有り難くないタイトルですが、中国バブル崩壊の次はアメリカの話題です。米国債金利の上昇で円安が進む昨今、米連邦政府閉鎖の危機が今度ばかりは避けられない情勢でしたが、ギリギリのタイミングで回避されることになりました。
米下院、超党派のつなぎ予算案可決 政府閉鎖回避へ前進:日本経済新聞
10/1から始まる新年度の予算執行のためのつなぎ予算が下院で否決されたことに端を発する騒動ですが、下院多数派の共和党の強硬姿勢で民主党案が否決された後、マッカーシー下院議長の修正案が提案されたものの、民主党のみならず共和党からも反対が出て否決となり、絶望的な状況ということで、バイデン台帳量も政府閉鎖準備を指示せざるを得ない状況となりました。結果的にはマッカーシー議長案の修正で下院を通過したものです。
ここまで揉めたのは米国内の分断の深刻さを示すものです。元々新年度予算は民主、共和両党で合意済みですが、下院多数派の共和党が執行段階でブレーキをかけた格好です。共和党が嫌うリベラル的政策の予算を削り、不法移民対策としてのメキシコ国境のフェンス建設に予算を回せというのがザックリした主張ですが、既に合意済みの予算を削れというのは無理筋です。但し今回のつなぎ予算も45日間ですから、同じような騒動は繰り返されると見ておくべきでしょう。
これにはいろいろな背景があるんですが、共和党地盤の南部諸州にとって不法移民問題が重荷になっていることは確かな一方、東部エスタブリッシュメントや西海岸のハイテク地帯に強い民主党の移民に甘い姿勢は許せないという感情が前に出る訳です。その一方でヒスパニック系移民の増加で人口が増えており、移民の出生率の高さから人口の低年齢化も進んでいて、それが南部の生産年齢人口の厚みとなって工業化が進んだ面もあります。加えて共和党ステートの労働規制のユルユルさもあり、組合運動を認めないテスラの工場などが立地しております。それが別の問題を引き起こしていることも見ておきます。
米自動車スト拡大 新たに7000人、GMとフォード工場で:日本経済新聞
全米自動車労連(UAW)のストでGM、フォード、ストランティス(クライスラー)のビッグ3の工場がスト突入で生産が滞っております。UAWの主張はエンジン車からEVへのシフトは避けられず、自動車関連の労働者の数が減ることを睨んで、EV用バッテリーなどの製造工場の労働者もUAWに加盟させて保護を受けられるようにすべきだという主張です。産業構造の転換を理由に労働者が不利益を被ることは避けるべきということです。
ややこしいのはバイデン大統領が集会に参加して連帯を表明したことで、組合側が勢いづいていることで、結果的に火に油を注いだ形になってしまったことです。2016年大統領選で組合票がトランプ氏に流れたこともあり、組合票の囲い込みに動いた形です。不法移民が雇用を圧迫して産業が停滞したというトランプ流ナラティブの否定と共に、暗に南部諸州の労働規制の緩さを批判している訳です。同時に政権のEV政策も関わります。
トランプ時代のバイアメリカン法に触らずにインフレ抑制法(IRA法)を成立させた結果、米国内で販売されるEVは基本北米地域で生産されることを条件とされてしまいます。その結果EVシフトを進める欧州メーカーからWTO違反ではないかと言われごたついています。狙いとしてはバッテリー製造で世界をリードする中国への牽制なんですが、欧州やアジアのメーカーも引っかかる訳で、故に韓国現代なども米国内にEV製造拠点を設置を表明し、SKハイニックスなどバッテリーメーカーも追随しております。
当然欧州メーカーにも同様の動きがある訳ですが、製造拠点が置かれるのは労働規制の緩い南部諸州だったりメキシコだったりすると、結果的にビッグ3中心のUAWにとっては放置できない問題でもあり、出来れば連邦法で規制して欲しいというのが本音です。IRA法の狙いは気候変動対策と共に経済安全保障という面もあり、気候変動を重視するなら地産地消で可能な限り国内で生産して販売するのが正しいし、化石燃料依存の低減は経済安全保障の側面も持ちますが、同時に中国リスクも意識されており、中国産バッテリーの排除の狙いもあります。WTO提訴は現状上級委員の指名をアメリカが拒否していて機能していないですが、トランプ時代のそれを引き継いでいるのは、やはり提訴されたくないのでしょう。
という訳で政府閉鎖とストというリスクを抱えたアメリカで国債金利が上昇するのは当然となる訳です。分断による政治リスクが解消される見通しは立たず、また労組の強化は賃金を押し上げることにもなりますから、今後もインフレは収まらずFRBの追加利上げも現実味を増す訳です。となると低金利政策から抜け出せずにいる日本円の減価は避けられず、円安は進みますから、輸入物価上昇に伴う消費者物価上昇は今後も続くってことです。日銀の政策見直しが無ければ更にこの傾向は続きます。
経済安保は日本も取り組んでいる訳ですが、2020年の外為法改正の結果、妙なことが起きています。NHKスペシャルで取り上げられた大川原化工機の起訴取消事件の顛末のお粗末さが示す寒い現実です。
起訴取り消し事件「捏造」 訴訟出廷の警部補が発言:日本経済新聞
捜査官が捏造を認めたことも驚きですが、大川原化工機が輸出したのは液体噴霧乾燥機で、液体を噴霧して乾燥させることで粉末化する機械で、インスタントコーヒーや粉ミルクの製造装置になる訳ですが、警視庁公安部は生物兵器転用可能として無許可輸出を違法として刑事訴追した訳ですが、根拠となる証拠を捏造して会社幹部3名を長期間収監して1人はガンが進行して死亡するというとんでもない事件です。
警視庁公安部が動いた理由は推測ですが、法改正で実刑が定義されたことを受けて、捜査の指針となる判例を確定させたかったのでしょう。その為には抵抗力のある大企業よりも中小企業を追い込んで立件すれば手っ取り早いってことですね。狙い撃ちされた大川原化工機にとってはただただ迷惑な話ですが、特に経済安全保障絡みの政治性の強い法律故に、判例を確立させて捜査に睨みを利かせる所謂一罰百戒を狙ったと考えられます。それが今回のような人質司法の冤罪事件を生む訳です。現れ方の違いはありますが、政治が絡むとろくなことにならないのは日本も同様です。
JR北海道の札幌圏赤字急減、「黄線区」は拡大 4〜6月:日本経済新聞
コロナ禍前の水準に戻ってきたというニュースですが、記事中延慶損益を見ると、北海道新幹線並行在来線区間の函館―長万部間の赤字額が長万部―小樽間の赤字額の3倍以上あり、営業キロの違いがありますが、貨物列車運行の重荷を感じさせます。ま、それ言えば絶対額では北海道新幹線が絶対額では断トツで、青函トンネル区間という特殊区間ではありますが、札幌延伸後の収支改善も厳しさを匂わせます。
札幌都市圏以外は収支均衡は絶望的と言えます。その中で並行在来線協議を進める訳ですから厳しい現実ですが、加えて余市―小樽間で並行路線を持つ北海道中央バスがドライバー不足からバス転換を渋っていますし、それどころか事前に何の相談もなくバス転換を打ち出した北海道に対する不信感もあるようです。
鈴木知事が夕張市長だった時代に夕張支線の廃止に道筋をつけたことが成功体験となっているのでしょうけど、地元事業者の夕張鉄道が引受に動いたことでまとまったものの、ドライバー不足からバス便の維持は困難を極めており、鉄道時代を受け継ぐ伝統の長距離路線の新札幌夕張線の運行停止など満身創痍です。バス転換が選択肢にならない時代に直面しているってことです。
アメリカでペンセントラル鉄道が破綻したときの連邦政府の素早い対応と比べると、本当に危機感がないですね。ペンセントラル鉄道の場合は、結局連邦政府が線路保有機構としてコンレールを立ち上げて上下分離で運行継続を図りました。東方回廊とシカゴをエリアに持つペンセントラル鉄道が運行停止されると大量の貨物の滞留が起きるということでの緊急避難だったんですが、結果的に経営の苦しい他の民間鉄道も合流して鉄道ネットワーク維持に寄与しました。
コンレールはその後民間入札でサザンパシフィック鉄道に売却されて所謂北米5大ネットワークの一角を占めますが、それぐらい鉄道貨物の重要性が高いってことでっすね。結果的に旅客部門は都市圏毎の交通営団が引き受け、長距離列車はアムトラックが引き受ける形で現状となります。線路保有が貨物会社で旅客会社が線路を借りるという日本と逆の形になりました。この形態が基本ですから、なるほど日本の新幹線のような高速鉄道の整備のハードルは高い訳で、鉄道好きと言われるバイデン大統領がIインフラ整備法で約束したものの、財政支出を巡る共和党との綱引きで進んでおりません。政治はリスクの時代と自覚するしかないのかな。
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