鉄道

Sunday, December 03, 2023

遅れるのは万博だけじゃない

田代の水で取り上げた大井川の水問題が前進しました。

リニア新幹線、静岡県の川勝平太知事が「JR田代ダム案」賛意回答へ - 日本経済新聞
川勝静岡県知事も同意しており、一つ問題がクリアされたとは言えます。但しこれで着工とはいきません。南アルプストンネルの湧水量を調べるボーリング調査の結果如何では、湧水量が想定を超える可能性もあり、そうなると田代ダムを管理する東電の同意が微妙になります。故に静岡県は調査の継続をJR東海に求めて釘を刺しております。基本的な方向性が決まってもすんなり着工とはなりません。

加えて静岡工区以外の工事遅れの問題もあります。工事現場のコロナクラスター感染や仲良きことの調布市の外環道トンネル工事の陥没事故の影響で東京や名古屋の大深度地下トンネル区間の工事も止まりましたし、怪運国債市場の蓋のウンコクサイ万博工事と同じ2024年の働き方改革問題もあります。当然事業費の膨張もある訳で、当初名古屋まで5.1兆円大阪まで9.1兆円として見積もった事業費では足りず、大阪延伸前倒しのための財投資金3兆円にも手を付けてる状況です。大井川の水問題で遅れているというメディア報道とは裏腹に見通しの立たない状況に変わりはありません。

加えて東海道新幹線の乗客数がコロナ前の水準に戻らず、こうなるとリニアが本当に必要なのかすら問われます。私は元々人口減少下で将来の需要増は見込めず無駄になるという立場でしたが、コロナ禍で変化が前倒しされた形です。それでも週末の観光利用が好調で採算面の回復はあります。特に京都観光の外国人によるインバウンド需要は旺盛ですが、ジャパンレールパスによるのぞみ乗車を認めなかったことや予約の取り方などの不案内もあって、外国人は安くて空いてるこだま自由席の利用に流れています。ジャパンレールパスの制限は見直されたものの、この傾向は続いているようです。つまりビジネス利用が減ってスピードは必ずしも問われず、寧ろ車窓の変化が売りになる東海道新幹線の方が観光客にはうけるサービスってことです。明かり区間の少ないリニアでは取り込めない需要です。一方でJR東海以外のJR各社のローカル線問題が深刻度を増しており、今年もJR東日本と西日本で線区別乗車密度と営業係数が発表されました。

東北のJR東日本ローカル線、22年度も利用低迷 - 日本経済新聞
JR西日本の中国地方路線、経営依然厳しく 20〜22年度収支 - 日本経済新聞
何れも自治体との協議を模索しており、国も法改正して後押しっしておりますが、廃止ありきを警戒する自治体との協議は進んでおりません。そして国鉄時代のローカル線問題以上に厄介なのはバス事業の苦境です。
バス路線、都市に迫る崩壊の波 失われる「生活の足」 - 日本経済新聞
コロナ禍による乗客減に加えて燃料高やドライバー不足と四面楚歌状態で都市部でも減便が相次ぐ中で、過疎地の鉄道を廃止してバス転換することが困難な状況になっている訳です。特にバスドライバーは大型二種必須と資格条件が厳しい一方、年収ベースで全産業平均の2割安という賃金水準ですから人口減少は核より怖いでも取り上げたように若手が目指さないから新陳代謝が進まず高齢化で先細り確実という状況です。そうなると京都以外の観光地に観光客が行きたくても行けない状況となって地域の衰退を助長することにもなります。

観光の観点からは仮に開業すればリニアの体験乗車である程度需要は稼げるでしょうけど、それだったら現在の山梨実験線で営業すればプラチナチケットとして高く売れるでしょう。つまり現状でもマネタイズは可能となればリニアを完成させる意義はますます曖昧になります。人口減少の現実を踏まえればリニアは本当に必要か?という問いを発せざるを得ません。

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Sunday, November 26, 2023

人口減少は核より怖い

AIの生産性改善効果に疑問を示した勤労感謝にAIは勝つ?い関連したニュースです。

ハリウッド俳優組合、生成AI利用のルールや報酬で合意 - 日本経済新聞
ミッションインポシブルの公開が遅れたことで話題となったハリウッド俳優組合のストが生成AIの活用ルールや報酬に関して合意したというニュースです。AI開発が進むアメリカでは既に労働市場への影響を睨んだ動きが出てきて既に成果が出ている訳ですが、それに引き換え日本ではこうした動きはありません。

主演のトム・クルーズが自らスタント演技までして体を張った映画も、生成AIを使ってサンプル演技から生成してできるなら、配給会社としては劇的なコストダウンになりますし、トム・クルーズのような余人に代えがたい大スターを起用しなくても済むとなれば映画製作費は著しく下げられますが、そんな映画を劇場代を負担してまで見せられる観客もいい面の皮ってことになります。それに一定の歯止めを課した訳です。

一方の日本ではDXにしろAIにしろ人手不足対策として活用が叫ばれますが、元々のハイスキル人材には改善効果が出にくい一方、ロースキル人材ほど改善効果が出る訳ですから、若い人がコストのかかるハイスキル習得のインセンティブを失わせます。つまりまかり間違えば中長期で人材の質的劣化が進むということです。例えば不足が言われるバスドライバーになるために普通免許からステップアップして大型二種を取得する若者が減って補充されなくなれば、現役ドライバーの高齢化が進み引退や離職もあってドライバー不足によるバスの減便が反転する展望がない訳です。

自動運転技術の進捗によってドライバー不足を解消できるかと言えば、開発スピードや制度見直しの難しさもあっておそらく間に合いません。まして大型バスの自動化の難易度の高さは言うまでもありません。唯一可能な対策があるとすればスキル取得のコストに見合った報酬を約束することで経済インセンティブとすることぐらいです。

それに留まらず雇用のミスマッチ解消のためのリスキリングにも影響するでしょうし、そもそもAI開発ができるハイスキル人材が育ちません。オープンAIの騒動が示すハイスキル人材同士の摩擦も日本では起きない訳です。少子化の最大の原因は教育コストの上昇にある訳で、先進国ではほぼ共通しています。教育資金が高騰して子供を持つことが贅沢になっている訳です。それでいて大学まで終了して社会人になっても生産性の低い日本企業で安月給で我慢するしかないとなれば尚更です。かくして人口ゼロの未来へ向かって進むことになります。これある意味核戦争より怖い話です。安全保障面でも戦う兵士がいないという現実がある訳です。そんな日本でこんなニュースです。

北朝鮮衛星、ロシアが技術支援か 通告期間前に発射 - 日本経済新聞
偵察衛星打ち上げを事前通告していましたが、通告期間前の発射で北朝鮮は衛星軌道に乗せたと発表しておりますが、現時点でその真偽は不明です。但し成否にかかわらず米韓を揺さぶる心理戦の材料にはなる訳で、北朝鮮にとってはとりあえずそれで十分でしょう。抑止力は手札を立てて相手に疑心暗鬼を生むポーカーゲームですし。

そして沖縄にJアラートが発出されました。成長しないこどもの日本で触れましたが、元々災害が予想されるときに該当地域住民の避難を促す警報として総務省消防庁所轄のシステムにミサイル警報を乗っけたもので、防衛省から官邸を経て発出の指示が出されますから、タイムラグが発生すると同時に、発出の基準も恣意的になりやすいこともあります。今回も衛星打ち上げと予告されていたのにミサイルとして警報が出された訳ですが、沖縄では逃げ込める地下道などがない訳でただ住民を不安にさせただけです。それが狙いなのかもしれませんが政治的意図を感じます。

そんな中で内需が枯れていくことは避けられず、将来の増収を見込みにくい鉄道各社ですが、実際コロナ明けの増収局面でも利用はコロナ前に戻りません。特にリモートワークの進捗で出張などのビジネス利用が戻らない新幹線で顕著です。故にJR東日本では最初から戻らないことを前提に輸送事業比率を下げて不動産とSuicaを軸とするシステム関連事業拡充を打ち出しております。元々人口減少を視野に入れていたので、計画を前倒しした形ですが、減収に関わらず借入金で投資を前倒しする一方、オフピーク定期券の導入で需要分散を図ってピーク輸送力増強投資を抑制するといった形でメリハリをつけています。また新幹線による荷物輸送サービスを試行して収益化を模索するなどしておりますが、短期的には厳しい現実があります。

東北のJR東日本ローカル線、22年度も利用低迷 - 日本経済新聞
震災復興も道半ば、原発事故の影響で操業がままならなかった漁業の再開のタイミングでの福島第一原発処理水海洋放出に伴う中国の輸入禁止で打撃を受けたことに留まらず、コロナ明けのインバウンド復活でも外国人客は富士山や京都を目指し東北には向かわないから恩恵は限られ、東北のローカル線事情は厳しさを増しています。陸羽東線や花輪線では一部廃止でミッシングリング化する危機もあります。

地方の過疎化は高齢化と共に進んでますが、逆に言えば高齢化予備軍の世代が少ないからいずれ高齢化は止まります。そうすると逆に地方の社会インフラや古民家が資源として若い世代が活用できる余地が出てきます。その萌芽は四国徳島県の神山村で見られますが、何もない地方にブロードバンド回線を整備して移住者を受け入れた結果、日本版シリコンバレーと言えるような尖った人材が集まってきています。

こうした大都市と地方の逆転現象は、大都市での子育てのコストが嵩むこともあっていずれ他の地方でも起きる可能性があります。人口の多寡にかかわらずハイスキル人材が集まれば高齢化で停滞する大都市をしり目に、高齢者がいなくなった地方の方が地域が成長する余地もあります。ただそれまでに鉄道などのインフラが維持できるかどうかは微妙ですが、鉄道に限らず道路や橋などの社会インフラをどう維持するかは重要ってことです。戦略的に考えるならミサイル買うよりこっちに金回せよ。

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Thursday, November 23, 2023

勤労感謝にAIは勝つ?

「心配ないからね」とはいかないAI開発を示したオープンAIの騒動はこうなりました。

OpenAI、サム・アルトマン氏がCEO復帰 理事会大幅刷新へ - 日本経済新聞
元々汎用AI開発をで人類への貢献をミッションに掲げるNPO法人として発足し、大手ハイテク企業の市場独占や軍事利用、サルとロバの法螺吹き合戦で触れたデマ拡散などのネガティブなものを排除して人類に貢献するというその姿勢に賛同した多くのITエンジニアが集まりました。

当初はその名の通りオープンソースでの開発を目指し、開発過程をオープンにすることで悪意ある開発を排除し、競争環境でハイテク寡占の弊害を除去できるという見通しを示したものの、少数でも悪意あるエンジニアが開発に関与することでミッションが台無しになるというジレンマに気付きます。故にソースを公開しない形の開発にシフトする訳ですが、この点には賛同できないエンジニアもいる訳で、オープンソースでボランティア的に開発することで低コストで開発できるというメリットも失われます。

という訳でNPOが研究開発費を手当てするために営利目的の子会社を設立して営利部門を担わせる形になり、その子会社にマイクロソフトが提携のために出資するという形で関係が築かれ、大規模言語モデルの生成AIとしてGPTを開発しリリースした訳ですが、そうなると開発のスピードが速まって、しかもマイクロソフトという大手IT企業を利する形で事態が進捗することにNPOの理事たちが不安を覚えてブレーキをかけたということのようです。

マイクロソフトとしては折角掴んだ金の卵をやすやすと手放す訳にもいかずNPOの理事たちの説得と共にアルトマン氏を研究員として雇用するなどして動いた訳ですが、そこへオープンAIの従業員からアルトマン氏復帰を求める声が上がり、9割超の署名が集まりました。アルトマン氏はエンジニアの人望が厚かったようです。結果的に理事会が折れて決着し、加えて6人の理事の半数の3人を入れ替え、1人はマイクロソフトから送り込み、ガバナンスを安定させる手当もした訳です。

この一連のニュースで感じたのは、AI開発でアメリカが世界を大きくリードしている現実です。中国に限らず日本でもAI開発でアメリカを追う訳ですが、そこで語られることが例えば日本では人口減少をカバーする生産性向上策だったり、人間は労働から解放されると言われる一方、労働者から労働を奪うと反対されるなどのレベルの議論が中心ですが、アメリカではその先を行っていて、人類に貢献するAI開発というミッションと本気で格闘している人たちがいるということです。おそらく中国も日本もこの領域に達することは困難でしょう。

という訳で、勤労感謝の日だし、AIが労働市場にどんな変化をもたらすかという視点で見ると、AIへの期待は主に人口減少に伴う労働力不足の代替ということになります。経済学で言うところの資本装備率を高めて労働生産性を高める効果が期待される訳ですが、工場労働がロボットで代替されたように頭脳労働がAIに代替される訳ではありません。AIは単なるアルゴリズムですから、それ自体には創造性はなく、創造性が求められる頭脳労働は原則代替できません。

わかりやすい例として進化著しい自動翻訳で見てみると、マニュアルや技術解説書のようなものは自動翻訳の後に人間がチェックすることでほぼ問題ないレベルの翻訳が可能ですが、機微が表現される文学作品などは難しいということになります。故に翻訳家の仕事は無くなりませんが、従来はそれ故にハイスキルを求められていた翻訳家ですが、スキルの低い人が参入できる分野ができることで翻訳家は増えて結果的にハイスキルの翻訳家も含めて競争激化で報酬が下がるということが起きる訳で、AIに労働が奪われることはないとしても賃金は下がるということになります。これ事務仕事でも営業職でも結局ハイスキルの人ほどAIによる労働生産性効果が得られず、ライバルが増えて賃金が減ることを意味します。日本の場合で言えば連合などの労働団体こそAI問題に向き合う必要がありますが、現実はお寒い限りです。

そしてドライバー不足から自動運転への期待も高まりますが、気になる動きがあります。

自動運転事故、刑事責任の基準作成へ 実用化へ懸念払拭 - 日本経済新聞
記事にもあるようにあくまでも企業の参入障壁の緩和に力点がある訳で、ドライバー不足を錦の御旗に緩和を模索する動きです。ドライバー不足問題は働き方改革の例外扱いが2024年で終了することに伴って注目されましたが、それ以前に生産年齢人口の減少と需給調整規制撤廃による参入自由化の影響で賃金が下がり、そもそもなり手が減っていた中で、経過措置として2024年まで猶予され、企業は様々な対策を講じているものの、報酬アップだけはスルーされています。低報酬故に残業でやっと稼げるのに残業の上限が規制されれば収入源となる訳で、そこには手をつけずに対応すしようとするから無理がありますし、当然若者も免許取得のコストに見合わないから担い手は枯れる一方で、ドライバーの高齢派だけは進むという状況です。簡単にはいかない現実があります。

そもそも道路は公共空間な訳で、公共空間の私的利用には当然ながらルールが必要なんですが、オリガルヒの叛乱で取り上げた電動キックボードの解禁もレンタル事業者の便宜を優先した結果ですし、ユニコーンの馬脚で取り上げたライドシェア問題もそうですが、公共空間を利用した営利事業に規制がかかるのは当然のことです。実際ロンドンをはじめ欧州の大都市では営業許可を採取れていなかったり、規制のないアメリカでもライドシェア絡みの事故は多数報告されています。故にドイツの後塵で取り上げたカリフォルニアの自動運転車の事故に関わらずウーバーよりは安全と評価されてたりします。ライドシェアにしろ自動運転にしろ上述の翻訳家の例のように結果的に低報酬化をもたらすものについては、労働団体が問題意識をっ持つことが必要です。

公共空間としての道路という視点ではどうする縦割りで取り上げた宇都宮ライトレール(以下ライトラインと記す)の問題も関わってきます。同エントリーで記したようにライトラインは新設軌道に見える区間も道路扱いで全線併用軌道となっており、故に軌道法の規制で目視運転を前提とする40km/h規制を受けている訳ですが、出かけて試乗してみました。

とりあえずは40㎞/h規制でゆっくり走っており、交差点信号に黄↑赤×の二位式軌道信号が併設され、その他両終端のシーサスクロッシングと平石、グリーンスタジアム前のポイント部に軌道信号がありましたが、閉そく信号に相当する信号は見当たらず、列車間隔を制御するシステムはどうなっているのかはわかりませんでした。また信号に引っかかることもあり、電車優先信号が設置されているようにも見えません。現状では電車の表定運行時分に合わせて交通信号を調整しているだけのように見えます。現状はLRTというより通常のトラムの域を出ておりません。

現状道路上の目視運転で自動車の軌道敷内通行を規制している状況ですが、公共空間として緊急車両の通行帯として軌道敷が利用されることなどを踏まえれば目視運転のままのスピードアップは問題があります。おそらく何らかの対応は取られるのでしょうけど、ならば何故開業時から併用軌道50km/h新設軌道70km/hで開業しなかったのか、その辺の事情が明らかになっておりません。当然ながら専用路を走る鉄道と違って自動運転は簡単ではありません。自動車の自動運転が俎上に上る中でのライトラインの評価には難しさがあります。

また並行バス路線をバッサリ切って宇都宮大学陽東キャンパス、清原地区市民エンター前、芳賀工業団地管理センター前で途中乗り換えとしたことに対する評価は時間がかかるとしても結果的に公共交通利用が増えて渋滞が解消することがゴールということも踏まえておく必要があります。地元のバス事業者の関東自動車は出資と共にバス路線再編でドライバー不足が緩和されたとしてますが、乗換を嫌って乗客が減るようであれば本末転倒なのは言うまでもありません。未だに市民や鉄ちゃんの試し乗りと思しき乗客が見られるのが気がかりです。当然ライトライン自体の運行維持という新たな負担も負う訳です。

という訳でAI時代になっても労働力不足を解消できる訳ではなく、労働から解放されるといった楽観論がいかに非現実的かということは間違いなく言えます。AIもLRTもシステムとして社会にどう実装されるのかが大事ってことです。

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Saturday, November 18, 2023

サルとロバの法螺吹き合戦

ユニコーンの馬脚に連なる話題です。

ChatGPTの顔サム・アルトマン氏、突如解任 開発・提携で溝か - 日本経済新聞
アップルのジョブズ氏も一度解任されたことがありますが、マイクロソフトと提携してChatGPTをリリースしたオープンAIのCEO解任劇です。米議会公聴会で政府の規制の必要性を示したアルトマン氏だけに、ハイテク企業にありがちなマネタイズを急ぐ勢力による慎重派の排除と見られております。

FRBの度重なる利上げに関わらずあまり下げないNY株式市場ですが、AI開発で先行したマイクロソフトの株価が好調で、ライバルのグーグルは後れを取ってややさえない動きで、いずれマイクロソフトが時価総額でアップルを越えると見られております。アップルも独自の半導体開発に舵を切りAIを睨んだ動きを見せてますし、画像処理半導体のGPUでエヌピディアが独り勝ちだったり、アップルを含む独自半導体開発で半導体設計の英アームが好調だったりというのもAI関連の動きということが言えます。

ややわき道に逸れますが、AIブームで先端半導体が求められるのは、ChatGPTのような生成AUがニューロネットワークの仕組みで動いていることと関わります。人間の脳の働きが多数の神経細胞の反応で説明されており、ある刺激を受けた神経細胞は末端でシナプスと呼ばれる刺激物質を発散し、他の神経細胞がそれに反応して刺激が伝送されますが、その際に複数の神経細胞がそれぞれの刺激にウェートの異なった反応をして分岐して伝送経路が複数に発散される一方、出口ではそれが集約されて脳の特定部位が反応して返すということをしている訳ですが、その結果反応の遅い神経細胞でも複数経路で並列処理され、経験則による現実認識と照合され補正されることで遅延を防ぎ的確な反応をするという仕組みです。つまり並列処理がキーワードで、クラウドサーバーで処理される訳ですが、電力消費も大きいし、遅延の問題は付きまといます。

インテルのi5とかi7とかはコアの数を示し並列処理は行われてますが、エヌピディアのGPUは多数のコアが実装されていて微弱電流で遅延のない処理を実現している訳で、AI時代を先取りしている訳ですが、ライバルも追いかけており、インテルやクアルコムもアームと組んで新半導体を開発しようとしてますしIBMがラピダスと組んで北海道千歳市に先端半導体製造工場を作るとかの動きがあります。ラピダスは熊本県菊陽町のTSMC熊本工場と共に台湾有事に備えた経済安保案件として国の補助金を得ています。かくのごとくAIを睨んだ先端半導体の開発製造に資金が集まっている訳ですが、その結果妙なことが起きています。

中国がAI開発に熱心で先端半導体を喉から手が出るほど欲しがっている一方、アメリカの輸出規制で先端半導体が手に入らない状況で国産化を模索し、半導体産業の育成を国を挙げて取り組んでますが、技術的なギャップは大きく開発や生産で追いつくには時間がかかります。その一方で半導体産業の育成の結果、先端品ではないレガシー半導体の生産量は増えています。一方市況品で価格が不安定なレガシー半導体は西側諸国では投資しにくいため品不足が起きて日本の自動車産業で操業停止が相次いだことは記憶に新しいところです。そして中国産のレガシー半導体が市場に出回り結果的に半導体不足は解消されました。この状況は当面続くと考えられますから中国依存となる訳です。政治が経済に絡むとろくなことにならない典型ですね。

アメリカが警戒するのは中国によるAIの軍事利用や民主国家の選挙介入やデマ拡散などに使われることですが、それ中国に限った話ではなくどこの国でも起こり得る話です。つまりアルトマン氏が開発に慎重姿勢を示す理由もそこにありますが、マネタイズ派はお構いなしで開発資金を投入してリターンを得ることを重視します。典型はテスラのイーロンマスク氏ですが、EVの中国生産のようにリターンがあれば売り先は誰でも良い訳で、アメリカで開発されたAIが中国に渡らないとは断言できません。マンハッタン計画に関与した科学者の原爆技術のソビエト漏洩のようなこともあり得ます。AI開発が原爆同様パンドラの箱を開く可能性は残念ながらあり得ます。こんなニュースがそれを示します。

イスラエル軍、ハマス施設の証拠示さず ガザ最大病院 - 日本経済新聞
イラク戦争の根拠とされたイラクの大量破壊兵器開発がウソだった件を思い出させますが、イスラエルのガザ地区攻撃の正当性が揺らぎます。ウソ情報が攻撃の理由とされたとすれば、攻撃する側が敢えてウソ情報を流すだけで正当性を主張できるということになります。仮に生成AIでウソの画像が作られ公開されれば、私たちには検証手段がありません。人間の神経細胞よりも処理能力だけは高いAIで大量のウソを吐き出すとなれば、私たちは真実へのアクセスを事実上封じられます。

これが為政者には好都合でもある訳で、どんな無茶なことでも国民を騙して通してしまうことが可能になりますし、政敵を追い込むウソを流布させるなどのことも可能になります。バイデン大統領もそれ故に中国のAI開発を懸念して先端半導体の輸出規制をしている訳ですが、イスラエルに与することで台無しにしています。木から落ちたサルでも指摘しましたが、生成AIを活かす知恵が地上のサルに備わっているかは疑問です。

例えばオリガルヒの叛乱で北陸新幹線線大阪遠視で小浜京都ルートに調査費が計上されたことを以て決定事項のように言われてますが、整備新幹線スキームでは国とJRと地方が同意することを整備計画推進の条件としているのに、JR西日本の意向だけで与党PTが強引にねじ込んだ予算であり、既に関西広域連合で米原ルート推奨を決めた地方の意向は無視され手続きに瑕疵があります。つまり与党PTの暴走を決定事項と言い換えていて、それを誰も止められないということが起きている訳ですね。似たようなことはコロナ禍の五輪やその落とし物の神宮外苑再開発でも言われますが、密室で決めて強引に通すってことは日本では普通に見られます。

ということでAI以前の現状でウソがまかり通っている日本でAIが普及したら結構厄介です。

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Saturday, November 11, 2023

ユニコーンの馬脚

ちょっとだけ中東のニュース。

米軍、シリアのイラン関連施設を空爆 「自衛目的」 - 日本経済新聞
中東に多数ある米軍施設にイラン系の墓相組織が攻撃を仕掛けたから報復したという公式発表。イスラエルとハマスの紛争中にややこしいことをしますが、あくまでも米国の問題ということです。欧米の対テロ戦争回帰で指摘したようにイスラエルはアメリカの劣化コピー版ですね。自衛権を反撃権に読み替えているとしか思えません。そんな国からミサイル買うぞと意気込む日本ですが、反撃能力のリアルはこれだぞ!
米WeWork破綻 金利上昇の重圧、不振企業の倒産増 - 日本経済新聞
資本主義と民主主義の微妙な関係で取り上げたWeWorkが遂に破綻しました。伝説の一角獣ともてはやされた会社が実はロバだった^_^;。ニューヨークなど大都市のオフィスをシリコンバレーのハイテク企業に倣ってカフェ風のお洒落なレンタルオフィスに改装してビジネスパーソンの交流を促し、イノベーションをもたらすという狙いだったようですが、賃料の高い大都市でド田舎だから可能なシリコンバレーのゆとりあるビジネス環境というのはどう見ても無理があります。所詮低金利カネ余り時代の仇花だったってことですね。

そしてこんな企業をユニコーンと持て囃してソフトバンクが出資して損している訳ですが、追加出資したものの、コロナ禍でリモートワークが拡大して利用者が減り、回復しないまま賃料は上がる一方で、FRBの利上げで借入金の金利上昇で事業継続が困難になり破綻処理となりました。ソフトバンクグループは英半導体企業のアームの上場で潤っており、やっと赤字脱却が見えてきたとはいえ、孫正義氏の目利き力はこんなもんなのかも。

そしてやはりユニコーンと持て囃されたウーバーも日本では食事宅配のウーバーイーツがメインという状況で、コロナ禍による外食規制で寧ろ追い風だったようですが、本業のライドシェアは日本の道路運送事業法に阻まれて事業展開が滞っております。それがここへ来て日本でも地方のタクシードライバー不足問題から規制改革会議で議論されており、政府も前のめりなのは減税くそメガネで記しました。

ポンド飛び出し円の切れ目で取り上げた京丹後市久美浜町のウーバーの事業に関しては地方のタクシードライバー不足を言うならいの一番に参照すべき事例ですが実績が公表されていない一方、国家戦略特区として特認を得た兵庫県養父市の「やぶくる」で河野行革相がこんなこと言ってます。

地域交通「喫緊の課題」 河野デジタル相、兵庫の特区視察 - 日本経済新聞
流石に国家戦略特区の指定事業なので非公表という訳にはいかなかったようで、視察時の記者会見で年間400人の利用があったことが明かされました。1日平均1人強という微妙な数字です。300余の基礎自治体の一定割合が視察したとすると、この程度の数字は行政関係者の視察でかなりの部分を占めると考えられますから、一般利用者の実数はかなり悲惨なものと言えます。過疎化で需要自体が蒸発したとしか言えません。

元々過疎化でバスの撤退が問題化していて、多くの自治体でデマンド交通の取り組みが行われております。ザックリ言えばバスとタクシーに中間的なモードで、会員登録した住民が電話や専用端末やスマホアプリで目的地と希望到着時刻を告げて呼び出し、小型バスやワゴン車が予約状況に最適のルートで利用者を拾い目的地へ届けるというもので、会員制乗合タクシーのような存在です。その中の幾つかは道路運送事業法の自家用車有償運行特例によっております。

ライドシェアは配車ベンダーがシステムを提供するのでシステム負担は減りますが、当然ながら利用が少なければ売り上げが少なく、手数料も稼げません。加えて本当の狙いであるデータ収集も非効率なので、本音は都市部への参入ですが、当然ながら都市部ではタクシーと競合する訳で、反対もありますし、参入規制の緩和で台数規制が緩められてタクシードライバーの収入が減っていた訳で、コロナ禍の利用低迷で離職したドライバーも多数います。その結果都市部でもドライバー不足は進行している訳ですが、逆に現役ドライバーにとっては残存者利益を享受できる状況になっている訳ですから簡単に認める訳にもいきません。そんな中で都市部でも動きが出てきています。

横浜の三和交通、タクシー運転手に副業人材 実証実験 - 日本経済新聞
横浜でタクシー会社と配車アプリベンダーのコラボで二種免許保持者を対象とした副業人材活用の実証実験ですが、ドライバー不足をライドシェア導入の口実にされることを睨んだ動きとも取れます。同時にライドシェアの問題点がタクシーとの競合といった狭い領域の問題ではないことも示唆します。

都市部でライドシェアが解禁されれば、当然ながら本業を持った人のスキマ時間活用に使われます。例えばパパの車使い放題の専業主婦やドラ息子、売れないタレント、大学教員の非正規化で生活苦の若き学者の卵たち、正規雇用でも賃金の少ない人たち、おそらくその中には社用車で営業する剛の者も現れるでしょう。そしてスキマ時間で無理な営業をすれば事故のリスクが高まりますが、ただでさえ事故時の責任の所在があいまいな上にドライバーが車のオーナーではない事例では当て脱げ逃亡の可能性もある訳です。それでも解禁すべきとするならウーバーのような配車ベンダーの利益にしか貢献しません。つまり新たな利権漁りでしかない訳です。加計学園の獣医学部新設に見られるように規制改革会議が利権を誘導したことを忘れてはいけません。

ギグ老いるショックで指摘したようにアメリカでは2016年の大統領選でヒラリー・クリントン候補がギグエコノミー問題として取り上げましたが、アメリカでは事実上ほぼ規制なしです。一方欧州ではロンドン市で問題が多すぎるとして営業許可を取り消してますし、同様に規制緩和に慎重な都市が多数あります。アジアでもほぼ規制なしですが、やはり問題は多数報告されてます。ライドシェアを世界標準のように言うのは間違いです。

公共交通で寧ろ今問題になっているのは通信のようなユニバーサルサービスが欠如していることで、例えば北海道新幹線の並行在来線問題のようにバス転換も困難ですし、上述のデマンド交通も極限的な効率を追求しながら採算性は悲惨で自治体の持ち出しで維持されてます。国や自治体がどのように関与すべきかといった枠組みを考えて実現することが必要です。

NTT問題ともオーバーラップしますが、通信のユニバーサルサービスは持ち株会社のNTTとNTT東西が負っていますが、政府保有株放出となればNTT東西を公的保有とするなどして担保する必要があります。そうでなければデータ通信や無線通信もNTT東西が持つ光回線に各通信事業者が依存している現状の通信事情でNTTグループに便宜が図られれば公正な競争環境が損なわれます。まあこれは防衛費倍増の為の株式放出なんですから、ミサイル買うのやめれば済む話でもありますが。通信も交通も加えて防衛も、大元の議論がそもそも欠如しております。

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Saturday, November 04, 2023

笑う鬼退治

鬼が笑う2024年で取り上げたインボイス問題のニュースです。

インボイス導入1カ月「想定以上に負担」 混乱続く企業:日本経済新聞
サラリーマンの経費精算でインボイスの有無の確認作業で現場負担があることは国税庁も認識していて1万円以下の取引でインボイスが省略できる経過措置を決めたりしましたが、ネット取引での登録ナンバー確認など次々に面倒な問題が湧いて出てますし、ドライバー不足なのに運送大手が委託先の多重下請けが仇となって委託先の登録の有無を把握しきれないなどの問題も起きています。独禁法違反が疑われる委託切りも見られるなど混乱しています。

これらはインボイス自体の問題というよりも説明不足や日本的な商慣習故の問題だったりしますが、ただでさえ働き方改革の2024年問題でドライバー不足が言われる中で、タイミングが悪かったとは言えますが、欧州付加価値税制度では機能している制度が日本ではこうなってしまうというのは、日本社会が抱える問題と見るべきでしょう。欧州でも当てない民主政治で損くらってますで取り上げたギリシャショックのようにヤミ営業でインボイス発行しない脱税が横行していたなんて例もありますから、明示された法令も社会の受容次第で機能を失うことは同じではありますが。

ギリシャショックは同時に財政破綻のリアルを示しており世界最悪の日本財政の反省材料にもなります。長期金利が7%になると財政が持続可能でなくなることを明らかにしました。今の日本の減税議論に違和感しかありません。それも所得減税に拘ったために実現は来年6月という役に立たないものですし、1年限りなら後に増税が待っている訳で、リカードの中立定理が働く故に減税くそメガネになります。減税うそメガネとも言われているようですが^_^;。だからといって恒久減税は論外ですが。

別の視点ですが今回の減税は税収の上振れ分の還元を謳っている訳ですが、その根拠となるのが22年度の10兆円超の税収上振れでして、円安による企業業績の上昇による法人税収とインフレによる消費税収が主なもので、7:3の割合です。昨年円相場が激しく動いた結果ですが、今年は150円前後で膠着しており、去年のような上振れが起きるとは言えませんし、インフレは税収増をもたらすと同時に政府支出も増やします。今年度の予算は当然インフレを踏まえて連動する社会保障費は拡大しますし、人件費や資材費の上昇は公共事業費も上振れさせますから、年度をまたいだ歳出増で消化されます。故に減税財源にはならない訳です。

日銀、長期金利1%超容認 植田総裁「大幅に上回らず」:日本経済新聞
日銀がYCC見直しに動きましたが、1%変動枠に長期金利が近づいて維持困難と判断して限度からめどへと表現を変え1%超の金利を容認する姿勢を見せました。但し急激な変動は抑えるということで緩和継続を謳っておりますが、実態は市場の圧力に押されての判断ということですね。それでも不十分ということで為替は円安に振れて150円のバリアを突破しており円安傾向は続きます。

とはいえ変動幅は小さいですから、上述のように法人税収の上振れ効果は限られます。但しインフレ要因ですから消費税収の上振れはある程度発生しますが、政府支出増を上回る水準になるかどうかは微妙です。ということは税収上振れを見込んだ減税は財源的には微妙ってことです。増税メガネと悪口言われたから減税を打ち出すとか、思いつきで政治をやるなということですね。

岸田政権の打ち出す政策は。例えば少子化対策と称して児童手当の拡充を打ち出し高校生も対象に加えてますが、一方で自民税調で高校生の扶養控除圧縮が議論されているという具合に目先を誤魔化す姿勢が見られます。基本的に国民をなめているとしか思えません。手当拡充よりより高校無償化の方が効果的ですし予算も少なくて済みます。という具合に目につくところをやったフリで乗り切って選挙の票稼ぎというあざとい姿勢は国民に見透かされてます。桃太郎よろしく鬼退治しても宝は得られません。桃太郎は岡山だけど。

2024年の働き方改革で人手不足が言われている中で少子化対策でバラまくというのは本当の問題解決にはならないばかりか、仮に出生率が上がって子供が増えたところで家庭内のケア労働を増やして特に女性の就労を圧迫しますから、人手不足は悪化します。持続可能な賃上げを打ち出して法人減税をしても法人税を払っていない赤字企業は蚊帳の外ですし、仮に賃上げが定着しても企業の人件費上昇は価格転嫁に繋がりますから賃金インフレで結局実質賃金は伸びないですし、新NISAで家計貯蓄を資産運用へという画を描いても、今の市場環境では国内株式に資金が回る保証はありません。日銀のETF購入で下駄を履かせた官製市場の現在の株価では個人投資家が得られる利益は限られます。一方でそれでも株価が上がらない日本企業はアクティビストの草刈り場です。

京成電鉄、ディズニーでゆがむPBR 実態は「1倍割れ」 - 日本経済新聞
お業績好調なオリエンタルランド株の保有分の時価が1.6兆円と自信の時価総額を上回る水準にあり、OLC株を除いた本体のPBRは0.5倍程度と見積もられ、英アクティビストファンドから一部売却を迫られております。京成電鉄の場合コロナ禍で空港輸送が大打撃を受けた不運はありますが、逆に空港輸送の1本足打法の脆弱性が露呈した訳で、オリエンタルランドのような優良企業を連結対象にしていることがリスク要因となっている訳です。

京成電鉄には新京成電鉄という優良企業をグループ内に抱えており地域輸送に特化した事業環境もあってコロナ禍の影響も軽微だった訳ですが、その結果コロナに勝てない国で取り上げたように完全子会社化して元々の保有分の含み益由来の負ののれんで益出しするなどしてきましたが、そんな一過性のことでは事態は改善せず次のステップを踏みます。

京成電鉄が傘下・新京成を吸収合併へ 25年4月 - 日本経済新聞
継続的に利益を計上して株価を上げるには、経営統合して運営面で規模の経済を狙うしかない訳ですが、悩ましいのは運賃の共通化問題です。共通化して運賃通算すると初乗り運賃の二重取りが無くなり乗客にはメリットがありますが、運賃収入の減少は避けられず寧ろネガティブな評価になりかねません。故に当面現行運賃を維持するということになりました。

別運賃自体は現行制度で禁止されておりませんし、京成自身もちはら線と成田空港線(スカイアクセス)は別運賃です。それぞれ歴史的事情があって、ちはら線は元々小湊鉄道が東京直通を狙って京成千葉(現千葉中央)―海土有木間の地方鉄道免許を申請して交付されたことに始まります。京成線を通じて東京進出を図った訳ですが、4ft8in1/2(1,435㎜)電化の京成と3ft6in(1,067㎜)非電化の小湊では直通はできない訳で、長らく免許更新を続けながら棚ざらしになっておりました。京成との合弁で千葉急行電鉄を設立して事業化を模索したものの進まず、沿線予定地の宅地開発が具体化して途中の千原台(仮)までの事業化が動き出し実現しました。しかしバブル期の仇花で宅地分譲は遅々として進まず、業績が上がらずに京成が救済合併して京成ちはら線となりましたが別運賃は維持されました。故に対都心でJRに乗り換える場合には千葉中央と京成千葉の間の京成線運賃の合算が重荷になりますが、赤字路線を引き受けた京成としては簡単に運賃を弄れないわけです。

成田空港線は元々三セクの北総開発鉄道(現北総鉄道)の路線を利用していて、小室以東は千葉県営鉄道由来の宅地開発公団線として別運賃だったこともあり、高運賃で利用が低迷しました。宅開公団は小泉改革の特殊法人改革で統廃合や名称変更の結果、鉄道事業を切り離すことになって京成が引き受け第三種事業者の千葉ニュータウン鉄道となり北総が第二種事業者となって一体化されたものの高運賃は改善されず、住民訴訟にまで発展しました。結果的には成田新幹線ルートを利用した北総ルート(成田スカイアクセス)が整備され北総線の運賃の見直しをすることで和解しましたが、それ故に北総線と共通化された成田空港線運賃も安易に動かせない政治性を帯びた訳で、やはり解消は困難です。

という訳で、新鎌ヶ谷で接続する新京成線と成田空港線の運賃統合はやはり無理となると、京成津田沼での京成本線・千葉線との運賃通算に限られる訳ですが、これも新京成線が新津田沼でJRと乗換可能で船橋乗換からシフトすることになると京成にとっては減収要因になります。船橋乗換の場合も東京メトロ東西線に向かう場合はJR線を挟んで初乗り運賃の重複負担となりますが、東京メトロの低運賃に助けられています。京成西船に優等列車を停めないのはJRに気を遣っているのかも^_^;。

ということで、当面車両の共通化や乗務員も含めた運営の柔軟化などで地道に益出ししたり、それぞれが抱えるバス事業の再編などで合理化を進めるぐらいしか打つ手はない訳で、アクティビストの納得を得るハードルは高いといえます。こうした問題を抱えて身動きが取れない日本企業は数多くあり、海外投資家を通じた国富の流出を助けるだけです。鬼たちも大爆笑-_-;。

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Saturday, October 28, 2023

ドイツの後塵

まず減税くそメガネlで取り上げた無人タクシーの残念なニュースです。

米加州、GM傘下の無人タクシー運行停止 人身事故巡り:日本経済新聞
隣を走っていた別のクルマが撥ねて倒れた歩行者の女性を巻き込んで6m走って停止したという事故で、クルーズの無人タクシーの有責事故ではないんですが、問題は自動運転車が事故を認識して路肩へ寄せた結果、被害者のダメージを高めてしまったことです。しかもそのことを当局に対して隠ぺいしたということで運行停止となったものです。

グーグル関連会社ウェイモに始まる無人タクシーの実験運行ですが、結果的に複数企業が米国内各地で実験運行を始めた結果、事故の報告が増えています。搭載AIが学習途上ってことでしょうけど、主に画像解析に依存していて、変化の激しい道路の交通状況に対応しきれていないということのようですが、それならば尚更情報隠蔽は問題解決から遠ざかる訳で問題です。恐らくショッキングな映像で世論の反発を恐れた結果かもしれませんが、企業姿勢としては問題です。加えて画像以外の事故回避システムの必要性も示唆します。

こうした社会実験を認める米州当局の在り方ですが、合意形成が難しい連邦政府ではなく州政府への企業のロビー活動が盛んな結果がこうした事態を招いている面もあります。インフレは続くよどこまでもで取り上げた全米自動車労連(UAW)のストでも南部の共和党ステートの労働者保護の不備を問題視しており、それにバイデン大統領が連帯を示したことでややこしくなっております。その中でフォードが大幅賃上げを含むUAWの要求を呑んで和解した一方、GMやストランティスではストが続いており、労働者の権利拡大という面で言えば日本の国鉄で起きたスト権ストに近い性格で、GMは無人タクシー事故も重なって苦境にあります。という訳でウクライナやガザの紛争を抱え内憂外患に苦しむアメリカです。

とはいえ現状経済的には先進国で独り勝ち状態にあるのですが、こうしたことが重なり、且つコロナ給付金で生じた過剰貯蓄が枯渇しつつある米経済の先行きは明るくはありません。それでも相対評価でドル独歩高が続く為替市場ですが、円が主要通貨に対してほぼ値下がりしている結果、こんなことが起こる訳です。

日本のGDP、ドイツに抜かれ世界4位に IMF予測:日本経済新聞
日本が中国に抜かれて3位転落したのが2010年で、いずれインドにも抜かれるとは言われておりました。どちらも新興国で経済成長が目覚ましく、中国は既に日本の3倍近くと経済成長を続けております。それに引き替え先進国で低成長のドイツは、エネルギーのロシア依存が仇となって高インフレに苦しみ、中国依存が対中デリスキングで見直しを余儀なくされていて苦しんでいる訳ですが、あくまでもドル建て名目値での逆転であり、日独のインフレ率の差と為替変動の結果であり問題なしと解説する人もいますが、大間違いです。

ドイツが日本以上にインフレ率が高く苦しんでいるのはその通りですが、ECBの利上げでユーロの対ドルでの下落率が日本円と差がある訳ですが、日銀が利上げに動けないのは金利高による日本国債の暴落リスクがある為で、財政の健全性が仇となっていて動くに動けない結果です。異次元緩和を10年も続けた結果こうなった訳で、過去の政策が仇となっていて予想外の逆転をもたらしたという意味で深刻です。加えて人口8,300万人と日本の2/3ですから1人当たりGDPは1.5倍で、それだけ日本国民の購買力が低下した訳です。つまり新興国の成長の結果の逆転ではなく日本の衰退の結果の逆転ということで、深刻に受け止めるべきニュースです。

それなのに日本の国会では無意味な減税の議論ばかりしていて、更に財政を悪化させようとしているのですから救われません。加えて政府の打ち出す政策が悉く的外れという救いようのない状況です。所得税減税では納税者の6割が最低税率の5#課税で定額減税の恩恵が得られません。この中には年金受給者の嘱託雇用や主婦パートなどを含みますが貧困ひとり親世帯が多数含まれており、少子化対策と矛盾します。また賃上げを狙った法人税減税も問題があります。

賃上げ減税、中小6割が対象外 赤字体質の脱却重要に チャートは語る:日本経済新聞
法人税は欠損の最大10年の損失繰越という税法の仕組みで、資金繰りを図りながら敢えて欠損を出して繰越繰越で課税を逃れることは可能です。そうした企業は賃上げしても減税の恩恵は受けられませんから意味のない減税です。寧ろ基準を見直して課税強化した方が賃上げを促します。あと年金に関する2つのニュースです。企業の年金負担22年度6兆円減 金利上昇で業績押し上げ【イブニングスクープ】:日本経済新聞JAL再建会社更生法適用が決まるで解説した確定給付型企業年金(DB)が高度経済成長期には企業にとっても従業員にとってもメリットがあり、公的年金の貧弱さをカバーしてきた訳ですが、バブル崩壊後の低成長期にも見直されずに企業による拠出金でDOBに給付してきた訳で、所謂レガシーコストと呼ばれ、これが90年代の事業縮小や新卒採用手控えで所謂ロスジェネ世代を生み出しました。その後日本版401kと呼ばれる企業型確定拠出年金(DC)の制度かで乗り換える企業が出た一方、OBの顔色を窺って企業業績に躓いたJALのような企業も出た訳です。利回りを見直すなどして制度を維持した企業も昨今の金利上昇で利回りが改善してメデタシなんですが、その結果生じる剰余金を賃上げの原資にするならともかく、内部留保される可能性もあります。こうした資金を賃上げに回せるように背中を押すことが出来れば持続可能な賃上げも不可能ではないでしょうけど、同時に保有資産の減価による損失との見合いとなりますが、例えば内部留保課税のような形で賃上げに回るような制度的工夫はあり得ます。
国民年金、給付水準の低下抑制 保険料納付5年延長案も:日本経済新聞
年金制度の持続可能性を高める検討は必要ですし、労働市場の実態や長寿命化の実態から見ても納付期間延長や給付年齢繰上げはいずれ避けられないでしょうけど、第3号被保険者制度を廃止して専業主婦から保険料を納付することが抜けてます。保険料負担が無いから主婦パートの年収の壁問題が生じる訳で、厚生年金に加入すれば保険料負担が無くなる上に老齢年金の増額や妊婦給付など保証範囲も広がる訳で、受け入れやすくなります。但し雇用主の負担は変わらず雇用側の都合でシフト減らしの可能性は排除できませんが、そうした雇用主は従業員を確保できずに淘汰されるとすれば、被雇用者側にとってはメリットです。

年金と国鉄の意外な関係で解説したように元々国家総動員体制の一環として会社員が転職で不利になる上、保険料を徴収して戦費に充てる狙いもあってスタートした厚生年金保険制度ですが、時代が変わればアップデートが必要な訳で、そうした議論が進まない中で年金財源が枯渇することで、結局被害を受けるのは今の現役世代と姿なき将来世代なんです。世代間の対立を煽って議論をやりにくくする昨今の風潮は問題があります。

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Sunday, October 22, 2023

減税くそメガネ

ガザの病院空爆でアラブ諸国がイスラエルを非難した後、イスラエルは否定してハマスの自作自演まで言い出す水掛け論、別のテロ組織による攻撃説まで出てますが、これ戦場のリアルとして見ればこの手の話はどれも可能性があります。従軍経験のある古老の話として、戦場では弾は前からばかりでなく横からも後ろからも飛んでくるものとされますし、湾岸戦争、アフガン戦争、イラク戦争でも米軍のピンポイント攻撃で民間人誤爆が報じられた事例も多数あり、戦場はカオスであり、検証もしようがないので、いつまでたっても水掛け論になります。

話題を変えて岸田首相を「増税メガネ」と呼ぶネット言説が拡散しました。出所はアベノミクス妄信の情弱ネトウヨ界隈らしいのですが、いつのまにか「くそ」が挿入されて一般化しました。一方で安倍政権下での2回の消費税増税を挙げて「岸田政権は増税していない」という擁護言説も流れましたが、これ正直目くそ鼻くそです。とはいえ内閣支持率低迷もあって本人は気にしているとか。そうした背景でこういうことになるんでしょう。

首相が所得減税を指示、定額検討 宮沢氏「1年が常識」:日本経済新聞
時限措置としての所得減税を検討しているようですが、1年期限の定額減税で低所得者世帯には恩恵がないということで、非課税世帯への給付金と組み合わせるということらしいのですが、それ一律給付金と変わらないし、行政手続き上は一律給付の方が簡素で低コストですし、家計補助は需要を刺激してインフレの昂進に繋がるという意味で問題があります。仮に実現しても「減税くそメガネ」と言われるだけですね。インフレ抑制は金融政策で対応するものですが、金融政策を担う日銀の動きは緩慢ですが、流石に変化も見えます。
日銀、金利操作の再修正論 長期金利「上限」1%接近で:日本経済新聞
日銀は緩和継続しながら異次元緩和の出口を模索する姿勢ですが、米長期金利上昇による日米金利差拡大による円安と中東情勢の緊迫化による原油価格の上昇圧力もあり、市場はそれを織り込んで動きますから、結果的に長期金利1%の猶予枠を超える可能性が出てきてYCC見直しを余儀なくされそうな気配です。長く続いた異次元緩和で手足を縛られている事情はありますが、市場に押されて渋々動く姿勢ではタイムリーな政策を打つことはできません。

という訳で日銀が当てにならない中で政府が経済対策を打ち出そうとしている訳ですが、財源は曖昧にしており、予備費の未執行分や税収上振れ分で対応することを検討しているようです。これらは剰余金として次年度に繰り越され、財政法で半分は次年度の新発国債発行を圧縮することに使われます。それを補正予算で使う訳ですから、次年度の国債発行額を押し上げますし、今年度予算で国債発行で調達された予算の使い残しという意味では国債を財源にすることと変わりはありません。

加えて防衛費倍増と異次元の子育て対策を打ち出しており、その財源議論も先送りしていますから、将来の増税は避けられない事情があります。一方で防衛族議員からはトマホーク配備の前倒しの要求が出されております。旧式でよければトマホークは今買って配備を前倒しできるというですが、これ米中デカップリングのリアルで取り上げた無人偵察機グローバルホークの旧式を掴まされた話に懲りてないというか、何のための防衛なのかが問われます。加えて財源が確保されない中での前倒しは事実上国債を財源にすることと同じ意味ですから単なるゴマカシです。

異次元の少子化対策も財源を曖昧にしてますが、国会審議を必要としない社会保険料の値上げで対応しようとしているようです。これ事実上の増税ですが、負担と給付の関係を整理して対応すべきことです。絶望の少子化対策でも指摘しましたが、少子化対策は結局現役世代の負担増を通じた窮乏化で寧ろ少子化を促進します。繰り返しになりますが、労働力の減少を前提とした資本装備増強による1人当たりGDPの水準維持が重要です。

あと時限的減税ならば消費税減税が手っ取り早いのですが、その為にはインボイス制度が定着する必要があります。ですからインボイスに反対する一方で消費減税をを求める議論はインチキですし、欧州の消費減税はコロナ化などの非常事態対応で限定的に行われています。期間限定の減税という意味では所得税よりも適切とは言えますが、需要喚起はインフレを悪化させますから、現時点で適切とは言えません。

寧ろ財政需要拡大は将来の増税に繋がる訳で、財政赤字が結局将来に備えた消費をを抑制するメカニズムが働くことも指摘しておきます。これリカードの中立命題と呼ばれる確立した命題ですが、ケインズの財政政策があくまでも需要不足解消の時限的な財政出動ですから中長期では矛盾はありません。課題解決に奇策はありません。その意味で考えさせられるニュースです。

岸田首相、臨時国会でライドシェア導入の検討を表明へ:日本経済新聞
管前首相や河野デジタル相を中心に急浮上したライドシェア解禁ですが、特にタクシードライバー不足が言われ、特に地方で顕著ということですが、これ白タク認めろって話ですから、慎重に検討すべきです。東京など大都市部では台数規制撤廃で稼働率が下がってドライバーの収入を押し下げていた現実もある訳で、寧ろ稼働率が上がって生産性が改善している訳です。その意味では全面解禁は疑問です。

ポンド飛び出し円の切れ目で取り上げた京都府京丹後市久美浜町で車両運送事業法第78条を根拠とする自家用自動車有償運送特例による特認という形で現行制度内で対応しました。つまり地方限定ならば現時点でも参入可能性はある訳で、地域の実情を見ながら対応することは可能でしょう。法的整合性の意味で第二種免許所持者限定で車両も商用車登録で毎年車検とか旅客運送対応の保険加入など参入のハードルはありますが、安全輸送を優先すべきなのは言うまでもありません。ネギ背負ったカモで取り上げた電動キックボード解禁のような乱暴なことはしてほしくありません。ホンダ、日本で無人タクシー 移動難民を解消するか:日本経済新聞ホンダが提携関係にあるGMのクルーズの自動運転車を使って2026年にレベル4の無人タクシーを始めるというニュースです。いずれ大都市部にもドライバー不足は波及するでしょうから、それに備えた技術革新は理にかなっておりますが、レベル4の無人運転は海外の一部で認可されているものの、日本にそのまま導入するハードルはあります。特に法令改正を伴う部分で今の日本のような課題先送りの姿勢がネックになる可能性はあります。

技術的には完成度も高くなりつつある自動運転ですが、事故時の責任分担などの問題は技術よりも法的な課題として議論を深める必要があります。有償運行を前提とする以上、安全性ののりしろを大きく取ることになるでしょうけど、そうすると有人運転の他車ドライバーから見れば「かったるいのろま」になることを意味しますので、案外この辺が導入のネックになるんじゃないかと思います。加えて例えば信号が変わるタイミングでの停止と通過の判断や優先関係の曖昧な交差点や見通しの悪い曲線路でのレベル4同士の出会い頭では両者停止状態でフリーズするといったデッドロック現象も対策を求められます。この点は道路側の改良が必要となるケースも考えられます。とすると導入条件は案外厳しいものになりそうです。

こうした点からJR東日本が山手線で実現を目指す鉄道のドライバレス運行が先に実現するかもしれません。専用走行路を走る鉄道ならではのアドバンスですが、同時に併用軌道を走ろ宇都宮ライトラインのような軌道線では目視運転前提ですので、ドライバレスは不可能となります。とするとLRTのアドバンスは微妙になるということでもあります。この辺はどのように推移するか見通しにくいところではありますが。

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Saturday, October 14, 2023

欧米の対テロ戦争回帰

ハマスの攻撃に対するイスラエルの軍事作戦が実行されようとする中で、民主主義対権威主義では見えない本音が露呈しました。

ハマスのイスラエル攻撃「断固非難」 G7が共同声明:日本経済新聞
気分は9.11後の対テロ戦争に回帰したかのような状況です。ハマスのテロ行為を肯定はできませんが、200万人以上が住むガザ地区は高いフェンスで覆われ、物資の出入りもイスラエル政府に管理されて最低限のものしか供給されず貧困の極みにある状況は放置されてきた訳で、重大な人権侵害が日常化していたことは指摘しておきます。

特にバイデン大統領の親イスラエルの姿勢には違和感を禁じ得ません。9.11後のアメリカの対テロ戦争でテロの主犯とされたアルカイダのリーダーのウサマ・ビンラディンを匿ったという理由でタリバン政権下のアフガニスタンにNATO軍で開戦して20年後の撤退戦という苦い経験を忘れたかのような対応です。アフガン地震でタリバン政権は国際社会に支援を求めておりますが、女性の権利侵害などを理由に経済制裁が科されていて、現時点で応じた国はありません。人権外交どこへやらです。

尤も今回はイスラエルが当事者ですから、アメリカはあくまでも支援する立場ですが、ウクライナとの二正面作戦を余儀なくされて対中国を睨んだ米軍のアジアシフトはますます遅れます。特にアメリカの仲介でイスラエルとの国交樹立を模索していたサウジアラビアの態度が微妙になり、バイデン大統領としては外交で大きな失点となりました。ウォール街のユダヤ人脈への忖度もあるでしょう。

色々な見方が錯綜してますが、ある意味イスラエルはアメリカと似た背景の国ではあります。ローマ時代から迫害され続けた欧州ユダヤ人によって建国されたイスラエルは、ある意味イギリスで宗教上の理由から迫害された清教徒の新大陸植民から独立に至ったアメリカとは相似相と言える建国の経緯があります。共にネイティブな住民を排除して建国された点も似ています。そしてイスラエル国内にも多数のアラブ系住民がいて主に低賃金のエッセンシャルワークを支えている点もネイティブアメリカンやアフリカ系などの有色人種の労働力に依存するアメリカと似ています。そして軍事大国でもあります。

ガザ地区を囲む高いフェンスもアメリカの保守派がメキシコ国境に作れといっている柵を先取りしたようなものとも見えます。実際イスラエルはネタニヤフ政権下でイスラエルの世論も保守化していますが、一方でネタニヤフ政権下での汚職事件や進められていた司法制度改悪に反対する運動も盛んです。イスラエルも一枚岩という訳ではありません。同時にネタニヤフ首相にとっては戦時のリーダーとして統治の強化を図れるチャンスでもある訳で、その為に失われるパレスチナ人の命は考慮されていません。これをジェノサイドと呼ばずに何と呼ぶべきか-_-;。

パレスチナ問題は深刻ですが、一方で日本国内でも深刻な事態が進んでいます。

ローカル線、運転士不足で減便相次ぐ 福井鉄道は2割減:日本経済新聞
アメリカやイスラエルがエッセンシャルワーカーを他民族に頼っている一方、公称単一民族国家の日本では、人口減少下エッセンシャルワーカーの確保が難しくなっていることはエッセンシャルワーカーが足りないで取り上げたバスやトラックのドライバー不足と同じ問題がローカル私鉄でも顕在化しているのですが、数の上では多い大型二種免許保持者と比べても鉄軌道事業の動力車運転免許保持者は圧倒的に少なく、実務経験などの資格要件も厳格な上国家試験が年2回で育成のボトルネックにもなっています。加えて大手事業者のような好待遇を出せないローカル私鉄の厳しさは尚のこと。

取り上げられた福井鉄道の場合は鉄道と軌道に跨る路線構成で、前者向けの第一種免許を保持するJR退職者も後者向けの第二種免許を取得するまで乗務できず、徹軌道分界点に駅がないことから乗務員交代の対応も取れないという特殊事情もあります。どうする縦割りで取り上げた鉄道事業法と軌道法の縦割りの弊害が作用している訳です。

政府はトラックやバスのドライバーを外国人解禁(特定技能職種に追加)で対応しようとしてますが、円安で稼げない日本にわざわざ来て大型二種免許取得というコストを負担してまで来てくれると考えるのは甘いでしょう。エッセンシャルワーカーの枯渇は先進国共通の課題ですが、日本の急速な人口減少はそれだけ危機的ですが、政府は有効な対策を打てておりません。国民の窮乏化が作用している現状で取ってつけた少子化対策は無意味だし財源ねん出過程で国民負担の増加や行政サービスの低下を伴うことも確実です。当然有事に戦う兵士もいないということでもあります。外国人兵士も解禁するのか?当然ながらそんな日本は世界平和を希求し平和の配当を受け取る以外に道はないんですけどね。

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Sunday, October 08, 2023

戦争とインフレ

前エントリーのインフレは続くよどこまでもの続編を書かざるを得ない現実に直面しています。アゼルバイジャンによるナゴルノカラバフ侵攻のほか、コソボ国境へのセルビア軍集結はまるでロシアのウクライナ侵攻前夜を思わせます。加えてパレスチナのハマスによるイスラエル攻撃とイスラエルによる報復と紛争があちこちで噴出しています。多分元を辿ればこのニュースに行き着くのでしょう。

米下院、マッカーシー議長の解任動議を可決 米国史上初:日本経済新聞
10/1からのつなぎ予算をまとめたマッカーシー議長の解任動議が共和党から提出されて可決成立して下院議長が空位となりました。その結果後任を選ばなければなりませんが、多数派の共和党から選出される限り、保守強硬派の発言力が増すことが予想されます。その結果今回のつなぎ予算で削られたウクライナ支援予算が復活する見通しが立たなくなり、支援継続が難しくなっています。その分アメリカの軍事プレゼンスが低下した訳ですから、鬼の居ぬ間の洗濯とばかりに軍事行動を起こす国や地域が出てくる訳です。

但しそれぞれ抱えている事情は異なります。アゼルバイジャンのアルメニア侵攻は元々仲の悪かった両国の紛争がロシアの軍事的弱体化でバランスが崩れた結果ですが、石油成金のアゼルバイジャンはソビエト時代にも国内の山岳ユダヤ人迫害を抑えられないソビエト政府がイスラエル亡命を認めた結果、人口増のイスラエルがパレスチナ暫定政府(ファタハ)と交わした和平合意を反故にして越境入植したことでパレスチナ情勢を悪化させました。それに対して為す術のないファタハのぬるい対応に対する不満の受け皿としてハマスが台頭し、ガザ地区を実効支配するに至ります。つまりファタハの暫定政府の統治が及ばない訳です。

コソボはそもそもセルビアの自治州だったところをアルバニア系住民が多くセルビア人による虐待を口実にNATOが介入して独立させた経緯があります。故にロシアのクリミア侵攻の時に「ボスニアはどうだった?」とロシアの立場を正当化する口実に使われ、巡り巡ってウクライナ侵攻に繋がります。ロシアがウクライナを自国の一部と主張するように、セルビアがコソボを自国の一部とと主張することに繋がります。加えてウクライナ問題でNATOの対応が手薄になるという読みもあるでしょう。

同時にロシアにもアルメニアを支援する余力がないことでアゼルバイジャンが攻勢に出たという形でウクライナとの連動は見られます。但しパレスチナのハマスの攻勢は今のところ唐突感が強く、故にイスラエルも虚を突かれた形となっておりますが、やられた分はキッチリ倍返しするイスラエルの流儀からすれば結局パレスチナ側の被害の方が大きくなるのは避けられないでしょう。

という風に連鎖的に起きている紛争は、結局アメリカの軍事プレゼンスの低下で抑えが効かなくなっているってことですね。加えてウクライナ支援予算が減ればその傾向は更に増します。またロシアも北朝鮮に頼らざるを得ないほど弱体化している訳で、アメリカの支援が減ったからといってロシアが有利になるとも言えません。その一方でアフリカのサブサハラ地域でのワグネルの存在感が拡大してロシアの間接的プレゼンスを支えているなど、世界は複雑化しています。

これだけきな臭くなった世界ですが、台湾や朝鮮半島では大きな動きはありません。中国はゼロコロナの失敗や不動産バブル崩壊でそれどころじゃないし、北朝鮮もコロナ禍で国内経済が疲弊しており、特に海外へ出た出稼ぎ労働者が国内に帰れずにいた訳ですから、ウクライナ紛争でロシアへの武器輸出でやっと一息ついたのが現実ですし、国内装備の強化はその分後回しですから、直ちに有事となる可能性は低いといえます。

台湾に関しても騒いでいるのはほぼ日本だけですが、アメリカは本音ではウクライナで手を取られて米軍のアジアシフトが遅れていることを気にしていますが、岸田政権の防衛強化策でミサイル買ってくれるし米軍の指揮下で動くこともあり、寧ろ中国も北朝鮮も相手にしていなかった日本を攻撃する口実を与えることになります。アメリカにとっては日本が弾除けになってくれる一方、日米安保5条による防衛義務はあくまでも議会の承認が必要ですから、ウクライナへの支援すら打ち切ろうとしているアメリカの保守派が支配する議会で本当に防衛してくれるのかは疑っておく方が良いでしょう。

あと著す円半島と台湾の国際法上の違いも、日本でゃあまり話題になりませんが、朝鮮国連軍の名目で駐留在韓米軍は紛争当事国であり、朝鮮半島有事には動かざるを得ない立場ですが、台湾に関しては未承認ですから、集団的自衛権行使の対象にはなりません。装備強化などの支援はしてもイザというときには動けない、少なくとも議会の承認は必要です。となると米軍が動けない分初動を日本の自衛隊に頼る可能性はあります。つまり米中代理戦争を負わされる可能性はあります。

そしてミサイルを買うお金も予算化されずに放置されてます。これも度々指摘してますが、真水の財源を確保できなければ、例えば決算剰余金を充てるにしても、その分国債償還費を減らす訳ですから実質国債発行で対応することになります。つまり財政に負荷をかける訳で、生産力を持たない兵器の購入は様々な経路で国民の財布に戻る政府支出を圧迫し国民の経済厚生を悪化させます。しかしそうまでして必要とする議論は行われておりません。

加えて円安によるインフレ進行で国民生活が苦しい時だけに、本当に必要なのかをきちんと議論して国民の同意を得ることは必要です。加えて言えば有事への備えとはいえ一応平時の現状で真水の予算で対応すればこそ、有事の財政出動の余地が出来る訳で、太平洋戦争後のハイパーインフレが示すように、財政の悪化は事後的にインフレで調整されます。ということで紛争で財政支出を余儀なくされる状況では、財政インフレが起きる訳で、国民生活を圧迫します。

その前に定員割れ状態にある自衛隊を戦闘に駆り出すことは現実的に難しい訳で、そもそも人口減少が進む国での軍備増強は国民に負担を強いるだけで実際に戦える体制を構築することすら困難です。この点は自衛隊に限らず2024年問題に直面する建設業や運送業の人手不足と同根ですから、解決は容易ではありません。何しろ大阪万博すら開催が危ぶまれる現状です。遅まきながら政府も以後いてはいます。

鉄道・船舶の輸送量10年で倍増 政府の2024年問題対策:日本経済新聞
今ごろこんなこと打ち出しても来年3月の働き方改革には間に合わない訳で、分かり切っていても動かない政府の無策ぶりに眩暈がします。当然ながら北海道新幹線並行在来線の函館本線長万部以南に対する対応は行われることが期待されますが、現状維持ではなく倍増となると、日本の鉄道貨物で致命的な投資不足に対する支援がしっかりできなければ画餅に帰すことになります。まもなく発表される政府の経済対策を注視しましょう。

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