青春18アップデートの不可避
今年冬からの青春18きっぷの改変に一部鉄ちゃんがイチャモンつけてます。JRを弁護する気は更々ありませんが、これも時代かなとは思います。訃報がありましたがJR東海初代社長の須田寛氏が国鉄営業局長時代に1982年のフルムーングリーパスという企画商品をヒットさせた成功体験に基づき、年代別の企画商品として1983年に中年女性向けのナイスミディパス、そして1982年に若者向けの青春18のびのびきっぷとして発売されたものが形を変えて民営化後も存続してきたものです。
国鉄時代には乗車券だけで乗れる長距離普通列車が多数走っていて、その多くは旧型客車を連ねた機関車牽引の客車列車でした。客車は動力を持たないし、当時は寝台車やグリーン車を除いて冷房もなく、客用扉は手動の開戸でドアエンジン不要、照明は車軸発電機電源ですから引き通し線も要らないし自動ブレーキ管と暖房スチーム管を繋ぐだけで組成できるというシンプルな作り故にメンテナンスが容易なこともありますし、機関車は貨物と併用で済ませますから、料金を取れない普通列車には多く使用されていました。また長距離を走りますからラッシュ時間帯にかかる区間もあり、その需要に応える意味で長編成で運用されますから、メンテナンス負担が少ないことは寧ろメリットでもありました。また夜行普通列車も多数存在し、山陰線経由京都―下関間や鹿児島長崎佐世保大村線経由門司港―長崎間の夜行風通は寝台車が組み込まれていて、マルス収容のために「山陰」「ながさき」の愛称名までついていました。
これらの列車の多くは民営化後のJR各社の合理化策で縮小、廃止されましたが、青春18きっぷは春夏冬の休校期間の通学列車の余剰輸送力対策として存続することになります。加えて国鉄時代に関越高速バス運行開始に対抗して安価な夜行列車として新宿―新潟間に座席指定快速ムーンライトえちごが設定され、EF64牽引の14系客車で運行開始され、JR化後も車両の変化はあるものの定期列車として存続し、東海道線の通称大垣夜行もJR化後にムーンライトながらとなる流れとなります。当時はまだJR東海も唯我独尊ではなかったようです。また北海道の函館―札幌間快速ミッドナイトも定期運行されてJR化後も残りましたし、JR化後特にJR西日本を中心に臨時快速ムーンライトを青春18シーズンに運行するなどしてJR各社の連携でユーザーを掘り起こしたという意味はありました。しかし定期夜行快速は青春18シーズン以外の乗車率の悪化で季節臨に格下げされ、臨時ムーライトも含めて廃止に至ります。
しかし時は流れ若者向けとはいえ特に年齢制限のない青春18きっぷのユーザーも歳を取り、若者は割安な夜行バスに流れて当初の若者向け企画商品としての性格は失われていきます。11年前のエントリーですが、青春18還暦鉄の時点で、既に青春18きっぷの役割は変わり、青春を懐かしむ老いらくの旅の傾向が強まっていました。また同エントリーでも述べましたが、ムーンライト車内での検札でかなりの手間をかけていることや、自動改札化が進んでも磁気券ではないので有人改札に人が列をなすなどJRの現場への負担も大きくなってますし、整備新幹線開業に伴う並行在来線三セク化によるJR路線の分断もあり、ユーザーの使い勝手も悪くなっています。そういう意味で見直しは避けられなかったということはできます。加えてそもそも地方の人口減少で通学生も減って通学列車の余剰輸送力活用という前提も崩れてきています。そしてコロナ禍がJR各社の余力を奪ったことも。
ということで、今回の改変は事実上別の企画商品への変更となりますが、現場負担軽減のための磁気券化というのが一番の狙いでしょう。その結果期間中の任意の日の利用や2人以上の同時利用は制限せざるを得なくなりますし、出発日指定はおそらく磁気定期券のシステムを流用したってことでしょう。それ故に連続使用しかできなくなりますが、割引企画商品のために大規模なシステム改修を行うのは本末転倒ですし、寧ろ3日券という新たな選択肢を用意して購入しやすくする工夫も見られます。そうまでして残したこと自体は評価しておきます。
とはいえやっと磁気券になった段階ですが、栗鼠殺し?や木から落ちたサルで取り上げたように、既にJR東日本では磁気券を無くしてQRコード乗車券を導入する検討を始めてますし、またVISAカードで始まったオープンループというNFCタッチ決済システムが関西私鉄や関東でも東急や東京メトロ、一部のバスやタクシーで導入が進み、Felicaシステム前提の全国共通ICカード乗車券から熊本の5事業者が離脱したことは壁は成長する?でも取り上げました。これらの変化を加味して未来の青春18きっぷをイメージできるかというところを考えてみたいのですが、結論から言えばあまり期待できないと考えられます。
JR東日本では半導体不足の影響で相変わらず無記名式Suicaの新規発行を停止中ですが、その代わりにモバイルSuicaを推奨しています。手持ちのスマホでネットで会員登録すれば即利用可能で500円のデポジットも不要で乗車ポイントをカードの場合の200円毎から50円毎と優遇して誘導しています。しかし事実上無記名でのSuica購入はできなくなるということですから、個人情報をJR東日本に預けることになります。それを受け入れたくない人も一定数いる訳ですから、一部利用者の排除となる可能性があります。TOIKAの壁ならぬSuicaの壁という訳ですね。加えてこのニュース。
JR東、スイカ大幅刷新 上限2万円から上げ コード決済 - 日本経済新聞半導体不足でFelicaチップが入手困難になったこともあり、Suicaをスマホアプリ化して発行コストを下げると共にユーザー情報も取得し、更にJREバンクとも連携して予約、決済、乗車のみならず日常の買い物から旅先の宿泊や食事などまで含め、更に個人信用情報に基づくポストペイシステムまで実装してスーパーアプリ化というところまで見据えていると考えられます。これユーザーから見れば便利かもしれないけど、JR東海のスマートEXが東海道新幹線への利用誘導に使われるような形で、結局技術革新が壁を成長させるジレンマを予感させます。そうなると青春18きっぷなんぞ過去の遺物として排除される未来もあり得ます。草ならぬ壁生えるわwall-AI。
| Permalink | 0
| Comments (0)
Recent Comments