの違いがありますが、貨物列車運行の重荷を感じさせます。ま、それ言えば絶対額では北海道新幹線が絶対額では断トツで、青函トンネル区間という特殊区間ではありますが、札幌延伸後の収支改善も厳しさを匂わせます。

札幌都市圏以外は収支均衡は絶望的と言えます。その中で並行在来線協議を進める訳ですから厳しい現実ですが、加えて余市―小樽間で並行路線を持つ北海道中央バスがドライバー不足からバス転換を渋っていますし、それどころか事前に何の相談もなくバス転換を打ち出した北海道に対する不信感もあるようです。

鈴木知事が夕張市長だった時代に夕張支線の廃止に道筋をつけたことが成功体験となっているのでしょうけど、地元事業者の夕張鉄道が引受に動いたことでまとまったものの、ドライバー不足からバス便の維持は困難を極めており、鉄道時代を受け継ぐ伝統の長距離路線の新札幌夕張線の運行停止など満身創痍です。バス転換が選択肢にならない時代に直面しているってことです。

アメリカでペンセントラル鉄道が破綻したときの連邦政府の素早い対応と比べると、本当に危機感がないですね。ペンセントラル鉄道の場合は、結局連邦政府が線路保有機構としてコンレールを立ち上げて上下分離で運行継続を図りました。東方回廊とシカゴをエリアに持つペンセントラル鉄道が運行停止されると大量の貨物の滞留が起きるということでの緊急避難だったんですが、結果的に経営の苦しい他の民間鉄道も合流して鉄道ネットワーク維持に寄与しました。

コンレールはその後民間入札でサザンパシフィック鉄道に売却されて所謂北米5大ネットワークの一角を占めますが、それぐらい鉄道貨物の重要性が高いってことでっすね。結果的に旅客部門は都市圏毎の交通営団が引き受け、長距離列車はアムトラックが引き受ける形で現状となります。線路保有が貨物会社で旅客会社が線路を借りるという日本と逆の形になりました。この形態が基本ですから、なるほど日本の新幹線のような高速鉄道の整備のハードルは高い訳で、鉄道好きと言われるバイデン大統領がIインフラ整備法で約束したものの、財政支出を巡る共和党との綱引きで進んでおりません。政治はリスクの時代と自覚するしかないのかな。

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Sunday, September 24, 2023

中国バブル崩壊を喜ぶ大人たち

戦争を知らない大人たちで敢えて踏み込まなかった話題です。中国不動産大手の中国恒大集団の米破産法15条申請や碧桂園のデフォルト危機などの報道でいよいよ中国不動産バブル崩壊が言われますが、何れも外貨債務の整理であって、資本流出を防ぐ為です。国内の人民元建て債務にはメスが入れられておりません。

故にバブルの後始末が進まず日本のように長期停滞に陥るんじゃないかと言われており、実際デフレ的な物価下落が見られたり、若年層の失業率が高止まりしたりしてますし、同じタイミングで生産年齢人口の減少も起きており、まるで90年代の日本を早送りしているように見えます。実際中国経済は成長鈍化が見られます。但し日本と違って不動産デベロッパーはマンション建設前に全室完売して建設費に充てるということをしてきたため、契約して代金決済を済ませながら引き渡しを受けられない人が多く、それに対する政府の限定的な救済はあり得ます。

それでも4%台の成長率を実現している訳で、中国がゼロコロナ政策を続けて経済活動を抑制してきたことと、にも拘らず財政的な補償措置が取られていないことを考えると、驚異的な成長率です。人口規模の大きさが生むダイナミズムでしょう。不動産バブルが弾けてなおこの水準ということは日本とはかなり異なります。絶好調の米経済を追いかけるスピードは落ちるでしょうけど、ほぼ横ばいの日本より高い成長率は維持されて日本は置いて行かれるということですね。

ただ課題は様々あります。そもそもの不動債バブル拡大はリーマンショックで世界各国が軒並み停滞した中で、当時の胡錦涛政権による5兆元(当時レートで57兆円)の財政出動を発表し実行したことによります。これ80年代の米経済停滞の救済策として行われたプラザ合意によるドル買い協調介入と、その後の貿易収支改善策としての内需拡大要請で、日銀の低金利政策と政府の財政出動が行われました。プラザ合意による円高で購買力が増した日本は好況に沸きますが、それでいて円高による輸入物価の低下でインフレにはならず、故に低金利政策は長期化します。その結果カネ余りで不動産投資が活発化し、本業がさえない企業の含み資産拡大で株が買われ、所謂バブル経済となります。

中国でも財政出動で主にインフラ投資が活発化し、高速鉄道や高速道路が張り巡らされ、その結果鉄鋼やセメントの政策が活発になり、それを受けた地方政府の開発熱が進みます。社会主義国の中国は土地は交友が前提ですが、地方政府の開発資金として土地使用権が売りに出され、民間デベロッパーが買って開発し完成前に完売という形で資金循環が起こりましたが、多くの副作用もありました。

一つは腐敗の蔓延で、地方政府にとっては土地使用料の売り出しは無から財政資金を生み出す錬金術として多用され、農地から農民を追い出して売り出すようなことも起こります。そして地方官吏と民間デベロッパーの癒着が起きるのはお約束で、胡錦涛政権末期にはかなりひどい状況だったようです。習近平政権の反腐敗運動はその尻拭いだったってことですね。

また鉄鋼やセメントの過剰生産問題もあり、その対策として海外インフラ事業への進出を狙ったのが一帯一路であり、資金面を支えるAIIBです。この辺は中国の軍事的拡張と結び付ける議論もありますが、実態は国内の過剰生産能力対策の意味合いが強く、故に往々にして相手国の事情を無視した強引なこともあったのは確かです。しかしスリランカで言われた債務のワナは寧ろ先進国が投資を渋ったから中国が出てきたもので、AIIBの融資判断がガバガバだったことは間違いいありませんが、それ以上でも以下でもありません。

あと社会保障の不備の問題もあります。生産年齢人口の減少で社会保障政策の維持が難しいのは先進国も共通ですが、中国はその人口規模の大きさもあって社会保障の充実が難しいし、そもそも中国の国民は政府を信用してません。故にある意味自助の精神が根付いており、住宅の取得はある意味その対策でもある訳です。政治や経済がどうなろうが住むところが確保されていることの安心感もあります。加えて不動産価格の上昇で転売して差益を得た人も出てきて投資目的の住宅取得も増えた訳です。習近平政権で共同富裕を謳い不動産投資を規制したことは理由がある訳です。

その意味でアメリカの対中経済制裁や制裁関税を撤廃して欲しいのは本音ですが、トランプからバイデンに政権が動いても制裁は解除されず、寧ろ強化されてますが、実は抜け道があります。ラオスやカンボジアなど東南アジア諸国で謎の企業が立ち上がっており、中国から輸入した商品をパッケージを変えてアメリカに輸出することで偽装しているもので、アメリカも中国との全面禁輸は無理なのでスルーされているということで、寧ろ米中の経済的な繋がりは強くなっております。

特に資本財と呼ばれる機械製品は中国が近年輸出を増やしてきた分野で、アメリカも中国依存から抜けられない訳です。これは日本も同様で、というか日本の貿易統計で機械製品がほとんどの国に対して黒字なのに対中国だけ赤字です。つまり中国依存から抜けられない訳で、デカップリングは掛け声だけです。ロシアの石油輸入で下支えしてるし、今や中国無くして世界は成り立たない現実があります。但し武器供与はせず、故にロシアは北朝鮮を頼らざるを得ないし、同盟国のアルメニアがアゼルバイジャンの侵攻に遭っても助けられない現実があります。カザフスタンの内乱で中国を出し抜いたロシアの姿はありません。

てことで膠着しているウクライナ情勢ですが、アメリカが武器支援を小出しにしているのは、ロシアが核保有国という事情もさることながら、オバマ政権で方向づけられた対中国の米軍のアジアシフトが進まないこともあり、生産能力の制約もあって気前よく最新兵器を出せない事情もあります。これは中国にとっては心地よい状況ですから、国内経済の不振を理由に台湾進攻するというナラティブは現実的にあり得ません。それを理解できない大人たちの放言は聞き流しましょう。

胡錦涛政権で建設が進んだ高速鉄道も収支は赤字でお荷物になっておりますが、国有企業だから問題視されません。そもそも高速鉄道は江沢民時代の朱鎔基首相の肝いりで、日本の新幹線を参考に旅客輸送を高速鉄道に集約して空いた在来線を貨物輸送インフラにするという、田中角栄の日本列島改造論を参考にしたもので、在来線も4ft8in1/2(1,435㎜)の国際標準軌で新在直通も可能だったことから、短期間で高速鉄道網を整備することが計画されて胡錦涛時代に実現したものです。徹軌道式高速鉄道よりリニアを推進すべしという意見もあり独トランスラピートのライセンスで上海空港リニアを建設したものの後が続かず朱鎔基首相の実務家としての見識を示します。

この点は日本のアイデアで中国が先へ進んだ訳ですが、日本は国鉄分割民営化で列島改造は葬り去られました。整備新幹線スキームで事業は継続されましたが、仮に国鉄分割民営化されずに国鉄が新幹線整備を進めていたとすると、結局赤字を拡大する結果になったであろうことは中国の高速鉄道網が教えてくれます。そしてこのニュース。

JRが外国人パスを大幅値上げ 訪日客価格、手本は途上国 編集委員 石鍋仁美:日本経済新聞
民営化されたJRではなりふり構わずの増収策。手本は途上国ということで、訪日外国人の増加は円安によるディスカウントの影響ですからその分日本の停滞の象徴でもあります。

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Saturday, July 22, 2023

エッセンシャルワーカーが足りない

ブルシットジョブ型雇用の国で進行しているのはタイトルのようにエッセンシャルワーカーの不足です。つまり社会的に有用な価値を生み出す働き手が不足している訳で、忖度ばかりのブルシットジョブが増えてエッセンシャルワーカーの本来の報酬を横取りしている結果、低賃金で人が集まらないし、過労死レベルの超過勤務を前提にしないと仕事は回らないし、働き手も満足な報酬を得られない訳です。故に異次元とやらの少子化対策を焦ってますが、見当違いも甚だしいです。

雇用保険「流用」、給付対象の拡大どこまで?:日本経済新聞
7/21朝刊1面の解説ですが、コロナ対応の雇用調整助成金や前エントリーの年収の壁対策や子育て支援の各種手当など、本来失業給付に使うべき雇用保険が流用されあるいは検討されています。その結果積立金が不足するからと保険料値上げも検討されている訳ですが、こうした財源の流用で結果的に国民負担は増える訳で、それなら必要な政策の為の増税を打ち出せば良いのですが、その場合政策の必要性を含めてより強いツッコミを受けるから回避している訳です。

そもそも少子化対策が必要な理由は何かと言えば労働力不足で経済が停滞することを恐れてでしょうけど、労働力は資本によって一部代替可能であり、資本装備によって労働生産性を高めることは可能です。但し全ての労働が資本によって代替可能な訳ではなく、社会的有用労働としてのエッセンシャルワークは無くなりません。故にエッセンシャルワークを支えるワーカーへの報酬は手厚くする必要がありますが、現実にはそうなっていない訳です。

様々な要因がありますが、例えばトラックドライバーやバスドライバーはかつて高給取りだったのですが、団塊ジュニアの後半に就職難で社会人デビューで躓いた所謂ロスジェネ世代が、国の参入規制緩和と業務委託解禁で流入した結果、ドライバーの報酬がほぼ半減して現在に至る訳で、制度がもたらした問題です。逆に言えば制度の見直しと共に労働生産性を高める資本装備への投資によって解決可能な問題でもある訳で、無理して少子化対策を打つ必要もないし、子供が増えれば寧ろ依存人口が増えて国民負担は増すことになります。

つまり少子化対策は経済成長に寄与するものではなく、故に与党内の積極財政派が言うように成長で税収増は無理な訳です。ましてやドライバー不足確実な2024年問題は確実に成長を押し下げます。鬼が笑う2024年で取り上げた北海道新幹線並行在来線問題で揺れる新函館北斗―長万部間の存廃問題で動きがありました。

北海道・函館―長万部、鉄道貨物維持の方向 有識者で詰め:日本経済新聞
記事によると年間100億円程度の赤字の補填の負担をどうするという議論に矮小化されているようで、トラック輸送改善のための資本装備という視点での議論がないのが残念です。

東北新幹線や北陸新幹線の整備区間では、線路を保有する三セク等にフルコスト基準の線路使用料を支払う一方、JR貨物に対してはアボイダブルコスト負担の線路使用料との差額を支給して調整するもので、財源はJR旅客会社が鉄道・運輸機構に支払うリース料に上乗せして徴収し、結果的に三セク鉄道の収支を支えています。しかし収支が厳しい北海道新幹線ではこの手が使えず、財源をどうするかで国と北海道が角突き合わせている現状を追認した議論で果たして結論を得られるのか?という疑問は拭えません。経済運営上必要なインフラとして例えば道路予算を使うことも考えるべきです。

あとドライバーだけじゃない2024年問題として怪運国債市場の蓋で指摘した大阪万博をピンチに追いやる建設労働者不足問題もあります。大阪万博に関してはそれに留まらずパビリオンの入札不調や会場の夢洲の地盤沈下問題とか、五輪汚職で電通が指名停止されてプロセス管理が機能していないとか、大阪メトロ中央線も難工事で、ほぼ予定通りの開催は不可能な状況です。いっそ五輪に倣って無観客開催したら?知らんけど^_^;。

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Sunday, July 02, 2023

オリガルヒの叛乱

先週の出来事ですが、大きな出来事ですので取り上げます。

ワグネル、武装蜂起を停止 プリゴジン氏はベラルーシへ:日本経済新聞
ワグネルの叛乱でロシアのクーデターや政権転覆もあり得たという分析もありますが、疑問でした。結果的にベラルーシのルカシェンコ大統領の仲裁で衝突を回避した訳ですが、プーチン大統領から見れば飼い犬に噛まれたような災難と同時に格下扱いのベラルーシの仲裁を受け入れたことになります。

ワグネル創業者のブリゴジン氏ですが、多数の企業を支配下におさめる新興財閥(オリガルヒ)でもあります。ホットドッグ屋台から事業を興し、高級レストラン経営に至って政府要人が来店し、ブーチン氏とはその時知り合い、気に入られて便宜を図られて台頭し、プーチン氏が大統領になって我が世の春を謳歌してきた訳ですが、民間軍事会社とされるワグネル以外にもレストランやケータリングの会社からメディア企業まで多数の企業を支配下に置き、ロシア発のフェイクニュース拡散などでロシア政府を助けてきたズブズブの関係にありました。

ワグネルの兵士は受刑者の減刑や赦免でリクルートするなどしており、元々アウトローで且つ練度も高いということで、弱体化したロシア正規軍を助ける存在でもありました。ロシアの言うウクライナへの特別軍事作戦でも活躍し、民間人への攻撃などの残虐行為も厭わないその姿勢はロシア国内では報じられず英雄扱いされていただけに、ロシアの国内世論も動揺しています。加えて特別軍事作戦の大義名分としたロシア系住民に対する虐待もウソとバラしちゃうしで、外から見ると何があったの?という話ですが、ロシアのオリガルヒという文脈で見れば謎は解けます。

オリガルヒとは主にソビエト解体後の新興財閥を指す言葉ですが、改革開放で国有企業が次々に民営化される中で、政権に取り入って経営権を取得して財を成したという意味で政治との癒着が特徴ですが、同時にグローバル化の恩恵で事業を拡大して行く中で、政権との軋轢で批判に回るなどして揺さぶる存在でもあります。実際そうしたオリガルヒの叛乱は繰り返されており、政権と対立して海外に亡命して亡命先で謎の死を遂げた富豪が複数存在します。ロシア当局の関与が疑われております。

今回はウクライナ紛争中でウクライナの反転攻勢中という微妙なタイミングということもあって世界を騒がせましたが、劣勢なロシア側で弾薬などの補給が正規軍が優先されたことへの不満が昂じていた訳ですが、とはいえ恩義のあるブーチン氏に弓退く訳にはいかず、側近のショイグ国防相とゲラシモフ参謀総長の解任を求めた行動という訳で、体制内のゴタゴタです。つまりクーデターに発展する可能性はほぼ皆無だったと言えます。

とはいえプーチン氏がショイグ、ゲラシモフ両氏を更迭することは考えられず、逆に潰されるぞということでベラルーシのルカシェンコ大統領が説得してブリゴジン氏はベラルーシが身柄を保護することで矛を収めさせたという流れです。ロシアにとっては格下とはいえ数少ない同盟国の仲裁を受け入れるしかなく、ベラルーシから見ればロシアに大きな貸しを作った形となります。同盟国が保護する以上過去の叛乱オリガルヒのように暗殺(多分^_^;)を仕掛けるのも憚られます。ブリゴジン氏は丁度ロシアが保護するアメリカ人のスノーデン氏のような存在になります。

そしてワグネルとしてはシリアやアフリカのマリやスーダンなど資源国の政権に食い込んで利権を得ており、そちらの活動が制限されなければ存続可能であり、ベラルーシにとっては金の卵を産む鶏を手に入れたようなものです。ロシア国内に残るワグネル軍ですが、今回の叛乱劇では正規軍士官が便宜を図ったりしており、正規軍に統合しても軍の統制はかなりギクシャクするでしょう。この面を捉えて日本の226事件との類似性も指摘されますが、高橋是清の財政均衡策への反発とはいえ北一輝というイデオローグに共感した青年将校とはかなり異なった動機です。

という訳でウクライナの反転攻勢でロシアの敗戦という希望から、ウクライナはNATO加盟を希望しております。ベラルーシが立場を強めることは欧州にとっては1つ不安定要因となる訳で、ウクライナのNATO加盟で均衡を図るという面は確かにありますし、NATO加盟の前提として現在の戦闘状態は終息させる必要がありますし、ウクライナが希望する領土の奪還もあきらめる必要があります。加えてトルコなどの反対もあるでしょうし、簡単にできることではありません。しかし一方で戦後処理に関する動きがあることも確かです。

ウクライナ鉄道網、欧州と規格共通に G7交通相会合
ロシアの黒海海上封鎖でウクライナ産の小麦その他の資源輸出が滞ったのはウクライナの鉄道がロシアンゲージの1,520㎜で欧州の国際標準軌4ft8in1/2(1,435㎜)の間で台車交換が発生し輸送量が限られることから、ウクライナの鉄道の改軌をG7主導で進めようという会合です。斎藤国交相は日本のローカル線問題に言及して不興を買ったようですが^_^;。

オリガルヒはウクライナにもいて政治との癒着どころかオリガルヒ出身の政治家が大手を振るって汚職に勤しむどうしようもない状況で、バイデン大統領の次男を含む世界各国の投資家が関与したりしていましたが、それ故に親ロと親欧米派に分かれて清掃を繰り返し国民を呆れさせてきたグダグダな状態だった訳で、故にロシアに隙を突かれてクリミアを奪われたりした訳ですが、その結果オリガルヒならざるゼレンスキー氏が中間層の支持で大統領になれたということもあります。その意味でオリガルヒの存在はロシア特有のものとは言い難く、例えばアリババ創業者の馬雲氏のように中国政府の逆鱗に触れて更迭されるというようなことも起きます。新興国にありがちな話ではあります。

しかし先進国も企業や投資家が取引で関与していることもあります。元々企業や投資家の政治関与はアメリカでもロビイストの活動を通じて都合の良い法律を通したり規制緩和を求めたりは普通にある訳で、彼らは新興国でも当然のごとく同じことをします。寧ろオリガルヒは彼らに倣って政治関与しているとも見ることができます。上記のウクライナ鉄道の改軌問題も、市場アクセスを都合よく行うという視点はあります。

逆にこうしたG7会合に参加しながら鬼が笑う2024年で指摘した日本の鉄道貨物に対する政府の対応を自省することがないのは困ったものです。鉄道貨物を失えば日本のウクライナといえる北海道経済は停滞します。それがわからない政治の貧困です。その一方でこんなことが起きます。

電動キックボード普及へ加速 街中・観光390億円市場に:日本経済新聞
クルマの自動運転のレベル4や電動キックボードなどの規制緩和を盛り込んだ改正道交法が前倒しで今月1日から施行されました。交通崩壊 (新潮新書)市川嘉一著で拙速な規制緩和を危惧していますが、同書によれば審議会での検討段階では慎重な意見があったものの、最終報告書には反映されず閣議決定され国会審議もそこそこに可決成立したもので、レンタル事業者の要求で自民党MaaS議連など運輸族議員の圧力が働いたものと見られます。新産業創出の大義名分ですが、自転車同様歩道走行を容認するもので、走行安定性に問題がありながら無免許ヘルメット無しとした点は問題があります。現場の警察官には事故多発を危惧する声があります。

昨今例えば北陸新幹線敦賀以西で議論のまとまらないルート案で小浜京都ルートに調査費を計上させたりしてやりたい放題の与党運輸族ですが、これもJR西日本の意向を受けたもので、それによって並行在来線として切り離される湖西線を抱える滋賀県は蚊帳の外だし、そもそも関西広域連合で合意した米原ルートはガン無視ということで、意思決定手続き上もd内だらけです。こんなことがまかりと売るのは結局有権者の投票行動の結果ですが、オリガルヒ同士の対立に嫌気してゼレンスキー大統領を選んだウクライナ国民を見倣えと言いたいところです。

余談ですが国鉄分割民営化以後JR東海の経営を掌握して政治に関与した故葛西敬之氏をイメージすればオリガルヒは理解しやすいですね。

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Sunday, June 25, 2023

鬼が笑う2024年

今年10月からのインボイス制度を巡り、声優やクリエーターなどフリーランスからの反対の声が出ています。売上1,000万円未満の非課税事業者の所謂益税問題も解消が狙いですが、それ自体は消費税導入時からの制度上の積み残しですから、見直しはいずれ必要なことではあります。加えて食料品等の軽減税率導入で、経理処理が複雑になったこともあり、やっと制度見直しとなった訳ですが、問題は別のところにあります。

1つはフリーランスと呼ばれる零細個人事業主の問題ですが、場合によっては契約書も交わさず報酬も曖昧だったりという弱い立場にあることがあり、インボイス制度導入で課税事業者を選択しなければ取引から排除される可能性があります。勿論インボイス制度自体の狙いが非課税事業者の排除にある訳ですが、問題は課税義務を負うにはあまりに弱い経済主体であることで、課税義務が生じたからといって取引先に報酬の増額を要求しにくいことがあります。

この辺欧州の付加価値税でうまくいっているからということで正当化できない問題でして、何故ならば欧州では強固な産業別、職業別組合があり、中小零細企業に加えて個人事業主も加盟していて、中央労使交渉の結果の順守が求められますから、制度的に保護されている訳で、日本で同じことをやってもフリーランスを保護する仕組みがないから泣き寝入りの現実がある訳です。

加えて電帳法対応を求められ、仮に課税事業者を選択して税額を明示した適格請求書を発行しても、その控えを電子帳簿として7年間保管する義務を負います。また仕入れや経費で受け取ったインボイスもスキャナーで電子化して同様に7年保管を求められますが、当然ながらそれに伴うIT機器の購入やセキュリティ対策も求められ、それらがコスト増要因となる訳です。つまり納税するためにコスト負担が生じる訳です。

大企業ならばクラウドサービスで対応可能な事でも零細企業や個人事業主ではハードルが高い訳です。これもやはり紙で保管が可能な欧州とは事情が異なります。真面目に納税しようとすると壁に突き当たるって冗談みたいな状況です。まるでデジ足らん国のデジタルジャック(DX)を地で行く話です。来年秋の紙の保険証廃止に通じる愚策です。

一方で東京都が打ち出した新築家屋の太陽光発電設置義務では、当然一般住宅からの電力調達が起きる訳ですが、住宅所有者が課税事業者登録するとは思えませんが、そこは再エネ支援金として電気料金に上乗せされますから、電力会社は無傷で契約者に価格転嫁できてしまいます。再エネ活用は大事ですが、こうした運用面で大企業ほど優遇される仕組みは問題です。

来年の2024年はいろいろな意味でこの国の進路に重大な障害が生じるという意味で、覚悟しといた方がよさそうです。まずはインフレですが、3%を超えるインフレが依然として続いてますが、日銀が政策を見直す気配はありません。少なくともYCCの停止は最低限必要です。というのはYCCが続く限り日米金利差による円安が続き、輸入物価を押し上げますから、インフレは止まりません。

例えば海外勢の日本国債購入が増えてますが、円安で買いやすくなっていて、為替予約でリスクヘッジすることで、実質円資金を借りたのと同じことになり、日本国債を担保に外貨をちょつあつして運用すれば、実質的に金利差をさや取り出来てしまう訳で、キャリートレードと同じです。長期金利を低いまま放置すればこうして簡単に稼げる訳で、その結果日本の富が海外に染み出す訳です。

その一方で実需の貿易決済では円安で輸入物価が上昇し、日本企業は価格転嫁を進めてますから、結果的にインフレは止まらない訳です。そしてインフレは見かけ上の売上を増やしますし、便乗値上げも含めて価格転嫁することで企業は儲けられる一方、インフレ率に届かないベースアップで実質賃金は下がる一方です。売り上げや企業利益だけ見ていると一見景気が良いように見えますが、国民の窮乏化は進む訳です。

そして物流2024年問題が控えます。トラックドライバーなど働き方改革で例外とされた物流や建設などの猶予期間が終了する結果、今でも深刻なドライバー不足が助長されると言われています。しかしこれ変なのは時短によるドライバーの収入を補償する話は出てこないんですよね。建設も同じですが、多重下請けで安値受注が横行している結果、長時間働かないと稼げないというドライバーの置かれた状況を悪化させますから、時短によって廃業するドライバーも多数出ると考えられます。つまりトラック依存の物流システムが維持できなくなるということです。トラック業界の様々な問題を解決することなしにはどうにもなりません。そんなときに起きた事故のニュースです。

バスとトラック正面衝突、乗客ら5人死亡 北海道・八雲:日本経済新聞
事故原因の解明はこれからですが、中央線オーバーのトラック側の重過失は間違いないところで、今後の捜査でドライバーの勤務状況などが明らかになると思います。加えてこの区間は長い直線路で速度超過しやすく、風景が単調で睡眠を誘いやすいという事故多発地帯とも報じられており、特段の対策は取られていなかったということです。尚、バスを運行する北都交通(札幌市)は空港リムジンバスや都市間高速バスを長年手掛けており、信頼できる事業者です。

例えばハンプと呼ばれる舗装面のコブを設置するとか、センサーで速度超過を感知して警報を鳴らすとか、敢えてクランクカーブを設けて注意喚起するとか、道路側の対策は必要でしょう。しかしここは北海道新幹線の並行在来線区間として存廃が協議されている区間でもあります。仮に鉄道貨物輸送が存続できなければ道路交通うの負荷が高まりトラック便で吸収することは不可能です。故に鉄道貨物存続が必要不可欠ですが、一方で戦艦トンネル区間の新幹線の速度制限問題から貨物廃止も言われます。

こうしたことから国として何らかの対策を打ち出す必要がありますが、整備新幹線は地元とJRの問題として国は対応に消極的です。確かに地域が整備新幹線を欲しがらなければ起きなかった問題ではありますが、ことここに及んでそんなお題目を唱えて鉄道貨物を衰退させて北海道経済に打撃を与え、またトラックの増加で道路交通をマヒさせる可能性、更にトラックのヤミ残業で過労運転が横行し事故多発など、リスク要因は挙げればきりがありません。加えて北海道庁もこの問題では動きが鈍いということもあります。

ちなみに貨物列車1列車の輸送能力は10tトラック40台相当ですから、鉄道貨物を止めた時のトラック輸送にかかる負荷は大きくなります。逆に言えば鉄道貨物に集約できればトラック輸送の負荷を大きく減らせるということでもあります。ということで、来年に限らない先の話ですが、鬼が笑うぞ!

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Sunday, June 04, 2023

果てしない成長ポエム

米財政上限問題が決着しましたが、市場は新たな懸念を抱えます。

米国デフォルト回避に市場安堵 銀行預金減には警戒:日本経済新聞
米国債デフォルトという危機は回避されましたが、同時にバイデン政権の目玉といえるインフラ投資法やインフレ対策法による歳出は抑制されます。これは寧ろ米経済の健全性を担保する意味で有意義ですが、同時に強めの雇用統計でインフレ収束の気配は見えず、FRBの利上げも足踏みはしても打ち止めにはならないということになりますが、この状況で政府の資金繰りのために短期国債の大量発行が行われますが、新発債の表面金利は高いですから、投資家の応札は見込めますが、その結果銀行預金が引き出されることは避けられず、中小銀行に大きなストレスを与えます。

別の視点としてトランプ時代のバイアメリカン法がそのままで、政府補助金の大盤振る舞いもあって先端半導体やEV関連投資を北米地域に囲い込む姿勢も鮮明で、欧州各国から不満が漏れています。例えばEV補助金対象はテスラやフォードなどが中心で、欧州メーカーは渋々米国内のEV投資を余儀なくされてます。特にアメリカが拘るのがバッテリーの北米生産で、中国封じ込めの政治的意図もあります。ならば日本はセーフとならないのは、電力部門の脱炭素化が遅れているから論外。現時点で日産リーフのみ補助対象ということで、日本の出遅れは致命的です。

民主主義対権威主義では見えない本音で指摘した国家総動員法に基づく戦時体制移行の影響で、日本の電力業界は大手電力の支配力が強く、それ故に電気代も高いし再エネ比率も上がらない日本の電力事情が戦前の国家総動員体制の成れの果てであることは指摘しました。当然見直しは必要なんですが、真逆のことが起きています。

原発運転「60年超」可能に GX電源法が成立:日本経済新聞
度々指摘してますが、原発の再稼働が進まないのは問題を抱えた原発が多く、規制委の認可が得られないことによりますが、この法律であまり報道されてませんが、環境省傘下の規制庁を経産省に移管し、認可基準も見直すということです。つまり福島第一原発事故を契機に環境省に移管され運転期限40年その他の規制を緩和するもので、大手電力会社を所管する経産省に認可権限を与えることで、大手電力の意向が通りやすくなるということを意味します。

GXを謳いながら福島の事故を受けて見直された原発行政を後退させたものです。この法律は自公の与党に加え日本維新と国民民主の2党が賛成に回りました。こいつらの正体が見えますね。一方で関西電力は6/4の太陽光電力の出力調整を発表しております。台風一過の晴天で日曜日で製造業も休みということでこうなる訳ですが、原発を含む大規模電源は連続運転を前提とする限り効率的なので、要は自分たちの利益優先の姿勢です。

一方で東日本大震災を機に露呈した地域間連携線の貧弱さは解消されず、日照量の多い九州では早くから太陽光電力が余って出力調整が行われました。所謂九電ショックですが、同時に同じ60hzエリアの九州の再エネリッチ状況は、関西電力にとって脅威に映ったのでしょう。失敗に学ばない国で取り上げた関電などの越境営業抑制のカルテル事件に繋がった可能性があります。

もっと遡ると電気が足りない訳じゃないで述べたJERAのLNG調達減少が厳冬の暖房需要増加で裏目となり、工場等の自家発電電力を卸電力取引所(JPEX)に出す前に買い取った結果、JPEXの相場が高騰し、電力仕入れをJPEXに頼る新電力各社が逆ザヤで破綻や廃業が相次ぎ、大手電力が補償で契約を引き取った結果、新電力の逆ザヤが大手電力を苦しめるブーメランが起きた訳です。独占企業の身勝手が国民生活を振り回した訳です。

50hzエリアでも少なくとも福島、新潟、青森と関東を結ぶ送電線は空いています。それぞれ福島第一第二、柏崎刈羽、東通の各原発の電力を関東へ送るものですが、これを使えば東北エリアの再エネ電力を関東へ送ることは可能ですし、震災で疲弊した東北の復興にも資するものですが、大手電力の先発権で接続はできません。こうした部分にメスを入れずに「電気が足りない」と騒いで原発再稼働に繋げる大手電力の火事場泥棒ぶりです。こうした日本の状況と対比する意味で興味深い論考があります。

大手電力間の競争、機能せず 電力システム改革の課題 松村敏弘・東京大学教授:日本経済新聞
大手電力の既得権として暗黙の地域市場分割が疑われます。対比されるのは南米チリの事例ですが、日本同様南北に長い国土で、北部ほど日照が多く太陽光電力が豊富な一方、首都サンチアゴ周辺に人口や産業が集積している状況で、南北を結ぶ大容量送電線を整備した結果、余剰気味の太陽光電力が有効活用され、電力料金も下がったというものです。太陽光発電はCO2排出ゼロ、限界費用ゼロという優れた特性を有しており、これを活用しない手はない訳です。

原発もCO2排出ゼロと言われますが、それはあくまでも発電中の話で、日本では13か月毎に停止して定期点検を義務付けられております。当然停止中も核燃料の冷却の為に水を循環させて電力を消費しますし、経年劣化による補修もしなければなりません。原発再稼働が進まないのも結局コストとの見合いで、動かすための追加費用がバカにならない訳ですが、一旦パネルを設置してしまえば追加費用無しに出力できる太陽光発電はその点優位にあります。

しかし日本のように電力会社の営業エリアで市場が分割されている場合、太陽光のピーク出力時には卸電力市場の価格を下押ししてしまい、発電事業者に電力供給のインセンティブを失わせてしまいます。その結果特に新規参入の発電事業者ほど影響を受けますし、既存の大手事業者も発電事業への投資をためらう結果、原発再稼働にコストをかけたくないし老朽火力を使い倒してトラブルを誘発したり、また燃料調達を縛るLNGの長期契約を縮小するインセンティブにもなるという悪循環となる訳です。

ということは解決策はシンプルで、地域間連携線の強化による国内市場の統合を進めることで、限界費用ゼロの太陽光発電が全国の電力事業者にあまねく利用される状況を作ればよいということになります。加えて市場安定策としての蓄電設備の増強によって、卸電力市場の市況に合わせた蓄電と放電で差益のサヤ取りが可能になります。例えば山梨県が揚水発電で電気事業を手掛けた結果、安い夜間電力で揚水し卸価格が上がるピークタイムに発電することでサヤ取りして税外収入を稼ぎ、県立美術館を建ててミレーの原画を購入し展示したということも起きています。

但し地域分割市場の維持は大手電力の既得権ですから、当然猛烈な抵抗をすると思いますが、C02削減も進まず料金も高いままの日本で例えば電力消費の大きい半導体生産やEV生産が国際競争力を持たないのは明らかです。TSMC、IBM、サムスンなど日本で半導体生産を表明していますが、何れも破格の補助金目当てでしかありません。GXで原発動かしてもバックアップ電源として燃料やメンテナンスで限界費用が安くない火力依存も続きます。つまり電気料金は下がらない訳です。とすると円安を奇貨に製造業復権も絵空事と言えます。

国家総動員体制が戦後も生き残って高度経済成長をもたらしたのは間違いありませんが、当時はGATTの自由貿易体制下で加工貿易で付加価値を紡ぎ出すというシンプルな条項でした。ベビーブームで若年人口が増えブレトンウッズ体制の固定相場で加工貿易立国でアジアや中東の資源を輸入して製品を主にアメリカへ輸出するという単純な経済構造でしたから、太平洋沿岸に貿易港を整備し臨海工業地帯を造成して企業立地を促すだけで経済は回り高度経済成長が実現した訳です。

その中で東海道新幹線の開業のインパクトも大きかったのは確かで、旅客輸送の効率化に留まらず在来線の貨物輸送も強化され、太平洋べベルト地帯の発展で産業と人口の集積が進みました。その結果農業人口の多かった日本で地方から大都市への人口移動が起こり所謂過密過疎問題を引き起こすことになります。結果的に東京一極集中が続き、コロナ禍で郊外移転は起きたものの、東京一極集中の傾向は今も続きます。

しかし産業構造の変化は容赦なく、かつて世界を席巻した日本の電機産業は凋落し、今EV化で自動車産業も世界に後れを取る状況です。この状況で中央リニアがJR東海の独占力を高めることはあっても経済を活性化させることは考えられません。寧ろ東名阪エリアとその他のエリアの市場分断を引き起こすとすれば、電力市場分断が示すように日本の成長力を棄損する可能性があります。令和の近衛文麿は罪深い。

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Saturday, May 20, 2023

民主主義対権威主義では見えない本音

サミット始まりました。コロナ禍で避けていた遠出を解禁しようと思っていたタイミングで躊躇しております。金融危機は核より怖いから米国発の金融危機や財政上限問題も予断を許さない中で、G7で世界平和を話し合うって言いつつ、紛争当事国のウクライナのゼレンスキー大統領が訪日してG7会合に参加するという形で話題をさらいました。

日本の本音としては中国の台湾進攻リスクを訴えて対中デカップリングを演出したかったところですが、おそらく画を描いたのはフランスのマクロン大統領でしょう。マクロン氏は台湾問題は欧州にとって重要ではないと発言して批判を浴びましたが、ウクライナ問題は欧州にとってそこにある危機なんで、本音ではありますし、ある意味巻き返しを狙ったというのは穿った見方でしょうか。

フランスに限らず欧州諸国はアメリカの腰の引けたウクライナ支援には不満な一方、ロシア産石油やガスに依存してきた歴史から、経済制裁の反作用を受ける立場でもあり、より踏み込んだ軍事支援をしたいのが本音。ウクライナが要望するF16戦闘機の供与をアメリカは渋っておりますが、同盟国の供与を認める形で譲歩してドイツが訓練込みで供与するなど、立場の違いからいろいろ注文を付けている訳です。

アメリカが踏み込めないのはロシアとの核戦争回避の意図はあるものの、中国の台頭の方が気になるし、共和党など保守派の過剰に支援するなという圧力もあり、財政上限問題もその取引材料となっているということもあります。一方で対中強硬姿勢は与野党で意見が一致しやすい問題でもあり、ウクライナに深入りせず対中国にシフトしたいのが本音です。但しわかりにくいですが、少なくともバイデン政権で台湾有事は当面起きないと見ており、あくまでも中国が軍事力による現状変更に動くなら許さないという立場です。

一方中国は台湾独立派の政権掌握などで現状変更するようなら軍事オプションも否定しないよということで、狙いはあくまでも現状維持です。加えて台湾も独立派は一定数居るのは確かですが、中国との分断は台湾経済が成り立たなくなるという現実的な問題もあり、やはり現状維持が本音です。但し万が一に備えた軍備増強支援をアメリカに求めておりますが、アメリカは中国と直接対峙を避ける意味で訓練などは州兵と日本の自衛隊に委託するという流れです。その意味での重大ニュースがあります。

米機密文書流出、過大なアクセス権原因か 州兵の男逮捕:日本経済新聞
通信傍受でワシントン混線さす気球の地政学で指摘した米諜報機関の集めた秘密情報を空軍州兵が閲覧してSNSで拡散したというお粗末な情報漏洩事件ですが、何故か日本ではあまり大きく取り上げられておりません。しかも漏洩情報は多岐に亘り、ウクライナの弾薬の在庫とか中東情勢に関するものとかいろいろですが、その為にウクライナ政府が対ロシア反撃作戦を保留したといった影響が出ています。

加えて台湾有事の軍事作戦シミュレーションもあり、それによると中国は勝てないけれど台湾を援護する米軍と日本の自衛隊のダメージも大きいという結果です。当然中国はこれ見て今は動く時ではないことの裏付けを得たことになります。秘密情報とはいえ実際の軍事作戦では州兵や自衛隊に頼っているから、かなり広く閲覧権限を持たせていたってことでしょう。この辺アメリカらしいといえばらしいですが、怪運国債米国債と欧州劣つ後-!で指摘したように、西側諸国が弱って来るのを待つだけで中国は優位になる訳ですから。

ウクライナ戦争ではインドやブラジルなどが和平仲介に意欲を見せていますが、実現可能性は低いものの、ウクライナにコミットする西側諸国と異なった立場を表明しています。これには意味がありまして、対中であれ対ロであれデカップリングが進めば当事国は経済的に困窮しますが、中立の立場を採れば双方と取引していいとこどりできる訳で、資源輸入国のインドなどは典型ですが、ロシア産の安い石油を手に入れてインド国内で精製して割安な軽油を欧州などに売っている訳で、対ロシア経済制裁の実効性を損ないますが、漁夫の利を得られる現状は寧ろ好都合なんですね。これ中国も同じです。例えば小麦を米国産からロシア産に乗り換えるとかしてますが、中国は現状維持の狙いもあってロシアへの軍事支援は避けている訳です。

ですから世界的な地政学リスクに備えてグローバルサウスを味方につけるというのがG7広島サミットの狙いでしょうけど、そうはならない現実があります。ということでウクライナ戦争は膠着し、資源インフレは収まってきてはいるけれど高止まりは避けられず、それ故資源を輸入に頼る日本は貿易赤字から抜け出せず、国力を消耗することになります。

当然防衛費倍増は国民負担になりますが、一方で台湾有事の自衛隊の立ち位置は米州兵レベルの下請け組織に過ぎない訳で、日本より米国を守る弾除けでしかない訳ですね。故に米国は日本と韓国の核保有を認めない代わりに核の傘強化の口約束で拡大抑止を謳う訳です。ってことで、台湾有事で騒いでいるのはほぼ日本だけというのが実際なんで、地政学リスク拡大もマッチポンプの議論です。とはいえアメリカ様には逆らえないとばかりに防衛三文書を閣議決定した岸田首相は、盧溝橋事件の対応を誤り軍部の強行派に屈して兵員増派した一方、第二次国共合作で反転攻勢に出た国民党とガチンコ勝負になって戦争の泥沼に国を巻き込んだ近衛文麿の轍を踏んでるんじゃないかと危惧します。

で、近衛文麿はそれだけでも重大な誤りを犯した一方、1938年に国家総動員法を成立させて産業再編に手を突っ込んだという意味でも罪深いところです。この結果電力国家管理で国策会社の日本発送電と9つの地域配電会社に再編された電力業界は、戦後処理でGHQの日本発送電解散命令を受けて発送電一体の9電力会社に再編され、強固な地域独占企業となって現在に至ります。その結果原発事故起こすわ原発自治体と不適切な関係を持つわ再生エネ発電の接続拒否するわ自由化で新規参入した新電力各社の顧客情報を閲覧して不正競争するわやりたい放題。日本の電力料金が高いのは原発動かさないからではなくこの地域独占体制故です。

こうしたことは他業界でも多数ありますが、鉄道業界では陸上交通事業調整法による地方鉄道の地域統合と、一方で産業政策上重要な路線の国有化という所謂戦時買収で国鉄に編入された路線も多数あります。陸上交通事業調整法は戦時立法と見做されて、統合主体となった東京急行電鉄が大東急解体で小田急電鉄、京王帝都電鉄、京浜急行電鉄が分離独立し、関西でも京阪神急行電鉄から京阪電気鉄道が分離、近畿日本鉄道から南海電気鉄道が分離(正確には別会社の高野山電気鉄道へ譲渡)といったことが起き、それが多少の変化はありますが現在の大手私鉄を形成している訳です。

そしてこの体制は村上ファンドに狙われた阪神電気鉄道を阪急電鉄が救済して阪急阪神HDとなった以外は変わっておりません。つまり現状維持の力が働いている訳です。地方では福岡県や富山県のように1県1社に近い統合が実現したところは少数派で、結局多数のローカル私鉄が存続することになりますが、産業構造の変化や都市部への人口移動に伴う過疎化でで多くの路線が廃止されています。電力と比べると交通事業への国の関与は手薄だったってことです。

その流れで言えば国鉄改革で誕生した旅客6社と貨物会社のうち上場した旅客4社を除くJR北海道、JR四国、JR貨物への国に支援は見込み薄でしょう。但し変化の兆しもあり、例えばJR九州肥薩線の復旧には河川予算や道路予算の投入が決まっており、JR九州の負担を軽減しています。交通事業基本法や地域公共交通活性化法などの法整備もあって、地域の関与次第で国の予算がつくようにはなっております。例えばJR東日本只見線の復旧は更に自治体による上下分離スキームで復旧が実現してます。

その意味でJR北海道の苦境に対する北海道庁の冷淡さは疑問ですし、北海道新幹線並行在来線問題の膠着もやりようはあるだろうにと思います。そして廃止が宣告された函館本線山線の小樽―余市間では地域から反対の声が上がっております。札幌都市圏の末端であり、やりようによっては存続可能な輸送密度がある区間でもあります。

滋賀県の三日月知事が打ち出す交通税構想など過酷な現実を踏まえた変化が見られます。野口悠紀雄一橋大学名誉教授が国家総動員法に始まる政治体制は政府関与の資本主義計画経済体制として戦後も存続し、高度成長期には歯車がかみ合ってうまくいったものの、その成功体験故に抜け出せないのが今の日本ということです。ってことでキッシーが令和の近衛文麿じゃ期待できないですね。

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Sunday, October 30, 2022

失われた中国の始まり

中国の習近平氏が異例の国家主席3期目を決めました。最高幹部を側近で固め、李克強、汪洋両氏が最高幹部を外れ、上海市トップでハードロックダウンを主導した李強氏が登用されるなど、あからさまに側近で固めた人事は、何だか安倍政権を思い起こさせます。鄧小平氏が決めた国家主席2期10年までとか、最高幹部定年68歳も反故にして69歳での3期目就任の一方、李克強、汪洋両氏は67歳で引退というアンバランスもあります。中国の集団指導体制に幕を引いたと言えるます。

元々日本の自民党長期政権を参考にしたと言われる集団指導体制ですが、太子党と共青団のように自民党の派閥政治に似たところがあり、政権内部での異論の包摂という意味でうまく機能していたとは言えます。それでも天安門事件が回避できなかったように、共産党一党支配という規範を越えるものではない訳ですが、その点は日本でも親米保守という規範を越えられないという意味で似たり寄ったりではあります。

そして官邸を側近で固めて総裁任期延長や抜き打ちの衆院解散などで自民党の強みであった異論包摂の多様性は失われましたが、同様に党大会などの行事の開催時期を恣意的に動かしたり、反腐敗で政敵を粛清したりした習近平氏の手法は安倍政権と通底します、そして突然の民間ハイテク企業の規制強化で共同富裕を打ち出した一方、アメリカの半導体輸出規制に対抗して国産化を進めてますが、バイデン政権が半導体製造装置を含む輸出規制強化で道を塞がれています。

微細加工の先端半導体は歩留まりが悪くなりますので、使えるチップを大量に供給する難易度は高い訳で、その辺をクリアしてから台湾TSMCは米インテルを凌ぐ世界トップの位置を得た訳ですが、後追いするのは困難を伴います。この辺は日本メーカーも同じですが、設備投資と技術開発投資を継続できなければ追いつけません。その一方で自動車その他必ずしも最先端素子ばかりが需要される訳ではなく、量的には旧世代半導体の方がボリュームゾーンでもあります。しかし競争が激しく経済動向も絡んで市況商品として価格変動が激しいので、その分野で留まる限り安定した収益を得ることは難しい訳です。日本のDRAM敗戦は典型的ですが、中国が同じ轍を踏む可能性は高いと言えます。

加えて資源インフレで世界経済が不況に向かう局面となれば、奇跡的な成長を続けた中国経済も長期停滞は免れないと考えられます。人口動態も生産年齢人口が予想より早く減少に転じた模様で、この点も日本の後追いと言えます。日本の失われた30年が中国で再現されるという訳ですね。国内の不動産バブル崩壊も経済の足を引っ張ります。

となると台湾併合は先端半導体を手に入れることにもつながりますが、逆に台湾が先端半導体で世界をリードできたのは、世界になくてはならないオンリーワンとなることで、先進諸国の関与を強めて中国の圧力をかわす目的があります。独立を果たせない台湾故の生き残り戦略であり戦略的経済安全保障と言えます。その意味で日本で議論される経済安全保障のなんと底の浅いことか。

習近平氏は台湾併合に軍事オプションを排除しない姿勢を見せてますが、あくまでも最終手段であって今すぐという話ではない訳で、日本の台湾有事の議論も的外れです。寧ろ台湾は未承認故に集団的自衛権行使の対象にならないという法的問題もある訳で、それも含めてクリアすべき課題は多いと言えます。恐らく防衛力強化の口実ということなんでしょうけど、半導体不足と共にウクライナ紛争が影を落とします。

冷戦終結に伴う米国防費の削減で軍需産業の生産能力は大幅に縮小しており、その中でロシアのウクライナ侵攻が起きてウクライナに対する兵器供与が続いている訳ですが、その結果米軍需産業の生産能力がボトルネックになってきており、米政府は西側諸国に生産協力を求めています。当面ウクライナ向けの出荷が最優先ですから、日本向けは後回しでしょう。兵器増産は日本の防衛産業にもお鉢が回ってくるでしょうけど、元々数が出ないから利益が薄く、撤退が相次いでいる状況です。

そこへ特需と喜べないのは、ただでさえ儲からない兵器産業で、米政府の要請でライセンス生産となると、守秘義務契約など煩雑な手続きを経て、しかも指定の輸入部品購入やライセンス料の支払いまで求められたら、果たして引き受ける企業があるかどうか。政府は重工メーカーなどに強引に引き受けさせるでしょうけど、見返りに別分野の事業で便宜を求められる可能性はあります。それが原発になるのか洋上風力になるのか、何らかの国策事業での不透明な意思決定をもたらす可能性はあります。政府が公共事業を減らせないのはこうした背景があるかもしれません。

こうした日本の不透明な政府統治をお手本にしたとすると、中国も同じ轍を踏むのはある意味当然なのかもしれません。そして同じように長期停滞に直面するということですね。逆に中国が先を言っているのが短期間に世界一の路線網をを展開した高速鉄道です。これも日本の新幹線のパクりと言われますが、京滬トッキョキョキャキョキュ^_^;で取り上げたように元々国鉄とメーカーの間で権利関係が曖昧なまま民営化され特許の空白となっていたのは日本側のミスですし、そもそも新幹線自体は鉄道という枯れた技術が土台ですから、ある意味模倣は容易だったと言えするでしょうけど、いつまでも「世界に管たる新幹線」という意識から抜けられないから隙を生んだとも言えます。

そして中国の高速鉄道プロジェクトはおそらく田中角栄氏の「日本列島改造論」を参考にしている節があります。国土の均衡ある発展のために新幹線網を全国に展開する一方、線路の空く在来線は貨物輸送強化で産業振興を図るというものですが、中国の高速鉄道は将にこれで、在来線も標準機ですから貨物輸送力も日本とは比較にならない大きなもので、世界の工場を支えました。

しかし一方で高速鉄道の収支は大赤字と暴かれました。これ日本でも北海道新幹線は今のところ単独では100億円規模の赤字です。青函トンネル区間という特殊事情があり、札幌延伸で収支は改善するでしょうけど、JR北海道の経営を支えるには至らないと見られます。新幹線も収益逓減の法則からは逃れられず、今後更に整備を続けるなら赤字は避けられないところです。

余談ですがロシア軌のウクライナの鉄道を標準機かするプロジェクトがウクライナの戦後復興に絡めて検討されています。ロシアによる黒海の海上封鎖でウクライナ産の小麦などの農産物輸出が困難になったことから、隣国ポーランドに合わせて標準機かすればEUの鉄道網で輸出が容易になるということで、実は中国も密かに支援を狙っています。というのは一帯一路の欧州側の出口という意味で、ロシアの影響力を排除したいのは中国も同じです。加えてカザフスタンなどロシア軌のの中央アジア諸国にも手を突っ込む可能性があります。21世紀のゲージ戦争はリアルにあり得ます。

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Sunday, October 02, 2022

連合王国の迷走

エリザベス女王の国葬が行われた先月19日。世界の要人がロンドンを訪れで弔意を表しました。日本の天皇皇后両陛下も参列した厳かな儀式ですが、イギリスの国葬は法律で定義されており、国家元首及び衆目の認める卓越した故人として、例えばアイザック・ニュートンも国葬で送られました。当然議会の同意を得ての話ですが。とはいえ過去の植民地支配の記憶もあり、旧植民地の反応は冷ややかなものも多いですし、またイギリス国内でも王政廃止して共和制へ移行すべしという議論もあります。面白いのは王政廃止論は主に保守党から出てきており、労働党は安定維持の立場から王政擁護の姿勢を見せております。

三位一体で原罪侵攻系 のイギリスバージョンとしてイングランド国教会というのがありまして、チューダー朝時代に王権を巡ってローマ教皇庁と対立し、イングランド国教会を設立してローマ教皇庁支配から離脱しました。教義に基づく離脱ではなく政治的なもので、喩えれば中世版Brexitですが、その過程で三位一体論に基づく神聖王権の概念を盾にアジア、アフリカへの進出を図ります。

生涯独身のエリザベス1世は聖母マリアに喩えられ、後に新大陸北東回廊をバージニア植民地と命名されるという流れです。なるほど日本の明治政府が天皇中心の国家統治を考えたのはお手本があった訳ですね。但し日本では国葬は国葬令という勅令によっていたため、戦後の新憲法制定で帝国憲法が失効したことで同時に効力を失いました。日本の国葬養護論者は認めたくないでしょうけど。そんなイギリスがえらいことになってます。

英ポンド最安値、大減税に動揺 世界市場へ新たな火種:日本経済新聞
米利上げの影響でポンド安が止まらずインフレに悩まされるイギリスですが、ジョンソン首相辞任に伴う後継の保守党トラス政権が打ち出した減税などの経済対策が嫌気され、国債金利上昇(価格下落)となり、イングランド銀行(BOE)が急遽国債買い入れしたものの嫌気され、ポンドが売り込まれる展開となりました。

Brexitに始まるイギリスの迷走は、Brexitで始まった通関手続きの影響で港湾に滞貨がたまり物流の遅れからイギリス経済を圧迫しましたし、コロナ禍がそれに輪をかけてしまいました。その結果コロナショックがイギリスでは供給ショックの度合いが強まり、加えてウクライナ危機側をかけますから、経済はガタガタになりました。そしてジョンソン首相が退任に追い込まれ、保守党の党首選で勝ち残ったトラス首相が打ち出した経済対策が減税中心の需要サイドに働きかける政策だったことで混乱が生じました。

インフレなんだよ愚か者という話ですが、供給ショックに需要喚起の政策を充てればより供給制約が深刻になるという常識が英保守党で失われている可能性があります。米共和党のトランプ支持派による伝統的保守派の圧迫もそうですし、イタリア総選挙での極右政党の勝利やフランス国民戦線の支持拡大などもあり、先進国共通の病巣があるのかもしれません。本来経済合理性を尊重する筈の保守派が経済を混乱させているということですね。

その流れから言えば日本の旧統一教会問題できちんと対応できない岸田政権ではアベノミクスの総括などできる道理がありません。その結果こんなことが起きる訳ですが。

政府・日銀、24年ぶり円買い介入 円一時140円台に上昇:日本経済新聞
為替介入に関してはめぇいあに露出している経済人でも間違った認識を持つ人が多く、国民に適切な説明もあsれませんが、1兆ドル以上とされる日本の外貨準備が介入の原資となります。但しそのほとんどは米財務省債として米国内で運用されており、その受取り利子も米国債に再投資されるのが通例ですから、介入原資となる流動資産(現預金)は日本円で19兆円程度であり、今回円建てで2.8兆円という過去最高額ですが、1日の出来高から見れば微々たる水準です。しかも使える原資は限られる訳ですし。

介入資金は財務省財務局の所轄で日銀に預託され運用されており、米ニューヨーク連銀の鋼材で管理されております。その一部を取り崩しての介入ですが、今回のようなドル売り円買い介入の場合、日銀が円を買う形になりますから、円の通貨量がその分減ることになるため、金融政策との整合性を取るために円資金の減少で生じる金利上昇を吸収するオペを実行して影響を抑えます。これを不胎化と呼びます。そうするとそもそも日米の金利差拡大で生じた円安であり介入効果を失うことになりますから、結局瞬間的に市場にショックを与えるだけで、効果は続きません。インフレ退治は金融政策で対応すべき問題なんです。しかし日銀は動きません。

実質で見る破格の円安 日本経済、「体力」低下著しく 齊藤誠・名古屋大学教授:日本経済新聞
斎藤教授の分析では、物価連動国債金利で表される実質金利と物価変動を加味した実質為替レートの関係をグラフにブロットした結果、1986年1月の1ドル200円を基準値とした2019年までのトレンドと21年以降のトレンドに明らかな乖離があり、この2年間の動きは複雑なんですが、結果的に19年の実質1ドル180円から21年には270円の水準となった訳で、これは1985年のプラザ合意前後の米ドルが1ドル250円が150円に下がったのと同等の減価で、ぶっちゃけ円の価値は2/3になったってことで、災害級の災難です。しかも世界の金融当局が通貨防衛の観点から利上げに動いている中で、主要国中銀では日銀だけが緩和継続している訳ですから、円安トレンドは今後も続くということになります。実質で見ると表面の数字以上のインパクトがある訳です。

日銀はインフレを原油高など海外要因で起きた一時的な現象として緩和継続を示唆し続けた訳ですが、なるほどWTI原油は80ドルを割る水準まで下がりましたが、円安がそれを帳消しにしている訳です。とはいえ日銀にも言い分はある訳で、異次元緩和からマイナス金利、イールドカーブコントロール(YYC)などで長期間緩和を維持してきた結果、日銀自身の国債保有が膨れ上がっており、利上げしろと言われてもその結果日銀自身のバランスシートを痛めてしまうジレンマがあります。つまり動くに動けない訳です。元々独立性が強くコロナ後の利上げに一番りしたBOEは逆に年金の国債保有による損失を避けるために国際買い取りに踏み込んだ訳で、金融秩序維持の意識が高い訳です。日銀もYYCの許容金利拡大ぐらいはやればできないことはありません。

日本国内を見渡せば、製造業の海外移転などによる空洞化が進み、衰退が明らかだった80年代のアメリカと被ります。それを象徴するこのニュース。

東芝再編、JICとJIPがそれぞれ提案 連携は解消 JIP案には中部電力が出資含め参画:日本経済新聞
かつてCOCOMしてますか?で取り上げた東芝機械のCOCOM規制違反事件ですが、アメリカから脅威と見られ言いがかりをつけられた東芝も今は昔。再建が進まず迷走しております。産業革新機構(JIC)と日本産業パートナーズ(JIP)は元々組んで海外ファンド勢と対峙してましたが、外為法改正で外資の株式保有が規制されたこともあり、投資妙味が薄いと様子見モードですが、上場維持のJICと非公開化のJIPで対立し、日本勢で争うことになりました。JIP陣営は中部電力などユーザー企業から資金を募っており名門企業の株式非公開化に現実味が出てきました。国策で潰せない企業として温存されることに変わりはありませんが。日本の企業統治改革の成れの果てという意味では80年代のアメリカ以上に重傷です。

てことで、イギリスやアメリカの心配よりも日本の心配をすべきなのでしょう。イギリスの鉄道改革は雑な制度設計で混乱がありましたが見直され、寧ろJR北海道などの経営不振で見習うべきじゃないかという見方もされました。ある意味イングランド王国時代から迷走し続けた「歩きながら考える」路線と見れば今の混乱もいずれ出口を見出すとは思います。逆にコロナ禍で経営悪化したJR各社や北海道新幹線の並行在来線問題が暗礁に乗り上げている現状を見ると、日本の方が出口が遠いかもしれません。残念ながら。

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