鉄道貨物

Sunday, October 30, 2022

失われた中国の始まり

中国の習近平氏が異例の国家主席3期目を決めました。最高幹部を側近で固め、李克強、汪洋両氏が最高幹部を外れ、上海市トップでハードロックダウンを主導した李強氏が登用されるなど、あからさまに側近で固めた人事は、何だか安倍政権を思い起こさせます。鄧小平氏が決めた国家主席2期10年までとか、最高幹部定年68歳も反故にして69歳での3期目就任の一方、李克強、汪洋両氏は67歳で引退というアンバランスもあります。中国の集団指導体制に幕を引いたと言えるます。

元々日本の自民党長期政権を参考にしたと言われる集団指導体制ですが、太子党と共青団のように自民党の派閥政治に似たところがあり、政権内部での異論の包摂という意味でうまく機能していたとは言えます。それでも天安門事件が回避できなかったように、共産党一党支配という規範を越えるものではない訳ですが、その点は日本でも親米保守という規範を越えられないという意味で似たり寄ったりではあります。

そして官邸を側近で固めて総裁任期延長や抜き打ちの衆院解散などで自民党の強みであった異論包摂の多様性は失われましたが、同様に党大会などの行事の開催時期を恣意的に動かしたり、反腐敗で政敵を粛清したりした習近平氏の手法は安倍政権と通底します、そして突然の民間ハイテク企業の規制強化で共同富裕を打ち出した一方、アメリカの半導体輸出規制に対抗して国産化を進めてますが、バイデン政権が半導体製造装置を含む輸出規制強化で道を塞がれています。

微細加工の先端半導体は歩留まりが悪くなりますので、使えるチップを大量に供給する難易度は高い訳で、その辺をクリアしてから台湾TSMCは米インテルを凌ぐ世界トップの位置を得た訳ですが、後追いするのは困難を伴います。この辺は日本メーカーも同じですが、設備投資と技術開発投資を継続できなければ追いつけません。その一方で自動車その他必ずしも最先端素子ばかりが需要される訳ではなく、量的には旧世代半導体の方がボリュームゾーンでもあります。しかし競争が激しく経済動向も絡んで市況商品として価格変動が激しいので、その分野で留まる限り安定した収益を得ることは難しい訳です。日本のDRAM敗戦は典型的ですが、中国が同じ轍を踏む可能性は高いと言えます。

加えて資源インフレで世界経済が布教に向かう局面となれば、奇跡的な成長を続けた中国経済も長期停滞は免れないと考えられます。人口動態も生産年齢人口が予想より早く減少に転じた模様で、この点も日本の後追いと言えます。日本の失われた30年が中国で再現されるという訳ですね。国内の不動産バブル崩壊も経済の足を引っ張ります。

となると台湾併合は先端半導体を手に入れることにもつながりますが、逆に台湾が先端半導体で世界をリードできたのは、世界になくてはならないオンリーワンとなることで、先進諸国の関与を強めて中国の圧力をかわす目的があります。独立を果たせない台湾故の生き残り戦略であり戦略的経済安全保障と言えます。その意味で日本で議論される経済安全保障のなんと底の浅いことか。

習近平氏は台湾併合に軍事オプションを排除しない姿勢を見せてますが、あくまでも最終手段であって今すぐという話ではない訳で、日本の台湾有事の議論も的外れです。寧ろ台湾は未承認故に集団的自衛権行使の対象にならないという法的問題もある訳で、それも含めてクリアすべき課題は多いと言えます。恐らく防衛力強化の口実ということなんでしょうけど、半導体不足と共にウクライナ紛争が影を落とします。

冷戦終結に伴う米国防費の削減で軍需産業の生産能力は大幅に縮小しており、その中でロシアのウクライナ侵攻が起きてウクライナに対する兵器供与が続いている訳ですが、その結果米軍需産業の生産能力がボトルネックになってきており、米政府は西側諸国に生産協力を求めています。当面ウクライナ向けの出荷が最優先ですから、日本向けは後回しでしょう。兵器増産は日本の防衛産業にもお鉢が回ってくるでしょうけど、元々数が出ないから利益が薄く、撤退が相次いでいる状況です。

そこへ特需と喜べないのは、ただでさえ儲からない兵器産業で、米政府の要請でライセンス生産となると、守秘義務契約など煩雑な手続きを経て、しかも指定の輸入部品購入やライセンス料の支払いまで求められたら、果たして引き受ける企業があるかどうか。政府は重工メーカーなどに強引に引き受けさせるでしょうけど、見返りに別分野の事業で便宜を求められる可能性はあります。それが原発になるのか洋上風力になるのか、何らかの国策事業での不透明な意思決定をもたらす可能性はあります。政府が公共事業を減らせないのはこうした背景があるかもしれません。

こうした日本の不透明な政府統治をお手本にしたとすると、中国も同じ轍を踏むのはある意味当然なのかもしれません。そして同じように長期停滞に直面するということですね。逆に中国が先を言っているのが短期間に世界一の路線網をを展開した高速鉄道です。これも日本の新幹線のパクりと言われますが、京滬トッキョキョキャキョキュ^_^;で取り上げたように元々国鉄とメーカーの間で権利関係が曖昧なまま民営化され特許の空白となっていたのは日本側のミスですし、そもそも新幹線自体は鉄道という枯れた技術が土台ですから、ある意味模倣は容易だったと言えするでしょうけど、ます。いつまでも「世界に管たる新幹線」という意識から抜けられないから隙を生んだとも言えます。

そして中国の高速鉄道プロジェクトはおそらく田中角栄氏の「日本列島改造論」を参考にしている節があります。国土の均衡ある発展のために新幹線網を全国に展開する一方、線路の空く在来線は貨物輸送強化で産業振興を図るというものですが、中国の高速鉄道は将にこれで、在来線も標準機ですから貨物輸送力も日本とは比較にならない大きなもので、世界の工場を支えました。

しかし一方で高速鉄道の収支は大赤字と暴かれました。これ日本でも北海道新幹線は今のところ単独では100億円規模の赤字です。青函トンネル区間という特殊事情があり、札幌延伸で収支は改善するでしょうけど、JR北海道の経営を支えるには至らないと見られます。新幹線も収益逓減の法則法則からは逃れられず、今後更に整備を続けるなら赤字は避けられないところです。

余談ですがロシア軌のウクライナの鉄道を標準機かするプロジェクトがウクライナの戦後復興に絡めて検討されています。ロシアによる黒海の海上封鎖でウクライナ産の小麦などの農産物輸出が困難になったことから、隣国ポーランドに合わせて標準機かすればEUの鉄道網で輸出が容易になるということで、実は中国も密かに支援を狙っています。というのは一帯一路の欧州側の出口という意味で、ロシアの影響力を排除したイノは中国も同じです。加えてカザフスタンなどロシア軌のの中央アジア諸国にも手を突っ込む可能性があります。21世紀のゲージ戦争はリアルにあり得ます。

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Sunday, October 02, 2022

連合王国の迷走

エリザベス女王の国葬が行われた先月19日。世界の要人がロンドンを訪れで弔意を表しました。日本の天皇皇后両陛下も参列した厳かな儀式ですが、イギリスの国葬は法律で定義されており、国家元首及び衆目の認める卓越した故人として、例えばアイザック・ニュートンも国葬で送られました。当然議会の同意を得ての話ですが。とはいえ過去の植民地支配の記憶もあり、旧植民地の反応は冷ややかなものも多いですし、またイギリス国内でも王政廃止して共和制へ移行すべしという議論もあります。面白いのは王政廃止論は主に保守党から出てきており、労働党は安定維持の立場から王政擁護の姿勢を見せております。

三位一体で原罪侵攻系 のイギリスバージョンとしてイングランド国教会というのがありまして、チューダー朝時代に王権を巡ってローマ教皇庁と対立し、イングランド国教会を設立してローマ教皇庁支配から離脱しました。教義に基づく離脱ではなく政治的なもので、喩えれば中世版Brexitですが、その過程で三位一体論に基づく神聖王権の概念を盾にアジア、アフリカへの進出を図ります。

生涯独身のエリザベス1世は聖母マリアに喩えられ、後に新大陸北東回廊をバージニア植民地と命名されるという流れです。なるほど日本の明治政府が天皇中心の国家統治を考えたのはお手本があった訳ですね。但し日本では国葬は国葬令という勅令によっていたため、戦後の新憲法制定で帝国憲法が失効したことで同時に効力を失いました。日本の国葬養護論者は認めたくないでしょうけど。そんなイギリスがえらいことになってます。

英ポンド最安値、大減税に動揺 世界市場へ新たな火種:日本経済新聞
米利上げの影響でポンド安が止まらずインフレに悩まされるイギリスですが、ジョンソン首相辞任に伴う後継の保守党トラス政権が打ち出した減税などの経済対策が嫌気され、国債金利上昇(価格下落)となり、イングランド銀行(BOE)が急遽国債買い入れしたものの嫌気され、ポンドが売り込まれる展開となりました。

Brexitに始まるイギリスの迷走は、Brexitで始まった通関手続きの影響で港湾に滞貨がたまり物流の遅れからイギリス経済を圧迫しましたし、コロナ禍がそれに輪をかけてしまいました。その結果コロナショックがイギリスでは供給ショックの度合いが強まり、加えてウクライナ危機側をかけますから、経済はガタガタになりました。そしてジョンソン首相が退任に追い込まれ、保守党の党首選で勝ち残ったトラス首相が打ち出した経済対策が減税中心の需要サイドに働きかける政策だったことで混乱が生じました。

インフレなんだよ愚か者という話ですが、供給ショックに需要喚起の政策を充てればより供給制約が深刻になるという常識が英保守党で失われている可能性があります。米共和党のトランプ支持派による伝統的保守派の圧迫もそうですし、イタリア総選挙での極右政党の勝利やフランス国民戦線の支持拡大などもあり、先進国共通の病巣があるのかもしれません。本来経済合理性を尊重する筈の保守派が経済を混乱させているということですね。

その流れから言えば日本の旧統一教会問題できちんと対応できない岸田政権ではアベノミクスの総括などできる道理がありません。その結果こんなことが起きる訳ですが。

政府・日銀、24年ぶり円買い介入 円一時140円台に上昇:日本経済新聞
為替介入に関してはめぇいあに露出している経済人でも間違った認識を持つ人が多く、国民に適切な説明もあsれませんが、1兆ドル以上とされる日本の外貨準備が介入の原資となります。但しそのほとんどは米財務省債として米国内で運用されており、その受取り利子も米国債に再投資されるのが通例ですから、介入原資となる流動資産(現預金)は日本円で19兆円程度であり、今回円建てで2.8兆円という過去最高額ですが、1日の出来高から見れば微々たる水準です。しかも使える原資は限られる訳ですし。

介入資金は財務省財務局の所轄で日銀に預託され運用されており、米ニューヨーク連銀の鋼材で管理されております。その一部を取り崩しての介入ですが、今回のようなドル売り円買い介入の場合、日銀が円を買う形になりますから、円の通貨量がその分減ることになるため、金融政策との整合性を取るために円資金の減少で生じる金利上昇を吸収するオペを実行して影響を抑えます。これを不胎化と呼びます。そうするとそもそも日米の金利差拡大で生じた円安であり介入効果を失うことになりますから、結局瞬間的に市場にショックを与えるだけで、効果は続きません。インフレ退治は金融政策で対応すべき問題なんです。しかし日銀は動きません。

実質で見る破格の円安 日本経済、「体力」低下著しく 齊藤誠・名古屋大学教授:日本経済新聞
斎藤教授の分析では、物価連動国債金利で表される実質金利と物価変動を加味した実質為替レートの関係をグラフにブロットした結果、1986年1月の1ドル200円を基準値とした2019年までのトレンドと21年以降のトレンドに明らかな乖離があり、この2年間の動きは複雑なんですが、結果的に19年の実質1ドル180円から21年には270円の水準となった訳で、これは1985年のプラザ合意前後の米ドルが1ドル250円が150円に下がったのと同等の減価で、ぶっちゃけ円の価値は2/3になったってことで、災害級の災難です。しかも世界の金融当局が通貨防衛の観点から利上げに動いている中で、主要国中銀では日銀だけが緩和継続している訳ですから、円安トレンドは今後も続くということになります。実質で見ると表面の数字以上のインパクトがある訳です。

日銀はインフレを原油高など海外要因で起きた一時的な現象として緩和継続を示唆し続けた訳ですが、なるほどWTI原油は80ドルを割る水準まで下がりましたが、円安がそれを帳消しにしている訳です。とはいえ日銀にも言い分はある訳で、異次元緩和からマイナス金利、イールドカーブコントロール(YYC)などで長期間緩和を維持してきた結果、日銀自身の国債保有が膨れ上がっており、利上げしろと言われてもその結果日銀自身のバランスシートを痛めてしまうジレンマがあります。つまり動くに動けない訳です。元々独立性が強くコロナ後の利上げに一番りしたBOEは逆に年金の国債保有による損失を避けるために国際買い取りに踏み込んだ訳で、金融秩序維持の意識が高い訳です。日銀もYYCの許容金利拡大ぐらいはやればできないことはありません。

日本国内を見渡せば、製造業の海外移転などによる空洞化が進み、衰退が明らかだった80年代のアメリカと被ります。それを象徴するこのニュース。

東芝再編、JICとJIPがそれぞれ提案 連携は解消 JIP案には中部電力が出資含め参画:日本経済新聞
かつてCOCOMしてますか?で取り上げた東芝機械のCOCOM規制違反事件ですが、アメリカから脅威と見られ言いがかりをつけられた東芝も今は昔。再建が進まず迷走しております。産業革新機構(JIC)と日本産業パートナーズ(JIP)は元々組んで海外ファンド勢と対峙してましたが、外為法改正で外資の株式保有が規制されたこともあり、投資妙味が薄いと様子見モードですが、上場維持のJICと非公開化のJIPで対立し、日本勢で争うことになりました。JIP陣営は中部電力などユーザー企業から資金を募っており名門企業の株式非公開化に現実味が出てきました。国策で潰せない企業として温存されることに変わりはありませんが。日本の企業統治改革の成れの果てという意味では80年代のアメリカ以上に重傷です。

てことで、イギリスやアメリカの心配よりも日本の心配をすべきなのでしょう。イギリスの鉄道改革は雑な制度設計で混乱がありましたが見直され、寧ろJR北海道などの経営不振で見習うべきじゃないかという見方もされました。ある意味イングランド王国時代から迷走し続けた「歩きながら考える」路線と見れば今の混乱もいずれ出口を見出すとは思います。逆にコロナ禍で経営悪化したJR各社や北海道新幹線の並行在来線問題が暗礁に乗り上げている現状を見ると、日本の方が出口が遠いかもしれません。残念ながら。

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Saturday, September 17, 2022

物流を止めるな

コロナショックは従来の経済ショックと異なる面があります。大恐慌やリーマンショックなどは金融の混乱で消費が委縮したことで起きた需要ショックと言えますが、70年代の2度の石油ショックは石油の供給不安からの供給ショックと言えます。第三次オイルショックエントリーで指摘したように、需要ショックに対しては所謂ケインズ効果を狙った財政出動で需給ギャップを埋める政策が合理的です。一方供給ショックに対しては、需要喚起するとインフレが進んで経済を圧迫しますから、基本的には市場に委ねて需給調整するのが合理的です。その意味では総需要抑制策で市場調整を促す政策に合理性がある訳で、実際日本では福田政権でそれを実証している訳です。

コロナショックはロックダウンや行動制限などによる需要の蒸発という意味では需要ショックですが、一方で医療や物流などの供給側に供給制約を課す供給ショックの側面もあります。それ故に各国政府の対応も混乱した訳ですが、需要ショックの側面で見れば、旅行や外食が需要蒸発した一方、巣篭り需要で食品スーパーや電子商取引(EC)に需要シフトした訳ですから、経済セクター毎に影響はまだら模様で、またそのことが給付金を巡る混乱や不正などに繋がった訳です。勿論医療も影響を受けますが、初期に複数の医療機関でクラスター感染が発生したこともあり、一般診療は激減した一方、PCR検査やコロナ診療やワクチン接種という特需も享受しています。そんな中で考えさせられるこのニュース。

医療費、再び過去最高に 21年度4.6%増の44.2兆円:日本経済新聞
検査精度の高いPCR検査ですが、何故か日本では忌避論が言われました。出所はどうやら厚労省の医系技官らしいんですが、なるほどPCR検査はそれなりにコストがかかりますから、医療費の膨張で財務省からつつかれるのを嫌がったってことだとつじつまが合います。ぶっちゃけ保身ですね。

一方でコロナ病床確保の補助金を受け取りながらコロナ患者を受け入れない病院の問題などが報じられましたが、陰圧室や別棟で専門スタッフを置くといった対応が出来なければ院内感染の恐れがある訳で、受け入れが難しいのも確かです。だからコロナ受け入れを大病院に集約して専門スタッフも集約するということが必要でしたが、それだとコロナ関連の補助金が小規模病院に行き渡らない訳で、医師会がいい顔しない訳で、本来その辺を差配すべき医系技官がまともに働かなかったってことですね。

というう具合にコロナによる経済ショックは一筋縄ではいかない訳で、ある程度混乱はやむを得ない部分はあります。但し一方で疫学データも出揃ってきているのですから、経過観察期間の短縮や行動制限緩和や海外からの入国制限の緩和なども必要に応じて行うこと自体は必要な事なんですが、それに伴う見直しの根拠に完成手は納得のいく説明がされていないし冬に予想される第8波の備えもはっきりしないという状況です。

物流の混乱は主にアメリカのコロナ感染拡大に伴う港湾労働者の人手不足が原因ですが、裏には港湾労働者を含む低所得労働者の感染爆発がある訳で、それに加えてECの拡大による巣篭り需要で、主にアジア地域からの輸入が増えて西海岸のロスアンジェルス港やロングビーチ港にコンテナ船が殺到して、荷役が進まないから沖合待機させられて、世界中の海運が滞る事態になった訳です。つまり需要の拡大に供給が追い付かないという意味での供給ショックが起きた訳です。ちなみにアメリカの対中貿易赤字も拡大していますから、米中デカップリングどこ吹く風の現実が垣間見えます。その意味でこのニュースは結構重大です。

米国、鉄道スト警戒強まる 長距離路線はキャンセルに:日本経済新聞
スト自体はバイデン大統領の仲介で回避されましたが、実施されれば国内物流の30%を分担する鉄道貨物が止まる訳ですから、その影響はかなり大きい訳です。故に大統領が仲介して事なきを得ましたが、鉄道各社は従業員の賃上げや待遇改善を約束されました。当然運賃へ波及しますからインフレを助長しかねない訳ですが、賛否は分かれます。

トランプ時代にデタラメだったコロナ対策を立て直して経済を回復させたものの、その結果賃金上昇でインフレが止まらない事態を招いている訳ですが、何もしなければより大きな経済ショックを招きかねない中で、批判を覚悟の決断だったと思います。こういうことが所謂政治決断というやつで、目先の批判は受け入れるけど信念を以て動くというのは日本ではなかなか見られないことではあります。逆に政治家が邪魔して要らぬ災難を招く例は枚挙に暇はありません。

KADOKAWAの角川歴彦会長を逮捕 五輪汚職、贈賄容疑:日本経済新聞
アンダーコントロールのウソで招致し、旧国立競技場や都営霞ヶ丘住宅を解体して神宮の森を利権まみれにしてコロナ禍で無観客で経済効果無しの東京五輪ですが、出るわ出るわの五輪利権汚職です。被害者や国民だということは忘れてはいけません。スポーツ界からは札幌五輪招致への影響を危惧する声が聞こえますが、そういう問題じゃないだろ(怒))。一応予定では北海道新幹線札幌開業のタイミングですから、北海道としてもやりたいでしょうけど、その前に北海道新幹線の並行在来線問題が未解決なのは衰退途上国の在り方l で指摘しましたが、続報が出ました。
青函の貨物維持、国主導でJR貨物・JR北海道と協議へ:日本経済新聞
これは並行在来線引き受けを巡る自治体との協議とは別に、現実的な落としどころを探る動きです。現実問題として船舶へのシフトは難しいし、また例えば同島産のジャガイモはJR貨物で熊谷貨物ターミナルに運ばれてそこから仕向け地にトラック輸送される形で物流倉庫などが整備されている訳で、船舶シフトは受け入れる関東側のインフラも整備する必要がある訳です。JR貨物がみずほ総研に依頼した試算の経済損失は主に北海道の話ですから、こうした需要地側の経済損失もまた考える必要がある訳です。

また同試算で並行在来線三セクが毎年30億円規模の赤字ということもあり、自治体の協議がフリーズしている状況を打開する必要もあります。資産に貨物調整金が反映されているかどうかは定かではありませんが、財源は新幹線リース慮負担後のJR旅客会社の受益分ですから、元々収益性の弱い北海道新幹線では十分な負担が出来ない可能性はあります。実際北陸新幹線金沢開業でサイダーバードの富山乗り入れが無くなったのも、JR西日本の負担能力でカバーしきれない結果と言える訳です。

国が動いたことで、国交省は鉄道貨物を残す方向性を明らかにした訳ですが、北海道庁は動く気配がありません。沿線市町村だけでは毎年30応円の赤字を出す並行在来線三セク鉄道について協議しろと言っても無理ですし、国が助け船を出すとしても交通政策基本法の趣旨に照らせば地元からの働きかけが無いと動けない訳で、道が取りまとめに動くのが望ましいのですが、目先の経済損失よりも五輪招致の方が大事なのかな?だとすればそんな道知事や道議は落選させるべきです。道(どう)が道(みち)を誤らないことを祈ります。

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Sunday, September 11, 2022

衰退途上国の在り方

NISAホイサッサの迷走ぶりは、確定拠出型年金でも同様です。

「放置年金」5年で7割増2400億円 運用機会111万人逃す 転職時手続き忘れ、現金で管理
企業向け確定拠出年金(DC)は鳴り物入りで導入されたものでアメリカの制度に倣った「日本版401k」とも呼ばれました。確定給付型企業年金が厚生年金の受託分を含めて企業の自主運用で従業員に給付額を約束するのに対して、DCは拠出額が決まっていてその範囲内で従業員が自ら選んだ投資商品で運用する仕組みで、アメリカでは定着した仕組みで、転職しても転職先で続けられる可搬性のある個人主体の制度として期待されましたが、採用企業は限られ、転職先がDC不採用だったり、早期リタイアで自営若しくは未就業となった場合は、個人向け確定拠出年金(iDeCo)へ変更するか解約して現金化する必要がありますが、それが放置されているケースが多く月額52円の事務手数料が引き落とされてしまうというもの。やはり制度が理解されず迷走している訳です。

こういうことが日本では多いと感じます。政府の統治システムの劣化を感じさせます。コロナ問題でも分科会での専門家の意見集約もないままに、全数検査を無くし陽性者の待期期間の短縮を打ち出すなどしてますが、何れも実務上の調整項目が多く、政治判断だけで出来る話じゃありません。実際専門家からは懸念の声が出ていますし、実際感染者数も減っているとはいえ高水準ですし、何より志望者数が多い点は問題です。それも自宅療養中の重症化とか、明らかに医療の包摂が出来ていない中で起きている点は重大です。

国民の命を軽視しる一方、国葬はやるという姿勢を崩しません。これも正確には国葬儀であって戦前の国葬とは別物と説明されてますが、それならなぜ国会に諮らなかったのか、司法の見解を確認しなかったのかが問題です。国会で多数派なんですから、最終的には実施する方向で採決できるし、司法が待ったをかける可能性も低いのに、内閣府設置法を根拠に国事行為を閣議決定で決められるとしたところが問題なんです。法的根拠のない国事行為を内閣が勝手にやるということですね。

実際世論調査では反対が多数派ですし、特に旧統一教会問題で安倍元首相がキーマンと見られていることで、このまま知らぬ存ぜぬで押し切ろうというのですから無責任です。他人の死を利用しようという意図が見えます。そしたら英エリザベス女王の死去のニュース。こちらは慣習法の国の国家元首の話ですから当然のように国葬が行われます。エリザベス女王の時代はイギリスの衰退の歴史を刻んだ訳ですが、逆にアベノミクスでインチキ成長戦略の安倍元首相の国葬儀が霞みます。「悼む人がいるんだから反対するな」というのも、おかしい訳で、政府が国費を投じて行う儀式である以上、反対派を説得する責任があります。

日本の失われた30年ですが、90年代半ば以降の生産年齢人口の減少による潜在成長率の低下が構造問題としてある訳で、それに対して適切な資本装備の強化ではなく非正規雇用の拡大で賃金抑制を図った結果、国民の購買力を低下させた結果が現在な訳で、小泉改革からの一連で事態は悪化の一途を辿っています。ドル円も140円を突破して輸入物価上昇が明らかに消費にブレーキをかけているのに日銀は動けないという形でアベノミクスの負のレガシーに苦しめられている訳です。

人口動態の変化は現役世代にとっては雇用面でメリットの筈ですが、実際は非正規雇用の拡大で労働市場が分断された結果、正規雇用者の賃金抑制も起きている訳ですが、とりあえず新卒の就職難がないことで若者の現状維持の心理からか保守化しているという現状です。アメリカではオキュパイ・ウォールストリート運動のように若者ほどリベラルな傾向があり、保守層は中高年白人男性とヒスパニック系反共主義者が中心という状況です。これはこれで深刻な分断ではありますが、日本では分断というよりも統治機構の劣化の影響の方が大きい気がします。

だから役に立たない成長戦略で空回りしていて、NISAもDCも外国の制度を参考にするの悪くはありませんが、それで不具合があれば見直してブラッシュアップしていくことが必要なのに、省庁の壁や政治家の身勝手でおかしくなっている訳です。そんな中で、来週には飛べないジョナサンが走ります。長崎は狭軌だけだった時点で軌間可変車両の開発は挫折すると予想しておりましたが、その通りになりました。結果的にスーパー特急からフル規格に変更した武雄温泉以西の整備区間が孤立状態で開業することになりました。特急かもめリレー号で武雄温泉でホームツーホームの乗換とはなりますが、乗換なしの九州急行バスがほくそ笑んでいるでしょう。新鳥栖—武雄温泉間のフル規格事業化は佐賀県の反対と財源問題で当面見込めません。

幸いなのは並行在来線となる長崎本線肥前山口―諫早間は、当面上下分離で」JRが運航継続となっておりますが、肥前鹿島までは博多からの特急列車運行のために電化路線が残りますが、一方肥前鹿島以西は電化設備を撤去してキハ40系のローカル列車だけとなります。九州新幹線の並行在来線の肥薩オレンジ鉄道ではJR貨物が出資することで電化設備を維持しましたが、貨物は既にJR貨物がトラック輸送に切り替えたため問題になりませんでしたが、事業の見直しが出来ないままの泥縄対応です。

そして並行在来線問題では北海道新幹線の並行在来線となる函館本線新函館北斗―長万部間の存続問題がネットを賑わせています。現時点で地元自治体は引受を表明せず、北海道庁も動いておりませんが、引受のハードルは高く、年30応円程度の赤字必至ですから、何らかの公的助成なしには実現できません。東北や北陸では貨物調整金と称する引受三セクが受け取る金額とJR貨物が負担する金額との差額を新幹線リース料に上乗せする形で対応しましたが、その結果北陸ではサンダーバードの金沢打切りと新幹線つるぎの運行という落としどころとなりました。

一方JR貨物の依頼で貨物廃止の場合の経済損失はみずほ総研の試算で1,453億円と弾き脱されており、特に北海道産農産品の天候ん左右されない市場アクセスインフラとして重要です。ザックリ2%強の負担で経済損失を回避できるんですから経済合理性はありますが、協議が進む気配はありません。対案として国交省で検討されたのが船舶輸送への置換えですが、そうすると天候に左右されますし、室蘭港にしろ苫小牧港にしろキャパシティに余裕はなく、また輸送時間も伸びると予想され断念されます。道内から積み出し港までのトラック輸送もドライバー不足で難しくなっておりますし。

あと民間で構想として検討されているのが第二青函トンネルですが、多額の公費投入が不可避なだけに、費用便益分析のよるB/C比がどうなるか不明です。ということで、当面は何らかの公的助成で並行在来線を残すのが最も現実的な解になる訳です。それと東北新幹線の並行在来線IGRいわて銀河鉄道と青い森鉄道も減収となります。とはいえ貨物のために地元負担を求めるのは難しい訳で、おそらく国交省では落としどころを考えていると思います。

あくまでも予想ですが、当該区間の鉄道・運輸機構によるJR北海道からの買い取りで貨物専用線として存続させることは考えていると思います。一応2025年までに結論を出すことになっておりますので、ギリギリのタイミングで官邸へ上げて政治判断を引き出すということになると思います。これはこれで泥縄ですが、経済合理性から考えてこれしかないでしょう。その場合三セクによる旅客輸送は無くなります。」

その上でJR北海道への売却代金の財源として機構がJR北海道へ融資している債権の棒引きで対応すれば敢えてこのための予算もいりません。似たようなことは債務の株式化(デッド・エクイティ・スワップ)の形でJR北海道株式の引受は行われております。JR北海道は売却代金を新千歳空港新ターミナル乗り入れに伴う線路付け替えなどの事業費に充てることで経営基盤を強化して、あわよくば株式上場ということになるでしょうか。その際JR九州のように経営安定基金の取り崩しを行って減価償却前倒しと言ったシナリオを考えている可能性はあります。そうすれば株式化された債権の元もとれますし。

こううまくいくかどうかはともかく、経済合理性を無視した貨物廃止は考えにくいところです。尤も経済合理性を無視してフル規格化した西球種新幹線や北陸新幹線の小浜京都ルートのような経済合理性無視がたびたび起きていることもまた事実ですが、こうして経済活性化どころか衰退を早めるとすれば国民として不幸なことです。統治の劣化が進む現状から言えばあり得ない話じゃないことが怖いですが。衰退途上国として賢く縮むことは重要です。

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Sunday, August 21, 2022

カルト資本主義国ニッポン

コロナ関連の続きのニュースです。

コロナ全数把握見直し、高齢者の健康管理は維持 厚労相:日本経済新聞
全数把握と称する感染者数の公式発表に取りこぼしがあることは確実なのにそれすらやめようってのはおかしいですね。それでも感染者数の増加傾向を捉えて国民が自主的に行動変容しているからこの程度で済んでいる現実があります。また病床使用率の低さも言われますが、逆に自宅待機の軽症中等症患者から死者が出ている現状は、寧ろ医療の包摂が不十分な結果なんですから、そこへの手当をせずに寝言言うなと言いたいところです。

また2類から5類への変更ですが、そもそも特措法が準拠法規で感染症法上の分類で2類相当とか5類相当とか言っているだけで、実際の感染状況を踏まえた運用が可能な法的建付けにはなっています。2類相当だから医療が逼迫している訳ではなく、現実を踏まえれば現状の大きな変更は時期尚早と言えます。また5類相当で通常の保険診療となって感染者に自己負担が生じれば、感染を隠すインセンティブになりかねず危険です。欧米での規制緩和は医療体制の違いから来るもので、感染者数に代わる高精度のデータが取得できることが前提ですから、カルテの共有すらできていない日本で同じことやれば悲惨な結果になりかねません。

話は変わりますが、アメリカ議会で歳出・歳入法が成立しました。

米国歳出・歳入法が成立 大統領「気候変動対策で前進」:日本経済新聞
バイデン大統領が当初ぶち上げたメイド・バイ・アメリカン法が与党内からも反対に遭って妥協の結果より小粒ですが、半導体製造や脱炭素の投資促進に財政資金を拠出して国内製造業をシフトしようとする意欲的な目標が掲げられております。中国などに比べて拠出額が少ないという批判はあるものの、バイデン政権の目玉政策が具体化されたことは一歩前進です。

そして財源に法人課税の強化を打ち出した点が画期的で、大企業で課税が利益の15%を下回る企業の課税強化と株価対策の自社株買いに対する1%課税としてコロナで緩んだ財政健全化に道筋をつけたことで、インフレによる利上げで将来の金利負担を回避する姿勢を鮮明にしています。インフレ退治はFRBの責任であり、それに対して政府は圧力をかけず、寧ろ金利上昇に先手を打つという意味で、事実上の財政ファイナンスで身動きが取れない日本の日銀と政府の関係とは大違いです。加えて日本の法人税制の大甘ぶりがあります。

ソフトバンクG、繰り返す法人税ゼロ 税制見直し議論も 2007年3月以降の15年間で課税は4回:日本経済新聞
通信事業者のソフトバンクではなく親会社にあたるSBGの話ですが、実態は多数の企業の株式等を保有する投資会社であり、日本の税制では財界の「法人税と二重課税になる」という謎理論で法人企業所有株式の配当所得は非課税となっていることによるものですが、同様のことはホールディングスと称する持株会社で実体的事業を非公開の子会社に持たせて配当で利益を吸い上げて別の事業に投資すれば課税されないという形で使われたりしています。自民党総裁選で金融所得課税改革を掲げて批判を浴びた岸田首相ですが、本来は手を付けるべきところです。

とはいえアメリカも問題だらけで特にFRBの利上げがどこまで続くかで迷いが生じています。

FRB利上げ、減速探る第2幕へ 「決め打ち」路線転換 7月議事要旨を公表:日本経済新聞
FRBも利上げ原則を織り込みつつ、決め打ちせずに経済指標を見ながらという柔軟路線です。足許ではコロナ禍で伸びた巣篭り消費が減速して製造業で在庫増加が見られ、景気の先行きの悪化を示唆しますが、一方でコロナ後のリベンジ消費としての旅行や外食などのサービス消費は盛んですが、その結果サービス従事労働者の人手不足となり雇用を逼迫させているため、FRBとしては簡単に引き締めを止められない事情があります。

裏事情としてトランプ時代から継続して移民流入減が続いており、センシティブな問題なのでバイデン政権は有効な対策を打ち出せず共和党ステートと言われるメキシコ国境と接する南部諸州との政治対立もあって中間選挙を控えて触れない状況にあります。もつれにもつれたアメリカですが、同様の事情は欧州にもあって、シリア紛争などでイスラム系難民が押し寄せても追い返す一方、ウクライナ難民は受け入れているものの、女性や子供中心で労働力化が難しいということもあり、やはりサービス消費の拡大に人手の手当が追い付いていない現実があります。

一方の日本はコロナ禍の影響でサービス業の自粛要請もありコスト削減から営業時間の短縮や閉店で当面推移しそうです。それでもコロナ禍による技能実習生や留学生の減少で人手不足は進んでいますが、欧米との比較ではまだマシなのか、あるいは最低賃金が低過ぎてる結果なのか、人手不足によるインフレは目立ちません。日本では寧ろ円安による輸入物価上昇の影響がインフレを引き起こしていると言えます。

「円安で輸出が増える」のは国内企業の国内設備投資を増やさないと無理ですが、多くの企業が海外投資を重視してきた結果、国内製造業の弱体化が進み、逆に円安で海外拠点からの利益がかさ上げされますから、ますます国内投資に消極的になります。加えて輸入原材料の値上げで残った国内製造業の利益圧迫があり、さりとて国内消費が弱い現状では円建て価格の値上げもままならず、企業は国内投資をしにくい状況です。政権与党がカル津宗教に乗っ取られていることが明るみに出た日本ですが、「円安は国益」という信仰から離れた方が良くないか?

サハリン2の新会社、同じ契約条件提示 一部電力会社に:日本経済新聞
ロシアの本音は自前では資金的に成り立たない資源開発ですが、欧米石油メジャーが離脱して更に日本企業まで離脱することを阻止したかったということでしょう。ウクライナ戦で弾薬や兵器の交換部品の調達が滞っている状況で、戦費調達は至上命令でしょう。

気になるのが「同じ条件提示」がドル建て決済OKなのかルーブル建てなのかというあたりですが、後者ならばおそらく来年あたりのルーブル暴落で漁夫の利を得る可能性はあります。但し結果的にロシアに戦費を与えることに対してはG7国として説明責任は重いと言えます。おそらく日本が撤退しても中国が射貫きで参入すると考えられるので、それを阻止したいってことでしょうけど、アジアLNGスポット市場の最大の買い手は中国なんで、中国に権益が渡ったところでスポット市場の需給緩和にはなる訳です。

JR北海道、10年ぶり新型電車「737系」導入 23年運転開始:日本経済新聞
ロシアに近い北海道の話題です。いつもながら強引な話の展開ご容赦を^_^;。元々札沼線向けに50系客車を改造して投入されたキハ143系の置換えに2連ワンマン仕様の新型電車を投入ということです。札沼線の電化で室蘭本線室蘭―苫小牧間へ転出したものの、メンテナンスに難のある架線下DCの置換えを電車でというのは合理的です。JR北海道としては自前で維持する路線への投資は続ける訳で、最終的には非電化路線は電気式のH100型で統一する一方、千歳線を中心に札幌近郊路線の重点投資で生き残りという訳ですね。また地味ながら川崎重工に偏っていた車両メーカーが735系に続いて日立製Aトレインとなったことで、コスト面の見直しがあったと推察されます。

但し気になるのが新幹線開業後の函館本線長万部以南の扱いでして、ここが途切れれば北海道の鉄路は本州との繋がりを断つことになります。その結果貨物輸送ルートが寸断され北海道産農産品の輸送が齟齬します。加えて言えば冷戦の影響で北海道には自衛隊基地があり、冷戦終結後、主に他の地域への応援が主任務になっています。特に戦車や装甲車などの装備品の輸送に支障を来せば台湾有事に間に合わないとか、いろいろ支障がある訳です。農業にしろ防衛にしろ北海道経済にとっては重要なピースである訳で、北海道の鉄路を維持することの重要性は重ねて述べておきます。

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Saturday, August 06, 2022

インフレなんだよ愚か者

米下院ペロシ議長の台湾電撃訪問が波紋を呼んでいます。米政府はペロシ議長に米国の台湾政策を丁寧にレクチャーしていたそうで、おそらく自発的に撤回して欲しかったと思いますが、対中強硬派のペロシ議長を翻意することには至らず、寧ろ秋の中間選挙で劣勢が予想され、下手打てばトランプ復権になりかねない危機感から、わかりやすい国民向けアピールを意識したのでしょう。実際政府は訪台自体を止めてはいないようです。

結果は中国による台湾周辺での大規模演習ですが、ペロシ氏が台湾を離れた4日からということで、事前通告されてましたし、規模の大きさは異常ですが、一応国際法上の手順を踏んで直接衝突を望まない姿勢を見せております。中国の本音はトランプ政権時代の中国ハイテク企業制裁や制裁関税など一連の中国敵対政策の緩和っを探ることですし、それ故にロシアのウクライナ侵攻の支援にも慎重です。またアメリカ自身も中国との全面禁輸を望んでいないし、実際2021年の貿易額は増えています。ウクライナ問題で手一杯のアメリカにとって、いま中国を刺激することは不利益でしかないのが現実です。

バイデン政権にとっても中間選挙で民主党が議会多数派の地位を失えば身動きが取れなくなり、ひいてはトランプ復権に至ることは避けたい訳ですが、コロナ問題で成果を上げても評価されず、寧ろ9%を超えるインフレで国民の不満が高まっている状況があります。インフレ退治はFRBの役割ですが、政府としてはガソリン税免除や対中制裁関税の解除ぐらいしか打つ手はない訳で、特に後者は国民世論を逆なでしかねないので手を付けられず手詰まりという状況です。

中国もアメリカ製半導体の供給制限で国内製造業が足踏みしている状況を抜け出したい訳で、更にセロコロナ政策で経済が停滞し、不動産バブル崩壊で内需を牽引してきた不動産業に暗雲という中で、アメリカとの対立は避けたいけど、流石に三権の長の台湾訪問は面子丸つぶれで国内世論が沸騰してますし、装備の増強が進む一方で協力案トップに頭抑えられている軍関係者のストレスもあり、ガス抜きせざるを得ない事情があります。故に今回のことが軍事衝突につながる可能性は低いですが、米中どちらも国内しか見ていない危うさはあります。

てことでEEZにミサイル落ちたと騒ぐ日本は自重した方が良いし、どちらも外せない経済的パートナーなんだし本来米中の中に入って取り持つことが必要なのにアメリカべったりの姿勢を見せている点を危惧します。中国からは挑発にしか見えないですからね。一方でロシアに見下りは突き付けられたサハリン2には未練たらたらですが、ロシア産原油が中国やインドに流れてその分国際石油市場の需給が緩んだことから原油価格が下がっているように、仮にサハリン2の天然ガスが中国に流れたとしても、その分中国が最大の輸入国となったアジアのLNG市場の需給が緩和する訳ですから、寧ろ別の調達先を探した方が現実的です。それより国内に問題だらけなのを何とかしてほしいところです。

KDDIが開けたネットワーク社会の「パンドラの箱」:日本経済新聞
ちょっと前のニュースですが、重大な問題を含んでいます。通信トラブル自体はソフトバンクもドコモもやらかしてますが、KDDIの場合自動車メーカーとの関係が深いこともあり、カーナビなど携帯以外の端末も多数接続しているということでIoT関連での問題が意識されましたが、ルーター交換という半ば日常業務的なメンテナンスでのトラブルであり、当初音声通話の15分の遮断で復帰させる為に旧ルーターに戻したところ、遮断中の接続リクエストが集中して回線の輻輳が起きて音声以外のデータ通信にまで波及したと説明されてます。

こうした異常事態は起こり得る訳で、その為に欧州では他社回線に迂回するローミングが実現している訳ですが、日本では出来ていなかった訳です。一応検討は行われたようですが、119番などの緊急通報で回線が切れた場合にコールバックが困難ということで見送られたそうです。つまり他社回線を使うと緊急通報した端末を特定できないということです。これつまり通信事業者間で契約者情報が共有されていないということです。政府が事業者間の競争を促すあまり事業者の契約者囲い込みが影響していると見られます。携帯料金下げてドヤ顔の管さんあたりに責任あるんじゃないの。

それ以上に無線通信の脆弱性を明らかにした点が問題です。つまり日本にサイバー攻撃仕掛けるなら携帯基地局狙えば良いということを明らかにしてしまった訳ですから。企業ユーザーの中にはJALやJR貨物のように複数キャリアの回線を確保して対応したところもありますが,例えば自動運転など全てのユーザーが同様の対策を採れる訳でもありませんし、今後5Gの普及で工場の機械や建機など多数の端末が接続するようになればなるほどリスクは増します。

洋上風車欧州大手が日本工場建設保留 納入先の公募落選で【イブニングスクープ】:日本経済新聞
有望とされる洋上風力発電の1回目入札で三菱商事グループが安値受注で案件を独占したことから、急遽入札ルールが見直され、三菱商事排除の気配が漂いますが、その結果入札条件が厳しすぎるとしてデンマークの風力大手べスタスが日本国内の製造拠点建設を保留し、当面独シーメンスの代理店としての活動に留まることになりました。巨大風車や発電機は輸送コストが高くつくので現地生産が基本であり、欧州大手の進出はその意味で遅れている日本の洋上風力発電の推進役と期待されていたところを実績の乏しい国内勢のさや当てで潰す愚という意味で通信ローミング問題と通底します。
EVバス世界で快走、中国製席巻 日本は水素重視で出遅れ:日本経済新聞
中国のEVバスが世界で走っています、日本でも導入例が増えておりますが、水素重視で出遅れは嘘です。日本独自のホイールモーター方式の電気バス開発は早くから行われておりましたが、政府もメーカーもガン無視でいつしか立ち消えとなりましたし、トヨタのSORAより10年以上前から欧州産の水素fバスは走っておりました。欧州では水素=再エネ電力由来のグリーン水素ということで、化石燃料由来の日本の水素戦略とは別物で、細々とながらジワジワ普及しています。ある意味中国は欧州とすみ分けて市場を取りに行っている訳で、日本に足りないものが良くわかる話です。
火力・原子力「夏バテ」懸念 猛暑や水不足で出力減:日本経済新聞
気候変動で風が弱くなって風力発電の出力不足が言われて再エネは頼りにならないとか言われましたが、欧州の熱波で渇水による停止や水温上昇による出力低下で火力も原子力も役に立たないのが現実です。水の豊富な日本では考えにくいですが、化石燃料依存による経済社会の破壊は底知れません。日本でも線状降水帯による水害で大変なことになってます。安定の再エネ電源の筈の水力発電もいつまで頼れるか。

そういう意味で欧州の脱炭素は本気度が違います。再エネ中心のエネルギー自給にいま取り組まなければ未来はないぐらいの認識がある訳です。その意味でエネルギー価格の上昇は苦しいけれどパラダイムシフトのチャンスととらえてもいる訳です。勿論各国で温度差はありますが、一方でユニークな政策も打ち出されております。

車社会ドイツ、電車乗り放題券 インフレ対策で脱炭素も:日本経済新聞
ガソリンなど燃油高によるインフレ対策と脱炭素を組み合わせた政策としてドイツ国内の鉄度やバスなどの公共交通乗り放題定期券を9ユーロで売り出したもの。日本円換算で1,200円程度ですから青春18きっぷよりも安い上、連邦政府の財政支援で実現したところがミソ。つまり典型的なワイズスペンディング出あり、JR各社の割引サービスでは実現できないレベルの割引ですね。

NationalRail幻想で指摘した公金によるサービスの購入をやっている訳です。同時にイギリス以外の欧州も8%台の高インフレに悩まされており、インフレをカバーする賃上げ要求でストが頻発して経済に支障が出ている状況です。とはいえ賃上げはインフレを昂進させるスパイラルに陥る可能性もありますし、給付金なども需要を押し上げてインフレ圧力を高める訳ですから、政府によるインフレ抑止は難しい訳ですが、コロナ禍で利用が減った公共交通支援を兼ねてガソリン価格に負荷をかけず国民の福利を高めつつ脱炭素も実現するというんのは、流石緑の党が与党に入っているが故のアイデアでしょうけど、日本ではこういう議論はほぼ皆無です。英ジョンソン首相もインフレで職を失った訳ですし、インフレ対策は各国政府にとっては鬼門でしょうけど、アメリカでもコロナ禍で利用が激減したニューヨーク地下鉄で運賃値下げを行ったりしている訳で、打つ手がない訳ではありません。

てことで1992年の米大統領選に勝利したクリントン陣営のフレーズに倣って言えば It's the inflation, stupid. 「インフレなんだよ愚か者」

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Saturday, July 30, 2022

NationalRail幻想

国を葬る話に続いて国鉄を葬る話をします。JR西日本に続いてJR東日本も赤字ローカル線の線区別収支を公表しました。

JR東日本、地方35路線の赤字693億円 収支初公表:日本経済新聞
国土交通省の有識者会議でも乗車密度1,000人未満の路線の存廃協議基準を示しました。
ローカル線、存廃協議の新ルール 1日平均1000人未満で:日本経済新聞
JR西日本の発表が2,000人未満を基準としていたのに対して、国はその半分の基準を示した形で、JR側から見れば存廃協議のハードルが高くなった形ですが、自治体からは総じて廃止の既成事実化に対する警戒感が強まっているようです。

しかし国鉄時代には乗車密度4,000人未満を地方交通線と定義して、バス転換が望ましいという方針を出しつつ、当面の存廃協議をその半分の乗車密度2,000人未満として特定地方交通線に指定し、地元との協議を始めたものです。その結果多くの路線が対象となってバスや第三セクター鉄道へ転換されました。

1983年北海道の白糠線(白糠―北進間)が白糠町運行の自家用有償バスに転換されたのを皮切りに転換は進み、第三セクター鉄道転換の始まりは岩手県の三陸鉄道ですが、同時に国鉄が引受を拒否していた建設線の三セク引受を認めさせることになります。それが野岩鉄道やあぶくま急行、北越急行、智頭急行など多くの建設線が実現することにもなりましたが、わき道にそれますのでここまでにします。

ただ当時と経済状況も異なり、当時ならば2,000人未満のローカル線でもバスならば存続可能だし、三セク鉄道でも国鉄から切り離して独自の運賃を設定することで存続の可能性もありました。しかし人口減少で地域の人口流出も止まらず、少子化で鉄道利用する通学生も減少する中では存続もままならず、実際三セクや地元交通企業が鉄道で引き受けた大畑線、黒石線などの例もあり、鉄道での存続も厳しくなっております。加えてバス事業も乗客減とドライバー不足で経営環境が厳しくなっており、鉄道からの転換で簡単に利益を出せる状況ではなくなりつつあります。実際鉄道もバスもない公共交通不在地域も増えている現実があります。となると1,000人未満の路線のバス転換は容易ではない現実がある訳です。

有識者会議ではバス転換以外にも上下分離による線路の公的保有や自治体の同意を条件に運賃値上げを認可制から届け出制にするとか、観光列車などの誘客案の実行なども選択肢として示しており、補助金も出すとしておりますが、自治体としては協議に応じること自体が廃止前提の議論として応じない姿勢で対応することになりそうですが、そうなれば見切り廃止の口実にされるだけのことです。元々JRの内部補助頼みの路線存続だったところに、コロナ禍で大都市圏や都市間輸送の落ち込みで支えきれなくなった現実があります。現状を踏まえて地域の交通政策を見直す機会と捉えるべきでしょう.

実際国鉄時代に打ち出されたローカル線廃止論は上述のように基準を緩めてJR各社の内部補助でカバーすることで対応してきた結果、ローカル線問題は民営化後、遠景に退きましたが、旧国鉄債務のJR各社への引受を制限して見えなくしただけとはいえ、JR発足直後のバブル景気もあって沿線自治体には楽観論が広がったのは間違いないでしょう。その意味で同時に行われた鉄道運賃の改革案も観ておく必要があります。

鉄道運賃に変動制、混雑時高く 国が制度設計へ JR東日本など検討
議論の前提としてJR本州3社は消費税転嫁を除いて基本的に国鉄末期の運賃体系を維持している訳で、コロナ禍による利用減で現行運賃の維持が難しくなっている現実があり、見直しが必要な局面ではあります。

元々国鉄民営化後の見通しとして当時の運輸省も単年度黒字が可能なのはJR東海1社と見積もっていて、各社の収支状況を見ながら3年程度の周期で運賃値上げを想定していましたが、民営化当時のバブル景気で収支が上振れし、特に首都圏を受け持つJR東日本の恩恵は大きかったし、アーバンネットワークの輸送サービス強化で並行私鉄から客を奪っていたJR西日本も好調でした。そのため消費税転嫁分を除いた運賃値上げは実施されず、寧ろ好業績による超過利潤の還元策を求められ、並行私鉄に合わせた特定運賃や割引率の高い回数券やフリー切符などの還元策が採られましたが、これらも収支状況を見ながら見直され縮小されています。

記事中のオフピーク定期券ですが、JR東日本としてはリモートワークの普及とフレックスタイム制の定着でピークの利用をオフピークに誘導する目的を謳っており、これをダイナミックプライシングと説明している点には違和感があります。同時に通学定期券制度の見直しにも言及しており、元々国の機関として民間より高い割引率で定期券を発行していたこともあり、本来JRが負担すべきものではなく、政府や自治体の文教予算で負担すべきとも言っております。

これは現行運賃の上限運賃認可制の制度上の矛盾なんですが、JRなど鉄道事業者は普通運賃や特急などの特別料金の他、定期運賃も含めて総括原価との均衡を求められてますから、割引率の高い通学定期運賃は乗客間の補助となる訳で、ここを見直すことで割安なオフピーク定期券の発売が可能になりますし、運賃制度としては小中高大で異なる割引率が適用される通学定期運賃を排除して運賃体系もシンプルになり運賃改定の認可手続きもやり易くなるということも視野に入れていると考えられます。つまり現行運賃制度の完全見直しとなるダイナミックプライシングとは別物で、航空やバスでは既に実施されてますが、結果的に客単価が上がって多くの乗客にとっては値上げとなっていることから、利用客が多く社会的に影響の大きい鉄道運賃への適用は慎重にすべきです。

蛇足ですが日本の上限運賃制と似て非なるイギリスのプライスキャップ制の違いですが、イギリスではインフレ率に合理化係数を掛けたプライスキャップを設定してその範囲内での事業者の運賃設定に自由を与えております。制度的にインフレ率より低率のプライスキャップを設定することで事業者の合理化努力を引き出すと同時に、合理化努力で得られた超過利潤の還元義務は課されませんから、実態としては毎年運賃は値上げされます。今のように9%超のインフレだと当然運賃値上げ幅も大きくなり国民生活を圧迫します。ジョンソン首相失脚はスキャンダルもありますが、インフレに対する国民の怒りが大きい訳です。

あと国鉄民営化時のくびきから会社を跨った運賃通算制度も見直される可能性があります。そのためにJR運賃は200㎞程度まで殆ど遠距離逓減が働かず、並行私鉄との運賃差が生じていたりします。私鉄並みに境界駅での打ち切り合算にすれば利用実態に即した遠距離逓減を戦略的に採用できるようになりますし、JR間で他社の意向を気にする必要もなくなります。東京基準で言えば熱海から西は別運賃ということですね。

てことでとっくに終わっている筈の国鉄のくびきをJRは背負わされている訳ですが、そうは言っても国民のNationalRail意識は残っており、特に政府や自治体の対応を縛っている面はあります。整備新幹線やリニアへの期待もそうした文脈から見直した方が良いということは以前から申し上げておりますが、人口減少下で初期投資の大きい高速鉄道の経営の難易度は高まります。実際整備新幹線区間ではリース料が固定されているために、コロナで乗客が蒸発してJR東日本の収支を直撃しました。苦肉の策の新幹線カーゴサービスでどこまでカバーできるのか。しかも在来線貨物輸送の代替は不可能なので、青函トンネル貨物併用問題の解決にもなりません。いい加減国鉄の亡霊は退治しなくてはね。

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Monday, July 18, 2022

あったらしい資本主義

帝国憲法時代の皇族や軍神の死を悼む「国葬」は、制度としては戦後の日本国憲法公布で旧憲法の失効の道連れになりました。いや待て、吉田茂の国葬は?実は当時も猛反対に遭いながら実施されて、法的根拠のない国家行事への国費支出の前例が出来てしまいましたが、当時の議論が尾を引いて、歴代総理、例えば沖縄返還でノーベル平和賞受賞の佐藤栄作ですら国葬は実現しませんでした。

当然国葬するなら法律を作ってからの話ですが、岸田首相は記者会見で国葬の実施を表明しています。これ明らかにおかしい訳ですが、内閣権限の拡大解釈でスルーするつもりのようです。法律作るとなると国葬の対象者を定義しなければならないし、それに安倍元首相が該当することを示さなければならない訳ですが、それらをすっ飛ばしている訳で、国会軽視の姿勢は安倍管両政権から引き継いでいます。キッシーの温故知新以来繰り返してますが、自民党総裁選のような茶番を仕掛けても政権の本質は変わっておりません。

所得倍増もそうだしデジタル田園都市構想もそうですが、過去の政権のキャッチフレーズをパクってますが、中身はなく、所得倍増に至っては金融所得倍増と言い換えて個人株主を増やして金融所得を増やすと言い出す始末。個人が株を買えば株価が上がるという短絡思考には眩暈がします。株価はあくまでも企業の将来収益の割引現在価値を反映したもので、稼げる企業は株価が上がるし、また低金利で連動する割引率が下がれば将来収益を押し上げますから、単純に需給で決まる訳ではありません。問題は日本企業の将来収益に明るい材料が見当たらないことなんですがねえ。

デジタル田園都市構想も大平政権の田園都市構想をパクると同時に、安倍政権の地方創生と目先を変えて見せたという意味で、空疎な言葉遊びですし、極めつけは国民に不人気なGo To を使わずに県民割の全国展開など言い換えで対応する姿勢が目立ちます。そんな岸田政権は課題山積なのに大丈夫でしょうか?

「国策」の原発、事故責任は事業者に集中 東電株代訴訟:日本経済新聞
終わらない電力危機で取り上げた福島第一原発の集団訴訟に対する最高裁判決と違って会社法による企業経営者に対する株主代表訴訟なので、原告は株主で会社を代表して経営幹部の責任を問う裁判であり、賠償受取りは企業としての東電ということで裁判の性格は異なりますが、その賠償額の大きさが目立ちます。勿論地裁判断で今後上級審で判断が変わる可能性はありますが、原発事故の損害賠償請求訴訟との整合性はある判断ではあります。

今回は地震や津波の規模が想定を超える可能性を経営陣は認識しながら対策を怠ったとしてますが、あくまでも東電経営陣の話で、規制当局としての国の責任を問うてはいませんし、事業者としての電力会社への責任を重く問うているという意味でも矛盾はありません。但しこれは事業者にとっては原発がリスク資産として重荷になることを意味しますから、原発再稼働が進まないことになります。そんな中でやはり記者会見で電力逼迫に備えて原発9基の再稼働に言及した岸田首相ですが、中身はというと既に規制委の審査を通った10基中9基ってことで、追加工事や定期点検で停止中のものを動かすだけ。言葉だけの誤魔化しでした。流石キッシー-_-:。

という訳で「新しい資本主義」は過去にあったらしい^_^:言葉をつなげて目先を誤魔化しているものと言えます。寧ろ「資本主義」を名乗ることに本音があるのでしょう。人新世の「資本論」 (集英社新書):斎藤幸平著がベストセラーになったように、資本主義や経済成長への疑問からポスト資本主義や脱成長に関心が持たれ、また気候変動などでサスティナビリティが問われている中で、それでも資本主義で経済成長を求めるというメッセージと見れば、姿勢を明らかにしたという意味で新しいとは言えるかもしれません。

現実には気候変動もそうですが、コロナやウクライナ紛争、資源高、インフレと。解決困難な社会的課題に直面する中で、成長よりもこれらの困難な課題の解決にリソースを投入すべきではないかというのは、議論の余地があります。例えば東京メトロのコロナ減便の最後で取り上げた滋賀県の交通税導入のように、社会的課題解決のために敢えて増税するというのもその1つですが、歴史が古く減価償却の終わっているローカル私鉄の存続は銚子電気鉄道の濡れ煎餅販売で可能なレベルです。近江鉄道はそれより規模が大きいですが、税で広く浅く負担することで存続可能ならば現実解になり得ます。鉄道の維持が結果的に公益として地域に還元されれば良いという考え方ですね。

しかし例えば北海道新幹線の並行在来線として存廃が注目される函館本線長万部以南のように、貨物輸送インフラとして資本費保守費の負担が大きい路線の存続は、その社会的意義の大きさに関わらずより困難です。特に貨物輸送インフラという側面から言えば、藤代線、砂原線という戦時輸送の要請から建設された緩勾配迂回線を含めた8の字線としての存続が求められ、引受三セクの運営費負担も膨らみます。国や道が線路を保有する上下分離が現実的でしょうけど、道の鉄道存続意欲の低さから見れば可能性は低いと言わざるを得ません。

しかし貨物輸送動脈を断つことは北海道経済へのマイナスインパクトの大きさは計り知れません。ま、そもそも北海道新幹線を欲しがった結果なんで自己責任とは言えますが、プラス面だけを経済効果に計上しマイナス面に目を瞑った結果でもあり、工事の遅れや資材費人件費の高騰で事業費も膨張気味でB/C比も1以下になる可能性があります。愚かな選択と言われる未来が見えてきます。

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Sunday, July 10, 2022

東京メトロのコロナ減便

安倍元首相が狙撃されて死亡しました。誰であれ人の命を奪う行為は許されないことは当然ですが、釘を刺しておきたいことが幾つかあります。報道によれば犯人は元自衛官で手製の銃器を使った犯行ということで、捜査当局のコメントとして政治的意図ではなく宗教団体と見られる特定団体への恨みということで、現時点では不明ですが噂レベルで統一教会の名前が取り沙汰されております。

オウム真理教事件を起こした日本ですが、それでもカルト宗教への対応はあまり見直されません。宗教が集票マシンとして有効なのと宗教活動にかこつけた政治活動として有効ということで、少なからぬ政治家が関わっている結果ですが、身内がカルト宗教に入信してトラブルを抱える家族は少なからず存在しており、今回もそうした問題からくる怨恨犯罪のようです。とすると政治的意図のテロではないし、民主主義への挑戦というのも当たりません。恨みを拗らせた結果の犯行ということですね。

あとSPを含む警察官の対応に疑問が寄せられております。1発目が外れた時点で警護対象者を押し倒し覆い被さって命を守るのが鉄則ですが、犯人確保に動いた結果、2発目の凶弾で犠牲になった訳で、警護の不備を言われても仕方ない状況です。当然宗教団体と繋がっている政治家にとっては居心地の悪さを感じるでしょう。ある意味警察の不始末が政治と宗教の不透明な関係を可視化する結果となるなら皮肉な話です。私自身は以前から宗教的背景のない候補にしか投票しておらず、今回も同様です。これだけは言っておきます。

さて梅雨明けの徒然大草原wwwの猛暑も落ち着いて寧ろ雲の多い天候ですが、予想通りコロナ感染者は増えています。恐らくこのまま第7波になるのでしょう。但し軽症者が多く自宅療養で対応できているので医療逼迫には至っておりませんが、油断はできません。ウィズコロナは茨の道です。そんなニュースがこれ。

銀座線・丸ノ内線など減便 東京メトロ、平日9時台2割減も:日本経済新聞
春ダイヤ改正で既に減便と終電繰上げによる運行時間帯の縮小は実施積みですが、ラッシュ時の乗客の戻りが予想以上に少なく、平日ラッシュ時を中心とした減便に踏み込みました。痛いのは各線で車両の置換え更新を進めてきたために、特に他線転属が不可能な銀座線と丸ノ内線は痛いところ。東西線は05系初期車を代替なしに廃車すれば済みますし、千代田線も当面保安装置更新の予備車確保が容易になるなどやりくりの余地はありますが、車両更新を精力的に進めた結果の余剰車両です。

まあ仮に乗客が戻れば増発は容易ですし、車両走行キロが減れば保守費用も削減されるし延命で次回の車両更新を先送りできるなどのプラス面もありますが、東京メトロにとっては痛い現実です。こうなったのは1つは90年代末からの人口の都心回帰がリモートワークの普及で郊外志向が強まったことと密防止でラッシュ時利用を避ける傾向の両方の影響があるようです。実際東京都区部の人口は転出超過に転じております。

但しあくまでも郊外移転であって、地方移転でないことは注意が必要です。首都圏の巨大集積は寧ろ維持強化されており、郊外でも全て転入超過になっている訳ではなく、選択的に斑模様になっている訳です。この傾向は首都圏で顕著ですが、近畿圏や中京圏ではあまり見られず、恐らく製造業比率の違いがもたらしていると見られます。つまりリモートワークがやり易い業種が多いってことですね。製造業立地の少ない東急線の乗客減が顕著なのも同様です。

とすると都心の再開発にブレーキがかかる可能性がある訳で、例えば高輪ゲートシティや五輪選手村を改装して売り出される晴海フラッグにも暗雲が漂います。これ銀座―有明管の湾岸地下鉄構想にも影響が出る可能性があります。そしてスポーツ施設建て替えと高層ビル建設が明らかになった神宮外苑の再開発にも影響が出る可能性があります。銀杏並木を含む樹木の伐採で反対の声が盛り上がっておりますが、構想自体は落選中の萩生田光一案が自民都議を通じて都職員から五輪招致委トップの森元首相にプレゼンして絶賛されたことが週刊ダイヤモンドの報道で明らかになっております。

利権のふえる訳ワカメちゃんでも取り上げましたが、五輪招致にかこつけて国立競技場の建て替えを口実に高さ制限を緩和している訳で、五輪をダシに利権を生み出した構図です。元々明治天皇をしのぶメモリアルパークとして構想され、地権者の協力や一般市民の寄進で造成された「神の領域」を再開発の名の下に蹂躙する事業で、且つ神社本庁の関与まで指摘されております。宗教と政治家の不透明な関係の1つとも言えますし、現人神とまで言われた天皇に対するリスペクトはそんなもんなの?とも思います。

銚子電鉄が6年ぶり黒字、純利益21万円 副業の物販好調:日本経済新聞
東京メトロとは真逆の話題です。6年ぶりの黒字ですが、副業の物販、つまり濡れせんべいの販売でカバーして黒字化したという訳です。これ地元の特産である醤油を活かした取り組みであるとともに、巨大な首都圏の人口の支えでもあり、存廃を問われるローカル線全般に当てはまる訳ではありませんが、銚電クラスのローカル私鉄はコロナ禍に対峙するローカル私鉄のキャッシュフロー経営でも指摘した通りです。

最後に鉄路的蛇足。銚子電気鉄道の前史は1914年12月に開業し1917年11月に廃止されたの銚子遊覧鉄道の線路施設一式を居抜きで取得して開業した銚子鉄道が後年電化で銚子電気鉄道となったというのは知る人ぞ知るところですが、元々需要が多い訳じゃない区間で、それでもその結果初期投資を圧縮できたことで存続に有利に働いたということは言えます。但し保守費用捻出に苦労して運休することもあり、東京陸運局の問題児ではあります。

似たような事例は実は結構ありまして、近鉄南大阪線の前身の2代目大阪鉄道の最初の開業区間は初代大阪鉄道(後の関西鉄道へ併合)の柏原―古市間を1898年委開業させた河陽鉄道が翌年営業不振で解散し、河南鉄道に再編され河内長野まで延伸されました。後に道明寺から大阪天王寺(現大阪阿部野橋)へ延伸して電化したもので、甲武鉄道の支線的存在の川越鉄道が高田馬場への電気鉄道延伸で姿を変えた旧西武鉄道と酷似します。

大沼公園―鹿部間の大沼電鉄は戦時中の函館本線の緩和勾配迂回線の砂原線の1945年6月の開業と引き替えに廃業しましたが、砂原線鹿部駅が鹿部市街から遠いということで、1948年に銚子口駅前―鹿部間を復活させております。大沼電鉄の事例では線路のみならず車両も残っていたことから、復活のハードルは低かったとは言えます。それでも道路整備の進捗と共に利用が減り1952年に2度目の廃業をしています。

直近の事例では2001年、半年に2度の衝突事故を起こして休止から廃止を余儀なくされた京福電気鉄道福井支社の越前本線富国粟原線を譲り受けて2003年に開業した三セク鉄道のえちぜん鉄道の事例があります。休廃止期間中はバス代行輸送が行われましたが、漸弱な沿線道路事情から渋滞が深刻化し鉄道復活の機運が高まったこともありますが、それでも東古市―永平寺間の永平寺線は譲渡されず復活しませんでした。えちぜん鉄道といえば再エネ電力託送事業でも注目されます。

という訳で都市鉄道よりも厳しい状況にあるローカル私鉄ですが、地元の取り組み次第で存続の可能性もあるということは言えます。その意味でhは滋賀県が近江鉄道の存続を期して県税として交通税導入を打ち出しておりますが、注目すべき動きです。「改革」と称してとかく減税の議論ばかり目立ちますが、社会的課題解決のための税制という視点は重要です。

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Sunday, March 20, 2022

新幹線は万能ではない

ロシアの悪口ばかりでは何なんで国内に目を向けます。

年金者ら給付金、首相「物価みて検討」 野党「愚策」:日本経済新聞
公的年金にかかる税金は元々猶予枠が大きく、住民税では65歳以上で年金所得330万円以下の場合の基礎控除110万円で住民税非課税となり、多くが先日の住民税非課税世帯向け給付金10万円の対象となっております。それを除外して5,000円の給付って、つまり税金払った年金受給者に税還付して4月からの年金減額を誤魔化そうって話ですね。元々投票率の高い高齢者に対する選挙対策以外の意味はあるのでしょうか?
政府オープンデータ「開店休業」、2割にアクセス不備 チャートは語る:日本経済新聞
国交省の統計不正と同様、統計やデータ公開にかかる人員は政府の自治体も不足しており、対応が追い付かない現実があります。政府がDXの旗降っても実効性が伴わないのはこういう現実があるからですね。

てことで疫病や戦争でガタガタの世界ですが、日本ではまたもや地震です。しかも東北で震災の恐怖が再現されました。関東でも揺れました。その結果交通インフラも被災しました。

東北新幹線脱線、影響長期化も 宮城・福島で震度6強:日本経済新聞
新幹線の脱線といえば中越地震のときの上越新幹線では直下型地震で脱線した訳ですが、その対策としてレールの沿って脱線ガードが設置され、安全性は高まったのですが、JR東日本では逆L字のアングル材を設置して脱線は許容するけど車輪をガードで受け止めて転覆はさせない対応を取っておりました。結果的には17両編成中16両の脱線となりました。

今回の地震は近い震源地の2つの地震が短時間に起きたものということで、1回目の地震でユレダスが働いて電源カットされ減速し、2回目の地震で脱線したものと見られております。詳細は続報を待つとして特異な揺れの結果らしいということは指摘しておきます。故に一部報道にあるように地震対策の不備ということではありません。事実死傷者はいなかった訳ですし。

それより78人の乗客の避難に5時間かかったことの方が問題かもしれません。夜間だったことでバス手配に時間がかかったことや道路の被災もあって到着が遅れたということもあるでしょうけど、3人の乗務員で対応しなければならない現場では乗客の不安払拭ぐらいしかやりようがなかったってことですね。乗客が多かったらどうなっていたか。省力化の負の側面もあります。

また今回は架線柱が傾いたり高架橋の支柱のコンクリート剥落など施設の損傷もあります。ただでさえ高架橋上で重機が入りにくいところでの16両の脱線車両を順次レールに乗せて復線させてから移動する必要がありますし、施設の補修もありますから、復旧には時間がかかります。こういうところは地上を走る在来線と異なるところで、ある意味新幹線の脆弱性として認識しておく必要はあります。当面は在来線を用いた代替輸送で凌ぐしかありません。

さてそうなると、整備新幹線で問題になる並行在来線問題を改めて考えると、並行在来線を切り離すことは脆弱性を高めることを意味する訳で、まだ三セク引き受けで鉄道で残るならば良いですが、北海道新幹線関連での函館本線長万部―余市間の廃止問題のような現実があります。

並行在来線問題に関しては少しおさらいしておいます。国鉄分割民営化で全国新幹線鉄道整備法(全幹法)の事業主体が国とされたため、実質主体となる国鉄の解体で整備計画が進められない状況に対して、国鉄改革で誕生したJR各社を国に代わる事業主体と読み替えて、言ってみれば全幹法の改正ではなく解釈変更で対応した結果です。

一方で財源問題もネックとなり、公共事業方式による財政資金投入も議論されましたが、例えば揮発油税などの道路財源の流用などの議論ならば交通インフラ全般の公共投資の見直しにつながる議論になった可能性もありますが、それも行われず、財源問題は迷走します。転機は89年の新幹線保有機構からのリースとされた新幹線のJR各社による買い取りでして、元々JR東日本が東証への株式上場を準備する過程で主たる事業用資産である新幹線が自己保有ではなくリースである点が資産査定上不利になるという指摘を受けてJR東海、西日本へ呼び掛けて買い取りを国にに要請したことで議論が進みます。

要請を受けた当時の運輸省は、JRの株式上場による完全民営化を推進する立場からこれを認めた一方、時価法の一種である再取得価格による資産再評価を実施して簿価買い取りを否定しました。その結果特に用地にかかる地価相当部分の評価額が拡大し、特に高地価エリアを沿線に持つJR東海が不満を持つ結果となったのですが、それに加えて整備新幹線財源を滑り込ませて評価額を上乗せし、その上乗せ部分を鉄道整備基金として整備新幹線を含む鉄道整備財源に充ていることになりました。

更に整備新幹線の整備スキームとして、並行在来線のJRからの切り離しを前提にそれを含むJRの受益分を30年リースでJRが負担する一方、残りを国と地方が2:1で負担し、鉄道整備基金出資分は国の負担分と読み替えてリース料で償還するという形で、三者が合意する前提で着工という手順が示されました。また限られた財源の有効利用の観点からより経済効果の大きい路線、区間への重点配分が決められました。これが後々様々な問題を引き起こす原点です。

その結果88年にJOCによって招致が決定した長野オリンピック対応で北陸新幹線高崎―長野間に優先配分されることとなり、当初は高崎―軽井沢間フル規格、軽井沢―長野間ミニ新幹線でスタートしたものの、その後91年のIOC総会で開催決定されそれを受けて全区間フル規格化の議論が起きて当初はなかった並行在来線引き受け問題が生じます。その結果は軽井沢―篠ノ井間は三セクしなの鉄道が引き受ける一方、横川―軽/、井沢間は県境で群馬県が三セク出資を渋り、また66.7/1,000の急勾配区間で専用補機を用いた特殊な区間だったことから維持費がかかるということもネックとなり、廃止されました。並行在来線廃止第1号です。上記函館本線山線は第2号となります。

実はこの重点配分はいろいろな問題を引き起こしますが、一つが東北新幹線延伸部の盛岡―新青森間でして、当初沼宮内―八戸間フル規格、盛岡―沼宮内間と八戸―青森間ミニ新幹線とした結果、沿線から反発を受けます。その際に用いられたロジックは青函トンネルを通じて他移動新幹線に繋がる区間に速度の遅い区間があることはおかしいという議論で、結果的になし崩しで全線フル規格化され終点も新青森となり青森市街地から遠くなりました。

また東北新幹線延伸部に関しては並行在来線の在り方を巡ってJR貨物から貨物幹線である当該区間が三セク化された後の線路使用料問題が提起されました。所謂アボイダブルコスト問題でして、元々重量が嵩み速度も高い貨物列車の線路破壊量は大きく線路保守費がかさみますが、国鉄分割時の申し合わせで当面赤字見込みのJR貨物救済策として格安な線路使用料が設定されていて、JR貨物の収支改善を待って旅客各社との交渉で値上げするというスキームだったのですが、並行在来線の三セク引き受けで前提が変わり、しかもローカル輸送に特化した三セクでは複線電化の高規格な線路を維持するインセンティブがない訳ですから、高規格維持の費用込みのフルコスト負担をJR貨物に求めることになります。

この問題の解決に例えば国の負担で高規格維持するのではなく、JR貨物が負担する差額を国が補助し、財源はJR東日本が支払う新幹線リース料に上乗せする形で対応することとしました。ここでも鉄道貨物維持のための本質的な議論を避けて決着しました。その結果同様の問題を抱える九州新幹線の並行在来線として切り離し対象となった八代―川内間は、三セクの旅客列車が軽量ディーゼル車によるワンマン列車である一方、電化設備維持のために三セクの肥薩おれんじ鉄道へJR貨物が出資する形を取っておりますし、北陸新幹線開業に伴う三セク各社との線路使用料負担問題で、結果的にJR西日本の特急サンダーバードの富山乗り入れが打ち止めとなり、新幹線につるぎという区間列車が設定される形となりました。現場合わせのバラバラな対応です。

九州新幹線の迷走も度々ありました。当初鹿児島ルートは八代―西鹿児島(現鹿児島中央)間で狭軌のスーパー特急方式による整備を前提にしており、しかも実績のない狭軌200km/h営業運転を前提とした計画として経済効果に下駄を履かせて重点配分の地位を得ました。それを念頭にJR九州は787系特急車を走行安定性の観点から敢えて普通鋼製で重量を与え、電動車比率を高めて高速走行を狙う設計となりました。とはいえ200km/h走行は無理で160km/h走行がせいぜいでしょう。お陰でローカル特急転用では制御車、付随車を増やして短編成化されるという意図せざる利点ももたらしました。

しかしその後船小屋(現船小屋温泉)―八代間、続いて博多―船小屋間の事業化で山陽新幹線直通のためフル規格化されることとなり、結局スーパー特急方式は当て馬に終わりました。この辺はさらばスーパー特急で記述しましたので繰り返しませんが、北陸新幹線もJR西日本区間も当初スーパー特急方式で事業化され、581系特急車は160km/h運転を前提に開発され683系共々ほくほく線内での160km/h運転を支えました。あくまでも結果論ですが、スーパー特急方式が実現していれば、条件の整った在来線区間での160km/h運転の横展開はあり得たでしょうし、在来線の高速化はもっと進んだ可能性もあります。

余談ですが、当初のスーパー特急方式に触発されて西鉄が大牟田線の延伸で九州新幹線事業への参入を狙ったとも言われ、もう一つの九州新幹線lで取り上げましたが、詳細は不明ながら八代以北の並行在来線を敢えて切り離さなかったのは並行私鉄の西鉄への牽制とすると、西鉄は非公式な打診ぐらいはしたんじゃないかと考えられます。

実際には京成電鉄の成田スカイアクセス線での160km/h運転が唯一の存在となりましたが、例えばJR東日本が中央線高速化を狙って投入したE351系は最高速160km/hで設計されましたが線路改良が進まず、加えて鋼製車体で重量が嵩んだこともあり、所定の性能を発揮できないまま車体傾斜式の後継車E353系に置き換えられた経緯は傾く台鉄で取り上げました。

加えて秋には飛べないジョナサン西九州新幹線が開業します。上記の重点配分の結果、距離が短いこともあって全線フル規格の場合の経済効果が薄く、当初よりスーパー特急方式が適切とされておりましたが、軌間可変車両の開発を前提としたフル規格化で孤立線になって「飛べない」かもめが走り出す訳です。本質的な議論を避けて現場合わせで適当に対応して無残な結果となっております。

元々高速大量輸送に特化した新幹線システムは汎用性に乏しく、維持費も高く闇雲に増やすのは賢明とは言えません。整備新幹線はそろそろ打ち止めにして、在来線高速化やドライバー不足に対応した鉄道貨物インフラの最適化などに資金を振り向けるべきということを申し上げたいところです。

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