サイドバーの世界は経営でできている (講談社現代新書)はお勧めです。というか、中東で起きている戦争が、将に有限な価値の奪い合いという意味で「経営の失敗」を体現していると見ることができます。というわけで採らぬ狸の続編です。
中東情勢で対話路線の日本、米欧はイラン追加制裁探る G7外相 - 日本経済新聞
そもそもシリアのダマスカスのイラン大使館を攻撃したのはイスラエルであり、今回のイランのイスラエル攻撃はその報復として事前通告して自衛権の範囲を主張し軍事施設限定の攻撃で、しかもミサイルや自爆ドローンを多数使ったもののイスラエルの鉄壁な防空システムで99%迎撃されて実害無しなのにG7各国はイランへの追加制裁を協議するっておかしな流れです。日本が簡単に乗れない話です。
結果的にイスラエルもささやかな報復攻撃をして体面を保ち、これで形として手打ちになりそうです。イランもイスラエルも交戦を望まない形の落としどころを探ったってことです。この出来事からいろいろなことが見えてきますが、欧米はイスラエル寄りに偏っています。ウクライナの戦況が悪化する中でもイスラエルへの兵器支援は継続するアメリカと、その結果天然ガス供給不安からガザ沖ガス田を横目にイスラエルに強く出られない欧州という構図が見えます。
蛇足ですが、イランの報復攻撃はイスラエルの防空システムを可視化したという意味でイラン側にも成果はあったし、寧ろそれだけの情報収集能力があることを見せつけたという側面もあります。主権国家間の戦争という意味では、現代の戦争は情報戦であり心理戦なのだというリアルが明らかになった訳で、まともな情報収集能力も持たずトマホーク配備でドヤ顔の日本の安全保障議論の底の浅さにため息が出ます。
加えて軍事力のある大国同士は戦わないけど、国家ではなく自衛権の無いガザには容赦なくジェノサイドレベルの攻撃さえしてしまうという非対称な現実がある訳です。これ台湾有事に多くの示唆を与えます。国家承認されていない台湾に対しては集団的自衛権は行使できないから国際法上は台湾はガザと同じ立場ってことです。もちろん台北政府の実効支配下でアメリカの支援もあって軍備を整えていますから直ちにガザのようになることはないとしても、1つの中国の原則から内戦扱いとなる中台の紛争への介入は国際法違反となります。
安保理、パレスチナの国連正式加盟を否決 米国が拒否権 - 日本経済新聞
日本やフランスを含む圧倒的多数が賛成しながらアメリカが時期尚早として拒否権を発動するというお約束の展開ですが、パレスチナが国連加盟して名実共に独立国となった場合、ハマスの軍事部門はパレスチナ国軍の地位を得る訳で、テロ組織として制圧できない存在になる訳ですし、今回のイランとイスラエルのせめぎ会いのように腹の探り合いしなきゃならないイスラエル側から見れば厄介な存在になるということです。
てことで中東情勢がきな臭くなると当然ながら原油価格の上昇で日欧は苦しくなりますが、今や原油生産大国となったアメリカは寧ろ追い風で、ドル高も手伝って大儲けのアメリカに対して、輸入依存に加えて通貨安で二重苦の日欧はインフレに苦しみます。当然株価も下がります。にも拘らず防衛費調達のためにNTT法を改正して外国人の株式保有を認めるというトチ狂ったことに留まらず、こんな法律まで強引に賭してしまいました。
農業基本法改正案が衆院通過 与党・維新など賛成 - 日本経済新聞
食料安保を謳いながら平時の食糧自給率を高めるのではなく、有事に農家に作付けの変更を国が命令できるって戦時中に花き農家にイモの作付けを命令した愚を繰り返すってのは呆れてものが言えません。個別所得補償で農家にインセンティブを与えて自給率を高めるのではなく、非常事態を口実に国の統制を強めるというのは的外れもいいとこです。まして地域地域で土壌の性質も異なりますから、国が統制しても増産効果が得られる保証はありません。
民主主義対権威主義で指摘したように岸田政権は戦前の近衛文麿政権とそっくりのことをやって日本を戦争にいざなっています。それもこれも首相の指導力の欠如と政治の混乱で官僚がやりたい放題ってところがそっくりです。だからNTT法も農業基本法も官僚好みの統制的な内容になる訳で、政治における経営の失敗と見ることもできます。加えてこんなことも報じられております。
<独自>リニア新幹線全線開業「最速令和19年」と骨太の方針に明記へ 政府、目標時期を堅持
多分官僚のリーク記事でしょうけど、川勝静岡県知事の辞任でリニア工事が進むことを期待して、骨太方針で敢えて2037年の開業目標を明記するということなのでしょう。但し元々2037年は努力目標であって義務ではない訳で、狙いがわかりにくいんですが、JR東海へのプレッシャーを期待しているんでしょうか。今のところ他紙の後追い報道は見られませんし、名古屋開業も見通せない中で大阪延伸着工を早められる訳でもなく、ニュースバリューに疑問が湧きます。
但し奇しくもリニアが戦前の弾丸列車計画をなぞる相似相が見えてきています。国が弾丸列車計画へ傾斜したのは満州事変後に満州国が独立を宣言し日本国内との移動や輸送が増えたことで、東海道山陽線の輸送逼迫があり、輸送力増強の必要から南満州鉄道規格の新線を作って関釜連絡船を介して朝鮮統監府鉄道から満州の首都とされた新京まで直通させて輸送改善を図ることが意図されたのですが、盧溝橋事件を発端とする日華事変勃発で軍の補給も都なり、政府も前のめりとなります。それに留まらず大東亜共栄圏構想に沿って中国からインド中東を経て欧州に至る大陸横断超特急構想なんて妄想を膨らまし、シベリア鉄道に代わる輸送路確保まで考えられていましたが、敗戦でパアです。
とはいえ前線への補給のために軍が積極的に動き、用地の強制接取が行われ、その多くの部分が東海道新幹線の建設用地として転用され、また一部は名神高速道や第二神明、加古川バイパスなどの用地に転用されています。静岡県の日本坂トンネルは弾丸列車規格で作られて一時的に在来線が使用した後、東海道新幹線に再転用されてますし、新丹奈トンネルも工事は進んでいました。ある意味戦後の新幹線計画は弾丸列車計画のお陰で実現したとも言えます。
リニアに関しては民間事業なのに全幹法により国の関与がありますが、自己資金整備を打ち出したJR東海に安倍政権時代に3兆円の財投資金投入が決まったものの、開業時期はあくまでも最速の場合の努力目標で、それも名古屋開業後の着工という前提ですから、その名古屋開業が最速2034年ですから、どう逆立ちしても2037年大阪開業は無理なんですが、岸田政権お得意のやってるふりにはなるということなんでしょう。それよりももっと手前に問題山積ですが目立った動きはありません。
物流の弱点、人手不足以外にも 鉄道も海運も老い鮮明 物流クライシス㊦ - 日本経済新聞
ドライバー不足が言われますが、例えば高速道路の老朽化に伴う工事の増加で輸送時間が読みにくく、それに伴う人件費増加は運賃に転嫁しにくいということもあります。そしてインフラ維持の作業員確保も困難になっており、輸送インフラを単純い増やすだけでは解決しません。そして鉄道や海運へのモーダルシフトも、既に鉄道船舶共に輸送力が逼迫しており、新たな需要の受け入れは困難ですし、鉄道に関しては夜間保守間合いの増加による減便すらあり得るとなると、新たな対応を考えないといずれ破綻します。
その意味ではリニアの物流インフラとしての活用は選択肢になり得ます。40/1,000勾配がネックで貨物鉄道への転用は難しいかもしれませんが、リニモのような低速リニアでコンテナを運ぶぐらいはできそうです。貨物専用なら長大トンネルでの安全対策も軽減できますし、着工済みの工事が無駄になることもないです。例えば開業の見込みが立たないリニアを財投3兆円の借金のかたに国が接取する形でJR東海から切り離せば東海道新幹線のもうけを溶かさなくて済むから、JR東海にとってもメリットがあります。そのJR東海にでこんな動きがあります。
東海道新幹線「N700S」に完全個室席 2026年度に導入、1編成2室 - 日本経済新聞
これまでビジネス利用最優先でひたすら輸送力増強を続け、食堂車や個室も廃止したJR東海ですが、コロナ禍でビジネス客が戻りきらず、寧ろ週末や連休盆暮れの行楽や帰省利用のウエートが高まる一方、普通車の一部で3列シートのB列を潰してパーテーションで仕切ったビジネス席のようなことも始めており、これらのサービスはスペースに余裕のある鉄道ならではのサービスとして対航空との競争優位になり得るという気づきがあったのでしょう。当面は車内販売廃止で空いた業務用スペースの転用で需要を見極めるということでしょうが、いずれJR東日本のグランクラスのような3等級制移行も視野に入れて増収を図る方向性が見えてくるかもしれません。
もう一つオマケで北陸新幹線米原ルートを受け入れて東京対北陸の輸送に参入してJR東日本と競い合うという選択肢もあり得ます。その場合公費が投入され線路使用料で償還される、つまり儲からない整備新幹線区間はJR西日本が担当しますが、東名阪の3大都市圏アクセスを握っている訳ですから、整備区間から発生する需要の受け皿となる根元受益による増収効果もあります。リニアに拘らなければいろいろなビジネス展開が拓けます。JR東海も経営を取り戻せ。
能登半島地震から4か月以上経過して、未だに水道も復旧できないし。倒壊家屋やがれきの撤去も進まず、最近は報道すらされなくなっています。そしてボランティアが足りないと嘆く一方でボランティアを受け入れる宿泊施設は観光優先でそもそもボランティアの受け入れ態勢ができていないし、またボランティア加藤堂に対するバッシングもあって大っぴらにボランティア活動がやりにくく、地元の被災者もボランティアの援助を公言できないし、そもそもボランティアを集めるのは行政の仕事の筈なのに動きが鈍いしという状況です。
そして豊後水道のM6.6地震まで起きてやはり道路やインフラの弱さで支援が滞っております。そして四国電力伊方原発3号機で、地震後異常なしが素早く報じられた一方で細かなトラブルが後から明らかになるなどの原子力ムラ作法-_-;。最近の地震の多さから言えば、台湾有事より驚異の筈ですが、伊方3号機で深刻なのは稼働中でしかも地震による緊急停止が働かず、事後的に冷却電源が非常用に切り替わっていたことが明らかになるというなかなか深刻な状況です。大事に至らなかったとはいえ重大インシデントでは?経営の失敗は至る所で見られます。
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