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Sunday, December 29, 2024

青春18アップデートの不可避

今年冬からの青春18きっぷの改変に一部鉄ちゃんがイチャモンつけてます。JRを弁護する気は更々ありませんが、これも時代かなとは思います。訃報がありましたがJR東海初代社長の須田寛氏が国鉄営業局長時代に1982年のフルムーングリーパスという企画商品をヒットさせた成功体験に基づき、年代別の企画商品として1983年に中年女性向けのナイスミディパス、そして1982年に若者向けの青春18のびのびきっぷとして発売されたものが形を変えて民営化後も存続してきたものです。

国鉄時代には乗車券だけで乗れる長距離普通列車が多数走っていて、その多くは旧型客車を連ねた機関車牽引の客車列車でした。客車は動力を持たないし、当時は寝台車やグリーン車を除いて冷房もなく、客用扉は手動の開戸でドアエンジン不要、照明は車軸発電機電源ですから引き通し線も要らないし自動ブレーキ管と暖房スチーム管を繋ぐだけで組成できるというシンプルな作り故にメンテナンスが容易なこともありますし、機関車は貨物と併用で済ませますから、料金を取れない普通列車には多く使用されていました。また長距離を走りますからラッシュ時間帯にかかる区間もあり、その需要に応える意味で長編成で運用されますから、メンテナンス負担が少ないことは寧ろメリットでもありました。また夜行普通列車も多数存在し、山陰線経由京都―下関間や鹿児島長崎佐世保大村線経由門司港―長崎間の夜行風通は寝台車が組み込まれていて、マルス収容のために「山陰」「ながさき」の愛称名までついていました。

これらの列車の多くは民営化後のJR各社の合理化策で縮小、廃止されましたが、青春18きっぷは春夏冬の休校期間の通学列車の余剰輸送力対策として存続することになります。加えて国鉄時代に関越高速バス運行開始に対抗して安価な夜行列車として新宿―新潟間に座席指定快速ムーンライトえちごが設定され、EF64牽引の14系客車で運行開始され、JR化後も車両の変化はあるものの定期列車として存続し、東海道線の通称大垣夜行もJR化後にムーンライトながらとなる流れとなります。当時はまだJR東海も唯我独尊ではなかったようです。また北海道の函館―札幌間快速ミッドナイトも定期運行されてJR化後も残りましたし、JR化後特にJR西日本を中心に臨時快速ムーンライトを青春18シーズンに運行するなどしてJR各社の連携でユーザーを掘り起こしたという意味はありました。しかし定期夜行快速は青春18シーズン以外の乗車率の悪化で季節臨に格下げされ、臨時ムーライトも含めて廃止に至ります。

しかし時は流れ若者向けとはいえ特に年齢制限のない青春18きっぷのユーザーも歳を取り、若者は割安な夜行バスに流れて当初の若者向け企画商品としての性格は失われていきます。11年前のエントリーですが、青春18還暦鉄の時点で、既に青春18きっぷの役割は変わり、青春を懐かしむ老いらくの旅の傾向が強まっていました。また同エントリーでも述べましたが、ムーンライト車内での検札でかなりの手間をかけていることや、自動改札化が進んでも磁気券ではないので有人改札に人が列をなすなどJRの現場への負担も大きくなってますし、整備新幹線開業に伴う並行在来線三セク化によるJR路線の分断もあり、ユーザーの使い勝手も悪くなっています。そういう意味で見直しは避けられなかったということはできます。加えてそもそも地方の人口減少で通学生も減って通学列車の余剰輸送力活用という前提も崩れてきています。そしてコロナ禍がJR各社の余力を奪ったことも。

ということで、今回の改変は事実上別の企画商品への変更となりますが、現場負担軽減のための磁気券化というのが一番の狙いでしょう。その結果期間中の任意の日の利用や2人以上の同時利用は制限せざるを得なくなりますし、出発日指定はおそらく磁気定期券のシステムを流用したってことでしょう。それ故に連続使用しかできなくなりますが、割引企画商品のために大規模なシステム改修を行うのは本末転倒ですし、寧ろ3日券という新たな選択肢を用意して購入しやすくする工夫も見られます。そうまでして残したこと自体は評価しておきます。

とはいえやっと磁気券になった段階ですが、栗鼠殺し?木から落ちたサルで取り上げたように、既にJR東日本では磁気券を無くしてQRコード乗車券を導入する検討を始めてますし、またVISAカードで始まったオープンループというNFCタッチ決済システムが関西私鉄や関東でも東急や東京メトロ、一部のバスやタクシーで導入が進み、Felicaシステム前提の全国共通ICカード乗車券から熊本の5事業者が離脱したことは壁は成長する?でも取り上げました。これらの変化を加味して未来の青春18きっぷをイメージできるかというところを考えてみたいのですが、結論から言えばあまり期待できないと考えられます。

JR東日本では半導体不足の影響で相変わらず無記名式Suicaの新規発行を停止中ですが、その代わりにモバイルSuicaを推奨しています。手持ちのスマホでネットで会員登録すれば即利用可能で500円のデポジットも不要で乗車ポイントをカードの場合の200円毎から50円毎と優遇して誘導しています。しかし事実上無記名でのSuica購入はできなくなるということですから、個人情報をJR東日本に預けることになります。それを受け入れたくない人も一定数いる訳ですから、一部利用者の排除となる可能性があります。TOIKAの壁ならぬSuicaの壁という訳ですね。加えてこのニュース。

JR東、スイカ大幅刷新 上限2万円から上げ コード決済 - 日本経済新聞
半導体不足でFelicaチップが入手困難になったこともあり、Suicaをスマホアプリ化して発行コストを下げると共にユーザー情報も取得し、更にJREバンクとも連携して予約、決済、乗車のみならず日常の買い物から旅先の宿泊や食事などまで含め、更に個人信用情報に基づくポストペイシステムまで実装してスーパーアプリ化というところまで見据えていると考えられます。これユーザーから見れば便利かもしれないけど、JR東海のスマートEXが東海道新幹線への利用誘導に使われるような形で、結局技術革新が壁を成長させるジレンマを予感させます。そうなると青春18きっぷなんぞ過去の遺物として排除される未来もあり得ます。草ならぬ壁生えるわwall-AI。

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Saturday, December 21, 2024

壁は成長する?

安倍公房の壁―S・カルマ氏の犯罪で主人公を診るドクトルとパパによく似たユルバン教授による「成長する壁調査団」が主人公の中を探索しようとする描写があります。何のメタファーなのかは謎ですが、実は壁って成長するんだというのはリアルな話ということで、例えばトランプ大統領返り咲きで、バイデン政権下で止まっていたアメリカとメキシコの国境の壁は成長確実です^_^;。てことで壁―以下略の続きです。

ホンダ・日産が経営統合へ 持ち株会社設立、三菱自動車の合流視野 - 日本経済新聞
小型ロケット「カイロス」打ち上げ失敗 3分後に飛行中断 - 日本経済新聞
一見何の関係もない2つのニュースですが、スペースワンの社長が台風と共に去ったメディアの公共性で取り上げた日産ゴーン事件当時の社外取締役で、通産審議官からキャノン電子その他の民間企業の取締役も務めた元経産審議官というキャリア官僚で、安倍政権当時の官邸に近い人物で特に管官房長官とは近かったということでキナ臭いですね。ゴーン事件も未だに謎なのは当初はゴーン氏の退任後の顧問料支払予定が有価証券報告書に記載されていないという金融商品取引法違反ですが、取締役会に議決を経て決まったことですから、ゴーん氏個人ではなく法人としての日産自動車の問題だし、刑事訴追するにしても金融庁との連携とかがない中での検察の動きは不可解でした。

当時フランスのマクロン政権下でルノーの支配権を強化する法案が可決されて日産が飲み込まれるということで、日本政府もフランス政府を非難していたこともあり、ルノー/日産の会長を兼任するゴーン氏を追い落とすことを目的とした国策捜査も疑われました。結局ゴーン氏の逃亡で真相は藪の中ですが、ゴーン氏に後継指名された志賀氏とその後の西川氏の不仲もありましたし、西川氏も取締役会決議で社長職を解任されたのですが、豊田氏はそれを助けて院政を後押しした疑惑もデジタル経済はビッグブラザーの夢を見る?で指摘した通りです。スペースワンの出資者はキャノン電子、IHIエアロスペース、日本政策投資銀行などが名を連ねる官製ベンチャーですが、JAXAには三菱重工が食い込んでいるから敢えてライバル企業に粉かけてという経産官僚らしいと言えばらしいやり方ですが、宇宙ビジネスに壁を作るつもり?

日産のゴーン改革がうまくいったのは、元々部門間の壁が厚く不仲だった当時の日産の各現場から選抜したクロスファンクショナルチームで本音をぶつけ合うことで、部門間の壁を取っ払い会社全体をワンチームにするという教科書通りのチームビルディングの成功事例だったのですが、ポストゴーン体制で経営陣に亀裂があったことで、豊田社外取が余計なことをしてぶち壊した結果、米中で苦戦する日産の対応能力の低下を招いたと見ることができます。壊したはずの壁が再度成長してしまった訳です。

その一方で当時プジョー・シトロエングループ(PSA)がフィアット・クライスラー(FCA)との統合を決めてストランティスとなるなど欧米の自動車産業の合従連衡は進んでいて、PSAは本当はルノーとの統合を希望していたけれど、ルノーと日産のゴタゴタでFCAに切り替えたとも言われます。とすればフランス政府も余計なことをしたことになるかも。日本メーカーは規模で劣る状況が続いてきた訳ですが、今回のホンダ/日産の統合でさらに三菱自自動車の合流も囁かれる中で、日本もやっとトヨタとホンダ/日産の2系列に収斂されたということは言えますが、統合後の会社の壁は残りますからまだまだどうなるかはわかりません。

まあ結果的にメーカーが多すぎると言われた日本の自動車産業ですから前向きにとらえることは可能ですが、メディアの報道姿勢はやはり楽観的というか何というか。既に商用車メーカーはベンツ系の三菱ふそうがトヨタの持ち分は残るとはいえ日野の救済に動いていて、ボルボ系列のいすゞ/UDの2系列に収斂しており、何れも外資が支配株主です。自動車が日本のリーディングインダストリーの時代は去ったのかもしれません。大型バスに関しては三菱ふそうといすゞ/日野合弁のJバスとちょっと捩れた資本関係にはなりますが、ヒュンデやBYDなど韓国や中国の輸入バスも存在感を増しています。

でやっと鉄ネタですが磁気券IC券二重価格in新横浜でも取り上げたおそらくJR東海が意図的に仕組んだTOICAの壁問題です。東海道本線の熱海―函南間と御殿場線の国府津—御殿場間がTOIKAエリアから外されており、一方EX-ICから進化した独自アプリで乗客を東海道新幹線に誘導している訳ですが、その結果アプリを利用しない盆暮れの観光客や帰省客が水害による運休で乗変や払戻で窓口に殺到したことは台風直撃のお盆が示した課題でも述べました。JR東海が増収策で乗客間に壁を作っている訳ですが、公益企業として問題があります。またSuica互換のPASMO協議会に加盟する伊豆箱根鉄道が大雄山線のみIC化している一方、東京からの直通客の多い駿豆線では導入できないという困った状況もあります。ちなみに伊豆急行はPASMOには加盟せずJR東日本の資金援助でSuica委託販売を条件にシステムを導入して対応していますが、これが可能なのはTOICAエリアからの直通客が壁で存在しないからですね。皮肉です。

とはいえSuicaにも課題があって、導入エリア拡大でシステム上経由地の特定はできませんから、首都圏、新潟近郊、仙台近郊とエリアを分けて敢えて間を繋がない形にしていますが、それでも流動の多い区間例えば常磐線いわきや中央篠ノ井線松本などを首都圏近郊区間に組み込んだりしている訳ですが、その結果途中下車すると打切り計算になるし有効期間が当日中になるなどの問題もあり、国鉄時代から引き継いだ旅客営業規則と整合性が取れなくなってきているということもあります。加えてコロナ禍によるサプライチェーン混乱でFelicaチップが入手困難となってSuicaの新規発行を止める事態となるなど逆風もあります。更にこのニュース。

熊本のバス・電車5社、交通系ICカードを11月15日で廃止 - 日本経済新聞
全国共通ICカード乗車券から熊本の5社が離脱し、来年3月をめどにクレジットカード決済のシステムを導入するとしております。国が音頭を取って共通カードが導入されたものの、導入時こそ補助金が交付されたものん、機器の更新時期になっても補助金はなく事業者の自己負担となることから、追随する地域が出ることが予想されますが、熊本の場合は「くまもんのICカード」と呼ばれる地域振興カードのみ利用可能で、発行主体は肥後銀行ということですが、TSMC効果で人口増の熊本県地盤の地方銀行の強気が決断に繋がったのでしょう。とすると他の地方でおいそれと追随とはいかない可能性もありますが、JR東日本の銀行参入と逆に銀行の交通事業者取り込みという意味では興味深いとはいえ、結局利用客の囲い込みで壁を作ることに変わりはありません。こうして事業者間の連携が乱れると公共交通の利用者を遠ざける可能性もあります。

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Sunday, December 08, 2024

韓流ふてほど

タイトルだけで通じると思いますが^_^;。

韓国の尹錫悦大統領「非常戒厳」宣言、4日未明に解除 軍を撤収 - 日本経済新聞
少数与党の韓国尹錫悦大統領が憲法に基づく非常戒厳を宣言し、6時間後に解除されたということで、韓国人を含めて多くの人には寝て起きてこうなってたというニュースですが、韓国メディアを含む海外メディアがリアルタイムで報じた一方、日本のメディアは音無し。現地記者はSNSなどで個人で配信していたので、現場は動いていたのですが、メディアの編成は動かなかったということです。隣国で交流人口も多い韓国の大事件をスルーというのはいただけません。まるで兵庫県知事選の選挙期間中のようなオールドメディアの不作為が再現されました。不適切にもほどがある!じゃなくて不適切報道な「ふてほど」です。

韓国の政治体制は大統領制プラス一院制で日本の地方自治体と似た二元代表制ですが、元検事総長の尹大統領は日本に譲歩し過ぎと言われて就任後人気を落として4月の総選挙で与党大敗し、300議席の国会で192議席を野党系が占める少数与党となって政権運営に行き詰まった結果の暴走と見られますが、軍事や災害による非常事態ではなく政治対立を理由としたもの。結果的には迅速に動いた与野党議員が国会封鎖に軍隊が派遣された中をかいくぐって190人が議場に入り、その場で憲法に基づく戒厳解除決議をして収拾されましたが、戒厳下でも国会の封鎖は憲法に定めがなく、軍を動員しての国会封鎖を指令した訳ですからクーデター未遂事件といえます。しかも尹大統領は一部を除いて閣僚にも告げずに進めていたことから事後に閣僚の辞任が相次ぎ、政権は死に体になりました。大統領弾劾決議は成立しませんでしたが、政治空白は続く状況です。

で、日本のメディアは早速日韓関係が見通せなくなったと嘆いてますが、そもそも国民の支持を得られない政権トップとの約束が有効と考える日本政府の代弁に勤しむ姿勢には呆れます。権力者の暴走を止めた国会議員や国会周辺に集まった4,000人の一般市民の姿こそ民主政治の証であり、韓国の政治がそれだけ成熟していることを示すものですが、それを報じると森加計さくらレイプ赦免リニア3兆円アベノマスクとやりたい放題の10年間を許したことが際立つから具合が悪いのかもしれませんね。あと日本の憲法議論の緊急事態条項が何をもたらすかを示したとも言えます。

そもそも「日韓の懸案」も徴用工問題でオウンゴールの国自BANG!の化成品輸出ホワイト国認証取消をしたことに端を発する訳で、文字通り日本のオウンゴールが始まりだった訳ですから、韓国側から見れば尹大統領の日本への譲歩が世論の逆風に遭うことは避けられない訳です。勿論北朝鮮と対峙する上で日米間の連携が必要なのは言うまでもありませんが、韓国の司法手続きにイチャモンつける日本政府の対応には問題がある訳です。辞任した閣僚からは尹大統領が4月総選挙を不正選挙とする陰謀論ユーチューバーを評価し閣僚にも視聴を勧めていたことが語られました。何のことはないショート動画に感化された日本のシニア情弱ネトウヨと同じじゃん。そら日本政府にはいい大統領だわ-_-;。

サイドバーで紹介している国家はなぜ衰退するのか 上下2冊 ハヤカワで、国家の繁栄と衰退、格差の拡大の原因を探る研究で今年のノーベル経済学賞を受賞した著者たちの代表的な著作ですが、結局国家の繁栄と衰退の差は制度の包括性(inclusive)と収奪性の違いで説明できるというもので、包括的制度は中央集権的権力が形成された一方で多くの利害関係者の権力アクセスによって分散されることで形成され、法の支配で権利が保護された中でイングランドの産業革命をもたらし世界に広がった一方、その成果の受容には制度の違いが影響するというもの。この観点から言えば日本より韓国の方が今後は繁栄するという推論が成り立ちます。実際ほんの10年前まで1人当たりGDPで日本の半分だった韓国が今は並び、間もなく追い抜きます。

新幹線「のぞみ」の自由席削減、観光需要逃さず 駅の混雑緩和にも - 日本経済新聞
近頃鉄ちゃんが騒ぐネタがあれこれあるんですが、今回はこれ。JR東海は公式には着席乗車の希望が多いからと説明してますが、コロナ明けの需要回復で混雑がコントロール不能になってきているというのが実際です。特に観光シーズンの繁忙期には不慣れな乗客が多いし、インバウンドで外国人利用も増え、不評だったジャパンレールパスののぞみ解禁もあって現場が混乱しているってことですね。戦後の混乱期に国鉄が乗車を断る口実として導入した指定券制度への先祖返りに近いです。制度上航空鵜や高速バスのようなダイナミックプライシングの導入が難しい中での対応ですが、ビジネス客中心で安定していた東海道新幹線も観光客を当てにせざるを得ない環境変化は指摘しておきます。インバウンドで労働集約的な観光業を当てにしても、人口減少が避けられない日本のリーディングインダストリーにはなり得ません。

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Saturday, November 16, 2024

高圧経済のワナ

インフレ下の政治混乱は続きます。

ドイツのショルツ連立政権が瓦解、景気不安が導火線 早期総選挙へ - 日本経済新聞
ドイツのシュルツ首相が自由民主党(FDP)党首のリントナー財務相を解任したことでFDPが連立を離脱して一転少数与党となったことで、来年2月の総選挙と総選挙前のショルツ首相の信任投票が行われる運びとなりました。ウクライナ戦争で安価なロシア産天然ガスが利用できなくなったこと、アメリカが消極的なウクライナへの兵器支援、中国の内需失速による自動車メーカーの販売不振、加えて中国EVメーカーの欧州攻勢でEU域内販売も不振と悪条件が重なる中で、財政による経済の下支えをしたいシュルツ首相と健全財政の原則を譲らないリントナー財務省の対立の結果ですが、一時10%を超えたインフレによる国民の不満が背景にあります。
アメリカ、下院も共和党が多数派 トランプ新政権「トリプルレッド」に - 日本経済新聞
元々伯仲していた上院の逆転は予想されていましたが、下院も共和党が多数派となりトリプルレッドとなりました。とはいえ議会共和党はトランプ派一辺倒ではないので、移行後の政権運営の追い風となるかどうかはわかりませんが、インフレで国民の怒りを買った民主党は完全な敗戦です。イエレン財務長官がFRB議長時代からの持論だった高圧経済論がインフレを助長したことは間違いありませんから、共和党のネガキャンのせいとは一概に言えないところがあります。具体的にはインフラ投資法やインフレ抑制法(IRA法)の撤廃までは難しいとしても予算の圧迫は避けられないところ。三つ子の赤字でテキサス新幹線の連邦政府の調査費がついたものの真っ先にキャンセルされそうです。JR東海の北米事業は今のところ成果なしとなりそうです。高圧経済のワナに嵌った訳です。

但しトランプ氏の関税強化や富裕層減税はインフレをもたらしますから、結局米国民は引き続きインフレに苦しめられますから、2年後の中間選挙で逆転の可能性はあります。となると米FRBはインフレ抑止のために再利上げに追い込まれますし、財政負担が増すことで長期金利も上昇しますから、金利差で円安が進むことになります。今週の円安はその辺を先取りした動きですし、北米市場依存の強い日本の自動車メーカーも高関税の逆風を受けます。そうなると円安だから儲かるという図式が変わってきます。ドイツなど欧州勢もこの点は同じですが。

という訳で、大統領選前からトランプトレードということで株が上がったりしてますが、日本株はこれまでのような連れ高とはいかのいようです。逆に円安で割安感の出た日本企業はM&Aやアクティビストの標的になりやすいということもあります。例えば西武そごうの売却を巡って労組と対立してストまで打たれたセブン’アンドアイHDですが、経営の迷走が続いてアクティビストに狙われるの留まらず、同業のカナダ社アリマンタシオン・クシュタール(ACT)から買収提案を受けるに至りました。国内最大手の小売りグループが海外企業から買収提案を受けるのは円安の影響といえます。セブンは対応策として祖業のイトーヨーカドーなどスーパー事業を中間持ち株会社化して外部資本を入れて上場させるとしていましたが、親子上場復活は悪手ですし、ACTはスーパー込みでの買収提案ですから対抗策としては弱いということで、創業家等の資金によるMBOで非上場化というところまで追い込まれました。とはいえ資金が集まる可能性は低いと思いますが。

中間持ち株会社といえば小田急電鉄が箱根地区の事業を統括する小田急箱根HDを立ち上げて箱根塗材鉄道、箱根登山バス、箱根ロープウエー、箱根観光船他の事業会社を子会社とする形で実現してますし、やはりアクティビストにオリエンタルランド株売却を迫られて新京成電鉄の子会社化と傘下バス事業者を京成電鉄バスHDという中間持ち株会社傘下で再編したり、関東鉄道を子会社化して京成電鉄茨木HDとして事業会社としての関東鉄道と関鉄バスその他のバス事業再編に進んでいます。規模を膨らませて外資のアタックを避けようってことですね。

で、インフレ下の政治混乱の自粛解禁wwwで東京メトロを取り上げますが、売り出し価格1,200円に対して1,630円をつけ、その後も買い優勢で一時時価層が置く1兆円越えという幸先の良いスタートとなったものの、その後の足踏みが続いています。立地条件の良さから鉄道企業としては収益性抜群で、高配当や株主優待の期待があって個人中心に幅広く買われ、新NISA後初の大型上場でもあり、買われた理由ははっきりしてますが、成長戦略が見えないことは指摘しておきます。有楽町北進線や南北線品川延伸で運輸収入が増える要素はありますが、関連事業で成長を目指すという成長戦略は具体性がありません。

通常の鉄道会社なら郊外の開発で開発利益を生む田園都市線方式や国鉄分割民営化で誕生したJRなら高輪ゲートシティのように鉄道用地の余剰を活用した再開発事業を自ら手掛ける余地がありますし、JR東日本では開発後にファンドへ売却して得た資金を次の不動産開発に充てる形で事業を成長させるというビジネスモデルが可能ですが、鉄道用地の余剰が殆どない地下鉄では同じ手は使えません。保有物件は主に地上出口や通風口などと若干の保守ヤードぐらいで、単独での開発事業の余地はほぼ無く、大手デベロッパーとの協業か相互直通社の沿線開発など限られております。

東日本大震災の復興資金にするとされた株式売却益も東京都の意向で国と都の保有比率を維持した形で50%だけの売り出しですから、国庫に入った資金は半分になった訳ですし、国と都が支配株主として残る形で一般株主は個人中心となるとまともなコーポレートガバナンスが働かない可能性があります。上場後のの新線建設は将にそれで、恩恵を受けるのは地権者とデベロッパーばかりで東京メトロのメリットは見えません。そして今少数株主となる一般株主は高配当と株主優待で満足しろという形になる訳です。そしてアクティビストも手を出しにくい訳ですが、その辺を睨むと今の株価水準はあまり上がり目がないということになります。

東京メトロでは都市鉄道の運営受託の事業化も考えているようですが、日本の鉄道事業者の高品質だけど高コストで参入は簡単ではありません。但し円安は若干プラスかもしれませんが、海外事業に熱心なJR東日本でも成長分野というには至っておりません。都市鉄道分野では香港地下鉄が東京メトロ以外では唯一の民間事業者で同様の事業を展開してますが、実績のない中での後追いはかなりしんどい道のりと覚悟すべきです。

あと株式売却益の東京都分が何に使われるかが不透明です。単年度黒字を実現したものの累積債務返済に喘ぐ都営地下鉄の債務償還に使うなら、将来の地下鉄統合へ向けた前向きな話になりますが、東京都は東京-有明間の湾岸地下鉄の実現に回す可能性があります。その為に事業主体とされる東京臨海高速鉄道の増資に回すということか?そうするとJR東日本が希望するりんかい線編入が微妙になる訳で簡単ではありません。いずれにしてもこれらの事業は開発主体となる三井不動産などの民間デベロッパーにいいとこ取りされる訳で、三井不動産は小池知事や都議会自民党議員や萩生田光一議員などのパーティ券購入で助けている訳で、神宮外苑再開発に見られるように都民から見れば明らかな利益相反です。裏金議員を許しちゃいけない理由はこういうところです。

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Saturday, September 21, 2024

赤字3Kの掟?

JRの掟?の続きのニュース。

東北新幹線、走行中に連結外れる 国交省が原因究明指示 - 日本経済新聞
300km/h超で総胸中の列車分離という重大事故です。連結器には損傷がなく、システムj上5km/k以下でしか作動しない筈の連結器開放テコが動いたとしか考えられない事故です。新幹線でも通常の電連付き密着連結器が使用されていて、開放テコは運転席からの遠隔操作で自動化されてますが、走行中はロックされている訳で誤操作の可能性もほぼ無い訳ですが、1974年9月12日の新幹線品川事故で当時の品川運転所部機器部でATC建屋内に車両洗浄機用のトランスが置かれていて、電磁誘導で信号電流類似の異常電流が流れて信号が乱れたもので、言ってみれば偶然発生したノイズ電流がキャンセルされずにシステムが信号電流と認識した事故が思い出されます。

列車分離後は非常ブレーキで停止してけが人は出なかったのですが、JR東日本によると分離した編成の非常ブレーキの方が強く作動するようになっていて、300m離れて停止したということで、フェイルセーフが働いたとは言えます。災害の備えと憂いの東海道新幹線の保守車両事故のところで説明した自動ブレーキというのは、圧搾空気を封入した加圧管を編成全体に引き通し、列車分離すると圧力が下がってブレーキシリンダ―が動いて停止するという仕組みですが、電気指令式になっても同様の仕組みは組み込まれております。しかし高速走行中であり、誤作動の可能性があることが分かった訳ですから、原因究明が大事なのは言うまでもありません。そして輪軸組立でも新展開です。

京王電鉄系「京王重機整備」、車軸1786本の数値改ざん 京王・都営で使用 - 日本経済新聞
JR貨物で発覚した輪軸組立工程のデータ改ざん問題が私鉄にも飛び火してます。東京メトロで傘下企業の不正が発表され、東京都からも都営地下鉄で発表がありましたが、都営地下鉄の輪軸組立は京王電鉄系列の京王重機整備に委託していて、更に関東を中心に多くの中小私鉄からも委託されていて大ごとになってきています。そして京王重機は特装車の製造や戦車を含む自衛隊車両のメンテナンスなども請け負っており、東京特殊車体名義のオーダーメードバスではとバスなどの事業者に納入されております。

鉄道のメンテナンス部門は言うまでもなくコストセンターで、固定費の重い鉄道事業にとってはコスト削減が重要なのですが、規模の小さい中小私鉄にとっては重荷ですが、大手私鉄でも中規模の京王電鉄でもやはり重荷です。そこで他社のメンテナンスや車両改造、後進修理などを請負って規模を確保した上で委託事業者から受け取る委託料も入るという訳で、京王グループにとっては欠かせない事業ですが、それ故にコスト削減圧力も強かった可能性があります。加えて言えば輪軸組立の圧力データの関するルールも曖昧なところがあって、基準値を超えても超音波探傷などの非破壊検査で不具合は確認できるということでスルーされやすいというか、結果オーライで済ます傾向はあるかもしれません。民間事業では赤字は悪という意識は強いですし。

一方で公共部門でかつて赤字3Kと呼ばれた事業があります。国鉄、健保、国民年金の頭文字Kをとって呼ばれたものですが、国鉄はそれを理由に分割民営化されてJRになり、健保、正確には中小零細企業対象の政府管掌健保ですが、47都道府県の広域連合としての健康保険協会を立ち上げて保険者が政府から協会へシフトして、謂わば体よく地方に押し付け、国民年金は今も制度としては存続してますが、1985年の年金改革で基礎年金が制度化され、財政規模が大きく余裕のある厚生年金からの会計間扶助で悪名高い第3号被保険者制度が作られ、今に至るもそのままです。以後5年ごとの財政検証が行われ、2004年には100年安心プランが打ち出され、現在に至ります。今年も財政検証が行われましたが、詳細は別の機会に取り上げます。

国鉄の赤字は赤字ローカル線のせいだということで、国鉄時代に赤字83線区廃止が打ち出され実行されたものの国鉄の赤字は解消するどころか累積し、次いで特定地方交通線切り離しでバス転換、私鉄、三セク鉄道引き受けなどが進められ、民営化後も続きました。そしてJR北海道と四国の慢性的赤字やJR東海を除くJR旅客会社の線区別営業係数公表などで地方ローカル線の存続問題が出てきていますが、厄介なのは特に上場3社の場合は全行黒字故に公的支援を受けられないことです。地方中小私鉄や地法交通線転換三セクは公的補助を受けやすいし、JR北海道や四国も鉄道・運輸機構への預託による利子補給や基盤整備補助などで事実上の公的補助を受けています。それでも出口の見えない厳しい状況は続きます。

JR北海道の4〜6月、札幌圏が黒字転換 新幹線は赤字縮小 - 日本経済新聞
唯一黒字転換の可能性のある札幌圏の黒字転換と北海道新幹線を含む赤字縮小で全体的には収支が改善したものの、札幌圏の内部補助で全体を支えることは不可能です。北海道新幹線の札幌延伸も遅れているし収支完全効果もどの程度か?並行在来線の切り離しで改善はするでしょうけど、鉄道ネットワークを維持するには至らないでしょう。加えて老朽車両取り換えで新車を多数投入してますが、その減価償却費が重荷となります。公共部門の赤字を理由とした民営化の限界は確実に見えています。

一方でかつての食糧管理制度の赤字は問題視されることなく、減反に伴う添削補助金や資料米その他の食用米との差額補助はされてコメ不足でも備蓄米は出さずと、国民生活をないがしろにしながら国民生活を支える公的な赤字は許さない、そんな政府は変えたいですね。

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Sunday, July 21, 2024

突然喰らうド障害

世界を揺るがしたシステム障害がありました。

世界の大規模システム障害、復旧へ 米国など影響なお - 日本経済新聞
世界中Windows系OSシステムで障害が起きて航空鵜予約システムや店舗のPOSレジなどが使えなくなり、復旧は進んでますが、未だ障害が続いているところもあるということです。原因はWindowsクラウド向けのクラウドストライク社製セキュリティソフトの19日未明の一斉更新にバグがあり、修正版が配布されたものの、ユーザー側で補正作業が必要なため、復旧に時間がかかったとされております。しかし同じシステムベンダー製予約システムを用いながら、JAL系のジェットスタージャパンで障害が起きた一方ANA系は障害なしとか不可解なこともあり、本当の原因はわかっておりません。

みずほのシステム障害とか、最近では三菱UFJ銀行の障害などもありますが、銀行の勘定系などはメイフレーム時代にCobolという言語で記述された基幹業務システムで、Cobolが使えるエンジニアの退職で年々メンテナンスが負担になっている一方でFintechでAPI公開とかやっていて、システムが複雑になり過ぎた面があります。故にセキュリティ面は強固なんですが、メンテナンスコストは高くなり、維持が難しくなっている面があります。

一方でクラウドはネット上で仮想的に複数のサーバーを束ねて処理する分散型で、ユーザーから見ればセキュリティも含めて使用料を支払って使うという意味で初期投資もランニングコストも安価ということで普及し、アマゾン、グーグル、マイクロソフトなどの大手が注力してユーザーを増やしてきました。ユーザーから見れば自社システムの維持費やセキュリティ費用を気にせずシステム構築できて、最新のセキュリティ環境が提供されるから安全性も高いという触れ込みでしたか、今回は裏目に出ました。

ふと思い出したのが木から落ちたサルで取り上げたJR東日本のSuicaシステムのクラウド移行ですが、各駅にステーションコントローラーを置いて分散処理することで処理速度を高める自前の分散処理システムをクラウド上の仮想センターサーバーに移行するという話題です。コスト削減になる一方、処理速度の問題は残る訳ですが、5Gなど通信環境の進化で遅延が縮小していることや計画中のQRコード乗車券システム導入との整合性を考えると正常進化とは言えるかもしれません。但し今回のようなトラブルに巻き込まれるリスクはある訳ですが。

その一方で楽天銀行との提携でJREバンクと呼ばれるBaaS事業への参入もあり、QRコード乗車券の決済をJREバンクの口座を使うとすれば、寧ろSuicaシステムの存在理由が希薄化する可能性もありますし、下手するとハウスカードのVIEWカードも楽天カードに置き換えられる可能性もあります。現時点でVIEWカードがJR東日本の経営資源としての貢献度がいかほどかはわかりませんが、JR東日本の金融事業が楽天グループと接近することは避けられないでしょう。そしてそれは別の面でSuicaの将来を左右します。

栗鼠殺し?で取り上げたオープンループが国内でも徐々に拡大しており、大手私鉄では南海電気鉄道がいち早く導入したほか、東急が続き、その他地方の公営交通やバスを中心に導入が続いております。特に東急ではVISA限定ではなく他社カードも受け入れておりますが、それに関連するかどうかわかりませんが、こんなニュースもあります。

VISAに公正取引委員会が立ち入り検査 他社の信用システム使用制限か - 日本経済新聞
東急のケースが該当するかどうかはわかりまっせんが、VISA以外のカード会社もVISAのシステムが使用されているとすると、VISAへの手数料の支払いが発生する訳で、独禁法違反の恐れがあるということになります。特にインバウンド需要の取り込みで外国人の利用が見込まれるオープンループでVISAが優越的地位を乱用したと見られれば、他社カードの相乗りが進んで結果的に楽天カードが相乗りとなると、ますますSuicaの存在意義は薄れます。今後は見通しにくいですが、ソニーのFelicaシステムが国際規格のNFCに置き換わることを意味します。ソニーとJR東日本がタッグを組んでEDYとSuicaが一本化されて導入コストを下げることが出来ていればまた違ったのでしょうが、日本企業発の規格が国際規格に駆逐されてまたひとつ日本の敗戦確定です。そういやEDYも楽天が買ったけど放置されております。何故こうなる?

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Saturday, June 15, 2024

これからも失われ続ける日本

円安が止まりません。原因はこれ。

日銀政策決定会合、量的引き締めへ転換 国債購入減額「相応の規模」 - 日本経済新聞
国債買い入れ減額による量的引締めの予告ですが、利上げと共に次回の議題ということで今回は現状維持ということで円安圧力は続きます。日銀の慎重姿勢は金利の大きな変動の悪影響は為替変動の比ではない混乱をもたらしますから動くに動けないのが本音。赤字が常態化した拡張的な財政運営を日銀の実質国債引き受けでファイナンスして為替の円安誘導したものの、国内企業の製造拠点海外移転で輸出は増えず、逆に資源高で貿易赤字が定着したため、財政と貿易の双子の赤字状況になっております。アメリカの80年代を見ればわかる通り、国力の低下による構造的な変化なので、米FRBの利下げで一気に反転する状況にはありません。

賃金ホントに上がってる?で金利を名目で見る短期の投機筋の動きは直ぐに止みますが、日本が未だマイナス圏にある実質金利に反応するのはより期間の長い中期資金ですから、目先のイベントに反応するより腰の入った投資ポジションを採ります。故にこれを反転させるためには米利下げと日本の利上げが複数回続くぐらいのことがなければ実現しません。故にインフレは今後も続きますし財政赤字は財政インフレとなって国民生活を圧迫し続けます。そんな局面での「バターより大砲」の防衛費増額はさらに国民を苦しめます。

産業政策としての半導体ですが、台湾TSMC熊本工場の影響で関連企業の投資も呼び込んでますが、政府の補助金大盤振る舞いが功を奏してるものの、日本企業はあくまでわき役ですし、電力と水を大量消費する半導体産業の成長の持続可能性はいかほどか。AIブームで時価総額が一時アップルを抜いたエヌビディアのGPUの電力消費の大きさから、気候変動問題がAIで解決可能になるか寧ろエネルギー消費を増やして気候変動の原因になるかという議論が既に始まっており、著作権やフェイク問題、さらに労働市場への悪影響など不確定な問題が山積しております。国や財界は円安メリットとしての製造業復権に期待があるようですが、生産年齢人口の減少が立ちはだかります。そこで政府は技能実習生に代わる育成就労を制度化して外国人労働者を増やそうとしてますが、そもそも円安で稼げなくなった日本にわざわざ来る外国人がどれだけいるのか。本当に現実が見えていませんね。こんなニュースも。

企業物価指数、5月2.4%上昇 4カ月連続で伸び率拡大 - 日本経済新聞
消費者物価の先行指標とされる企業物価指数の上昇が続いており、転嫁が進めば消費者物価に波及することは確実です。「物価と賃金の好循環」が如何に空疎かということです。加えてこれは日本だけではありませんが、企業の価格転嫁が便乗値上げの疑いが指摘されております。これはマクロデータのGDPデフレーターに見られるGDPの名目値と実質値の乖離が欧米も含めて大きく、名目値はプラスなのに実質値はマイナスという状況が続いています。つまり企業の強欲が国民を苦しめている訳です。こうした企業にとって心地よい状況を続けるには企業献金やパーティ券購入で政治家に裏金作らせて見返りを求めることは続けたい訳です。

とはいえ労働力不足は簡単には解消できず、特にサービス業の人手不足は深刻で、2024年問題による働き方改革も影響します。特例で長い待機時間を認められていた運輸業も規制対象となります。故により多くの人手を確保しないとサービスを維持できない訳で、運賃値上げの要件緩和もあってJR東日本をはじめ各社が値上げに動いています。DXブームに乗ってみどりの窓口を減らしたり営業時間を短縮したりしたものの、ネット予約や指定席券売機のユーザーインターフェースの使いにくさもあってJR東日本は見直しを宣言しました。複雑な運賃料金制度やマルスシステムの縛りもあってうまくいきません。故に省力化も足踏みとなる訳ですが、そうなると例えば豪雨被害で長期運休中の肥薩線のように、道路予算や河川予算を投入してJR九州の負担を軽減しても、JR九州が渋っているために復旧が手つかずとなってますが、仮に復旧しても赤字路線だし、そこに人手が取られれば全社的にマイナスという判断になる訳です。

よく引き合いに出されるJR東日本只見線では福島県と沿線市町村で54億円を負担して線路を普及した上県が第三種事業者となって第二種免許を受けたJR東日本が運行する上下分離形態で復旧したものの、福島県包括外部監査ではバス転換の方が地域活性化できた可能性があると指摘されるなどしており、これが今後のローカル線維持のロールモデルになるかどうかも不明です。やはり災害で長期運休中の津軽線中小国―三厩間もバス転換が決まりました、但し人手不足が深刻なバスによる転換も今後は困難が予想されます。という訳で政治家や企業のやりたい放題を放置した結果、ドン詰まりの未来しか見えないのが現状です。

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Saturday, May 18, 2024

裏金のウラ

裏金のウラでこどもの疲弊は高まりそうです。

離婚後も父母で育児 共同親権、「子の幸せ」双方に責任 - 日本経済新聞
結局ろくな国会論戦を経ずに成立した共同親権を認める民法改正ですが、意味不明です。親権は子供を育てる義務を負う権利ですが、子持ち世帯で離婚が発生した場合、経済力のない妻側が親権を取り。経済力のある夫側が養育費を支払うことで離婚を成立させるケースが多い訳ですが、養育費はしばしば支払われないとか、夫の父親としての面会権は法的に担保されているのに誤魔化してそれを梃子に進めたりしてます。加えて既に離婚したカップルにも遡及されるというのも法の非遡及原則に反します。

DV夫の問題などは言われますが、子供のパスポートの取得や受験、手術などに共同親権者の同意が必要になり手続きも煩雑ですし、悪用されれば養育費不払いの口実や児童手当の折半や最悪「イッパツやらせろ」もあり得ます。加えて子連れ再婚も難しくなるし、既に子連れ再婚している場合も生みの親の権利として割り込んでくるとか、寧ろ子育てのコストを高めます。これのどこが子育て支援であり少子化対策なのか?寧ろ婚外子を含むひとり親世帯の子育てを直接支援する方が少子化対策になるのではないでしょうか。

これ以外にも採らぬ狸の戦争の配当で触れたセキュリティクリアランス法や戦争は経営でできているの農業基本法改正などのトンデモ立法が国会をスイスイ通過している現状があります。にも拘らずニュースでは政治資金規正法改正の話題ばかりで、更にNTT法改正や緊急事態対応で政府が地方に命令できる地方自治法改正などのトンデモ立法予備軍が目白押しです。裏金問題が目晦ましになっている訳です。とはいえ裏金問題はこれはこれで無視できない問題だけに、政治が機能せずに政府の暴走が止まらないということでもあります。これ繰り返し述べてますが、戦前の政治不信の果てに戦争へ進んだ歴史に酷似します。

この辺は帝都電鉄物語でも論じてますが、政治不信が行政の統制強化を誘い戦争へといざなった歴史を繰り返すことは避けなければなりません。といった堅い話とは別に、このエントリーで示した戦前のマネーゲームの異常さはこんなことでも見えてきます。

消える新京成電鉄の社名 歴史が生んだ「くねくね路線」 ググっと首都圏 - 日本経済新聞
映画「戦場にかける橋」で有名な泰緬鉄道の建設にも関わった旧陸軍鉄道連隊の演習線跡地の払い下げで誕生した新京成電鉄ですが、軍事施設故にGHQに摂取された旧鉄道連隊跡地を巡っては西武鉄道も動いていたと言われます。裏でどのような動きがあったかは定かではありませんが、当時高田馬場馬起点だった西武線の新宿延伸と引き替えに京成への払い下げが決まったと言われております。戦後早々の利権漁りはGHQから始まりました。

当時は無人の原野だった北総台地ですが、東京に近い立地の良さに加えて地盤が安定していたこともあり、松戸市の常盤平団地を皮切りに、沿線で大規模な宅地開発が続き、輸送力増強に追われながらも親会社の京成電鉄の旧型車の支援もあって経営は好調で、子会社ながら株式上場して投資家から資金を集める独自経営が可能になります。地域的に京成との棲み分けも可能だったこともありますし、都営地下鉄との相互直通運転対応で4ft6in(1,372mm)から4ft8ub1/2(1,435mm)への改軌や1号線規格の新車増備などで資金面で厳しかった京成にとっては子会社上場で身軽になるし、用途廃止の旧型車の引受先としても重宝だったという面もあります。

ところがバブル崩壊後の株式持ち合いが問題視され、親子上場は特に狙い撃ちされやすいということもあります。同時にそれは三井不動産との合弁事業としてスタートしたオリエンタルランドの好業績も狙い撃ちされることになります。そこへコロナ禍で空港輸送激減で京成本体が直撃され、オリエンタルランド(OLC)も不振ですが、地域輸送に特化した新京成は好業績を維持しました。そしてコロナ明けで京成本体とOLCが業績回復すると、投資家からのアタックが強まります。

京成電鉄はOLCの好業績高配当のお陰で利益水準が下駄を履いた状況だった訳ですが、それが無ければ株価収益率(PBR)0.5という資本効率の低さは笑う鬼退治でも指摘しました。京成のOLC保有株の時価が京成自身の時価総額の1.6倍にもなり、一部売却でも大きな資金を手にすることが可能ですが、京成自身は空港輸送というもう一方の金の生る木を抱えていて新たな投資案件が見当たらないということもあり、自社株買いによる株主還元の原資にせよという圧力とも見えます。

それに対して京成が示した回答が新京成電鉄の子会社化による上場廃止と経営統合によるシナジー効果獲得ということで、既にOLC株売却で500億円の営業外収益を得ており、新京成の経営統合の資金に充てるという画を描いた訳です。鉄道事業だけを見れば例えば運賃の一元化は成田空港線運賃やちはら線運賃までは無理だし、京成線と新京成線だけの一元化はさほど意味がないので、寧ろ独自に展開された両社のバス事業や不動産事業の統合に狙いがあると見られます。投資家に迫られて追い込まれてという点は戦前の帝都電鉄に似てますが、統治の透明性が求められる時代故に変なことはできないという訳ですね。ピンクの電車もいずれ過去帳入りするかもしれません。それにつけてもで出口の目見えない裏金問題です。

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Sunday, March 31, 2024

もしトラよりもしドラ、鬼さんこちら

米大統領選でトランプが勝ったら?という要らぬ心配から、もしトラだのほぼトラだのと言われてますが、詳細は省きますが、2016年当時よりもトランプの勝つ確率は低いと見られます。もちろん当選の可能性はゼロとまでは言えませんが。それより日本が直面するもしもドライバーがいなくなったら?を心配した方が良いでしょう。

鬼が笑う2024年笑う鬼退治もうすぐ笑わなくなる鬼その他のエントリーで取り上げた2024年問題がいよいよ明日から本番です。さまざまな変化が既に出てきていますが、一番身近な変化はバスの減便でしょう。サイドバーで紹介した週刊東洋経済 2024年3/2号(ドライバーが消える日)[雑誌] 雑誌 – 2024/2/26の特集に詳しいのですが、トラック、バス、タクシー何れもドライバー不足は変わらないのですが、それぞれ事情は異なります。

トラックは荷主に対しての立場の弱さから運賃値上げがままならないことに留まらず、荷主側の都合で発地着地双方で待機時間が求められたり荷役時間に制限があったり、それでいて機械荷役のできない手積みを求められたりとか、とかく注文が多く無理難題オンパレードだったりします。その結果公道上での待機が発生して交通の障害になったりもします。それでも勤務時間に占める荷役時間は少なく、最大は運転時間ですが、待機時間が多数を占め、生産性を低下させています。

それ故残業時間が長くなるのですが、逆に残業手当があるから低賃金でもそこそこ稼げたりする訳です。この点はバスドライバーと共通ですが、結局残業代が生活給に組み込まれている訳で、そこへ働き方改革で残業時間に上限が設けられると手取りが減って生活できなくなるということになり、それが離職を促すという悪循環が予想されます。故に諸人こぞりて苦しむイブで取り上げた高速道のトラック速度規制を80km/hから90km/hに緩和しても待機時間が減らなければ焼け石に水ですし、事故の多発に繋がりかねません。ドライバーの賃上げを含む待遇改善が必要です。当然運賃値上げが必要になりますし、拘束時間の長くなる長距離輸送が困難になります。

そして運賃値上げはトラック輸送の優位性を損なうことになります。実はここに大きなヒントがあるんですが、海運や鉄道によるモーダルシフトの余地があるということでもあります。特に鉄道貨物は高速道の整備に伴うトラックによる長距離輸送の拡大の影響を受けてきて700㎞以上でないと競争力を発揮できないと言われてきましたが、これが500㎞程度まで下がれば鉄道貨物のシェア拡大が可能になります。つまり需要規模の大きい首都圏と近畿圏の輸送需要を取り込める可能性がある訳です。

震災でわかったJR貨物の実力で取り上げた被災地へのガソリン輸送で磐越西線に臨時貨物列車を走らせて対応したのがこれに当たりますが、非電化区間がある磐越西線でDD51重連で500t列車で効果があった訳ですから1,300t列車が設定できる東海道線の輸送力を活用すれば有効なドライバー不足対策は可能です。但しそのためにはJR貨物にひときわ厳しい態度のJR東海の壁を何とかする必要がありますが。

バスの場合は需給調整規制の緩和で新規参入が増えた結果、底辺への競争でドライバーの賃金が削られて、公務員の身分故にその流れに乗れなかった公営バスが次々に撤退を余儀なくされ、特に収益性の高い高速バスや貸切バスへの新規参入増で大手事業者ほど収支が厳しくなる一方、ドライバーの拘束時間の長くなる長距離の高速バスほど維持が困難になって一般路線維持のために収益部門を縮小するという悪循環に陥っています。故に賃上げも困難でトラックと比べても低賃金レベルにあります。大都市圏でも大阪府富田林市に本社のある金剛自動車の事業撤退など維持困難になっております。

加えてトラックとも共通ですが、待機時間の縮小で実働時間に対して長めの拘束時間を設定して営業所で待機させて、状況に応じた臨時便運行や事故や病欠の代理乗務なども制約されることから、通勤通学時間帯のラッシュ輸送にフォーカスして人を配置する都合から、早朝深夜の運行を見直さざるを得なくなり特に終車の繰り上げが繰り返されていて、都区内でも22時台、近郊では21時台だったり土休日は20時台とどんどん使いにくくなっております。

実はこうしたバスの苦境はタクシーにとってはビジネスチャンスでもあります。タクシードライバーは基本フルコミッションの給与体系ですから、需給調整規制の緩和で都市部の増車が認められた結果手取りが減っていた訳ですが、コロナ禍で外出規制が課されるといよいよ稼げなくなって離職者が増えた結果、クルマはあるのにドライバーがいないという状況に陥っていました。それがコロナ5類化で利用が戻った結果、タクシーが捕まらないという状況を生み出した訳ですが、バスの減便や運行時間帯の短縮で寧ろ稼げる職業となりつつあり、離れたドライバーが都市部では徐々に戻りつつあるのが現状です。そうした中でのライドシェア解禁はタクシー業界にとっては寝耳に水だった訳です。ですからライドシェア推進派が言う既得権益の主張というのとはちょっと違います。

元々規制だらけのタクシー業界では、例えば首都圏では白タクは普通に存在していて規制の抜け穴は元からあった訳ですが、捕まるのは大抵通報によるもので特段の取り締まりは行われていませんでした。特にバブル期の終電後の駅ではあからさまな客引きまでしていました。当時は企業も官庁も残業で終電後の帰宅も珍しくなかったし、その場合の帰りのタクシー代も気前よく経費精算されました。故に稼ぎたいタクシードライバーは深夜を狙って営業してましたし、運よく長距離客を乗せればその日の稼ぎが一発でということもあり、この時代の企業タクシードライバーは厚生年金の標準報酬月額の膨張で手厚い老後資金を得て悠々自適してます。白タクはそのおこぼれを得ていた訳で、ある意味共存していたとも言えます。コロナ禍で痛めつけられた今のタクシー業界にとっては当面は損を取り返すのが精一杯の現状です。

特に二種免許の問題は寧ろタクシー業界から要件緩和の要求が以前からあって、故にライドシェア解禁の見返りとして認められたということになります。加えて当面は地域と時間帯を限定してタクシー事業者がドライバーの指導とクルマのメンテナンスと保険に責任を負う形での解禁となりました。但しこれらは都市部での話で、地方の過疎地では以前から自家用自動車の有償運行で最後の足を確保することは行われておりました。それを日本版ライドシェアと呼ぶかどうかは別として、地方ごとの特殊事情から現行制度下での工夫の積み重ねは既に行われております。という具合にタクシーを巡る事情は地域ごとに特殊で、ライドシェアの完全解禁に問題があることは明らかです。

地方ではバスの減便や廃止は以前から進み、オンデマンドバスや乗合タクシーなどの形でバスとタクシーの境界が曖昧になっている現状があります。但しこうしたささやかな取り組みも自治体の補助金で維持されているのが実態ですが、都市部のバス減便はタクシーの出番を増やすことになり、地方で起きているバスとタクシーの境界の曖昧化が波及する可能性はあります。そうするとタクシー主導のライドシェア解禁はバス事業の圧迫という別の問題を引き起こす可能性も含んでいることは指摘しておきます。こうしたことをちゃんと議論せずに拙速に導入して本当に大丈夫なのか?

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Saturday, March 02, 2024

円安でつくばとねり的ライトなリスク

来年度予算の年度内成立が確定しました。

2024年度予算案が衆院通過、年度内成立へ 総額112兆円 - 日本経済新聞
憲法の規定で予算案は衆院優越で衆院で可決成立すれば30日後に自然成立となることから、年度内成立が確定した訳ですが、23年度本予算と補正予算で予備費を大量に積み増して使い残している現状からすれば、予算成立が遅れても執行に影響することはなく、能登半島地震の復旧復興などへの影響はほぼありません。寧ろボランティアに制限をかけたりして足を引っ張っているのは国と石川県です。やるべきことをやらない責任は政府と県にあります。

寧ろ新年度予算の審議が生煮えで成立させたことの方が問題です。それでも強行採決に及んだのは岸田首相の意向が強かったようです。政治とカネ問題で炎上中で、予算審議を質に取っての追求は野党として当然の戦術ですが、衆院成立後に送致される参院の予算委でも追及されることを嫌った模様です。その為の岸田首相の政治倫理審査会への出席だった訳で、早くこの問題に蓋をしたいのが本音です。しかしあれほどキックバックとな還付金とか言っていたのに首相が裏金発言をしたから寧ろ火に油。しかも故安倍元首相が「やめよう」といっていたのに復活した経緯もかなり解像度が上がりました。やめようとしたのは法令違反の認識があったと考えられますし、それが覆った経緯が不透明で寧ろ疑惑を深めました。もはやトカゲのしっぽ切りでは済まなくなりました。

そんな政治の混乱をよそに、日銀のマイナス金利解除は確度を上げています。IMFでも好感を示すレポートが出され、同レポートで政府の財政支出頼みの姿勢は寧ろ批判されています。加えてここへ来ての日本株の好調が、日銀に思わぬ追い風をもたらします。異次元緩和機に大量購入された株式ETFの含み益が拡大しており、異次元緩和で国債市場が機能を失って利ザヤが消失している一方で、ETF売却で益出しできる環境が整った訳です。つまり仮に緩和見直しで保有国債に含み損が出ても、国債ならば期間をかけて償還を待てますが、売れば値を下げる株式ETFの売却問題は日銀にとっては重い宿題でしたが、高すぎる米株式に対して割安感のある日本株への海外マネーの流入は日銀にとってはチャンスな訳です。

あと日本株ETFを大量保有するGPIFも含み益拡大で投資ポートフォリオ見直し売りで益出ししますから、当面日本株は日銀とGPIFという大量保有機関投資家が売りポジションをとる訳で、新NISAで日本株投資を考えている人は、日銀とGPIFを助けたい人以外は考え直した方が良いでしょう。令和の秩禄処分の地雷です。とはいえ日銀の緩和姿勢は簡単には解消されないことも確かで、当面この構図は続くと考えられます。故に円安反転で円高は現時点では心配することではないでしょう。しかし円安の影響は意外なところにも現れています。

栃木の宇都宮LRT、車両追加へ価格7割高の衝撃 増発・検査視野 - 日本経済新聞
現在宇都宮ライトレールが保有する車両HU300形は17編成あり、昼間ダイヤで3編成が休んでいる状況ですが、4月に予定されるスピードアップで13編成で回せるようになる見込みで、利用が好調なこともあり、増発も視野に入ります。しかし問題は開業時に竣工した17編成は2027年に一斉に重要部検査の期限を迎えるため、期限前に一部編成を前倒しで検査入場させて輪番検査の体制を作る必要があり、その為に予備車確保で2編成の増備となった訳ですが、問題は増備車の価格です。新潟トランシス製のGTシリーズはアルストム傘下のドイツ企業のライセンス生産で、そのライセンス料と輸入部品代が円安で高騰し、実に7割高となった訳です。当然ながら今後の増発や西側延伸への対応が難しくなります。また検査時の部品交換も割高となることもあります。そこで国産メーカーで対応できないかということになります。
宇都宮LRT 福井鉄道フクラムライナー・広島電鉄グリーンムーバー改良型導入も一考の余地 - 日本経済新聞
フクラムライナーは阪急阪神グループのアルナ車両製のリトルダンサーと呼ばれる部分低床車、グリーンムーバーマックスは近畿車両、三菱重工、東洋電k製造、広島電鉄の4社共同開発の完全低床車ですが、純国産のリトルダンサーと異なり弾性車輪や駆動装置などドイツのシーメンス製部品が一部使われていて、やはり円安の影響は受けます。

宇都宮ライトレールに関しては開業に至る過程で紆余曲折があり、県と市が対立して足踏みしましたし、地場のバス大手関東自動車の反対もありましたし、自動車交通の阻害や財政支出を巡る市民グループの反対もありました。関東自動車は経営悪化でみちのりHDグループ入りし賛成に転じたものの、工事の遅れや見直しで費用便益比(B/C比)が当初の1.1から0.7へ悪化したことなども問題視されております。そうした市民の不満に対して立憲民主党と共産党が後押ししてますが、あくまでも市民グループの声を掬い上げる議会野党の役割ということで、新年度予算を質に裏金問題を追及することと同じで、国会の新年度予算強行採決の轍を踏まないで議論を重ねることが大事です。

それはさておき、元々宇都宮市の東西軸交通に新交通システム導入を検討したことから始まったLRT事業ですから、西側延伸で東武宇都宮駅に接続することが求められていて、検討過程でモノレールやAGTなどの高架式新交通システムでは事業費が高すぎるということでLRTになった経緯があります。しかし西側延伸の為にはJR宇都宮駅北側の陸橋に軌道を整備して駅西側に至り、メインストリートの大通りを通って東武宇都宮駅前から桜通十文字付近までの事業化が進められております。

但しこの区間は利用が見込める一方、バス路線が集中する区間でもあり、東側同様に並行バス路線をバッサリ切ることの難易度ははるかに高いと言えます。実際宇都宮大学陽東キャンパス、清原地区市民センター前、芳賀町工業団地管理センターの3カ所でアクセスバスとの乗り継ぎが図られ、ローカルIC乗車券のtotraで乗継割引サービスが導入されてますが、昼間12分ヘッドのライトレールに対して1時間1本のバスへの乗り継ぎははかばかしくないようです。利便性の乏しいアクセスバスよりもマイカーで停留所付近の駐車場に停めて乗り継ぐ方が利便性は高い訳で、西側の時のように関東自動車がバス路線再編に協力してくれるかどうかはわかりません。当然乗り継ぎによるバスの利便性低下は客離れを起こす可能性もあります。また資材費の高騰や建設2024年問題による人手不足もあり、すんなり進むとは限りません。

一方で宇都宮ライトレールの営業成績は上々で、開業半年の乗客数が予想の200万人を超える220万人に達し、月間の乗客数も開業景気が落ち着いて直近では37,000人程度で、これも想定の31,000人程度から2割増しですから上出来ですが、これが素直に喜べないのは、タイトルのつくばとねり的リスクってことです。つくばエクスプレス(TX)が好業績ながら沿線開発が急すぎて輸送力増強に追われ、車両増備、ダイヤ見直し、座席のロングシート化による収容力強化に追われて、構想にある東京駅延伸がいつまでたっても果たせず、寧ろ8連化に伴うホーム延伸や車両入れ替えで追加投資を余儀なくされてます。

また都営日暮里舎人ライナーも、やはり沿線開発が急で輸送力増強に追われこちらは収容力の大きいロングシートの新車への入れ替えで凌いでおり、既に限界に達し、コロナ禍で通勤ラッシュが緩和傾向にある中で混雑率ワーストとなったことは戻らない混雑で指摘した通りです。日暮里舎人ライナーは沿線にめぼしい集客施設がなく片輸送の非効率もあって2023年度の黒字転換予定が果たせずにいます。

TXも舎人ライナーも車両増備だけでは足らず車両のロングシート化で収容力を高めて対応するところまで追い込まれ、舎人ライナーではゴムタイヤの荷重制限から軽量化した新形車に入れ替えるという追加費用をかけた結果の収支見通しの悪化ですが、これ宇都宮ライトレールのHU300形がタイヤハウスの位置にボックスシートの背もたれを配置する構造からロングシート化は不可能ですから、車両の収容力強化のための入れ替えすらあり得るということですね。TX、舎人ライナー、ライトラインの豊作貧乏トリオになりかねないリスクはある訳です。業績の好調をただ喜んではいられないってことですね。

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